待て、しかして希望せよ!
言ってみたかったんだよねこれ!
柊暮人との一件があってからの次の日。俺はあるビルの屋上に来ている。
一人景色を見ながら考えていた。
「(俺はどれだけ鬼と混ざってるんだろうな、昨日の柊暮人は剣を抜く時『憑依しろ』って言ってたし。それを只の鬼呪だけで防ぐとか人間やめるわ、これ…)」
自称的な笑いが少し漏れてしまう。
「(それにいつ話すかな…。前世の事とか言われても納得しないよなあいつら。そして俺は本当にみんなを信じてるのか…?)」
そんな考えが浮かぶだけで顔を俯かせてしまう。確かに俺はは償いきれない罪がある。だけどそれは前世、俺個人の事。それにあいつらを巻き込んでもいいのか?
いいわけが無いんだよな…。
でもあいつらはきっと手を差し伸べてくる。きっとそれに甘えてるんだ。
こんなじゃいけないって考えを頭を振って端の方に追いやる。それでも尚頭に浮かぶのは彼女が死ぬ寸前の顔。
「──さん、翔さん!」
「──!ああ、シノアと優か。お前らは一緒に来たのか」
その声でやっと気づいた。声をかけられるまで気づかないなんてかなり追いやられてるみたいだな。
「優さんが寝坊して遅れないようにとこのシノアちゃんが起こしに行ってあげたんです!」
「まぁシノアが来る前に起きてたんだけどな」
「そうなんですよ!優さん私が起こしに行ったのにもう起きて制服にも着替えてたんですよ!優さん、熱でもあるんじゃないんですか?」
「俺が早起きしたら悪いのか」
そんな二人の会話を見て微笑ましく思える。俺もよくこんな会話をしてたなって。まぁ大体は起こしてもらってたけど…。
『翔ー!朝だよ!』
『……あと五分』
『いつもそうやって起きないでしょ!そ〜れ〜な〜ら〜起きない翔にはお仕置きするぞー?』
『おはよう、ほら早くしろよ遅刻するぞ?』
『あ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!何今の!?そんなにイタズラされたくないの!?』
『お前のイタズラはお仕置きに近いからだよ!』
『それは…起きない翔が悪いの!』
「つーかグレンのやつ遅くねーか?」
そんな優の一言に現実へと思考が戻ってくる。
「あ、ああ。確かにな。まぁあいつも会議とか何だで忙しいんだろ」
俺がそう言うとシノアがジッとこちらを見てくる。
「な、なんだよ」
「…翔さんがグレン中佐のこと庇うなんで珍しいなって」
「そ、そうか?」
「はい」
シノアの視線が突き刺さる。痛くないはずのに痛い…。これがあれか目だけで人を殺せるってやつか。
……流石にそれは無いか。
「あそこにミカがいるかな」
優が小さく呟いた一言は俺の耳にしっかりと届いていた。優が見ている方角は西。京都のある方だ、そこにミカがいる。
「なにを二人して見てるんですか?」
「「西だよ」」
聞いてきたシノアにそう答える。そして次は優が喋り始めた。
「…ミカがいるのはきっと西だろ?吸血鬼の都市は…俺が捕まってた場所は京都の地下だったと聞いたからな」
「ふうん、新宿から京都が見えるなんて優さんは目がいいですねー」
「いや、さすがに見えねーけどさ。でも…俺は必ずあいつを…家族を取り戻しに行くんだ」
「家族だから…ですか」
一瞬悲しそうにするシノア。その表情に優は気付いていないようで、笑いながらシノアに向けて指をさす。
「あ…吸血鬼んとこ殴り込みに行く時はシノア…一緒に頼むな?」
「え〜私も行くんですか?まぁいいですけど。それに翔さんも行くんですよね?」
「ああ、吸血鬼になっても家族だ。だから助ける。でもそれには力が足りない、だから手伝ってくれシノア」
そう言うとシノアは「いいですよ」と言いながら俺の横に来る。何故かシノアの顔は笑顔で、見ているこっちも癒される。俺にはそう感じられた。
その時扉の開く音が聞こえそちらを見るとグレンが入ってきていた。
「なんだ?おまえら、イチャついてんのか?」
「なっ!?」
「これのどこがイチャついてるんだよバカグレン」
グレンの一言に顔を赤くするシノア。何で赤くなるんだそこで?
