■月✖日 あられ
ヨーギラスの奴、朝俺を起こすのに【いわおとし】しやがった。おかげで朝っぱらから喧嘩になったし、まだ顔が痛い。アイツは何なの? いちいち攻撃しないとコミュニケーションが取れないの? 今はまだ体が小さいしレベルも低いから何とか対応できるけど、これがバンギラスに進化したら俺死ぬんじゃない? ヨーギラスを進化させないか、それとも俺が強くなるべきか、悩みどころだ。
OR月AS日 エアロック
常日頃コミュニケーション(物理)が耐えない俺とヨーギラスに業を煮やした父が、俺たちにトレーナーズスクールに通うように言ってきた。今更タイプ相性だのバトルをいろはだのを学ぶものはないような気がするけど、他のトレーナーとポケモンがどんな風に付き合っているのかを勉強してこいとのことだ。流石に言い返せないので大人しく従うことに。
それはそうと、今日自転車漕いでたらヨーギラスの奴が【あなをほる】で地面に穴をあけて俺を落としやがった。仕返しに【くろいてっきゅう】持たせて池に放り込んでやった。ざまみろ!
HG月SS日 ノーてんき
今日はトレーナーズスクール入学初日。チャリンコに乗っていこうとしたら、ヨーギラスがさも当然のように後ろの荷台にクッション敷いてスタンバってた。ドヤ顔うぜぇ。
で、入学式終わって教室に入って自己紹介。当然と言えば当然だけど、皆年相応の精神年齢してて、俺凄い場違いなような気がする。男子はバトル厨、女子は子供ながら大人らしさを追求している。先生は先生で10歳前後を相手にするような態度で居辛いのなんの。こんなんで俺大丈夫か? 小学校でボッチとか苛めの対象でしかないような気がするんだけど。
X月Y日 デルタストーム
トレーナーズスクール舐めてた。最初はてっきり炎タイプは水タイプに弱いです的なお勉強でもするのかと思ってたけど、まさかタイプ相性の科学的メカニズムとかポケモントレーナーとして守らなければならない規則とか法律の勉強するとは思わなかった。思いの外高度な勉強で気合が入ったけど、ヨーギラスの奴が俺の昼飯のカレーパン食いやがった。許せない、奴の口一杯にポケモンフード捻じ込んで腹パンしてやる。
〇月■日 すなおこし
拳が割れて病院に行ってきた。ヨーギラス超硬い。
G月▽日 あめふらし
案の定と言うべきか何と言うべきか、話が合わない生徒ばかりで学校で浮いた存在である俺を標的にするガキ大将が現れた。見た目は短パン小僧で名前はゴローというらしい。何やら不当な罵倒をぶつけてくる。やれダイチ菌が移るだの、やれ俺の母ちゃん出ベソだの、レベルが低すぎて俺は相手にしていない。ヨーギラスですら鼻で嗤うレベルだ。まぁエスカレートするようなら釘バットを使ったコミュニケーションをすればいいだろ。
×月B日 すなかき
ゴロー少年、短パン小僧の癖にポッチャマ手持ちにしてやがる。コラッタでもエースにしていればいいものを。
で、何でこんなことを書いているかというと、今日この日の怒りと憎しみを生涯忘れない為だ。
近所の行きつけのパン屋の期間限定豚の角煮パンを昼飯に買った今日。この日ばかりはヨーギラスとも意気投合して仲良く食べようとしたら、ゴローのダニ野郎のポッチャマが【みずでっぽう】で俺たちの豚の角煮パンをグショグショにしやがった。
共通の敵が現れると人は争いをやめるとは正にこの事。俺は釘バットで、ヨーギラスは【いわおとし】で頭蓋を粉砕してやろうとすると、教師が必死になって止めてきた。納得がいかないなら決着は明日ポケモンバトルで付けようと提案。なんというデュエル脳ならぬバトル脳。大人しくゴローとポッチャマの首を差し出せばいいものを。
だが俺とヨーギラスは大人の♂、その提案を受け入れた。明日はどんな風に痛めつけてくれようか。
K月○日 おわりのだいち
水タイプVS岩/地面タイプの絶望的相性差を覆し、俺とヨーギラスの大勝利!
馬鹿正直に【みずてっぽう】撃ってきたので【あなをほる】で回避、そのまま地面から強襲してポッチャマの首から下を地面に埋めてやると、後頭部に【いわくだき】を連発。防御が6段階くらい下がったのを見計らい、【いわおとし】でフィニッシュ。
あの時の絶望した表情を浮かべるゴローと瀕死のポッチャマは見ていて爽快だったぜ!
