時系列は、7巻5章の後。
――ダクネスと悪徳領主の結婚式をぶち壊した、その夜の事。
ダクネスが、病み上がりの親父さんを世話するのと、領主がどう動くかを見張るために、ダスティネス邸に残ると言うので、バカな事は考えないようにと皆で念を押してから、俺達だけで屋敷に戻ってきている。
広間にて。
俺はアクアとめぐみんに。
「……ダクネスが戻ってくる前に、荷物をまとめておこうと思う」
「えー? せっかくダクネスが帰ってくるんだし、むしろダクネスお帰りなさいパーティーの準備をするべきじゃないかしら? カズマったら、ヒキコモリのくせにどうしていきなり旅行なんてしたがるの?」
「アクアは何を言っているのですか? 私達は貴族の結婚式をぶち壊したんですよ。このままだと全員まとめて死刑になるので、ほとぼりが冷めるまで、どこか田舎にでも引っこんでおいた方がいいと思います」
俺の言葉に、アクアがバカな事を言うが、めぐみんのツッコミに青い顔をして何度もうなずく。
「いいか? 必要な物だけ手早くだぞ? 特にアクア。お前はどうせ余計な物まで詰めこもうとして荷物を大きくするだろうから、本当に必要な物だけにしておけよ」
「任せなさいな! この私の荷作りテクを見れば、カズマも自分がどれだけ愚かな事を言ったか分かるってもんよ。あまりの神業にお茶の間もびっくりするんだから! 明日の朝が楽しみね!」
……どうしよう。
アクアのドヤ顔を見ると不安しかないが、コイツはたまにすごい才能を発揮する事もあるので、普通ならありえないような収納術を見せてくれるのかもしれない。
「そ、そうか。本当だな? 信じるからな?」
しかし今はアクアに構っている暇はない。
俺がアクアから目を逸らし、めぐみんを見ると。
「私は鞄ひとつに収まりますので、すぐ終わりますよ」
「そういや、めぐみんは紅魔の里からアクセルまで旅をしてきたって言ってたな。俺達の中では一番旅慣れてるし、持ち物も少ないから、お前の事は心配しないで良さそうだ」
「ええ、任せてください。なんなら、カズマの荷造りも手伝ってあげましょうか?」
……なんだろう、ただ荷作りをするだけのはずなのに、すごく不安なんだが。
*****
俺は部屋に戻ると、タンスから衣類を取りだしていく。
最低限の持ち物といえば、着る物さえあればいいだろう。
それと、クエストをこなすための冒険者の装備があれば、どんなところに行っても細々と生きていく事は出来るはず。
鍛冶スキルと料理スキルがあるから、住処の環境を整える事も、食べ物を美味しく料理する事も出来る。
潜伏や狙撃で獲物を狩る事も出来る。
いろいろなスキルを取っておいて、本当に良かった。
そんな事を考えながら荷物をまとめていくと、衣類と冒険者の装備をひとつの鞄に詰めても、まだ少し余裕がある。
他に持っていく物は……。
俺の視線はベッドの下に向かう。
あのコレクションを置いていく事なんて、俺にはとても出来ない。
と、俺がベッドの下を探ろうとした、そんな時。
コンコンとドアがノックされ、部屋の外から声が掛けられた。
「カズマ。荷作りは終わりましたか? 私に何か手伝う事はありませんか?」
すぐに終わるという先ほどの言葉どおり、めぐみんは荷造りを終えて、手伝う事がないか俺に聞きに来たらしい。
「ななな、なんだよ! まだ終わってないけど、手伝ってもらうような事はないぞ! アクアが何かおかしな事をしてるかもしれないし、俺の事より、あいつの様子を見に行ってくれよ!」
「何をそんなに動揺しているんですか? 何かやましい事でも……」
俺が返事をすると、めぐみんがドアを開け部屋を覗きこんできて。
「……!? ちょっ! あなたは何をやっているんですか!」
「何って、荷物をまとめてるとこだよ」
「に、荷物って……! おい、乙女の前で堂々とエロ本をしまうのはやめてもらおうか!」
ベッドの下からエロ本を取りだし、選り分けて鞄に入れる俺を見て、めぐみんが声を上げた。
突然の事で焦ったが、よく考えてみれば、めぐみんにエロ本を鞄に入れているところを見られるくらいはなんでもない。
「はあー? 一緒に風呂にまで入った仲なのに、今さら恥ずかしがるような事かよ。というか、手伝うとか言ってたくせに、邪魔をするのはどうかと思う。ほら、文句を言うなら出ていって! アクアのところに行ってきて! これから、ベッドの下とは別のところに隠してる、とっておきをしまうんだよ!」
「必要な物だけ手早くまとめろと私達には言っていたくせに、あなたは何をやっているんですか? そんなものを入れたせいで鞄が重くなって、逃げきれなかったらどうするのですか?」
「これは俺にとって絶対に必要なものだ。なくてはならないものなんだ。エロ本のせいで捕まって殺されるなら、それはもう仕方ない事だと思う」
「全然仕方なくありませんよ! その時は私達も一緒だという事を忘れないでください! 私はエロ本のせいで死ぬなんてごめんですよ!」
めぐみんが部屋の中に飛びこんできて、俺からエロ本を取りあげようとする。
「や、やめろお! おい、本なんだから丁寧に扱えよ! 破れたらどうすんだ!」
「なんですかこんなもの! こんな……! こんな……! ……あの、どうしてこんなに巨乳モノばかりなんですか?」
「それは俺が巨乳好きだからだよ」
めぐみんが無言でエロ本を真っ二つに破いた。
「あああああああっ!? なんて事を! 何やってんだお前!」
「あっ……。す、すいません。つい、イラっとして。……で、ですが本なのですから、また買えばいいのでは? 弁償するので許してください」
「バカ! 俺達はこれから逃亡者になるんだぞ! エロ本なんか買ってる場合か!」
「あ、あなたがそれを言うのですか? ですが、まあ、そのとおりですね。……では、コレは諦めるという事で」
言いながら、めぐみんは破いたエロ本をポイとゴミ箱に放り捨てる。
コイツ……!
