大悪魔バニルを倒し、国家転覆罪の冤罪を晴らした俺は。
いろいろあって安住できる屋敷を手に入れ、この異世界に来て初めての穏やかな生活を送っている。
季節は冬。
この世界では冬になると、街の外に高レベルモンスターが現れるので、冒険者達はクエストを請けず宿に篭って過ごすようになる。
そんな彼らと同じように、俺は屋敷に篭って過ごし、暇な時間を商品開発に注いでいた。
俺がこの世界に呼ばれたのは魔王を倒すためらしいが、まともなチートも持っていない俺に魔王討伐なんて無理ゲーだし、はっきり言って危険な冒険者なんてやってられない。
そこで、現代知識チートで便利な道具でも作って売ろうと、道具作成スキルというやつを習得してきた。
クエストに出られない冬の間、商売になりそうな便利グッズの開発でも、と……。
「『今日もまた悪巧みですかクズマさん』。……おい誰だよこれ書いた奴」
「はい! ち、違いますよ。書いたのは私ではないです。今のは取りましたのはいです、これですよね?」
「えーと、き……、合ってるな。多分合ってる。おいアクア、この読み札ってコレで合ってるよな? おいこっちを見ろ、これ書いたのお前だろうが」
「それって誘導尋問ってやつじゃないかしら? そういうズルい手を使うのはどうかと思います。その札を書いたのが私だっていう証拠でもあるんですか? それってあなたの感想じゃないですか?」
「絵も字も一番上手いのはなぜかお前なんだから、見れば分かるに決まってんだろ」
「憎い! こんな時でも手を抜けない私の多才さが憎いわ!」
正月。
……いや、この世界に正月なんて概念はないので、年明けの初めの日。
俺たちは広間でかるた遊びをしていた。
札そのものは俺の道具作成スキルで木の板を薄くし、それにみんなで絵や文章を入れた自作のかるただ。
商品開発の予行として、時期も合っているし正月のお遊びグッズをいろいろと作ってみたわけだが。
思えば実際に遊ぶのは俺も初めてだ。
「次。……『天罰覿面! ゲスマさん』。お前ぶっ飛ばすぞ」
「は、はい!」
「ダクネス、それは多分『ニコポに失敗ザコマさん』ですよ。天罰覿面はこっちです、はい!」
ダクネスが果敢に手を出すも、お手つきしてションボリし、その間にめぐみんがさらっと札を取っていく。
こんな時だけ紅魔族らしい知能の高さを見せるめぐみんは、札の配置を暗記しているらしく、ほぼすべての札を取っていた。
札はまだ半分くらい残っているが、すでにめぐみんのひとり勝ちが決まっている。
一方的な試合展開に、
「ねえ待って? ぶっちゃけもうめぐみんが勝ち確なんだし、このまま続けてもつまらないと思わない? ここは私たちにも救済措置が必要だと思うんですけど」
アクアがそんなバカな提案をしてきた。
「お前は何を言ってんの? そんな事したら、じゃあ前半戦はなんだったんだって話になるだろ。めぐみんが勝ち確なのはめぐみんが強かったってだけの事だし、敗者は大人しく負けを認めろよ」
「そうだな、カズマの言う通りだ。ここは潔く負けを認めつつも、最後まで足掻いてみせようじゃないか」
俺の言葉に、ダクネスが微笑みながらキッパリと言い……。
「私は別に構いませんよ。今からアクアが勝てるルールを増やすなら、増やせばいいと思います。その上で真っ向から叩き潰してやりますよ!」
ちょっと格好つけたダクネスのそんな言葉を、めぐみんが台なしにした。
「まあ、俺は読み手だし、勝ってるめぐみんがいいって言うならいいけどな。じゃあここからは一枚十ポイントって事で。三枚取ったらめぐみんに勝てるぞ」
「言ったわね? 今からやっぱりなしって言っても遅いわよ? いくらめぐみんが強くても、驕れる者も庇から落ちる……。……『ブレッシング』! 札の枚数が少なくなれば記憶力より運の勝負よ! 支援魔法で運が良くなった私なら三枚くらい余裕で取れるわ!」
