15歳。ーサライさんー   作:鈴木遥

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〜その名は沙羅井京一郎(サライきょういちろう)〜
ラブレターは下駄箱へ。ファンレターは本人へ。悪口レターはクズカゴへ


・急いで教室内へ飛び込んだ花日達はだいぶ罰の悪い思いだった。

朝礼で新教頭と紹介された女が、すでにホームルームを始めていたからだ。

「蒼井さん、綾瀬さん、小倉さん。初日から遅刻ですか?」

「すみません。近藤先生に呼ばれていて……。」素直に謝ったモノの、顔も見ず、名簿だけを射て生徒と話す教頭に、花日はあまりいい印象を持たなかった。

「まあいいでしょう。すぐ席に着きなさい。」

三人とも何も言わず、黙って席に着いた。

「えー、ご存知の方もいると思いますが、数学の林田先生が急きょお辞めになりました。」

クラスが少しざわつき始めた。

と、花日の席に大量のメモ書きがおかれている。どれも、低レベルな悪口の書かれたものばかりだ。

大方、心愛(ここあ)ちゃんか、トリマキの誰かなんでしょ……。

小学校時代からの心愛とのトラブルにおいて、教師に助けを乞う事など、もはや諦めていた。

以前と変わった事、強いて言えば、小六から付き合っている彼氏の高尾が、最近助けてくれなくなったことだろうか。

何故なのかは分からない。中学へ入学してから突然よそよそしくなってしまったのだ。

机に積みあがる悪口紙を見て、諦めていたはずなのに、助けてほしい涙が流れていく。

(なんでかなぁ?なんで涙なんか……。泣かないって決めたじゃん。決めたのに、やっぱりダメじゃん。ねぇ、助けて!お願い、もうやめて。何でもするから、前みたいなカレカノに戻ろう。お願い!高尾……!!)

「静かに。つきましては、後任の先生をお呼びしましたので、そちらにお願いしましょう。では、どうぞ先生……。」

バァァン!と乱暴に扉が開き、ビクッとなった教頭は、ごまかす様にメガネを押し上げた。

「で、では、お願いしますよ先生……。」

「はい。お任せ下さい!教頭先生!」

そういって入って来た白ジャージの男を見て、花日、結衣、まりんの三人は度肝を抜かれた。

そう。廊下で会ったあの男。名前は確か……。

「沙羅井と言います。クラス受け持つのは一度目ね。」

クラスから、ちょっとカッコよくない?などと、微かに女子の期待を煽った。が、それは数秒後に消えて無くなる。

「サライはこう書きます。覚えてね。」とは言うモノの、黒板に書かれた字はいびつを極め、とても読めたものではない。

「なんだこりゃ、のび太よりひでえ字オレ初めて見たよ!」

クラスのお調子者、エイコーこと栄光太郎(えいこうたろう)が、ごもっともなツッコミを飛ばした。

「好きな物は糖分かカロリーの高いもの。両方高けりゃなお良い。」

ただの食生活乱れたダメ人間じゃねぇか!と、クラス全体からツッコミが起きた。

「他に質問は?」

誰も手を挙げない。すると沙羅井は突然教壇を離れ、ゆっくり花日の席の真横に立った。

彼は真上からギロリと花日を見下ろすと、地の底から響く様な声で言った。

「綾瀬花日、だったよなお前……。」クラスのほとんどが、花日がそのまま食い殺されるのではないかとブルブル震え上がった。

「そ、そうですけど、何か……?」

「お前、放課後面貸せ。」

「へ?」

「保険室だよ……。」それだけ言うと沙羅井は、花日の机にあった悪口の紙をグシャっと一掴みにし、教卓の横のクズカゴに投げ捨てた。

「いいか、オレが言いてぇ事は一つだよ。お前らもう『15歳』だ。大人の教師(オレ)達がうるせー事言わないでも、成長できる奴がほとんどだろうな。ただし、悩みがあったらいつでも保険室に来な。今日からオレ、相談員も兼任してるから。それと……。」

沙羅井は言葉を切り、顔色を変えた。その顔は、先程まで朗らかに自己紹介していた教師と同一人物とはとても思えなかった。

「今度オレがこのクラスで『今みたいなゴミ』拾ったら、『そのゴミ出したヤツ』は許さねぇから、覚悟しといて……!!」

一番怯えていたのは、心愛だった。

沙羅井は恐らく、手紙が彼女の仕業だと気付いていた。これまで花日に幾度となく嫌がらせをしてきて、初めて感じた『罪悪感』だった。

そして高尾は、先程の手紙の一件で明らかに花日を心配そうに見つめていた。

何があったのかはともかく、全く花日を意識していないわけでもない様だ。

だがそんな事、心愛にはどうでもよかった。

状況はどうあれ、二人が疎遠になっている今が心愛にとって絶好のチャンスだ

見てなさい花日ちゃん。教師を何人味方に付けてもムダだから。いずれ高尾クンは、私のモノにしてみせる……!!

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