時系列は、12巻の後。
こいつらとのこんな暮らしが、ずっとずっと、続きますように――
コロリン病の一件を解決し、思わずそんな風に願ってしまうほど、騒がしくも平穏な生活が続いていたある日の事。
「聞きたい事がある」
屋敷の広間で寛いでいると、ダクネスがポツリと言った。
「その……、わ、私は影が薄いのだろうか? 存在感があまりないのだろうか? 出来れば、何かこう……、目立てるような個性が欲しいのだが、どうすればいいと思う?」
…………。
「お前アレだろ、安楽王女に言われた事気にしてんだろ」
「ななな、何をバカな! 私があんな、あんなモンスターが言う事なんかを……! 気にする……、はずが…………。うう……、やはり私は硬いだけの女なのだろうか? 私の代わりにアダマンマイマイを連れていっても結果はあまり変わらないのだろうか?」
俺の言葉を否定しようとするも、段々声が小さくなっていったダクネスは、最後には両手で顔を覆った。
俺たちは以前、冒険者ギルドの塩漬けクエストをクリアした事があった。
それは、アクセルの西の森に住む安楽王女の討伐。
俺は、一見人格者だが実は腹黒い安楽王女の外面にも惑わされず、知恵と機転でその討伐を成功させたのだが……。
助からないと悟った安楽王女は、逆ギレして口汚い罵倒の言葉を発し、俺たちの心に傷を残していった。
……けっこう前の話なのに未だに気にしてたのか。
そんなダクネスに、めぐみんがクスリと笑うと。
「あんなモンスターの言う事を気にしていたんですか? 安楽王女と話したのはほんの少しの時間ですし、あれだけで私たちの事を見透かせるわけないじゃないですか。言っている事もてんで的外れでしたからね。私にはゆんゆん以外にも友達くらいいますから」
……そうかなあ?
俺が内心首を傾げていると、アクアが。
「ねえめぐみん、私たち相手に見栄を張るのはどうかと思うの。めぐみんにゆんゆん以外の友達がいない事くらい分かってるわよ」
「おいやめろ、今はダクネスを慰めようってとこなんだから、余計な事を言うのはやめとけよ」
余計な事を言おうとするアクアにめぐみんの頬が引き攣りかけるが……。
「そ、それはそうかもしれないが……」
ダクネスは俺たちの会話を聞かなかった事にして話を続けるらしい。
「安楽王女の言葉はきっかけに過ぎないんだ。あれからいろいろ考えてみたんだが……、私も、影が薄いなどと言われる事のない、きちんとした個性が欲しいんだ」
「お、お前……。変態で女騎士の上に、処女なのにバツイチでしかも子持ちとかいう属性過多のくせに何言ってんだ? お前は充分個性的だから安心しろよ。めぐみんを見ろ、爆裂一本でこれまでやってきてるんだぞ」
別に褒めていないのだが、俺の言葉にめぐみんがドヤ顔で胸を張った。
「だ、だから私はバツイチでもないし子持ちでもない! 領主の権限で戸籍はきれいにしたし、シルフィーナはいとこだと言っただろう!」
「こいつとうとう領主の権力使ったって認めやがった! 悪徳貴族属性まで増えたんだからもういいだろ! アクアを見ろ、バカ一本でこれまでやってきてるんだぞ」
俺の言葉にアクアがドヤ顔で胸を張っ……。
「ねえ待って? 私、あんまり褒められている気がしないんですけど」
「褒めてないからな」
俺が襲いかかってきたアクアを迎え撃つ中、ダクネスは絞りだすような声で言った。
「それでも……! それでも私は、個性が欲しい……っ!」
*****
「――で、悪徳貴族ワルネスは具体的にどんな個性が欲しいんだ?」
「ここは私に任せなさいな! 日本担当として数多の漫画やアニメを見てきたこのアクア様が、バツネスを立派な萌えキャラにしてあげるわ!」
「頼み事をする立場だからと下手に出れば付け上がりおって! 私の数ある取り柄のひとつに怪力というのもあってだな!」
