このすばShort   作:ねむ井

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『続・爆焔』、既読推奨かも。
 時系列は、本編後。


このはぐれ魔術士に酷評を!

 俺の名は佐藤和真。

 人々を苦しめていた魔王を倒し、世界に平和をもたらした勇者だ。

 最近の俺は、凄腕冒険者として何かあった時に備え、クエストを請ける事もなく日々英気を養う生活を送っている。

 ――そんなある日の事。

 いつものように昼過ぎに起きだした俺が街へと繰りだすと。

 

「おや。こんにちは」

「なんだお前か」

 

 道端で鉢合わせしたのは、黒髪黒目という紅魔族の特徴に、あちこちが発育している眼帯を付けた少女。

 紅魔の里で自称作家志望をしているはずの、あるえだった。

 

「なんだとはご挨拶だね。私がここにいる事に何か文句でも?」

「いや別に。どうせ盗賊団のアジトに泊まりこんで、毎日ダラダラ暮らしてるだけだろ? 最近そういう紅魔族が多いって、なぜか俺のほうに苦情が来てるぞ。お前は暇だからって理由でここら辺のモンスターを狩り尽くしたりしないだろうし、好きにニート生活送ればいいと思うよ」

 

 このところ、王都の騎士やら紅魔族やらアクシズ教徒やらが、めぐみん盗賊団の団員を名乗って街一番の屋敷に集まってきている。

 コイツもそのうちのひとりなのだろう。

 

「ニートじゃなくて、作家だよ! 以前も言ったけど私はすでに本を出しているし、紅魔の里の新聞だって作ってるんだ。ニート扱いされる謂れはないよ」

「作家もニートも大して変わらないだろ。最後に本を出したのはいつだよ?」

「そ、それは……、…………いや、いやいや。頑張って書こうとしているんだ。この街に来たのも次の作品のために駆けだし冒険者に取材するためだし……。単にダラダラ過ごしているわけじゃないから、同じ紅魔族ってだけでニート連中と同類扱いするのはやめてくれないか。今だってギルドに行って冒険者から生の声を聞いてきたところだよ。……というか、このところ毎日のように冒険者ギルドを訪ねているけど、キミを見た事はないね」

「そりゃ俺はギルドには行ってないからな」

 

 俺がキッパリと言い切ると、あるえは首を傾げる。

 

「……? 聞くところによると、キミは冒険者じゃなかったかな? それも、魔王の幹部や数多の大物賞金首とも渡り合い、ついには魔王を討伐した勇者だって話だけど」

「まあ、それほどでもあるけどな。俺ほどの冒険者にもなると、何か起こった時のために英気を養うってのも大事なんだよ」

「……ええと、参考までに聞きたいんだけど、昨日は何をしていたんだい?」

「一日中屋敷でダラダラしてたよ」

「…………。……それで、今日はこれから何を?」

「今日は知り合いの冒険者たちと約束があってな。これから決戦の地へと赴くところだ」

「お、おお……! ひょっとして、ライバル的な冒険者と決闘でもするのかい? それで、その決戦の地っていうのは?」

「いや、ただの宴会だよ。この前は飲み比べで負けて代金を全額払わされたから、今回は勝ってあいつらに奢らせてやるんだ」

「想像以上にダメ人間だった! 人の事をニート扱いしておいて、キミは何をやっているんだ! ひょっとして、勇者っていうのは態度の話なのかな? ニートのくせに人に説教するなんて確かに勇者だね!」

「はあー? 勇者舐めんなよ。逆に訊きたいんだが、ニートで何が悪いんですか? 魔王を倒した報酬でもう一生遊んで暮らせるだけの金があるんだ。働かなくても生きていけるのに、どうして働かないといけないんだよ? 一生遊んで暮らせるだけの金を貰ったって事は、一生分働いたって事だろ? 俺はもう死ぬまで働かず面白おかしく暮らしていくって決めてるんだ」

「この男、開き直ったね! ……ふぅむ、そこまで言うならめぐみんルートを進むキミの未来について、作家として私が見通してあげようじゃないか」

 

 俺のダメな発言に声を上げたあるえが、思案げな表情を浮かべるとそんな事を言いだした。

 

「おいやめろ。どこぞの悪魔みたいな事を言うのはやめろよ」

「悪魔の天敵である紅魔族を悪魔扱いするのはやめてほしい。正直どうかと思うけど、めぐみんルートを進めばいずれは結婚って事になるだろうね。二人は幸せに暮らしました、めでたしめでたしというわけだね」

「お、おう……。結婚なんて急に言われても実感湧かないけど……、まあ、そうかもな?」

「……、やがてキミとめぐみんとの間には子供が生まれる事になる。子供は親の背中を見て育つと言うけれど、キミの子供は日々何もせずダラダラ過ごすだけのニートな父親を見て育つ事になるわけだ。さぞや人生舐めたクソガキに育つ事だろうね。可哀そうに、父親がニートだったばっかりに……」

「やめろ、妙にリアルな未来を想像すんな!」

「キミがニートを卒業せず、人生舐めて働かずにいる限り充分に起こり得る未来だと思うよ。それが嫌なら真面目に働くか、めぐみんルートは諦めるといい」

「めぐみんはいいって言ってくれてるからいいんだよ! 子供の事は子供が出来てから考えるから放っておいてくれ!」

「そうは行かないよ! めぐみんは私にとっても幼なじみだからね。幸せになってもらいたいんだ。やっぱりキミみたいなのと一緒になっても幸せにはなれないんじゃないかな? 作家として予言してやろうじゃないか!」

 

 この女!

