◆サンダース戦の試合経過
サ)高地に10輌、林に10輌が向かう
知)高地裏に13輌、高地中腹に5輌、林に2輌が向かう
サ)高地の隊が、高地脇を抜けようとする知波単本隊の4輌を撃破(知:残16輌)
知)突撃隊が1輌撃破(サ:残19輌)
玉田が乗る四式中戦車はちょうど高地の半ばあたりに隠れていた。
知波単が煙幕を濃くしたのは、四式を敵に気付かれぬよう、且つなるべく敵近くに隠そうとしたからにほかならない。地点としては高地まで5分というところか。チハと比べれば馬力も大幅に向上しているとはいえ、四式の重量は30tある。高地を登るのは・・・というより、初めてなのでどのくらいの登坂能力があるかは全く分からない。
「さて・・・了解とはいったものの、あの偵察車両をなんとかしないとな」
以前の ”もはや我慢の限界” と風船を割った玉田はどこにもいない。
知波単の隊員に関しても以前のリスクと協調を無視した突撃至上主義は脱してはいる。しかし、それでも以前の玉田を知る者からしたら、本隊が激戦のさなかである一方でのこの落ち着きには驚かざるを得ない。四式中戦車を使っての初めての試合、かつ知波単にとっては切り札の戦車である。他の乗員がいきり立っているような状況において、玉田の落ち着きようは異質である。
「高地にいるあの戦車は一撃で仕留められますよ」
今回、中学時代の全国優勝の経験と砲手としての腕を買われて四式中戦車に乗り込んでいる五十嵐も気負いを隠せない。
高地頂上付近には相変わらず1輌のシャーマンが偵察のため居座っている。四式の75mm砲なら五十嵐の言うように撃破することは可能だろう。もちろんそれは玉田も分かっている。ただそれが出来たとしても、高地付近の敵戦車がこちらを狙い撃ちしてくるのは目に見えている。
「このままだと戦機そのものを失ってしまいます。危険ですが、バントと牽制は高地偵察車両を引きつけつつ、本隊の支援に向かって下さい」
「簡単に言ってくれるなよな! 完全におとりじゃねえか」
「丸井さんと太田さんなら大丈夫です。こうしているうちにも本隊は高地と正面の敵を相手にしているのです。あえて盾となった味方のことを考えたらここで動かないわけにはいきません!」
この試合は、知波単も20輌を駆り出しての戦いだが、当然試合慣れしていないメンバーが多く含まれている。彼女らは ”不慣れな自分達はとてもシャーマンを倒せません。私達の役目は皆さんの盾になることです” と西に進言したのだった。そして実際に本隊が麓を過ぎると、味方戦車の盾となるべく動き、自らは撃破されながらも味方を守ったのである。
「・・・というわけだ、丸井。山口さんも宜しくお願いします」
命令を受けた谷口が、丸井と同じく突撃隊の車長である山口を促した。
「まあチハがほとんどの20輌とシャーマン20輌の戦いだ。どっかで無茶はしないといけないさ」
山口もいつもと同じように淡々と命令を受けとめる。
「よし! いくぞ」
林から飛び出た2輌の戦車が、麓にまっすぐ進んでくる。
「こちら高地偵察車両。チハ・・・に似た戦車が突っ込んできます。迎撃しますよ」
高地偵察車輌はサンダースの二軍の戦車が務めていた。チハに新砲塔と旧砲塔があるのを知らなかったのだろうが、戦果を挙げたくてうずうずしていたところに獲物のように敵戦車2輌が突っ込んできたため、命令を受ける前に移動して砲撃しようとする。
「(林の中にいたと思ったら、今度はこっちか・・・面倒な奴だ)」
サンダースが流れを掴もうとするタイミングで、不意に知波単の突撃隊が出没することにアリサは苛立ったが、そうはいっても突撃隊は2輌のみ。あくまで主戦場は間もなく煙幕が晴れようとするこちらの本隊である。こちらの指示を待たずに勝手に迎撃しようと動いた偵察車両に苛立ちを感じながらも、まあ彼女らの立場を考えれば戦果が欲しいのもやむを得ないかと思い、そのまま攻撃指示を出した。
