(なんでも3年アンチョビ1人、2年カルとペパのみ、後は1年らしいが、それであの戦いぶりは西住さんもびっくりじゃないか?)
小説内における時系列を。
7月中旬:隊長が辻→西に交代
8月中旬:この小説の始まり&大洗での親善試合
8月下旬:大洗女子学園と大学選抜との試合
9月下旬:大洗女子学園との練習試合(4話)
11月初旬:大洗女子学園との再戦(20、21話)
11月下旬:新戦車導入(24話)
12月上旬:サンダースとの練習試合(30~32話)
年末年始:銚子でアンツィオとコラボイベント(35話)
1月上旬:アンツィオとの練習試合 ←←今ここ
飛んできたセモヴェンテは西の乗る一式中戦車を撃破したものの、その後に辻の乗る四式中戦車の砲撃を受け、白旗を挙げることになった。本来の目標は四式中戦車であったが、セモヴェンテの操縦手がそれほどジャンプに慣れておらず、四式のところまで届かなかったというのもあるのだろう。アンツィオにとっては既にCV33が2輌撃破されていることもあり、セモヴェンテがやられたことのダメージは小さくない。
「ドゥーチェ、申し訳ありません。本当はTipo4を撃ちたかったのですが・・・」
「そんなことはいい。それよりも誰も怪我してないか?」
「はい、みんな大丈夫です」
「それなら良かった。ぺパロニ、援護するから最終防衛戦まで下がれ」
「Va bene。しかしもう一輌は倒したかったな。やっぱCVに槍付けたいな~」
「だからそれは反則だ!」
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ぺパロニの乗るそり付きのCV33は、セモヴェンテのジャンプ台となるため仰向けになっていたCV33を、そのそりでクルっと引っくり返して元に起こし、2輌で揚々と去っていった。P40が援護の砲撃をする間にみるみる遠ざかっていく。
「類を見ない突撃の後、鮮やかな撤退。敵ながら見事なもんだな・・・」
未だ白旗をあげた一式中戦車にいる西は、キューポラからその様子を見て素直に感嘆した。
「はい、しかしうちもセモヴェンテ含め3輌を撃破しています。数的には互角。しかも相手はそのうち2輌がCV33ですから、こちらが有利なのは変わりありません」
「まだ何かしらの奇策が残ってるかもしれんがな」
「(福田・・・落ち着いてやれよ。香取神宮の・・・いや諸々の神様、福田と辻殿を何卒ご加護下さい)」
黒星続きの知波単に、そして入学後勝利を知らない福田になんとか勝ち星をつけたい。自らの離脱を悔いつつ、西は勝利を祈念した。
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知波単の隊は、谷口の新チハ、福田の九五式が前進しそれぞれ左右を監視している。その辺を底辺とした三角形の頂点に位置する後方側に辻の四式がいた。
「こちら福田。右に2輌のCV33を確認・・・いや、うち1輌が前進してきます」
「こちら谷口。左もCV33が2輌・・・で、こっちも1輌が出てきました。P40の居場所は確認出来てませんが、とにかく出てきたのを迎撃します」
谷口の新チハとぺパロニのCV33が交戦する。しかし双方それぞれ両校を代表する操縦手が操っているため、なかなか決定機を掴めない。膠着状態を見て取った辻は、先に福田が対峙しているCV33から撃破しようと援護射撃を行う。CV33の進路を見越して砲撃を指示、足止めした隙に九五式が見事に撃破した。
「でかしたぞ! 福田」
「はい、残るはP40ですが・・・あっ!?」
次の瞬間、谷口の新チハが白旗をあげた。CV33のデコイの陰に隠れていたP40が砲撃したのである。CV33は残存車輌の2輌が出てきているため、残りは全てダミー。当然陰に隠れている可能性は考えられたが、ぺパロニとの膠着状態がその思考を遮ってしまった。
「不覚・・・あとは頼みます!」
「これで2対2の互角か」
「辻殿! P40で気になることがあります。攻撃を仕掛けつつも、回避に専念して下さい」
「承知した」
辻はサンダース戦、並びにその後の状況を西から報告を受けている。福田になんとか勝ち星を付けてあげたい。その思いは辻も同じであり、素直に福田の指示に従った。
「しゃらくせえ! 姐さん、Tipo4に突撃しますんでその後はお願いします!」
「分かった。こっちもそんなに時間はないからな」
P40の援護を受けつつ、ぺパロニのCV33が突進する。福田の九五式がそれを阻止しようとするが、さすがに機動力ではCV33の敵ではない。
