とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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34.帰途(それぞれのこれから)

「あなたが今回の作戦の立案者?」

 

カチューシャが知波単の隊員を捕まえ ”今回の作戦の立案者は絹代じゃないわよね? 誰なの? 呼んできなさい!” と理由も分からぬまま呼び出されたのが、今カチューシャの目の前で直立している福田である。「地吹雪のカチューシャ」の通り名は知波単の中でも当然知られており、隊員が皆 ”お前やばいんじゃないか?” と心配をする・・・というより逆に不安を上乗せしているようなやり取りを経て、今ここにいる。

 

”ああ、たぶんダメ出しされるんだろうな・・・粛清とかもされるのかな? でもカチューシャ殿は知波単の生徒ではないからその権限はないはず。でもこうやって呼ばれたということは・・・前の大洗の時みたいに短期転校でカチューシャ殿が知波単に来られるとか・・・でもカチューシャ殿はもうすぐ卒業のはず・・・” 福田は考えも状況把握もままならぬまま、目の前の存在に対して恐怖を隠せぬまま起立している。カチューシャの傍に座っているノンナの穏やかな表情を見て、一瞬救われたような気もしたが、ノンナはカチューシャに対して絶対的な忠誠を尽くす存在だ。カチューシャが喜ぶことなら全力で支援するだろう。そう考えると、福田は粛清されるのが前提のようにしか思えなくなった。

 

「は、はい! 福田であります! カチューシャ殿は短期転校手続きにより知波単に来られるのでしょうか?」

 

「はあ? 何言ってんの? 私が知波単なんかに行く理由がないじゃない。このカチューシャが直々にあなたに戦術を教授してあげるって話よ」

 

「そういうことです、福田さん。ですからそんなに怯えなくても大丈夫ですよ」

 

2人の言葉を聞いて、ようやく福田は安堵の表情を浮かべたのだが、不安を打ち消す間もなく直後にカチューシャの口から出てきたのは福田に対するダメ出しであった。

 

「だいたいね、作戦が複雑すぎるのよ。ただでさえアンタ達の戦車はチハがメインじゃない。そんなの予想外のアクシデントやダメージを受けて当然じゃない。で、結局やぶれかぶれの突撃に頼る。そんなことで勝てるはずないじゃない」

 

「煙幕の使い方も下手くそ! 煙幕って行方をくらますために使うものよ。なのにアンタ達はただ単に煙幕を使ってる間に煙に身を隠しただけ。どこに進んでるのかまる分かりなんだから、相手からしたら煙幕が晴れてから攻撃すればいいだけの話じゃない」

 

「そもそもなんでわざわざ不利な方から攻めようとしたわけ? シャーマンに高地を取られたら勝てるはずないじゃない!」

 

「それは、前の大学選抜との試合の無念を晴らそうと・・・」

 

「それが間違っているというのよ!」

カチューシャは福田の声を遮り、さらに叱責する。

 

「あなたは作戦参謀でしょ! あなたが決めた作戦で兵の生き死にが決まるのよ! 隊長が誤った作戦を選択しようとしてたらそれを止めるのがあなたの役目じゃない」

 

「それが、あなたも一緒に浮ついた気持ちになってノリで作戦を決めようとする。そんなんじゃ作戦を立てる資格なんかないわね。そもそも勝つ気がないんじゃないの? アンタ達は」

 

「も・・・も、もうじわげあでぃましぇん~!」

 

叱責を受けた福田は、試合直後の時のように、突っ伏して床に頭をつけながら泣き出してしまった。それを見たカチューシャが逆に大いに困惑してしまう。大泣きする福田を見て、当然周りの者は何事かと注目し、その目の前にいるカチューシャを見て ”ああ、またチビッ子隊長が悪さをしたんだな” という風に見る。その視線を向けている方向にノンナが睨みを効かしているので、表立ってそれを非難するようなふうにはなっていないが、福田はまだ泣き止まず自責の言葉を続けている。