 

「何が作家だバカにしやがって! 俺は以前にも言ったはずだぞ、その発言は宣戦布告とみなすってな! あんな落書き小説で作家を名乗って恥ずかしくないんですか? あんなもん俺でも書けるわ!」

「言ったね! 言ってはいけない事を言ったね! そこまで言うなら書いてもらおうじゃないか! まさか無理とは言わないだろうね!」

「ああいいよ、書いてやるよ! 書けたらあの日の悪行をごめんなさいさせてやるから覚悟しろよ!」

「そっちこそ、書けなかったら私の徹夜の結晶を破り捨てた事を謝ってもらうからね! あと比較するのはあの落書き小説じゃなくて、今の私の作品にしてほしいのだけれど」

「おい、急に冷静になるな。後から勝負の条件を変えるのはどうなんだ? ていうか、お前も自分で落書き小説って言っちゃってるじゃん」

「自分で言うのと他人に言われるのとでは話が違うんだよ。今の私からすると、アレは落書き小説って言われても仕方ないと思うからね。それと、条件を変えたわけではないよ。キミは私が作家である事を否定したんだから、私が出版した作品と比べるのが理に適っているだろう?」

「そ、それは……。まあ、そうだな! 分かったよ、じゃあ比較対象はお前の本でいいよ!」

 

 マズったか……?

 いや、まだだ! まだ慌てるような時間じゃない!

 

「はいコレ。布教用に持ち歩いている最近の作品だよ。本来は目の前でサインを書いてあげるサービスとかやるんだけどキミには不要だろう?」

「…………お、おう……」

 

 俺はあるえから一冊の本を受け取り――

 

 

 

 屋敷に戻った俺は、部屋であるえの本を読み終えポツリと呟いた。

 

「――どうしよう、めちゃくちゃ面白いんですけど」

 

 

 *****

 

 

 数日後。

 俺は部屋で小説を書いていた。

 ……作家志望の朝は早い。

 というより夜になると机に向かって、朝早い時間まで起きている…………いや、別に作家志望ではないが。

 夜遅くまで小説を書いたり、気晴らしにゲームガールで遊んだり、気晴らしにちょむすけと戯れたり、気晴らしにふと部屋の掃除をしたくなったり、気晴らしにフラッと酒場に出掛けてそのまま帰ってこなかったり、気晴らしにとある喫茶店を訪ねてホテルに泊まったり……。

 

「って、違う!」

 

 窓から日差しが入ってきたので、そろそろ寝ようとベッドに入った俺は声を上げた。

 おかしい。

 全然書けていない。

 この数日間、俺は一体何をやっていたんだ? 気晴らししかしてない気がするんだが、さっぱり書いていないのに何の気晴らしだよ。

 これでも日本で引き篭もりをやっていた頃は、ラノベ作家になろうとして小説を書こうとしていた時期もあった。

 この程度なら自分にも書けると思いラノベ作家を目指すのは、引き篭もりなら誰でもやってる事だと思う。

 そして、意外と難しくて挫折するわけで。

 ……完全に今の俺ですね、ありがとうございます。

 机の上を見ると、張りきってネタを書きだしてみたものの、特にまとまる事もなく十分くらいで飽きて放置したノートがそのままになっている。

 そういや、引き篭もり時代もこんなだった。

 

「クソ! このままじゃあいつに笑われる!」

 

 別に期限は決めていないから賭けに負けてごめんなさいする事はないが、顔を合わせる度に鼻で笑われるのは簡単に想像できる。

 俺の名は佐藤和真。

 約束はなるべく守るし、やると言った事は必ずやる男。

 ……でも今日はもう眠いし明日から頑張ろうと思う。

 

 

 

 さらに数日後。

 俺が昼過ぎに起きだし広間に下りていくと、三人が思い思いに過ごしていた。

 

「あら、カズマさん。相変わらずおそようございます。お昼の残りなら台所の棚に置いてあるわよ」

「あいよ」

 

 ちょむすけとソファーの位置取り争いをしているアクアに言われ、朝飯を取ってきた俺が席に着いて食べ始めると。

 俺の向かいの席で鎧を磨いていたダクネスが。

 

「……なんだかお前の顔を久しぶりにまともに見た気がする。ここのところお前は部屋に篭って何をしているんだ? 少しくらい出掛けないと身体にも悪いと思うのだが」

「たまに酒場とか喫茶店とかに出掛けてるよ」

「それを出掛けると言うのは本当にどうかと思うぞ! 最近のお前は引き篭もりが過ぎる! このままでは人間がダメになるぞ! 今日という今日は無理やりにでも外に連れだしてやるからな!」

「この男は最初からダメ人間だったと思うんですけど」

「ア、アクアは黙っていろ」

 

 アクアに茶化され微妙な表情になりつつも、俺に向き直るダクネスに。

 めぐみんがポツリと。

 

「……身体に悪いとか人間がダメになるとか、ダクネスは言い訳ばかりせずに寂しいと素直に言えばいいと思います」

「!? ちちち、ちがー! 私はただ、この男の健康を心配して……!」

「ちなみに私は寂しいですよ。何か悩みがあるのなら私たちに相談してほしいです。セレナの時みたいにひとりで抱えこんで、ひとりでピンチになっていたら嫌ですからね」

 

 それを言われると弱いが……。

 

「心配しなくても、今回はピンチって言っても命に係わるようなもんじゃないよ。ただちょっと賭けみたいな事をしてるだけだ。でも、そうだなあ。たまには気晴らしにクエストに行くのも悪くないかもな」

