とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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小説内における時系列を。

7月中旬:隊長が辻→西に交代
8月中旬:この小説の始まり&大洗での親善試合
8月下旬:大洗女子学園と大学選抜との試合
9月下旬:大洗女子学園との練習試合(4話)
11月初旬:大洗女子学園との再戦(20、21話)
11月下旬:新戦車導入(24話)
12月上旬:サンダースとの練習試合(30~32話)
年末年始:銚子でアンツィオとコラボイベント(35話)
1月上旬:アンツィオとの練習試合(36~37話)
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38.連合(連合軍結成)

1月15日。

 

この時期の高校は、3年生は間近に控えた大学受験、1・2年生は期末試験に備え慌ただしく緊張感が張り詰めた雰囲気になっていることが多いが、この日の知波単学園の寮・・・戦車道履修者にとっては兵営というべき宿舎の食堂の空気は、別の興奮で包まれていた。

 

「月刊戦車道・新年号」

 

本日空輸されてきたその雑誌において、知波単学園の戦車道についての記事があったのである。

以下、その記事を要約すると、

 

~~~~~~~~

 

・知波単はかつての突撃一辺倒の攻撃からは完全に脱した

・12月のサンダース戦は、今後の知波単の飛躍を大きく感じさせるものであった

・新型戦車の導入、並びに新戦術の活用には学園が一体となったことを感じさせる

・変わることが決して正しいことではないが、この変化には期待せざるを得ない

・それでいて根底にある勇敢さや純真さは損なわれておらず、1ファンとして応援せざるを得ない

 

~~~~~~~~

 

と、12月からのサンダース戦、年末年始イベント、アンツィオ戦について、非常に好意的に書かれたものであった。評価に飢えていた女子高生にとっては、自らがこのように記事となったものを見ると興奮を隠せなくて当然だろう。

 

「なんだ? 騒がしいな」

遅れて食堂に来た西が、隊員達がひとかたまりになって歓声を上げているのを見て言った。

 

「これは西隊長。いや、隊長もこの記事を見ては興奮せずにはおれんでしょう」

寺本が西に記事を読むように勧める。

 

記事を読み始めた西にも当然嬉しさが込み上げてきたのだが、読むうちにあることに気が付いた。

 

「(この記事は・・・やはり・・・)」

 

西は記事の最後にある記者の名前に目を留めた。山岡荘八・・・やはりあの記者さんか。

かつてバカだ、頭が堅すぎる、戦車に乗る価値なしと散々に言われる中で、彼だけは知波単に横たわる敢闘精神を理解し、苦言を呈すことはあっても決して蔑むことはなかったことを西は鮮明に覚えていた。

 

「(見守ってくれていた人は・・・学園の外にも居たんだな)」

 

西は改めてそのことを非常に嬉しく思い、そして少しでも恩返しが出来たかもしれないことに満足した。

 

「どうです? 西隊長。これを読んでは気持ちが高ぶらずにはおれますまい」

 

「そうだな・・・」

 

さぞ大喜びするであろう西の姿を想像していた寺本は、思いのほか冷めた反応が返ってきたことに少し驚いたのだが、一方で西は玉田と福田がその場にいないことに気付いた。

 

「あいつらは?」

 

「2人は最近はずっと視聴覚室ですよ。多分これまでの映像を見てるんでしょうけど」

 

「(やはりな・・・)」

 

「ちょうどいい機会だ。みんなに言っておくことがある。ここにある記事は既に過去のことだ。我々が倒さないといけない相手はどこだ?・・・そう、大洗だ。誰が何と言おうと私はそこを目指す」

 

「「「 はい!!! 」」」

 

西は言葉を続けるつもりだったが・・・既に隊員達は理解し、そしてそれまでの弛緩した空気は一瞬にして締まったものとなった。言われずとも分かっていますよ・・・そう言うかのような隊員の反応は西を十分満足させるものであった。

 