「おっしゃあ! あそこの起伏で一気にジャンプするぞ!」
フルスピードで天然のジャンプ台を利用して飛び出したCV33は、四式に一気に肉薄。後方の死角に回り込もうとする。これは辻も予測しておりなんとか対応、機銃を被弾しつつもなんとかこれを撃破した。しかしぺパロニのCV33はそもそも囮。CV33に引き付けられた四式は、P40の砲撃を受け白旗をあげることとなった。
「よし、あとはTipo95だけ。これなら勝ったも同然ッス!」
「これまでか・・・」
虎の子の四式中戦車を失ったことで、西は敗戦を覚悟する。
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「ドゥーチェ・・・」
P40に乗った3年生の隊員が、アンチョビに声を掛ける。
「分かっている・・・」
「相手はTipo95。お前が向こうならどうする?」
「こちらに砲撃させつつ、かわしながら履帯を狙う。動けなくなったところを攻撃するってとこかな」
「そうだな・・・」
アンチョビは沈黙する。
「ドゥーチェ・・・私は悔いはないよ」
「うん・・・分かった・・・」
「・・・」
アンチョビは少しの沈黙の後、ボタンを押す。P40は自ら白旗をあげた。
「姐さん!! なんで!!??」
「ドゥーチェ・・・」
九五式軽戦車ならP40の敵ではない。それがP40自ら白旗をあげた。周りの大半の者はまだ状況を理解出来ていない。しかし、カルパッチョと福田はなんとなくでも理解したようである。
「おそらく弾切れ・・・もしくはそれに近い状況・・・」
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ぺパロニや辻達を乗せた車が待機所に到着する。やがて、白旗をあげたままのP40と九五式が帰ってきた。
「姐さん、なんで!?」
「ぺパロニ、抑えて」
ぺパロニが戦車に乗り込まんとするばかりに詰め寄るのをカルパッチョが制する。やがて戦車の中からアンチョビが姿を現し、地面に飛び降りた。
「ぺパロニ、カルパッチョ、みんな・・・本当に有難う。私はもう十分だ・・・」
アンチョビの目には涙が浮かんでいる。
「なんでですか!? 姐さんと一緒に勝つつもりだったのに!」
「もう弾は2発しか残っていない。うちら1輌だけじゃとてもTipo95は倒せない。もし奇跡が起きて撃破出来たとしても、その時は履帯をやられ、他のところも壊れているかもしれないしな」
「そんなのは私も、他の3年生も望んじゃいない。このP40はアンツィオの希望だ。壊してお前らに引渡すなんて出来ないよ」
「ドゥーチェ・・・そこまで・・・」
カルパッチョの目にも涙が浮かんでいる。
「カルパッチョ、お前は分かっていたのか!?」
「うん・・・準備したの私だし。砲弾も25発しか用意出来なかったから・・・」
「そんな・・・うちらの稼ぎが足りなかったっていうのか?」
「ぺパロニ・・・そういう話じゃないんだ。私はこのP40にアンツィオの希望を託したい。残された砲弾は、私じゃなくてお前らが撃つべきものなんだ」
「私が何のためにアンツィオに来たのか・・・お前も知っているだろ? 私のアンツィオでの戦車道はまだ終わっちゃいない。お前たちに、そしてその後に受け継がれて続くものなんだ・・・」
アンチョビの決意を込めた言葉に、辺りが沈黙する。
「絹代」
アンチョビは様子を見ていた西に声をかけた。
「おめでとう。お前達の勝ちだ。いい試合だった。有難う」
「礼を言うのはこちらの方です。突撃とはこうあるべきだというのを見せてもらった気がします。そして己を捨てて後輩に後を託す・・・私にはとても出来ることではありません」
「うちの後輩はこんなだけど・・・でも私にとっちゃこんな頼もしい奴らもいない。来年の・・・じゃなかった、今年の全国大会は・・・いや、対戦するかも分からないけど、とにかく覚悟しなよ!」
「はい! 宜しくお願いします!」
「ほら、ぺパロニも・・・なんだカルパッチョまで・・・お前達が泣くのは今日じゃない! 私が出来なかった3回戦進出・・・じゃなかった、優勝を成し遂げた時だ!」
「「「Sì, Signore!!」」」
まさに大団円という光景・・・であったが、ぺパロニがおもむろにP40に向かって歩き出した。そしてそのままP40に乗り込む。
「「「???」」」
ぺパロニの行動を誰も予測出来ないでいたが、間もなく・・・
「ドゥオン!」
一発の砲声が轟いた。P40がその主砲を発射したのである。
「「「え???」」」
「「「なんで???」」」
