·花日は屋上へ急いでいた。学校襲撃の黒幕が、分かった様な気がしたのだ。
彼は恐らく相当頭のキレる男だ。自分一人で詰め寄るのは少し無謀かも知れない。
たが、花日の優しさが、彼を放置するのはあまりに不条理と判断した。
彼にハメられ、暴挙に走った阿島は結局逮捕されたのだから……。
『彼』はやはり屋上にいた。花日のイヤな予感は当たった様で、やはり心愛と一緒にいた。
「それで、心愛に何の用?」
「如月蘭って娘、覚えて無いか?」『彼』は確かめる様に言った。
「如月?ああ、いたわねぇそんな娘……。」
「……そうか、その程度なんだな。」
彼の声は、怒りに震えていた。
「え?」
「あれだけのキズを負わせておきながら、君にとって蘭は、その程度の存在なのか……。」
「ちょっと待って✕✕君!さっきから一体何の話を……。」
「あ、あれ……。」彼ははるか遠方を指差した。
「え?」心愛は、彼が示す方を見た。同時に彼のー心愛を突き飛ばそうとするー手が迫る。
「そこまでだああああああ!」花日は思わず叫んだ。そして間もなく、目の前にいるクラスメイトを指差して言った。
「阿島さんをけしかけたのは、あなただったんでしょ!?✕✕君!」
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その頃、花日とタイミングを同じくして『七番目のユダ』を操っていた黒幕の正体を確信した高尾は、沙羅井を引き連れ屋上へ急いでいた。
「んで、間違いねぇの?高尾……。」
「ええ。昔一度だけ『大門』の名を聞いた事があるんです。二組の『アイツ』が、東京ゲームショウのニックネームとして使っていた。そして三年前の今日、そいつが付き合っていた娘が不登校になりました。イジメが原因でね……。」
「浜名か?」
高尾はごくりと唾を飲んだ。
「オレも、『アイツ』も、てっきりそうだと思い込んでいたんです……!!」
「そうじゃなかった……って事か?」
高尾は静かに頷いた。
「とにかく今は急ごう。綾瀬がもし黒幕に気付いてたとしたら、アイツ相当アブねえぞ!」
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「……何で邪魔するんだよ、綾瀬さん。」
「あなたがやろうとしてる事は、間違ってる!!」
あわや屋上から突き落とされる所だった恐怖で腰を抜かしている心愛の前を庇う様に、彼の前に立ちはだかる花日。
持ち合わせている限りの勇気を振り絞り、花日は『彼』の名を呼んだ。
「そうでしょ!?『唐沢』君!!」
そう、花日の前に立っているクラスメイト、事件の首謀者であり、阿島をそそのかした謎の中学生、『大門』の正体は、学校のエリートとして名高き唐沢信児だったのだ。
「驚いたなあ。いつからオレの事マークしてたの?」
「先週から、どこか様子がおかしい様な気がして、よく考えたら今日、蘭ちゃんの誕生日でしかも……。」
「アイツが学校に来なくなった日さ。そこの浜名のせいでなァ!!」
表情を一変させ、怒号を挙げる唐沢。右手にはナイフまでちらつかせているが、花日は臆せず叫んだ。
「違うの唐沢君!あなたの彼女が、蘭ちゃんが学校に来れなくなったのは……。」
「浜名のせいじゃない!聞いてくれ、唐沢……!!」
いつの間にか後ろに立っていた高尾が唐沢に呼びかけた。
「冗談もたいがいにしろよ高尾ォ!綾瀬さんがいるお前にオレの気持ちなんか分かるもんか!!」
「おいテメェ!」
あまりに二人の話を無下にする唐沢を見かねた沙羅井が、遠くからでも聞こえる様に怒鳴った。
「上から目線もたいがいにしろよ!こいつらは覚悟を持ってここに来てる!お前さんの言い分ばかり撒き散らすのは不条理じゃねぇか!」
沙羅井渾身の怒号に、さすがの唐沢もたじろいだ。
「高尾、このバカに全部教えてやんな……。」
唐沢は高尾の目をまじまじと見つめた。高尾は何か覚悟を決めた様に、重そうな口を開いた。
「三年前、確かに如月はイジメられてた。でもそれは、浜名じゃなくて浜名とよく一緒にいた倉木って女子がやってた事なんだ……。」
「うそ……倉木ちゃんが!?」
青いカオで驚く心愛。
「うそだ!デタラメだ!」
「残念ながら、冗談でもうそでも無い。翌年倉木は転校したけど、間の悪い事に如月は学校に来れなくなって……。」
そう言った高尾は、ポケットから一本のメモリーカードを出した。
「何だよ……それ!?」驚いて目を見開く唐沢。
「如月さんから……本当は、イジメの相談を受け続けてくれた唐沢の気持ちがスッキリしてから渡せって言われてたけど、今はそうも言ってられない。先生、スマホ持ってますか?」
沙羅井は高尾からメモリーカードを受け取ると、スマホに接続し、中に有ったムービーを再生した。
少し顔色の悪い如月蘭が、画面に向けて笑顔で手を振っている。
どこかの病室の様だ。
『あ、信児〜?ヤッホ〜!蘭だよ〜。実は、色々有ってしばらく学校行けなくなっちゃってさぁ。倉木さんとは仲直り出来なかったけど、信児にはお世話になったから、お礼言っとこうかなって。
また心配かけちゃうといけないから、誕生日まで見るの待って貰おうと思って高尾君に手伝ってもらいました〜!!