「まあいい。って言うより俺、眠い、だるい。だから帰っていいか?」
「ざっけんな!はやく憑依とか具現化とか教えろ!」
「優の言う通りダメに決まってんだろ。お前会議のせい頭おかしくなってんじゃねーか?」
「はぁ、優うるさい。そして翔はしばくから覚えとけ。別に俺が教える意味はねぇんだよ。シノアと三葉はやり方しってるしな」
「へ?そうなの?」
「まぁ、教えられますけど…私、普段鎌持ってないでしょう?でもどこからともなく『鬼』と『武器』を具現化しちゃいまーす。シーちゃん出てきてー」
シノアの言葉に応じて鎌がシノアの手に現れて鬼がその後ろに具現化する。
「おーー!…んじゃこれが『具現化』か?」
「そうでーす。契約した鬼を外に出して特殊な能力を使えるようにした状態です。ちなみに彼女は私が契約している『四鎌童子』のしーちゃんです。ね、しーちゃん」
「……」
「愛想ねぇな」
「いや優、逆に鬼が『やぁ!俺シノアの鬼の四鎌童子!仲良くしてね!』とか言ったら逆に怖いだろ?」
「確かにそれもそうだな。それよりも翔の今の声の方が怖い」
「おい優てめえ」
四鎌童子の挨拶のところを裏声でやってみたけど失敗だったなこれ……。
ふとグレンとシノアの方を見るとシノアは苦笑い、グレンは……
「まさかの真顔!?それよりも感情が無くなった!?」
「さっきのは流石にキモかったぞ翔」
「あはは…。さっきのはちょっと…」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
思わず膝から崩れる。もうあれだよ、普段からギャグとかしないのに急にやったらシーンとした、みたいな雰囲気だよ。
誰か助けて。
「とりあえず今のが『具現化』だ。で、『鬼』にも性質がある。武器使用者に取り付いてより強くするタイプか、外に出て特殊な力を使うのが得意なタイプか」
そしてグレンは自分の刀を取り出し構える。その刀は黒い霧で覆われていく。
「ちなみに俺の刀は『前者』だ。使用者に憑依してより強くしてくれる」
「へぇ〜、阿修羅丸おまえはどっちのタイプなのかな〜」
優は自分の刀を見てグッと握る。その様子をみてグレンは「よし」と声を出した。
「おまえが次の段階に進んでいいか見てやる。刀を抜いて『鬼呪』を発動してみろ。俺も普通に『鬼呪』だけ発動する。斬り合うぞ」
「お、まじで?ちょっと久しぶりだな」
そうして二人は刀をそれぞれ構える。グレンは刀を前に構え、優は腰を低くして横に刀を構えた。
「俺はどうすりゃいんだよ」
「さぁ?優さんの行く末を見守りましょう」
そして、同時に聞こえたのは刃と刃が重なり合う金属音。グレンの動きに優はちゃんとついていっておりほとんど互角だ。
「へっへーん。どうよ、もう昔みたいに差はねんじゃねぇの?褒めてもいーぞ?」
「と…今のが『鬼呪装備』だけの力を使った場合。で、次は鬼を憑依させる。俺に憑依しろ『真昼』」
優の自慢気な言葉を無視するグレン。そして、グレンの雰囲気がガラッと変わる。グレンの後ろには女の人の影が見える。全ての霧が女の髪にも見える。そして霧は炎のように立ち上がる。
「……真昼?」
不意に隣で声がした。シノアの方を見ると驚いたように目を見開いている。そんなシノアをよこにグレンはさらに続ける。
「一撃でも受けられたら褒めてやるよ」
そしてグレンは刀を振る。それを真っ正面から受け止めようとしていた優はその衝撃により屋上の外へ吹っ飛ぶ。
「ちょ…うおお嘘だろ!?うわわっ!!」
まぁ、優のことだ落ちてもへっちゃらな顔で戻ってくるだろう。そして屋上は優がいなくなったためか静かになる。
そんな静けさの中シノアの声が響いた。
「しーちゃん、殺っちゃってください」