ちょっと何言ってんのか分からなかったが……。
宣言通り札を三枚取ったアクアは、それ以外の札を全部めぐみんに取られ、二百ポイント以上の圧倒的大差で敗北した。
*****
「寒っ! 寒いわ! ねえめぐみん、やっぱり考え直さない? この寒いのに外で遊ぶのはどうかと思うんですけど!」
勝者めぐみんの提案により、俺たちは羽子板で遊ぶために屋敷の庭に出ていた。
めぐみんとダクネスは元気に羽子板で素振りしているが、俺とアクアは身を寄せ合って震えている。
「めぐみんったらお子様ね! 子供は風の子だから寒いのが平気なのよ!」
「変態は頭が温かいから体も温かいんだ。常識人な俺たちにこの寒さは無理だ」
「そぉい!」
そんな俺たちに、めぐみんが羽子板で羽根を打ってきた。
羽根は俺たちの足元にポトリと落ちる。
「……確か羽子板で羽根を落としたら、顔にラクガキをされるのでしたね? かるたを作った時のが余っているので、絵の具なら沢山ありますよ」
先端を絵の具に浸した筆を手に、めぐみんが俺たちのほうへと歩み寄ってきた。
「フン!」
振り抜かれたダクネスの羽子板は、何にも当たらず。
ダクネスの足元に羽根が落ちた。
「…………」
力いっぱい空振ったダクネスが、顔を赤くしその場に両手を突く。
大剣をモンスターに当てる事も出来ない不器用なダクネスは、もっと小さな羽根となるとまともに打ち返す事も出来ないらしい。
「不器用で打ち返せないので、ダクネスばかり狙うのはやめてあげてほしいんですが」
早速アクアにラクガキを書き足されながら、めぐみんがそんな事を言ってくる。
めぐみんの奇襲で始まった、俺とアクア対めぐみんとダクネスの羽子板勝負。
俺がダクネスばかり狙うせいでこちらが優勢で、すでにめぐみんとダクネスの顔はラクガキだらけになっている。
「お前だって敵チームだったら容赦なくダクネスを狙うくせに」
「まあそうですが」
「構わん。私は人々を守るクルセイダーだ。確かに私は不器用でまったく打ち返せていないかもしれないが、それはいつものクエストの時と変わらない。好きなだけ狙ってくるがいい」
「構いますよ。ダクネスが打ち返せないと、同じチームの私までラクガキされるんですよ。全然守れてないんですよ。それと、泥棒ヒゲを付けて格好つけても面白いだけですからね」
ラクガキの眼帯を付けためぐみんに言われ、泥棒ヒゲを付けたダクネスがシュンとする。
俺はそんなダクネスの顔に筆を近づけ……。
こういった経験があまりないのか、ダクネスは顔をしかめながらも、少しだけ嬉しそうにしている。
「おい、罰ゲームなのに喜ぶなよ。こんな時までドМを発揮しなくていいんだよ。ひょっとしてわざと空振りしたんじゃないだろうな」
「ちちち、ちがー! ドMだの不器用だのと好き勝手言ってくれるが、その侮辱は許しがたい! 私は真剣にやっている! 真剣に空振りしているんだ!」
「いや、胸張って言うような事でもないだろ。こんなん勝負にならないけどいいのか?」
「わ、分かっている! 確かにこのままでは私に勝ち目はない。だ、だが、勝てないと分かっていながら勝負に挑み、敢えなく負けてしまうというのも……! んうう……っ!」
「……興奮したのか」
「し、してない」
「いや、してただろ。さっき真剣にやってるって言ったのはなんだったんだよ? そんなんだったらもう顔にラクガキするのはやめるか?」
「ええっ! 待ってくれ! コレが楽しくてやっているのに!」
「お、お前……。そこまで言うなら、勝ったほうは負けたほうに何かしら好きな事を要求できるってルールでも付け加えるか? それでお前も満足するだろ」
俺の提案に、だらしない顔になりかけていたダクネスがキッパリと言った。
「お前は何を言っているんだ? こんなただの遊びで、しかも私が不利で負ける事が分かりきっている競技で、そんなルールを受け入れるわけがないだろう」
