このすばShort   作:ねむ井

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『祝福』2、既読推奨。
 時系列は、8巻の後。


この百本のロウソクに怪談を!

 これは私が本当に体験した実話よ。

 

 街の近くに魔王の幹部が住みついて、クエストを請けられなくなった事があったでしょう? あの時、私はなぜか何度もバイトをクビになって、いろいろなバイトをやったんだけどね? その中にこんなバイトがあったの。

 

 ――それは死体を洗うバイトだったわ。

 

 冒険者ギルドの裏に、討伐したモンスターの素材を解体したり、洗ったりするところがあるのよ。そこで私は、解体する技術はないだろうって言われて、モンスターの死体を洗う仕事をやっていたわ。

 まあきれいにするなら私みたいなとこあるし、私の超絶テクを見せたら褒められたわ。

 私には液体に触れると水になっちゃうっていう体質があるじゃない? モンスターの血に触れたら水になっちゃってね? なんでも貴重なモンスターの素材だったらしくてクビになったわ。

 

 ……怖いでしょう?

 

 でもこの話には続きがあるの。

 

 働いた分の給料は貰えたから、そのお金でお酒を買ったんだけど……

 

 

 *****

 

 

「――翌朝には、そのお酒がなくなっていたのでした!」

 

 語り終えたアクアは、満足げな表情を浮かべると、床に置いてあるロウソクを持ちあげフッと火を吹き消した。

 

「いや、吹き消してんじゃねえ! お前それ単に飲んじまっただけだろうが。怖い話をしろっつってんだ」

 

 ――屋敷の広間にて。

 その夜、俺達は怪談大会を開催していた。

 火を点けたロウソクを百本用意して、魔道具の明かりは消し、絨毯の上に輪になって座っている。

 いわゆる百物語ってやつだ。

 皆には数日前から怖い話を考えておけと言っておいたのだが……。

 

「違うわよ! 私は全部飲んでないはずなのに全部なくなってたのよ!」

「それはお前が寝てる間に俺がこっそり飲んだからだよ。そうじゃなくて、怪談を話せよ! 怪談を!」

「違うの、聞いて! きっとあのお酒を飲んだのはこの屋敷に憑いてる……ねえ待って? 今私のお酒飲んだって言った?」

 

 どうしよう、初っ端から全然怖くない。

 暗闇の中でロウソクの火が揺れているという状況を怖がっていたダクネスも、今ではすっかり平気そうな顔をしている。

 怖い話なら任せてと言うアクアに、最初に話させたのは失敗だった。

 

「じゃあ次は俺が話すぞ? 本当の怖い話ってやつを聞かせてやるよ」

「ねえってば、私のお酒飲んだのあの子じゃなくてあんただったのね? 女神の供物を掠め取ると天罰が下るわよ?」

 

 アクアがなんか言ってきていたが、俺は気にせず話しだした。

 

 

 *****

 

 

 これは俺が知り合いの冒険者から聞いた話だ。

 

 ある冬の事、新米冒険者が宿を捜していた。

 そいつは貧乏で、いつもなら馬小屋で寝起きしているんだが、冬になると寒くて馬小屋にはいられず、宿を取る事にしたんだ。パーティーの仲間達は実家がアクセルだったり、副業で金があって自分で宿を借りてたりして、そいつはひとりで宿を捜す事になった。

 で、貧乏だし安い宿をってなると、当然ボロいところになる。

 そいつが見つけたのは、馬小屋みたいに風が入ってこないだけマシみたいな宿だった。階段を上り下りするだけでギシギシ言うようなとこだ。

 

 とにかく、これで凍死することだけはないだろうって、そいつは眠りに就いた。

 

 ところが夜中に目が覚めちまった。

 しかも、おかしな事に身体が動かない。金縛りってやつだ。でもまあ、そいつも冒険者だからそれくらいでは怖がらなかった。麻痺に掛かるとこんな感じかなって思いながら、また眠くなるのを待っていた。

 しばらくして、

 

 ギシ

 

 って音がした。階段を上る足音だ。それと同時に、声が聞こえた。

 

「一段上れた」

 

 その夜はそれで終わりだった。

 

 そんなおかしな事があったけど、そいつはその宿に泊まり続けた。そこは他の宿と比べて安かったからな。

 

 で、次の日の夜も同じように目が覚めた。

 

 ギシ、ギシ

 

 同じように足音がすると、

 

