ヤミを祓うは七つ球   作:名枕(ナマクラ)

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第六話 ギニュー死す

「――――ごはっ!! げほっ、ごぼぇっ!」

 

 あの塵屑の気がが遠ざかっていくのを確認してから、叩き込まれた海中から腐った血反吐と体液と嗚咽を吐き出しながら海上へと浮上する。

 

 最長老に潜在能力を引き出させてからドラゴンボールを手に入れるべく悟飯・クリリン・ベジータの三馬鹿の気を頼りに追いかけて行けば、見覚えのない塵屑が全てのドラゴンボールを持って移動しているのを発見。

 これ幸いと嬉々としてその塵屑に襲撃を仕掛けてドラゴンボールを奪おうとした所であの塵屑が何か不可解な事をした瞬間、視界が変わったかと思えば一瞬で元に戻り、戻ったと思えば無理矢理抑え込んでいた病魔が噴出して身体が戦闘どころではない状態で、何度も殴られエネルギー弾で爆破された。

 

 自分でも何を言っているのかわからない。状況が把握しきれていない。最後のエネルギー弾を、バリアーを張って防いでいなければ危なかった。

 

 そもそも病魔が表面上に噴出してなければあんな塵屑から殴打を連続で喰らう事もなかったのに、その病魔が表面にでてきた理由がわからない。

 

 今この時も蠢いているのに違いはないが、私自身が動く事のできる身体の状態へと意識的に(、、、、)肉体を操作(、、)維持(、、)しているのだ。その均衡が崩れる事など外的要因としか考えられないが……。

 

 考えられる要素としては、あの時一瞬視界が変わった事と、あの塵屑の様子、そして「身体をいただく」という言葉……そこから導き出せる答えは、おそらく私とあの塵屑の身体を入れ換えられたのだろうという事だ。

 

 そして病魔に耐えきれなかったあの塵屑はすぐさま元に戻り、結果として私の身体があの様になったという事か。一瞬程度も維持できないとは、所詮塵屑は塵屑というわけか。

 

 一応の答えが出たところで、ひとまず急いで取り出した仙豆をのどへと押し込み無理矢理嚥下する事でようやく人心地を得る。

 

「ごほっ! えふっ! はぁ……はぁ…………あの塵屑は殺す……! だがそれよりも今はドラゴンボールだ……!!」

 

 あの口ぶりからするとあの塵屑はフリーザの呼び出した部下のようなのでドラゴンボールは今フリーザの手元にあるのは間違いないだろう。

 

 最長老の所でも念のために確認したが、やはり事前にブルマたちから聞いていた通りドラゴンボールを手に入れても合言葉がわからなければ使用はできないのは間違いない。

 

 故にナメック星人を虐殺してきたことにより願いの叶え方を知る術を持つ事のなかったフリーザやベジータにドラゴンボールが渡った所で願いを叶える事は出来ない。

 

 合言葉を知らなければ願いを叶えられないという点は私も同条件だが、元々その事を危惧していた私は宇宙船での移動中にブルマたちからその合言葉を聞き出していた。さらには最長老の所でドラゴンボールの合言葉は共通であるという確認も取った。

 

 

 つまり奴らからドラゴンボールを奪えさえすれば私は願いを叶える事ができるのだ。

 

 

 不幸中の幸いであるが、ドラゴンボールの場所はあの塵屑の移動先を探知すればすぐにわかった。

 

 向かっている最中にフリーザらしき気と塵屑の気がそれぞれどこかに移動したが、元の地点に目立つ大型の宇宙船があったので間違いないだろう。

 

 フリーザとかいう塵がその場にいないのは運がいい。ようやく世界が間違いに気付き私の味方をし始めたかなどと思えてくる。

 

 さらにあの塵屑もこの場から離れていったのはさらにいい事だ。最初はドラゴンボールも持って移動したのかとも疑ったが、フリーザが先に移動した方向とはまた別の方向である以上、無断で持ち出すこともないだろう。

 

 そういえばそろそろ孫悟空とかいう塵がナメック星に到着する時期ではあるが、まさか先程の空から来た強い気が孫悟空とやらか? 先程孫悟飯とクリリン(使えない道具共)、さらにはベジータのいた辺りから強い気が幾つか消えて、そこにあの塵屑の気が向かっていったが……まあどうでもいい。

 

 

 重要なのはドラゴンボールが存在するこの場所に、この私以外誰もいないという事だ。

 

 

 だが予想に反してドラゴンボールが見つからなかった。宇宙船の中も探したがどこにもない。おそらくは横取りされるのを怖れてどこかに隠したのだろう。

 

 あの塵屑が、どこまでも私の邪魔を……!

