ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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ムーンライト・セレナーデ

ドラジェは突然の来訪者を前に唖然としている。

 

ルナ「ゲルマ、お帰り」

 

ゲルマ「帰りが遅いから心配したんだぞ――!?」

 

足元には瀕死の恭夜がうつ伏で倒れている。ゲルマは顔色一つ変えない。

 

ルナ「ごめんなさい」

 

ドラジェ「まさか!?君がゲルマなのかい?君から会いに来てくれるなんて手間が省けたよ」

 

ゲルマ「サリーは取引したと聞いていたが――」

 

ドラジェ「そうなんだよ。ゲルマが僕の手駒になってくれればこの取引が成立するんだ。まぁ、その男が死んだのは気の毒だったね」

 

ゲルマ「契約違反だ。取引は皆の命は保護するというものだったはず」

 

ドラジェ「それは君の仲間が勝手に……それにどうして僕達しか知りえない情報を君が――」

 

ゲルマ「男に不義理は許されん!」

 

ドラジェ「ちょっ、ちょっと待ってくれ!僕の話を――」

 

ゲルマ「問答無用!マスターの仇だ!甘んじて受けよッ!!」

 

ドラジェ「ゲ、ゲルマ!?落ち着いてくれ!僕に何かあれば君達の仲間が不幸を見る事になるよ!」

 

ゲルマ「どんな困難があろうとも家族の絆で乗り越えてみせる!騎士の誇りにかけて貴様の首、もらい受ける!」

 

ドラジェ「頼む!待ってくれ!知っていることは何でも話す!その女の無実を晴らす弁護士も紹介する!だから――」

 

ゲルマ「我が拳は悪しき魂を打ち砕く!その薄汚れた襟を正してやる!」

 

ゲルマの二つの拳をドラジェに向けた。発射された拳は弾丸のように風を切っていく。

 

ドラジェ「――うゎぁぁぁ!?」

 

拳はドラジェの顔を掠めへたりこむ。拍子にボタンが外れた。

 

ゲルマ「さて、退散するか」

 

ルナ「サリー、どうしよう」

 

ゲルマ「マスターとサリーは引き受ける。ルナは外で待ってくれ」

 

ルナ「うん」

 

ルナは颯爽と船外に飛び降りる。ゲルマは恭夜と憔悴しきっているサリーを両脇に抱え飛び降りた。

サリーはゲルマの腕を振りほどき恭夜の元に駆け寄る。力強く抱き寄せた。

 

ルナ「恭夜、大丈夫?」

 

ゲルマは傷の状態を分析してる。目玉がカメラのフォーカスを合わせるように上下左右に動いた。ところが、調べれば調べるほど真剣だった表情は驚きにも似た表情へと変わっていく。

それは良い意味でゲルマの期待を裏切ったのかもしれない。

 

サリー「恭夜……すまない……私が勝手な事をしたせいで……」

 

ルナ「ごめんなさい」

 

サリーが強く抱き寄せているせいか恭夜は小さく息を吐いた。ルナはサリーの刀を抱き抱えている。

ゲルマはサリーの刀を見ている。刀が光っていることを不思議に思っているようだ。空を訝しげに見上げた。

 

恭夜「サリー……苦しい……」

 

サリー「恭夜、生きてるのか?」

 

恭夜「今日も……綺麗だ」

 

意識を取り戻し恭夜は夜空を指差す。サリーに向けられたものなのか、満月に向けられたものかは誰にも分からない。

 

ルナ「ほんとだ」

 

ゲルマはほくそ笑んでいる。

 

サリー「恭夜、私の好きなもの知ってるか?」

 

恭夜「知ってる」

 

サリー「私は恭夜の女神になりたい」

 

恭夜「まだ覚えてるんだ」

 

サリー「忘れたのか?」

 

恭夜「意識がはっきりしないからなぁ……」

 

サリー「なら思い出すまで何度も言ってやる。私は恭夜の女神になりたーい」

 

ルナ「ふふふ」

 

ゲルマは二人の会話に恥ずかしさを感じたのか腕を組み黙りこんでしまった。空気を読んでいると言った方が正しいのかもしれない。時折見せる眼差しはどこか羨望を感じさせる。

 

恭夜「ハハハ、バカみてぇ」

 

地面に月明かりに照らされた人影が伸びる。

 

ドラジェ「サリー嬢!聞いてくれ!」

 

ゲルマ「まだいたのか」

 

ルナ「汚い家」

 

恭夜は半身を起こし傷口を押さえた。

意識を取り戻した恭夜を祝福するようにサリーの刀が明滅する。

 

ドラジェ「僕が三年前、君に一目惚れしたんだ!この気持ちは本気なんだ!もう一度チャンスを与えてくれないか?」

 

ゲルマ「見据えた根性だ。もはや称賛に値する」

 

サリー「ルナ、刀を持ってきてくれてありがとう」

 

ルナ「刀がサリーを呼んでたから」

 

サリーに刀を返した。

 

ドラジェ「僕も脅されていたんだ!ルナ・ホワイトクロス、君を探す男に!」

 

サリーは髪を結い直した。ルナは不快な表情をしている。

 

ドラジェ「よく回る舌に手のひら返し。情報屋よりナンパ師に向いている」

 

ドラジェ「サリー嬢、僕と結婚して欲しい!僕はそこにいる死に損ないの男よりも君を幸せにできる!それに僕は世界中で一番君を――」

 

サリー「言うな!」

 

ドラジェ「ヒッ!?」

 

サリーの気迫はその場にいる人間全てを萎縮させる。武人の如し立ち姿はまさに圧巻だ。

 

サリー「それ以上は言うに及びません」

 

ドラジェ「サ、サリー嬢?」

 

サリー「私は既に心に決めた人がいます。もうあなたに会うことは二度とないでしょう」

 

ドラジェ「そ、そんな……」

 

サリー「月は――出ているな?」

 

剣先を満月に突き立てた。刀身は光を吸収し更に神々しさを増していく。

 

ドラジェ「僕はぁぁぁ……世界中のぉぉぉ……」

 

サリー「ゾルギーノ・ドラジェ様。あなたには私と恭夜が大変お世話になりました。これは私達の感謝の気持ちです」

 

ドラジェ「女をぉぉぉ……手にいれるんだぁぁぁ……」

 

サリー「その首――捻斬(ねじき)る!」

 

刀身は船体に向かって伸びていく。サリーは全てを吹っ切るように「リーク・ゾルガ」を両断した。

ドラジェに断末魔を上げる時間は残されていなかった。真っ二つにされた船体は爆発。クルーズ船は業火と灰塵に包み込まれ残骸は深海へと消え去った。飛び散ったガラスの破片は月に照らされ水晶のように煌めく。

サリーは満月をその目に焼きつけると意識を失った。

 

ルナ「サリー!」

 

ゲルマ「疲れているだけだ。騒ぎが大きくなる前に逃げるぞ。あかりや隆太も待ちくたびれているだろうからな」

 

四人は事が大きくなる前に走り去った。




登場人物紹介

ゾルギーノ・ドラジェ―男・29歳
情報屋を自称する通称「リーク・ゾルガ」。
お坊ちゃんでイケメン。
ボタンをかけ違える斬新なファッションのパイオニア。
ビジネスと聞けばどこでも現れる盗聴マニア。
ホテルやクルーズ船は彼の庭。
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