「ナオミ、ちょこまかしてる突撃隊も始末できるのならお願いするわ」
「分かった。こちらも敵味方が混戦のところに打ち込むのはなかなか難しいからな。プラス3輌ほどそちらに回す」
サンダースとしても、双方の本隊同士が入り乱れての混戦の中で知波単の戦車だけを狙い撃つのはかなり難しい。ましてや、高地にいる10輌の大半はリザーブメンバーである。上からの狙撃が難しいなら、誤射の可能性がない相手を狙わせた方が得策である。ナオミは既に迎撃しようとしている偵察車両に加え、技量がやや落ちると思われる戦車を3輌向けることにした。
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「おかしい・・・」
「西住殿、どうかなさいましたか?」
「知波単の、あの2輌が動くタイミングが良すぎる。西さんは今日は四式中戦車には乗らないと言ってたし、実際に途中でオンボードカメラの映像で一式中戦車に乗っているのが見えた。でも一式は今は敵味方紛れての混戦状態。とてもそんな指示を出せる状態じゃない」
「となると・・・誰か他の人が知波単の指揮を執っていると・・・」
「うん、おそらく」
なお、実況と解説をしている秋山優花里と西住みほにとっては、四式中戦車と思われる車輌が高地中腹に潜んでいるのもモニターを通じて把握している。伏兵しているであろうということで実況としては伝えてはいないが。
そして、このタイミングで知波単の突撃車両が陽動とも取れる動きをしたということは・・・
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同じ頃、四式中戦車は想像よりも快調に高地を登っていた。その前を福田が乗る九五式軽戦車が先導している。
「玉田殿、高地まではあと2分ほどです」
「了解した。福田、本隊の情報は何か入っているか?」
「いえ、2分ほど前に、 ”まもなく煙幕が晴れる” との連絡があって、それきりです」
「(まだ、撃破されたとの報告は入っていないが・・・最初の何分かは全力で動き回れてもそう長くは続かない。急がないといけないな)」
なお、みほの推測通り、この試合の作戦立案並びに全体指揮は福田が行っている。というより、西は作戦立案能力並びに全体把握という点では、他校の隊長よりかは劣ると言わざるを得ない。もっともつい最近までの知波単は全軍突撃のみが教条であり、その能力に関しては必ずしもそれは西自身の資質のせいにするわけにもいかないのだが。一方で西は、目の前の敵と戦っている状況においては、咄嗟の判断力と機転ははたらく。そのことを自覚して、前線指揮官として機能することを西は選択したのである。
「高地頂上に達しました! 敵戦車こちらに気づいている様子はありません!」
興奮で福田の声も上ずる。なお、ここに来るまでに、知波単の本隊は1輌のシャーマンを撃破、3輌の履対破損を認めるものの、寺本車をはじめ4輌が撃破されている。
「よし! ファイアフライを狙えるところまで誘導してくれ」
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そして同じ頃知波単本隊。
煙幕が晴れた後も、機動力と死に物狂いで培った行進間射撃で善戦はしているが、アリサはそれを無理に追いかけず、2輌がくっつくように停止し、なるべく死角が出来ないようにした。また砲撃においても停止射撃により、そして無理に撃破を狙わず、いわば知波単の戦車を足止めするような射撃に専念している。撃破するチャンスがあればそれでよし、こちらで出来なくてもナオミのファイアフライなら上から撃破してくれる。態勢が整うまでに何輌かはやられたが、それが整ってからは知波単も手をこまねいている・・・というより手出しが出来ない状況に陥っていた。