「お前ふざけんなよ! そんな簡単に諦められるか!」
俺の剣幕に怯むも、めぐみんは強気な口調で。
「で、ですから謝ったでしょう! それに弁償できれば弁償しますよ。申し訳ないとは思いますが、これ以上私にどうしろと言うのですか! たかがエロ本くらいでそこまで怒らなくてもいいと思います!」
「たかがエロ本? たかがエロ本っつったか! お前にとってはたかがエロ本かもしれないけどな、俺にとっては大事なものなんだよ! 何が大事かなんて人それぞれなんだから、軽々しくたかがとか言うなよな! ……めぐみんにとって大事な物って言うと、あのマナタイト製の杖とかになるのか? 例えば、俺があれをうっかり折っちまって、怒るめぐみんに対してたかが杖じゃないかと言ったとしたらどうだ?」
「爆裂魔法を撃ちこんでやろうかと思います」
「そうだろ? 今の俺もそのくらい怒ってるって事だからな」
「あの、私の杖とエロ本を一緒にするのはさすがに……。い、いえ、カズマの言うとおりですね。すいませんでした。たかがと言ったのは私が間違っていました。ですが、私にはどうする事も……。その、アクアに頼んで、ご飯粒でくっつけてもらいましょうか?」
「バカ! お前はなんにも分かってない! いいか、エロ本を使う時っていうのはな、勢いが大事なんだよ。ページをめくりながら段々興奮していくのに、あっ、このページはめぐみんに破られてアクアに直してもらったところだな、なんて事をふと思っちまったら台無しなんだよ!」
「分かりません! 分かりたくもありませんよ!」
俺の言葉に、めぐみんが両手で耳を塞ぐ。
俺はそんなめぐみんに。
「よし分かった! さっきお前は、私にどうしろと言うのですかって言ってたな? じゃあ、これから言う事をしてくれたら、エロ本の事は許してやるよ」
「な、なんですか? あまりおかしな事を言うようなら、部屋ごと爆裂魔法で吹っ飛ばしますよ」
「お前は今日の分の爆裂魔法をもう撃っただろ。そんなに難しい事じゃないよ。お前自身がエロ本になる事だ」
「……? ちょっと何を言っているのか分からないのですが」
「お前自身がエロ本になる事だ」
「いえ、言葉が聞き取れないとかそういう事ではなくて、あなたは何を言っているのですか?」
そう言いながらも、俺の言葉に嫌な予感を感じているらしく、めぐみんは胸元を隠そうとする。
俺はそんなめぐみんに、懇切丁寧に説明してやる。
「めぐみんが破ったエロ本の分だけ、めぐみんが俺をエロい気分にさせてくれるって意味だ。エロ本は見るだけのものだし、ちょっとその貧乳を見せてくれるだけでいいぞ。……ほら、分かったらさっさと脱げよ」
「お断りですよそんなもん! というか、誰が貧乳か!」
「ほーん? さっき、大事な物を壊されたらって話をしたのに、まだそんな事を言うのか? じゃあ、俺のエロ本を駄目にしたお返しに、めぐみんの杖を折りに行くけど構わないか? ああ、もちろん弁償はしてやるよ。ダクネスの借金を返すために全財産はたいちまったから、今すぐってわけには行かないが、そのうち杖も買いなおしてやる。でもめぐみんもすぐにはエロ本を弁償できないんだから、文句はないよな」
「そ、それは……! 待ってください! それは待ってくださいよ! その、私の杖がなくなったら、戦力が大幅にダウンしますよ!」
部屋を出ようとする俺を、めぐみんがドアを背にして止めようとする。
「そんなもん俺が知るか。いいからそこをどけ。おい、いいのか? 俺より高い筋力のステータスで足止めする気かもしれないが、爆裂魔法を使っためぐみんは魔力がほとんど尽きてるから、ドレインタッチを使えばすぐに動けなくなるぞ!」
「ま、待ってください! 本当に待ってください! あの杖を折られるのは……! で、でも、こんなシチュエーションで胸を見せるというのも……!」
「さあどうする? さっさと決めないと、ドレインタッチで魔力を奪って、動けなくなっためぐみんにいたずらをするかもしれないぞ? なんてったって、めぐみんにはエロ本の代わりをしてもらわないといけないんだからな。多少のセクハラはしょうがないよな」
「最低です! あなたは最低ですよ! ああもう、どうすれば!」
顔を赤くし頭を抱えるめぐみんに、俺はパンパンと手を叩きながら。
「エ、ロ、本! エ、ロ、本!」
「バカなコールをするのはやめてください! 分かりました! 分かりましたよ! その……、杖を折るのは勘弁してください」
……えっ。
「そ、それって貧乳を見せてくれるって事ですか?」
つい敬語になる俺に、めぐみんは瞳を紅く輝かせて。
「おい、いい加減に私を貧乳扱いするのはやめてもらおうか。他が目立つからそう見えるだけですよ。……い、今から見せるので確認すればいいと思います」
マ、マジで?
