亜人くんは気に入らない(仮   作:龍崎悠司

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亜人くんは分からない

 

 

 

 

 今でも時々夢に見る。

 

 ーー近寄るな、化け物!

 

 あの、灰色の時代の記憶。

 

「あー……」

 

 いつも通りよりもかなり早い時間。

 夜明け頃に目を覚ました蒼也。

 

「ったく、もういい加減に見なくてもいいだろ……」

 

 その寝起きは最悪で、原因は間違いなくさっきの夢だ。

 

「もう、関係ないとこまで来て生活してんだから……」

 

 早い時間、このまま二度寝してしまおうか、とも蒼也は思う。

 1日くらい弁当を作らなくても大丈夫だろうし、許してくれるだろう。

 けれど、寝た後にまた夢を見てしまう可能性を考えて。

 

「…………起きるか」

 

 ため息を吐きながら、結局起床した。

 

 

 

 ーーーーー

 

 〜side葵〜

 

 目を覚ましたらいい匂いが家中に充満してた。

 

「んん〜〜〜!」

 

 外は曇り空だけど、寝覚めもいいし、いい気分!

 

「おっはよ〜!」

「おう、はよーさん」

「兄貴はー?」

「さっき出てったよ」

 

 社会人は早いにゃー。

 ウチにはとてもとても。

 

「ん?」

 

 リビングに来て気が付いたけど、テーブルの上……

 

「ねぇ、品数多くない?」

 

 そのおかげで起きれたけど。

 それにしたって、夕飯にしてもちょっと多いかなって思う量の料理が並んでたら、あれ?って思う。

 

「んまぁ、ちと早く起きたんでね」

 

 それだけ言って、台所に戻っちゃった。

 ……何か、良くない感じ?

 

「ねぇ蒼也、その、大丈夫?」

「あん?何がだよ?」

 

 つん、と何でもないように言ってるけど。

 それがとぼけてるだけなの、伝わってるんだからね。

 

「そ。ならいいよ」

「あいよ」

 

 でも、聞かない。

 本当は心配で心配でたまんないけど、我慢する。

 

(まだ、ウチの方が怖がってるのかな?)

 

 思って、自嘲気味に笑ってしまう。

 だって、ウチなんかより、よっぽど蒼也の方がーー

 

「とりあえず、朝は何を食べていいの?」

「煮物系は味染みてないからまだな。卵焼くから少し待ってろ」

「はーい」

 

 けど今は、いいってことにする。

 しておく。

 ウチに何か言ってきたら、その時は頑張ればいいんだし!

 

 

 でも、本当、心配かけないで、ね?

 

 

 ーーーーー

 

 〜side蒼也〜

 

「ねぇ蒼也、その、大丈夫?」

「あん?何がだよ?」

「そ。ならいいよ」

 

 全然よさそうじゃないなぁ、とは思う。

 けど、だからってわざわざ自分から掘り返す気はない。

 だからとぼけるしかないのだ。

 悪いとは思ってる。

 実際、克服なんて出来てない。

 だけど、だからって弱音を吐いても何にもならない。

 

「あいよ」

 

 だから余計なことを言わないように、言われないように。

 話題を終わらせた。

 

「とりあえず、朝は何を食べていいの?」

「煮物系は味染みてないからまだな。卵焼くから少し待ってろ」

「はーい」

 

 さて、顔を洗いにでも行ってる間に卵焼き、作ってやるか。

 

 

 

 

 

 んで、その登校中。

 今日は珍しく一緒について来た葵が思い付いたように聞いてきた。

 

「ねぇ蒼也、今日って夕飯新しく作るの?」

 

 まぁ、あれだけの量を見れば確かに疑問に思うだろうな。

 

「さすがに作らねぇよ」

 

 あれだって、今日の夕飯から、煮物に関しては明日の夕飯にまで出るかもしれないんだ。

 それなのに、さらにもう一品を作る必要はない。

 

「そんじゃあさ、放課後空いてるよね?」

「あぁ、まぁな」

 

 特に急ぎの買い物も無かったはずだ。

 

「悪いんだけど、雪ちゃんの家に行ってさ。取って来て欲しいものがあるんだけど……」

「いや、自分で行けよ」

「お願い!今日はどうしても厳しいの!」

「ちなみに何?」

「『雪恋』の作者のサイン会!」

「あー……」

 

 そう言えば前々から楽しみにしてたって言ってたな。

 確か、ドラマ化が決定して偶々近くでサイン会やるらしい。

 それ聞いた日から日々テンションが上がってたのは知ってる。

 まぁ、イベント系じゃあ仕方ない。

 

「分かったよ。んで日下部に話は通してあんのか?」

「うん、昨日LINEしてOKもらったよ」

 

 アポ取ってるならいいか。

 

