ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
ルナは毎朝、工場に向かうという。もちろんゲルマに会いに行くためだ。恭夜は半ば無理矢理雇われたが誠の下で奮闘している。ルナは恭夜の時間に合わせて家を出るため隆太に恨めしそう見られるのはもはや日課となった。
恭夜は忘れずに母親に近況を伝える。母親は満足そうな笑みを浮かべるが、サリーの事を聞かれた恭夜は素っ気ない態度で突っぱねた。それから数日が経ち年が明け、恭夜は休日に買い物に行くことになった。
ルナ「私、行きたい所があるの」
恭夜「橋の下に忘れ物でもした?」
あかり「下着でも忘れたの?」
隆太「そういえば服はどこから持ってきてるのでしょうか?」
ルナ「恭夜、来て」
恭夜「俺でいいの?」
恭夜はルナの後をついて行く。電車に揺られること十分。徒歩で十分。現れた建物は想像の斜め上をいくものであった。
恭夜「ここって……」
ルナ「バッティングセンターだよ」
恭夜「あのさぁ俺、野球よりサッカーの方が好きなんだ」
ルナ「行こう」
ルナは不満げな恭夜の腕を引く。ルナは慣れた様子で受付に向かう。恭夜は不穏な空気を感じルナが見える位置に立つ。
それは異様な視線だった。まさに獲物を逃さないと言わんばかりの野獣の視線。ルナは気づいていないのか打席に立つと恭夜を探している。目が合うとにっこりと笑った。マシンに向かい合うと目つきが変わった。飛び出す白球は恭夜の想像よりも速かった。だが、ルナは軽快なスウィングで白球を叩く。快音を響かせ上向きの弾道は素人の恭夜ですら唸らせるに申し分なかった。
恭夜「マジかよ……」
周りの男達もざわめく。ルナは気にも留めず、ひたすら白球を打ち返している。恭夜は見ていたかったが、それ以上に危機感を募らせていた。
恭夜「スイングするたびに周りの男達が見いってるな」
恭夜は周囲に注意を傾ける。男達の口元に視線を移し意識を集中させる。それは下品な会話だった。サリーが聞いたら斬りかかっていただろう。恭夜はそう思った。
ルナ「恭夜も打ってみて」
恭夜「ルナ、気づいてる?」
ルナ「私……」
恭夜「でも綺麗だったよ」
ルナ「恭夜――」
ルナも気づいたようだが既に退路はゴロツキ共に塞がれていた。二人組の金属バットを持った男が近づいてくる。一人は彫りの深い顔立ちに色黒の肌。もう一人は中肉で帽子を被り、いかにも高校球児風な男だ。ルナが恭夜の後ろに隠れてしまった。
中肉「ねえねえ、その女の子君の彼氏?違うんだったら俺達と遊ぼうぜ」
恭夜「俺の
色黒「そんなら男に用はねぇ。出口は向こうだぞぉ?へっへっへ」
ルナ「……」
中肉「俺達にも教えて欲しいんだよ。バットの扱いってやつ?」
恭夜「下品な奴」
色黒「あぁん!なんつったんだぁ?オイ!」
ルナは顔を伏せ恭夜の腕を掴んでいる。恭夜は足首を回し始めた。色黒の男はバットで恭夜の顎を小突き挑発している。恭夜はふと思い出した。誠のスクレイパーを。
恭夜「ルナ、知ってた?空に伸びる刃をイメージした高層ビルを
中肉「さっきから何をゴチャゴチャと――」
恭夜「英語で何て言うか知ってる?」
ルナ「うん。スカイ――」
恭夜は右足を振り上げる。虚をつかれた色黒は避ける事が出来ず顎を直撃した。
色黒「ウゴォッ!!」
衝撃で色黒は宙を舞い床に叩きつけられた。
恭夜「スクレイパーだ!覚えておけ!」
中肉「て、てんめぇ!ぶっ殺してやる!」
相方をやられ、やけになった中肉はバットを振り上げ恭夜を
中肉「グペッ!」
恭夜は無我夢中でルナの腕を引き逃げるように外に出た。二人は公園で一息つく。ルナはベンチに座った。落ち込んでいるのか下を向いたままだ。
恭夜は痛む足を引きずりながら自動販売機で買った飲み物をルナに手渡す。ルナは無言で受け取った。
恭夜「バットってあんなかてぇのかよ。足がズキズキする」
ルナ「足、どうしたの?」
恭夜「……ちょっと捻っただけだよ」
ルナは不思議そうに恭夜の足を見ている。
恭夜「俺に来てほしいって言った理由ってさ――」
ルナ「一人で行っちゃいけないって言われてたから」
恭夜「いつもは誰かいるの?」
ルナ「ボディーガードがいる」
恭夜「ボ、ボディーガード?」
ルナ「うん。あと時々おば様も来てくれる」
恭夜「へー」
ルナ「ふふふ」
恭夜は携帯電話のバイブレーションに気づきポケットから出した。着信は隆太からだ。
恭夜「もしもし。隆太、どうした?」
隆太『兄さんに外国人の友達っているの?』
恭夜「なんだよいきなり」
隆太『ちょっと気になっただけだよ』
恭夜「知り合いはいるけど友達はいないかな」
隆太『おかしいなぁ、あかりが「ドイツ人を名乗るフランス人みたいな見た目のイタリア人が恭夜お兄ちゃんに会いに来たよ!」って言ってたんだ』
恭夜「ド、ドイツ人を名乗る?」
隆太『外国人の顔は見分けがつかないから僕には分からないよ』
恭夜「ドイツ人……ドイツ人……もしかして――」
隆太『今どこにいるの?』
恭夜「隆太、その男って部屋にいるのか?」
隆太『うん。あかりと楽しそうに話してるみたいだけど』
恭夜「すぐ帰るから電話は切るな!いいか?」
隆太『え?う、うん。わかった――』
恭夜は携帯電話を耳に当てたままルナの手を引いた。無意識に手を握ったためかルナは少し驚いた表情をした後、顔を赤くして下を向いてしまった。
アパートに着き扉を開くとゲルマが何食わぬ顔で居座っていた。