まさか本当に見せてもらえる事になるとは。
破られたのはダストから借りた、そんなに好みでもないエロ本だったのだが、ごねてみるもんだなあ……。
と、めぐみんが袖口から服の中に手を入れて、モゾモゾしていると。
突然ドアが開いて、部屋の中を覗いたアクアが。
「ねえー、二人とも、さっきから何を遊んでいるの? 話し声が私の部屋まで聞こえてきたわよ? 急いで荷物をまとめろって言っていたくせに、二人だけで楽しそうにしてるのはどうかと思うんですけど!」
「お、おい、今いいとこなんだから邪魔するなよ!」
「ア、アクア! その、これはですね……」
唐突なアクアの登場に、俺とめぐみんが慌てる中。
俺の部屋を見回したアクアは。
「カズマさんったら、それ持っていっちゃっていいの? 半分くらいは、ダストとかいうチンピラから借りてるやつなんでしょう?」
俺が鞄に入れようとしていたエロ本を見て、そんな事を……。
「いや、なんでお前がそんな事知ってるんだよ?」
「おい」
俺の言葉に、めぐみんがひと言だけツッコミを入れる。
そんなめぐみんは、紅く輝くジト目で俺を見ながら、足元にシュルリと落ちた黒い何かを拾い上げて……。
「めぐみんさん、ノーブラですか?」
「うるさいですよ。誰のせいですか。……それで、あのエロ本はあなたのものではなかったのですか? 返答次第では、あなたは囮としてこの屋敷に置いていく事になりますよ」
俺は下手な言い訳をせず、即座に土下座した。
*****
「まったく! カズマはまったく! あなたがスケベなのは知っていましたが、時と場合を考えてくださいよ! 急いで荷作りをするように言ったのはあなたではないですか!」
「わ、悪かったよ。でも、俺はもう荷物をまとめたし、めぐみんだってまとめ終わってるんだろ? 夜明けまでまだ時間はあるし、のんびりしてもいいんじゃないか? アクアとセレブごっこしてた時に買った、最高級の茶葉がまだ残ってるはずだから、飲み納めになるかもしれないし淹れてきてやるよ」
怒るめぐみんを俺が宥めていると。
「ねえ二人とも。やる事がないんだったら、私の荷造りを手伝ってほしいんですけど!」
アクアがそんな事を言ってくる。
「はあー? 急いで荷物をまとめろって言ったのに、今までお前は何をやってたんだよ?」
「めぐみんと遊んでたカズマに言われたくないんですけど」
「いや、俺達はもう終わったって言ってるだろ。というか、荷物をまとめるだけなのに、どうしてそんなに時間が掛かってるんだよ? お前、余計な物まで鞄に詰めようとしてないか? 必要な物だけにしとけって言っただろ」
「エロ本を鞄に詰めてたカズマに言われたくないんですけど」
「あれは必要な物だって言ってるだろ! おいやめろ。分かったよ! エロ本の重さの分、他の荷物を減らすから、エロ本を取りだそうとするのはやめろよ! 人の荷物を勝手に漁るのはマナー違反だと思う!」
俺とアクアの会話を聞いていためぐみんが、俺の鞄から勝手にエロ本を取りだそうとするのを、めぐみんを羽交い絞めにして止める。
なおも暴れるめぐみんを押さえつけながら。
「よし分かった! お前の荷造りを手伝ってやるよ! めぐみんも行くよな!」
俺とめぐみんが、アクアの部屋に行くと……。
「かんぱーい!」
アクアが、部屋に入るなり俺とめぐみんに渡してきたジョッキに、自分のジョッキをぶつけてくる。
「いつかきっと戻ってくるから、寂しいかもしれないけど、我慢して待っていてね。ほら、今日はいつもの子供向けの甘いお酒じゃなくて、私のとっておきのお酒を飲ませてあげるわ。お別れだからって、悲しんでばかりいては駄目よ。お酒は楽しくパーっと飲まなくちゃ!」
さらに、アクアは自分の隣にも酒の入ったカップを置いて、誰もいない空間に向かってわけの分からない事を言いだした。
「いや、お前は何をやってんの? 時間がないって言ってるだろ! 今晩中に荷物をまとめて逃げる準備をしておかないと、明日の朝、いきなり警察に踏みこまれるかもしれないんだぞ。酒なんか飲んでる場合かよ!」
「鬼! あんたは鬼よ! この鬼畜ニート! お別れの時間くらいくれたっていいじゃないの!」
「……お別れ?」
俺は首をかしげるが、すぐに納得して。
「よし分かった。アクアは置いていこう」
「なんでよーっ! お別れするのは私じゃないわよ!」
「駄目ですよカズマ! 何を言っているんですか!」
俺の言葉に、アクアが涙目になり、めぐみんもツッコんでくる。
「それで、お別れってのはなんの事だよ?」
「この屋敷には、貴族の隠し子だった女の子の幽霊が取り憑いているって、前に言ったでしょう? ほとぼりが冷めるまでどこか遠いところに行くって事は、この子ともしばらくお別れする事になるし、最後に一緒にお酒を飲んでいたのよ」