 

 最早気晴らししかしていない気もするが、こちらの身を案じてくれる仲間たちに、俺は笑ってそう言うと……。

 

 

 

「――だから嫌だったんだよ! クエストなんてもう二度と行くか!」

 

 夕方。

 ボロボロになって街に戻ってきた俺は、冒険者ギルドに入ると背負っていためぐみんをそこら辺に放りだした。

 

「今回の殊勲者に対してこの扱いはどうかと思います」

「何が殊勲者だふざけんな! 俺の獲物を横からかっさらっていっただけじゃねーか!」

「美味しいところをかっさらうのは紅魔族の習性なのです。私に言わせてもらえば獲物をかっさらわれるほうが悪いと思います。というか、カズマがコボルト相手に無双するからいけないんですよ。いつかの恨みがどうとかいう話は知りませんが、私の獲物がいなくなるじゃないですか」

 

 魔力切れで動けないめぐみんが、床に寝そべったまま勝手な事を言う。

 そんなめぐみんに、他の二人はというと。

 

「私は一向に構わん。…………横から仲間に撃たれるというのも、コレはコレで……」

「変態は黙ってろ」

「私も別に。最近はカズマさんが調子に乗ってるから、放っておいてもプリーストとして活躍の場があるもの」

「よし、お前ら黙れ」

 

 今日のクエストはコボルト討伐だった。

 森でコボルトの群れを見つけた俺たちは、ダクネスを壁役にして俺の中級魔法でコボルトたちを攻撃し……。

 戦闘の流れが決する直前、めぐみんが爆裂魔法で全部吹っ飛ばした。

 そのせいでコボルトの近くにいた俺とダクネスは爆風で吹き飛ばされ土まみれだ。

 

「そりゃお前の爆裂魔法のコントロールはすごいよ。ギリギリのとこを狙って、俺たちを傷付けず爆風で吹っ飛ばすだけにしたのはマジですごい。一度だけとはいえ爆裂魔法を使った事がある俺だからこそ、そのすごさは分かる。さすがですね大魔法使い様めぐみん様! でも、すごいからなんだよ? 最初から仲間を巻きこむような魔法の使い方をすんなよ!」

「だったらこっちも言わせてもらいますけど、最近のカズマは活躍しすぎなんですよ! 魔王との戦いのために覚醒したのかなんだか知りませんが、ここら辺の雑魚モンスター相手なら敵なしじゃないですか! 放っておいたら私は何もせずにクエストが終わってしまって、帰りにその辺で爆裂したらいいじゃんみたいな流れになるんです! それくらいなら爆裂散歩の時にやってるんですよ! せっかくクエストに出たんですから、私だってモンスターの群れを吹っ飛ばしてスカッとしたいんです!」

「しょうがないじゃん。最強の最弱職カズマさんの伝説が始まっちゃったんだからしょうがないじゃん。まともなチートは貰えなかったけど、ようやく俺の素晴らしい異世界生活が始まるかもしれないんだ。無双くらいしたっていいだろ」

「……なあカズマ、この辺の雑魚モンスター相手に無双したくらいで何を言っているんだ? 王都に行けばもっと強力なモンスターがいくらでもいるんだからな? あまり調子に乗るのはどうかと思う」

「ひょっとしてまともじゃないチートって私の事? ちょっとあんた調子に乗るのも大概にしなさいよ」

 

 俺とめぐみんの言い合いに、外野がなんか言ってきたそんな時。

 

「やあ、めぐみん。こんなところで会うとは奇遇だね」

 

 なんか来た。

 ……そういやコイツ、駆けだし冒険者に取材してるとか言ってたな。

 

「あるえではないですか。里でヒキニートをしているはずのあなたが、こんなところで何をしているんですか?」

「ニートじゃないし、引き篭もりでもないよ! ここへは次に書く小説のために、駆けだし冒険者への取材に来ているんだよ。それでそっちの人は、クエストになんか出ないでダラダラ過ごすとか言っていたけど、どういう気まぐれかな? ひょっとして、何かの気晴らしでもしに来たのかな?」

 

 床に寝そべったままのめぐみんに対し、友好的に挨拶をしたあるえは、俺をチラッと見ると嫌味な事を言ってくる。

 さすがは作家だけあってネタに詰まった者の心境をよく分かっているらしい。

 

「仲間に誘われてクエストに出るのは俺のダラダラ生活の予定に最初から入っているんだよ。例のアレなら順調だから楽しみに待ってろよ」

「……? 例のアレとはなんですか?」

「その男が私よりも面白い小説を書けると言ったからね。それなら書いてみればいいって話になったんだよ」

 

 めぐみんの問いかけに、俺が止める間もなくあるえが答える。

 いや、別に口止めはしてなかったけど! なかったけど、なんか……!

