・沙羅井と狩生の密談は、 クラス委員長の斉藤(中学に入ってからは、うさパンダの着ぐるみに身を包み、プラカードを使って会話している)が沙羅井のネクタイに仕掛けた盗聴器によって丸聞こえだった。
彼ら『エイコー新聞部』の目的は、 クラスで巻き起こる様々な珍事件をネタに新聞を作成し、騒ぎを起こすことだ。
……が、 今までカップル達の名言集などをかき集めて 顰蹙を買っていた彼らにとって、 担任が関わっている今回の山はかつてない大きさだった。
「 エイコー!声聞こえない!もっと大きく!」
綾瀬花日が大声でわめく。
「このボリュームで聞こえないの〜?花日ちゃん 耳鼻科に行った方がいいんじゃな〜い」
「何を……!!」
「しっ!」
一触即発の状態だった花日と心愛を鎮めたのは、 花日と結衣の仲良し3人組のもう一人、小倉まりんだった。
『つまり……おれが……くしか……』
「なに?何の話?」
高尾がゆっくりと機会に耳を近づけるが、内容についてはうまく掴めない。
「 串カツの話とかしてなかったか?」
「桧山……そんなワケないでしょ」
桧山カップルがコントのような会話をしていたところに、ドナルドマクドナルドが割って入る。
「んー……ハンバーガーかな!」
「ンなわけねぇだろがー!!」
もはや定番の明のドナルド突っ込みが炸裂し、 ドナルドは床にめり込んだ。
「興味はないな……俺がここにいる意義は、心愛の護衛、それだけだ。」
和があっさり言い捨てると、心愛は委員長に運ばせたハリセンで彼を叩きつけた。
「 ごちゃごちゃ言ってないで手伝いなさいよ! 一応友達がピンチなんだから!」
「しかしだな心愛! お前を負傷させないようにと社長より言付かって……。」
「あのオッサンは、どうせ私を会社継がせる道具としか思ってないわ。ここにいるならせめて私の指示に従いなさい!」
「心愛ちゃん……それは……。」
結衣が諌めにかかるが、和はけんもほろろだ。
「ったく……それで?高尾にクラス委員。 その危ない奴らが本当に転校生を狙ってるとして、 どうやって戦いに臨む気だ?」
「ああ、それはね?」
堤、稲葉の二人が、 アメリカのインターネットサイトを根こそぎ調べ上げ、 戦前のMARSの動きから相蓮との関連性を調査し、彼らの動向におおよその予測をつける。
復活した如月蘭と日向は、マァムの自宅を見舞い訪問しつつ、 周辺の不審人物を調査。
さらに怪しまれない程度に、彼女の母からMARSの被害について聞き出した。
マァムの母が学生の頃、 後に夫となる男性と出会った。
彼は嫌々ながら、悪質な薬学実験を繰り返す組織に関わりを持っていた。
ところが、 実はマァムの祖父母世代から、 彼女の執事は組織の試験体にされていたのだ。
肌は徐々に緑色に変色し始め、瞳は黄金になった。
行くところ行くところで気味悪がられた彼女たちは、職場も学校も転々とし、ようやくここに行き着いた。
ところが運の悪いことに、 この街には八神という超常的存在のるつぼ、 MARS にとっては格好の実験都市だったのだ。
「 だが外に出るわけにもいかず、彼女たちは仕方なく、この街で隠れ住むことにした。と……。」
「ふざけた話だ。俺達の町で好き勝手しようなんて。」
桧山が拳を合わせていきり立つ。
細かく理屈っぽい話などどうでもいい。 大切な事はたった一つ。
彼の実家の銭湯を構えているこの故郷の町で、 不埒な企みを働こうとする賊どもがいるということだ。
「乗り込むか……。」
「どこによ。」
堤歩に、まりんからの冷静なツッコミが飛ぶ。
実際のところ数日のうちに再来が動くのは確実。
本来ならそれを待てば自然と町に平和が戻ってくる筈なのだ。
そう。当事者であるマアムが、今日も欠席などしていなければ……。
「俺達が気付かないうちに、何かあったと考えるのが自然かもな。」
「 敵の勢力も居場所もわからないのに、どうやって動くってんだよ!」
慌てふためくエイコーに対し、 委員長は『心配するな』と書いたテロップをかけた。
彼はさすが学級新聞部部長こうしてクラスのメンバーたちがマアム追跡の作戦を画策している間に、 すでに直接の手がかりとなる手を打っていたのだ。
彼が机の上に出したのはタブレット端末。
昨日マァムがまりんや明達と交換をして遊んでいた化粧ポーチに GPS 発信機を取り付けていたのだという。
「 さすが委員長!俺たち新聞部員にできない事を平然とやってのける そこにシビれる!憧れるゥ!」
「 レディーの持ち物なんてことしてんですか!!」
歓喜のエールを送る新聞部員山本と、非難の罵声を浴びせる明。
委員長は顔色ひとつ変えずに(と言うか着ぐるみだから1パターンしかないのだが)『 そもそも化粧ポーチの持ち込みは禁止だ』『 そして今は当人の為にさ』との プラカードを出す。
悔しそうに唸る明。 ドナルドは彼女を指差して 普段の高笑いをかました。(※ 当然その後尻に矢を刺された)
所変わってMARSの基地では、沙羅井並びに生徒たちの動きを傍受する準備が整いつつあった。
「ボス、来ますぜ。奴ら」
「ああ、分かってるさ。見せてもらおうかな。相蓮の全八神使い、最強候補の実力とやらを!」