いつぞやの悪霊騒ぎの時に、アクアが霊視したと言い張っている貴族の少女。
その少女が、とっておきの酒を飲んでしまうと言ってアクアがたまに騒いでいた。
どうせ、俺に酒代をせびりたいだけだろうと思っていたのだが……。
「言われてみれば、そんな設定もあったな。こっそりお前の酒を飲んじまうんだろ?」
「設定じゃないわよ! 本当にこの屋敷にはその子が住んでるんだってば! 私達が夕飯の時に、その日のクエストの話をしていたのはなんのためだと思ってるのよ!」
「お前らの失敗を認めさせておかずを取り上げるためだろ」
「私の爆裂魔法による華々しい活躍を語り伝えるためです」
真顔で答える俺とめぐみんに、アクアが。
「違うわよ! 冒険者に憧れていたこの子を喜ばせるためよ! この子はね、私達の話をいっつも楽しそうに聞いていたのよ。私達が出ていっちゃったら、またひとりぼっちになっちゃうんだし、お別れの時間をくれたっていいじゃない!」
「まあ、別に酒を飲むくらい構わないが、その前にお前は荷物をまとめておけよ」
俺はジョッキに口をつけながら、アクアの部屋を見回す。
放っておくとなんでもかんでも家に持って帰ってくるアクアの部屋は、持っていく物を選り分けるために物をぶちまけたらしく、いつも以上に散らかっている。
そんな汚部屋の真ん中に。
人ひとり余裕で入れそうな、巨大な鞄が置いてある。
「……いや、何コレ? お前、コレ持って逃げられるのか? というか、持ち上げられるのか?」
「当たり前でしょう? 私を誰だと思っているの? 貧弱なあんたと違って、筋力も体力も超高いアクア様よ? これくらいなんでもないわ」
そう言って、アクアはリュックサックのように背負うタイプの鞄の紐に両手を通し、立ち上がろうと……。
「うっ!」
……して立ち上がれず、荷物の重さに尻餅を突いた。
「……『パワード』! ……ほらカズマ! ちゃんと持ち上げられたでしょう?」
「いや、支援魔法まで使って荷物を持ってどうすんだよ。俺達は逃亡者になるんだから、身軽に動けないといろいろとマズいだろ。何度も言うけど、入れるのは必要な物だけにしろよ」
「何よ! カズマだってエロ本を詰めてるくせに!」
「それはもういいだろ! 俺はちゃんと、自分で持てるだけの分量に留めておいたよ。どうしてもガラクタを持っていきたいんなら、お前ももっと荷物を減らせよ」
「いやーっ! いやよ! この子達は皆、私にとっては大事なものなの! ガラクタ扱いしないでよ! 捨てていくなんて絶対に嫌!」
と、俺とアクアが言い合っていると、めぐみんがポツリと。
「というか、アクアは私達に何を手伝ってほしいんですか? アクアの荷造りはまだ終わっていないという事ですよね? これ以上、他に何か入れるつもりなんですか?」
「そーでした! ねえカズマさん。大事な物から順番に入れていったら、服とかの日用品を入れるスペースがなくなっちゃったのよ。どうにかならないかしら?」
「お前バカか! そんなもん、最初に入れとけよ!」
「しょうがないじゃない! 私にとっては服より大事なものがたくさんあるのよ! カズマだってエロ本を入れてるじゃない!」
「エロ本の話はもういいよ! いや、ちょっと待て。服とかを入れてないって事は、この中には何が入ってるんだ? お前、女神が武器を振るう姿は優雅さに欠けるとか言って、クエストの時も装備を持ち歩かないじゃないか? 他に必要な物なんて……」
「あっ! 待ってカズマ! その鞄は開けないでちょうだい!」
止めようとするアクアを無視し、俺が鞄を開けると。
「うおっ!」
パンパンに詰まっていた中身が、すごい勢いで飛びだしてきて……。
飛びだして……。
飛びだし……、…………。
…………おい。
飛びだすというか、溢れ出てきたガラクタは、どう見ても鞄の容量よりも多いんだが。
「あーっ! せっかく苦労して詰めこんだのに、また最初からやらないといけなくなったじゃない! カズマったら邪魔しないでよ!」
俺に文句を言いながら、鞄にガラクタを詰めなおすアクア。
「いや待て。おかしいだろ。明らかにおかしい。なんで鞄の容量よりも出てきたガラクタの方が多いんだよ? こんなもん入りきるわけないだろ? どうやって詰めこんだんだ?」
「アクアは相変わらず、どうでもいいところですごい才能を発揮しますね」
感心したように呟くめぐみんに、アクアは得意げに。
「ふふん! これがアクア様の神業収納術ってやつよ! めぐみんもやってみる?」
「そうですね。荷物を小さくまとめられるというのは、冒険者にとっては重要な技能ですし、私にも出来るのなら教えてほしいです」