 

「ここ最近悩んでいたのはそれですか」

「お前という奴は……。作家相手にそんな事を言えば怒らせるに決まっているだろう。本職の者はその道に進むために努力しているんだ。私だって盾職としての矜持を傷付けられれば腹も立つ」

「う、うるせー! しょうがないだろ、あのくらいなら俺にも書けると思ったんだよ!」

 

 と、あるえがフフンと笑いながら。

 

「それは楽しみだね。そんな事を言って締め切りの日には……、そう言えば締め切りを決めていなかったね。まあ、急かすような事でもないしキミの予定に合わせるので構わないよ。いつまでに出来そうなんだい?」

「予定は未定だな。以前も言ったが勝負事に後から条件を付け加えるのはどうかと思う。あの時は締め切りがどうのなんて話は出なかったんだから無期限だろ」

「…………、……その条件だと、キミが負けるのは死んだ時という事になるね」

「そーだよ。万一勝てない事があったとしても、少なくとも俺が負ける事はないよ」

 

 面白い小説を書けなかったとしても、締め切りを決めていない以上、今はまだ出来ていないだけだと死ぬまで言い張ろうと思う。

 

「この男! 最初からそのつもりだったのか? ひ、卑怯者! めぐみん、やっぱりこの男はダメだ!」

「おっ、やろうってのか? その言葉は宣戦布告とみなすって以前にも言ったはずだぞ。俺のバインドとお前の上級魔法、どっちが早いか試してみるか?」

「上等だ! 私だって紅魔族、売られた喧嘩は買うよ! この場で焼却してやるから覚悟するといいよ!」

「ちなみに紅魔の里ではどうか知らないが、この街では上級魔法の使用は禁止されてるからな。じゃあ、やろうか」

「えっ」

「『バイン……』……っ!?」

 

 特別製のワイヤーを手に拘束スキルを使おうとした俺は、全身から力が抜けめぐみんの隣に倒れた。

 

「いづっ……! なんだコレ、力が入らん……!?」

「……カズマは魔力が少ないのにクエストで中級魔法をポンポン使ってましたからね。消費の激しいスキルを使おうとすれば魔力切れにもなりますよ」

「まったく、数多のスキルを会得し覚醒したなどと言っておいて、肝心なところで締まらない奴だな。おい、アクア。回復を……」

 

 苦笑しながらのダクネスに呼ばれたアクアは。

 

「花鳥風月!」

「おおっ!」

「これが噂のアクアさんの宴会芸! 俺、初めて見たよ!」

 

 よく知らないパーティーの人たちと一緒に酒を飲んで騒いでいた。

 いや、何やってんだあいつ。

 

「さあ、今からこのテーブルが消えますよ!」

「「「すいません、それはやめてください!」」」

 

 

 *****

 

 

 その日から、俺はまた部屋に引き篭もり……。

 

「……畜生! 全然書けねえ!」

 

 勝負に負ける事はないが、このままだとあいつと顔を合わせる度に鼻で笑われる。

 大体、あの落書き小説みたいなのならともかく、本職の作家が書いたよりも面白いものなんて書けるわけが……

 まあ、書けるって言ったのは俺なんだけども。

 

 …………。

 

 ……いや、待てよ?

 あの落書き小説ではゆんゆんが主人公で、里の占い師というのもそけっととかいう実在するお姉さんだった。

 あの小説の登場人物は、あるえの周りにいた人たち。

 俺も同じ手を使うってのはどうだ?

 ネットでは小説を書いてる奴らが、よくキャラクターが勝手に動くとかなんとか言っていた。

 その感じは今のところ俺にはさっぱり分からないが、俺の言う事も聞かず勝手に動くあいつらの事なら俺にも少しは分かるはず……。

 

「…………ふぅむ?」

 

 …………。

 ……………………。

 

 ――そして。

 

「…………出来ちまった」

 

 そこそこの長さの小説を書き上げた俺は、朝日の中に原稿用紙を掲げていた。

 けっこう長い時間夢中で書いていたせいか体力的にはヘロヘロだが、なんか妙にテンションが高く今なら魔王ともう一戦やっても勝てそうな気になってくる。

 この状態で書いたもんを破り捨てられたら、そりゃキレるのも無理は……。

 違う、そうじゃない。

 コレをあるえに突きつけ、こんなもん誰にでも書ける程度のものだと証明してやるんだ。

 

 

 

 完成した原稿を鞄に詰めた俺は、めぐみん盗賊団のアジトとなっている、この街一番の屋敷へとやってきた。

 

「どうも、魔王を倒したサトウさんです」

「サトウ殿? サトウ殿が来たぞ! 総員、警戒態勢!」

 

 俺が門の前に立っていた騎士に声を掛けると、なぜか騎士たちがワラワラと湧いてくる。

 

「な、なんだよ。俺はただちょっとここの住人に用事があるだけだぞ。この屋敷の持ち主であるイリスにも、いつでも訪ねてきてくださいねって言われてるし、あんたらに止められる筋合いはないはずだ」

「申し訳ありませんが、さるお方よりサトウ殿には厳重に警戒せよとの命を受けております。まずは持ち物を見せていただきたく」

「いやふざけんな! ここを通る奴らはセシリーですら顔パスだって知ってるぞ! なんで俺だけ持ち物検査されないといけないんだよ! ていうか、さるお方ってどうせクレアだろ! あの白スーツ、このところ俺から逃げ回ってると思ったら狡すっからい手使いやがって! いつか目に物見せてやる!」

「違います! 違います! 我々の依頼主はクレア殿ではありません! というか、シンフォニア家のご令嬢にそのような物言いはどうかと思いますよ! そんなだから通すわけには行かないと言っているんです、どうか所持品検査にご協力を! それとも、何か我々に見せられないような物を持ちこむおつもりか?」

 

 怪しい物ではないが、見せられない物は持ってきている。

 この鞄の中身を見られるのは……。

 ……というか、冷静になってみると、コレをあるえに見せるってどうなんだ? さっきまでの俺は何を考えていたんだろうか?

 

「よし、分かった。今日のところは出直して……」

「確保ーっ!」

 

 踵を返そうとした俺に、集まっていた騎士たちが一斉に襲いかかってきた――!