「あああああああ! 悪かった! 嘘ですダクネス様! すいませんでした!」
「わああああーっ! なんで私まで!」
調子に乗ってダクネスをからかった俺とアクアが、ダクネスにアイアンクローで持ちあげられブランってなった。
そんな俺たちの様子を見ながらめぐみんが。
「ダクネスの個性と言えば硬い事ではないですか。それではいけないんですか? その……、こんな機会だから言いますけど、いつもモンスター相手に前に出て私たちを守ってくれる背中は頼もしいと思っていますよ。紅魔族的にもダクネスは格好良いです」
「あ、ありがとうめぐみん……。そう言ってもらえるのは嬉しい。嬉しいのだが……」
「いだだだだだ! おいふざけんな! 何ちょっとイイ感じの雰囲気出してんだ! 痛い痛い! 食いこんでる指が食いこんでる!」
「離してバツネス! これ以上は頭がクシャッてなっちゃう!」
俺たちを両手にぶら下げたままほんわかした雰囲気を作るダクネスに文句を言うと、ダクネスはあっという顔をして手を離しかけ……。
「だからバツネスはやめろと!」
余計な事を言ったアクアにだけアイアンクローを続行した。
「なんでよー! ねえ聞いて! バツイチだって立派な個性よ! 自動的に色気がプラスされる未亡人属性を知らないの?」
「私はバツイチではないし、そんな属性を持つつもりもない!」
「分かったわ。バツイチ以外の個性がいいなら、私に任せなさいな。実はダクネスにちょうどいいと思って買っておいた衣装があるのでした!」
「バツイチを個性と言い張るアクアには頼りたくないのだが……」
アクアはダクネスに頭を掴まれブランブランしているのだが、さっきまで痛がっていたのが嘘のように平然としている。
……あいつ、自分に回復魔法を使ってるな。
ダクネスもそれが分かったのか、効かないと分かっているお仕置きをやめた。
床に落ちて尻餅を突いたアクアが、堪えた様子もなく立ち上がる。
「じゃあ私の部屋に行くわよ! ほら、早く来てー、早く来てー」
自信満々で言いきったアクアに連れられ、不安そうな顔をしたダクネスが二階へと消えると。
めぐみんがポツリと。
「……どう思います?」
「あいつが自信ありげな時は大体失敗するからダメだと思う」
――で。
「待ってくれ! 待ってくれ! 本気か? 本気でこの格好で人前に出ろと……? む、無理だ! 恥ずかしすぎて死んでしまう! やっぱり着替え……、アクア? アクア! 手を……、手を離せ! くっ、この……! ああもう、どうしてこういう時だけステータスの高さを発揮するんだ! 分かった、さっきアイアンクローした事は謝る! だから……、わあああああ! 許してください! 許してください! ああああああああ!」
いつになく必死に抵抗するも、ステータスの高さに物を言わせ、無理やりアクアに引き摺られてきたダクネスは。
白と黄色を基調とした、ファンシーな感じのヒラヒラした衣装を身に纏っていて。
そんなダクネスは、ひと言で言うと……
「じゃーん! 魔法少女ダクネスちゃんよ! どう? どう?」
そう。
まさに魔法少女と言った感じの格好をしていた。
「似合わないな」
「似合わないですね」
魔法少女ダクネスちゃんの姿に俺とめぐみんが即答し、ダクネスが泣きそうな顔になる中。
「そうでしょう、そうでしょう。似合わないでしょう?」
「えっ」
アクアにまで裏切られ、ダクネスが声を上げた。
「ま、待ってくれ! アクアはコレが私に似合うからと……、私のために買っておいてくれた衣装ではなかったのか?」
「……? 私はダクネスに似合うなんてひと言も言ってないわよ?」
そういや、ちょうどいいとは言っていたが、似合うとは言っていなかったな。