 

 だが収穫もあった。ドラゴンボールを探して大型の宇宙船の中も調べたが、奴らの戦闘服とメディカルポッドという装置を発見した。

 

 先程の塵屑との戦闘で服がボロボロになっていたのでサイズの合う戦闘服を装着する。この丈夫なのに異様に柔らかい戦闘服の素材は興味深いが…………全身タイツが正式仕様とか頭おかしいんじゃないか。

 

 それよりもメディカルポッドという医療装置だ。使い方も調べてみるとそう難しくはない。新型と書かれた方は大穴が開いて派手に壊れていたので使えないが、旧型と書かれた方は問題なさそうなので後で回収しておこう。

 

 ドラゴンボールの捜索、そして宇宙船内の探索をしていると、ベジータがこちらに向かっているのを感知した。おそらくはヤツもここに向かっているのだろう。

 

「ちっ、時間をかけ過ぎたか……」

 

 気配で見つかる事はないだろうが、鉢合わせしないようにしなければ……今ならベジータにも勝てるが、無駄に塵相手に労力を割く事もない。

 

 どうやらベジータもドラゴンボールを奪いに来たようだが、ヤツにも見つけられないようで、早々に宇宙船の中に入ってきた。何をしているのかはわからないが、どうせ奴が見つけたところで願いは叶えられない以上、何の問題もない。むしろ見つけ出してくれたなら探す手間が省けるのだが……そんなうまい話はないようだ。

 

 そしてこの場にさらなる来訪者が現れた。

 

 

 孫悟飯とクリリンだ。

 

 

 おそらくドラゴンレーダーを手にした奴らは、この場所に到着するとともに宇宙船に入る事無くその脇に移動をし始め、いきなり何もない場所の地面を掘りだした。そしてそこから全てのドラゴンボールを掘り当てたのだ。

 

「あんなところに隠していたのかあの塵屑……」

 

 予め場所を知っていなければ気付けるはずもない。やはりドラゴンレーダーがあるのとないのとでは探索効率が段違いである。

 

 

 

 

 だがこれはチャンスだ。

 

 

 

 

 ドラゴンボールは全て揃っていて、フリーザという絶対的な邪魔者はおらず、願いを叶える合言葉を知っている者が、何の警戒心もなく神龍とやらを呼び出そうとしている。

 

 

 ならば神龍とやらを呼び出した瞬間に奴ら塵共を始末して私の願いを叶える。

 

 

 ……いや、おそらくはベジータも同じような事を考えているはずだ。それならばベジータがあの悟飯とクリリンを始末した後に勝利に浸っているヤツを不意討ちで殺してから、私の願いを叶えればいい。

 

 そして願いを叶えた後はその辺りに転がっている小型の宇宙船でこの星を後にすれば完璧だ。私の存在が露見していない以上、フリーザとかいう塵とわざわざ関わる必要はない。

 

 そのためにもまずは奴らが神龍を呼び出さない事には始まらない。奴らとしても一刻も早く願いを叶えたいのは同じはずだ。

 

 クリリンがすぐさま高々と合言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえ!」

 

 

 

 

 

 ………………………………………………だが、何も起きない。

 

 

 何も起きないじゃないかと睨むように悟飯とクリリン(使えない塵共)の様子を窺うと、呪文が違うのか、あるいはナメック語じゃないとダメなのかと焦りながら話している。

 

 ……最長老の側にいたあの付き人は地球と同じ合言葉だと言っていた以上、合言葉が同じなのは疑う必要はないだろう。

 

 おそらくは原因としては後者……ナメック星人の言語でなければこの星のドラゴンボールは起動しない。だが……ナメック語でなければ起動しないなどとは聞いていない…………その事を知っていてあえて黙っていたのか、あの塵が……!