「いや違うだろ。今そんな事はどうでもいいんだよ。それより、お前はガラクタじゃなくてまず服を詰めろよ。その後なら、好きなだけガラクタを詰めても止めないからさ」
そんな俺の言葉にめぐみんが。
「カズマはさっき、何が大事かは人それぞれだと言っていたではないですか。アクアにとってここにある物は、カズマにとってのエロ本と同じくらい大事だという事なのでしょう? ガラクタ扱いするのはどうかと思いますよ」
「エロ本なんかと一緒にしないでほしいんですけど! ここにある物は、もっと大事だし価値があるんだから!」
「おい、俺の大事なエロ本をこんなガラクタと一緒にするのはやめろよ」
口々に言う俺とアクアに、めぐみんは頭が痛そうな顔をする。
「……なんというか、あなたたちは本当に似た者同士ですね。まあでも、これはカズマの言うとおりだと思いますよ。こんなにたくさん詰めこんでも、重くて持っていけないでしょう?」
「めぐみんまで! 大丈夫よ! ちゃんと持っていくから、意地悪言わないでよ!」
「いえ、意地悪というわけでは……」
駄々を捏ねるアクアに、めぐみんが助けを求めるように俺を見る。
……俺を頼られても。
「ったく、しょうがねえなあー。アクアみたいに神業収納術ってわけじゃないけど、俺も主婦のための情報番組とか見てたし、整理整頓術ってのには心当たりがある。めぐみん、使ってない箱かなんか持ってきてくれないか?」
「分かりました」
めぐみんが持ってきてくれたものと、俺が適当に集めたものとで、入れ物を三つ用意する。
俺はその入れ物にそれぞれ、『要る』『要らない』『どちらでもない』と書きこんで。
「これが要る物を入れる箱で、こっちが要らない物を入れる箱。真ん中が、どちらでもない物を入れる箱だ。この分け方で分別してくれ」
「わざわざそんな事しなくても、これは全部要る物なんですけど!」
俺が捨てろ捨てろと言いまくったせいで警戒しているらしいアクアが、ガラクタの山を守るように抱えながら、頬を膨らませる。
「お前、少しくらい考えろよ! 全部持ってくのは無理だって言ってるだろ!」
「いやよ! 嫌ったら嫌! この子達はひとつも見捨てていかないわ! ずっと一緒にいるんだから!」
「そんな大荷物を持ち歩いたら目立つし、いざって時に素早く動けないだろ。そのガラクタを持っていったせいで追っ手に捕まったらどうするつもりだよ? 貴族の結婚式を邪魔した俺達は、捕まったら死刑になるんだぞ」
「いいわよ、死んでやるわ! この子達のために死ぬんなら本望よ!」
「お前ふざけんなよ! そんなガラクタのために命を危険に晒してたまるかよ!」
「……なんでしょう、カズマの言っている事は間違っていないのですが、釈然としませんね」
さっきからめぐみんがうるさい。
「よし分かった。そんなにガラクタと一緒にいたいなら、お前ひとりでここに残ったらいいじゃないか。俺はめぐみんとダクネスと一緒に、どこか遠いところへ行って、ほとぼりが冷めるまで畑でも耕して暮らす事にするよ」
「わああああああーっ! 待って! 待ってよ! 分かったから見捨てないで!」
アクアが俺を恨めしそうな目でチラチラ見ながら、ガラクタを要る物と要らない物とどちらでもない物に分けていく。
なんの役に立つのか分からないおもちゃのようなものを、『要る』の箱に入れ。
何に使うつもりなのか分からない何かの種を、『要る』の箱に入れ。
どうして拾ってきたのかも分からない小石を、少しだけ悩んでから『要る』の箱に入れ……。
「いや、お前は何をやってんの? 分別しろっつってんだろ! 全部要る物扱いしたら意味ないじゃねーか! ていうか、こんな小石拾ってきてんじゃねえ!」
「わーっ! それはカズマさんがつまずいて転んで赤っ恥掻いた記念の小石なのに!」
俺はアクアの手から小石を取り上げ窓から捨てた。
「うっ……、うっ……。カズマが……、カズマが私の大事なものを奪って……」
泣きじゃくるアクアに、めぐみんが責めるような目で俺を……。
…………。
「いや、そんな責めるような目を向けてくるのはやめろよ。というか、アクアは誤解を生むような言い方をしてるが、お前は一部始終を見てただろ。俺のやり方に文句があるんだったら、めぐみんがアクアのガラクタを持ってやればいいじゃないか。めぐみんは荷物が少ないし、筋力のステータスも高いんだから、やって出来ない事はないだろ」
「いえ、お断りします。自分の荷物は自分で持つべきだと思います」
俺の言葉に、アクアが縋るような目でめぐみんを見るも、即座にめぐみんに断られてしょげていた。
「……うっ、うっ。……終わりました」