「おいシノア?!」
シノアが鬼を具現化しグレンに攻撃をする。その鬼をグレンは簡単に消すとそれを狙っていたかのようにシノアはグレンの首に鎌をかけていた。
「おい翔、止めようとするにも遅い。そんなんじゃ守れるもんも守れない」
その状態でよく評価出来ましたね……。まぁそれよりなんでシノアが攻撃したか何だ…けど……。
「まさかと思うが『真昼』ってあの?」
柊真昼。柊の次期当主とまで言われた天才。八年前に鬼呪装備を完成させた張本人。
俺が知ってるのはその位のこと。何故か授業で柊真昼の話になると小百合さん、顔が険しくなるんだよな。
「はぁ、で?シノア、なぜ止める?殺りたきゃ殺れよ」
「私の武器の長所は特殊能力ですから、近接じゃ全然中佐にかないません。どうせ簡単によけちゃうんでしょ?」
「お前にだったら殺されてもいい」
「柊 真昼を……私の姉を殺した罪滅ぼしにですか?その刀には私の姉が入っているのしょう?さっき姉の名前呼んでましたもんね」
それは初耳だった。柊 真昼という名前と死んだ、というのは知っていたが…グレンが殺したとは。だから小百合さん、少し辛そうに見えたのか。
「真昼はもういない…あいつは『鬼』になり『鬼呪装備』を完成させて世界を救ったんだ」
「あはは、冗談言わないでください。姉は世界なんかに興味のある人じゃなかった。ただ、ただ、あなたに恋をしていただけ…決して結ばれない運命のあなたを欲しがって鬼に取り憑かれてしまった。なのに8年前ーー世界が突如終わっちゃってーー」
8年前、抗ウイルス薬を持ってなかった大人たちは全員死亡ーー大地には人間を襲う『ヨハネの四騎士』がどこからともなく現れーー人口激減による血液不足を恐れた吸血鬼が人間を管理し始めたーー
「誰かが言った。それは破滅だ、黙示録だ。増えすぎた人間に神の罰が下ったのだ。と…もしも姉が『鬼呪装備』を完成させていなければ、本当に人間は滅びていたかもしれない。恋する乙女が一転まるで救世主ですよ。でも、彼女は殺された、研究に取り憑かれて鬼に成り果てたからそしてその彼女を退治したのがーー姉のかつての恋人一瀬グレン」
そして、シノアは語り終えるとグレンの首に鎌の先端を向ける。だが、それだけですぐに鎌を下ろした。そしてまた続ける。
「ということに表向きはなってますがーーもしかして、姉はその刀の中でまだ中佐と一緒にいるんじゃないですか?中佐は姉に取り憑かれている」
「……だったらどうする?」
「さて、どうしましょう」
「そもそもおまえらはそんなに仲のいい姉妹だったか?」
「…いいえ、私は柊家ですよ?家族っていうのがなんなのかもわからず育ちました」
「…ならもう黙れよ」
そうグレンがため息を吐いて言う。そして屋上の扉からカンカンカンという音も聞こえ始める。優が戻ってきているのだろう。
その音を聞いてシノアは笑う。
「ですが…血が繋がってるわけでもない家族にあんなに必死になってるのを見せられちゃうとちょっと…友達や仲間をもう少し大切にしてみてもいいかなぁとか思いまして……優さんを利用しようとしてるのは姉の命令ですか?姉が…いえ『鬼』が刀の中から命じてる?中佐の目的はなんです?」
「「もしそれが優(さん)のためにならならいことならちょっとやめてもらうぞ(やめてもらえませんかねぇ)」」
再びシノアが鬼を具現化する。そして俺も体の底から力が溢れてくる。前髪の一部が白く染まる。
「なんだ、お前らそろって……翔、お前のそれは何だ?」
「さぁな、俺にもわからん。ただ俺の鬼は憑依型ってだけは分かる」
俺がそう言ったあとにバンッと音を立てて扉が開く。
「やっと戻ったああああ!!!外壁に刀刺して戻ろうとしたら壁に傷つけんなって衛兵にすげぇ怒られたんだけど!
