次の日、宿泊施設から出て僕らが目的地にたどり着いたのは辺りが薄暗くなった頃のことだった。砦はすごく大きく王城と同じくらいのものだった。
「この砦がたった一人の魔王軍幹部に落とされそうだっていうのか?いくら幹部って言っても無理じゃないのか?」
「私もそう思うのだが、魔王軍幹部は一人で都市を破壊できる連中だからな。私達があっさり倒せたのは普通だったらおかしいことだからな」
ダクネスさんの言葉を聞いて、僕はこれまで戦ってきた魔王軍幹部の事を思い出した。
ベルディアは魔法抵抗力も強く、剣技も凄かった。あの時、僕が一人で戦い続けていたら死んでいたかもしれない。ハンスは猛毒を持ち、更には化ける力を持った最強のスライム。シルビアは色んなモンスターの特性や能力を我が物にし、進化し続けていく生物。バニルさんは本人曰く魔王より強いと言われているくらい反則能力をもった悪魔。ウィズさんは多種多様の魔法を使え、最強の魔法である爆裂魔法をも扱え、更には普通に戦っても傷をつけることが出来ない肉体を持っていた。
よくよく思い返すと本当に僕らは奴らに勝てたな。まぁ、殆どが爆裂魔法にやられていたけど、もしもめぐみんが爆裂魔法を使えなかったら……
「本気でやばいことになっていたんだな………」
「私達勇者でも勝てたかどうかだね……特にウィズさんが敵じゃなくって本当に良かったよ。下手すれば満開を使っていても勝てなかったしね」
銀も思い返してそんなことを言っていた。アルカンレティアの時、アレが本気のほんの一部だとしたら、本気になった時を想像してみるとゾッとしてきた。
「と、とりあえず中に入ろうぜ」
カズマさんがそう言い、僕らは砦の中に入るのであった。その際騎士の人たちと一悶着あったけど、何とか入らせてもらうのであった。
それぞれ個室へ案内される中、僕は友奈と友海と一緒に中を見て回っていた。
「何だか皆、疲れてるね」
「うん、それにイライラしてるみたいだよ」
友奈と友海の言うとおり、何だか騎士たちは疲れていたり、イライラしていて、砦内は何だかピリピリしていた。最前線の砦だからだと思いたいけど、この空気も魔王軍幹部の仕業だとしたら……
「………ちょっと外を見てみようか」
僕はちょっと気になることがあり、砦の外に行き外壁を見てみた。外壁は物凄く頑丈そうでそう簡単には破壊できそうにないと思っていると、ある一部を見た瞬間僕らは驚きを隠せなかった。
「ここだけ………破壊されてるの?」
「いや、崩壊寸前まで追い込まれているみたいだ。しかも……この破壊痕、友海も見覚えがあるだろ」
「……うん、爆裂魔法だよ。これ……もしかして相手は……」
「あぁ、爆裂魔法の使い手だ」
まさか今回の敵である邪神ウォルバクは爆裂魔法の使い手だなんて……厄介すぎないか?