 

「ふざけんな! ふざけんな! 非武装の一般市民に急に襲い掛かってくるって何考えてるんですか? 騎士団ってのは卑怯者の集団なのか? お前らイリスに言いつけてやるから覚えてろよ!」

 

 襲ってきた騎士団を自動回避スキルで躱し、逃走スキルで包囲を抜けた俺は、手のひらを突きつけ牽制しながら、騎士団の非道を糾弾する。

 そんな俺に、隊長格らしい騎士が。

 

「それはやめていただきたい! が、持ち物を見られると分かった途端に引き返すのは、怪しい物を持っていると言っているようなものですぞ! この屋敷にはイリス様も出入りする以上、今のあなたをこのまま帰すわけには参りません! その鞄の中身を見せていただく!」

「お断りします。この鞄の中には、別に危険ではないけど俺にとっては死んでも他人に見られたくないものが入ってるんだ。あんたらに見られるくらいならティンダーで燃やしてやるよ。これってここの住人のために持ってきたもんだがいいのか? 届け物の妨害をするって事は、イリスの客人に対する無礼って事になるんじゃないか?」

「な、なんと言われようとも我々は任務を全うするまで! その鞄を渡していただく!」

「何度も言うけどお断りします。言っとくが実力行使するつもりならこっちにだって考えがあるからな? 考え直すなら今のうちだぞ?」

「残念だ。私個人としては、あなたの事は尊敬しているのですが……!」

 

 身構える俺に、騎士たちが殺到してきた――!

 

 

 

 部屋のドアをノックすると、パジャマ姿のあるえがあくびしながら現れた。

 

「ふわぁ……。なんだいこんな時間に非常識な。私はそろそろ寝るところなのだけれど」

「人の事は言えないが、この時間に寝るのはニート的にもまあまあヤバい状態だからな。生活習慣はちゃんとしといたほうがいいぞ」

「本当にキミの言えた事ではないね。何度も言うけど私はニートではないよ。今日だって小説を書いていて寝ていなかっただけだよ。静かなほうが集中できるからね。それで、キミはこんな非常識な時間になんの用かな?」

「まあ、用っていうか……」

 

 マズったな。

 俺としてはあのまま逃げたほうが都合が良かったんだが……。

 

「ひょっとして、例の勝負を撤回しに来たのかい? 私程度の小説は誰にでも書けるという言葉を取り消して謝罪してくれるなら構わないよ」

「そんなわけないだろ! お前に言われたもんを書いてきたんだよ!」

 

 鞄の中から取りだした原稿を、俺はあるえに差しだし……。

 

「へえ? こないだの言葉からして、このままなかった事にするつもりかと思っていたよ。出来はどうでも処女作を完成させるとは意外とやるね」

「俺はやると言った事は必ずやる男だって言ったろ、……」

「……? なんだい? さっさと手を離してほしいんだけど」

 

 あるえに原稿を手渡そうとするも、理性の一部がやっぱりやめたほうがいいんじゃないかと囁き思わず手に力が入る。

 

「…………なあ、今さらだけどやっぱりなかった事にしないか? 本職相手に勝負ってのはいろいろとどうかと思う」

「本当に今さらだね!? それは私もキミの仲間も散々言ったはずだよ! どこかのタイミングで撤回してごめんなさいすれば良かったのに、ここまで意地を張ったのはキミだろう! ほら、諦めて手を離すんだ! キミの言葉が真実かどうか、私が裁定してやる!」

「そ、そうなんだけども!」

 

 さすがにコレは……!

 と、そんな時。

 

「出てこいサトウカズマ! 屋敷にいるのは分かっているぞ、この卑怯者が!」

 

 玄関のドアが開かれると同時、そんな怒鳴り声が。

 俺は原稿を奪い取ろうと力を込めるあるえごと、部屋の中に飛びこんだ。

 

 

 *****

 

 

 丸められた原稿用紙が床に散らばる、あるえの部屋にて。

 

「年頃の娘の部屋に無理やり入ってくるなんてどういうつもりかな! この事はめぐみんに報告するからね!」

 

 警戒するように俺から距離を取ったあるえが、そんなバカな事を言う。

 

「シーッ! それは悪かったけど別に変な事するつもりはないから安心しろ! 俺はめぐみんに対し誠実である事を心掛けてるから浮気になるような事はしない。……でもお前は戦闘力の高い紅魔族だし、俺の事を好きすぎて性的に襲われたら抵抗できなくても仕方ないよな?」

「そんなバカな事はあり得ないけど、キミは一回くらい騎士に捕まったほうがいいと思うよ。……というか、さっきのはここの門番をやっている騎士様の声だね? 私の時といい、キミは誰彼構わず怒らせずにはいられないのかい? 彼らは職務に忠実なだけの善良な騎士のはずだけれど、何をやったらあんなに怒らせる事が出来るんだ?」

「屋敷に入ろうとしたら鞄の中を見せろって言ってきたから、そのまま警察署まで釣ってって通報しただけだよ」

 

 屋敷の持ち主にいつでも訪ねてきていいと言われているのに妨害するのは、勝手に道を塞いで通行料を取るチンピラと変わらない。

 警察が介入すれば当然捕まるのはあいつらのほうになる。

 ……こんなに早く戻ってくるのは想定外だが。

 俺の目的地がこの屋敷だと言うと、残った騎士に襲われるかもしれないからと、警官のひとりが送ってくれた。

 でもやっぱりあのまま逃げたほうが良かったような……。

 

