ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
サリー「遅れてすまない。今日はかなり立て込んでいて――」
恭夜「……」
サリー「これは恭夜の分だ。お腹空いてるだろ?中身はオムライスだ」
恭夜「うん……」
サリー「どうした?気分でも悪いのか?」
恭夜「そうじゃないけどさぁ……」
サリー「言いたいことははっきりいってくれ。お母様に心配をかけたくないんだ」
恭夜「その変な喋り方って、何?」
サリー「……テレビの影響を受けたんだ」
恭夜「テレビ?日本の?」
サリー「時代劇を見ていたらこうなっていたんだ。仕方ないだろ。こういう話し方をすれば男は近寄ってこない。それに――」
恭夜「時代劇でそんな話し方する人いるの?それにしても自覚はあるんだ。モテモテだもんね」
サリー「そんな事どうでもいい。それより寒いだろ?ホテルに戻ろう」
恭夜「さっきお母さんに電話したんだ」
サリー「お母様は元気だったか?」
恭夜「いつもと同じ。掠れた声でサリーに心配をかけるなって言われた」
サリー「そうか。お母様が元気そうで良かった」
恭夜「ズルいよ。みんなしてサリーサリーってさ」
サリー「妬んでいるのか?」
恭夜「違う」
サリー「私はいつでも恭夜の味方だ。側にいれないお母様の代わりに私がいつでも恭夜の側にいる。これじゃダメか?」
恭夜「俺が言ってるのはそうじゃなくて……」
サリー「私には本当の両親がいないから恭夜の気持ちを全て理解出来ないかもしれない。けど私は少しでも恭夜の力になりたいという気持ちは昔も今も変わらない」
恭夜「俺がサリーの側にいても役に立てない。サリーが稼いだお金をドブに捨ててるんだ。俺みたいな役立たずが」
サリー「恭夜はまだ一四才だ。働ける年齢じゃない。今は甘えてくれていい」
恭夜「サリーはやっぱり何もわかってないよ。これなら一人になった方が楽だ。お母さんは病気で外に出られないし、サリーは仕事の都合で海外を飛び回らないと行けないし、俺なんか――」
サリー「私は嫌だ。一人にはもうなりたくない。だから――」
恭夜「サリーが俺のこと嫌いなら離れ離れになってもいい。あのお金持ちの人ならきっとサリーを幸せにしてくれるよ」
サリー「私が欲しいのはお金じゃない!」
恭夜「俺にはそうにしか見えないんだよ!御曹司とかいう人たちに笑顔を振りまいてさ!俺と話す時と違って男みたいな喋り方なんてしないクセに!」
サリー「恭夜……違うんだ……」
恭夜「聞きたくない!もう一人にしてよ!」
サリー「待ってくれ!私が欲しいのは時間なんだ!」
恭夜「……」
サリー「私が富や権力を持つものたちに近づくのは仕事を貰うためだ。でないと私たちは今よりももっと貧しい生活を送ることになってしまう」
恭夜「やっぱり……」
サリー「今はそう見えるかもしれない。けど恭夜にもドレスや化粧で取り繕った私を見てほしんだ。その為にいつもついてきてもらっているんだ」
恭夜「えっ……」
サリー「他の男たちに見せている顔は私の作り笑顔。前にも言っただろ?私の夢は女優になることだ。全部演技なんだ」
恭夜「で、でも……」
サリー「それに恭夜が私の視界に入らないと不安になる。だから、今は辛いかもしれない。それは謝る」
恭夜「な、なんだよ……そんなこと言われたって……」
サリー「綺麗な満月だな」
恭夜「急に話を変えるな!」
サリー「フッ、私の好きなもの知ってるか?」
恭夜「満月でしょ……」
サリー「ああ、世界を回っていても満月はいつも同じ姿を露にしてくれるんだ。まるで女優がどんな地味な役でも華やかな役でもいとも簡単にこなす、そんな風にだ」
恭夜「じゃあさ、俺の前でもやってみてよ」
サリー「ん?」
恭夜「あれだよ、あれ。サリーの大好きな絵画を一緒に観賞した時に言ってたじゃん」
サリー「!!!」
恭夜「おかしいなぁ。そんな顔真っ赤にしてたっけ?」
サリー「あ、あ、あれは……言葉の綾だ!本当は『女神になりたい』と言いたかったんだッ!」
恭夜「言葉の綾?なんだいつもの冗談かぁ。あ~あ、ガッカリ」
サリー「ガッカリ?恭夜は本気にしたのか?」
恭夜「そりゃあ嬉しかったよ。あんなこと言われたら誰だって嬉しいと思うけど」
サリー「……」
恭夜「でも、女神の絵画を見てあんな言葉が出てくるなんて――」
サリー「わかった」
恭夜「えっ?」
サリー「もし恭夜が本気にしてくれるなら私の気持ちを受け取ってほしい」
恭夜「そ、そんな真面目な顔したって俺はもう騙されないから!」
サリー「私は……私は恭夜の女神になりたい」
恭夜「!?」
サリー「……」
恭夜「あはは、何言ってんだか……」
サリー「帰ろう。手がかじかんできた」
恭夜「……」
サリー「いつものように手を握ってくれ」
恭夜「な……」
サリー「何だ?」
恭夜「なれるもんならなってよっ!」