ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
三つの時代が交わる時、世界はワタシ達の想いとは違った一面を見せる
それは不思議な、不思議な『世界』を巡る物語――
二つの星
唯城恭夜(ゆいしろ きょうや)は病院を訪れている。母親を見舞うためだ。日本にいる時は一週間に二回、見舞いに来ている。
恭夜「母さん、具合はどう?」
長年の入院生活の疲労からだろうか。
顔色が悪い。
母「変わらないわ。サリーは元気?」
恭夜「元気だよ」
母「あんまり無理させちゃ駄目よ」
サリーは五才の時、唯城夫婦に引き取られた。血の繋がりはないが恭夜にとっては家族同然だ。
母「恭夜は思い出したくないかもしれないけど、七年前に飛行機事故があったじゃない?」
恭夜「俺とサリーの目の前で起きた事故のこと?」
母「そう」
七年前、唯城親子が乗る予定だった旅客機が爆発炎上。乗組員と乗客全員が死亡した事故である。
恭夜「あの時、サリーが寝坊しなかったら……」
母「飛行機事故に巻き込まれずにすんだのは奇跡だと思っているの。だから……」
恭夜「母さんは俺達だけ助かったことに罪悪感を感じてるの?」
母「それは――」
恭夜「もしかして、あの飛行機事故で親を失った人がいたらとか考えてる?」
母「恐ろしい子ね。誰に似たのかしら」
恭夜「サリーが同じこと言ってたよ」
母「あら、サリーが私に似たのね。フフフ」
恭夜「俺だって出来ることがあるならなんでもするよ」
母「じゃあ恭夜にお願いするわ」
恭夜「何?」
母「あの飛行機事故の犠牲者に私の知り合いの星宮(ほしみや)夫妻が乗っていたの」
星宮夫妻はアンドロイド研究に携わっていた。唯城夫妻は研究仲間であった。
恭夜「確かアンドロイドの設計をしてたって聞いたことがあったような――」
母「そうよ。それに星宮夫妻には子供がいるの。その子達のね面倒を見てあげてほしいの」
恭夜「サリーが喜びそうな話だけど、日本に住んでるの?」
母「ええ。ここから二時間くらいかしら――」
その日の夜、ホテルに帰った恭夜はサリーに伝えた。既に身支度は終えている。
母親が体調を崩し入院してから二人だけのホテル暮らしが始まった。収入の多くはサリーが賄っている。恭夜は仕事の出来ない母親の介助をしているのだ。
サリー「これから海外を回るというのに何故このタイミングなんだ!」
恭夜「悪かったよ。でも一緒にいたって俺はサリーの役に立てないし」
サリー「そういうことじゃない!私はただ……」
恭夜「もう耐えられないよ。サリーが見ず知らずの男達に媚びを売ってる姿をただ見ているだけなんて」
サリー「媚びを売ってるつもりはない。私は少しでも楽な生活をさせたいだけだ」
恭夜「やっぱり俺は役立たずだ」
サリー「恭夜を一人にしたくない」
恭夜「自分が一人になりたいだけだろッ!」
二人は初めて口喧嘩をした。
朝、恭夜はサリーを空港まで見送るためタクシーに乗った。サリーは冬景色を眺める恭夜に語りかけている。
サリー「帰ってきたら桜を見たいなぁ」
恭夜は目を瞑っている。
サリー「そもそも恭夜は星宮兄妹の面倒をちゃんと見れるのか?」
恭夜はあくびをした。気まずい空気の車内に運転手は何度もルームミラーを見ている。
サリー「私がいなければ何も出来ないくせに」
空港に着いても恭夜は目を合わせようとしない。
サリー「お母様の事、頼んだ」
恭夜はそのままタクシーで星宮兄妹の元に向かう。着いた先は少し古臭い二階建てのアパートだ。二階の端に住んでいると聞いていた。一軒ずつ表札を確認する。
恭夜「会うのはいつぶりだ?なんか緊張するなぁ」
恭夜「ここだな……あれ?インターフォンないじゃん」
ノックしようとした瞬間、勢いよく扉が開いた。
恭夜「――いってぇぇぇ!」
ゴンという音が扉を伝う。
隆太「いつも言ってるでしょ!人がいると思って扉は開けないと駄目だって!」
あかり「ご、ごめんなさい!ついいつもの癖が出ちゃって……ああ!隆太お兄ちゃん、来て来て!」
隆太「ごめんなさい、手は大丈夫ですか?」
恭夜「だ、大丈夫だよ。それより君達が星宮兄妹?」
あかり「そうだけど……」
隆太「あっ!もしかして唯城恭夜さんですか?」
恭夜「今日から君達の面倒を見に来ようと思ってるんだ」
あかり「あれぇ?もう一人はどこにいるの?」
恭夜「サリーは仕事で来れないから今度紹介するよ」
隆太「立ち話すると隣の人に怒られちゃうので中に入って下さい」
星宮兄妹の部屋は二人で住むには申し分ないくらいの広さだ。誰が買い与えたのか分からないが、家具家電などの必需品は取り揃えられている。
恭夜「え~と、改めまして唯城恭夜と申します。ふつつかものですが何とぞよろしくお願い致します」
隆太「あはは、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。足も崩してもらって構いません」
あかり「そうだよ。これから一緒に暮らすんだから」
恭夜はそわそわしている。いつもならサリーが場を和ませてくれるのだが、今回ばかりはそうは言っていられない。
あかり「あたしは星宮あかり、高校一年生だよ。こっちは隆太(りゅうた)お兄ちゃん、我が家の家政婦――だよね?」
隆太「家政婦って……そんなことより僕達、双子なんですよ。知ってました?」
恭夜「兄妹としか聞いてなかったよ。ウーン、確かに髪型と服装を入れ替えても見分けられないかも」
あかりは高校に通っているとは思えないくらいあどけなさを感じさせた。隆太はあかりのために家事とアルバイトの毎日を送っている。
あかり「もうすぐお昼だね。ご飯食べよう!恭夜お兄ちゃん!」
恭夜は心臓が高鳴るのを感じ顔を赤らめた。
隆太「それじゃあ、あかりも手伝って。兄さんはゆっくりしてて下さいね」
恭夜「隆太はしっかりしてるなぁ」
その日から三人の生活が始まった。徐々によそよそしさもなくなり、本当の兄妹のような感情が三人の中に自然と芽生えていく。
唯城恭夜(ゆいしろきょうや)―男・18歳
本作の主人公。
諸事情からサリーと共に世界を旅していた。
過去に二度死にかけている。
学校に通ったことがないが、しっかり者のサリーの指導によって平均的な学力を有する。
得意科目は日本史。
運動神経は中の上。
趣味はサッカー、利き足は右足。
嫌いなものは強面の人、華やかな場所。