「よし・・・試験勉強で大変だろうけど引き続き頑張ろう!」

 

「「「 はい!!! 」」」

 

先ほどの雰囲気とはうって変わって、各人は自身がやるべきことを理解しているかのように引き締まった顔になり解散していった。それを見た西は玉田と福田のいる視聴覚室に向かう。

 

「2人とも・・・精が出るな」

 

「西隊長、おつかれさまです」

 

「いや、そのままでいい・・・どうだ、何か参考になるものはあったか?」

 

アンツィオ戦以降、2人はこれまでの試合を視聴覚室で見るのが日課になっていた。知波単も充実しつつあるとはいえ、彼我の力関係は大きく変わるものではない。なんとかそれを打開するため・・・2人は目を凝らしてビデオを見ているが、それでも妙案がパッと閃くのは漫画や小説の世界である。そう思いつつも西は懸命に何かを見つけようとする2人を見るとそう声を掛けざるを得なかった。

 

「いや・・・簡単にはいきませんね・・・」

 

「大洗の強さは・・・もちろん西住隊長の卓越した指揮能力と作戦の着想力、それを活かすⅣ号戦車の乗員の技術もあるのですが・・・それ以上に各車輌が西住隊長の意思を確実に理解している、理解した上で場面に応じた判断を臨機応変に出来るというのが凄いであります」

 

玉田の言葉を受けた福田が大洗の強さを改めて説明する。1輌1輌がまるで無駄になっていない。各車輌が100%の力を発揮している。逆に対戦相手には100%の力を出させぬまま、最後はⅣ号が締める。大洗女子学園が勝利を得た試合は全てそうであると言えるだろう。逆に言えば、大洗が敗戦したうちの一戦である大洗・知波単連合軍VS聖グロ・プラウダ連合軍の戦いにおいては、大洗側の連合軍である知波単が、その力をほとんど出すことなく撃破されたということでもあるのだが・・・

 

「まともに戦って勝てる相手ではないか・・・」

 

「かといって奇策が通じる相手とも思えません」

 

「八方塞がりだな・・・」

当然西が何かを思いつくような状況ではない。

 

「そうは言っても、大洗の中心はⅣ号であるのは間違いない。Ⅳ号をどう撃破するかという観点で構想してほしい」

 

「「 は! かしこまりました!! 」」

 

今は2人に任せきりだが、そうも言っておられまい。抜本的な作戦面の検討を期末試験が終われば皆でせねばなるまいな・・・と思っていたところ、視聴覚室の内線電話が鳴った。

 

「隊長室におられなかったので、やはりこちらでしたか。サンダース大付属のアリサ様より入電です」

 

「分かった。繋いでくれ」

そう言って西は受話器を取った。

 

「お待たせ致しました。知波単学園の西でございます」

 

「ハロー! 相変わらず堅いわね。そういや新年の挨拶がまだだったわね。Happy New Year! 今年もよろしく! 月刊戦車道見たわよ。なかなかの書かれっぷりじゃない!」

 

「いやー、お恥ずかしいというかあの記者さんは常々我々のことを応援してくれていましたからね。叱咤激励と受け止めております」

 

「ふーん・・・嬉しいときは素直に喜べばいいと思うけど。ところで・・・大洗とまた試合をするんでしょ?・・・そういう話には・・・私も混ぜなさいよ!」

 

「はあ?」

 

「はあ? じゃないわよ! だいたい大洗と戦って勝てる見込みでもあるの? このままだと夏の全国大会で対戦したとしてもこっぴどくやられるでしょうね。それこそ何度同じ夏を繰り返しても・・・15000回以上のエンドレスサマーを繰り返したとしてもね!」

 

「仰ることはなんとなく分かりますが・・・しかし・・・」

対大洗との作戦が行き詰っていたとはいえ、西としても簡単に消化できる話ではない。

 