数時間後、僕らは作戦会議のため集まっていた。話を聞くとカズマさんもあの外壁の破壊痕を見て、相手が爆裂魔法の使い手だと知ったみたいだ。流石は爆裂魔法のソムリエだって言いたいけど、そんな空気じゃなかった。
おまけにめぐみんは相手がライバルが現れたとか騒いでいる中、須美とそのっちがあることを聞いてきた。
「あの海くんと銀が使える満開で対抗できないの?」
「それだったら~相手の魔法を満開で防げるんじゃないのかな~そしたらめぐめぐの魔法で倒しちゃえば~」
「めぐめぐ!?」
「須美、そのっち。その方法も考えたけど、正直満開で防げるかどうかわからない。下手すれば防ぎきれず、全滅って言うこともある」
「それだったら私はどうだ?一度爆裂魔法に耐えきったことがある」
ダクネスさんが自信満々にそう告げるけど……
「めぐみん。今、お前は爆裂魔法はどこまで強化してる?」
「えっ、そうですね。威力と詠唱スピードを……もう少し待ってくれれば詠唱なしでもいけます」
「それじゃ今の威力だったらダクネスさんの防御力を抜く自信は?」
「仲間に撃ちたくありませんが………余裕で突破できますね」
「なぁ、ウミ、お前が何を思ってるのか分かったから、言ってもいいか?」
カズマさんが僕の考えに気が付き、冷や汗をかいていた。僕もそんな事はありえないと思っているけど……
「もしかしたら邪神ウォルバクはめぐみん以上の爆裂魔法の使い手だとしたら……勝ち目無くないか?」
「それにだ。さっき聞いてきた話だと、奴らは爆裂魔法を放ったあと、直ぐ様森のなかに戻ってはこちら側の反撃出来ないように陣をひいている」
砦は爆裂魔法で、森のなかに逃げ込んだ幹部を追おうとしたら、森のなかには兵士たちが待ち伏せていて、邪魔をしてくる。
「ねぇ、カズマさん、カズマさん。今回は逃げましょう。正直諦めるしかないと思うの。それにほら、ゼル帝の事も心配だし……」
アクアさんは今にも泣きそうな顔をしているし……本当にどうすれば……
「あの……私に一度だけチャンスをくれませんか?皆は砦で待っていていいです。何処かに隠れてウォルバクが出てきた瞬間に、先に爆裂魔法を御見舞してみます」
めぐみんの提案を聞き、今現状でできるとしたらそれしかないと思った僕らであった。
次の日、僕らは森の中で邪神ウォルバクが来るのを待っていた。めぐみんの作戦がうまく行けば、そのまま僕らの勝利になる。でも失敗したことを考えて、銀は直ぐ様満開を使って逃げられるように準備はしていた。
しばらく待ち続けているとフードを深くかぶったローブ姿の女性が現れた。フードのせいで顔は見れないけど、あれが魔王軍幹部なのか?めぐみんは詠唱を始めようとした瞬間、そいつは僕らの方を見つめていた。潜伏スキルで隠れているのに、気が付かれた!?
「まずい!?おい、めぐみん。堂々と爆裂魔法の準備をしてろ。ここは俺達が時間を稼ぐ」
「それだったら、僕ら勇者のほうがやりやすいと思う」
僕らはめぐみんを後ろに下がらせながら、そいつの前に現れ武器を構えた。そんな中。ゆんゆんに抱えられていたちょむすけが暴れていた。一体どうしたんだ?
「逃げないのか?魔王軍幹部」
僕がそう告げた瞬間、フードの中から見える口元が何故か驚いているように見えた。何でこの人は驚いてるんだ?
そいつはフードを取った。フードの下は赤い短髪に猫のような目をした女性だった。この人は……あの時温泉で一緒になったお姉さん
「………こんな所で出会いたくなかったわね」
僕とカズマさんは驚きを隠せないでいた。あんな風に普通に話せていたお姉さんが、まさか魔王軍幹部だったなんて……
「お姉さん……もしかしなくても魔王軍幹部の……」
「そうね。自己紹介はまだだったわね。私は怠惰と暴虐を司る女神ウォルバク。言うなればあなた達の敵であり、そして……そっちの勇者の味方でもあるわね」
ウォルバクは笑みを浮かべながら僕のことを見つめていた。勇者の味方って……
「まさかと思いますけど、バーテックスのことも盟約のことも……」
「えぇ、天の神の使い。そして神樹と女神の盟約についても知っているわ」
ということは本当に神なのか。だとしたら勝てるからどうか……ましてや見知った顔の人が相手となると本当に戦いにくい