「何言ってんの? 魔法少女ダクネスちゃんはコレがいいんじゃないの。全然魔法少女っぽくない娘が魔法少女衣装を着て恥ずかしそうにしている、このコレジャナイ感がいいのよ」
「なるほど?」
ダクネスは背が高いし体格もいいから、ファンシーな感じの魔法少女の衣装は、はっきり言って似合っていない。
しかし、そんな似合っていないダクネスが、似合っていないと自覚し、恥ずかしそうにモジモジしているのは、正直グッと来るものがある。
まあ、問題は本人がどう思うかなわけで。
「……個性が欲しいと言う私に、わざわざ似合わないものを着せるのはなぜだ? 私は何かアクアに嫌われるような事をしたのだろうか? もしそうなら謝らせてほしいのだが……。……せっかく勧めてもらったのに、似合わなくてすまないな」
「あーあ、ダクネス泣いちゃいましたよ! どうするんですかアクア!」
「謝って! 今日は一段とめんどくさいダクネスに謝って!」
似合わない似合わないと連呼され、涙ぐむダクネスを見た俺とめぐみんが、アクアに謝罪を要求する。
「ち、違うのよ! 聞いてダクネス! 私が元いた場所にはね、こんな言葉があるわ。……だが、それがいい! これはね、本来なら相応しくなかったり、邪道だったりするものに対して、それも含めて魅力があるって事を意味する言葉なの! つまり、今のダクネスの事よ! 見た目はクール系の女騎士で、似合わない衣装を本人も恥ずかしがっている、それが魔法少女ダクネスちゃんなの! 必殺技はマジカルアイアンクロー! 魔法少女なんて今時いくらでもいるわ。普通の魔法少女やっても埋もれちゃうけど、コレなら絶対にイケると思うの! 信じてよー!」
アクアが必死に訴えるも、ダクネスはフッと切なそうに微笑んで。
「魔法少女というのはよく分からないが、アクアに悪気がない事は分かった。しかし、やはり私は似合わないと分かっている衣装を着る気にはなれない。すまないな」
「なんでよー!」
アクアのそんな言葉にもダクネスの決心は変わらず。
……まあ、この世界には魔法使いはいても魔法少女はいないからな、普通の魔法少女がいないのに最初からイロモノ枠を狙ってもしょうがない。
*****
「真打登場! 紅魔族と言えば個性! 個性と言えば紅魔族です! この私に掛かれば人に個性のひとつや二つ授けるくらい楽勝ですとも!」
「さすがは名高いネタ種族ね」
「一日一回の爆裂魔法しか使えないとかいう、バカみたいな個性持ってるだけの事はあるな」
「外野がうるさいですよ!」
屋内だというのにバサッとマントを翻しためぐみんに俺とアクアが茶々を入れると、めぐみんは決めポーズを取りながら俺たちを指さし文句を言った。
「ああ、めぐみんが手を貸してくれるならとても助かる。……出来れば、私に似合う系の個性がいいな」
そんなめぐみんに、アクアに似合わないと連呼された事を引きずっているのか、どこか儚い微笑を浮かべたダクネスが言う。
「心配せずとも、紅魔族はそれぞれに見合った個性を見つけるものです。ダクネスにも似合わない衣装を無理やり着せたりせず、ダクネスらしい個性を探してあげますよ」
「ねえ待って? 二人とも私の話を聞いてほしいんですけど! あれはね、似合わないって事に意味があって……」
言い訳しようとするアクアの言葉を、二人はうんうんと聞き流し。
「ちゃんと聞いてよー!」
「我々紅魔族において、戦闘の上で最も大切なものは格好良さです。魔法を使えないダクネスには、格好良さを演出するためにこれを貸しましょう」
なおも食い下がるアクアをスルーし、めぐみんが話し始める。
「……コレはめぐみんがいつも使っている眼帯だな。私が借りてしまっていいのか?」
「私にはカズマが言う通り、爆裂という最強の個性があるので何も問題ありません」
胸を張りなんか言ってるめぐみんが、ドヤ顔でチラッと俺を見てくる。
