ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか 作:ひゃっほー
「そういえばアイズ、君はこの都市では有名人なのかい?」
唐突にアーサーはアイズに尋ねた。それもさっきから周りの人々の視線がベンチに座る二人に集まっていた。注目を集めていたのはアイズだけではないのだが、アーサーはそれに気づいていない。そもそもアーサーとアイズの容姿は否応なしに人目を惹きつける。アーサーは金色の髪に碧眼の魅惑的な瞳、雪のような白い肌と整った容貌だ。服装は青と白の騎士服に白銀の甲冑を身にまとっている。
対してアイズはアーサーと同じく金色の腰まで伸びる美しい長髪に瞳も同じく金色、絹のような白い肌、無表情に思える顔もその整った容貌と相まって幻想的な魅力を醸し出す。洋服はラフな格好でざっくり背中側が開いた身体のラインがわかりやすいトップスに水色のミニスカートだ。側から見れば美男美女のカップルか兄弟にみえるだろう。
「さぁ……?」
アイズは短く答えると小首を傾げてそう言った。
「なら場所を変えようか……どうもここは落ち着かないから」
アーサーは苦笑いを浮かべてベンチを立つ。今まで大勢の前に立つ機会は何度もあったが、こうも人目を集めるとさしもの騎士王も落ち着かないようだ。
「なら、ホームにくる? そこならアーサーの質問にも色々と答えられると思う」
「ホーム? アイズの住んでいる家かい?」
「私だけじゃない、ファミリアの皆んなが住んでる」
聞きなれない言葉を多く耳にするアーサーは困ったような表情を浮かべる。
「うーん、とりあえずアイズのホームに行けば色々聞けるみたいだからお邪魔させて頂こうかな。っとその前にこの格好では少し目立ってしまうね」
アーサーはそう言って自分の礼装を解除する。スゥーっと白銀の甲冑は消失して黒色のジャケットに白いTシャツ、黒いパンツとラフな格好に様変わりした。それを見ていたアイズはアーサーに質問を投げた。
「魔法?」
「まあそんなところかな。どうかな似合ってるかな?」
「うん、似合ってる」
アイズがそういうとアーサーは笑ってありがとうと言った。その笑顔にアイズは若干、ほんの少し赤らめた顔を隠すように歩き出した。
「……行こ」
♦︎♢♦︎♢
都市オラリオの最北端にあるメインストリートを一つ外れた街路にロキ・ファミリのホーム『黄昏の館』はある。まるで城のような外観は幾つもの塔たちの集合体で出来ている。都市最大のファミリアの拠点としては充分過ぎる程だ。
「ここ、」
アイズに連れて来られたアーサーは目の前の建物に驚きを隠せなかった。
「本当にここに住んでるのかい? 凄いな……」
アーサーも生前はティンタジェル城と呼ばれる所に住んでいたが、目の前の建物はそれよりも小さいとはいえ引けをとらない大きさだった。
「ロキに会いに行く。その人(神)から色々聞けばいいと思う」
アイズの後ろを着いて行くように大きな門を抜ける。門を潜る時に二人の女性門番に止められたがアイズの知人と言うことですんなりと通してもらえた。その際にアーサーは門番に笑顔で挨拶をしたが二人が顔を真っ赤にしていた事にアーサーは気づいていない。『黄昏の館』は外見通り中も相当広いようで、軽く道に迷いそうだなっとアーサーは観察しながら思っていた。ひとしきり歩いてからアイズは大きな扉の前で足を止めた。
「ここに、そのロキという人が?」
「うん、でも少し待ってて……」
アイズはそう言って扉をノックして入室しようとした。
突然、ドアが開き中からアイズに向かって何かが飛びついた。
「アイズたーん!!」
アイズはヒラリと軽やかに避けるとそれは壁にぶつかる。
「……ただいまロキ」
どうやらそれがロキという人物らしくアイズは床で倒れているそれに話しかけた。
「何で避けるん?! ウチのアイズたんへの愛を受け止めてーや!!」