!!」
入ってきたのはもちろん優である。
「あはは〜。優さんはいっつも間抜けですよね〜」
「うぉ!?翔なんだよそのカッコ!!それが憑依なのか!?なんでもう出来んだよ!」
優は俺に指で差しながらそう問い詰めてくる。
「いや優、俺にも全くわからん…」
「クソッ!つか俺の刀はどっちかな?憑依?具現?」
そう聞いてくる優と話している時グレンは出していた刀をしまう。それを見て優がまた騒ぐ。
「あ!なんでおまえ帰ろうとしてんだよ!!」
「あれ?もう中佐がいる」
「あ、ほんとだ」
優が騒いでいる時与一、三宮、君月の三人が丁度屋上に到着する。
「グレン中佐…早いですね。確か集合時間まで、まだ30分以上あるはずですが…あたしたちの思い違いでしたでしょうか?」
三葉の言葉にシノアがグレンに向かって笑う。
「…あれぇ、私達が聞いてた集合時間と違いますねぇ。まさかこれ、私に姉のことを伝える会だったとか?」
「俺の凄さを伝える会だよ。まずシノア、お前の姉は死んだもう戻らない。鬼になって刀の中にいるが制御できてる、俺はあいつに取り憑かれてない。次に優」
「お?」
「お前はもっと強くなれる」
「まじかよっ!!」
グレンの言葉に嬉しそうな顔をする優。
「《鬼呪》の使い方はシノアや三葉に教えてもらえ、別に俺じゃなくてもできる。それに翔にでも稽古付けてもらえ」
「え、俺優に教えられることなんて何も無いぞ?」
「おお!俺に稽古してくれんの!?俺、翔と刀交えたことないからワクワクするな!」
俺の言葉を聞かずにそうはしゃぐ優。そこまで言われたらやらないなんて言えない…そして、そんな俺たちをほっといてグレンは帰ろうとする。
「ちょっと待てグレン。帰るなら一つ教えてくれ。柊 暮人という奴は俺達があの孤児院で人体実験の材料にされてたって聞いたんだけど、あいつの言ったことはほんとうか?俺はなんかの実験体なのか?俺の家族も…ミカやあそこにいた孤児院の仲間たちもみんな実験に使われてたのか?それ分かってておまえは俺を利用しようとしてたのか?」
「…そうだ、利用価値のない奴を助ける余裕はないからな。で、それ聞いてガキが怒るのか?」
そんな優とグレンの会話に重い空気が漂う。そして、三宮たちもその話を静かに聞いている。
「いいや、お前が俺を助けてくれた事に変わりはない、だから俺が気になるのは俺はお前の役に立つのか?ってことだけだ。…おまえには俺が必要か?必要なら同じ孤児院だったミカのことも欲しがってくれるか?もしそうなら…俺はおまえを全面的に協力する」
「お前は俺たちの親なんだろ?ならミカを助けられる方法を教えてくれ」
「優くん…翔くん…」
与一が心配そうにこちらを見る。そしてグレンは俺たちの目をしっかりと見て言った。
「当然の事を怒鳴るな馬鹿が…俺も含めてここにいる仲間はもう家族だ。ならみんなでおまえらの家族を取り戻せばいい。じゃあ俺は帰るぞ」
そう言って帰っていくグレンを見送ると優が「よし!」と急に声を出す。
「そうとなったら、さっそく『鬼呪装備』の訓練始めようぜ!シノア 三葉教えてくれ!」
「ふむ、ならまずは私のことは先生と呼べ」
「いやだね」
三葉の言葉に君月が即答す
「なんだと!!」
「ちょっと〜」
君月に対してそう怒る三宮…を止める与一。そんな中俺はシノアの方を見る。さっきからシノアはなにかを考えているのかずっと無言のままだ。
「中佐は信じられても姉は…平気で家族を裏切る人なんですけどねぇ…」
「そうか…。でもあの刀だけはなんかやばい気がする」
「やはりそうですか…まぁ翔さんの鬼呪装備も中々ヤバいんですけどねぇ」
「だよな…自覚はしてます」
そして会話が途切れる。その沈黙を優が破った。
「どうしたおまえらー?」
「「なんでもねぇよ(ないですよ〜)」」
「じゃあさっそく『鬼呪装備』の訓練をはじめますか?」
「おう!」
そしてこれから柊シノア隊の修行が始まろうとしていた。
先に進めたがいがために長くなりました。
ご不便をお掛け致します。すいません
次回こそは鬼呪装備編です!!ほんとですから!