「二段上れた」

 

 って声が聞こえる。

 

 昼間に階段を見てみると、二段目までに黒い足跡が残ってる。

 でもそいつはその宿に泊まり続けた。金がなかったし、やっぱり冒険者だからな。ちょっと変な事があったくらいで逃げるわけには行かないと思ったそうだ。

 

「三段上れた」

「四段上れた」

「五段上れた」

 

 声の主は毎晩一段ずつ上ってくる。階段には黒い足跡が増えていく。

 さすがに気味が悪いって事になって、仲間達が金を出すから宿を移ろうと言いだした。仲間にそこまで言われたら、そいつも断りきれなかった。でもその宿は安かったから、十四日目まではそこに泊まると言い張った。階段は十五段あったから、それまでは何も起こらないと思ったんだ。

 

 実際、何も起こらなかった。

 

 そして十五日目。

 宿を移ろうと考えていた日に、なんと大雪が降って外に出られなくなった。ほとんど吹雪みたいになっていて、準備もなく外出したら遭難しそうな状態だ。

 仕方なく、そいつは十五日目にもその宿に泊まる事になった。

 

 そして……

 

 翌朝、吹雪が去って晴れた朝に仲間達がそいつの部屋を訪ねていくと。

 そこには誰の姿もなく。

 

 ――部屋中に、階段についていたのと同じ黒い足跡があった。

 

 

 *****

 

 

 俺がロウソクを手にし火を吹き消していると、ダクネスが拍子抜けしたような表情で。

 

「……それで終わりか?」

「お、おう。なんだよ、普通に怪談だっただろ?」

 

 俺の言葉に、首を傾げながらめぐみんまでもが。

 

「今のが怖い話なんですか?」

「えっ。幽霊が出てきたし冒険者がいなくなったし、怖い話だろ? それにほら、もしこの屋敷が手に入ってなかったら、俺達の誰かがこうなっていたかもしれないじゃないか」

「そうですか? ゴーストやアンデッドが相手ならアクアがなんとかしてくれるので大丈夫だと思いますが」

「…………」

 

 そうだった!

 畜生、アクアがいるせいで幽霊が出る系の怪談がちっとも怖くない!

 

「……なーに? そんな目で見ても私のお酒を飲んだ事は許さないわよ」

「お前の酒を飲んじまったのはきっとこの屋敷に取り憑いてるとかいう幽霊だよ。そんな事より、次はめぐみんだぞ。俺の話を怖くないって言ったんだから、ちゃんとした怪談を聞かせてくれるんだろうな?」

 

 俺の挑発に、めぐみんは自信に満ちた表情で頷くと。

 

「任せてください。私のとっておきの怖い話を聞かせてあげますよ!」

 

 

 *****

 

 

 あれは春の事だったでしょうか。

 私は仲間達とともにクエストを請け、街の外へと出掛けました。

 

 討伐対象のモンスターの群れを見つけた私達は、有利な場所に陣取りモンスター達を誘き寄せました。ところが、爆裂魔法の詠唱を始めた私に異変が起こりました。

 

 ――魔力が足りなかったのです!

 

 

 *****

 

 

 大声でオチを言っためぐみんが、ロウソクの火を吹き消した。

 

「いやふざけんな! それリザードランナー討伐した時の話じゃねーか! どこが怖い話なんだよ!」

 

 思わずツッコむ俺に、めぐみんは。

 

「魔法を使う者にとって、予期せぬ魔力切れは恐怖ですよ。特に私は一日に一回しか魔法を撃てない爆裂魔法使いですからね。魔力管理に失敗する事なんてありません。撃てると思っていたのに撃てなかったのはあの日が初めてだったんですよ」

「悪かったよ! 俺がドレインタッチで魔力吸ったせいで怖い思いさせたな! それは悪かったけど、怪談ってそういう事じゃないんだよ!」

 

 魔力切れを怖い話と言い張るめぐみんに俺が声を上げると。

 

「なんですか! 怖かった話なんだからいいじゃないですか! というか、カズマの話だって言うほど怖くありませんでしたからね!」

 

 逆ギレしためぐみんが俺の怪談にまでツッコんでくる。

 畜生、これだから異世界は!