……まったく褒めたつもりはないが、めぐみん的にはけっこう高得点だったらしい。
「これを付けていると、精神を落ち着け、洗脳や魅了といった精神系の魔法に耐性を得られる効果があります。それと魔力を抑える役割もあるのですが……、まあそれはダクネスには関係ありませんね。ちゃんと洗っておきましたので、どうぞ」
「あ、ああ……。そんな貴重なものを私のこんなバカな願いのために? ありがとう、この恩はいつか必ず返す」
受け取った眼帯をおっかなびっくりな様子で付けるダクネス。
「……という設定を、私もそれを贈られた時に語られまして。しかしダクネスの場合はそもそも魔法耐性が高いわけですから、もっと他の……。宿敵との戦いで右目を負傷しているとか……。いっそ普通に魔眼が疼くパターンとか……。……ダクネス? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。…………設定……、そうか……。設定か……。一応聞いておくが、この眼帯にはどんな効果があるんだ?」
「ありませんよそんなもの」
「……? ええと、ではそれはなんのために付けるんだ? 視界が狭まるだけではないか」
「ただのオシャレです」
「…………」
ダクネスが付けたばかりの眼帯を即座に外した。
「あっ、何するんですか! せっかく用意したんだから付けてくださいよ! そして今日からあなたは暗雲を呼ぶ者ダクネスです! 堂々と真っ直ぐ立つのではなく、こう、斜めに構えて、腕を組んでください!」
「ええ……? 今度はなんだ? …………こう……か?」
「逆です! 眼帯を相手に見せつけないでどうしますか! その状態からマントを翻して、はい! そこで名乗ってください!」
「わ、私はダクネスという」
いまいちノリについていけていないダクネスが、めぐみんに言われるまま眼帯を付けると、バサッとマントを翻し普通に名乗る。
「違いますよ! そんなの全然格好良くないでしょう! 暗雲を呼ぶ者ダクネスです! ポーズはこうです!」
「わ、分かった! ……わ、私は暗雲を呼ぶ者ダクネス!」
「…………、まだまだぎこちないですが、まあ最初はこんなもんでしょう。今日から毎日鏡の前で練習してください」
「ええっ! こ、これを……? これをか? 魔王も恐れるという種族なのに、紅魔族はそんなバカな事をしているのか?」
「バカな事とはなんですか。これくらいは学校で習うのでみんな普通にやってますよ」
「そ、そうなのか……」
……その後も。
紅魔族的な戦闘について、めぐみんからじっくりと教えられたダクネスだが。
「ま、待ってくれ! こっちの角度のほうが見栄えがいいとか、このタイミングで魔法を撃ったほうが目立てるとか、めぐみんはいつもそんな事ばかり考えているのか?」
「そうですよ。紅魔族というのは常にそういう事を考えている種族なのです」
「……そうか。めぐみんの事は信頼しているし尊敬もしているが、やはり私は紅魔族のスタイルとは相容れない。私は力のない者を守るために戦っているんだ。格好付けるためにというのは……」
と、めぐみんに対し否定的な事を口にしているためか、少し思いつめた様子でダクネスが思いの丈を語る中。
俺はポツリと。
「そこまで言うなら攻撃スキルのひとつも覚えればいいのに」
「そ、そそ、それは……! と、とにかくそういうわけだから、悪いがこの眼帯は受け取れない」
俺の言葉に動揺したダクネスが、すまなそうにめぐみんへと眼帯を返す。
それを受け取っためぐみんは、
「ええ、それでこそ私の知っているダクネスです」
何もかも分かっていたとでも言うように、クスリと笑うとそう言った。
*****
アクアは拒否られ、めぐみんとは相容れず。
つまりは……
「俺の出番ってわけだな?」
