プロローグ ヤミの始まり
宇宙の辺境に存在する惑星――――『地球』
水と緑に溢れ、科学によって人間の文化が発展した、しかし宇宙規模で見ればまだまだ未開の惑星である。
しかしそのすべてが緑に覆われているわけではない。
その場所は切り立った岩山が乱立し、草木が生えないような荒地であった。
植物が育たないため草食動物が寄り付かず、草食動物がいないため肉食動物も寄り付かない。
また農業にも土の質が悪いために向いておらず、工業の拠点としても建物を建てるには乱立する岩山が邪魔になってくる。さらに資源が出てくるわけでもない。つまりは人すらも寄り付かない。
生物が寄り付かない、そんな荒れた大地に一つの人影が存在した。
否――果たしてそれを人影と表現していいのだろうか。
身体の大きさから子供――それも幼児ほどだと推測ができるが、しかし問題はその容態であった。
その頭蓋は不自然に膨れ上がり、顎は過剰な力によって歪み、その目は濁り切っていた。
四肢は未だに繋がっているのが不思議なほど歪に折れ曲がり、その小さい体躯すらも支える事が困難であった。
少しでも動いていなければ遺棄された変死体であると思えてしまう。
「ごふっ……!!」
口から吐き出された血液は液体というには粘度が高く、色も赤を通り越して黒くなっており、糞のような腐臭を漂わせている。
そのような状態の血液に正常な働きなどできるわけもなく、そのためか彼女の身体は、骨は酷く脆く、筋肉は蕩け、内臓は腐り果てているなど、通常考えられないほどに弱り切っていた。
咳き込んだ衝撃で脆い肋骨が折れ、それが凶器となって腐った肉や内臓に突き刺さる。その痛みを堪えるために噛み締め変形した顎の骨が力に耐えきれずに罅割れ折れる。
呼吸をするたびに激痛が走り、それを堪えるために込めた力で体の至る所にある骨が容易に折れる。
腐った血液を運ぶための心臓が過剰稼働と停止を繰り返す事で脆すぎる血管が破裂する。
生きるために必要な行為でさえ、この者にとって滅びへと繋がっていた。
そもそもとしてこの者自身、何故己がこのような病状でこのような場所に居るのか、そもそも己に関する記憶自体思い出せなかった。
それでもこの者がまだ終わりを迎えていない理由は誰もが抱く単純な、しかし重すぎる一つの想い、ただそれだけであった。
「ぜぇ、ぜぇ……私はぁ……はぁ、はぁ……生きるぅ……! ぜぇ、ぜぇ……絶対にぃ……!」
『生きたい』 『何が何でも生きる』
その一念だけで本来動かす事すら困難であろう肉体を動かし、蝕む病みから来る痛みを遍く全てに怨念を放って精神を保つことで、何とか死を免れている状態であった。
そう、その想いだけが、彼女――――チアの全てであった。
――――これは、ヤミに侵された少女が、そのヤミから脱しようとする物語――――
どう見ても末期患者ですが、本家逆十字と比べればまだまだマシなレベルのはずだから問題ない、はずです……