【新西暦186年 8月X日】
日記は記憶の引き出しだ。それを私は、これから自らの正気を保つためにつけようと思い、筆を取った。そしてこのような日記を書く前提条件として、ある情報を最初に書いておくべきだろう。
私は、前世の記憶を持っている。これだけならば、テレビやドラマにあるような与太話で済むかもしれないし、前世と今世の差異が強ければ、転生後の私の20年間の人生で埋もれ消えてしまっていたかもしれない。もしかしたら酒の席のバカ話にも使えるだろう。
だが、私の前世は、私の今がどういうものかを知っていた。そして、私の今いる世界と、今世の未来を知っていた。
私の名前は、テンザン・ナカジマ。そして今私のいる世界の暦は新西暦。前世の私は、この世界を『スーパーロボット大戦OG』というゲームシリーズで知っており、『テンザン・ナカジマ』というキャラクターは、踏み台として死ぬことを定められていた。
まず私がこの世界をそうだと気づいたのは、あの事件……メテオ3の落下だ。それまで学校の教科書などでそれらしい言葉などは見かけたが、ただの偶然の一致と切り捨ててきた。それよりも、転生などという一種の生まれ直しのおかげで、前世ではできなかったこと、やりたかったことを行うことに夢中になっていた。前世では40年以上も生きていたのに、結局は子どものままだったのだ、私は。
そして気づいてからしばらくは、これもただの偶然と思い込んだ。だが前世の記憶は、既にこの世界が『スーパーロボット大戦OG』だと断定していた。私自身、その精神の2重構造に苛立ち、大分周囲の人間に当たり散らしてしまった。今世の両親とも、そこから疎遠となってしまった。両親には本当にすまないことをしてしまった。
私がこの世界がこうであると認めたのは、エルピス事件が起きてからだ。ニュースとネットから伝え聞くそれに、ああ本当に人が死ぬのか、私も逃れられないのか、と思い始めた。だが、それでも安易に逃れようと、私が思いついたのは、極めて愚かなことだ。
自殺だ。それも前世の私の死因と同じ、首吊り自殺。
結論から言えば、失敗した。1度目はロープの劣化、2度目は直前に両親に発見された。三度目の自殺はビルからの転落を試みたが、驚くべきことに、落ちた場所にボンネットの道具を積んだトラックが滑り込み失敗した。
3度も失敗すれば、可笑しいと思い始めた。更にやり方を変えて何度か自殺を試みても、尽く失敗した。今世の貴重な友人(とはいっても実際に会ったことのないネットのチャット仲間だ)からは『持ちネタにブラックジョークでも増やしたの?』などと皮肉を言われる始末だ。そんなはずがあるかと、私は、この異常事態に恐れながら、最後には遭難による餓死を試みた。
これも、失敗した。よくも分からぬキノコなどを食べ、喉を乾かし、体を麻痺させながら、ああこれでようやく死ねるのかと苦悶に悶えながら死を受け入れようとした時、修行中の行者に助けられてしまった。私は今度こそ、自らの運命に敗北した。
応急処置を施され、救助のヘリを待っている間に、私を助けた行者と幾ばくか話をした。むしろ私は、全てをその行者にぶつけたのだと思う。あの時は正気を殆ど失っていたから、この世界がゲームであり、何がこれから起きるかも言ってしまったかもしれない。
行者は、こんな狂人の戯言を黙って聞いてくれていた。最後には泣き喚いていたのに、何も言わず救助を一緒に待ってくれていた。そして私がひとしきり叫んだ後、行者は何か私に言ってくれた。きっと私を悼んでの言葉なのだろう。残念ながら私が覚えている彼の言葉は、これだけだった。
色即是空 空即是色
この世は因と縁によって存在し、その本質は空である。この言葉は、私の心にストンと落ちてきた。ああ、ゲームであろうと現実であろうと、自らの空虚な運命は変わらないのだろうと。
私は、運命を受け入れることにした。今世の子ども時代は好きにやらせてもらったのだ、後は『テンザン・ナカジマ』の役割を遂行するだけだ、と。
だが、それでも私の中には、抗いとも、戯れとも違う、気散じ的な思考と行動指針が浮かんでしまう。
結果が同じなら、多少の違いがあっても問題ないだろう、と。
私が日記を書き始めた理由には、そういう気まぐれ染みた……いや、狂人であっても起こしてしまった行動が、常人/『テンザン・ナカジマ』の振る舞いをどこまで保てているのかという確認の意味もあるのだろう。日記であってもこんなに思惟がはっきりしないのは、私が意志薄弱だからと確信できる。そんな私でも、前世とは違って、ちゃんとした死を迎えるために、ようやく生きる真似をするのだ。