アクアがうっとうしく泣きながらガラクタの仕分けを終えて。
三つの箱には、大量の要る物と、溢れんばかりのどちらでもない物と、少量の要らない物が入れられている。
俺は要る物の箱をアクアに渡して。
「ほれ、お前が鞄に詰めていいのはこれだけだ。あとの要らない物と、どちらでもいい物は置いてけ」
「なんでよ! どちらでもいい物なんだから、持っていってもいいと思うの!」
「うるせーっ! これはお前みたいな片付けの出来ない奴のための整理整頓術なんだよ! 『どちらでもいい』の箱に入れたやつは、どうせ使う機会なんか来ないから捨てちまえ!」
というか、要る物の箱に入っているガラクタにも使い道があるとは思えないのだが。
アクアが、取り上げた箱を脇に除ける俺に、恨めしそうな目を向けて。
「……私にとって、カズマさんはどちらでもいいものなんですけど」
「言っておくが、俺にとってお前は要らないものだからな」
*****
「あとはダクネスの荷物ですね」
アクアの荷物をまとめさせた後。
アクアが地縛霊の女の子とのお別れ会をしたいと駄々を捏ねるので、ささやかな宴会をしていると、めぐみんが言った。
「そうね! ダクネスはいないし、今夜中に荷物をまとめておかないと逃げられないかもしれないんだから、これはしょうがないわね。ええ、ダクネスの部屋をじっくり漁ってしまってもしょうがないわ!」
「そうだな! ダクネスは恥ずかしがって俺達にあまり部屋を見せないが、こういう状況じゃ仕方ないな!」
俺達は口々に言い合いながら、ダクネスの部屋へ行く。
ダクネスの部屋は、質実剛健といった感じの、お嬢様らしさとは無縁の部屋だが……。
「ねえ見て二人とも! ダクネスったら、クローゼットの奥にこんな可愛らしいぬいぐるみを隠しているのよ!」
迷う事なくクローゼットの奥を調べ、ダクネスが隠していた可愛らしいぬいぐるみを引っ張りだしたアクアに、めぐみんが戦慄した様子で。
「……あの、どうしてダクネスが隠している事をアクアは知っているのですか? そういえば、さっきもカズマのエロ本がチンピラの持ち物だと知っていましたし、ひょっとして私が隠している事も知っているのですか? いえ、私には仲間に隠している事などありませんが」
「もちろん、めぐみんが格好いい爆裂魔法の詠唱を手帳にメモしてる事も知ってるわよ。この屋敷の中で、私に隠し事が出来るとは思わない事ね!」
ドヤ顔でロクでもない事を言うアクアに、俺とめぐみんは顔を見合わせる。
「なあ、ひょっとしてアクアが言ってる地縛霊の女の子って、実在するのか? その子に聞いたから俺達の秘密も筒抜けなんじゃないか?」
「ま、まあ、私は別に、隠し事なんかないので構わないのですが……」
…………。
……今度から、人に言えない事をする時には部屋の四隅に塩を盛っておこうか。
「ダクネスはこの子に悩み事とか相談してるみたいだから、荷物の中に入れておいてあげたらきっと喜ぶわ!」
ぬいぐるみを抱えたアクアがそんな事を言う。
俺にはダクネスが顔を赤くして怒るところしか想像できないが……。
「まあ、ダクネスは貴族だし、逃亡生活をした経験なんてないだろうから、ぬいぐるみを入れておいてやったら気休めになるかもしれないな」
「カズマは逃亡生活をした経験があるみたいな言い方ですね」
「俺はお盆や正月に親戚が集まってきたら、自分の部屋に逃げこんでいたからな」
「……それは自慢するような事なのですか?」
「そして、ギルドの皆と一緒に大物を狩りに行ったもんだ。そういう時期には強敵が現れる事もあったからな」
俺に呆れたような目を向けていためぐみんが、俺を尊敬するように、おお……と呟く。
ネットゲームの話ですが。
と、アクアがダクネスの荷物に、こっそりと何かを入れようとしていて。
「おいちょっと待て。それって俺が捨てろって言ったお前のガラクタじゃないか。ダクネスの荷物に入れようとするのはやめろよ」
俺は、そんなアクアの手首を掴んで止める。
「やめてよ! ガラクタ扱いしないでってば! これはダクネスの荷物なんだから、カズマが口出しする事じゃないわ! ダクネスはカズマやめぐみんと違ってチョロいから、私の荷物を紛れこませておいても許してくれるはずなの!」
「駄目ですよアクア! 冒険者たるもの、自分の荷物は自分で持つべきです!」
「何よ! めぐみんだって、よくカズマにおんぶしてもらってるじゃない!」
「……!」
めぐみんがアクアを止めようとするも、アクアに反論されてぐぬぬと歯噛みする。
……どうしよう。
どうしてもガラクタを持っていきたいらしく、アクアがいつになく強情だ。
やっぱり、コイツはこの屋敷に置いていこうか?
