このすばShort   作:ねむ井

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『祝福』6巻、既読推奨。
 時系列は、6巻3章。


この華々しい会場に発揚を!

 俺達が義賊捕縛のため、悪徳領主アルダープの屋敷に滞在していたある日の事。

 皆で応接間に集まって過ごしていると。

 

「オークション?」

「ああ。義賊を警戒し続けるのも大変だろうからと、息抜きになればとアイリス様が入場券

をくださったんだが……」

 

 どこかに出掛けていたダクネスが、帰ってくるなりそんな事を……。

 

「『エクスプロージョン』!」

「わああああーっ! もう少しで勝てそうだったのに! こうなったらヤケ酒よ! こういう時は美味しいお酒をパーッと飲んでヤケ酒に限るわ! ねえメイドさん、あの豚みたいなおじさんの秘蔵のお酒を持ってきてくれない? 書斎に隠してあるでしょう? ほら、持ってきて!」

「待ってください。そのメイドさんは私が目を付けていたんです。私が武勇伝を語ると、笑顔でうんうん頷きながら聞いてくれるんですよ」

 

 ボードゲームをする二人の様子にダクネスが口を閉じる。

 そんなダクネスに代わって、俺は二人に。

 

「おいお前ら、ダクネスがなんか言ってるから聞いてやれよ。まったく、俺がきちんと警戒しているとはいえ、お前ら気を抜きすぎだぞ」

「お前もだカズマ! さっきから何をやっている!」

「何って、マッサージしてもらってるところだが?」

 

 毎日めぐみんの爆裂散歩に付き合ったり、夜は遅くまで義賊を警戒して昼過ぎに起きる過酷な生活を送る俺は、メイドさんのマッサージで疲れを癒しているところだ。

 

「す、すまない。こいつらの言う事は聞かなくていいから仕事に戻ってくれ」

 

 ダクネスが恥ずかしそうに頭を下げると、メイドさん達は逃げるように立ち去った。

 

 

 

「――まったく! 人の屋敷だというのにお前達は何をやっているんだ? 少しは遠慮というものをだな……」

「そんな事言われても。好きなだけ滞在していいって言ったのは向こうのほうだぞ。それに、ダラダラしているように見えるかもしれないが、俺は義賊を捕まえるために夜遅くまで起きているんだからな。昼間くらいゆっくりしてもいいじゃないか」

「私だって最近は忙しくしているわよ。王都から邪悪なエリス教徒を追っ払って、アクシズ教を広めないといけないんだから。ダラダラしているように見えるかもしれないけど、これもアクシズ教の教えを広めているのよ。今日は起きるのがいつもより遅かったから、布教に行くのをやめようかどうしようか迷って、今が楽ちんなほうを選んだの」

「私は二人と違ってちゃんと働いていますよ。爆裂魔法使いたる私の仕事は毎日爆裂魔法を撃つ事ですからね。今日も爆裂散歩に行って王都近くのモンスターの群れを吹っ飛ばしてやりましたとも!」

 

 腕を組んでお説教モードのダクネスに、俺達は口々に言う。

 

「ああもう! お前達、そんなに暇を持て余しているのなら明日は出掛けてこい! ほら、コレをやるから! ありがたくもアイリス様にいただいたものだ!」

「ダクネスったら何を言っているの? 私はダラダラするのに忙しいので出掛ける暇なんてないんですけど」

「私は今日はもうやることやったので文句を言われる筋合いはありませんよ」

 

 バカな言い訳をする二人に、何かのチケットを手にしたダクネスは固まった。

 

「何それ? そういや、オークションがどうとか言ってたな?」

「王都の商会で明日開かれるオークションの入場券だそうだ。アイリス様が義賊を迎え撃つというお前を心配し、少しでも息抜きになればと仰ってな。……今のお前達に息抜きが必要だとは思えないのだが」

「おい、俺までこいつらと一緒にするのはやめろよ。こいつらはともかく俺は夜遅くまで起きて義賊を警戒しているんだぞ。せっかくアイリスが用意してくれたんだから、そのオークションとやらには行くよ。どうせここにいてもダラダラしてるだけだしな」

「今ダラダラしているだけと言ったか?」

「言ってない」

 

 即答する俺にダクネスが冷たい目を向けてくる。

 

「私は明日も予定が入っているので同行できないが……、いいか? この入場券はアイリス様が手に入れてくださったものだ。会場で騒ぎを起こせばアイリス様に迷惑が掛かる。くれぐれもおかしな真似はするな」

