ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
恭夜「ライナが俺と出会った時にサリーに初めて会ったんだけど……」
ライナ『ワタシが意図したものじゃないわ』
ヘンリー「君が絵に触れた事でライナの魂と魔剣が共鳴し、サリーをこの世界へ導いた。結果としてヘルマンから娘を引き離すことが出来たのだ」
ゲルマ「ヘルマン、貴様はサリーの魂を絵画に取り込もうと画策していたか?」
ライナ『そうなの?おじ様』
ヘルマン「ヌハハハ!サリーの魂を取り込めば時間跳躍は完全なものとなる。過去や未来だけでなく並行世界への干渉も可能となるのだ」
恭夜「別の世界の歴史まで書き換えるつもりかよ!」
ライナ『ワタシの力は誰かを悲しませるためにあるわけじゃないわ!』
ゲルマ「奴の言葉を借りれば並行世界までも混沌に陥れるつもりらしい」
サリー「私は誰を信じればいいのだ……」
ヘンリー「信じられないのも無理はない。だけどね、思い出してほしいんだ。私との最後の思い出を」
恭夜「サリーは確か馬に乗ってたって母さんに聞いたけど」
サリー「あれは記憶障害だと聞かされたが」
ヘンリー「そうだ。君は私と共に馬を走らせていた。それしかないんだ。私がサリーの父親である事を証明するのは」
サリー「記憶は間違っていなかった?」
ちっぽけな記憶をたどる。温もりが甦り実の父との対面に言葉をつまらせた。必死に涙を見せまいと目頭を押さえる。
ヘルマン「感動の再会も果たし役目はもう充分ではないかね?」
サリー「何をする気だ!?」
ゲルマ「まさか!?」
ヘンリー「気にする必要はない。私は長い時間生かされ続け心も体も朽ち果ててしまった。もうこの世に未練はない」
ヘルマン「潔い男だ。さすがはもう一人の騎士だ」
ライナ『そんな……せっかく再会出来たのに……』
ヘンリー「仮面の騎士よ。今まで私の代わり娘を守ってくれて心から嬉しく思う」
恭夜「そんな事よりサリーと話をしてくれ。伝えたい想いがたくさんあるはずだから」
サリー「父上、私は――」
ヘンリー「親としての責務を全うできなかったのが唯一の心残りだ。それでも君のような騎士がそばにいれば私のような存在はもはや必要ないだろう」
恭夜「俺が言いたいのは――」
ヘンリー「君が真のホットスパーだ。これからも娘を宜しく頼む」
ゲルマ「意志は固いようだな」
ルナ「サリー?」
サリー「嫌だ……行かないで……父上!」
ヘルマン「無情ではあるが裏切り者は粛清せねばならんな。何か言い残す事はないかね?」
ヘンリー「それならば敢えてもう一人の『私』に言わせもらう」
ヘルマン「ほう、何かね?」
ヘンリー「
ヘルマン「もっともだ」
ヘンリー「お前はどうだ?何かを成し遂げたか?救国の英雄でもなければ、悪政に立ち向かった革命者でもない。そんな存在価値すら持ち得ないお前にあの騎士達を否定する権利はない」
ヘルマン「言わせておけば調子に乗りおって」
ヘンリー「私の存在を消したければ消せばいい。歴史を歪ませ、未来を改変するお前に英霊達は容赦しない」
ヘルマン「否定ばかりしおって、そんなに消されるのが怖いか?」
ヘンリー「フッ」
ヘルマン「何が可笑しい?」
ヘンリー「命知らず騎士が死を怖がるというのは可笑しな話。もとよりお前は騎士ですらない事を恥るべきだ」
ヘルマン「当たり前だ。ワシは女神の力、魔剣、魂を乗せる装置――すなわちこれらの三種の神器を用いて真の世を創生する。それこそが我が使命」