 

「わ、わたぢはダメな奴なんですう! 作戦を立てる資格なんかないんですう!」

 

見かねたノンナが福田の脇の下に手を通して立たせ、横の椅子に座らせたことでようやく福田はヒクヒクいっているものの、泣き声をあげるのを止めた。

 

「カチューシャも他校の隊員に対して、少し言葉が過ぎましたね」

 

「な、なによ! 私はただ・・・」

 

言い訳をしたいカチューシャだが、福田を泣かせてしまったのは明らかに自分のせいであり、それを否定できないのは自覚している。

 

「わ、悪かったわね。ちょっと言い過ぎちゃったわ。ごめんなさい」

 

「いえ・・・いいんです。今回も私は西隊長を勝たせることが出来なかったのですし・・・」

 

「福田さんでしたか、私からも一言いいですか? 人もチームもそんなにすぐ結果が出るわけではありません。ここにいるカチューシャも大変な苦労をして、それこそ何度も失敗をして、ようやく今があるのです」

 

「そ、そうよ。カチューシャもノンナやクラーラや、ニーナやアリーナやみんながいるから隊長としていられるのよ。今日の試合に勝てなかったからといって、絹代があなたを必要としないわけがないじゃない」

 

「と言うよりね、あなたも私と一緒。作戦を立てることでしかチームの役に立てない人間じゃない。それをいつまでもメソメソと・・・」

 

「カチューシャ!」

 

ついまた言葉がきつくなったカチューシャをノンナが窘める。

 

「と、とにかく、あなたを見てると私もほっとけないのよ。いいこと? これから知波単が進むべき道を2つ教えてあげる。1つはこれまでの道を突き詰めること。あなたたちが持ってるものをシンプルに活かしなさい。そしてもう1つは勝ちに拘ること。さっきも言ったけど、アンタ達はあえて自分が不利な状況になってる暇なんかないのよ。試合なんだから勝たないと意味がない。さっきの試合見てたけど、味方のために自分が犠牲になる心意気はあるんでしょ? だったらその子達のためにも絶対に勝たないとダメ」

 

「もちろん戦車道ですから勝ち負けが全てではありません。でも勝つことでしか得られないものが多いのも事実です。そして私は、カチューシャが勝利を与えてくれる魅力的な存在だからこそついていけるのです」

 

「そうよ。隊長が下を向いてたら勝てるはずがないじゃない。あなたは絹代から立案と指揮を託されてるのでしょ? だったらその責任を全うして、絹代を助けてあげなさい」

 

託されている・・・知波単改革の流れにおいて何度か西からも聞いた言葉である。福田は改めて自分の立ち位置を認識し、落ち着きを取り戻した。

 

「ほら・・・」

椅子から降りて立ったカチューシャが右手を差し出す。

 

「右手を出したら握手に決まってるじゃない」

 

「あ、有難うございます!」

 

ようやくホッとしたような笑顔を浮かべ、福田はカチューシャの右手を両手で握り返した。

 

「なんかホッとしたみたいな感じだけど、うちの子達はこんなのは日常茶飯事よ。ニーナもアリーナもみんな乗り越えてきてる。勝ちたいのならあなたには泣く暇なんてないわよ。覚悟しなさい」

 

「はい! 我が知波単も鍛錬の厳しさでは負けてはおりません!」

 

それを聞いたカチューシャとノンナは満足したように顔を合わせ、福田を解放した。

 

「あえて厳しい言葉を言って相手の奮起を促す。簡単なようで誰にでも出来ることではありません。カチューシャ、やはりあなたは素晴らしい隊長です」

 

「当たり前でしょ。私はあの子のことを思って言ったんだから」

 

「はい。でも叱責を受けて大泣きする福田さんを見て困惑するカチューシャを、もう少し見ていようかとも思ったのですけどね。プラウダでは見れない光景ですし」

 