この行を書き終えるだろうすぐ後に、物語が始まる。全てが終わる寸前に、正気のままこのページを開ければ、幸いだ。
歓声がテンザンを包む。遥か先の天井からは眩しいばかりの照明が降り注ぎ、思わず目を背きたくなる。けれどもここまで来てそういうことができるはずもなく、うろんな表情で臆病を隠し、データの入ったPDAを弄びながら、ステージへと歩いていく。
向かう先にあるのは、巨大なゲームの筐体と、先ほどから喧しいぐらいの歓声を煽りボルテージを上げるMCの姿。
そして、あの男。遠くない未来において自分/テンザン・ナカジマを殺す男。
「あんたが東京代表のテンザンか! 俺はリュウセイ・ダテ、よろしくな!」
リュウセイ・ダテはこちらの気などまったく知らない素振りで、闘志に溢れた笑顔を浮かべて握手を求めてきた。事実、この溌剌とした少年のような青年はまだ何も知らないのだし、テンザンとは初対面なのだ。黒い熱が腹の奥底から湧き上がってくる。それを必死に抑えて、伸ばされた手を握り返し、如何にもな言葉を口にした。
「ホ! こっちこそよろしくな、引き立て役のリュウセイ・ダテさんよっ」
「……なに?!」
「ま、精々遊ばせてくれよ」
何かを言われる前に手を離し、さっと筐体の中へと入り込む。“テンザン・ナカジマ”として役目を全うしようと誓って以降も、面と向かって怒声を浴びせられるのは苦手だった。屁でもない、と傲岸不遜であるべきとわかっているはずなのに、身体と感情はいまだそれに付いて来てくれない。それ以上弱気になりそうな心を振り払うように、端末をコンソールに差し込む。『バーニングPT』のタイトル通り、パーソナルトルーパーのコックピットを忠実に再現した機器群に、テンザンが作り上げた機体が表示された。重装備で低空飛行が可能な黄色の機体、うろ覚えの記憶で再現したアニメ版の“テンザン・ナカジマ”の機体だ。表示されたステータスデータに間違いがないことを確認し、次いで広大な砂漠が目の前に現れた。
ここからだ。バーニングPTで全国大会を勝ち抜き、決勝まで来た。そしてこの後、“テンザン・ナカジマ”はディバイン・クルセイダーズに、リュウセイ・ダテは連邦軍に、正確にはSRXチームにスカウトされる。そこから、物語は始まるのだ。異星人、いや地球を脅かす侵略者との戦いが。
そして、この対戦はただのアバンの一幕に過ぎない。
「苛めさせてもらうか」
故に結果が同じであれば何も変化がない。だからこそ、少しだけ、自由に戦わせてもらおう。心の中の誓いに言い訳をしつつ、コントロールレバーを取る。モニターにカウントが灯り、本物のジェネレーターを模したエンジン音と振動が狭い空間に響く。3カウントからの1秒ずつがとても遅く感じる。弱い心が焦燥感と緊張で震えと汗を流そうとするが、それを振りほどくように、ペダルを軽く踏もうとする。
そして、カウントが0を示し、テンザンの不安と恐れを嘲笑うように『START』に変わった。
「テンザン・ナカジマ、タイプD、出るぞ!」
適当にでっち上げた機体名を叫び、ペダルを踏み込んだ。
リュウセイ・ダテは怒りに駆られていた。彼は母親のことを思い、今日を持って一切のゲームを止め働こうと誓っていた。だからこそ最後となるこの対戦は互いを称えあえるいい試合にしたかった。それを最初の挨拶から踏みにじられたような気分だった。そっちがその気なら、と激情に身を任せてペダルを踏み、バトルフィールドへと機体を進めた。
リュウセイの機体は中量級のオーソドックスタイプだ。武装はリュウセイの趣味によって近中距離に対応したものばかりだが、反応速度はシステムの許すギリギリまで上げており、このフレームタイプでは最も耐久性があるものを選んでいる。それにリュウセイの技量が合わさり、これまで危うげなく勝利してきた。
だが相手は全国でもトップクラスの猛者が集う魔境東京の代表選手、これまでとはまた一味違うだろう。怒りに任せても、ゲーマーとしてのリュウセイの勘が慢心を消し、牽制用のツインハンドガンを引き抜かせる。フィールドが砂漠とはいえ、高低差はある。互いがまだ視認していない以上、どこから奇襲されても可笑しくはない。
そう思った矢先に、レーダーに熱源。正面の丘の後ろ、ミサイル4。向こうも牽制か、と構えたままのハンドガンで迎撃しつつ、右側面へと機体を走らせる。ハンドガンの弾は迷いなくミサイル全基を落とし、爆風を起こす。同時に、バーニアを全開、丘の向こうにいるだろうテンザン機に対し、右側面から回り込む。
