でも大丈夫!7部からはちゃんと皆様が『待ってるモノ』を書きます!
もうちょい待って下さいね〜〜
·沙羅井の取り計らいで花日と高尾の仲直りこそは成立したモノの、時間は無情にも流れ、ついに犯行予告の金曜日がやって来た。
この日の朝、沙羅井は校長室に呼び出されていた。
「それで?殺人予告はどうなりました、沙羅井先生……。」
「その事ですが教頭。そろそろこの件を公表した方が。せめて学校の先生方に位は……。」
教頭は紅茶を注ぐ手を止め、沙羅井を睨んだ。
「『ソレ』が出来ない理由は、しっかりご説明したと思いますが?」
沙羅井は慌てて反論した。
「分かってます!混乱を避ける為に、教頭とて苦渋のご判断で……。」
「でしたら!沙羅井先生が、穏便に、内密に、早期解決なさるのが一番です。ムダに皆さんの不安をあおる必要はありませんよ。第一、その様子だと捜査は前進していないのですね?全く、校長先生のご期待を裏切らない様にせいぜい頑張って下さいよ。」
沙羅井は言葉が出なかった。現に二週間自分は自分の生徒達さえも満足に守れていない。こうしている間にも、賊が何か仕掛けてくるかも知れない。
(綾瀬にキケンな事頼んどいて、このザマかよ……。)
それからの授業も何事も無く順調に進み、誰もが平和な一日を確信していた。が、それは突然に、もろくも崩れ去る。
沙羅井が二組の帰りのホームルームに入ろうとした時、聞きなれない警報が鳴った。
『緊急警報!緊急警報!全員教室を出ないで下さい!まだ廊下にいる生徒は、近くの教室に入りなさい。繰り返す、全員教室を出ないで下さい!まだ廊下にいる生徒は、近くの教室に入りなさい。』
(チッ!ついに賊が来やがったか……。)
「先生!一体何事ですか?」
さすがしっかり者の唐沢と言った所か、いち早く状況を確認し、クラスの者たちを落ち着かせようとしている。
その時、スピーカーからノイズが走り、野太い男の声が響く。
『静粛に!相蓮中の諸君!これはテロじゃない!正当な復讐行為だ。これから全三学年の教室に、我々が一人ずつ出向こう。諸君らは彼らの指示に従い、同胞が探している罪深き生徒、高尾優人を差し出せばそれで良い!彼を匿ったり、指示に背けば、一クラス分まとめて死刑だ。誰も死ぬことなくコトが済む事を祈ろう。』
(ふざけやがって……!高尾が死ななきゃ全員死ぬんだろうが!何が誰も死ぬことなくだ!こんなもんどうしろってんだ!)
放送が終わったと同時に、教室に黒ずくめの男が入って来た。当然教室はパニックになったが、男は天井に発砲し、黙らせた。
「静かにしてもらおうか?抵抗しなければ、手荒な真似はしないと前もって言ったハズだが?」
男は黒いマスクを被り、服を上下黒で統一しているが、特別な装備というわけでもなく、よく見るとどこにでも居る学生の様だ。
「よく言うぜ。入って来るなり空砲かます奴がよ……!!」
沙羅井は全力で睨みをきかせたが、男は全く応えていない様だ。
「アンタが担任か……?」
「いかにも、沙羅井と言いまーす。宜しく。」
「能書きは良い。高尾優人を出せ。出来ないなら、分かるな?」
男は沙羅井に銃口を向けたが、沙羅井は全く尻込みしない。後ろで見ている高尾が、ガタガタ震えていたからだ。
「待ちなさいよ。オレァどうしても納得出来ねえってんだ!10年前の件は、遺族との交渉は上手く行ったんじゃねぇのかよ?首謀者を……阿島を呼べよ。大方の検討は着くが、直接話がしてぇ!」
男は一瞬黙りこくったが、やがてマスクを脱いだ。
「オレだよ……。」
「あ?」
「オレが阿島だ。直接話ならしてたぜ?さっきからずっとなァ……。」
「なら話は早えな。高尾の家族は賠償金を払っただけじゃなく、一家総出で月に一度お前の妹さんに線香をあげに行ってる。たしかに失った命はでけェが、高尾家の誠意は評価すべきじゃないのか?現に、アイツは充分反省してる。」