立ち上がったそれは涙目になりながらアイズに叫ぶ。朱色の髪に糸目、多分声からして女性だが男装に身を包んでいる。ひとしきりアイズへの愛を語った後ロキはアイズの後ろにいるアーサーに気づく。
「……アイズたん、そいつ誰や? まさかっ!? 彼氏とか言うんやないだろうな!! 認めん!! アイズたんはウチのもんやで!! おい、アンタ、アイズたんに何かしようもんならしばき倒したるからな!!」
ロキが憎々しい瞳をアーサーに向ける。
ドカッと鈍い音が聞こえる。ロキの頭にアイズの拳が振り下ろされる。
「ロキ、この人はさっき街で知り合ったの……困ってるみたいだったから連れてきただけ」
「いったー!? でも怒るアイズたんも激萌〜」
しかしさっきまでのお調子者の空気を一変させ、ロキは糸目を僅かに開かせると普通の気配ではないアーサーに言った。これはロキのような神々にしか気づけない。
「自分……何者や?」
先程までおいてけぼりにされていたアーサーもロキの雰囲気が変わった事に気づく。
「僕はアーサー・ペンドラゴンと申します。何者か……ですか。そうですね、騎士とでも言っておきましょう」
ロキのプレッシャーに臆する事もなくアーサーはにこやかにそう答えた。
「嘘はついてないみたいやな……でも本当の事もいっとらん」
そこでアイズはアーサーの事を庇うように前に出る。
「アーサーはここの事知らないみたいなの、だからロキこの世界について教えてあげて欲しい」
「……アイズたんちょっとこいつと二人で話したいからフィンのとこ行ってコレ渡してきてくれるか? ついでにフィンもここに呼んでくれると助かるわー」
ロキはアイズに書類を渡す。 アイズは心配そうにアーサーを見るとアーサーは大丈夫だよっと言ってアイズをたしなめた。
「……分かった」
アイズはそう言ってロキの頼みを引き受けた。
「そんじゃ……聞かせてもらうでー。あんたの質問にも答えたるから安心せいや」
「よろしくお願いするよ」
アーサーはロキの私室に足を踏み入れた。
♦︎♢♦︎♢
アーサーはロキからこの世界について教えて貰った。曰く、1000年前に天界から降り立った超存在『デウスデア』元は天界の住人だったがダラダラと、時を過ごす毎日。生きる事に飽きた神々は下界に興味を持ち下界に暮らす子供達と同じ地位と力で共に暮らすというゲームを始めた。そのため下界で神の力を使う事は禁止されているらしい。
下界に降りた神々はファミリアを作った。眷属『ファミリア』は神によって組織される派閥。作った神を主神とし、主であるファミリアの名を冠し◯◯・ファミリアと呼ばれる。 神々は下界の、子供達に神の恩恵『ファルナ』を与える。ファルナによって引き出されるのはその人間の可能性。神は眷属の経験した事象である経験値『エクセリア』を抜き出し、それを神聖文字『ヒエログリフ』として眷属に刻む事で
その経験値を具現化させる。簡単に言えばポイントによる能力値の増大だ。
そして娯楽に飢えた神々の新たな遊び場がここオラリオで様々な神がいることを教えて貰った。
アーサーはアイズの言っていた事を思い出して納得する。アイズは余分な事は話さないのでアーサーも分からない事が多かったが、ロキの話を聞いてこの世界についておおよそ理解が出来た。
するとロキが言った。
「こんな当たり前の事知らんと思わへんかったわ、おおよそ予想はついとったが、あんたこの世界の住人なんか?」
さすが神と言ったところか、アーサーは嘘をつく必要性を感じなかったので正直に話した。
「おっしゃる通りです神ロキ、僕は異世界からこのオラリオにやって来ました」
アーサーはロキに語る。自身は一国の王であり、祖国の悲劇を救済するべく世界と契約して英霊になった事。何でも願いを叶える聖杯『願望機』を巡って戦っていたこと。しかし、祖国の救済が間違っていた事に気づかせてくれた少女を救う為に戦った事などを包み隠さずロキに話した。