「キミは本当に一回くらい騎士に捕まったほうがいいと思う」

「いいのか? 今俺が騎士に捕まったらこの原稿も取り上げられると思えよ。お前以外の奴らに読まれるくらいならこの場で燃やしてやるからな」

「苦労して書き上げた原稿を自分で燃やすつもりかい? 分かったよ。しばらくこの部屋でキミを匿う代わりに、それは読ませてもらうからね」

 

 あるえはそう言うと、パジャマのボタンをプチプチと外して……。

 

「ちょ……! お前何やってんの? そういった事はしないって言ってるだろ!」

「キミこそ人の胸元をガン見しながら何を言っているんだい? こういう時は普通目を逸らすものだと思うのだけれど」

 

 顔を赤くしたあるえが、胸元を隠し俺に背を向けたその時。

 コンコンとドアをノックする音が。

 

「すいません、あるえ殿。屋敷内の安全に関する事で、少しお聞きしたい事が……」

 

 あるえはドアをノックした騎士に応え、ふわぁとあくびをしながらドアを開ける。

 

「申し訳ないけど、夜中ずっと小説を書いていてね。これから眠るところなんだよ。急ぎじゃないなら用件は後にしてもらえないかい?」

「い、いえ! すいませんでした! ごゆっくりお休みください!」

 

 無防備なあるえの姿に騎士が声を上ずらせ、慌てた様子で去っていくのを見送ると、あるえは手早くパジャマのボタンを閉めた。

 

「これで良し。さあ、原稿を渡してもらうよ」

 

 マジかよ、紅魔族って悪女しかいないのか?

 

 

 

「――なるほど、登場人物として周りにいる人たちを出しているんだね」

 

 椅子に座り俺の原稿を読み始めたあるえが、ポツリと言った。

 

「別にいいだろ。お前も同じ事やってたんだし文句は聞かないぞ」

「もちろん文句なんかないけれど、……めぐみんがキミの弟子? 本人が読んだら怒るんじゃないか?」

「お前以外に読ませる予定はないからいいんだよ。俺は作家でもないし作家志望でもない。それは俺の言葉が事実だって証明するために書いただけだから、他の奴らには見せるなよ」

「面白いものなら皆で共有したいものじゃないかい? まあ、その辺は作者の意向に従うよ。……おや、ダクネスさんは貴族のご令嬢か」

「……ていうか、書いたもんにコメントされるのは恥ずかしいんですけど」

「私の部屋で私がどう過ごそうとキミに文句を言われる筋合いはないよ。聞きたくないなら出ていくといいよ。この部屋の外は騎士たちが見回っているけどね」

 

 原稿から目を離す事なく、あるえは少しだけ楽しそうにそんな事を……。

 

「コイツ汚ぇ! 俺が騎士に追われてるって知ってるくせに!」

「匿ってあげてるんだから少しくらい感謝してくれてもいいと思うね」

「今度お前の小説をお前の目の前で読んで感想言ってやるからな」

「お買い上げありがとうございます。私はプロの作家なんだから、そのくらいの覚悟は出来ているよ」

「ページが汚れていたので星イチです」

「キミが何を言っているのか分からないけど、ロクでもない事だっていうのは分かるよ! それは私のせいじゃないし、私の小説の感想でもないね!」

 

 

 

 ――目が覚めると夕方だった。

 俺が書いた小説を読むあるえと会話していたのが最後の記憶だ。

 連日の徹夜のせいか、あるえと話しているうちに寝落ちしていたらしい。

 

 何気なく寝返りを打つと、至近距離にあるえの顔があった。

 

「うおおおお! なんだよお前、何を普通に隣で寝てんの? 年頃の娘さんが男と同衾はさすがにマズいと思う!」

 

 一瞬で覚醒した俺は、あるえから距離を取る。

 俺の声に、あるえは迷惑そうな顔をしながら身を起こし。

 

「……んん? いきなり何を騒いでいるんだい。人の部屋でぐうぐう寝ていたキミと違って、私はあまり寝ていないのだけど」

「そりゃ騒ぐよ! 俺にはめぐみんがいるんだからこういうのはやめてもらいたい。でも紅魔族相手に真っ向勝負で勝てるわけないし、無理やりヤられちまったとしても俺のせいじゃないよな?」

「寝起きにバカな事を言うのはやめてほしいね。同じベッドで寝ているのは、単にキミが私のベッドを占拠していたからだよ。私のベッドで私が寝るのは当たり前だし、キミに文句を言われる筋合いはないよ」

 

 焦る俺に、あるえは冷静に言う。

 ……着ているものに乱れはなし、知らないうちに清い体じゃなくなったって事はなさそうだ。

 と、自分の身を検分していた俺に、

 

「ごめんなさい」

 

 ベッドの上で姿勢を正すと、あるえは深々と頭を下げた。

 

「!!!!???? おい、なんだよ! それはなんのごめんなさいだよ! ちょっと待て、俺ってやっぱり卒業しちまったのか? 作家の好奇心に汚されたのか? 畜生、どうせなら起きてる時が良かった!」

「違うよ! 全然違うよ! キミの書いた小説が面白かったから、以前の事について謝っているんだ! そういう約束だったからね!」

 

 ……約束?