「確かに、ダクネスならアクアのガラクタも持ってくれるかもしれないが、どっちにしろ、必要なものを入れるのが先だろ。剣や鎧はダクネスが実家に持っていったみたいだから、着替えとか、冒険者セットとか、そういうのを入れろよ」
「仕方ないわね。また私の神業収納術を見せてあげるわ。そしたらこれも入れていい?」
「入れるスペースが余ったらな」
言いながら、俺とアクアが部屋を漁ろうとすると。
「ちょっと待ってください。一応乙女の部屋なのですから、カズマは少しくらい遠慮してくださいよ。というか、どうして真っ先にタンスから下着を取りだそうとしているんですか?」
めぐみんがそんな事を言ってくる。
「はあー? 何言ってんの? 俺はダクネスのために、一番大事な物から入れていこうと思ってるだけで他意はないぞ。それとも、お前らは替えの下着がなくても大丈夫なのか? ほら、分かったらあっちへ行って! めぐみんは冒険者セットでも探してくれよ!」
「駄目に決まっているでしょう! 私が下着を荷物に入れるので、カズマが冒険者セットを探してきてください!」
俺の服の袖を引っ張っるめぐみんに抵抗していると、机の引き出しを漁っていたアクアが。
「カズマカズマ! ねえ見て、ダクネスったら日記を置いていってるわよ!」
「お、お前……。必要な物から入れろって言ったのに何やってんだよ? そっちも面白そうだが、俺は下着を漁るのに忙しい」
「この男!」
怒っためぐみんに、俺がガクガク揺さぶられる中。
アクアがダクネスの日記を開いて。
「……『今日、クーロンズヒュドラの討伐に成功した。このところ、毎日のようにめぐみんとともに挑んでも、まったく倒せる気がしなかったのに、カズマがアクセルの街の冒険者達を集め、戦いの指揮を取ると、あっさりと討伐してしまった。あの男はいつも、最後の最後には困難をなんとかしてしまう』」
俺とめぐみんは争いをやめ、アクアがダクネスの日記を読みあげるのを聞く。
「『多くの冒険者の協力を得たため、報酬の十億エリスで借金を返済する事は出来なくなったが、もうそんな事はどうでもいい。私はこの街の連中が好きだ。そして、カズマとアクア、めぐみんの事が大好きだ。皆のためになるのなら、この身をあの領主にくれてやるくらい、なんでもない。ダスティネス家の娘として、政略結婚をする事になるのは覚悟していた事だ。それに、私を見るあの領主の、獣のような目! きっと、何日もぶっ続けて私の体を貪られてしまうだろう。想像しただけでも』……、…………」
「……? なんだよ? 続きを読んでくれよ。想像しただけでも、なんだって? どうせあの変態の事だから、ロクでもない事が書いてあるんだろ? まあ、ダクネスもあの領主との結婚には乗り気じゃなかったみたいだけどな」
読むのをやめたアクアを俺が促すと、アクアは首をかしげて日記のページをぺらぺら捲り。
「そこで終わってるわ。ダクネスったら、どうしてこんな中途半端なところで書くのをやめちゃったのかしら?」
そんなアクアの言葉に、めぐみんが怒ったような困ったような顔で。
「まったく! ダクネスはまったく!」
「どうしたのめぐみん? めぐみんが意味もなく凶暴化するのはよくある事だけど、ダクネスが日記を書くのを途中でやめたくらいで怒るのはどうかと思うわよ?」
「違いますよ! ダクネスがあまりにもアホなので、ちょっとイラっとしただけです!」
突然怒りだしためぐみんに、俺とアクアは顔を見合わせて……。
「これはダクネスの荷物の一番上に置いておきましょうか」
「そうだな。こんなアホな決意を書いた日記を読まれたって知ったら、ダクネスは泣いて恥ずかしがるんじゃないか」
「鬼ですかあなた達は! 駄目ですよ! いくらなんでも、やっていい事と悪い事があると思います! これは見なかった事にしてあげるべきです!」
「ふわあーっ! いきなりどうしたのめぐみん! 頭にヒールを掛けてあげましょうか?」
ダクネスの荷物に日記を入れようとしたアクアが、めぐみんに襲いかかられ悲鳴を上げる。
めぐみんがアクアから日記を奪おうとして……。
……ビリッ。
「「あっ!」」
ダクネスの日記が、二人の間で真っ二つに裂けた。
日記を半分ずつ手にしたアクアとめぐみんが、驚愕の表情で自分の手元を見下ろす。
