15歳。ーサライさんー   作:鈴木遥

22 / 25
陰謀の錯綜

・沙羅井と狩生の密談は、 クラス委員長の斉藤(中学に入ってからは、うさパンダの着ぐるみに身を包み、プラカードを使って会話している)が沙羅井のネクタイに仕掛けた盗聴器によって丸聞こえだった。

 

彼ら『エイコー新聞部』の目的は、 クラスで巻き起こる様々な珍事件をネタに新聞を作成し、騒ぎを起こすことだ。

 

……が、 今までカップル達の名言集などをかき集めて 顰蹙を買っていた彼らにとって、 担任が関わっている今回の山はかつてない大きさだった。

 

「 エイコー!声聞こえない!もっと大きく!」

 

綾瀬花日が大声でわめく。

 

「このボリュームで聞こえないの〜?花日ちゃん 耳鼻科に行った方がいいんじゃな〜い」

 

「何を……!!」

 

「しっ!」

 

一触即発の状態だった花日と心愛を鎮めたのは、 花日と結衣の仲良し3人組のもう一人、小倉まりんだった。

 

『つまり……おれが……くしか……』

 

「なに?何の話?」

 

高尾がゆっくりと機会に耳を近づけるが、内容についてはうまく掴めない。

 

「 串カツの話とかしてなかったか?」

 

「桧山……そんなワケないでしょ」

 

桧山カップルがコントのような会話をしていたところに、ドナルドマクドナルドが割って入る。

 

「んー……ハンバーガーかな!」

 

「ンなわけねぇだろがー!!」

 

もはや定番の明のドナルド突っ込みが炸裂し、 ドナルドは床にめり込んだ。

 

「興味はないな……俺がここにいる意義は、心愛の護衛、それだけだ。」  

 

和があっさり言い捨てると、心愛は委員長に運ばせたハリセンで彼を叩きつけた。

 

「 ごちゃごちゃ言ってないで手伝いなさいよ! 一応友達がピンチなんだから!」

 

「しかしだな心愛! お前を負傷させないようにと社長より言付かって……。」

 

「あのオッサンは、どうせ私を会社継がせる道具としか思ってないわ。ここにいるならせめて私の指示に従いなさい!」

 

「心愛ちゃん……それは……。」

 

結衣が諌めにかかるが、和はけんもほろろだ。

 

「ったく……それで?高尾にクラス委員。 その危ない奴らが本当に転校生を狙ってるとして、 どうやって戦いに臨む気だ?」

 

「ああ、それはね?」

 

堤、稲葉の二人が、 アメリカのインターネットサイトを根こそぎ調べ上げ、 戦前のMARSの動きから相蓮との関連性を調査し、彼らの動向におおよその予測をつける。

 

復活した如月蘭と日向は、マァムの自宅を見舞い訪問しつつ、 周辺の不審人物を調査。

さらに怪しまれない程度に、彼女の母からMARSの被害について聞き出した。

 

マァムの母が学生の頃、 後に夫となる男性と出会った。

彼は嫌々ながら、悪質な薬学実験を繰り返す組織に関わりを持っていた。

 

ところが、 実はマァムの祖父母世代から、 彼女の執事は組織の試験体にされていたのだ。

肌は徐々に緑色に変色し始め、瞳は黄金になった。

 

行くところ行くところで気味悪がられた彼女たちは、職場も学校も転々とし、ようやくここに行き着いた。

 

ところが運の悪いことに、 この街には八神という超常的存在のるつぼ、 MARS にとっては格好の実験都市だったのだ。

 

「 だが外に出るわけにもいかず、彼女たちは仕方なく、この街で隠れ住むことにした。と……。」

 

「ふざけた話だ。俺達の町で好き勝手しようなんて。」

 

桧山が拳を合わせていきり立つ。

細かく理屈っぽい話などどうでもいい。 大切な事はたった一つ。

 

彼の実家の銭湯を構えているこの故郷の町で、 不埒な企みを働こうとする賊どもがいるということだ。

 

「乗り込むか……。」

 

「どこによ。」

 

堤歩に、まりんからの冷静なツッコミが飛ぶ。

実際のところ数日のうちに再来が動くのは確実。

 

本来ならそれを待てば自然と町に平和が戻ってくる筈なのだ。

そう。当事者であるマアムが、今日も欠席などしていなければ……。

 

「俺達が気付かないうちに、何かあったと考えるのが自然かもな。」

 

「 敵の勢力も居場所もわからないのに、どうやって動くってんだよ!」

 

慌てふためくエイコーに対し、 委員長は『心配するな』と書いたテロップをかけた。

 

彼はさすが学級新聞部部長こうしてクラスのメンバーたちがマアム追跡の作戦を画策している間に、 すでに直接の手がかりとなる手を打っていたのだ。

 

彼が机の上に出したのはタブレット端末。

昨日マァムがまりんや明達と交換をして遊んでいた化粧ポーチに GPS 発信機を取り付けていたのだという。

 

「 さすが委員長!俺たち新聞部員にできない事を平然とやってのける そこにシビれる!憧れるゥ!」

 

「 レディーの持ち物なんてことしてんですか!!」

 

歓喜のエールを送る新聞部員山本と、非難の罵声を浴びせる明。

委員長は顔色ひとつ変えずに(と言うか着ぐるみだから1パターンしかないのだが)『 そもそも化粧ポーチの持ち込みは禁止だ』『 そして今は当人の為にさ』との プラカードを出す。

悔しそうに唸る明。 ドナルドは彼女を指差して 普段の高笑いをかました。(※ 当然その後尻に矢を刺された)

 

所変わってMARSの基地では、沙羅井並びに生徒たちの動きを傍受する準備が整いつつあった。

 

「ボス、来ますぜ。奴ら」

 

「ああ、分かってるさ。見せてもらおうかな。相蓮の全八神使い、最強候補の実力とやらを!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。