 

「えっと、それって俺の小説が面白かったら謝るっていうやつだよな?」

「そうだよ。私が出版した作品より面白かったとは認めたくないけど、好みによってはそう言う人もいるかもしれないくらいには面白かったからね。改めて、あの時は私が書いた小説のせいで迷惑を掛けて悪かったね」

 

 顔を上げたあるえは、苦笑しながらそんな事を……。

 …………。

 

「そ、そうか。……まあ、俺もお前の徹夜の結晶とやらを破いちまったわけだしな。それを書いた今なら分かるが、徹夜して書いたもんを破り捨てられたら俺だってブチ切れると思う。正直すまんかった」

「……ふーん? キミの事だからもっと勝ち誇って煽ってくるかと思っていたよ。なんだかソワソワしているみたいだけど、どうかしたかい?」

「べべべ、別にソワソワなんてしてねーよ! じゃあこの勝負は俺の勝ちって事でいいな! もう夕方だし、騎士たちもいい加減諦めただろうから俺は帰るぞ!」

 

 

 *****

 

 

 あれから数週間が経った。

 

 日々ダラダラと過ごしながらも、めぐみんの爆裂散歩に付き合ったり、ダクネスのお見合いをぶっ壊したりと、なんやかんや忙しく……。

 俺はあるえとの小説勝負の事をすっかり忘れていた。

 ――そんなある日の事。

 俺がいつものように昼過ぎに起きると、庭先でこめっこが楽しそうに遊んでいて。

 その様子を、めぐみんとアクアがのんびりと見守っている。

 こめっこは紅魔族らしくポーズを取り、ちょむすけに向け手のひらを前に突きだすと。

 

「我は放つ! 光の白刃!」

「おやこめっこ、耳慣れない呪文ですね。短いのに紅魔族的な琴線に触れる、いい詠唱です。そんなのどこで覚えてきたんですか?」

「あるえの部屋で読んだよ」

 

 そんな、微笑ましい姉妹のやりとりが……。

 …………。

 ちょっと待ってくれ。

 それって……

 いや、大丈夫だ。

 誰にも読ませないでくれと言ったもんをなんでこめっこが読んでるんだという文句はあるが、誰かに聞かれたとしてもこっちの世界に知っている奴は……。

 内心焦る俺を、なぜかアクアがジッと見つめていた。

 

「な、なんだよ。俺の顔に何か付いてるか?」

「昼ごはんの食べかすが頬っぺたに付いてますけど。そんな事よりカズマさん、何か言わないといけない事があるんじゃないかしら」

「……、ちょっと何を言ってるのか分からないな。お前に言わないといけない事なんかなんにもないよ」

「ほーん? じゃあ私じゃなくて、あるえには? こないだ面白小説勝負をしてるとか言ってなかったかしら?」

 

 コイツはどうしてバカのくせにどうでもいい事だけは覚えてるんだ。

 ていうかあの時、他のパーティーと宴会やってて聞いてなかったはずじゃないか?

 小説勝負の事なんて、今の今まで俺も忘れてたのに。

 

「いいかアクア、日本の著作権法も異世界では効力を発揮しないんだ。俺がやった事は確かにあんまり良くない事かもしれないが、あるえが出した条件は、あるえよりも面白い小説を書く事であって、オリジナルでって事じゃなかった。そりゃいいか悪いかで言えば悪い事だよ。でもこっちでは知られてない物語なんだし、それで金を稼ごうってわけでもない。黒に近いかもしれないが、ぎりぎりグレーって言えるんじゃないか?」

「だったらその事をみんなに知らせてもいいわね? めぐみんめぐみん、面白い話があるけど聞きたい? 牙の塔っていう魔術士の学校みたいなところがあってね?」

「よし分かった! 酒か? 酒奢ってやるよ!」

「本当? マイケルさんのお店で一番高いお酒買ってもいい?」

「ああ買ってやる! 酒くらいいくらでも買ってやるよ! だからあるえには黙っといてください!」

「私に何を黙っていろって?」

 

 俺がアクアの買収に成功したその時、今一番聞きたくない人物の声が聞こえてきた。

 

 

 

 ――屋敷の広間にて。

 

「すいませんでした」

 

 俺はあるえにごめんなさいをしていた。

 土下座である。

 作家志望が書いたものを破り捨て、その正否で言い争って作家相手に小説で勝負を仕掛け、それに出したものがパクリ小説。

 よく考えると俺って最低じゃないか?

 巷でクズマだのゲスマだの言われているのもあながち間違いじゃないのかもしれないと思えてくる。

 

「まあ、こんな事だろうとは思っていたけれどね。一応それっぽい作品がないか探してみたものの見つからなくてね。……なるほど、キミの故郷の物語か」

 

 俺の前で椅子に腰掛けているあるえが、なんでもないようにそんな事を……。

 

「畜生、バレてたのかよ! じゃあもっと早く言ってくれよ!」

「この男は。……開き直るにしても言いようってものがあるんじゃないかい? 文章はどう見ても初心者なのに、展開が小慣れすぎていたからねえ。それに、めぐみんは弟子なのにダクネスさんは現実のまま貴族令嬢なんてちぐはぐじゃないか。何か下敷きにしたものがあるんじゃないかと考えるのは当然だよ」

 

 バンバンと床を叩く俺に、あるえはプロの作家みたいな事を言う。

 ……いや、みたいなじゃなくてプロの作家なんだが。

 

「まあ、未熟な頃の私の作品がキミに迷惑を掛けたのも事実だし、ここはお互い、過去の事は水に流すという事でどうだろう? その代わりに……」

「おっ、そうか! じゃあお互い悪かったって事で、ごめんな!」

「えっ」

 