「お前が何を言ってんだ」
「騎士である私が負けたら相手の言う事をなんでも聞くと言うのなら、それは相応の勝負でなくてはならない。すべてを懸けた真剣勝負や全力の知恵比べならばまだしも、こんな遊びで賭けられるほど、騎士の矜持は安いものではない。まして、勝ち目がないとなればなおさらだ。そんな理由で負けたところで、それは受け入れたほうがバカなだけだ。も、もちろん、仲間を人質に取られて無理やり勝ち目のない勝負を挑ませられるというようなシチュエーションなら話は別だが……。……その点この羽子板というのはすごい。負けても顔にラクガキをされるだけ。だが! 誰もが目にする顔に、敗北の証を刻まれるんだ! ハァ、ハァ……! ただラクガキするだけにもかかわらず、なんという辱め! 騎士としてこんな……、こんな屈辱的な……!」
「おいやめろ、ハァハァすんな! 日本の伝統文化をお前の性癖で汚すんじゃない!」
自分で自分を抱きしめ、身をくねらせるダクネスに、俺は全力でツッコんだ。
*****
羽子板を思う存分楽しんだダクネスは、貴族として新年の祝賀会に出るとかで、慌てて実家へと帰っていった。
……顔のラクガキがそのままだったが良かったんだろうか?
残された俺たちはと言うと。
「次は額に肉って書いてあげるわね! 本来六画だから六回勝たないといけないところ、この判子を使えばなんと一発で書けちゃうのでした!」
「そぉい!」
判子を見せびらかしていたアクアへと、めぐみんが容赦なく羽根を打ちこんだ。
構えていなかったアクアは打ち返せず、羽根がポトリと地面に落ちる。
「さあ、その判子を貸してもらいましょうか! あなたの額に肉と押印してやりますよ!」
「嫌なんですけど! これはカズマから材料を少し分けてもらって、私が丹精込めて削った判子なのよ? 最初に使わせてくれてもいいと思うの」
「確か、筆を使うのは一回の勝利につき一回で、バツ印を書くなら二回勝たないといけないというルールでしたね? 私には爆裂魔法を操る者として、絵の具をすべてぶちまける権利があると思います。一回は一回ですからね。絵の具がなくなったら勝負も続けられませんが、どうしますか? 絵の具まみれになって羽子板勝負を終わらせ、判子を使う機会を失うか、私に判子を貸して肉と書かれるか! 好きなほうを選ぶといいですよ!」
判子を渡せと手を突きだしためぐみんが、もう一方の手で絵の具の器を構え、アクアにずいずい迫っていく。
……この寒いのに、あいつら元気だなあ。
「なあもういいだろ? ダクネスが出掛けちまってチーム戦も出来ないし、そろそろ屋敷に入ろうぜ。絵の具はもう全部アクアに掛けたらいいよ」
俺が投げやりに言ったそんな時。
「た、たのもー! …………、たの……っ。う、うう…………」
門の前で声を上げる何者かが。
大きな声が続かなかったのか、顔を赤くして口をパクパクさせ、しばらく反応がないのを確認すると、その人物は肩を落としトボトボと……。
「あなたは何をやっているんですか? 用があるなら普通に訪ねてくればいいでしょう。ドアのノッカーを叩けば聞こえますよ」
立ち去ろうとしたゆんゆんが、羽子板を持っためぐみんに回りこまれた。
「めぐみん……! ……えっと、その顔はどうしたの? 何かの儀式?」
「…………」
ゆんゆんに言われラクガキだらけの顔を拭っためぐみんは。
「ゆんゆんがここを訪ねてくるとは珍しいですね。何かあったんですか?」
「えっ。いえ、特に何もないんだけど……、えっと、その……。すいません帰ります」
「いちいち帰ろうとしないでくださいよ! 別に用事がなくても遊びに来てくれていいですから! どうせ新年の挨拶でしょう! それくらい恥ずかしがらずに来たらいいでしょう!」
「い、いいの? 新年から来るなんて何考えてるのって思われない? 家族で過ごす時間を邪魔するなんて常識がないって言われない?」