そして、銃を向けて飛び込んだ先には、何もなかった。やはり移動していたか、と周囲を警戒しようとした瞬間、背後から攻撃がリュウセイを揺らした。何時の間に、と小刻みな揺れに驚きながらも、後ろを振り返らないまま、前方斜め上へと緊急離脱。盛り上がった砂の後ろに隠れると、再びミサイル警告。
「間髪入れずかよっ!」
悪態を吐きながら再びバーニアを噴かそうとした瞬間、警告が走る。機体異常、バーニア一基の破壊。さっきのでか、と不運に舌打ちし、残った一基のバーニアで転がるように前に飛び、砂に何度もぶつかりながら背後へと振り返り、砂山に当たって起こったミサイルの爆発の向こう側に銃弾を撃つ。着弾判定なし、やっぱりか、機体の態勢を整えながらそんな感想を頭に浮かべた瞬間、視界に影が差した。それは太陽が何かに遮られていることを指しているが、それがシミュレータで作られた雲のせいとは思えず、頭上を仰ぐ。
そこに、テンザンの機体があった。飛行用の戦闘機に似たウイングにミサイルを懸架した、黄色の機体。その両手、右腕の大型ガトリングガンと左腕のショットガン、それぞれの銃口と虫の複眼を模したガンカメラがリュウセイに向けられていた。
「ホ! 踊れよリュウセイ、死の舞踏をなぁっ!」
「何が死の舞踏だ!?」
マズルフラッシュが瞬くのと、リュウセイが機体を飛びのかせたのは同時だった。ジグザグに下がるが、密度の濃い弾幕を全て避けきれるハズもなく、ハンドガンの一丁は破壊され、機体にはダメージが蓄積されていく。先ほどのバックアタックも含めて、機体耐久値はもう3分の1以下まで削られている。その一方でテンザンの機体は無傷。もし逆転の目があるとすれば、近接戦でクリティカルダメージを連続で当てるしかない。
「ならっ、こうするしかねぇ!」
左脚部で砂の地面へ踏み込み、前へと跳ぶ。狙うのはテンザン機が着地した瞬間だ、重武装に見合う重量級の機体だ、着地時のショックを吸収するため僅かだが動きが止まるはず。その推測を元に、懐に飛び込むためには、機体が持つ間に弾幕を掻い潜るしかない。ダメージはどんどん蓄積し、レッドゾーンに突入。あと一歩、と思った瞬間、ついにテンザン機が地面に着いた。ここだ、と空いていた片手にプラズマソードを抜刀、一足飛びに切りかかる。
「おりゃあああぁぁっ!?」
だが、読まれていた。ウイングに残っていた1発のミサイルが、ギリギリまで近づいていたリュウセイ機に向けた発射されたのだ。このタイミングで、と驚嘆するしかなかった。機体は振りかぶりのモーションに入っている、バーニアの動きでは回避が間に合わない、そして直撃すれば敗北は必死。
せめて、せめて一撃でも与えなければ意地が通らない。湧き上がったその気持ちと、生物的な反応速度、そして彼の中の眠れる特殊な才能が、リュウセイに神がかり的な行動を起こさせた。
銃を握ったままの腕をミサイルに向けて差し出し、そのまま外側に弾くようにぶつけた。機能を忠実に再現したミサイルは、その通りに炸裂した。爆発の衝撃が機体を焼き、腕を吹き飛ばす。だがバーニアでミサイルの爆風を強引に突き抜け、残った腕とソードで切りかかる。
「おおおおぉぉぉ!」
「……やるじゃねぇか」
それでも尚、テンザンはリュウセイの上をいった。両手の武器、ショットガンを頭上に放り投げ、ガトリングガンをプラズマソードの前へと突き出した。プラズマソードの刀身が突如差し出された銃身を切り裂くが、間に障害物を置かれたせいで、剣速が落ちる。その間にテンザン機は機体を半身ズらすことで剣の軌跡を避け、腰から対PT用ナイフを取り出し、リュウセイ機に残された腕を切り飛ばした。間接部を狙った一撃、リュウセイは反応できなかった。そのままテンザン機はターンし、重量級の機体とは思えない動きで回し蹴りを放ってきた。何もできず、背中を蹴り飛ばされ、無様に砂漠へと機体を倒れこませる。衝撃がコックピットを模したシミュレータを揺らし、機体耐久値が1桁までとなってアラートが鳴り響く。たまらず、悔しさが零れた。
「くそっ……」
「リュウセイ・ダテ」
機体に再び影が落ち、鈍い衝撃が走った。自由落下してきたショットガンを取ったテンザン機が、リュウセイ機を逃げぬように踏みつけ、その後頭部に銃口を押し当てていた。攻撃手段はもうなく、機体も動けない。逆転の目は、これで全て潰えた。