▲月■日 ぼうじんゴーグル
今日学校に来たらゴロー含めクラスメイト全員から目を逸らされた。今になって思うと、昨日のバトルは中々残虐ファイトだったと思う。反省はもちろんしていない。しかしこの状況は困った。正直ボッチなのはこの際気にしないけど、三者面談とか家庭訪問の時に両親に「ダイチ君は友達いません」とか言われると、やっぱり心配かけちまうよなぁ……。
T月✖日 うるおいボディ
今日も今日とて俺のプリンを食ったヨーギラスの頭蓋を叩き割ろうとしたら、【いわなだれ】で反撃食らった。こいつ、着実に強くなってやがる……! 奴を倒すためには、俺も新たな力を手にしなければなるまい。とりあえず、ヨーギラスが寝たら顔面に【くろいてっきゅう】を叩き付けてやる。
V月◇日 ダークウェザー
最近、ポケモンバトルの授業で組んでくれる奴がいない。今でこそ先生とばかり組んでるけど、まるで勝ち星が上げられねぇ。これ成績に悪影響とかないよな? だって向こうのレベルの方が明らかに高いし、生徒対教師だし。落ちこぼれ扱いは嫌だぞ。
〇月○日 はじまりのうみ
来る日も来る日も岩の雪崩に巻き込まれ続けながら鍛錬を続け、今日遂に【いわなだれ】の攻撃範囲から離脱するための縮地をマスターした。これでヨーギラスの奴をざまぁしてやるぜ!
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ダイチという男子生徒は、10歳前後の少年少女が集まるトレーナーズスクールの中では異物だった。歳不相応の大人びた性格かと思いきや、手持ちポケモンと喧嘩を繰り広げる狂暴性を持つ子供。基本的に、いわゆる〝良い子〟の割合が多い子供のトレーナーからすればダイチは極めて取っ付きにくい性格と言える。
そんなダイチと他の生との間に大きな溝が出来たのは、クラスの生徒間で強い影響力を持つゴローとのポケモンバトル以降だ。結果としてダイチの圧勝だったが、それは決してゴローが弱かったわけではない。むしろ同年代の中では強い方だろう。水タイプと岩/地面タイプのポケモンバトルで水タイプに勝利したダイチが異常なのだ。
ゴローとダイチのバトル、水タイプの攻撃を一撃受ければ倒れるヨーギラスに対し、ゴローは最適解の【みずでっぽう】を指示したが、ヨーギラスは何の指示も受けずに【あなをほる】で回避と強襲、身動きを封じてから【いわくだき】で防御力の低下とダメージを同時に行い、止めに【いわおとし】。その間ダイチは「殺れ」という一言だけしか呟かなかった。
トレーナーとしての指示能力が無いのかと考えたが、その割にはヨーギラスはよく鍛えられている。その齟齬に疑問を感じ、担任教師のヒナコはそれとなく勝利の秘訣をダイチに聞いてみると――――
「いや、お互いどんなポケモン使ってくるのか目星がついてましたし、俺が逆の立場ならアイツと同じことしてましたよ。だったら初撃を躱して動き封じてボコボコにしてやろうぜーって、ヨーギラスと事前に打ち合わせしたんです。後は最初の作戦が失敗した時の次善策も4つくらい考えましたね」
それ以降、ダイチはその頭角を現し始めた。生徒間でもポケモンバトルでは負け知らず……それどころか一方的な残虐ファイトに生徒たちはダイチとバトルをするのを嫌がり、校内では教師しかダイチの相手は務まらないほどだ。
必然的に自分よりも実力が上の相手ばかりを相手にするダイチはますます生徒では手が付けられないほどに成長した。基本的にトレーナーは攻撃に対して「躱せ!」や「受け止めろ!」、攻撃の際にも「回り込んで~」や「○○の顔に~」といった指示したりするが、ダイチはそれをしない。
「いや、ヨーギラスも自分で考えて動きますし、それを外野からあれこれ指示出してたら動きが鈍るでしょ。必要な時だけ指示出せばいいかなって思ってます」
この言葉に、ヒナコはダイチとヨーギラスの間にある深い絆を見た。バトルはポケモンの能力とトレーナーの指示が基本だ。それをポケモン自身に状況に合わせた動きを任せ、指示を出すことによって発生するロスタイムを無くすなど、ポケモンを信じ切らなければできない方法。
トレーナーの歴史上類を見ない戦い方をする10歳児、その上学問の覚えも人一倍早く、何百通りもあるタイプ相性もすべて暗記しているという。この話を聞いた校長は、「これは我が校始まって以来の育成の天才が現れたのかもしれない」と強い関心を示したほどだ。
いまではバトルの実習教師から非公認で英才教育を受けているダイチ。戦えば戦うほど力を身に付けている彼とそのポケモンの姿に、ヒナコは彼らが何時の日かポケモンリーグの頂点に立つ光景を幻視した。