 

 そんな中でも事態はさらに混迷としていく。悟飯とクリリンがもたもたしている間に、新たな来客が近付いてきていたのだ。この気の感じからすると……フリーザの部下らしきあの塵屑共か。

 

 それに気付いた悟飯とクリリンが咄嗟に宇宙船の陰に隠れて間もなく、見覚えのない男が二人現れた。

 

 格好からして道着を着た孫悟飯に似た男が孫悟空なのだろうと予測は出来るが……それならばその隣にいる塵は誰だ? 援軍が二人とは聞いていないし、そもそもとしてあの戦闘服を着ている以上フリーザ陣営だろうにソイツと並び立っている意味がわからん。孫悟空はまた別にいるのか?

 

 そんな奇妙な状況に、クリリン(無能な塵)は何の警戒心も抱いた様子もなくその場へと出ていった。その様子を見る限り、やはりあれは孫悟空のようだが……と、思っていると、悟飯からの警告が飛ぶとともに不用意に近づいていったクリリンが殴り飛ばされた。

 

 戸惑う悟飯とクリリンに対して、道着を着た塵とそれに付き従う塵が何か奇怪な、そして見覚えのあるポーズをとって何か口上を述べた。……あのポーズ、あの塵屑のしていたものに似ているような……?

 

 そしてさらにこの場に新たな塵が登場する。負傷が増えているが、私をボロ雑巾のようにしたあの塵屑だ。

 

 姿を現した時すぐさま殺してやろうかとも思ったが、どこか様子が少しおかしい。

 

 様子を窺ってその塵屑の言葉を聞くと、何らかの技――――おそらくは私にも使ったであろうあの技によって塵屑と身体を入れ替えられたらしい。その言葉を信じれば今のあの塵の身体は元々あの塵屑のもので、あの塵屑は今あの塵になっているという事か…………ええい、ややこしい。

 

 

 そしてあの塵屑姿の塵が助言らしきものにより悟飯とクリリンが塵姿のあの塵屑と戦い、それに付き添っていた謎の塵はいつの間にか姿を現していたベジータが相手をする事になっていた。

 

 

 私としてはあの塵屑は何としても殺しておきたいが、しかしハズレを引いてその間に逃げられるなどという事は避けたい。

 

 であればどちらも殺すのが確実なのだが、逃げられる可能性を減らすためにも疑わしい方を先に殺しておきたい。そのためにはせめて当たりを付けておきたいが……と、ふと単純かつ明快な方法を思い付いた。

 

 この方法であればすぐにわかる。デメリットとしては私の存在が明るみに出るという事だが……この場においての隠密は最早無意味とも言えよう。

 

 

 故にすぐさまその方法を実行した。その方法とは至極単純な物だ。それは――――

 

 

 

 

 

 

「――――五月蠅いぞ、塵共」

 

 

 

 

 

 

――――この混迷とした戦場に私が姿を現す事である。

 

 

「え!? ち、チア!?」

「どうしてここに!? というかその格好……!?」

 

 予想通りに騒ぎ出す悟飯とクリリンを放置しつつその場にいる全員の姿を見渡す。

 

 ベジータに関しては一瞬こちらに反応したものの、一先ずは戦っている塵に集中する事にしたようで特に語るべきことはない。それはベジータの相手をしている塵に関しても同様である。

 

 

 では肝心の二人はというと、こちらはその反応に明確な違いが浮き彫りになった。

 

 

 あの塵屑の姿をしている塵はというと、私を見て多少の警戒している。しかしその視線は未知なるものへの警戒に近い。私の事は初見であると判断していいだろう。

 

 一方、道着を着ている塵は此方を見て一瞬大きく動揺し、敵意を漲らせながら警戒している。その行動は、まるで信じられないものを見たとでも言うかのように、明確に私の事を把握しているものであった。

 

 

 

 つまり――――――

 

 

 

「――――塵屑は貴様だな。塵屑」

 

 

(★)

 

 

 その姿を見た時、驚きを隠せなかった。

 

 見慣れた戦闘服を纏っているものの、間違いなくアレはあの時殺したはずの化け物であった。

 

 可能性として考えていたはずだ。ヤツのあの凄まじい意思があればあれだけの負傷からでも生き延びる事もあり得ると。

 

 いくらドラゴンボールをフリーザ様にいち早くお届けするという任務があったとはいえ、何故俺はあの時にちゃんと死体の確認をしなかったのか、強く悔やまれる……!

