ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
船着き場に到着すると久しい人物に出くわした。
ドラジェ「や、やあ!」
あかり「キャー!生首が喋ったぁ!」
ドラジェ「生首?何の話だい?」
隆太「お久しぶりです。誰ですか?」
恭夜「どんな挨拶だよ」
ドラジェ「冗談きついな……僕の事、ゲルマ達なら知っているだろう?」
ルナ「女の敵」
ゲルマ「盗聴マニア」
カイン「独占欲の塊」
サリー「全部ストーカーではないか!」
ドラジェ「あ、あは……あはは、酷い言われようだ」
口と目以外に包帯を巻いている。ミイラになりきっているように見えなくもない。
恭夜「どうしてアンタがここにいるんだ?」
ドラジェ「サリー嬢に会わせてもらう為に根回ししたんだよ。僕が使える人脈はカインしかいなかったからさ」
サリー「カインだと?」
カイン「ボクはドラジェと周知の仲だから断る理由はなかったが――何故女性陣は鋭い目付きでボクを睨むんだ?」
ゲルマ「カインは知らないのかもしれないが、このドラジェという男はサリーに付きまとっていた。言わば武士フェチ」
サリー「誰が武士だ!」
ドラジェ「ちょ、ちょっと僕の話を聞いてくれないかい?」
恭夜「カインがウィーンにいた理由ってドラジェと会うためだったのか。ていうか日本に帰るのにコイツの船に乗らなきゃいけないのかよ」
あかり「カインお兄ちゃんのこと見損なった」
カイン「まさかボクが軽蔑されるとは……」
ドラジェ「サリー嬢、お話が――」
サリー「もう結構だ。私は決心したのだ。あなたと関わる事は二度とない」
隆太「少しぐらいは聞いてあげても……」
カイン「話だけでも聞いてほしい。それが船に乗せてもらう約束なんだ」
ゲルマ「背に腹は代えられないようだ。どうする?」
サリー「致し方ない。話だけだ」
ドラジェ「それは良かった。それじゃあ場所を変えて二人きりで――」
サリー「オイッ!!」
ドラジェ「ひっ!」
恭夜「チンピラかよ」
ルナ「サリー、恐い」
あかり「こんな下心が見え見えなのも珍しいよね」
隆太「いきなり怒鳴るサリーさんもどうかと思うよ」
ドラジェ「ご、誤解だよ!僕はただチャンスが欲しくて……」
サリー「チャンス?命だけは助けて欲しいと言いたいのだな。あなたのような安い命などに興味はない。何処へでも行けばいい」
カイン「張り切っているようだ」
ゲルマ「振り切れているの間違いだな」
ドラジェ「実を言うと情報屋の世界から足を洗ったんだ。一から人生をやり直そうと思ってる。それにこの船は全財産をかけて購入したんだよ。それが僕の出来る唯一の償いだからね」
ルナ「恭夜と同じ貧乏人だね」
恭夜「そっすね」
隆太「僕も貧乏人ですよ!」
あかり「自慢することじゃないから」
サリー「あなたは履き違えている。私は誠実さや正直な心だけを求めているわけではない。私が欲しているのは寄り添う心。人を思いやる気持ちだ」
ドラジェ「それも理解しているつもりだよ。僕は人のために役立つ仕事を始めようと思う。だから僕が一人前になった暁には婚約を前提に友達から交際したいんだ」
恭夜「コイツ、サリーの話聞いてたのか?」
ゲルマ「友達から始めたいのか?はたまた――」
カイン「恋人から始めたいのか?はたまた――」
ルナ「プロポーズ?」
サリー「あなたの気持ちはわかった」
ドラジェ「なら――」
サリー「出来るものならやってみろ!」
ドラジェ「もちろんだよ!サリー嬢!――さぁ!みんな、僕の
あかり(サリーお姉ちゃん、あんなこと言って大丈夫なの?)
サリー(何を心配する必要がある。あの男の言葉が本当なら私達はお金に困らなくなるんだ。こんな美味しい話はない)
隆太(うわぁ……)
ルナ(策士だね)
ゲルマ(オレ達はヒモになるのか)
カイン(さすがにヒモ男にはなりたくないが……なぁ、恭夜)
恭夜(誰がヒモ男だ!)