 あるえが甘っちょろい事を言った直後、俺は土下座を解除し軽い謝罪をした。

 昼寝中のこめっこに膝枕をしているめぐみんが。

 

「カズマやアクアに対して譲歩したら、その分だけ詰められますよ。言質を取られたら終わりだと思ったほうがいいです」

「そういう事は先に言っておいてほしかったね!」

 

 めぐみんの助言にあるえが声を上げる。

 

「おいちょっと待て。人を何かと言いがかりを付けるチンピラみたいに言うのはどうかと思う」

「私もゲスマとかクズマとか呼ばれてる人と一緒にされるのは嫌なんですけど」

 

 俺とアクアが、余計な事を言うめぐみんに抗議していると……。

 動揺から立ち直ったあるえが。

 

「ま、まあいいよ。言った事は守るよ。過去の事は水に流そうじゃないか。その代わりに、キミがいた国の物語を教えてくれないかい? 素人のキミがあんなに面白いものを書けたくらいだ。他にも面白い物語があるんじゃないかい?」

「まあそれくらいなら構わんよ。ぶっちゃけ、ああいう感じの話ならいくらでもあるからなあ」

「いくらでも!? キミが書いたものは正直すごく面白く感じたけど、ああいうのがいくらでもあるのかい? 本当に?」

「あるある。俺がいたところはオタク文化の国って言われてたからな。ラノベや漫画、アニメに関しては世界の最先端だったと言っても過言ではない」

「まんが? あにめ……? キミが何を言っているのかさっぱり分からないけど、なんとなく心惹かれる響きを感じるよ。もっとキミの国の話を聞かせてほしい!」

 

 と、あるえが目を赤く輝かせながら身を乗りだした、そんな時。

 

「あるえがそんなに興奮しているのは珍しいですね。……ところでさっき私が弟子とかなんとか言っていましたがどういう事ですか?」

 

 めぐみんがポツリとそんな事を言った。

 

「…………」

 

 さっと目を逸らした俺を見て、あるえがニヤリと笑っていて……。

 ……えっ。

 ちょっと待て、うっかりポロっと言っちまったんじゃなくてわざとだったのかよ? クソ、これだから知能の高い紅魔族は!

 

「それは、その……。ほら、アレだよ。うん、アレだな」

「なるほどアレですか。で、アレとはなんですか?」

「めぐみんは弟子で、……私は現実のまま貴族令嬢だったか?」

 

 めぐみんとダクネスがあるえの言葉に考えこみ、俺がどう誤魔化そうかと考えこんでいると。

 あるえが俺たちの様子をニヤニヤと見ながら。

 

「私としては、ここまで来たらみんなにも読んでもらったらいいと思うよ。正直、出版されてもおかしくないくらい面白かったからね。私以外の人の感想を聞きたい」

「お前ふざけんなよ。わざとこいつらに興味を持たせるような事言いやがって、他の奴らに読ませるなって言っただろうが」

「私が読ませるわけではないよ。そんなに嫌ならキミが断ればいいじゃないか、断れるものならね。実在の人物を物語に登場させると、こういう事もあるって予想しておくべきだったね」

「こめっこに読まれたからこんな事になってるんですけど。お前の管理不行き届きだろ」

「……。じゃあ、私はキミの原稿を部屋から取ってくるよ」

 

 そう言うとあるえはテレポートで消えた。

 あの女……!

 

「ほーん、カズマったら主人公なの? 魔術士カズマはぐれ旅ですか? いくらなんでも調子に乗るにも程があると思うんですけど! プークスクス! クスクスクス!」

「うるせー! そんな事俺だって分かってるよ、でもしょうがないだろ! いろいろと配役を考えてみたらなんかしっくり来ちまったんだよ!」

 

 アクアに煽られ声を上げる俺に、めぐみんが。

 

「ちょっと待ってくださいよ! カズマは魔法使いなのですか? 創作の中とは言え、アクセル随一の大魔法使いである私がカズマの弟子というのは納得行きませんよ! 私の十分の一くらいしか魔力がないくせに! ここら辺の雑魚モンスター相手に無双しているからと言って、最近のカズマは調子に乗りすぎだと思います!」

「悪かったよ! 何度も言うけどしっくり来ちまったんだよ! でもこの物語はフィクションであり、現実とは関係ないから気にすんな! それに、めぐみんのほうが魔術士としての才能はあるし、あと魔法を使うと爆発する」

「ならいいです」

 

 いいのか?

 

「あらっ? ねえ待って、そう言えばダクネスって貴族令嬢なのよね? その子って最後に……、…………」

「……!? そ、そうなのか? おいカズマ、これは一体どういうつもりだ。これは……、これは……!」

 

 アクアがごにょごにょ言うのを聞いていたダクネスが、どこか嬉しそうな声を上げるのに、俺はキッパリと言った。

 

「配役が余っただけだよ」

「!!!!????」

 

 俺の言葉にダクネスが愕然とした表情になる中、アクアが首を傾げながら。

 

「ねえカズマさん、私は私は? やっぱり賢くも麗しいこの私は、謎の美少女魔法使い、アザ」

「お前はマスマチュリアの狂犬に決まってるだろ」

「あんまりバカな事を言っていると、その腐った性根を浄化し殺すわよ」

 

 




・「我は放つ、光の白刃」
 著:秋田定信「魔術士オーフェン」シリーズにて主人公オーフェンが使う魔法の詠唱の代表格。なお筆者はシリーズを最後まで読んでいないので、触れている内容に誤りがあるかもしれません。すいません。
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