 

 

 *****

 

 

 翌日。

 貴族のパーティーに出るという、ドレス姿のダクネスを見送って。

 昼過ぎにアルダープの屋敷を出た俺達は、王都の中心にあるなんか豪勢な感じの建物にやってきた。

 その入り口に立つ男が、俺達を見ると慇懃無礼に言ってくる。

 

「本日こちらの会場では特別なオークションが開かれておりまして、入場券を持っていない方はご遠慮願います」

 

 王族であるアイリスが入場券を手に入れてくれたということは、本来は貴族とか大富豪とかでなければ入れないような場所なのだろう。

 どう見ても庶民な俺を追っ払うのは分からないでもないが……。

 

「汝、私の行く手を遮るつもりなら、この世界に一千万人を有するアクシズ教団が黙っていないでしょう。分かったらそこをどきなさいな! ほら、早くしてー、早くしてー」

「えっ」

 

 アクアに絡まれた男が助けを求めるようにチラチラと俺を見てきたが、最初に俺を見た時に鼻で笑われてイラっとしたのでしばらく放っておくことにする。

 

「い、嫌だなあお客様! 入場券をお持ちなら早く言ってくだされば……!」

「いや、分かってくれればいいんですよ。ちなみにその入場券はアイリス王女に貰ったやつなんですけどね」

「!? おおお、お客様、大変失礼いたしました! その、どうかこの事は王女様には内密に……! あっ、こちら番号札をお付けいたしますね!」

 

 チケットを見せアイリスの名前を出したら急に腰が低くなった男が、いそいそと俺の胸元にバッジみたいなものを付ける。

 

「ほう! 十番ですか! 紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操るこの私に、十番ですか! 一番の番号札はないんですか?」

「えっ」

 

 めぐみんに絡まれた男が助けを求めるようにチラチラと俺を見てきたが、最初に俺を見た時に鼻で笑われてイラっとしたのでしばらく放っておくことにする。

 

 

 

 店員に案内されたのは、正面にステージのある広いホール。

 室内にはいくつかのテーブルと椅子が、ステージを見やすい配置で並べられ、すでに来ていた客達が軽食や飲み物を楽しんでいる。

 椅子に座りメニューを手に取ったアクアが、上機嫌で。

 

「ねえカズマさん、ここって飲み物も食べ物も無料らしいわよ。無料よ、無料! 店員さーん、メニューのここからここまで全部持ってきてちょうだい」

「おい、居酒屋みたいな感じで注文すんな。店員さんがドン引きしてるだろ」

「ダメですよアクア。きっと食事代ではなくてサービス料ですとか言ってぼったくられることになるやつです。注文する前にちゃんと無料か確認してください。それでもぼったくってくるようなら我が爆裂魔法で説得してみせますよ」

「お前も何言ってんの? 今日はもう爆裂魔法は撃ったんだから大人しくしてろよ」

 

 二人を大人しくさせ、騒がしくしてすみませんと隣の客に謝ろうとすると……。

 

「あっ! なんであんたがこんなところにいるんだよ?」

「それはこっちの台詞だ! ここは貴族向けの高級オークションの会場だぞ、お前のような者が顔を出していい場所ではない!」

 

 そこにいたのは、悪徳領主アルダープだった。

 

 

 *****

 

 

 高級っぽい衣服を身にまとい、十三番の札を胸に付けたアルダープが、傲岸に俺を見下ろしている。

 

「アイリス王女に入場券を貰ったんですが、それが何か?」

「なっ……! ア、アイリス王女がお前を……?」

「王女に招待された俺を追いだしていいんですかねえ? アルダープ様って王族よりも偉いんですか、すごいですね」

「ぬ……、うぐ……」

 

 嫌味を言おうとするも、俺がアイリスの名前を出したことで何も言えなくなり、顔を真っ赤にして悔しがるアルダープ。

 と、そんな時。

 

「――お待たせしました。これより、オークションを開始させていただきます。皆様、振るってご入札ください!」

 

 ステージの舞台袖から司会らしき男が現れると、魔道具で大きくした声でオークション開始を宣言した。

 オークションのルールや諸注意を告げた後、司会は舞台袖に向けて大げさに手を振る。

 台車に載せられ運ばれてきたのは……。

 

「では早速、本日最初の商品です! こちらはアダマンマイマイの殻! あらゆるモンスターの中で最も硬いと言われる最高級の素材を、丸ごと一体分ご用意いたしました! 加工は困難を極め限られた名工にしか扱えませんが、これで作られた防具は高レベル冒険者も垂涎の品となるでしょう! 聞くところによれば、なんとあの爆裂魔法にも耐え」