「う、うるさいわね。会もそろそろ終わりのようだし、帰りの準備をするわよ」

 

~~~~~~~~

 

「おお、ホンダジェットまであるんですね!」

 

大洗の面々は、サンダースの学園艦へはプラウダのアントノフ26に便乗してきたのだが、プラウダも聖グロもクリスマスに備え早めに帰りたいとの希望があったため、ケイがホンダジェットの使用を提案。ホンダジェットは1名でも操縦が出来、最新鋭機で居住性も操作性も高いため、サンダースでも使用頻度が高まっているらしい。提案を受け興味津々の冷泉麻子が ”コックピットに座る!” と大乗り気であったため、サンダースの厚意に預かったのだった。

 

操縦士の横の席で、マニュアルと操縦の様子をじっくりと見ている麻子とは別に、後ろのキャビンではあんこうチームの残りの4人がくつろいで座っている。サンダース学園艦での前夜祭、そして試合についてと話題は尽きない。

 

「でも、知波単の子達、みんな大泣きしてたよね」

 

「それだけ勝つ自信があったのかもしれませんね・・・」

武部沙織も秋山優花里もしみじみと振り返る。

 

思えば大洗女子学園にとっては、敗戦したのは訳も分からず練習試合をした聖グロ戦と、知波単との連合で戦った親善試合しかない。目の前の試合、そして廃校を乗り越えるための戦いに目一杯で、勝った後に泣くことはあっても、負けて悔し涙を流すことはなかった。全国大会や大学選抜との試合では、勝つことに必死で、試合に負けた相手のことを考える余裕もなかったが・・・もしかしたら大洗が下した対戦校も、みんなこうして試合後に悔し涙を流していたのかもしれない。そう考えると、沙織も優花里も華も、なんともいえない不安や恐怖に捉われていた。次の試合、大洗が勝てる保証はない。明日は我が身なのか、と。

 

「み、みぽりん! 次の試合も私達勝てるよね!?」

 

「分からない・・・でも今日知波単の人達が泣いているのを見て、私も嫌なものを思い出しちゃった・・・黒森峰の時も試合に負けるなんてことはなかったから・・・」

 

件のプラウダとの決勝戦を思い出しているのであろうと想像するに難くない。それを思うと、4人の口はさらに重くなった。

 

「そういえばエルヴィン殿も、知波単との最初の練習試合の夜に西殿が今までのことを後悔するかのように号泣していたと言っていました。その後、西殿も知波単の人達もホントみんな頑張ってきたと思うんです。でも結果は私達との練習試合に負けて、今日もサンダースに負けて・・・西殿の気持ちを思うと、私も・・・」

 

以前は少なからず知波単のことを冷ややかに見ていた優花里だが、練習試合を通して知波単に共感し逆に思い入れが強くなっている。それだけに、西の心情を慮るにやるせない気持ちになってしまい、涙がこぼれそうになった。

 

「でも・・・勝利は時の運。私達は私達に出来ることを精一杯しましょう。あの方たちも心が萎れることはありません。そして私達も」

 

思えば、親善試合の後に文科省の役人から廃校を告げられた夜、一番早くに立ち直ったのも華だった。そして今回も。

 

「そうだよね・・・それしかないよね。華さんも沙織さんも秋山さんも・・・みんな生徒会の仕事が大変だと思うけど、その分私も頑張るから!」

 

「みぽりん1人で頑張る必要はないんだよ」

 

「うん」

 

~~~~~~~~

 

「(結局のところ・・・私はいつも泣いているんだな・・・)」

 

冬の船上は厚手のコートを着ていても風が身を切るようである。知波単の学園艦が寄港している銚子港からの連絡船の船上で、西は寒さも忘れたかのようにデッキの後ろで航跡を眺めていた。

 