「……人によって大事なものってのは違うだろうが、日記ってのは誰にとっても大事なものだと思うんだが」
「アアア、アクアが引っ張るからですよ!」
「なんでよ! めぐみんがいきなり日記を取ろうとしたのがいけないんですけど!」
二人が責任をなすりつけ合う中、俺は冷静に。
「よしアクア、ご飯粒を持ってこい」
*****
――数日後。
俺にバツネスと呼ばれ泣いて逃げだしたダクネスが、屋敷に戻ってくると、自分の部屋に置いてある大きな荷物を見つけて。
「……? そ、そうか。そういえば、三人は私が戻ってくるまで、夜逃げの準備をしていたのだったな。フフ……、私の分まで荷物をまとめてくれていたのか。まったく、あいつらは……」
ダクネスが嬉しそうに言いながら、荷物を開けると。
「なんっ……!? なんだこれは! どうしてこんなに大量の荷物が……! というか、見つからないように隠しておいた、可愛らしい服ばかりではないか! ぬいぐるみも……! ああっ! 日記まで! カズマ! おいカズマ! お前達、この日記を読んだのか!?」
――ダクネスの荷物をそのままにしていた事をすっかり忘れ、広間でお茶を飲んでのんびりしていた俺達は、ダクネスの怒鳴り声に顔を見合わせ。
「カズマ、ダクネスが呼んでますよ。カズマはダクネスを買ったそうですし、ダクネスの物はカズマの物。あの日記もカズマの所有物みたいなものではないですか」
「……? ああ、日記! そういえばそんな事もあったわね! ほらカズマ、ダクネスにちゃんとごめんなさいしてきなさいな!」
「いやお前らふざけんな。日記を破ったのは俺じゃなくてお前らだろ」
と、そんな時。
ダクネスが慌ただしく階段を下りてきて。
「お、おお、お前達、この日記を読んだのか?」
日記を手に、真っ赤な顔でそんな事を聞いてくる。
ダクネスの質問に、めぐみんがしれっと。
「読んでませんよ。人の日記を勝手に読むなんて、いくら大好きな仲間だと言ってもマナー違反ですからね。大事な物っぽかったので荷物の中に入れておいただけですよ」
「ほ、本当か……っ! だ、大好きな仲間というのは……!?」
「安心してダクネス! ダクネスがこの街の皆を好きって事は、私がちゃんと広めておいてあげたわ!」
二人に日記を読まれた事を悟ったダクネスが、俺の方を窺うように。
「……カ、カズマもこれを読んだのか?」
「どうも、最後の最後にはなんとかしてしまう佐藤和真です」
「ッ!!」
羞恥に耐えるように、素早く俯くダクネスの手に、力が込められ……。
「ああっ! 日記が破れた!」
ご飯粒でくっつけただけでは駄目だったらしく、日記が再び真っ二つになった。
そんなダクネスの様子に、アクアが目を輝かせて。
「ダクネスったら、そんなに力いっぱい握りしめるから日記が破れちゃうのよ。ええ、私達がやったんじゃないわ。こっそりご飯粒でくっつけておいたなんて、そんな事は全然ないからね」
隠し事の出来ないアクアに、ダクネスが怪訝そうな顔になる。
「そ、そうなのか? どうして日記が破れるなんていう事に……? い、いや、そんな事より、人の日記を勝手に読むのはやめろ」
「それも仕方ないのよ。だって、その日記が大事なものかどうか、中身を読んでみないと分からないじゃない」
「そうだぞ。残していったら、警察の人とかに読まれる事になってただろうし、仲間である俺達に読まれた方がいいだろ?」
「出来れば誰にも読まれたくはないのだが……」
眉をハの字にして恥ずかしがるダクネスは。
「……まあいい。良くはないが、読まれてしまったものは仕方がない。それで、その……。アクア、この日記をまたご飯粒でくっつけてくれないか?」
大切そうに日記を抱えて、そんな事を言う。
「……? いいけど、ダクネスが力いっぱい握りしめたら、また破れちゃうんじゃないかしら?」
「今度からはもっと丁寧に扱うようにする。日記というのは思い出を綴るものだからな。文字にして残すわけではないが、この日記が破れないように気を付けるたびに、お前達が私を心配してくれた事を思いだすだろう」
日記を抱え、微笑みながらの、ダクネスのそんな言葉に。
……俺はめぐみんとのエロ本に関するやりとりを思いだして、ちょっとモヤッとした。