・その二時間後、沙羅井は体育主任の近藤に呼び出され、体育の授業のサポートに入った。
この日の『弓道』は、大ブーイングだった。
意外と楽しいかも?と思われていた弓道は、誰一人 的に当たらず、一矢射る度に生徒達のイライラだけがつのる有り様。
ブーイングの嵐を消し飛ばしたのは、明のファインプレーだった。
明は第一矢から真ん中を射抜き続け、3矢連続してヒット。
「さぁ野郎共!私に続いて撃ちましょうです!撃てねえ豚はただの豚です!」
「ウオオオオオ!!」
少々『キャラ変わってない?』と突っ込まれそうな明の雄叫びも、ストレスのたまった学年一同の士気を上げるには十分だった。
沙羅井は、期待と不安が半分ずつで、様子を見守っていた。
明に優しく接しているあの子達は、果たして日向の“秘密”を知っても、変わらないでいられるだろうか?
もし、宗庵殿が言った通りになったら......。
脳内を駆け巡る悪い予感を振り払う様に、沙羅井は己の頬を叩いた。
(何弱気になってんだ!オレが行動しねぇと、日向はまた『一人になっちまう』んだ!アイツらを信じるしか道はねぇだろうが!!)
不安要素はもう一つあった。沙羅井がギャラリーから見下ろす先には、呆けたカオの少年が気だるそうに体育座りしていた。
蒼井結衣の交際相手、
(桧山......あの分じゃもう何日も蒼井と話してねぇのか?参ったな......あのカップルは日向の件を解決する最大の切り札だってのに......。)少なくとも沙羅井は、ここ数日結衣と桧山の会話シーンを見ていない。
小倉まりんの話では、あの二人のケンカはよくある話だそうだが、今回は桧山が一方的にへこんでいる。
まりんの知る“それ”と、今回は訳が違う様だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それでは沙羅井先生から、一言いただきましょうか。」
「......」
「先生?沙羅井先生!!」
「え!?あ、ハイハイ。」
まるで夢でも見ている様なカオから我に帰る沙羅井。
「ちょっと先生、大丈夫ですか?」
「申し訳ありません、大丈夫です。」
「おいおい先生、何考えてたんだ?」
「女だ女ー!まじめに働けよなー!」
沙羅井は忍びなさそうに頭を押さえた。
「ハイハイ静かに、えー、みんなまだまだのびしろが有ると思うんで、引き続き頑張れ、それと......あー、何だっけ?」
「レポート提出忘れんな、だろ?」
「あ、そうだった。サンキューな桧山、手間ついでに今日の放課後、校門来てくれるか?話有ってよ。」
桧山は少し驚いて、目を見開いた。
「おー?ついに沙羅井VS桧山の蒼井争奪戦かー?」
「黙れエイコー、殺すぞテメェ!」
桧山の反応がいつになく“マジ”とわかったからか、珍しく素直にいじるのを止めるエイコー。
当の桧山はばつが悪そうに結衣をみつめている。
「ハイハイ、殺すとか言うもんじゃねぇな桧山。まぁ、そういうわけだ。本時は解散!!」
沙羅井は危機感を覚えていた。“今の”は恐らく、桧山にとっても甚大なダメージになってしまった。
ここは一刻も早く二人に仲直りして貰わねば......。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
放課後、桧山はサッカー部を欠席し、校門へ向かった。
待つこと10分、いつもの白ジャージで、沙羅井はやって来た。
「おう、待たせたな。」
「うん。あと五分遅かったら殴ってた。」
少しムスッとする桧山に、沙羅井はなだめる様に言った。
「まあまあ、怒んなって。」
「......で?何の用?」
「ちと手伝いを頼みたくてな、まあ少し歩こうか。そうだ、何か飲むか?おごってやるよ。」
「
「いいか桧山、規則ってのは破る為にあんだよ。規則が破れないヤツにろくなヤツァいねぇ。それがオレのポリシーだよ。」
「んじゃ、今の会話校長にばーらそっと!」
「ごめんやっぱ取り消し!」
呆れる様にため息をつく桧山。
「安っっいポリシーだなオイ。」
夏が近いというのに、夕方のそよ風が心地いい。
ヒグラシの鳴き声がこだまする度、桧山はどう切り出すべきか分からず気が重くなる。
相蓮町『
「桧山ァ、まぁ、あれだ。蒼井の事なんだけど......。」
「いいよ、その話は。」
桧山はいつになくなげやりだった。理由はわかっていたが、あえて質問を重ねる。
「......何で?」
「何でって!......アンタわかってんだろ?俺じゃアイツを幸せにできない。」
「何でよ。」
「ガキだし、空気読めないし、鈍感だし、すぐにアイツの事傷つけちまう。」
「うん、で?」
「だから、オレなんかといない方が良いって......。」
突然、沙羅井は桧山につかみかかった。
桧山も反抗的な目で彼を睨むが、その表情は読めない。
「お前ソレ、蒼井の口から聞いたのか?」
「......え?」
まだ訳がわからないカオの桧山に、沙羅井は冷たく言った。
「だ・か・ら!蒼井本人がきちんとそう言ったのか!?
お前がガキで鈍感で空気読めねぇから、お前とカレカノでなんかいたくねぇって、アイツからはっきりそう言ったのかよ!!」
沙羅井渾身の雷落としに、さすがの桧山も怯んだ。
「もう一度聞くぜ桧山......『お前は』どうしたい?」
涙目の桧山は、ようやく声を絞り出した。
「......蒼井と、もう一回話したい。」
「来な、チャンス位は作ってやるよ。」