想像していなかった光景にキョトンとしている周囲を嘲笑うかのように、いやダメを押すかのようにというべきか・・・キューポラから顔を出したぺパロニは、何の悪びれる様子もなく言った。
「くぅ~~! やっぱ75mm砲は腹に響きますね! アンチョビ姐さんの気持ち、確かに受け取りました。すんげー気持ちいいッス!」
「残り一発。早い者勝ちだぞ!」
ぺパロニの言葉に応じるアンツィオの隊員はもちろんいない。
アンチョビは地面にへたりこんでいる。
「こ、この・・・」
「あほーーーーーー!!!!!」
~~~~~~~~
試合が終わればアンツィオのいつもの光景である。
普段質素な食生活の知波単にとっては、20日ほどぶりの・・・いや数人は先のイベントの時にこそっと屋台で買って食べてたのだが・・・なんにせよ心置きなく食べられる久々のド派手なイタリアン。しかも今回は、形はどうあれ試合に勝つことが出来た。その心地よさがさらに食欲を増進していた。
「ぺパロニ殿、これぞ至高の味であります!」
「違う! これは究極の味と言うべきであります!」
「究極VS至高とか、そんなどこぞの漫画のようなのはどうでもいいんだって! 美味しいものは美味しい。それで食べる人間も作る人間も大満足さ!」
「さすが潔しや! ぺパロニ殿! そういえば、さすがといえばあの空を飛んでくる戦車。あれにはびっくりしたであります!」
「そうだろそうだろ!」
自らが考案した作戦を褒められ、ぺパロニもご満悦である。
「知波単とは大洗と一緒になって戦ったじゃん。その時に知波単は3輌撃破してる。そりゃ羨ましかったさ・・・」
「いえ、あの試合はアンツィオのアシストで、迷路で2輌、ジェットコースターで2輌、池で1輌、そしてカールを撃破されておられます」
自身の撃破は1輌もないが、その結果を見るに、アンツィオのCV33が大洗勝利の最大の立役者であったかもしれないことを福田は讃えた。
「福ちゃんだっけ? そう言ってくれるのはうれしいけどさ。やっぱ自分らが撃って倒したいってのもあるじゃん」
「あの試合のビデオは・・・そりゃウチらも必死になって見たさ。で、あの試合を見て一番最初に思ったのが、” 戦車って飛ぶんだ” ってことなんだ。ウチらが飛ばしたヘッツァーや、聖グロのなんとかという戦車とかさ。ウチらもT型定規作戦成功したし」
「仰向けで引っくり返っても白旗のあがらない戦車なんて、CV33くらいだしね。もっともあれを元に戻すにはだいぶコツがいるんだけどね。ホントは私も飛びたいんだけど、もし私がやられちゃったら起こす人がいなくなっちゃうからね」
「あ、この前のサンダースとの試合も屋台をしながら見てたよ。最後やられちゃったけど、あの塹壕に隠れると思わせておいて、実は突撃するって凄いなと思って見てたんだ。デコイを数置いてその中に本物を混ぜようってのも・・・まあこれは私が前に試合で間違えたってのもあるんだけど、あの森の中での戦いを見てやろうって話になったんだ」
「あの試合で知波単がホント変わっててスゲーなと思ったよ。でも変わったのは知波単だけじゃない。ウチらももっと強くなりたいと思ってる。姐さんはこの春でいなくなっちゃうけど・・・」
「さっきは ”あんな花火みたいに撃つ奴があるか!” って姐さんにスゲー怒られたけど。でも姐さんに ”ウチらに受け継ぐ” とか言われちゃさ・・・やっぱこのままじゃダメだと思うじゃん」
「そうですね。それは我が知波単も同じです」
いつの間にか、西も話に加わっている。
「だろ!? そしたらやっぱ ”大洗に勝ちたい” って思うじゃん。あっ、それより先に知波単にリベンジしないといけないな・・・というか、まずはP40に砲弾満載できるように頑張らないといけないな。ま、とにかく! お互い打倒大洗で頑張ろう! 西さんも大洗には借りがあるんだろ?」
「ええ。目標が高くてくじけそうになりますが、頑張ります」
「たまにはくじけてもいいんだよ。Chi va piano va sano e va lontano. 急がば回れだ。突っ走るのもその時はいいけど、あとが大変じゃん。ウチらも気も遠くなる昔から貯金してやっとP40を買えたりしたけど、中には ”せめてセモヴェンテを” と思ったりした先輩もいたと思うんだよね。でもそこはP40のためにグッと抑える。そういうのが代々引き継がれてきたってのは凄いと思うんだ。毎日少しずつでも確実に残していく。そういうのってカッコいいじゃん」
「フフフ・・・」
「どうしたの?」
「いや、アンツィオが強い理由が分かりました。あと・・・戦車道ってやっぱり楽しいなと!」
