ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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夢現(ゆめうつつ)

出発の日、六人は港に向かう。朝九時に到着すると、あかりと隆太は目を丸くした。

月並の人間を寄せ付けんと言わんばかりの風格と海の神をも怖じ気づくような重厚感を兼ね備えたクルーズ船が現れたからだ。恭夜も予想以上の大迫力に目が釘付けになる。ゲルマは大袈裟かつ不可解な挙動で周囲を釘付けにする。サリーとルナは意に介さず歩き始める。

周りの淑女はきらびやかな宝石を身に纏い華やかなドレスで着飾る。紳士は色とりどりに仕立てのよいスーツで装う。絢爛豪華な佇まいが六人を圧倒した。

恭夜は辺りを見渡す。目元を掻きながら腑に落ちない様子を隠そうともしない。

 

ゲルマ「ちょいとマスター、あまりジロジロ見るのはおよし。貧乏人だと思われるわ」

 

恭夜「そんなこと壊滅的な服のセンスをしている奴に言われたくねぇよ」

 

ゲルマは悲哀に満ちた表情をする。深く傷ついたと言うように胸部を押さえた。

六人はボーディングブリッジを通り乗船する。船内に入るとその光景に驚嘆の言葉を発した。

 

隆太「広いね……」

 

あかり「うん、迷子になっちゃうかも」

 

ゲルマ「これは壮観なり」

 

ルナは歩き回っている。

 

恭夜「船なんていつぶりだ?――サリー?」

 

サリー「荷物を置いてくる……うっ!」

 

あかり「サリーお姉ちゃん、どうしたの?」

 

隆太「船酔いでしょうか?お薬持っていきますね」

 

恭夜「まだ動いてないんだけどな」

 

ゲルマ「はっ!ここは海の上。万が一海に落とされたりしたら……おのれぇ、してやられたり!」

 

あかり「ゲルマお兄ちゃん、なんかぶつぶつ言ってる」

 

恭夜「しっ!見ちゃ駄目!」

 

ルナ「恭夜、サリーは?」

 

恭夜「船酔いだよ。いつものことだから」

 

ルナ「じゃあ、一緒に見て回ろう?」

 

恭夜「じゃあ?」

 

あかり「ルナお姉ちゃんって小悪魔だよね」

 

ゲルマ「ならば空気を読んで、二人っきりしてあげるのも大人のマナーではないかな?」

 

恭夜「変質者みたいな喋り方だな」

 

あかり「ゲルマお兄ちゃん、誰に向かって言ってるの?」

 

ゲルマ「うわっ!目、恐っ!」

 

ルナ「あかりも一緒に行こ?」

 

あかり「あたしはゲルマお兄ちゃんと回るから!行こ、ゲルマお兄ちゃん」

 

ゲルマはあかりに首根っこを掴まれ引き摺られていく。拍子に素っ頓狂な声を出し恭夜を脱力させた。

 

ルナ「ふふふ。ゲルマ、面白い」

 

サリーは隆太の肩を借り客室に向かう。船内は隆太にとって広すぎる。サリーが方向指差しながら廊下をゆっくりと歩く。十分ぐらい歩き客室の番号が見えた。二重の鍵を解除しドアを開ける。

広い。とにかく広い。どうやらスイートルームのようだ。隆太はサリーをベッドの上に座らせた。

 

隆太「サリーさん、大丈夫ですか?」

 

サリー「あ、ああ……少し」

 

隆太「飲み物持ってきますね」

 

サリー「私のことは気にするな。いつもこの調子なんだ」

 

隆太「飛行機でも良かったんですよ」

 

サリー「船の方が都合がいいと思ったからだ」

 

隆太「もしかして兄さんは飛行機が苦手なんですか?」

 

サリー「苦手だが乗れないわけではない」

 

隆太「わかりました。皆さん、泳ぎが得意なんですね」

 

サリー「そうだ。船が沈んだとしても私と恭夜は泳げる。それにあかりと隆太、そしてルナが溺れても助けられる。だが、ゲルマは修理しなければならないから――」

 

隆太「え?い、いや、あのぉ……」

 

サリー「ゲルマには申し訳ないと思っている」

 

隆太「それってただゲルマさんが嫌いなだけじゃ……」

 

サリー「なんだ、まだ時間があるな」

 

隆太「そうだ!せっかくなんでサリーさんと兄さんの思い出を聞かせてください!」

 

サリー「なに?昔話が聞きたいだと?仕方がない――」

 

サリーは腕を組み誇らしげに語り出した。

デッキには二人の男女が語らう。海は透き通り、さざ波が耳に心地よい。青空を飛び交うカモメ達の声は二人を歓迎しているようだ。

ルナ「恭夜は泳げる?」

 

恭夜「泳げるけど、あの時は溺れたんだよなぁ」

 

ルナ「覚えてる」

 

恭夜「忘れてよ」

 

ルナ「どうして?」

 

恭夜「恥ずかしいから」

 

ルナ「私は恭夜を助けるのに夢中だった」

 

恭夜「うん」

 

ルナ「もしサリーが溺れたら恭夜も私と同じ事する?」

 

恭夜「するんじゃない?」

 

ルナ「あかりと隆太でも?」

 

恭夜「誰が同じ目にあっても俺はルナがしてくれたことをするよ」

 

ルナ「ゲルマは?」

 

恭夜「助けない」

 

ルナ「どうして?」

 

恭夜「壊れるから」

 

ルナ「ゲルマも私達と同じ」

 

恭夜「どうしてルナはゲルマに肩入れするの?あんな酷い目にあったのに」

 

ルナ「ゲルマも私と同じ。ずっと孤独だった。だから分かり合えた。でも今は一人じゃないから」

 

恭夜「ゲルマがまた暴走したら?」

 

ルナ「させない」

 

恭夜「ルナが傷つくよ」

 

ルナ「それでもいい」

 

恭夜「あかりと隆太も傷つけたら?」

 

ルナ「あかりと隆太も私が守る」

 

恭夜「俺には分かんないよ……」

 

ルナ「恭夜とサリーも私が守る」

 

クルーズ船は大海原へ向けて出港した。

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