ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
『ホットスパー』が集めたはずの絵画が見当たらない。
どこかに隠している。空間が歪んでいくような錯覚すら起こさせているからだ。絵画はこの闘技場のどこかにあるのだろうか?
ヘルマンは笑みをこぼし立ち上がった。
ライナ『おじ様、やっぱり――』
恭夜「あの人が……サリーのお父さん?」
サリー「話してもらう。父であるあなたが私の前に現れた理由を」
ヘルマン「久々に大勢の観衆を目の当たりにして少々ワシも興奮しておる。サリー、まずはお主の質問に答える前にワシの過去を知ってもらわねばならん」
サリー「あなたの伝言は聞いた。百年戦争で戦死したはずのあなたが何故この時代にいるのか答えてもらおうか」
ヘルマン「ワシは先の戦乱で落命する運命にあった。じゃがワシは女神の神託を受け新たな生を受けたのだ。事実ワシはここに存在しておる」
サリー「女神だと?」
ヘルマン「ルナというおなごに取り憑いておる。ライナ、そこにおるのだろ?」
サリー「ライナ?まさか……」
ライナ『サリー、あなたにワタシの声が聞こえてる?』
サリー「だ、誰だ!?」
ライナ『ここよ』
サリーはルナの方を振り返った。これが二人の初めての出会いだ。
ライナ『やっと……届いたわ』
サリーは状況を飲み込めていないようだ。ライナは聖母のような笑みを浮かべている。
恭夜「『コスモス』を描いたライナ・リゲイリアだよ」
ヘルマン「そして女神の加護を受けたワシは一七世紀の神聖ローマ帝国に行き着いたのだ」
恭夜「一七世紀ってゲルマとカインがいた時代だよな?」
ライナ『ええ……そうよ』
サリー「そんな嘘やでまかせを信じるのか?」
恭夜「えっ?」
ライナ『信じてもらえないかもしれない。でも、ワタシやおじ様が遥か昔から来たのは本当よ』
ヘルマン「証拠なら見せても構わんよ。サリー、お主がワシについてくるというのであればな」
サリー「時を越える、とでも?」
ライナ『嘘じゃないわ!おじ様はあの絵を使って時代を飛び越えて来たのよ!』
恭夜「あの絵ってそんな力があるのか……」
サリー「例えその話が真実だとしても私はあなたを受け入れるわけにはいかない」
ヘルマン「いいのかね?そこの『二つの星』が命を落とすことになるが?」
ドラジェが檻に近づく。
サリー「あかり!」
恭夜「隆太!」
ライナ『そんな……』
ヘルマン「お主等に選択肢はありはせん」
サリー「恭夜……私は……」
恭夜「俺はもうサリーを離したりしない」
ヘルマン「ほう?恫喝にも尻込みせぬとは」
ライナ「でも、どうするつもり?雨が降るのを待つの?」
恭夜「どんな手を使ってでも俺の『家族』を返してもらう!」
ヘルマン「仮面の若造よ。威勢はいいが視野が狭くては深傷を負うことになる。そこにワシの優秀な傭兵がおるのだ!行けぇい!我が手足となりてその魂を捧げよぉぉぉ!!」
声高らかに右手を天にかざす。静けさを保っていたゲルマが恭夜に向かって突撃した。
ライナ『ルナは動けないわ!本当に大丈夫なの?』
恭夜「アンドロイドの相手は慣れてるから――」
サリーは戦意を喪失したようだ。ルナから遠ざけるためゲルマを引き付ける。
恭夜「目ぇ覚ませ!ゲルマァ!」
ゲルマ「アクセス不可。聖域ヘノ侵入者ハ排除スル」
恭夜は壁際に追い込まれた。ゲルマは容赦なく剛腕を振りかぶる。壁にピタリと張りついた恭夜目掛けてジャブを食らわす。見慣れた一撃をギリギリまで引き付け首を傾けた。拳は壁にめり込む。すっぽり嵌まってしまいゲルマを釘付けにした。
恭夜「手加減してんじゃねぇぇぇ!!」
すぐさまゲルマの死角に回り込み右足を撃ち込む。
ゲルマ「ググッ……!?」
更に左足で追い撃ち。
ゲルマ「グガッ――」
二発目が脇腹を抉るとゲルマは宙に舞った。放物線を描きながら闘技場の中心部へ落下する。恭夜は落下地点で待ち構えた。ゲルマに受け身を取る暇はない。恭夜は身を翻し、靴の爪先が天を
渾身の一撃にゲルマは体全体を振動させる。凄まじい衝撃波が闘技場に伝染した。回路のショートする音が唸っているようだ。
恭夜「見たか!これがスカイスクレイパーだッ!」
興奮するあまり叫んでしまった。アドレナリンがドバドバ出ているのだろう。
ヘルマン「フン!役立たずめ!」
ドラジェ「僕ナラ、避ケレタヨ」
体を軋ませながら揺ったりとした動きで立ち上がる。表情は変わらない。
ライナ『もうやめて!ゲルマ!』
ゲルマは真横に拳を突き出す。恭夜は拳の先を見て戦慄した。
恭夜「サリー!?」
ルナ「うそ!?」
ヘルマン「やはり欠陥品だったか!?」
ドラジェ「サリー嬢!?」
ヘルマンもドラジェも動揺を隠せない。サリーは峻巡していたのか、目を見開いたままその場を離れようとしなかった。
恭夜「卑怯だぞ!ゲルマァァァッ!!」
心臓が時を刻むように鼓動する。足を踏み出した。まだ発射はされない。
恭夜は無我夢中でサリーに向かって走り出す。もう一歩踏み出した。更に一歩……。
ゲルマの時が止まったかのようだ。まさに人形の如く硬直している。
恭夜がサリーの前に立った。すると、ゲルマの剛腕が発射された。
サリー「逃げろ。私に構うな」
恭夜「言ったでしょ?今の俺は命知らずだ」
強がりを言ったものの避けることが許されない状況で取れる手段は一つしかない。動こうとしないサリーを突き飛ばす。
両腕で顔を覆い盾を作る。これしかなかった。
狂気の弾丸が両腕を強襲する。人から発せられたものとは思えない音と共に恭夜の影が消し飛んだ。青い閃光が脳裏によぎる。壁に打ち付けられ意識も揺らぐ。
サリー「お、おい……恭夜?」
ルナ「恭夜、起きて!」
ライナ『こんなの……こんなのあんまりよ!』
恭夜の腕は明らかに折れていた。サリーは抱き抱えると身体中の切り傷は塞がっていく。
ヘルマンは笑みを浮かべた。
恭夜「腕の……感覚が……!?」
両腕がだらりと垂れ下がった。