ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
円形闘技場周辺は昼過ぎにも関わらず、人の気配もそこにいた形跡もない。まるで円形闘技場だけ異世界に飛ばされでもしたかのような人里から隔絶された空間を創出している。
腰まで伸びるポニーテールをなびかせ常に持ち歩いている愛刀から水が滴り落ちる。自我と理性を失い機械に心を取り込まれた傭兵の眼球は青い光を帯びる。
鋼鉄の檻に二つの星。つまりあかりと隆太が囚われてるのだ。手を握り合う双子の表情には不安と恐怖が入り交じっていた。
ルナ「ゲルマ、どうして?」
ゲルマは呼び掛けに応えない。
あかり「ゲルマお兄ちゃん、壊れちゃったの?」
隆太「大丈夫だよ……きっと」
双子の声がか細くなる。
ゲルマは空を見上げ視線をルナに戻すと駆け出した。ルナは剣先をゲルマに向ける。しかし、動こうとしない。
あかり「ルナお姉ちゃん!」
隆太「逃げてください!」
拳がルナの顔めがけて襲いかかる。過去にも同じような経験していたルナは軌道を完全に見切った。体勢を立て直し刀を斜めに振り下ろす。ゲルマは水の刃を睨みつけた。青い光が水の刃と衝突する。闘技場に雨が降った。
あかり「ど、どうなってるの?」
隆太「夢でも見てるのかなぁ……」
ゲルマが握り拳をつくりルナに向けてつき出す。狙いを定めるように首を傾けた。拳が飛んでくる、そう確信したルナはゲルマに向かって突進した。
ゲルマ「グッ――」
狂気の弾丸が発射された。射線を読み切り肩を掠める。空気が抜けるような音がする。ルナは躊躇うことなく刀を振り上げた――。
その時だった。横腹に凄まじい衝撃を受け地面をピンポン玉のように跳び跳ねた。拳がブーメランのように返ってきたのだ。
ルナ「!?」
受け身を取れないまま壁に叩きつけられた。
ルナ「うっ!」
あかりと隆太はあまりにも痛々しい光景に目を瞑ってしまう。
ルナ「くうぅ……」
腹部を押さえながら下半身に力を入れる。その目から光は消え失せていない。
だが、無情にもゲルマが目の前に立ちはだかる。
ルナ「ゲルマ……」
あかり「ゲルマお兄ちゃん!もうやめてぇぇぇ!」
隆太「ルナさん!逃げてください!」
ゲルマは静かに見下ろしている。
ルナ「恭夜……」
ライナ『大丈夫、もうすぐ来るわ』
ルナ「え?」
ライナ『ごめんなさいね。ずっとゲルマに問いかけてたんだけどワタシの声も届かないの』
ルナ「私は諦めない。だから諦めないで」
ライナ『フフフ、わかってるわよ――』
ゲルマ「!?」
ルナはゲルマの
ライナ『ゲルマ!ワタシの声が聞こえる?』
ゲルマ「……ア……」
ライナ『良かった、完全には取り込まれていないようね』
ゲルマ「ラ……イ……ナ……」
ルナ「ゲルマ!」
ライナ『ゲルマ、ワタシね――』
ゲルマ「グヮァァァ……」
突如、ゲルマは頭を抱え出した。異常をきたしたアンドロイドは修羅の如く手のひらを振り上げた――。
ライナ『ゲルマ!ダメェェェ!!』
恭夜「――うおぉぉぉ!!」
上空からの雄叫びにゲルマはピタッと動きを止めた。瞬時に状況を把握し後方に逃げた。
するともう一人、上空から舞い降りてくる。どうやら恭夜とサリーがヘリから飛び降りたようだ。
恭夜「ルナ、大丈夫?」
ルナ「うん。ありがとう、恭夜」
ライナ『間に合って良かったわね!白馬の王子様が空から助けに来たわよ!』
ルナ「えっ――」
ルナは顔を真っ赤にしてしまった。当の恭夜はあかりと隆太を探していて、それどころではなかった。
サリー「ゲルマ、貴様どういうつもり――」
ゲルマはその場を去ろうとしているヘリを観察している。あろうことかヘリに狙いを定めた。
恭夜「お、おい!ゲルマ、ふざけんな!」
サリー「そのヘリにはシェリーヌ・カルピンスキーが乗っているのだぞ!」
ゲルマの眼光から青い光線が伸びていく。上空へ放たれたレーザーはヘリを貫いた。小さな爆発音を響かせプロペラから煙が上っていく。コントロールを失ったヘリは急降下し市街地に墜落した。激突音が地面を震わせる。
ルナ「お、おば様!?」
サリー「ゲルマァ!キサマァ!」
恭夜「てめぇ……自分が何したかわかってんかよ!」
ゲルマ「女神ノ存在ヲ否定スルモノハ排除スル」
ルナ「え?」
ライナ『ゲルマ、お願い!ワタシの声を聞いて!』
ドラジェ「無駄ダヨ」
あかり「今、誰が喋ったの?」
ヘルマン「無駄だと言ったのだ」
隆太「こ、今度は違う声だ!」
檻の横から機械姿のドラジェが現れる。皇帝席にはヘルマンが座っていた。かなり年季の入った甲冑が長きに渡って戦い抜いた激動の時代を物語っている。年老いた姿には不釣り合いだが、威厳があり体から溢れ出る闘争心が闘技場の空気と一体化していく。