「まあ楽しくないと続かないしね。私も高校から始めたけど・・・まさかこんなにハマるとは思ってなかったよ。あっ、それは料理もだけどね」
「今後とも宜しくお願い致します。お互い打倒大洗で頑張りましょう!」
「Certo!」
~~~~~~~~
宴は終わり、アンツィオと知波単が一緒に撤収作業を行っている。のめり込みがちな知波単の気質は、アンツィオとの相性がいいのかもしれない。アンツィオの気質が知波単に合っていることはないだろうが・・・
「おーい、つつじ」
「安斎か」
「アンチョビだ!」
愛知県出身のアンチョビと石川県出身の辻は、それぞれ中学時代に戦車道を行っていたこともあり、知らない仲ではない。
「今日はいろいろありがとな! まさかお前が四式に乗って出てくるとは思わなかったけどな」
「西に是非にと頼まれたのでな。断る理由はない」
「ふふーん、嬉しそうに乗ってたくせに」
「まあそれは当然だろ。しかしお前もいい後輩に恵まれたな。試合が終わった後のあれは私もうるっと来たぞ。バカが主砲ぶっ放して台無しにしたけどな」
「バカと言ってくれるな。あいつがいなきゃアンツィオもここまでこれなかったしな。でも・・・ホント悔いはないよ」
「それは本心じゃないな・・・私は・・・今日改めて西達と戦車に乗ってこんなに楽しいとは思わなかったぞ。せめてあともう一年・・・こうして一緒にやりたかったなと素直に思う・・・いや、やはりそれは言っちゃいけないな」
そう言って辻は少し物憂げな表情を浮かべる。
”The longest day must have an end” どんなに長い日にも必ず終わりがある。永遠とは言わずとも、しばらくはこの日がずっと続く・・・毎日続くそれに少し退屈する時もありつつも終わってみればあっという間だ。ああすれば良かった、なんでこれをしなかったのか・・・気付くのはいつも終わる寸前、終わってからだ。特に辻の場合は、大惨敗で終わりの日を向かえた。そして、以後の西等後輩達の変化・充実ぶり。思うところがあって当然だろう。
「独断専横、傍若無人が服を着たようなお前でも、そんな顔をするんだな」
「フン! 貴様こそまさか ”ドゥーチェ” とか呼ばれてチャラチャラしてる奴になってるとは思わなかったわ! てっきり西住の亜流みたいな隊を作ると思っていたのに・・・」
「そうか? 私は型にはまった戦車道はしたくないと思って栃木に来ただけだぞ。そこから後は適材適所、臨機応変。こうしたら上手くいくんじゃないか? というのがハマった時の嬉しさはもう言葉に出来ないぞ」
「じゃあ新しく出来たばかりの社会人チームに入るというのもそれか?」
「ああ。大学のキャンパス生活にも憧れはあるけど・・・でも請われていくのはやりがいがあるし、地元に帰れるというのもあるしな」
「あとは・・・社会人になったらあいつらにも、少しばかり仕送りが出来る・・・」
「フン、後は託すとか言いながら、子離れが出来ない母親みたいだな」
「もう少し言いようってのがあるだろうが。そういうお前はどうなんだ?」
「私か・・・私には日本は狭すぎる。東南アジアにでも行くつもりだ」
「行ってどうするんだ?」
「そんなのは行ってから決めればいいことだろ」
「クックック」
「なんだ?」
「いや、知波単が1回戦で負けたのも分かった気がしてな」
「貴様こそ言葉を慎め」
「しかし・・・西達を見てても思うけど、何かを変えるというのは本当に難しい。結果が出なければ非難されるだけだからな。それでもあいつらはしっかり前を見てやっている。こっから先は私がいても邪魔なだけだ。まあお前は小姑のように絡んでおればよい」
「ヘン、小姑になりたいのに、なる意気地もない奴が強がり言ってるようにしか見えないけどな」
「うるさい! まあしかし、今日の戦いは見事だった。西達にもいい経験になっただろう。改めて礼を言う」
辻は立ち上がってアンチョビに向かって頭を下げた。
「こっちもな。つつじ・・・どうするかはお前の勝手だけど、戦車道の借りは戦車道でしか返せないぞ。出来ることなら続けてほしい」
「ああ。心には留めておく」
2人は握手をして別れた。
形は違えど、後を任せたいと思える存在に託すことが出来るのは2人にとっても幸せなことだろう。今の辻には、黒森峰との大惨敗後におぼえた ”知波単の名を貶めただけではないか” との不安もなくなっていることだろう。
そして、西は西で、来たるべき大洗との最後の戦いが待っている。
勝利を得たという以上の手応えを西は感じていた。