「なぁ、俺はあんたが魔王軍関係者じゃないかって知っていたんですよ。だけどそれでも聞きたかったことがあるんです。あの時普通に話していた時はあんたは悪い人には見えなかった。なのに、どうして魔王軍に?」
カズマさんの問いかけにウォルバクはおかしそうに微笑を浮かべ、
「そうね。こういう時はこう言うのがセオリーかしら?それが聞きたいのなら私を倒してからにすることね」
戦闘は避けられないか……僕は白月を抜こうとした瞬間だった。
「ねぇ、何か意味深なこと言ってミステリアスな空気を醸し出してるけど、あんたちょっと待ちなさいよ。どうやら一応神格はあるみたいだけど、何よ怠惰と暴虐を司る女神って。物事は正確に伝えないと誇大広告で訴えられるのよ。ちゃんと邪神を名乗りなさいな」
さっきまで怯えていたアクアさんが真面目な空気をぶち壊した。ウォルバクもいきなりのことで戸惑ってる。
「私は怠惰と暴虐なんていうあまり印象のよくない感情を司っているだけで、元はれっきとした女神なのよ。誇大広告なんてしてないわ」
「嘘ついた!ねぇ、カズマ、ウミ。今この自称女神が嘘ついたわ!この世界で正式に女神として認められてるのは、私とエリスの二人だけなのよ。信じられないなら、ウミ、エリスを呼び出して」
エリスさんを呼び出すって……あっちの世界でのひなたお姉ちゃんみたいな感じで呼び出せば良いのかな?とりあえず端末を取り出して呼び出すと、直ぐ様精霊サイズのエリスさんが出てきた。
『どうしたんですか?この姿で呼び出すなんて珍しいですね』
「エリス、この自称女神になんか言ってやりなさいな。貴方みたいな女神なんているわけないって」
『えっと……一体何があったんですか?確か皆さん、魔王軍幹部と戦うために最前線の砦に来ているのでは?』
「エリス様、そうだったんだけど、かくかくしかじかでアクアがウォルバクに絡んでるんだ」
カズマさんがこれまでの経緯を話すと、エリスさんは額に手を当てていた。
『確かにウォルバクさんは女神ですよ。ただ魔王軍に所属した際に、アクシズ教団が勝手に邪神認定を……』
アクシズ教、どんだけだよ。というかアクアさん知らなかったのかよ。でもよくよく考えてみればバーテックスのことも知らなかったし、これは一体どういうことだ?
「あのウォルバク……さん。ちょっと聞いていいですか?」
「何かしら?」
「ちょっとウミ!この邪神なんかと話さない方が良いわよ」
「いや、ちょっと聞きたいことがあって……ウォルバクさんはバーテックスのことをずっと前……邪神認定される前から知っていたんですか?」
「えぇ、そうよ」
ウォルバクさんはずっと前から知っていた。でもアクアさんは最初にバーテックスを見た時、何だか知らないみたいだった。それってつまり………
「あの………アクアさんって自称女神なんじゃ……」
「ちょっとウミまでカズマみたいなこと言って、もしかしてバーテックスのこと知らないからって事?それだったら教えてあげる。私は色々と忙しくてね。神樹の世界のことまで干渉できなかったの!!神樹の世界は神樹に任せておいたしね」
『アクア先輩は本当に忙しかったので、神樹の……ウミさん達の世界に干渉する暇ありませんでしたから……あったとしても精々魂を導くくらいでしたし……』
「ほら、エリスだってそう言ってるでしょ。私は物凄く忙しかった女神だったの。そこの邪神みたいに魔王軍に所属している暇すらなかったくらいよ」
「ご、ごめんなさい」
「それよりあなたが女神?バチが当たるわよ」
「バチが当たるのはあんたの方よ!!女神なんて自称してる時点でもう罰当たりよ!ちゃんと邪神って名乗りなさい!」
何だかさっきまでのシリアスな空気が完全になくなったな……
「なぁ、カズマ、ウミ。もうこの二人ほうっておいていいんじゃないのか?」
「俺もそう思うけど……一応幹部だしな……というかめぐみんは何をやってるんだ?」
そういえばめぐみんはもう詠唱を終えているはずなのに、何時迄も爆裂魔法を放とうとしない。一体何があったんだと思い、めぐみんの方を振り向くと何故か驚きを隠せず、ただ杖を握りしめたまま、その場に立ち尽くしていた。一体何があったんだ?
「パパ、私が代わりに………」
「いや、友海はめぐみんのそばに居てやれ。とりあえずもう少し様子を見たほうが……」
「セイクリッド・クリエイト・ウォーター!!」
「て、テレポート!!」
突然アクアさんが辺りに大量の水を呼び寄せてきた。というか何があったんだよ