「買います」

 

 司会の流れるような解説を遮り、両目を紅く輝かせためぐみんがきっぱりと言った。

 

「はい?」

「爆裂魔法にも耐えると? それは私への挑戦ですか? いいでしょう、いいでしょう。その言葉が真実かどうか確かめてやろうじゃないか」

 

 俺は、立ちあがっためぐみんの服の裾を引っ張りながら。

 

「おいやめろ。お前は何を言ってんの? 大金はたいて買った挙句に爆裂魔法でぶっ壊すつもりか? そんな無駄遣い許すわけないだろ。ていうか、オークションって買いますって言って買えるもんじゃないからな」

「止めないでくださいカズマ。私は爆裂魔法使いとして、あんな事を言われたまま引き下がるわけには行きません」

「いや止めるに決まってんだろ」

「自分のお金で買うだけですから安心してください。私だって一万エリスくらいなら……」

 

 と、めぐみんが懐をポンポンと叩いて穏やかに言った時。

 突然の買います宣言に困惑していた司会が再起動して告げた。

 

「えー、では十番様、ご入札という事で。こちら、最低金額百万エリスからスタートです。百万エリス! 他の方、ありませんか?」

「「ひゃっ!?」」

 

 

 

「――では、アダマンマイマイの殻、二百三十万エリスで落札です!」

 

 司会の言葉に、会場からパラパラと拍手が上がる中。

 

「わ、私は買わなくていいのですよね? お金を払わなくてもいいんですよね? あんなもん何に使うのか分かりませんが、他の誰かが買ってくれたんですよね? 払えと言われても払いませんからね?」

 

 テーブルの上で頭を抱えながら、めぐみんがボソボソと呟いていた。

 いきなり百万エリス払えと言われかけた事でビビッているらしい。

 

「爆裂魔法の的にするのと比べればなんだってマシな使い方だろ」

 

 傷心のめぐみんにツッコんだ俺の横から。

 

「フン。庶民が貴族のオークションに交ざろうとするから、そういう事になるのだ。見ておれ、オークションとはこうやるのだ」

「十三番様、百二十万エリスです!」

 

 商品に入札しながらアルダープが嫌な笑いを向けてきていた。

 見ればステージ上には早くも次の商品が置かれている。

 それは美しい女神像。

 慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、女神っぽい羽衣に身を包んでいるのは、幸運の女神エリスだった。

 

「……ほーん? 私の曇りなき眼で見たところ、あの像にはパッドが入っているわね」

 

 無料だからと飲み食いしていたアクアが、像をひと目見るとポツリと余計な事を言う。

 いや、さすがに像にパッドは入ってないだろ。

 

「お前、本人気にしてるみたいだからやめてやれよ」

「おお。アクシズ教の方とはいえ、女神エリス様になんという事を! あれほどの豊かさが詰め物なはずがない!」

 

 アルダープが、アクシズ教徒という事で及び腰になりながらも、そんな反論を……。

 …………。

 別に敬虔なエリス教徒というわけでもなさそうなコイツが、どうして女神像に大金を払うんだろうか?

 ……豊かさ?

 

「あんたあの像をエロい目で見てんだろ」

「バッ!? バカを言うな! ワシはこの国の貴族として、敬虔なエリス教徒として、毎日自分の部屋であの像に祈りを捧げようとだな……!」

 

 俺のツッコミに、図星だったらしいアルダープが目を泳がせながら苦しい言い訳をする。

 

「あのなあ、エリス様は、その……、女神様だからって過度な期待をするのはどうかと思う。縦え巨乳じゃなくたって、ちゃんと人類を見守ってくれるいい女神じゃないか」

 

 どこかの駄女神と違って。

 

「ねえカズマさん、おかしな電波を受信した気がするんだけど気のせいかしら」

「きっと気のせいだよ」

 

 俺がジト目になったアクアの視線を受け流していると。

 

「フン! 何も分かっておらん庶民がワシに賢しらな口を利くな。巨乳が最高に決まっているだろうが! 見ろ! あの神々しいまでの豊かさを! あれこそが女だ!」

 

 アルダープが女神像を指さし、唾を飛ばしてバカな主張をしてくる。

 