「(ケイさんには逆立ちしたって、どう足掻いたって勝てそうにない。私も身の丈にあったことをしないといけないということか・・・)」

 

泣いてはいけないと思いながら、ケイを見た瞬間にそれを止められなかった自分の小ささを思いつつ、それでも今の自分に他に何が出来ただろうとの思いが交錯し、西は茫然と立ちつくしている。

 

「そんなところに長くいると風邪を引きますよ」

 

「玉田か」

 

缶入りの甘酒を2つ持ってきた玉田は、その1つを西に渡し、お互いに缶を開けた。

 

「福田もようやく眠りましたよ」

 

カチューシャとのやり取りを終えた後の福田は、テンションが上がったり下がったりを繰り返し、その度に隊員が励ましていた。今は満足したかのように眠りについている。

 

「普段はしっかりしている福田だけど、ああいうところはまだ子供なんだな」

 

「まあ作戦の立案、全体指揮という重圧もあったでしょうから」

 

「あとは・・・あいつはまだ知波単での勝利を経験していません。でも隊の勝敗を左右する役割を担っている。自分自身は勝った経験がないのに、隊を勝たせないといけない。その板挟みに苦しんでいるのかもしれません」

 

「勝つための術なんか私も分からないぞ」

 

「それでも私達には練習試合でも一度は勝ったという事実があります。可能性を実現したことが一度でもある。今日ダージリン殿と話をして、その1つの勝ちの差が非常に大きいのかもしれないと思いました。隊としても勝てない苦しい状況が続いています。もしかしたら大きな敵に対するだけでなく、勝てそうな相手を選んで試合をするということも必要・・・」

 

「言うな!!」

 

「大きな目標を掲げておいて、それが実現出来そうにないからといってより下げた目標を設定する。よしんばそれで試合に勝ったとしても、それにどれだけの価値があるというのだ!!」

 

「・・・そうですね。私もそう思います」

 

「いや・・・実は私も身の丈に合わせないといけないのかと思っていた。ただ、私は弱い人間だ。一旦目標を下げたら、もう戻せない気がする。というより、下げた目標すら達成出来なかったとしたら、さらにその下を目標にしないといけない。そしたら元の目標との差がどんどん開いてしまう。それが怖いんだ」

 

「頑張っているのは我々だけではない。大洗もサンダースも、プラウダもみんな同じだ。今日サンダースと戦って、改めてそう思った。それなのに我々だけが低い目標で満足していたら、それこそ勝てる日なんて永久に来ないだろう」

 

「仰ることはよく分かります。言われると私もたしかにそう思います。失礼致しました」

 

「まあ口で言うのは簡単だけどな。でもお前も今日ダージリンさんに ”チハでパーシングを撃破したからこそ快感があった” と言ってたじゃないか。やはり私はそこを目指したい」

 

「そうですね! でも今回・・・いろんなところで西隊長は変わったとの声を他校から聞きましたけど、やっぱり変わりましたよね。以前はこうしたこともなかなか言葉にしてくれないもどかしさがあったのに」

 

「それを言うなら、お前も ”もはや我慢の限界” と風船を割っていた面影が全くないぞ」

 

「それは言わないで下さい・・・」

 

西と玉田はそれぞれお互いが、そして自らが変わったことを自覚した。結果としては3連敗だが、それでも得たものはゼロではない。最初の大洗との練習試合では1輌も撃破出来ぬまま敗戦した。それが2度目の対戦では2輌撃破、今回のサンダース戦では相手が横転したものも含めると13輌を撃破しており、数の上でもその変化は現れている。

確かにダージリンに言われるまでは気付かなかったが、知波単の面々が試合に負けて悔し泣きするという場面はこれまでなかったのかもしれない。変わったのは我々2人だけではない。他のみんなも以前と同じではない・・・

 

このまま皆と一緒に進んでゆければいけるかも・・・いや、切り開いてみせる。西は高い壁を乗り越えんとする決意を新たにした。

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