 

 この身体は戦闘力18万を超える凄まじいパワーを持つはずだが、何故か3万にも届かない戦闘力しか引き出せていない今、奴と戦うには心許なさすぎる。

 

 いや、そもそもヤツが生きているという事実、それ自体が俺の心に恐怖を与える。嫌悪感が湧き上がる。

 

 

 

 

「――――塵屑は貴様だな。塵屑」

 

 

 

 

 その言葉と共に吊り上がった口元に、さらなる恐怖と嫌悪感が噴出する。

 

 それ以上に人の皮を被った死に損ないの化け物に、恐怖を感じた己自身に怒りが湧く。

 

 他のガキどもなど最早どうでもいい。ヤツだけは、ヤツだけは必ず殺さなければならない……!!

 

「この……、化け物がぁーーーー!!」

 

 そう思い、ガキどもを無視してヤツへと突進をかける。この心許ない戦闘力でも近接戦闘に持ち込めればヤツの脆い防御力を砕くのに十分だ。

 

 

 

 

 だが、その想定は甘かった。

 

 

 

 

 接近している最中に突如として身体に激痛が走ったのだ。

 

「がはっ…………!?」

 

 激痛の正体はヤツの撃ち出したエネルギー弾だった。左手の五指から放たれた黒色エネルギー弾がそれぞれ独特の軌跡を描きながら俺の四肢をはじめとする全身へとへと次々と的確に炸裂していく。

 

 今の俺にそのエネルギー弾の雨を避ける余裕など身体的にも精神的にもなく、最後の一発が胸部へと命中した時には既にこの身体は空を飛ぶだけの力すらも削り取られ、死に体とも言えるほどにダメージを負っていた。

 

 さらに化け物の右手にはトドメのつもりなのか、目に見えて収束していくエネルギー弾が大気を震わす程に強大な物になっていた。

 

「さっさと死ね、この塵屑が……!!」

 

 だ、ダメだ……!! この程度の戦闘力では近接戦闘に持っていく事すらできない……!! せめて、前の身体程の戦闘力があれば……!!

 

「――――ま、待ってチア! あの身体はお父さんの身体で……!!」

「……っ! 死にたくなければ邪魔をするな……!」

 

 と、ここで先程まで戦っていたガキどもがヤツを阻んだ。それでヤツが躊躇するとは思えないし、あのガキどもごとエネルギー弾を撃ち出す事もあり得るが、それでも僅かな隙ができた!

 

 これは最後のチャンスだと、僅かに動いただけで全身に走る痛みを無視してこの身体の最後の力を振り絞り、狙いを定める。

 

「ぐっ……ぐがががぁ……!」

 

 この程度の隙ではヤツに一矢報いる事はこの身体ではできないだろう。かといってベジータの身体を奪うにしてもジースとの戦闘で狙いを定める事も困難だ。

 

 

 であれば妥協ではあるが、再びかつての身体とボディチェンジを発動させる!

 

 

 負傷によって万全とは言えないが、それでもこのボロボロの身体よりはマシだ!

 

 

 

 

「――――チェェェェェンジィ!!」

 

 

 

 

 力なく宙から落ちながらもその言葉を口にした瞬間、今の身体から放たれた光がかつての身体へと命中し、再びその精神が入れ替わる。

 

「ごほっ……!? も……もど、れた、みてぇだ……」

「え、あっ!? お、お父さん!」

「え!? じゃあまた入れ替わったのか!?」

 

 元に戻った事でガキどもが困惑するがそんなことを気にする暇はない! 元の身体の負傷による痛みが精神に訴えかけてくるが関係ない! 今やるべきことはただ一つだ!

 

 

「――――消えてしまえぇぇぇぇっ!」

 

 

 体が入れ替わったと同時にあの化け物へと向きかえり全力のエネルギー波で消し飛ばさんと手を突き出し――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――それを見越さぬ私ではない」

 

 

 

 

 

 

 

――――視界は既に、小さな掌で収束し切った黒いエネルギーで埋め尽くされていた。

 

 

 

「―――――――」

 

「塵芥すら残さず消えろ、塵屑」

 

 

 エネルギー波を撃ち出す暇すらなく、ヤツの撃ち出したエネルギー波はこの身体を呑み込んだ。

 

 

 

 黒いエネルギー波が呪詛のように身体を侵し尽くしていくのを感じながら、俺の意識も炎に呑まれていくかのように消えて――――

 

 

 

 

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