ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
一同はパリの町をひたすら歩き回っていた。理由はゲルマが外に出てから一言も言葉を発することもなく、先頭を歩き続けているからだ。ルナが問いかけても返事をしない。小一時間歩き続けピタッと足を止めた。
目の前は美術館のようだ。
恭夜「てめぇいい加減にしろよ!さっきから無視しやがって!」
隆太「足が痛い」
あかり「お腹すいた」
ルナ「ゲルマ、どうしたの?」
サリー「返答次第では海に沈める」
ゲルマ「……ああ、すまん。少し考えていた」
ルナ「何を?」
ゲルマ「昔の事、いやオレの過去と言うべきか」
恭夜「今なんて言った?」
隆太「『オレ』って言いましたよね?」
あかり「そこじゃないと思うよ」
サリー「馬鹿馬鹿しい。ゲルマの過去だと?最近のアンドロイドは寝言まで言うのか」
ルナ「違う。ゲルマは悩んでる」
ゲルマ「悪いが一人にしてもらえないだろうか?」
恭夜「出来るわけねぇだろ」
サリー「暴走したら誰が止める?」
ルナ「私が止める」
隆太「それじゃあ一人になれないですよ」
あかり「見張ってればいいんじゃない?」
ゲルマ「一人と言っても気分を変えたいだけだ。ついてきても構わない。そこの美術館を見て回るだけだ」
ルナ「私はゲルマについていく」
サリー「私は行かないからな」
あかり「あたしも絵はわかんないから行かない」
隆太「僕はルナさんについていきます」
恭夜「なんだよ、別行動かよ」
サリー「恭夜はゲルマを見張っててくれ。今の私ではゲルマを止めることが出来ない」
恭夜「わかったよ――って、おい!置いて行くな!」
ゲルマ組は既に美術館へ歩き出していた。慌てて恭夜は追いかける。
サリーとあかりは反対側へ歩き出した。
歩道は様々な国籍の人々が行きかっている。あかりは異国の光景に馴染めないようだ。無意識にサリーの腕に抱きつく。
あかり「どこ行くの?」
サリー「お腹が空いているんだろ?何食べたい?」
あかり「ラーメン」
サリー「ここはフランスだぞ。パンとかどうだ?」
あかり「うん」
二人はお洒落な外観のお店に入った。あかりの表情に活気が戻る。目の色を変えあれこれとパンを選んでいく。あまりの落ち着きのなさにサリーが注意するが反省する気配は微塵もなかった。
会計済ませ外に出ると同時に、あかりは茶色の紙袋から目当てのモノを取り出し頬張り始める。一時間以上歩いていたとは思えないほどだ。サリーはその姿に呆れつつ、自らも食べ始めた。
公園のベンチに腰を下ろし、足の疲れを癒す。
あかり「どうしてお洒落なお店で食べないの?」
サリー「もう食べ終わってるじゃないか」
あかり「そういう意味じゃないよ。あーあ、外国に来たらお洒落なお洋服を見に行ったり、カフェとかに行こうと思ってたのに」
サリー「今から行くか?」
あかり「もういいよ。歩くの疲れちゃったし」
サリー「一眠りしたいな」
あかり「ねぇ、あたしだからお店で食べたくないんでしょ?」
サリー「どうしてそんなことする必要がある?」
あかり「恭夜お兄ちゃんだったら?」
サリー「ふわぁ……」
あかり「ねぇねぇ、寝たフリしないで答えてよ」
サリー「恭夜は一人でお店に入れない」
あかり「ホントに?」
サリー「ああ。だから私がいつもついて行ってたんだ」
あかり「逆じゃないの?」
サリー「私は一人でも百人でもお店に入れる」
あかり「恭夜お兄ちゃん、人混みが苦手なんだね」
サリー「正直、私もあまり好きじゃない」
あかり「嘘つき」
サリー「本音と建前だよ。あかりには難しいかな」
あかり「あの絵、綺麗だったね」
サリー「急になんだ。気持ち悪い」
あかり「あの絵の女の人って女神なんでしょ?」
