ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
昼過ぎだというのに空は不気味なほど暗い。分厚い雲が太陽の光を遮っているからだ。
サリー「私は……私は……どうすればいい?」
恭夜「何もしなくていいよ」
サリー「それでは恭夜が……」
恭夜「俺がサリーも、あかりも、隆太もルナも、母さんも守る。だから何もしなくていい」
サリーは恭夜の肩にもたれ掛かり泣き出した。恭夜の右目に
恭夜「何度でも言うよ。ずっと俺のそばにいてよ」
恭夜の右目とサリーの左目が共鳴するように色を変えていく。黒目と白目が反転した。まるで夜空に輝く満月そのものだ。
ゲルマ「メンテナンスモード終了。新タナ驚異ヲ認識。警告スル、コノ場ヲ立去レ」
ライナ『立ち去れなんて、
ルナ「ゲルマ?」
恭夜「サリー、ルナ、俺に考えがあるんだ」
サリーは涙を拭い顔を上げた。
サリー「――私は出来ない」
恭夜「俺は絶対に諦めない」
サリー「その腕ではゲルマに太刀打ち出来ないと言っているのだ」
恭夜「足がある。思いっきり蹴っ飛ばしてやる!」
サリー「足が使えなくなったら?」
恭夜「頭を使う。人間死ぬ気になれば何でも出来る!」
サリー「フン!物は言いようだな」
ライナ『サリーに笑顔が戻ってきたわ!やっぱり恋の力は侮れないわね』
ルナ「うん!」
サリーとルナは恭夜の口元に耳を近づける。二人は呆れた表情で顔を見合わせた。だが、すぐに表情はほぐれた。
ゲルマはヘルマンの指示を待っているのか静観している。
ヘルマン「これぞ背水の陣。この状況を打開できる手段は皆無だがね」
恭夜はゆっくり立ち上がる。前に一歩踏み出す。両腕に激痛が走った。
恭夜「――うっ!?」
ゲルマ「ソレ以上……来ルナ……サモナケレバ……」
恭夜「二人共、頼んだよ」
サリー「ああ」
ルナ「大丈夫」
チャンスは一度しかない。恭夜達は覚悟を決めた。ここで仕留めなければ後がない。
恭夜「首を洗って待ってろよ!ゲルマ!」
全力で走る。思うように腕が振れずスピードが出ない。ゲルマが左腕を引き付ける。恭夜は臆することなく飛びかかった。ゲルマの肘が砲台のように上向く。拳は脇の下を掠めた。
恭夜「ぐぅぅぅッ!!」
ゲルマは怯むことなく右拳を打ち込んだ。拳は逆の脇を通り抜けた。
恭夜「うわぁぁぁ……!?」
出せる力で両腕を挟む。あまり激痛に意識が飛びかけた。ゲルマは膝を着く。
恭夜「がはぁ……はぁ……はぁ……」
ゲルマ「警告した……はずだ……ここを去れと……」
恭夜「何だよ……ちゃんと……聞こえてるじゃねぇか……」
ゲルマ「ずっと……ライナが……俺に呼びかけていた……」
恭夜「なんだ……遠隔操作は……完全じゃないってことか……」
ゲルマ「だが、俺も限界だ……これ以上は意識を保てん」
恭夜「安心しろ……今、楽にしてやる……」
ゲルマ「ああ、感謝する。そして、あかりや隆太をオレの代わりに守ってやってくれ」
恭夜「ハッ、バカじゃねぇの……」
ゲルマ「なんとでも言うがいい」
恭夜「お前も家族を守るんだよ――」
ゲルマ「オレは……守れなかったんだ……ライナも……カインとの約束も」
恭夜「これから――」
ゲルマ「これから?」
恭夜「果たせばいいだろうがぁッ!!!」
ゲルマ「ああ、そうだな」
青き眼光に赤みが混ざり合う。恭夜は大きく息を吸い込み地面を蹴り上げた。ゲルマの体を坂道を駆け上がるように蹴り上がる。
ゲルマの上体がのけ反った。恭夜の体が宙を舞う。ゲルマが視線を戻すと二つの影が迫っていた。二本の刃は水分を巻き上げ光の粒子と融合する。かと思えば相互に反発し合い全ての物質を歪曲させ命の輝きは臨海点に達した。
ルナ「その首――」
サリー「
ゲルマは目を瞑り両手を目一杯広げる。二本の刃は傭兵の首を真正面から討ち取った。
ゲルマ「見事だ……」
刃を引き抜くと首が傾き始めた。一陣の風が吹く。生首が落ちコロコロと転がる。
ライナ『ゲルマ!』
恭夜はうつ伏せで倒れている。体をもぞもぞさせながら、ゆったりとした動きで再び大地を踏みしめた。
ヘルマン「称賛に価する。仮面の若造よ、その散り様しかと見届けたぞ」
恭夜「アンタの目は……節穴かよ……」
ヘルマン「その体で何が出来る?瀕死の重病人と同じではないのかね?」
恭夜「黙れよ。俺の『家族』を傷つけたアンタは絶対に許さない」
ヘルマン「言葉に気を付けたまえ。まだ結末は迎えておらんよ」