「思いませんし、言いませんよ。というか、私たちは同じパーティーの仲間ですけど、家族というわけではありませんからね。新年だからと言って、家族で過ごすわけでもないですよ。まあダクネスは貴族としての挨拶があるとかで、実家に帰ってますけど」
「そ、そうなんだ。……それで、ええと、……こ、今年もよろしく」
「はい、今年もよろしくお願いします。では、挨拶も終わったし帰っていいですよ」
「えっ」
すげなく追い返そうとするめぐみんに、ゆんゆんが声を上げる。
「見ての通り私は羽子板で遊ぶのに忙しいのです。遊びに来たのではなく挨拶をしに来ただけなのであれば、早めに帰ってもらいたいです」
「う、うう……。…………帰ります」
「あ……」
めちゃくちゃ名残惜しそうに帰ろうとするゆんゆんに、めぐみんが声を掛けようとするもやっぱりやめた時。
空気を読まないアクアが。
「ねえゆんゆん! 暇ならゆんゆんも羽子板していかない? ダクネスが出掛けちゃったから、羽子板がひとつ余ってるの! ゆんゆんが入ってくれたらチーム戦が出来るわ!」
「入ります。全然忙しくないです」
声を掛けるアクアにゆんゆんが即答した。
そんなゆんゆんに気付かれないように、ホッと息を吐いためぐみんは。
「まったく、最初から自分でそう言えばいいじゃないですか。煮えきらない子ですね」
「だ、だって……、みんなで遊んでるところに入れてほしいって言って、あの子はちょっと……みたいな空気になったら立ち直れないし」
「真面目な顔して何を言っているんですか? 迷惑なら普通に断りますけど、その時はまた別の日に遊びに来たらいいでしょう」
「い、いいの? というか、普通に断られるの? それはそれでダメージが……」
「面倒くさい子ですね! いちいちそんな事を気にしていたら、気軽に遊びにも誘えないじゃないですか!」
「気軽に??? 遊びに誘う……?」
「わ、分かりました。すいませんでした。謝るのでその顔はやめてください」
何気ないひと言に虚無の顔になるゆんゆんに、ドン引きしためぐみんは会話を切り上げた。
「これは羽子板。この板でこの羽根をついて、落としたら負け。勝ったほうは負けたほうの顔にラクガキが出来るってわけ。ほら見なさいな、あの負け犬の顔を! ……あっ、めぐみんったら、どうして勝負の途中なのにラクガキを落としちゃったの? ズルよ!」
額に肉と押印されたアクアが真顔で言う。
笑いを堪えてプルプルしていたゆんゆんは、説明が終わると決死の表情を浮かべ。
「分かりました! 全力でアクアさんを勝たせてみせます! よろしくお願いします!」
「……うん、お願いね? でももうちょっと力を抜いてもいいからね?」
「はい! 任せてください!」
目を赤く輝かせたゆんゆんが、羽子板を構えめぐみんと向き合っている。
「こんなんでそこまで本気になるのもどうかと思いますが、相手にとって不足はありません。我がライバルゆんゆん、顔をラクガキだらけにされる覚悟は出来ていますか?」
「覚悟をするのはめぐみんのほうよ! アクアさんのためにも、私は……、負けない……!」
悲壮な覚悟を決めているっぽいが、手にしているのは羽子板だ。
そんなゆんゆんへと、めぐみんは……。
「そぉい!」
「わああああーっ! なんでこっちを狙うのよ! 今のはゆんゆんのほうに行く流れだったじゃない!」
めぐみんはゆんゆんへと羽根を打つ事なく、油断していたアクアを狙った。
アクアがギリギリのところで打ち返すも、そんな絶好球を見逃す俺ではなく。
「おらぁ!」
鋭く打った羽根は、アクアの足元にポトリと落ちた。
「フッ……。口ほどにもないですね! さあ、敗者としてこっちに顔を向けてもらいましょうか!」
「ズルいズルい! あんた今の流れでアクアさんを狙うのはどうなのよ!」
「これはチーム戦ですよ。チームの勝ちは私の勝ちであり、チームの負けはあなたの負けです」