「……カ、カズマ……か……」
めぐみんに代わり前に出た俺を見ると、なぜかダクネスは微妙な表情で身を引いた。
「なんだよ、言いたい事があるなら言えよな」
「い、いや……。お前の事だ、この機会に私にエロい格好をさせようとするのではないかと……」
「おい、あんまり俺を見縊るなよ? 仲間が真剣に悩んでるのにそんなバカな提案すると思うのか?」
「そ、そうだな! 疑って悪かった。お前が何かと頼りになるのは知っている。提案を聞かせてくれ」
「ああ。お前にはビキニアーマーを着てもらう」
「そうか、却下だ」
俺がせっかく出した提案を、ダクネスが一瞬で切り捨てる。
「なんでだよ! アクアやめぐみんの提案は聞いたんだから、俺の提案もせめて最後まで聞けよ!」
「なんでだと? よくもそんな事を言えるな! 何が見縊るなだ! 疑って悪かったという私の謝罪を返せ!」
「まあ聞けって。このままだとお前は結局新しい個性も得られず、今のダクネスのままでいいじゃんみたいなイイ話でお茶を濁されて終わるがそれでいいのか? そんな頭カチコチだから、植物ごときに影が薄いだの存在感があまりないだの言われて、それを引きずる事になるんじゃないのか? そんな自分を変えたいと思ったから俺たちに相談したんじゃないのかよ?」
「そ、それは……! そうだが……。だが! はっきり言うがエロい衣装を着るつもりはない! そっちの方向の個性は必要としていないからな!」
俺の説得に流されそうになるも、ダクネスはすぐに立て直す。
さすが、頭カチコチなだけはあるが……。
「ほら、それだ! お前はそうやって、自分の可能性を自分で閉じてんだよ! 言いたくはないが確かにお前は地味だよ。それはきっと質実剛健なダスティネス家の伝統かなんかなんだろ? これまでずっとそうやって生きてきたんだろ? 人間、急に生き方なんて変えられないもんだ。お前がいいと思う事をしてるだけじゃ、どうやったって地味にしかならない!」
「な……!」
「だから、今回ばかりはお前の常識を捨てろ! 常識なんてもんは所詮十八歳までに集めた偏見でしかないんだ! 本気で個性が欲しいなら、普段はやらないような事をやってみるしかないだろうが! お前にとっての常識は、誰かにとっての非常識なんだ! お前がおかしいと思う事でも、世間にしてみりゃ全然おかしくないかもしれない。やってみたら意外とイケる事だってあるかもしれない。今は、そう、お試し期間だとでも思ったらどうだ? 常識を捨てろ! 恥を捨てろ! そうして初めてお前は新しいダスティネス・フォード・ララティーナを見つけられるんだ!」
「じ、常識を……、捨てる…………!」
俺の長広舌に、ダクネスが衝撃を受けたようにビクリと身を震わせる。
「怪しい自己啓発セミナーを受けてる人みたいなんですけど」
「なんとかせみなーというのは知りませんが、コレって大丈夫なんですか? ダクネスは仮にもこの国の貴族の娘さんですよ? 詐欺師に騙されているようにしか見えません」
外野がなんか言っているが気にしない。
「いいか? お前は一見クール系の堅物っぽい女騎士だが、実はどエムで変態で、そのくせ純情でいざって時にはヘタレるっていう個性を持ってるだろ。個性ってのは、そいつがどういう人間かっていうのを分かりやすくしたもんだ。お前のはめんどくさいんだよ」
「めんどくさい! め、めんどくさいというのはやめてもらいたいのだが。というか、いざという時にヘタレるのはお前も同じ……」
「今は俺の話はどうでもいい! そこで、ビキニアーマー! もう見た目からしてエロいし、自分のスタイルに自信がある奴じゃないと身に着けない装備だ。それに、鎧としては無意味じゃんってくらいの軽装で、お前その装備でクルセイダーなのかよどエムなのかよっていう意外性もある。見た目堅物だけど変態だけど純情っていうお前のめんどくさい個性も、見た目エロいけど純情ってだけなら分かりやすい! つまり、ビキニアーマーを装備したお前はいつものお前よりもキャラが強い!」
