ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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狂心臓

ヘルマン「鉄の塊を生身で受けようとは大した度胸だ。だが、所詮は生身の人間。両腕が使えねば劣勢は覆せぬ」

 

ゲルマ「相当ノ脅威ヲ排除。メンテナンスモードニ移行」

 

ダメージを負ったゲルマは小休止している。

 

あかり「恭夜お兄ちゃん……」

 

隆太「僕達のせいでみんなが……」

 

両腕が折れ上体を起こせない恭夜をサリーとルナが支える。

 

サリー「どうしてこんな無茶な事をしたんだ!」

 

ルナ「サリー、怒らないで」

 

恭夜「腕が使えなくても俺には足がある……」

 

サリー「もういい……もういいんだ」

 

ルナ「サリー?」

 

恭夜「あかりと隆太を見捨てるの?サリーは母さんの想いを踏みにじるのかよ!」

 

サリー「これ以上家族が傷つくのは見たくない。誰も傷つかなくて済むのなら――」

 

ルナ「サリーの心が傷ついてる。恭夜ならサリーの心を癒せる」

 

ライナ『ルナが一番良くわかってるわね』

 

恭夜「俺は絶対死なないよ」

 

サリー「何故そう言い切れる?」

 

恭夜「サリーが……いるから」

 

黙って聞いていたライナが重い口を開いた。

 

ライナ「アナタ、気づいていたの?」

 

恭夜「俺ってたぶん、死なないんだよね?」

 

サリー「この期に及んでふざけるな!」

 

ルナ「最後まで聞いて」

 

ライナ「フフフ、半分正解よ。だってアナタの心臓を治したのはワタシだもの」

 

サリー「治した?」

 

ルナ「恭夜は病気だったの?」

 

ライナ「ええ、ワタシに出会わなければ恭夜は既に死んでいたの。あの日恭夜は『コスモス』に触れてワタシと出会ったの。そして、アナタの心臓の一部にワタシの魂の一部を吹き込んだのよ」

 

恭夜「じゃあ、俺が死なない理由ってライナのおかげ?」

 

ライナ「ちょっと違うわ。サリーの強い願いがナイフを通してワタシと共鳴したのよ」

 

サリー「ナイフ?それはおかしい。私が恭夜の心臓から引き抜いたのはこの刀だぞ」

 

ルナ「ナイフが刀になったの?」

 

ライナ「サリーの恭夜を守りたいという願いが奇跡を起こしたの。その証拠にその刀は『月』の力を扱える。それはサリーの好きな満月のイメージが刀に力を与えたのよ」

 

ルナ「うん!」

 

ライナ『それだけじゃないわ。恭夜の心臓は時間を――』

 

ヘルマン「ヌハハハ!!」

 

皇帝席にふんぞり返っていた甲冑の男が笑い出す。

恭夜とサリーは笑い声に胸を締め付けられた。

ルナが皇帝席を睨む。

 

ヘルマン「まさに女神の思し召し。全ては偶然ではないのだよ。そしてこれらの事実は我に新たな選択を委ねたのだ」

 

サリー「や……やめてくれ……」

 

ヘルマン「サリーよ、この世界からお主の存在が抹消された瞬間、仮面の若造よ……分かっておるな?」

 

恭夜「ああ」

 

ルナ「恭夜?」

 

ドラジェ「教エテアゲルヨ。サリー嬢ノ魂ガ、コノ世界カラ、欠ケタトキ、貧乏人ノ魂ハ、死ヌノサ」

 

あかりと隆太は言葉を失う。

 

ヘルマン「つまるところ、サリーよ。お主にもともと選択権はなかったと言うわけだ。『二つの星』か、『仮面の若造』か。好きな方を選ぶが良い」

 

兄妹の命と恭夜の魂が天秤にかけられた。サリーの顔から生気がなくなる。恭夜は何度も呼び掛けた。

 

ヘルマン「たとえ『仮面の若造』選んだとして、『二つの星』は家族に会うことも出来る。天国で待つあの愚かな夫婦にのう」

 

恭夜の黒目が小さくなる。身体中から怒りが込み上げた。

 

恭夜「やっぱりあんたの仕業だな!星宮博士達を飛行機事故に見せかけて殺したのか!」

 

ヘルマン「ヌハハハ!ハッハッハ!」

 

あかり「ママとパパは事故じゃなかったの?」

 

隆太「あの人に……殺された?」

 

ライナ「なんて酷いことを!おじ様、答えて!」

 

ヘルマン「この世界で行われていたある計画に興味をそそられたのだ。肉体から魂を切り離し機械に乗せ保存する。そして残された肉体に可能な限りの延命治療施す。これこそが魂の保全計画(コモンソウル・プロジェクト)。アンドロイドと呼ばれる人形は魂の器そのものなのだ」

 

恭夜「だけど、アンドロイドの中にはゲルマの魂が入ってる」

 

ライナ「ええ」

 

ヘルマン「ワシは唯城恭一朗に接触を図ろうとしたのだが、何故か既にこの世を去っていた。星宮夫妻は遺志を継ぎ研究を続けていてな、ワシはその人形を譲るよう接触したのだが彼等は拒んだのだ。全く融通の利かぬ者達だ。思い出すだけで苦虫を噛み潰したくなるが――」

 

恭夜「そうか!遠隔操作プログラムか!」

 

ルナ「えんかくそうさ?」

 

ヘルマン「さすがは天才科学者の息子というわけか。勘が冴えておる」

 

恭夜「あんたは遠隔操作プログラムを悪用して飛行機を墜落させた!そして博士達から設計図を奪ってゲルマを操っていたんだな!」

 

ヘルマン「人形を渡さぬ強情な星宮正晴は天罰を受けたのだ!あの男は『死ぬ事を怖れない』などと抜かしおったわい!片腹痛いわ!」

 

残酷な真相を聞かされたあかりと隆太は泣き出してしまった。

 

恭夜「父さん、星宮博士……」

 

ライナ「ごめんなさい。ワタシにもっと人を救える力があったら……」

 

ルナ「ライナは悪くない」

 

恭夜「ヘルマン・ラングニック。あんた、俺の母さんにそこのアンドロイドをよこしただろ」

 

ドラジェが恭夜を見て頭をもたげる。

 

ヘルマン「ご名答。既に解析させてもらっているぞ。この緊急予防(エマージェンシー)・プログラムとやらを」

 

手には何かが握られている。USBだ。

 

恭夜「くっ……!?」

 

ヘルマン「我が下僕よ。このプログラムとやらは厳重なのかね?」

 

ドラジェ「コノ、エマージェンシー・プログラムニハ、一ツノロック、一ツノ認証ヲ、必要トシテイマス」

 

ヘルマン「二重に鍵がかかっておるか。厄介な。だが、それも時間の問題ではある」

 

恭夜「俺達だって解析出来なかったんだ。簡単に解析されてたまるか!」

 

ルナ「ロック?認証?」

 

ライナ「暗号みたいなものかしら?」

 

ドラジェは電子音を奏でながら、

 

ドラジェ「ロックノ解除、完了。タダチニ凍結シマス」

 

ヘルマン「そうか。ならば我が手足よ!いつまで休んでおる!」

 

ゲルマは佇んでいる。

 

恭夜「ロックが使えなくっちまった」

 

ライナ「ダメなの?」

 

恭夜「ゲルマの自我は遠隔操作プログラムに抑え込まれてる。遠隔操作を無効に出来るのはエマージェンシー・プログラムしかないんだ」

 

ヘルマン「さぁ、どうするかね?」

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