「学校内では……だろ?」
「……何言ってやがんだテメェ?」
「騙せると思ったか、先生。オレァ知ってんだ。高尾ってガキが、妹に助けられた事を自分の超能力だって自慢してるんだってなぁ!」
「そんな事、高尾は言ってません!!」ガタガタ震える足を奮い立たせ、阿島を睨みつける花日。
だが、阿島はフン!と鼻で笑い飛ばした。
「ごまかそうったってムダだよお嬢ちゃん、オレァお前が高尾の彼女だってのもちゃんと聞いてんだよォ!」
花日は恐怖から涙が溢れていた。
高尾は、何か諦めた様に『もう良い』とだけ言って花日に着席する様うながした。
「オレが……高尾です。」
起立した高尾に、クラス中から戦慄の視線が注がれた。
「テメェかァァァ!!」
怒り狂い大声を上げる男の銃口が高尾に向き、クラスメイト達が悲鳴を上げた。
「ちょっと待って下さい!確かに10年前妹さんが亡くなったのはオレのせいです!でもオレは、妹さんからのご恩を、あの日から一度も忘れた事は有りません!」
「ごまかすんじゃねぇよ!オレァ全部聞いてるんだよォ!テメェのクラスメイトである『大門』のヤツが、全部教えてくれたんだからよォ!」
その時、突然沙羅井が阿島に飛び掛かり、銃は教室の隅へ飛んだ。
「大門!?何モンだそいつァ、モンだけに……。」
「テメェ、この状況でなんてくだらねーシャレを……。」
沙羅井は阿島を床に押さえ込み、睨みつける。
「お前さんその『大門』に騙されたんだ。嘘だと思ったらクラスの連中に聞いてみな、高尾が妹さんからのご恩を踏みにじる様な言葉を、一度でも吐いたかどうか。それで納得できない様なら、オレを撃って帰れ。」
「先生、駄目です!」花日が泣き叫ぶ。
「良いんだ綾瀬!お前らまだオレの何倍も未来があるだろうが?オレの命なんざ秤にかけるまでもねえ。」
その時、青いカオをした教頭が、二組に駆け込んで来た。
後ろには美術の霧島も居る。
「沙羅井先生!二組の皆さん!ご無事ですか!?」
「放送室を占拠した賊を抑え、警察とも連絡が取れました!もう大丈夫です!」
霧島の言葉に、クラスから安堵の声が上がる。
「聞いたか阿島。お前さんらの負けだ、今回は諦めな。その代わり、お前さんや妹さんに出来るだけの事をさせてもらうよ。」
「オレももう、ここまでか……。」
「何を言ってるんですか!?まだまだこれからでしょう!!」そう阿島に叫んだのは霧島だった。
「……アンタ、一体……?」
「自分は、阿島さんの作品に憧れてこの学校の美術教諭になりました。霧島と申します!」
「そいつは嬉しいが、オレは今や犯罪者。罪を償い刑務所を出ても、その時誰もオレの描くモノなんざ求めやしない。」
「自分は、待ち続けますから……。」
「!?」
「阿島さんが、罪を償い、この世界に戻られるのを、きっと待っておりますから……どうかまた、誰かの為に絵を描く阿島さんの背中を、追いかけさせてくださいませんでしょうか?」
涙ながらに訴えかける霧島に、阿島も男泣きを抑えられなかった。
「霧島先生……。」沙羅井は、霧島が持っている絵を愛する姿勢に、感銘を受けざるを得なかった。
数分後、警察が来校し、阿島は全校に謝罪した上で連行された。
その顔は、霧島との約束を守る為の決意に固まっていた様に見えた。
阿島が連行されてすぐ、教頭が沙羅井に謝罪した。
「申し訳ありません。沙羅井先生の助言を聞いていれば、この様な事は……。」
「よして下さい、生徒たちは無事でしたし、おかげで色々と勉強になりました。」
「これを明日にも公表し、保護者の皆様に謝罪します。」
「それが良いでしょうね。ただ、まだ事件は終わっていないでしょうけど……。」
「何か、おっしゃいましたか?」
「いえ、何でも……。」
沙羅井は気付いていた。阿島襲撃の混乱の最中、二組の生徒が二人、いつの間にか姿を消していた事に……。