ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
一同は慌ただしくホテルを出る。行く宛もないまま鉄橋に差し掛かった。朝早く出たからか車の交通量は目に見えて少ない。
あかりと隆太は目をこすっている。朝に強い隆太はすぐに目をキリッとさせるが、あかりは目を充血させ鼻をすすっている。
隆太「兄さん達、酷いです。夕食をすっぽかした挙げ句、朝食を食べたらすぐにチェックアウトするなんて――ふわぁ」
ゲルマ「全ての責任はサリーにある」
サリー「すまない。二人にも迷惑をかけてしまった」
ルナ「恭夜、お腹大丈夫?」
恭夜「へーきへーき。傷も完全に塞がったし」
サリー「あの深傷で塞がるだと!私は夢でも見ていたのか?」
ゲルマ「サリーも知らないのか。不思議なものだ」
あかり「サリーお姉ちゃん……」
あかりはか細い声でサリーに呼び掛ける。甘えるように抱きついた。
サリー「あかり、ごめん。ちゃんと話をしていれば――」
あかり「あたしが何も知ろうとしなかった。だからサリーお姉ちゃんがいなくなるなんて思わなかったの。うっ……ごめんね……グスッ」
サリー「謝るな。泣くな。私が大事なものを見落としていたのだ。いつも目の前で笑いかけてくれていたのに」
隆太「あかり、また泣いちゃったね」
あかり「だって……だって……」
恭夜「あかりは昨日からずっと泣いてたのか」
隆太「そういえば僕達が降りた港で船の爆発事故があったみたいですね。まさに不幸中の幸いです」
ゲルマ「船が真っ二つになって……あいや、これは失敬」
恭夜「へぇ、詳しいな。俺は夢だと思ったんだけど」
ルナ「綺麗な満月だったね」
サリー「フッ……」
隆太「何か皆さん、僕達に隠し事してません?」
あかり「あたしはわかるよ」
隆太「何であかりが?」
ゲルマ「女の勘は愛する男の不貞を見抜く」
恭夜「要するに浮気はするなってことか」
あかり「恭夜お兄ちゃんが浮気したの?」
サリー「話がすり変わっている」
ルナ「サリーが浮気した」
隆太「サリーさんの家出って、知らない男との密会だったって事ですか?見損ないましたよ!」
ゲルマ「サリーは愛する男を振り向かせるために別の男と浮き名を流していたのだ。おいたわしや」
サリー「何故そうなる。昨日の私はどうかしていたのだ。そもそもあの男は私のタイプではない」
ゲルマ「だそうだ」
あかり「サリーお姉ちゃんには合わないと、あたしは最初から思ってたもん」
ルナ「あかり、可愛い」
隆太「僕は昨日の兄さんの背中を見てカッコいいと思ったんだ」
恭夜「けど、俺は何も出来なかった。全部ルナとゲルマのお陰だよ」
ルナ「そんなことない」
ゲルマ「マスターは命をかけてサリーを説得し愛の力で乗り越えたではないか。それでも二人の愛の囁きあいは胸を熱くさせるものがある」
サリーの顔がみるみる赤みを帯びていく。ゲルマは恭夜から肘打ちを食らうがうつつを抜かしている。
あかり「ゲルマお兄ちゃん、余計なお世話だと思うよ」
隆太「そうですよ。さすがにゲスです」
恭夜「よし。この話はこれで――」
ルナ「私は恭夜の女神になりたい」
恭夜「あはは……」
サリー「お、おい!ルナ!その言葉は!――」
あかり「あたしも恭夜お兄ちゃん達の天使になりたい!」
恭夜「新しいパターンだ」
ゲルマ「それでマスター、何と答えたのだろうか?」
隆太「あのぉ、話が見えないんですが」
サリー「もう昔のことだ。恭夜が覚えてるはずが――」
ルナ「サリーはずっと恭夜のそばにいた」
あかり「こんなこと言われて覚えてないわけないよ」
ゲルマ「マスターの記憶力を侮ることなかれ」
隆太「なんだか良くわかりませんが、凄くドキドキします!」
恭夜は五歩踏み出した後、皆に背を向け数秒の沈黙。
そして振り返った。
恭夜「――なれるもんならなってよ」
隆太とゲルマは恥ずかしげもなく言い放つ恭夜に悲鳴にも似た奇声をあげた。
サリーは溢れる記憶が心に染み入ったのか清々しい表情をしている。
ルナ「うん!」
あかり「あたし、絶対になる!」
サリー「覚えていてくれたのか。あの日の事を」
恭夜「それで?次はどこに行く?」
ルナ「私もみんなと思い出作りたい」
?「では次の行き先はワタクシがご案内致しましょう」
一同は声のする方に体を向けた。
ルナ「!!」
シェリーヌ「皆様方のお迎えに参りました。ワタクシはルナお嬢様の世話係をしております。シェリーヌ・カルピンスキーと申します」