「何事も大きければいいだろうって考え方はどうかと思う。本来大きくないんだったら自然のままに表現すべきだろ。そのものの良さを愛でるべきだろうが! あの像もそりゃ良いもんだけど、胸を大きくしたせいで全体のバランスがおかしくなってんだよ」

「胸が大きくなくてもいいなどというのは負け犬の言い訳に過ぎんわ! 胸の大きい女にフラれ、貧乳女を選ぶしかなくなったんだろう。だが、ワシはそんな奴らとは違う! 多少造形が崩れていようと、胸が大きい事は何ものにも代えがたい価値がある!」

「やっぱりエロい目で見てるんじゃないか」

「んなっ……! は、謀ったな!」

 

 勝手に自爆したアルダープが歯噛みしていた、そんな時。

 

「――ありがとうございます! 女神エリスの像、百八十万エリスで落札です!」

 

 司会が嬉しそうに声を上げた。

 

「くそっ! お前が余計な事を言うから入札し損ねたではないか! 今日はアレのためだけにここに来たのだぞ! どうしてくれる! くそっ! くそっ!」

「そんな事知らんよ。ていうか、最初に声を掛けてきたのはそっちだろ」

 

 オークションのやり方を教えてやるとか言っていたのはなんだったのか。

 

「カ、カズマ、カズマ……ッ!」

 

 アルダープと話していた俺の服の裾を、めぐみんがグイグイ引っ張ってくる。

 

「なんだよめぐみん、俺は今こいつに思い知らせるのに忙しいから……」

「アクアが、アクアが!」

 

 見るとめぐみんは涙目になっていて。

 そんなめぐみんが指さす先では、ついさっきまで食ったり飲んだりしていたアクアが、よく分からないポーズを取っていた。

 ……荒ぶる鷹のポーズか?

 

「お前は何をやってんの?」

 

 俺の問いかけに、アクアは変なポーズのままフッと微笑むと。

 

「面白いポーズをするとあのお兄さんが採点してくれるのよ! 高得点だと周りのお客さんも、おお……って声を上げてくれるし、今こそ私の芸が試されているわ!」

「十番様から五十万エリス! 五十万エリスです、他にありませんか!」

 

 アクアの変なポーズを見た司会の人が、張りきった様子で声を上げ……。

 …………十番様?

 

「お前それ入札したことになってんだろ! 採点じゃねーよ! オークションだよ! どうすんだよ、落札しちまったら買わないといけないんだぞ!」

「ああ! もう駄目です! 五十万エリス! あんなのに五十万! 五十万エリスあったら家族四人で一年間は暮らしていけますよ……!」

 

 めぐみんが頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

 貧乏な幼少期を送っためぐみんは、大金が簡単に飛んでいく様子にダメージを受けているらしい。

 家族四人で五十万エリスとはどういうことかとか、お前もさっきアダマンマイマイの殻を百万エリスで競り落とそうとしていただろうとか、ツッコミどころはいろいろとあったがそれどころではない。

 

「まあ見てなさいな! アクシズ教を司る者として、この場を面白おかしく盛りあげてみせるわ!」

 

 相変わらず変なポーズのままイイ笑顔を浮かべたアクアに俺は。

 

「言っとくけど金は立て替えないからな。もしも落札しちまったら、その羽衣は売る事になるけど分かってんのか?」

「えっ」

「――なんと、二百五十万! 二百五十万エリスです! 素晴らしい大盤振る舞いですね、さあ他にありませんか!」

「えっ」

 

 俺の言葉に慌てた様子を見せるアクアだが、料金はすでに吊り上げられていて。

 

「ねえ待って? う、売らないわよ? これは私が女神だって事を証明する唯一の品なんだから。……あのう、カズマさん、お小遣いの前借りとかって……」

「するわけない」

 

 ていうか、何アレ?

 ステージの上にあるのは、頭が半分くらいしかない変てこな像だ。

 落として割れたやつじゃないのか? あんなもん競売に掛けていいのかよ?