「んで何を?」

「ん?あぁ、雑誌をね」

「雑誌?」

「うん、春先の女の子向けって大体保存版なんだけど、買い逃しちゃって」

「なるほどね」

 

 そのまま適当に話しながら歩いてく。

 

 

 雨、降りそうだな……

 

 

 

 ーーーーー

 

 〜side先生〜

 

「どうしたもんか……」

 

 放課後、うんうん唸りながら俺は廊下を歩いていた。

 日下部に避けられてる。

 それ自体は仕方ないかもしれないし、相手は年頃の女の子。

 あんまりしつこいのは良くないだろうが、かと言って悩んでいる様子の日下部を放っておくのも忍びない。

 ただ、人との接触が苦手という程度、教師相手が嫌だという程度ならまだいいのだが。

 

「2人から相談されたからなぁ」

 

 ひかりと葵だ。

 2人して、日下部が何か悩んでそうと言うのだ。

 そしたら教師として、話を聞かない訳にはいくまい。

 ということもあって声を掛けてはいるのだが、尽く避けられているのが現状だ。

 

「う〜ん……」

「高橋先生?」

「ん?」

 

 悩みながら歩いていたら生徒に声を掛けられた。

 

「平山か?」

「そうだけど、どうしたんですか?悩み事?」

「あーまぁな」

 

 同じクラスの平山に聞いてみるか。

 

「なぁ平山、日下部のことなんだが……」

「日下部?って、そうだ高橋先生。日下部見なかった?」

「いや、見てないが?」

「そっか……。んで、日下部が何か?」

「いや、クラスで悩んだらしてるそぶりとかはあるかと気になってな?」

「ん〜、悩みですかぁ……」

「例えば、クラスメイトとの距離が遠いとか」

「あー、確かに小鳥遊たち以外とはあんまり話してない気はしますね」

「そうなのか?」

「っても、小鳥遊たちに比べればって話で、全く話さないで孤立してるって訳じゃないですよ?」

「そうか」

 

 話を聞いている分には少し他人とのコミュニケーションが苦手、という印象だ。

 

「あー、でも……」

「?何かあるのか?」

「いや、大したことじゃないかもですし、俺の勘違いかもしれないですけど……」

「気付いたことがあるなら教えてほしい」

「たまに、不安そうになってる時がある、のかな?」

「不安そう?」

「まぁ、気のせいかもしれないですけど」

「そうか、ありがとうな」

「いえ、これくらい」

 

 そう言って、平山と2人で何となく生物準備室に来てしまった。

 

「っと、悪い、付き合わせたな」

「いえ、日下部が見つかるまでは俺も暇だったん、で……?」

「?どうしーー」

 

 やけに冷んやりとした空気を感じた。

 確かに雨が降って冷えてはいるが、というよりもこれは……

 

「冷気、か?」

 

 もしかして……

 そう思って生物準備室の前を見ると、日下部が座り込んでいたのが見えた。

 

「っ!日下部っ!!」

 

 その瞬間、平山が弾かれたように走って行った。

 

 

 ーーーーー

 

 〜side蒼也〜

 

 日下部のことを気にかける先生に付き合いながら、生物準備室まで来た。

 まぁ、生物の科目で気になるとこでも聞いてお暇させてもらおうかね。

 そう思っていたのに……

 

「冷気、か?」

 

 そう言った高橋先生の視線を追った先に。

 座り込んだ日下部が居て。

 その姿が。

 過去の姿を幻視させた。

 

「っ!日下部っ!!」

 

 気が付いたら駆け寄っていた。

 

「大丈夫か!?何かあったのか!?」

「あ……平山、くん?」

 

 意外だったのかもしれない。

 ここにいる、ということは頼ろうとしていたのは高橋先生なのだろうから。

 けど、心配になって、それ以上に不安がせり上がってきて、声を掛けない選択肢はなかった。

 

「日下部……」

「先生、も……」

 

 俺も高橋先生も、日下部の言葉を待つ。

 

「私が、その、悪く言われているのを、聞いてしまって……」

「日下部、それはーー

「私が亜人(デミ)だからですか?」

 

 その時、時間が止まったような気さえした。

 

「私が亜人(デミ)でなければ、こんなことは……」

 

 だから、その言葉が聞こえた時、身体が勝手に動いていた。

 

「日下部……」

「平山、くん?」

「悪い。俺にはそれは分からない」

 

 抱き締めながら、言葉を絞り出す。

 

「けど、俺は敵じゃないから」

「うぅ……」

「俺も、亜人(デミ)だから」

「うぅうう」

 

 こんな情けない、慰めにもならないことしか言えないけど。

 

「大丈夫だ。それは違う」

「高橋先生……」

「それは違うぞ。日下部、平山」

 

 いつの間にか俺たち2人を抱いた先生が、そう言ってくれた。

 そんな俺たちの脇で。

 日下部の、氷の涙が転がっていた。

 

 雨の勢いが、増した気がした……

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