機動未来戦記 Aガンダム   作:神風アマツ

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────ここは、どこだ。────

ダイチは先の見えない道の上にいた。自分の場所にだけ、スポットライトの様に光が当たっている。何だかわからないけど止まっていても仕方が無い、と思ったダイチは暗い道の先を目指し歩き始めた。
体は鉛のように重く、足には足枷を掛けられたような感覚がする。
しばらく歩いていると人の様な影を見つけた。100mくらい先だろうか。2人いる。服装が見えるまで近付いたダイチは妙な安心感と懐かしさを感じた。
しかし近付く度に体は重くなり、足が動かなくなる。重い足を引きずりながら何とか歩く。遂に顔が見えた。

「父さんに…母さん…?」

それは幼い頃に失くした両親だった。2人は微笑みながらただダイチを見ていた。
もう足は動かない。それどころか大声を出そうとしてもかすれてしまう。唯、呟くことしか出来なかった。

「「貴方は選ばれた」」

突然後ろから声が聞こえてくる。
ダイチは、その声の聞こえた方にかろうじて振り向く。そこには幼い少女とダイチと同い年に見える女性が立っていた。

「「貴方はこの機体の主(あるじ)となる。私達はあなたの剣(つるぎ)となる。」」
「俺の、剣…?貴女たちは誰ですか…?」

得体の知れない2人。ダイチは不思議なくらい冷静に問う。

「「『今は』あなたの剣。剣としての命を終える時…私達は私達として存在できる。」」

2人は答える。するとダイチから徐々に力が抜けていく。薄れゆく意識の中最後に訪ねた。

「…なんで…俺なんだ…?」

2人が口を開く。

「それは、貴方があの人の────────」




初陣

 

 

 

7章 理由なき選択

 

 

目覚めるとそこは、自分の部屋でも、ソラの家でもなかった。無機質な天井と自分のいる場所を囲むカーテン。ダイチは部屋の雰囲気から病室と悟った。

 

「夢…か。」

 

呟くと顔を動かす。横にソラが眠っていた。起き上がろうとするが何かにぶつかる。よく見ると、胴と足首には医療用の様な大型検査機械が被せられている。夢で体が重かったのはこれのせいだろうと解釈した。重い機材をどうにかどかし起き上がる。

周りから生活音が全くしない。異様な静かさだった。ソラの他には誰もいないようだ。

 

「うん…」

 

ソラが目を覚ました。起きがっているダイチを見て直ぐに目を見開いた。

驚きと喜びに満ちた目から涙が零れ始めた。

 

「…ダイチッ!」

 

突然抱きついてきたソラをダイチは優しく包む。

 

「よかったぁ…起きてくれた…私、心配で…うぅぅ…」

 

ダイチは強く抱き締めるソラに答える様に抱き締め返す。目覚めた安心感からかダイチの目にも涙が溢れる。唯々涙を流す。ダイチはソラに心配をかけ、謝りたい気持ちでいっぱいだった。言葉がうまく出てこない。でも言う言葉は1つだった。

 

「…ただいま。」

「…おかえり。」

 

ダイチとソラは泣きながら笑顔で言い合う。小さい頃からずっと交わしていた言葉。そしてまた泣いた。お互いの無事が涙を更に促す。病室に2人のすすり泣く声だけが響き渡った。

 

2人の目の赤みが引いた頃、病室に松葉杖をつきながらルイグレが入ってきた。無論片足は無い。

 

「無事だったかダイチ。」

「お陰様でね。貴方のおかげだよルイグレさん。」

 

苦笑いで返す。しかし、すぐにダイチから笑顔が消えた。

 

「覚えているか…あの夜のことを。」

 

ルイグレは俯くダイチに問う。

 

「あまり…でもソラから聞いたよ、全部。」

 

力のない声で呟く。そしてぽつりぽつりと先程見た夢、頭に直接聞こえてくる声のことを話した。自分が選ばれたこと…現れた両親…自分の剣と名乗る謎の女達。覚えてる限り話した。

 

「…魅入られたか、それとも…」

 

話を聞いたルイグレはそう呟いた。

そして立ち上がると、松葉杖を鳴らし出口へ向かう。向かいながらダイチに尋ねる。

 

「これからどうするダイチ。また元の生活に戻るか?」

 

その深みのある声がダイチへ選択を迫る。ぽつり、とダイチの口から言葉がこぼれる。

 

「…やるよ、アレのパイロット。」

 

扉を開けようとしたルイグレの手が止まる。

 

「理由は…わからない。けど、俺にしかできない事のように感じる。怖いけど、やるしかないんだって、あの人達が言ってるように聞こえたんだ。」

 

一旦止めた手を動かしながらルイグレが言う。

 

「…後悔はないな?」

「あったらさっさと出ていくよ。」

 

問うルイグレに皮肉を返す。

フッと鼻を鳴らし、出ていくルイグレを見送ったあと、ダイチはソラに謝る。

 

「ごめん、ソラ。やる事ができた。暫くは会え────」

 

ソラが話を遮る。

 

「私も、付いて行く。我がままかもしれない…けど、私はダイチをサポートしたい。支える人が少なかったらダイチも不安でしょ…?」

「何するか知ってるのか?政府を敵に回すんだ。無事で済むかどうか分からないんだぞ!」

「だったら尚更、放っておけない!!」

 

ソラの気迫に圧されたじろいだ。ソラの目は、本気だ。

お前を危ない目には合わせたくない。でもダイチからその言葉は出せなかった。

燃え盛る工場に向かったあの時、少なからずソラに自分の死を想像させたに違いない。彼女にここまで心苦しい思いをさせてしまったと考えるとダイチは口に出せなかった。

 