「なるほどな……神のウチでもわからん事は色々あったが大体あんたの素性は分かったわ。あんたの気配がウチらと近い理由もな」
ロキは大きく息を吐いて椅子の背もたれに深く腰掛ける。
「それで神ロキ、僕が元いた世界に帰る方法はあるのでしょうか?」
これはアーサーが最も聞きたかった事だ。
「ロキでええわ、一言で言うと……わからん。異世界があるなんて聞いたことないな。まぁでも探して見ればええんやない? ところで相談なんやけど……あんたウチのファミリアに入らへん?」
ロキのいきなりの提案にアーサーは驚く。
「なぜ、僕をファミリアに誘うんだい?」
ロキはニヤリた口元を釣り上げると言った。
「おもろいからや!! いやー最近刺激が足りんくてな、暇やと思ってたところやねん。それにウチのファミリアは都市最大派閥の一つで情報網もでかい、一人で元の世界に帰る方法探すよりウチのファミリアに入ってさがした方があんたも得やと思うけどな」
確かに一理ある。アーサーはこの世界に現界して1日目だ。それにさっき気づいたのだが、今のアーサーは英霊の時と違いこの世界に受肉している。という事は魔力原のマスターからの補給で間に合っていた前の世界とは違い、ご飯を食べなければ餓死してしまう。『黄昏の館』を見てもロキ・ファミリアは衣食住に置いて申し分ない。どっちにせよロキの提案に乗る他なかった。さりに言えば今の状況から考えて一人で帰還方法を探すのは広大な海から砂粒を探すに等しい。
「……わかりました。ロキの提案を受け入れましょう」
「そうこなっくっちゃなー」
ロキはケラケラと笑うと椅子からたち上がった。アーサーもロキ同様椅子から立ち上がるとドアの方を見て行った。
「……気づいているよアイズ、それにもう一人の方も。そろそろ出てきてくれないかい?」
すると扉が開かれて気まずそうなアイズと金髪の小人が部屋に入ってくる。アーサーが自分の過去について話始めた辺りから扉の前に二つの気配があるのは気づいていた。アイズの気配は一度会っているので分かっていたがもう一つは大方アイズが呼びにいったものだろう。
「ごめん……盗み聞きする気はなかったの」
アイズは申し訳なさそうに言った。
「いや、構わないよ。アイズには困っていた時に助けて貰った恩もある。ジャガ丸くんも買って貰ったからね。それで、そちらの御仁は誰かな?」
アーサーの言葉に安堵したような表情を作るアイズ。
「これはご挨拶が遅れたね、僕の名前はフィン・ディムナ。こう見えてロキ・ファミリアの団長を務めさせて貰っている。君がアーサー君で間違いないかな?」
フィンはそう言ってアーサーに手を差し出す。
「アーサー・ペンドラゴンだ。よろしくフィン。それとフィンはこう見えてって言ったけれど君からは強者のオーラを感じる。相当腕が立つのは見て分かるよ」
アーサーは差し出された手を握るとニコやかにそう言った。
「それでロキ、話は聞いていたから分かったけど、アーサー君の入団の件だよね?」
フィンはロキに確認を取る。
「そやでー、正直ウチは今すぐにでもええんやけど、一応入団テストはせなあかんやろ?」
「確かに、なら模擬戦でもしようか。アーサー君の実力がどの程度なのかも気になるし僕が相手をするよ」
「それでええか、アーサー?」
「構わないよ。僕も少しこの世界での戦闘を経験しておきたい」
アーサーはそう返事をする。
「なら早速訓練場に行こうか」
フィンはそう言って扉に足を向ける。それに連れられるようにアーサーも扉を出て行った。
このやり取りをみてアイズは少しワクワクしていた。アーサーの実力は戦っている所を見た事がないアイズでも相当だということは剣士であるアイズには感じて取れた。ロキはアイズの様子をみて同じ事を思っていたのだろう。
「楽しみやな、アーサーの実力がどんなもんかバッチし見届けようやないかい……」