「……ッ! す、すまない。お前が何を言っているのかさっぱり分からない」
せっかく俺が詳しく説明しているのに、ダクネスはピンと来ないらしく、浮かない表情をしている。
「まあ要するに、恥ずかしがらずにビキニアーマー着ろよって話だな。お前も言ってたじゃん、騎士がビキニアーマーを着るのは戦意高揚の意味もあるって。恥ずかしいって感情すらも燃料にして、ビキニアーマーで自分のテンション上げてみろよ! 新たな扉を開いてみろよ!」
「くっ……! なぜだろう、ただエロい格好をしろと言われているだけなのに、今日のお前の言葉にこうも説得力を感じるのは……」
「それだけお前が個性を欲しているって事だよ」
個性を欲しがるダクネスに対して、俺は全力でアドバイスをしているつもりだ。
エロいってのもひとつの個性。
しかし普段のダクネスはいろいろな意味で重装備で、その個性を最大限に発揮できているとは言えない。
まあ、だからこそ、夜中いきなり薄着で部屋を訪ねてきたりすると、マジかよコイツってなってドキッとするわけだが……
と、そんな時。
「ちょっと待ってくださいよ! さっきから聞いていればエロいエロいと! ダクネスをなんだと思ってるんですか!」
横で話を聞いていためぐみんから物言いが。
「個性を欲しがるダクネスの弱みに付けこむのはどうかと思いますよ! ダクネスのいいところなら他にもたくさんあるでしょう!」
「そんなもん俺にも分かってるよ! ダクネスのいいところはいろいろあるよ! でもしょうがないじゃん! 最初にエロいってのが出てきて、他に何も思いつかないんだよ! あのエロい体で私じゃダメかとか言って迫られたらそりゃ忘れらんないだろ! 最初にエロいが出てくるのは男としてしょうがないじゃん!」
「待ってください! 聞き捨てなりませんよ! 私と付き合ってるみたいな事になっているのに、あなたたちは何をやっているんですか!」
「落ち着けって、アレだよ、ほら、あの……」
めぐみんにもごめんなさいしたあの夜の事だと言おうとするが、ダクネスの真剣な顔や泣き顔が浮かんできて俺は口篭もる。
「なんですか! そこまで言ったなら言いきってくださいよ!」
「め、めぐみん。その、私のいいところというのは……」
ソワソワした様子のダクネスが、めぐみんに問いかけると。
「エロネス! あなたはエロネスです!」
「ええっ!」
――その日の夕方。
「おかーえり! ダクネスったらどこ行ってたの? 帰ってこないからダクネスの分のおやつはちょむすけが食べちゃったわよ」
「ああ、ただいま。少し屋敷に戻っていてな」
どこかへ出掛け、戻ってきたダクネスは。
丈の長いマントを羽織り、その下に何を着ているのか分からない、てるてる坊主みたいなスタイルで。
「……? どうしたんですかダクネス。そんなところに立っていないで、入ってきてはどうですか?」
「うむ、…………」
頷きながらもその場から動こうとしないダクネスに、めぐみんが首を傾げる。
なんとなく察した俺は、念のために借りてきた魔道カメラを構えた。
それと同時に、ダクネスがバサッとマントを翻して。
「わ、私は暗雲を呼ぶ者ダクネス!」
ダクネスが身に着けていたのは、ビキニアーマー。
着れば絶対に似合うと思っていたが、実際に着てみたら、そりゃあ…………
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「カ、カメラは……! い、いや、…………」
激写する俺をダクネスが止めようとするも、考え直して口を噤む。