 

「もういいよ、分かったよ! お前のも怖い話ってことでいいよ!」

「待ってくださいよ! もういいよってなんですか! そんなに言うなら話し合おうじゃないか!」

「つ、次はダクネス頼む!」

 

 めぐみんをスルーし次の話を促すと、ダクネスはめぐみんをチラチラ見ながらも。

 

「わ、私か? 怖い話というのがどういうものかよく分からないのだが……」

 

 

 *****

 

 

 これは私がダスティネス家の本邸にいた時の話だ。

 

 アクセルの街にもダスティネス家の屋敷はあるが、あちらは別邸でな。自分で言うのもどうかと思うが、その……、本邸は比べ物にならないくらい大きいし、歴史がある。

 

 ダスティネス家の本邸には、古くから開かずの間と呼ばれる部屋があってな。

 開かずの間を開けてしまうと、恐ろしい事が起こる。ダスティネス家ではそう言い伝えられていて。

 その部屋は父でさえも扉が開いたところを見た事がないという話だった。

 

 しかし、誰もそれがどこにあるのか教えてくれず……。幼い頃の私は、どの部屋がその開かずの間なのかが分からず、屋敷にいくつもある部屋の扉をひとりで開けることができなかった。

 

 ……今にして思えば、あれは私がひとりで勝手に部屋を出入りし迷子にならないように、父が私についた嘘だったのかもしれないな。

 

 

 *****

 

 

「――かもしれないなじゃねーよ! 誰が意味が分かるとちょっとイイ話をしろっつった! 怖い話をしろってんだ!」

 

 昔を懐かしむように目を細めるダクネスに、俺は思わずツッコんだ。

 

「す、すまない。当時は廊下を歩くだけでも怖かったくらいなのだが……。思い返してみるとそういう事だったのかな、と……」

 

 照れ笑いを浮かべたダクネスは、少し迷いながらもロウソクの火を吹き消す。

 

「まったく。歴史ある屋敷っていうなら、曰くつきの呪われた宝石の話とかないのかよ?」

「……ん。宝石はなかったと思うが、我が家に代々伝わる呪われた鎧が宝物庫に保管されているぞ」

「それだよ! そういう話を聞きたかったんだよ!」

「えっ? そ、そうなのか? しかしあの鎧は呪われているだけだぞ」

「いや、呪われてるだけってなんだよ? 屋敷に呪われた鎧があるって、十分怖い話じゃないか」

「呪いなど鎧に触れなければなんともないからな。それに、いざとなればアクアに解呪してもらえばいいだろう」

 

 俺の言葉に、ダクネスが首を傾げながらそんな事を……。

 そうだった! この世界、普通に呪いがある!

 ゴースト系の話もダメだし呪い系の話もダメって、これで怖い話をしろって無理があるだろ。

 

「ああもう! もういいよ! せっかくロウソク百本も用意したんだ! なんでもいいから続けようぜ!」

 

 ヤケクソで話を進めようとする俺に。

 

「ねえカズマ、私のお酒を飲んだ事、まだ許してないんですけど! 本当に怖いのは生きてる人間でしたってオチなの?」

「なんでもいいとはなんですか! 私はちゃんと怖い話をしましたよ! カズマこそ大して怖くもない話をしたくせに何を言っているんですか?」

「ま、待ってくれ。もう一度チャンスをくれ! 次はあの呪われた鎧の話を……!」

 

 三人が口々に何か言ってきたが、俺は気にせずアクアを促した。

 

 

 *****

 

 

 ……また私?

 

 ねえ、それより私のお酒を返してほしいんですけど。あんたが飲んだ分を今度買ってきなさいな。約束してくれるなら超すごい怖い話をしてあげてもいいわよ?

 本当? 本当ね? 約束だからね?

 

 ……さてお立ち合い!

 

 ある日の事。

 新米冒険者が何人か集まって街角でおしゃべりをしていると、青白い顔をした冒険者が息を切らせてやってきました。その人は「助けてくれ」とガタガタ震えながら言います。

 危険なモンスターでも出たのかと、皆がその人を取り囲んで聞くと、その人は、

 

「後ろから、まんじゅう売りがやってくる」

 

 とガタガタ。

 皆は意味が分からなくてキョトンとします。

 

「実は俺はまんじゅうがどうしても怖くて……。しばらく匿ってくれ!」

 

 必死に言うので、ひとまず馬小屋に隠してあげましたが、いたずら好きのひとりが。

 

「どうもおかしな奴だ。ひとついたずらをしてやろうじゃないか」

 

