人生誰でも選択するときが来る。でもどちらを選んでも後悔しないことは必ずない。
とある和室に1人の少女と、2人の30代ぐらいの男の兵士がテーブル越しに座っていた。
「貴方には選ぶ権利がある。『艦娘』になるか、それともならないか」
「我々には時間が無いのです。ご決断を!」
2人の兵士に迫られ、彼女は人生の大きな選択をすることとなった。
「わかりました。私、なります。艦娘に」
三日月はハッと目を覚ます。どうやらまだ朝早く、日が出始めたばかりである。近頃、三日月はこの夢ばかり見ており逆に寝て疲れてしまっていた。
三日月がこの鎮守府に配属されて、既に1週間が経とうとしていた。艦娘は毎日深海棲艦と戦闘をするというイメージがあるかもしれないが、実際は違う。この1週間、第2艦隊以外は実戦はおろか出撃すら行われず、自主的にトレーニングを各自で行なったり、演習をしたとしても鎮守府内でしかしなかった。
三日月はこの鎮守府に来て、先日の本格的な艦隊行動の確認ということで第3艦隊との演習と、初日の不知火との演習しか戦闘はしたことがない。
また、それ以外の時間は不知火指導のもとにトレーニングを積んでいた。
今日もいつもと同じ日常が始まると思っていた三日月だったが、突然鎮守府にサイレンが鳴り響いた。
何事かと思い身構える三日月。そしてサイレンが20秒ほどなると放送から提督の声が聞こえて来た。
『M県沖合250キロで漁船団に深海棲艦が接近中。第1艦隊は直ちに出撃せよ』
放送が終わると同時に部屋の外は慌ただしくなった。
突然のことに何をすればいいのか分からず戸惑っている三日月であったが、部屋に不知火が駆けつけてくれて緊急出撃場へと連れていかれた。
この時、三日月の部屋に入ろうとした不知火が、艤装のせいで入り口で引っかかってしまい顔を赤らめた。緊張した空間であったが、あまりのギャップのせいで笑いそうになってしまったのはここだけの秘密である。
三日月は不知火に出撃場とやらに連れていかれた。しかし、そこは港とは反対側のヘリポートであった。
2人が到着すると第1艦隊の皆は準備をしていた。空母の加賀と鳳翔は弓と航空矢の最終点検を。戦艦の比叡は砲塔の稼動確認をしていた。
三日月は直ぐに同じ駆逐艦の秋月の元へ向かい、不知火、三日月、秋月で砲塔、魚雷の最終点検を行った。
そして6人にはあるものが手渡された。パラシュートである。これを艤装に固定し、前側に背負うようにと指示された。
そう、これは最近主流となった艦娘の輸送方法である。民間船の救助の場合イージス艦を母艦として出撃すれば速力の関係上、数時間はかかるので手遅れになってしまう。また、艦娘にも単独で沖合250キロに向かい戦闘をして引き返してくるには燃料が不足してしまう。
そこで陸軍と協力して高速ヘリ、オスプレイで艦娘を近くの空域まで輸送してパラシュート降下をして、先頭ののちにイージス艦に回収してもらうという形がとられることが多い。
三日月も降下訓練は3回ほど教練艦隊時にやったことはあるが、久しぶりなので緊張してきた。
6人は点検を終え、艦隊行動時の指示を不知火から受けていた。
「敵の数は不明、しかし漁船団を襲うにはさほどの戦力ではないと考えられる。だが、油断せずいつも通り行う。今回は初出撃の三日月がいるので手早く説明する。まず、比叡を先頭にして私、三日月の3人は単縦陣で敵艦隊左翼に突撃しT字有利を確保。加賀と鳳翔は航空隊で私達の援護を。秋月は空母2人の護衛を。何か質問は?」
皆黙りながら首を横に振り、質問がないことを伝える。
その頃、6人を回収するためのイージス艦が出港した。
そうして6人はちょうど到着したオスプレイに乗り込み戦場へと向かった。
オスプレイはヘリモードと飛行機モードになることができる特殊なヘリで最高速度は500キロであるが、深海棲艦は沖合250キロに出現したため、最低でも30分以上はかかる。戦闘力のない漁船団にとっては地獄の30分であるが、今は耐えるしかない。三日月達は祈る気持ちで向かう。
その頃、漁船団は深海棲艦の接近により大混乱に陥っていた。
『深海ヤロウはまだ追ってきてるのか?』
『レーダーが反応しないところを見ると間違いない』
『くそ、後ろの方が追いつかれ始めたぞ!敵の砲弾で何隻か沈んじまった!』
『くそー!死にたくねー!』
漁師達の悲痛な叫びも虚しく、次から次へと漁船が沈められていく。
深海棲艦には民間人という言葉は存在しない。ただ、前に現れたのは軍艦であってもなくても敵なのである。
逃走を続ける漁船団であったがだいぶ数が減ってきてしまっていた。
もうダメかと諦める漁師達。しかし、彼らを追っていた深海棲艦の上に砲弾が降り注ぐ。足止めの為に打たれた三式弾である。
そして小さな航空隊が深海棲艦に爆撃を始めた。そして漁船団の漁師達は、戦場へと向かう6人の少女を見かけた。
そう。艦娘達を。