「もちろんあなたの立場も考えも理解してるわ。でもね・・・大洗は普通にやって勝てる相手じゃないのは、あなたもあの子達と2度一緒に戦って理解してるでしょ? 決して西住だけのチームじゃない。ベースボールで言えば、4割40本を打つ四番打者がいて、3割30盗塁できる選手がスタメンに名を連ねてるようなもんだわ」

 

「なるほど・・・その比喩は言い得て妙ですね」

 

「変なとこで感心してるんじゃないわよ! ただそんな大洗の唯一の弱点とも言えるのが、選手層の薄さ。スタメンは充実して無敵だったとしても、長丁場を戦えるだけの選手層がない。あの子達も100%の力をフルに発揮し続けていたら当然どこかでバテる、集中力が切れる時が来る。あの子達を倒すのはその瞬間を待って少しずつ削っていくしかない」

 

「もしくは作戦としてのハードルは高いけど・・・Ⅳ号を全力で潰しにかかるか、分断してそれぞれ追い込むか・・・ただこれをやるには相当の火力がいるわ。知波単のニュータンクだけじゃとても足りないわ」

 

「・・・仰る通りです・・・」

 

「だからうちが火力と機動力のところを担ってあげると言うのよ。そして取るべきは持久戦・・・大洗に勝つにはこれしかないと思うわ」

 

「アリサ殿・・・1つお聞きしてもいいですか?」

 

「なに?」

 

「なぜアリサ殿はこの話を私にしてきたのですか? それこそサンダースなら仰る作戦で大洗に対抗することも出来ますでしょうに・・・」

 

「はあ? 大洗はサンダースにとって倒すべき敵よ! それが出来るチャンスがあるなら早い方がいいに決まってるじゃない!」

 

「あとはね・・・これを言うのは恥ずかしいけど・・・ケイは大洗に負けて引退したの。ケイはそんなことは絶対に言わないからあなた達は知らないだろうけど、もう批判のされ方が凄かったのよ・・・A級戦犯だの、胸がデカいだけの能無しだの、ゴリ押ししかしないサンダースの隊長なんて誰でも出来るだの・・・普通の人なら薬に手を出すか、下手したら自殺しかねないような言われよう、叩かれようだったわ・・・

ケイはいちいち気にしてないかもしれないけど、私はそんな声が許せない! 大洗に勝って、少しでもそうした声を黙らせたいのよ。ケイが卒業するまでと考えたら、そのチャンスは今回しかなかった・・・」

 

「それと・・・恥ずかしいついでにもう一つ言うと・・・あなた達とは大学選抜との試合で一緒の中隊になり、この前は練習試合もしたでしょ? なんだかんだで、あなた達のことが気になるのよ! まあタカ子の縁もあるし・・・」

 

アリサの話を聞きながら、西は “この人もやはり隊長になって変わった・・・” と感じていた。隊長になって以降、西は事あるごとに変わったと言われたが・・・やはりそうした立場が人を変えると思わざるを得ない。

 

「アリサ殿・・・ 委細承知致しました。連合軍のお申出、知波単としては快諾致します。作戦としても仰る内容でよろしいでしょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? そんな簡単にOKでいいわけ? チームとしてもそれでいいの?」

 

知波単としては「打倒大洗!」が悲願であるはずだ。それなのに、こんなに即答でOKが返ってきたことに逆にアリサは困惑した。

 

「はい。確かに打倒大洗は知波単の悲願でありますが、私達はそれだけのために戦車道をやっているわけではありません。隊長として私がやることは、知波単の名を高めること、隊員に満足して戦車道をやってもらうこと、彼女らにまだ見ぬ世界を見せてやることです。9月の会議で、私は皆にそのことを約束しました。大洗に勝つことが第一義ではありません」

 

「サンダースとの連合軍で戦うことで見えること、そしてそれが大洗に勝つことに繋がったなら・・・それは確実に私達の見える世界を変えてくれることでしょう。折りしも先日の蹴球の全世界大会において、日本が取った作戦を批難する声が多く上がりましたが、あの決断において得た結果があってこそ、日本は決勝大会においてこれまで経験したことのない戦いをすることが出来たのです。 “潔く負けた方がよかった” では、あの経験は出来ていなかったのです」

