尻尾を切り落とされたフリーザを地面に向かって蹴り飛ばした俺は、フリーザの一撃でボロボロになって地面に叩き付けられた悟飯を回収して禿げ頭――――クリリンのいる場所へと向かう。
「ピッコロ! すげぇパワーアップしてるじゃんか! 界王様の修行の成果ってやつか!」
「修行だけじゃなく別の要因もあるが……それより貴様は悟飯を安全な場所まで連れて行け!」
「え? そんなパワーアップしたお前なら何とかなるんじゃ……?」
「……勝てると思うか?」
「ぅ…………」
あの瀕死のナメック星人と同化したおかげで力が以前とは比べ物にならないほどに湧き出てきたが、それでも今のヤツに勝てるビジョンが見えてこない。
直接その動きを見たわけではないが、感じ取れるヤツの気はそれほどまでに強大だった。
実際にフリーザの動きを見たクリリンの沈黙もその事を物語っている。
「あんな不意討ちじゃすぐに戻ってきやがるぞ! 早く行け!」
「お、お前はどうする気だよ!?」
「……少しでも足止めしてやるさ」
「それじゃ地球のドラゴンボールがまた使えなくなっちまうじゃないか! それなら全員で挑んだ方が勝機はあるだろ!」
「ならボロボロの悟飯はどうする!? 放っておくわけにもいかんだろう!」
この状態の悟飯をこのまま放置しておくわけにもいかん。追撃をしようとしていたフリーザがそれを見逃すとは思えんし、そうでなくとも流れ弾が当たらないとも言えない。
だがクリリンもそう簡単に引くつもりはない様子で、フリーザが復帰してくるまでのこの貴重な時間を無駄になりかねんと危惧していると、思わぬ所から解決策が口に出された。
それはナメック星人の子ども――――デンデであった。
「ご、悟飯さんなら僕が治します!」
「デンデ? ……おい、治すとはどういうことだ?」
「デンデは怪我を治す力を持ってるらしいんだ。俺もそれで助けられた……ってなんでお前デンデの名前知ってるんだ?」
俺の問いかけに答える間もなくデンデがボロボロになった悟飯に両手をかざすと、変化が如実に現れた。
傷だらけだった悟飯の傷が一瞬で治癒し、悟飯の意識が戻ったのだ。
「あ、あれ? 僕は……?」
「あ、あの傷が一瞬で……信じられん。俺にもこんな力があるのか……?」
「い、いえ、あなたは戦闘タイプのようなので……」
「あ! ぴ、ピッコロさん!? あ……もしかしてピッコロさんが助けてくれたんですか……!?」
「どうやら完治したようで何よりだが……せっかく生き返らせてもらったのに悪いな。あまり役に立てそうにない」
「そ、そんな事…… あっ!? そ、そういえばチアは!?」
悟飯の言うチアというのが誰かわからず、そういえば界王が宇宙船に忍び込んでいたガキがいたらしいと言っていたのを思い出し、さらに悟飯がやられる前にフリーザが止めを刺そうとしていた相手がいた事を思い出した。……何故か、同化したナメック星人の最後の口にした「あの子供に気を付けろ」という言葉もふと脳裏に蘇るが、今は置いておくことにする。
「ぼ、僕、チアに庇ってもらったんです。そのせいでチアが……!」
「た、確かあっちの方に落ちていったような……」
「ぼ、僕、チアさんを治してきます!」
「あ、待ってくれデンデ!」
その場を離れていこうとするデンデを呼び止めたクリリンは、言うかどうか悩んだ末に、それでも言いにくそうに口を開く。
「……もしベジータも見つけたら治してやってくれないか」
「え……!?」
「近くにベジータもいるのか?」
「はい、フリーザにやられてクリリンさんがボロボロになった攻撃にも巻き込まれてたはずなんですけど……」
「でもそれであのベジータが死ぬとは思えない。きっとまだ生きてるはずだ」
「い、嫌だ……! アイツは……、ベジータはフリーザといっしょだ! 僕の仲間を殺した!」
「デンデ……」
……その気持ちはわかる。故郷に思い入れのない俺でもフリーザに対して怒りを抱いているんだ。ましてやそこで生まれ育ったデンデが、フリーザと同じように同胞を殺したというベジータを早々に受け入れられるはずもないだろう。
「俺からも頼む。俺はベジータになら勝てるがフリーザには勝てん。今は一人でも戦力が必要だ」
俺もベジータには良い感情を持っていないが、それでもこの現状を何とかするにはいけ好かない野郎でも利用しないとどうしようもない。
だがそれはコイツの感情がそれを許容できるかとはまた別の問題だ。判断自体はデンデ自身に任せるしかない。
とにかく今は早くここから離れさせるべきだ。ここで悠長に話をしている時間はないのだから…………?