「(数の上でも18対12。このまま削っていけば、知波単が何を企んでいようとおそれることはない)」
アリサも戦局が自分に有利にいることの手応えを感じている。
「知波単の突撃隊はどうなったの?」
「すいません! 狙ってはいるのですが相手もなかなか速くて。もう少しでそちらに合流するかもしれません」
「(もう少しとか・・・ ”報告はちゃんと状況が分かるように具体的に” といつも言っているのに・・・まあいいわ。この状況ならタカ子達が来たところで大勢に影響はないでしょ)」
はなから、高地から撃破することは期待していなかっただけに、アリサは落胆したわけではなかった・・・のだが。
「(・・・って、それなら四式はどこにいるの? まさか・・・)」
「ナオミ! 周りに四式はいない!?」
「え?」
「神仏照覧・・・撃て!!」
知波単の思いを込めた、四式中戦車の75mm砲の砲弾は、ナオミの乗るファイアフライに向かって飛び・・・そして白旗を上げさせた。
「割り下! ファイアフライを撃破しました!」
「「「 おお!!! 」」」
上からの砲撃にさんざん苦しめられていた知波単にとっては、これほど嬉しい報告はない。
「喜んでいる暇はないわ! 五十嵐、さっきの偵察車輌を!」
「もう狙っていますよ。よし、発射」
これも的確に先ほどまで四式中戦車を見張っていた偵察車輌を撃破した。高地隊を指揮していた、ナオミのファイアフライと偵察車輌を失ったサンダース高地隊はたちまち混乱に陥り、高地にいる全車輌が統率もなくこちらを砲撃してくる。
「西隊長! 高地の戦車はこちらに引きつけました。今のうちに突破して下さい」
「へっへー、突撃隊も合流だよ!」
13輌から5輌まで削られ、正面のサンダース本隊に封じ込められていた知波単の本隊だったが、上からの脅威が除去され、さらに突撃隊が合流。数の上でも7輌と7輌の五分となり、一気に気勢が上がった。
「よし! 敵正面から突撃隊のいる方向に進路を変えるぞ。卵豆腐、そっちはどうだ!?」
「こっちもあらかた完成です。隊の名前がなんか別の名前になってますけど・・・」
高地車輌の混乱が本隊にも伝播したのか、また突撃隊が攪乱したのもあって、サンダースは進路を変更した知波単の隊に対応しきれず、知波単本隊はなんとか窮地を脱した。
数の上では、サンダースが本隊が7輌(うち3輌は履帯破損中)、森の中の偵察車輌が1輌、高地にいるのが8輌の計16輌に対して、知波単が本隊5輌、谷口/山口の突撃隊が2輌、高地にいる四式と九五式、森の中で陣地を構築していた3輌のチハドーザーの計12輌。
そして、チハドーザーは20程の掩体壕を造り上げ、うち3つは四式中戦車も隠せるくらいに掘り、既にドーザーブレードも外している。また本隊を逃がそうとすべく攪乱していた突撃隊も本隊に合流、知波単の車輌はなんとか掩体壕のあるところまで辿り着いた。特に本隊は試合開始早々から全速で走りっぱなし、途中からは撃ちっぱなしで、中の乗員の体力・集中力も限界を超えている。サンダース側は一旦は態勢の立て直しにつとめているようで、しばらくはこちらに来ることもないだろう。ようやく一息つけることに西達は安堵した。
「西隊長、よくぞご無事で!」
「正直限界だった・・・途中盾になってもらった連中には申し訳ないことをした。池田達も戦闘に加わりたかったところを、高地や林の陣地造りに専念してもらったこと感謝している」
「なんの! あいつらも自分達の役目を果たしただけです。前にも言いましたが我々は誰かの犠牲を遠ざけていては強い敵を倒せません。そして・・・我々の真価が発揮されるのは陣地を造ったこれからですよ!」
「いやー、うちらも限界っス。人1人増えて装填は格段に早くなりましたけど、チハに5人乗るのは拷問ですわ。大の大人の男5人が本当に乗っていたんですかね?新チハに」
「突撃隊の連中もご苦労だったな。もう少し来てくれるのが遅かったら、こっちは全滅していたかもしれん」