ヘンリー「面白いそうだ。目に浮かぶよ」
ヘルマン「ヌハハハ!今さら命乞いとは女々しい奴め!」
ヘンリー「お前が常に孤独なのを想像してな」
魔剣を握る手に力が入る。ヘルマンの表情は憤怒に満ちている。どうやら怒りを買ったようだ。
ヘルマン「さらばだ。もう一人のホットスパー。時の牢獄で己の行いに打ちひしがれながら朽ち果てるがよい」
ヘンリーの身体が消え始めた。光の粒子となり天へと舞い上がる。
サリー「父上!」
ライナ『やめて!おじ様!』
ヘンリー「サリー、君の未来は自身の手で切り拓くのだ」
サリー「父上……」
ヘンリー「この男をのさばらせておけば、この美しい
恭夜「教えてくれ。俺達はどうすればいいんだ?」
ヘンリー「この世界の人間ではない私が意見する権利はない。君達が感じるがまま、思うがまま歩んで行けばいい」
ゲルマ「悔いはないのか?」
ヘンリー「後悔なんてものすら……感じる事はない……」
サリー「父上、愛しております……」
ヘンリー「私もだ……サリー……君は一人じゃない……立派な騎士達が……心の支えに……なってくれるのだ」
サリー「はい……」
ヘンリー「仮面の……騎士に……身を……委ねればいい」
サリー「さようなら……父上……」
ヘンリー「生きとし……生ける……全ての……者達に……女神の……加護……あ……れ……」
ホットスパーの分身は露と消えた。
サリー「父上!!」
恭夜は崩れ落ちるサリーに寄り添う。
ゲルマ「ヘンリー・パーシーの言葉、胸に深く刻んだ。安らかに眠ってくれ」
ライナ『酷すぎるわ……人が幸せを望んで何が悪いのよ……』
ヘルマン「惜しい人柱を亡くしたものだ。ワシの指示を黙って聞いていればこのような結末を迎えなかったのだが」
ゲルマ「言いたい事はそれだけか?」
ヘルマン「この状況で減らず口を叩くか。勝機があるとでも言うのかね?」
ゲルマ「もう忘れたのか?魔剣は所有者を選ぶ。ヘンリー・パーシーの魂が消滅した以上、貴様に力は使いこなせない」
魔剣が意思を持ちヘルマンの指から離れようとしている。
ヘルマン「な、何故だ!?何故ワシの意に反するのだ!?」
ゲルマ「魔剣は時代によって新たな所有者を選択する。そして、その所有者はお前でもなければ、オレでもカインでもない」
ヘルマン「小賢しい真似を!」
ゲルマ「マスター、今こそ『鍵』を使う時だ」
恭夜「『鍵』はもう使えないよ」
ゲルマ「いや、『鍵』は今しか使えない」
ルナ「恭夜はサリーの騎士」
ライナ『そうよ!アナタが『家族』を守らないで誰が守るっていうの?』
恭夜「よく分かんないけど……」
ゲルマ「魔剣も
恭夜「声?……そうか!」
魔剣はヘルマンの手をすり抜け宙を漂う。
ヘルマン「血塗られし魔剣如きがぁッ!!!」
恭夜「俺に力を貸してくれ!――『ホットスパー』!」
魔剣は闘技場を飛び出し夜空を舞った。雲が晴れ月が顔を出す。月明かりに照らされた魔剣は回転し始め、闘技場の中心部目掛けて落下し始めた。空気抵抗をものともせず急降下し地面に突き刺さる。地面に突き刺さった魔剣の刀身は大部分が隠れてしまった。
恭夜は両腕が骨折しているが魔剣に近づいていく。
ヘルマン「汚い手で触れるでない!」
銃口を恭夜に向けて引き金を引いた。弾丸は魔剣が作り出した異空間に飛び込む。
ゲルマ達は驚嘆した。
ヘルマン「こんな、こんなはずが……」
ライナ『でも恭夜の腕は折れてるはずじゃ――』
ルナ「うん」
ゲルマ「見ていれば分かる」