ドラジェが購入した小型船は夕陽を受けながら出発した。日本に向けた最後の船旅が始まる。サリーの船酔いは相変わらずのようだ。
船内は花見の話題で盛り上がる。待ち遠しくて仕方ないようだ。
カインはまだ見ぬ世界を求めて旅に出る。
ゲルマは二つの星のお目付け役となる。
隆太は家族を支える大黒柱となる。
あかりは学校生活に身を投じ勉学に励む。
ルナはメイドになるべくバッティングセンターに入り浸る。
サリーは亡き父の志と共に未来を歩む。
そして、
恭夜は家族の
ゲルマ「獅子王の気持ちが分かると言ったマスターの真意に問いたい」
隆太「シシトウさんはゲルマさんの敵だった人ですよね?」
あかり「獅子王だよ隆太お兄ちゃん――見て見て!教科書に書いてある!プロテスタント軍を率いていたんだって。グスタフ・アドルフっていう王様なんでしょ?」
ルナ「でも戦争が終わる前に死んじゃった」
サリー「私も知りたい。時代も国も相容れない恭夜が獅子王に共感した理由を」
恭夜「サリーはいちいち大袈裟なんだ――よっと!」
フランスに滞在していた頃から着用していたフェイスガードを外す。まだ不安があるが痛みは全くない。
恭夜「神聖ローマ帝国の皇帝も、ゲルマが忠義を尽くしてきたヴァレンとかいう傭兵隊長も、プロテスタントの獅子王もさ、自分達の信じる教義が正義なんだから戦争でもなんだろうが負けないって思ってたはず」
ルナ「うん」
あかり「ルナお姉ちゃん、わかってるフリしないでよ。魔女狩りされちゃえばいいのに」
隆太「そこまで言わなくても……」
恭夜「続けていい?もし魔剣があれば自分達を勝利へ導けるってヘルマンが言ったとしても、まず疑うだろうし魔剣に頼らなければ勝てない戦争なんてそもそもしないでしょ?」
サリー「ダイナマイトなどの新兵器ならともかく、魔剣は誰が見てもデカイだけが取り柄のない剣としか思ないだろうな」
ゲルマ「マスターはカトリックもプロテスタントも信念の上に行動したと言いたいのか?」
恭夜「それもあるし……こっからは俺の勝手な推測だけど、獅子王自身が死ぬことでプロテスタント軍の勝利に貢献できるならそっちを選ぶんじゃないかな?」
ルナ「でもプロテスタントも負けた」
あかり「そうだよ!王様も死んじゃって、戦争にも負けちゃったんだよ!」
隆太「踏んだり蹴ったり、ですかね?」
サリー「あかりと隆太はまだまだ子供だな。ゲルマの発言を思い出してみろ」
ゲルマ「あの日、オレは魔剣を持っていた。その前にヘルマンが魔剣を獅子王に献上しようと試みている」
恭夜「獅子王は魔剣に頼る気がさらさらなかった。魔剣が歴史を大きく変えてしまうのを恐れたんだ」
サリー「私の父は並行世界から来たと言っていた。本当に私達の世界とは別の世界があるとすれば、その世界の三十年戦争はプロテスタント側の勝利で終わっているのだろう」
ゲルマ「余談になるが、並行世界の研究は唯城恭一朗博士もしていたようだ。オレのデータにも残されている」
恭夜「獅子王は騎士の心で運命に立ち向かった。魔剣なんかに頼らなくても自分達が信じる神様がいる。死ぬことで大切なモノを守れるなら俺も迷わずに死ぬことを選ぶよ」
サリー「それが獅子王に共感した理由か」
ゲルマ「騎士道の名の下に命を賭す。傭兵のオレに通ずるものがあるだろうか?」
ルナ「ゲルマも私達の騎士。私もみんなを守る」
あかり「でも、死んじゃだめだよ」
隆太「平和なら誰も死なないよ」
恭夜「なんか辛気臭くなっちゃったな。それじゃあ花見に行くか?」
あかり「場所取り班、集合~!」
ゲルマ「荷物はマスター達に任せ、いざ下見!」
隆太「みんな切り替え早いなぁ。あっ!お弁当もお願いしまぁす!」
ルナ「私、バット持っていく」
サリー「ならばグローブも持っていこう」
恭夜「ボールがないじゃん。ていうかバッティングセンターに行け!」
ゲルマ「桜を見ながら野球に勤しむか。嵐が吹きそうだ。まさに桜吹雪」
あかり「それ苦情の嵐だよね?野球なら花見の後でもいいじゃん」
隆太「じゃあ、ついでに夜ご飯の買い出しもお願いします!」
ルナ「買いたい放題♪」
恭夜「打ちたい放題みたいに言うな」
サリー「ルナはやりたい放題だな」
『
彼らが願えば平穏な生活は続いていくだろう。
もし退屈で暇を持て余して退屈な時間があれば、女神の言葉で激動の過去を振り返ってみるのも悪くないのかもしれない。
たとえアナタがいなくても
想いは必ず届くわ
だって
fin