サリー「そうだ」
あかり「あたしだけかもしれないけど、サリーお姉ちゃんに似てると思うんだよね」
サリー「媚を売るな。気持ち悪い」
あかり「ああ!二度も言った!隆太お兄ちゃんにも言われたことないのに!」
サリー「確かに隆太に言われるとへこむな」
あかり「ルナお姉ちゃんにも似てる……かな?」
サリー「昔の絵に似てると言われて嬉しいとは思わないな」
あかり「ふーん、でも恭夜お兄ちゃんの女神になるんでしょ?」
サリー「な、何の話だ!」
あかり「どうしたらそんな恥ずかしい言葉が出るのか教えてー」
サリー「あ、あれはルナが勝手に作ったんだ!」
あかり「そんな顔を真っ赤にしながら言わなくてもいいのに」
サリー「あーあ!私も美術館に行けば良かったな!」
あかり「恭夜お兄ちゃんがいるからね!」
サリー「ぐぬぬ……」
あかり「じゃあさぁ恭夜お兄ちゃんとのナレソメってやつ、聞かせてよ」
サリー「昔話を聞きたい?仕方ない。そうだな、まず私と恭夜の出会いは――」
あかり「否定しろよー」
二人は人目を憚らず昔話に花を咲かせる。
美術館では色とりどりの花が咲いた絵画に人だかりが出来ていた。ゲルマ達は人だかりを遠巻きにし別の絵の前に立ち止まる。
隆太「ルナさん、この絵凄い綺麗ですよ」
ルナ「よくわからない」
恭夜「隆太、無理すんなよ」
隆太「兄さんは何もわかってない。女性の気持ちを理解してない」
恭夜「いや、ルナもわからないって言ってるし」
?「全くだ」
ルナ「今、ゲルマが言ったの?」
ゲルマは美術館に入ってから一言も言葉を発していない。謎の声がしてから柑橘系の香りが館内に充満している。
隆太「この美術館の絵って喋るんですね。まさに現代美術って感じです」
恭夜「なんだそりゃ」
ゲルマ「お会いできて光栄だ」
ルナ「今度はゲルマが喋った」
隆太「ゲルマさんの知り合いでもいるんですか?」
恭夜「それにしても結構臭うな。誰だよ香水つけてるの」
カイン「キミはさっきから何を言っているんだ?非常に興味深い仮面を身につけているが……」
ルナ「だれ?」
隆太「うーん、どこかで会いました?」
カイン「昨夜はエクレアを食べていたんだ」
恭夜「カインなのかよ……」
隆太「えぇぇぇ!仮面を取るとこんなカッコいいんですか!俳優さんみたいです!」
ルナ「しっ!」
隆太「ご、ごめんなさい……」
カイン「庶民は鑑賞マナーも守れないのか?そもそも庶民に絵の価値が理解出来るとは思えないが……」
恭夜「絵の価値が分かるのは時間を持て余した人間だけだ」
ゲルマ「何?」
恭夜「ってサリーがよく言ってたな」
カイン「ライナも似たような事を……」
ルナ「恭夜はサリーと来たことあるの?」
恭夜「サリーがあの女神の絵を見たいってよく美術館に来てたよ。本当は人の多い場所が苦手でサリーに気をつかわせてただけなんだけどさ」
ゲルマ「カイン、いやデュルファン・ディ・カイン」
カイン「……」
ゲルマ「教えてくれ、全ての歴史を」
カイン「友人を疑うのはボクの性分ではないが、それでも今一度確かめなければならない。キミは本当にゲルマなのか?」
ゲルマ「完全ではないが、おおよそ思い出した」
隆太「何を思い出したんですか?」
ゲルマ「記憶だ」
ルナ「記憶?」
恭夜「ちょっと待て。いきなり記憶とか言われても誰が信じるんだ?」
カイン「ボクが証明するよ。この時代に生きる、まさに生き証人としてね」
ルナ「ゲルマ?」
ゲルマ「オレはこの時代の人間ではない」
隆太「えーと、どういう意味でしょうか?」
カイン「話が長くなるが、キミ達には知ってもらわなければいけない。ボク達が歩んできた激動の時代を――」
カインの言葉はその場にいた人間達全ての耳を傾けさせた。