「……何故フリーザは、まだ来ない?」
「え? あ、そういえば……」
「もしかしてもう起き上がれないとかだったり……しないよな?」
「甘い期待はするなよ」
あの一撃で倒せるほど甘くはない。ダメージとしてはほとんど入っていないだろう。
だが、それならば何故ヤツは来ない? ヤツならばすぐにでも復帰してきてもおかしくはないはずだ。現にヤツの気は――――
「――――!? な、なんだ、どういう事だこれは……!?」
「ど、どうしたんだよピッコロ?」
暢気にも状況の変化を察知できていない二人に、お前らもヤツの気を感じ取れと口にしようとした時だ。
「――――よくもやってくれましたね」
――――背筋が凍るような声がその場を支配した。
「ひっ!!」
「この声……ふ、フリーザ……!?」
「くっ……早く行けデンデ!」
「は……はい……!」
デンデが去っていくのを足音だけで確認しつつも、視線はあの声が聞こえてきた方向から外せなかった。そこには、こちらにゆっくりと向かってくるフリーザと思わしき人影がいた。
「驚きました……まさか私の尾が切られて、その上頭を足蹴にされるとは……」
先程までの異形とは違う。刺々しかったその身体はスッキリと丸みを帯びて、物々しさはなくなり、身体の大きさも大分縮んでしまっている。
だが、その内側に渦巻く気の強さは、先程までとは比べ物にならないほどに強大な物になっていた。
それこそ、ただそこにいるだけでこちらに恐怖を与えてくるほどに強すぎるものだ。
「貴方達はただでは殺しません。このフリーザの最終形態を以って、その魂に決して消えぬ恐怖を刻み付けてあげましょう……!!」
(★)
「ぐ……クソッ、たれ……!!」
フリーザの剛腕でのラリアットから岩山に叩き付けられ、さらに追い打ちのように島全体を襲う衝撃を避ける事も出来ずに、今の俺の身体はボロボロの死に体になっていた。サイヤ人の王子たるこのベジータ様がこの有様とは、我ながら情けない。
こ、このままでは死んでしまう……だが、動こうにも動ける状態じゃない。少しでも身体を動かせば痛みが走る。もしかすると手足の骨も折れているかもしれない。
ここまでなのか……そう思い掛けたその時、何かの物音が聞こえた。力は弱いが確かに気配を感じる……
「べ、ベジータ……!」
声がした方に視線を向けるとそこにはナメック星人のガキがいた。まさかまだナメック星人の生き残りがいるとは驚いたが……状況が好転したわけじゃない。
あのガキが俺を助ける術を持っているとは思えないし、そもそもとして俺を助けるとは思えない……などと思っていると今まで動かなかった身体が急に軽くなった。
痛みは消え去り、動かせなかった四肢は通常通りに動き、ボロボロになった戦闘服から覗く身体には傷一つなくなっていた。
「何……? な、治った……だと?」
謎の現象に戸惑っていると、いつの間にか距離を取っていたナメック星人のガキがこちらを睨みながら口を開く。
「お、お前を助けたわけじゃない……フリーザを倒すのに必要だから治しただけだ……!」
それだけ言い残すとナメック星人のガキはどこかに走っていった。
まさかナメック星人にこんな能力があったとは……もっと早く知っていればカカロットもメディカルポッドに叩き込む必要はなかったものを……。
「……まあいい。溢れんばかりのこの
そうだ。最早そんな事はどうでもいい。
サイヤ人の特性とも言える死の淵からの復活によって俺の戦闘力は先程までとは比べ物にならないほどに上昇した。
通常のサイヤ人では考えられないほどの戦闘力。これこそまさに伝説のスーパーサイヤ人そのものだ。
一時気の迷いでカカロットがそうではないかと思ってしまったが、所詮ヤツは下級戦士。エリート中のエリートであるこのベジータ様が千年に一人生まれるという伝説になるのは当然の事だ。
これならば、たとえフリーザであろうと勝てる……!