「いえ、褒めるなら果敢に命令を下した福田を褒めてやって下さい。あいつの命令がなかったら我々も動けませんでした。そして、見事にファイアフライを撃破した玉田も・・・」
「そうだな・・・ここまでの頑張りを活かすためになんとか勝とう!」
既に知波単の戦車10輌が壕の中に身を隠した。高地の敵を引きつけていた四式と九五式もこちらに向かっているとの報告が入っている。
一方、サンダースは偵察車の ”あっ、あいつら壕を造って入ってます” という少々間抜けな報告でこれより少し前に知ることになった。
「偵察車は何をやっていたの!? なんで森の中で壕が作られていたのを報告しない!」
「いや、特に動くような指示もなかったので・・・」
「そんなの言われなくても考えたら何をすべきか分かるでしょうが!!」
「止めなさい、アリサ。20輌対20輌の戦いで、高地のも含めて偵察車輌に経験豊富な者を配置しなかったあなたのミスよ。情報収集には力を入れるあなたらしくもなかったわね」
確かにそうだ。知波単が何をしてくるか分からないなら、なおさら偵察には念を入れておかなければならなかったのに・・・アリサは作戦立案の時点から舞い上がっていたことを認めざるを得なかった。
「でもdon't worry! 結局うちも4輌しかやられてない。それに、突撃隊の2輌は私が引き受けるわ!」
「お願いします! ケイ」
気を取り直したアリサはケイに迎撃を依頼、そして改めて自軍に指示を出した。
「高地にいる子達も降りてきなさい。ファイアフライをやられ、相手を壕に潜り込ませてしまったのは私の責任。でもおそらく知波単もこれが最後の策。そして私達にはまだ16輌の仲間がいる。この試合は殲滅戦。高地に1輌でも残しておけば私達は勝つだろうけど、私はそんな道は選びはしない! 知波単に敬意を表し、正々堂々と倒してみせる!」
「「「Yeah!! 」」」
「でも、相手は潜り込んだ戦車。決して侮っちゃいけないし、焦ってもダメ。さっきと同じように小隊は死角を作らないように、相手が突っ込んできても惑わされないように。それで相手の居場所が分かったらそこに火力を集中。隊の連携も私達の方が上だというのを見せてやるわよ!」
結果は神のみぞ知る。でも、神様も私達を見ていたなら勝利の女神はこちらに微笑むに違いない。アリサは決意を新たにした。
◆西車(隊長車/フラッグ車)・・・一式中戦車
⇒車長:西、装填手:倉橋/2年(オリ)、通信手:半田/2年(オリ)、
操縦手:戸室/2年(オリ)
※(オリ)は作者のオリジナル設定。以下同じ。
オリキャラはちばあきお氏の漫画、キャプテン、プレーボールから名前を頂いてます
◆玉田車(割り下小隊)・・・四式中戦車
⇒車長:玉田、砲手:松川/2年(オリ)
◇玉田僚車(割り下ご飯)・・・新チハ
⇒車長:浜田
◆寺本車(たまご小隊)・・・新チハ
◇寺本僚車(たまごご飯)・・・旧チハ
◆池田車(陣地構築隊/豆腐小隊)・・・チハドーザー
◇池田僚車(陣地構築隊/豆腐ご飯)・・・チハドーザー
◆名倉車(陣地構築隊/長葱小隊)・・・チハドーザー
◇名倉僚車(陣地構築隊/長葱ご飯)・・・旧チハ
◆谷口車(突撃隊/バント)・・・新チハ
⇒車長:谷口/2年、操縦手:丸井/1年(留年)、砲手:五十嵐/1年、
装填手:久保/1年、通信手:小室/1年
※全てオリキャラ
※谷口は2年時にサンダース大付属から編入
◆山口車(突撃隊/牽制)・・・新チハ
⇒車長:山口/2年、操縦手:太田/2年、砲手:中山/2年、
装填手:山本/2年、通信手:鈴木/2年
※全てオリキャラ
◆細見車(突撃隊/牛肉小隊)・・・一式中戦車
⇒車長:細見、操縦手:加藤/2年(オリ)、砲手:島田/2年(オリ)
◇細見僚車(突撃隊/牛肉ご飯)・・・旧チハ
⇒車長:横井/2年(オリ)
◆福田車(偵察隊/みかん)・・・九五式軽戦車