勝ち誇っためぐみんが、筆を手に取りゆんゆんへと歩み寄っていく。
「よし、やれめぐみん! 今度こそ絵の具ぶちまけてやれ! エクスプロージョンだ!」
「やりません! やりませんよ! あなたはただ寒いから早く屋敷に入りたいだけでしょう! 爆裂言っとけば私が言う事を聞くと思ったら大間違いですよ!」
「ねえゆんゆん、めぐみんったらどうしちゃったの?」
「近付かないでくださいアクアさん、ドッペルゲンガーが化けてるのかもしれません」
「そこまで言うなら我が爆裂の意志を見せてやろうじゃないか! ゆんゆんはせっかく始めた羽子板勝負がもう終わるけどいいんですね!」
二人の囁き声にキレためぐみんが、絵の具の器を手に取った。
「待って! 謝るから! こんな機会もう二度とないかもしれないから、もうちょっとだけ堪能させて!」
*****
――夕方になった。
ほとんど一日じゅう羽子板で遊び倒した俺は、さすがに疲れきって芝生の上に足を投げだし座っていた。
「二人とも、元気ねえ……」
俺の隣に立っているアクアが、のほほんとした口調でそう言う。
俺たちの視線の先では、顔をラクガキだらけにしためぐみんとゆんゆんが、今も羽子板勝負を続けている。
「そぉい!」
「や!」
「そぉい!」
「たあ!」
「爆裂!」
「えっ?」
「破壊!」
「あっ、あっあっ……」
「粉砕!」
「……こ、紅魔!」
「殲滅!」
「うう……! ら、雷鳴!」
……なんか違う遊びが始まっている。
羽根を打つのと同時によく分からない掛け声を発するようになった二人は、それ以前は互角の勝負を繰り広げていたのだが。
調子が変わらないめぐみんに対して、ゆんゆんは次第に勢いを失い劣勢になっていく。
「爆裂!」
「あ……!」
「ふははははは! 今回も私の勝ちですね。さあ、口ほどにもない者ゆんゆん、こっちに顔を向けるがいいですよ。敗者の証として額に肉と刻みこんであげましょう」
「ズルい! ズルい! 爆裂は最初に言ってたじゃない! 同じ言葉を二回使うのは卑怯よ!」
「何を言っているんですか? そんなルールは最初からありませんよ? というか、掛け声に何を言おうと個人の自由ですし、ゆんゆんにも言うように強要した覚えもないですよ。ゆんゆんが勝手に心乱したくせに、後からズルだのなんだの言うのはどうかと思います」
「そ、それは……! ……うう。そうです。わ、私の負けよ!」
いつも通りな二人の様子を眺めながら、俺は傍らに立つアクアをチラ見する。
……思えばこいつともそこそこの付き合いだ。
と言っても、実際には半年に満たない期間。
長いこと引き篭もりのニートだった俺にとって、ここ数ヵ月は密度が濃すぎた。
いろいろあったし文句はいくらでもあるし、何度も日本に帰りたいと思ったりもしたが、今こうしているとなんだかんだ楽しかったような気もしてくる。
今年もまた、そんな一年になればと……
「……まあ、なんだ。改まって言うような事でもないかもしれんが、今年もよろしくな」
…………。
……いや待て佐藤和真。
今年と同じような一年って、また魔王軍の幹部や大物賞金首と渡り合う羽目になるって事じゃないか?
無理。
これまでは運良く切り抜けてきたが、今後も上手く行くなんて保証はない。
俺は危険な冒険者稼業からは足を洗い、商品開発で大金を稼いでのんびり暮らすんだ。
「こちらこそ! 今年もよろしくね!」
正気を取り戻した俺は、満面の笑みとともにそう言ったアクアへと。
「すまんアクア、やっぱ今のなしで」
「はあ!? なんでよー! 意味分かんないんですけど! 今年もよろしくって言葉を撤回する事ある? ちょっとあんたそこに直りなさいな! どういう事か説明して!」
俺がその場に正座し、アクアへの謝罪と説明をしていくと。
……やがてアクアも俺の対面に正座し、泣きながらごめんなさいを言ってきた。
今年もこんな感じかー。