「スーパーサイヤ人へと至ったこの俺に、最早何も怖れるものはない!!」
全身に漲る力を感じながら、俺は感じ取れるフリーザの戦闘力を目標に飛び立った。
(★)
「な、何これ……!?」
そこにあったのは何かが叩き付けられたかのような痕であった。
その痕は、上から液体の入った袋のような何かを落とせばこうなるだろうというように広く四散して、まるで腐敗したかのような異臭を漂わせ、出来れば近付きたくないと思わせるほどにその場所を汚染していた。
その中心……おそらく何かの落下地点であろうその場所に、彼女はいた。
「糞がぁ……ッ! 塵がぁ……ッ! 屑がぁ……ッ!」
さっき遭遇したベジータも重傷で動けないようだったが、彼女の容態はもっと酷かった。
四肢は落下の衝撃のせいか、傍目から見てはっきりわかるぐらいに折れてしまっていた。場所によっては内側から骨が突き出ている箇所もあり、特に左腕は辛うじて繋がっていると表現するのが適切なほどで、放置していれば重さのままに千切れてしまうのではないかという状態であった。
身に纏っている戦闘服は皹だらけになっており、その隙間から黒い粘液のようなドロッとした液体が漏れ出していた。
動くどころか、動かすことすらも躊躇われるような状態だった。
そんな状態で彼女は、立ち上がっていた。
折れた足で無理矢理立っているせいで骨はさらに折れて肉を突き破り内側から顔を出してくる。
それを気にする事もなく、彼女の口からは黒い液体と共に呪詛のように悪意に塗れた言葉が漏れていた。
「死ね……! 死ね! 死ねぇっ! さっさとぉ……死ねよ塵屑がぁッ!!」
一歩、また一歩と進み、そして骨がさらに折れてバランスを崩して受け身も取れずに前のめりに倒れ、ぐしゃりと再び大地を黒く染め上げた。
「何故、塵屑如きが……まだ生きているぅ……! ふざけるなよ、塵がぁッ!!」
それでもなお悪意を口にして立ち上げろうとしているのを見て僕は思わず彼女に駆け寄っていった。
「な、何してるんですか!? 安静にしてないと……!」
「私に劣る、塵屑がぁ……! 私の邪魔を、するんじゃないぃぃッ!!」
僕が声をかけてもただ罵詈雑言を口にし続ける。
僕に対して言っているのかとも思ったけど、まず彼女がこっちを見ようともしていない事に気付いた。いや、そもそもこちらに気付いてないんじゃ……いや、それよりもまずは彼女を治さないと!
正気に戻った僕はすぐさま彼女に手をかざし怪我を治した。
流石に血の汚れや戦闘服の修復までは出来ないけど、怪我と体力は元通りになったはず……これで命に別状はない。
「……治った? ごぼっ……!」
そう思っている目の前で彼女が黒い血を吐いた。
「え!? だ、大丈夫ですか!? そんな、怪我は全部治したはずなのにどうして……!?」
「お前が、治したのか……」
ようやくこちらに気付いたのか、吐血を気にも留めずに先程までの錯乱した様子から打って変わって冷静にこちらを見つめてくる。
ただ、その目はとても濁っているように見えた。でもその奥に見えるのは……
「そ、そうです。それなのにどうして血が……」
「――――よくやった。誉めてやるぞ、お前は役に立つ道具だ。だが――――ここで見た事を誰かに言えば、殺すぞ……!」
お礼の言葉としては感謝も何も籠っていないそんな褒め言葉を僕に告げた後、彼女はこちらを睨むように一瞥してからすぐさま飛び立っていった。
…………僕はそんな彼女をただ見送ることしかできなかった。