 早速まんじゅう屋からまんじゅうを買い、皿に山盛りに積んで馬小屋の中へと入れてしまいました。

 ところがしばらく経っても、物音ひとつしません。

 

「さては怖くて気を失ったかな?」

 

 皆が馬小屋を覗きこむと、その人はまんじゅうをすっかり食べてしまっていました。

 

「あれっ? 脅かしてやろうと思ったのに、どこが怖いんだ」

 

 と訊くとその人は……

 

 

 

「――今度は一杯のお茶が怖いってか! 誰が落語やれっつった! そりゃ怖い話じゃなくて怖いものの話だろうが!」

「あっ! カズマ、見せ場を奪いたくなるのは仕方ありませんが、話のオチをかっさらうのは紅魔族的にもダメですよ」

「まったく、せっかくの面白い話が台なしではないか」

「俺が悪いのかよ! ていうか、面白い話の会じゃないんだよ!」

 

 

 *****

 

 

 ――あ、俺の番か。

 

 ええと、そうだな。

 二人の冒険者が宿の同じ部屋に泊まっていた。夜も更けてきたからそろそろ寝る事にしたんだが、ひとりが喉が渇いたから飲み物を買いに行こうと言いだした。ひとりで買いに行ってくるように促すけど、どうしても一緒に来てくれと言って聞かない。

 仕方がないから、二人一緒に部屋を出る事にした。

 半ば無理やりに連れだされた方が文句を言うと、もうひとりが蒼白な顔で言った。

 

 ――すぐに警察に行こう。ベッドの下に、斧を持った男がいた!

 

 

 

「……なあ、これなら分かるだろ? 普通に怖い話だよな?」

「分かりました! 分かりましたよ! ちゃんと怖かったですからそんなに前のめりになるのはやめてください!」

「ねえカズマさん、さっきから思ってたけどパクリはどうかと思うわ」

「お前も落語やってたくせに何言ってんだ」

 

 

 *****

 

 

 私ですね。

 

 カズマが満足するような話ができるかは分かりませんが……。

 

 この街に来てから聞いた話です。

 ジャイアントトードって、いるじゃないですか。きちんと対策していれば怖い相手ではないですけど、それでも毎年何人かは犠牲になるそうです。

 

 あのカエルは獲物を呑みこむと、腹の中で獲物が大人しくなるまで動かなくなる習性がありますよね。まあ、その辺は私よりよく呑まれているアクアの方が詳しいでしょうけど。

 私達はすぐに助けだされているので問題はないのですが、全身が呑まれてしまうと呼吸ができずに気絶してしまい……。そしてカエルは獲物がおとなしくなると土の中に潜りまして。

 やがて呑まれた人がカエルの腹の中で目を覚まし、

 

「助けてくれ……、出してくれ……」

 

 そんな助けを求めるか細い声が、草原のどこからともなく聞こえてくるそうですよ。

 

 

 

「怖えーよ! お前の話は普通に怖いんだよ!」

「なんですか? 怖いんだったらいいじゃないですか。怖い話をしろと言われて怖い話をしたのですから、文句を言われる筋合いはありませんよ」

 

 

 *****

 

 

 カエルに呑まれ、土の中に…………んっ!

 

 な、なんでもない。次は私だな。

 

 では先ほども言っていた、我が家に代々伝わる呪われた鎧の話をしよう。

 

 これはベルゼルグ王国が生まれて間もない頃の事だ。

 当時、この国は金がなくてな。近隣の国々を回っては、そこで大きな被害を出しているモンスターを討伐して支援を引きだしていた。今でいう冒険者ギルドのような事を、王族が他国へ出向いてやっていたのだ。

 当時のダスティネス公爵、つまり私の先祖に当たる人物だが、彼も王の盾として同行した。あの鎧は、その時に旅先で見つけたものだという。

 パーティーの盾役としての働きを認められ、彼は鎧を下賜された。

 

 ところが……

 

 そう、鎧は呪われていたのだ。

 身に着けると外す事ができず、しかも戦闘になると気が昂り、モンスターの群れに突っこんでいってしまう。もちろん、ダスティネス家は騎士の家系だ。獅子奮迅の活躍を見せたそうだが……、こうなっては連携も何もない。盾役の勤めは全うできなくなった。

 しかも、支援の届かない状況で長く戦い続けたせいで、彼は大怪我を負ってしまった。

 