「…本気なんだな?」

 

今1度確かめる。力強く、そして自らの気持ちを表すため、ソラは頷いた。

この瞬間から、自分だけの問題ではなくなった。誰かを巻き込んでしまったのだ。

しかしダイチは心の底では安心していた。1人で背負うより、2人で支え合う道を選べた事が、最良の選択と思えてきた。傲慢かもしれないが、やはりソラは自分にとって大切な存在だ。これからは彼女を守る事が最優先だと、ダイチは心に刻み込んだ。

 

「わかった。…お前の気持ちは伝わったよ。」

 

微笑みながらソラの手を握る。

 

「お前は全力でサポートするなら、俺はお前を全力で守る。そう決めた。正直な話、ソラが付いてきてくれて嬉しいんだ。」

「ダイチ…」

 

ソラが身を寄せる。ダイチが肩に手を回す。

もう彼女に悲しい思いはさせたくない。そんな感情をダイチは抱いていた。

 

 

8章 狂う歯車

 

「最低限…ねぇ。命かかってんのに、最低限はねぇよなぁ。」

「愚痴ばっかいってても仕方ないよダイチ。…今あるものでやるしかないんだよ。」

 

そんなもんかとダイチはパイロットシートでふんぞり返る。。かれこれ2時間はここにいる。左右は切り立った崖、18m級のMSが隠れられるほどの深さの谷。ルイグレ曰く、政府軍のレーダーから逃れられる唯一の場所…らしい。通信は連絡があるまで遮断されている。予定ではターゲットを確保次第に、この谷を使い脱出する手筈だ。ダイチたちは

 

「ヴィラさん無事かな…。」

 

ソラが口を開く。ヴィラはあの夜の戦闘の後投降し、今回の件で政府軍に嫌気が差したのか反乱軍に籍を置くことになった。今回の『作戦』は、彼女が中心であると共に、彼女の疑いを晴らす目的を兼ねていた。任命された彼女自身は戸惑っていたが、大丈夫なのだろうか。

 

《こち─"ディザイアベース"より"ヴァル─ュリア1"。作──動きあり。警戒を密にせ─》

 

静寂を破り、オペレーター─ニル・アミラリから通信が飛び込んでくる。通信出力を最小にしてるからか、所々ノイズが入る。危うく聞き逃してしまいそうだ。

直後にレーダーが敵を捉えた。レーダーは3機の機影を捉える。一番先頭がおそらくヴィラであろう。

 

「来るぞ…ソラ!」

「う、うん!」

 

ソラはアイドル(待機)させていたジェネレーターを起動する。排気ダクトから風が吹き出し、駆動音を響かせ、力を取り戻す。膝をついた状態から立ち上がり、ビームガンを構える。

その爛々と輝く緑のツインアイは、谷の奥、ヴィラが来るはずの真南を睨みつけていた。

だんだんと近付いてくる機影。縮まる距離と比例して、緊張が高まる。

 

……来るならこい。そうダイチがつぶやいた時だった。

 

《ヴァ─キュリア1!───待避せよッ!》

 

静寂を破る通信。内容を理解しようとした時にはもう遅かった。

スラスターをふかしながら高速で、『3機の敵』が突っ込んできた。

政府軍のジェノン。もちろん、そこにヴィラ機の姿はない。

 

「うわああああああ!!??」「きゃあああああ!!」

 

ダイチとソラは驚愕し、反応が遅れてしまった。そして3機のジェノンはアマツに次々に衝突、覆いかぶさるようにして転倒、砂煙を上げながら地面を滑った。

衝突の衝撃で、朦朧とする意識の中、接触回線がコックピットに響き渡った。

 

《…いたた…何が、起こったの?》《な、なんで、こんなトコにMSが…》《て、敵の機体じゃないか…こいつ。》

 

相手の通信が錯綜する。慌ててる今がチャンス…と、ダイチは咄嗟に機体を起こす。機体のパワー任せにジェノン3機を押しのけようと熱風を吐き出す。

 

《やばい!起きるよ!》《させるかっての!》

 

混乱していた彼らも押さえ込もうとする。しかし3機のジェノンの拘束をものともせず押しのけ、アマツは再び立ち上がる。

 

ジェノンのパイロット達は、立ち上がる敵MSの出力にど肝を抜かれていた。

MS3機を軽くあしらう姿は、彼等すれば信じられない光景だったであろう。

 

「なんだってヴィラさんがいないんだよ…」

 

ダイチは敵を目の前に、信じられないと嘆く。

 

「基地に行ってみよ!もしかしたらヴィラさんが…」

「何かあったんだろうよ…行こうソラ!」

 

ソラの話を理解し、ダイチはスラスターペダルを踏み込む。青い光が機体を押し動かす。

我に返ったジェノンの1機がアマツに攻撃を始める。が、まるで効果が無い。

───それもそのはず、彼らは単なるパトロール隊。暴徒撃退用の小口径ピストルしか装備しておらず、対MS装備は皆無だった。

 

彼らはただ谷の奥、基地に向かうアマツを見送ることしか出来なかった。

しかし、このエンカウント(遭遇)が歯車の狂うキッカケだとは

この時の彼らには知る由もない────

 

 

 




世の中には、知らなくて幸せな事がある。

それが己の『記憶』に関することなら、なおさら。

一片を聞けば全てを求めたくなる。

本当の己を知るために…

次回 『虚構と真実』

真実は、己の運命(さだめ)を呼び寄せる

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