 

「凄いね・・・西さん・・・」

 

「私が西さんの立場なら、簡単にそうは思えなかったかもしれない。知波単にこの話をして良かった・・・素直にそう思うわ」

 

「アリサ殿にお褒めの言葉を頂けるとは、恐悦至極でございます」

 

「ちょっと・・・それ、褒めてるのか貶してるのか分からないから! とにかく連合軍結成ということでいいわね。詳しい作戦の詰めは・・・直接会っていろいろ話し合って決めたいわね。試合の日は決まったの?」

 

「2月下旬の卒業式の前とは聞いていますが、具体的にはまだ聞いてはおりません」

 

「そう。何にしても急がないといけないわね。うちと知波単が連合軍で挑む以上、大洗にも連合軍を組んでもらう必要があるだろうし」

 

「では、大洗と黒森峰の連合軍との対戦になるということも・・・」

 

「大洗がそれを選んだなら仕方ないわね。どうする? あなたから大洗に言いにくいなら、私から言おうか?」

 

「いえ・・・そこは私の仕事だと思っています。万が一にも断ることはないと思いますが。フフフ・・・しかし・・・」

 

「なに?」

 

「いや・・・楽しみですな。私自身もこうなることは全く予想してませんでしたし、大洗も当然そうでしょう。大洗の方々が面食らう様子が目に浮かびます。

こういうとまた怒られるかもしれませんが、アリサ殿という策士であり、作戦遂行者を味方にした我々は心強い限りですな」

 

「なんか褒められてるように思えないのは気のせいだと思いたいけど・・・とにかく大洗が組む連合軍の高校次第ではより一層ハードルが上がるから、呑気なことは言ってられないわよ」

 

「そうですね。とにかくこの後大洗に連絡をして、また結果は報告致します」

 

「よろしく頼んだわね、じゃあ」

 

「失礼致します」

 

隊員達に一切の話をせずに大事なことを決めてしまったことに少しの申し訳なさはあったが・・・

しかし、同じ視聴覚室にいた玉田と福田の反応を見るに、その心配も杞憂で終わりそうである。

作戦に行き詰っていたからというわけではないが、作戦に幅が出来る、勝つ可能性が高まるというのは、2人にとっても悪い話ではない。西に隊長が代わって以降、西の言う「まだ見ぬ世界」のたとえ端っこにでも触れている実感を持つ2人にとっては、西がアリサに言ったことは十分理解が出来ることである。また、自分達を通さずに話を決めたことで揺らぐほど、西への信頼は軟弱ではなかった。

 

しかし、大洗女子学園から返ってきた連合軍の相手は、まるで想像をしていなかった・・・そして、まだ見ぬ世界どころか、また奈落に落とされるのではないかと思わせるものであった。




●●オリキャラ(OG除く)●●

◇谷口車(新チハ) ~11話で登場~
・車長:谷口/2年(2年時にサンダースから編入) ・操縦手:丸井/1年(留年)
・砲手:五十嵐/1年 ・通信手or装填手:久保/1年

◇山口車(旧チハ) ~15話で登場~
・車長:山口/2年 ・操縦手:太田/2年
・砲手:中山/2年 ・通信手:山本/2年

・半田(池田車・装填手)/2年 ~19話で登場~

それぞれちばあきおのキャプテン、プレーボールからです。


●●16話で決定した小隊名●●

◇小隊名
玉田車=割り下、細見車=牛肉、池田車=豆腐、名倉車=長葱、寺本車=卵
※小隊僚車は小隊名に「ご飯」がつく(ex.玉田小隊僚車=割り下ご飯)

◇別働車
谷口車=バント、山口車=牽制、福田車=みかん、西車=隊長車

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