 ……盾役は、戦いにおいて華々しい活躍をする事がない。

 吟遊詩人に歌われるのは、勇猛な戦士や、強力な魔法を操る魔法使いといった者達だ。

 だが、ダスティネス家の者は王家の盾として、誰にも語られないとしても、国民や共に戦う仲間を守る事こそが使命なのだ、と……。

 決して、モンスターの群れに突っこんでいくような蛮勇に走るな、と……。

 

 あの鎧は、そうした志を忘れないためにと、今でも宝物庫にしまわれているんだ。

 

 

 

「忘れてるじゃん」

「忘れてるわね」

「忘れてますね」

「……ッ!?」

 

 

 *****

 

 

 次は私が話してもいい?

 

 これはこの屋敷で実際に起こったお話。

 

 その昔、ここはとある貴族が使っていたの。その貴族は身体が弱いくせに軽薄なところがあって、遊び半分で屋敷のメイドに手を出したのね。病弱だったからこそ人生を楽しもうとしたのかも。メイドの方も、貴族のお手付きになるといろいろと良い事もあるから拒まなかった。

 そのうち二人の間には子供ができちゃった。

 

 誰にも望まれない女の子。

 

 父親である貴族は早くに病死し、母親もどこかへ行ってしまった。その女の子は屋敷にひとりぼっちで暮らしていた。

 そんなに寂しくはなかったかな。本当だよ? ぬいぐるみや人形のお友達がたくさんいたから。

 それに、冒険者!

 たまに来てくれる冒険者の男の子が話してくれる冒険譚は、父親に似て病弱な女の子の一番の楽しみだった。

 

 でもここは新米冒険者の街。いつかは男の子も、もっと稼ぎのいい街へと移っていく。

 女の子はまたひとりぼっちになった。

 ぬいぐるみや人形はいたけど、話し相手にはなってくれない。

 やがて女の子も、父親と同じ病気に掛かって……。

 

 ひとり寂しく死んでしまいました。

 

 おしまい。

 

 

 

「……? なあ、その話ってどこかで聞いた事があるような……。あれ? 今話してたのってお前じゃないのか?」

「違うわよ」

 

 

 *****

 

 

「――幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

 

 話し終えたアクアがロウソクの火をフッと吹き消す。

 めでたしめでたしで終わっているし、まったく怪談ではなかったが、俺はもういちいちツッコまない。

 

「今のが最後のロウソクだな。あー、やっと終わった!」

 

 怪談ばかりではネタが持たず、途中からなんでもアリになり。

 それでも始めてしまった義務感みたいなものと、百本もロウソクを用意してしまったのだからと、結局百物語を最後まで完遂した。

 始めたのは夜だったのに、今や窓から朝日が薄く差しこんでいる。

 

「ふふ……、なかなか大変だったが楽しめたな」

 

 ダクネスが薄く微笑みながら、やれやれといった感じに伸びをする。

 

「なんだかとっても疲れたわ。今日はカズマみたいにお昼過ぎまで寝るから起こさないでね? そういえば、カズマは約束守りなさいよ? ちゃんとお酒を買っておいてね?」

 

 あくび混じりにそんな事を言ったアクアが、部屋に戻ろうと階段を上っていく。

 そんな中。

 

「……あの、おかしくないですか?」

 

 めぐみんがポツリと呟いた。

 

「おかしいって、何が?」

「私達は四人で輪になって、順番に百の物語を話したんですよ? アクアから始めたのに、どうしてアクアが最後なんですか?」

 

 …………。

 

「どうしてって……、…………」

 

 …………えっ?

 

 四人で百物語をすると、……ええと、割り切れるからひとり二十五個の話をする事になって、最後はダクネスの話になるはず。

 

「というか、明らかに私達以外の誰かが話していませんでしたか? どうして誰もおかしいと思わなかったんですか?」

「そ、そんな事言われても! いや待て、ゴースト系が悪さしてたんだったらアクアが黙ってるわけないだろ! あいつが何も言わなかったんだからおかしな事はなかったはずだ!」

「アクア! 待てアクア! 聞きたい事がある!」

 

 俺達の話を聞いたダクネスが声を上げるも、よほど眠いのか、アクアは呼びかけにも答える事なく。

 やがて階上で扉の閉まる音がして……。

 

「……何もなかったけど、あいつが起きてくるまでちょっと出掛けていようか」

「そうしましょうか」

 


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