それでね〜私、中3の春からまた学校行ける事になったんだ〜!どお?嬉しい?まぁ、これからも、仲むつまじいカレカノでいようね〜!』
「何だよこれ、どういう事なんだ!?」
「オレも色々調べて見たよ。如月さんは心の病に掛かっちまって、最近ようやく落ち着いた所で、デリケートな問題だから、ご両親も人に言いづらかったんだと。ようやく去年の冬ごろ高尾が預かったビデオレターは、中々医師が『見せて良い』と言ってくれなかった見たいでな。」
「そんな……じゃあ、オレは何のために、阿島さんに近付いて、何のために浜名を襲ったんだ!?なぁ、誰か教えてくれよ!!オレ一体何のためにこんな!!……こんな……!!」
「何のために、ですって?」心愛が責める様に言い放った。
「何のためにも無いわよ。あなたは自分の勝手な勘違いで、阿島さんも、高尾君も花日ちゃんも心愛も、無関係なクラスの皆まで傷つけて、あげくこれから彼女まで泣かせるのよ!?アンタ、あんな良い彼女がいるのに、そんなんで良いの!?このままあのいい娘を泣かせる大バカ者のままで良いの!?」
心愛は唐沢を怒鳴りつけながら、今にも泣きそうになっていた。
「イヤだ!もう誰も傷付けたくない!蘭にも心配かけさせたくない!ちゃんと……ちゃんと前に進みたい!!」
「じゃあ立ちなさいよ!彼女の気持ち分かったんでしょ!?だったらすぐにでも病室行って、『もう大丈夫だから』って、抱きしめてあげなさいよ!」
「心愛ちゃん……。」花日は恐らく人生で初めて、心愛を心から尊敬した。
唐沢は涙と鼻水を服の袖で拭き、すくっと立ち上がった。
「皆さんありがとう!そして、本当にすいませんでした!」それは、唐沢なりの《宣誓》だった。
高尾はそれに応える様に、唐沢の背中を蹴飛ばした。
「行ってこい唐沢!相蓮中央総合病院だァ!」
「うおおおおおおお!」
決意の疾走を見せる唐沢の背中を見て、花日は一つ素朴な疑問をこぼした。
「高尾、私このシーンどっかで見た様な気がした。」
「え?そうかな……?」
「うん。あのね、ニ○コイの単行本10巻とか……。」
「あ!綾瀬、それ言っちゃいけないやつ。多分作者の趣味だから……。」
「あ、うん。分かった。それと先生、ご協力ありがとうございました!」
沙羅井は何て事無さそうにスマホをしまった。
「なあに、オレぁ傍観してただけさ。お前らの活躍の一部始終を。良くやったな、名カップル。それから浜名よ、お前もだいぶ見直したぜ。唐沢を叱ってくれて、ありがとうよ。」
心愛は沙羅井の激励を、鼻で笑い飛ばした。
「高尾君に私に乗り換えてもらう絶好のチャンスですから。別に唐沢君の為なんかじゃありませんし〜。あ、私用事思い出したんで、お先に失礼しま〜す!それと花日ちゃん!今までみたいなのは無しよ!明日からは、正々堂々高尾君を奪いに来るから、心愛が倒し甲斐が有る様に、ちゃんと良い女になってよね!じゃ、また明日〜……。」
悠々と帰って行く心愛の背中を見て、沙羅井はヤレヤレ、と笑った。
「まっすぐなヤツァ嘘が下手でいけねぇや。見舞い行く気満々なのバレバレだよ……。」
「心愛ちゃん。なんか今日ビックリする程良い人……。」
恋人達は笑い合った。輝く夕日に見送られ、明るく優しい明日が来る事を願って。また、どんな困難に陥ろうとも、愛する誰かと共に精一杯生きていく事を誓って……。