「ま、まあ、その! わ、わわ、私のこのエロい体を! 写真に残したいというのは当然の事だな! 好きなだけ撮るがいい!」
「ダクネスったら大丈夫? 顔が真っ赤だし、頭にヒールを掛けてあげるわね」
わけの分からない事を言いだしたダクネスに、アクアが手をかざし回復魔法を掛ける。
「違う! 私は何もおかしくなってなどいない! ただ、その……。昼間カズマに言われたように、いつもと違う自分になってみようと……、思って…………。やはり私がこんな風に振る舞うのはおかしいだろうか?」
「いいと思います」
「あなたはダクネスのエロい格好を見たいだけでしょう!」
即答する俺にめぐみんがいきり立つが、今の俺にはそんな事は関係ない。
「ダクネスさん! 腰に手を当てて片足に重心を寄せてもらえませんか! お願いしますよダクネスさん!」
「ええっ? こ、こうか……?」
「全然違う! お前は本当に不器用だなあ……。モデル立ちするのにも技術がいるって本当なんだな……。でもまあ、エロいから別にいいです。じゃあ次は両手を広げてみましょうか!」
「ど、どうしよう……? エロいエロいとカズマに傅かれるこの状況を、ちょっと悪くないと思ってしまう私はもうダメなのだろうか?」
「冷静になってください! ダクネスまでそっちへ行ってはダメですよ! いつもの真面目で頭の固いダクネスはどこへ行ってしまったのですか!」
俺の言葉に従って新たな扉を開き、それを全肯定されて満更でもなさそうなダクネスを、めぐみんが必死に説得している。
「……もういいんだ、めぐみん。私はもっと頭をやわっこくして、個性を広げていきたいと思う」
「その格好でキメ顔してもエロいだけなんですよ! エロネス! あなたはエロネスです!」
「はっはっは。それは昼間も言っていたぞめぐみん。私はもう開き直る事にした。私はエロい。それを仲間たちが個性として認めてくれると言うのなら、もうエロい方向に個性を伸ばしていってもいいのではないか? ここは新しい私を受け入れてくれないか?」
「いいと思います」
「カズマは黙っていてください!」
朗らかに笑いながらバカな事を言いだしたダクネスに俺が賛同すると、めぐみんが声を上げて抵抗してくる。
「ああもうどうしたら! アクア! アクアからもなんとか言ってください!」
「アクシズ教はすべてを受け入れるわ。それが悪魔っ娘とアンデッドでない限り、ビキニアーマーくっ殺したい系エロエロ女騎士でももちろん受け入れるわ。えっちな個性が見つかって良かったわねダクネス」
「ああああああ!」
最後の頼みの綱だったアクアに裏切られためぐみんが、絨毯に両手を突いて力なく崩れ落ちる。
こいつ、意外と打たれ弱いな。
「すいません、分かりました! このパーティーはダクネスがいないとダメです! 頭カチコチのダクネスが二人を止めてくれないと、私じゃ止められません!」
――そんな時。
玄関の扉が外から開かれ。
屋敷の中を覗きこんだシルフィーナが、ビキニアーマー姿でポーズを取るダクネスに目を向けると、信じられないものを見たような表情でポツリと。
「……………………、ママ……?」
俺とダクネスがピタリと動きを止める中。
扉がそっと閉められた。
「待……ッ!? ちちち、ちがーっ! 違う! 違うぞシルフィーナ、これはその……、これは違うんだ!」
「何が違うんですか?」
呆れたように問いかけるめぐみんにも答えず、ダクネスはシルフィーナを追って、全速力で玄関から飛びだしていった。
そんなダクネスを見送り、アクアがポツリと。
「……ダクネスったら、あんなに恥ずかしがっていたのにあの格好のまま外に出るなんて、よっぽどあのえっちな格好が気に入ったのね」
――後日。
ダクネスの冒険者からの呼び名が痴女ネスになり、ダクネスはしばらく部屋に引き篭もった。