 どうしよう、すごくいらない。

 持っているだけで呪われそうだ。

 しかし、オークションで一度入札したのを、やっぱりやめますというのが無理な事くらいは俺にも分かる。

 

「いやーっ! 嫌よ! これだけは嫌! 絶対に売らないわよ! 分かったわ、じゃあこの河原で拾ったきれいな石をあげるから、これを買い取ってちょうだい。三百万エリスくらいの価値はあるはずよ!」

 

 涙目になったアクアがバカな事を言いだした。

 そんな時。

 

「ふふふ……、ふはははは! 王女殿下に招待されたからと言って、お前のような庶民が貴族の場に紛れこむからそのような事になるのだ! 分不相応な場に来てしまった報いだと思え! ふははははは!」

 

 女神像を競り落とせなかった復讐のつもりか、アルダープが傲慢貴族そのものな事を言って煽ってくる。

 さっきの事がよほど腹に据えかねたのか、紅魔族やアクセル教徒を敵に回す可能性も気にならないらしい。

 ……この野郎。

 

「おいおっさん、さっきから気になってたんだけど、あんた髭のとこに汚れが付いてるぞ。……いや、そっちじゃない、逆だ逆」

「はあ? こんな時に何を……?」

 

 言いながら俺の狙い通りのポーズを取ったアルダープは。

 

「十三番様、三百万エリス! 本日の最高額でございます! さあ、三百万エリス! 他の方、ありませんか?」

「は? ま、待て、今のは……!」

 

 入札させられる事になったアルダープがキャンセルしようとするも、会場中に拍手が響き渡った事で言いだせなくなり……。

 

「十三番様、謎の像を三百万エリスでご購入です!」

 

 さらに盛大な拍手を浴びたアルダープは、愕然とした表情で固まった。

 

 

 *****

 

 

 ――その夜。

 

「おっさんふざけんなよ! ダクネスに泣きつくのは卑怯だろ! おいダクネス、おっさんの言い分ばっかり聞くのはどうかと思う!」

「黙れ! 貴族を虚仮にした報いだ! 三百万だぞ、三百万! なぜ大金はたいてあんなわけの分からん悪魔の像など買わねばならんのだ! すべてはこやつの策略なのです、ダスティネス様!」

「わ、分かったから! 二人とも言い分は聞くから少し静かにしていろ!」

 

 なぜかダクネスに呼びだされた俺とアルダープは、ダクネスの前に正座させられていた。

 

「貴族が参加するオークションなんだ。アイリス王女の招待客が場を騒がせた事は、すでに社交界では噂になっているぞ。……まったく、どうしてお前達はいつもいつも騒ぎを起こさずにいられないんだ?」

「騒いでねーよ。俺はあいつらが問題起こさないように見張ってた側だからな。むしろ褒められてもいいくらいだ。ていうか、王都に来たからって常識人ぶるのはやめろよ。言っとくけど、お前だって問題児なのは変わってないんだからな」

「わ、私は最初から、その……!」

 

 最初から常識人だったと主張しようとしたダクネスは、パーティーに入った時のやりとりを思いだしたのか口篭もり。

 

「……アルダープ殿に無理やり入札させたという話は?」

「い、いや、その……、無理やりっていうか、俺はただ髭に汚れが付いていたのを指摘しただけだぞ。それがたまたま司会者には入札したように見えただけで……」

「その言葉、嘘を感知する魔道具の前でも同じ事を言えるのか?」

「うぐ……っ!」

 

 確かに、騙すような形で入札させたのは自分でもさすがにどうかと思うが。

 クソ! アルダープがニヤニヤとこっちを見ているのが腹立たしい。

 そんな笑いにイラっとした俺は。

 

「こいつエリス様の像をエロい目で見てたぞ」

「……ほう?」

 

 俺の告発に、ダクネスが冷たく目を細める。

 敬虔なエリス教徒であるダクネスにとって、女神エリスを冒涜するような行為は許せないものなんだろう。

 

「無知な庶民にいろいろと教えてくれたじゃないか。豊かな胸がなんだって? ほら、あの時言ってた事を繰り返してみろよ!」

「な、何をバカな! ダスティネス様、これは奸計です! 庶民の言う事など信じてはいけません! あなた様ほどの方なら、ワシが嘘を言っていない事は分かってもらえるはず!」

「諦めが悪いぞおっさん。屋敷にあんな鏡を取りつけてたくせに、今さら潔白を主張したところで信じられるわけがないだろ」

「黙れ黙れ! ワシは貴族だぞ! 本来ならお前のような者が言葉を交わす事も不敬だ!」

「はあー? 都合が悪くなったからって身分を持ちだすのはどうかと思う。それって俺の言い分を認めたのと同じだろ。貴族だろうと庶民だろうと、エロいのが好きなのは変わらないじゃないか」

「ああもう! 二人ともそこに直れ! 騒がしくしていれば義賊が現れる事もないだろう、今夜はひと晩中説教してやる!」

 

 言い合う俺達にキレたダクネスが、腕を組み声を上げて……!

 

 

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