「……オレの、負けだ」
「そうだな。そんでもって、俺が勝つのはこれで最後だ」
敗北を認めて、そのことを口にしたら、わけの分からない言葉を返された。反射的に聞き返そうとした瞬間、ショットガンが火を噴き、リュウセイ機の頭部を粉砕した。モニターが暗闇に覆われ、耐久値が0に遷移した。そして試合終了のアラームが鳴り、モニターには「Your Lose」の文字が点滅した。
筐体越しにMCの声と観客の歓声を浴びながら、機体のチェアに身体を沈んだ。完敗だった。対戦結果を見るが、やはり本体には一発の被弾もなかったのか、テンザン機の耐久値は満タンのままだった。へこむなぁ、とため息を吐き出す。ここまで差があるとは思っても見なかった。だがへこたれていられない。残るプライドをかき集めて筐体から抜け出し、決勝ステージの壇上へと歩き出す。意外と律儀な所があるのか、テンザンは既に戻っていた。
「……おめでとうテンザン、本当に何もできなかったよ」
「ホッ! 負け犬が何言ってんだよ? それにあれじゃ引き立て役にもなんねぇなっての。せめて次は1発ぐらい食らわせてくれよ? そうじゃねぇと盛り上がらねぇからなぁ」
「なっ……そ、それが、対戦相手に言うことかよ!?」
「熱くなんなよ、たかがゲームだろ」
こんなことを言う相手に負けたのかという理不尽と、惨めなぐらいに完璧に負けた悔しさが、リュウセイを突き動かし、テンザンの掴みかからせた。それに対しても、このムダにがたいのいい男はへらへらと嘲笑する。慌てた様子でMCが二人を引き離し、リュウセイはそれに従って手を離した。
「ホ! 怖ぇ怖ぇ。司会さんよぉ、表彰式の準備が終わったら呼んでくれよ~」
何でもない様子で襟を直したテンザンは、そのままステージ端へと消えていってしまった。最後の対戦ゲームと思ったのに、しこりが残るものとなってしまった。そのことに不快感と暗い怒りがにじみ出そうになるが、やはり最後だからと、おそるおそる声をかけてきたMCに、何とか笑顔を返した。その後2、3対戦についての感想を答えて、リュウセイも控え室に一度戻ることとなった。
観客席下にある入り口から出る直前、一度だけテンザンが出て行った方を振り返る。そしてふと、見間違えと思ったようなことを思い出した。
襟を正していた時のテンザンの手が震えていたことを。
控え室に戻ると同時に、ドアにもたれかかり、胸を掻き毟る。今更になって全身が、特に手足が震え、過呼吸を起こしたように息が整わなくなった。
「はっはっ……くそ、こんなんでも……はっ……ほっ、ほっ……どんだけ、チキンなんだよ、俺……ホッ!」
“テンザン・ナカジマ”の口癖を無理やり真似ながら、髪の毛を引き抜きたくなるような自己嫌悪と後悔の渦に耐える。身体は耐えていた緊張の反動で制御が聞かず、心臓は部屋中に響くほど鳴っている。そのままずるずると座り込み、膝を抱える。順当にいけばこのあとは表彰式だろうが、落ち着くまでに時間が掛かりそうで出られそうにない。予定通りバックれるか、そんな思考を浮かべた瞬間、部屋が、いや建物全体が揺れた。
「ああ、くそ……もうかよ」
その揺れに思い当たる節があった。タイミングは多少前後するだろうと思っていたが、それよりも早かった。だがちらりと掛け時計を見れば、部屋に入ってから大分時間が経っているのに気づく。なんだ、俺が半分気絶してただけか、と自嘲すると、再び揺れが起き、避難警報がやかましく流れ始めた。
ああ、本当に始まってしまったのか。そんな自暴自棄な感情が胸中を包み、じんわりと涙が溢れそうになる。このような気持ちは、前世で自分の仕事を突然中断させられ、なのにその結果の責任を押し付けられた時のようだ。分かっていたはずなのに、何もできない、雁字搦めの悔しさ。でも、自殺などというバカなことをした奴にはお似合いだろうと、また自嘲して立ち上がる。
部屋のドアが重い。開けたくない。このままここで、事が終わるまでじっとしていようか。そんな気持ちが鎌首をもたげた時、部屋が勢いよくノックされた。避難誘導をしているスタッフか、と一度深呼吸をして、開けたくない扉を開いた。いたのは、必死の表情をした会場スタッフという常識的なものではなく、黒尽くめのスーツを、ガタイのいい男たちだった。
「テンザン・ナカジマ選手ですね」
「ああ、そうだけど……」
「我々はある事情により、貴方を保護しに来ました。我々についてきて頂ければ"本物のロボット"に乗れますよ」
代表者と思わしき男が語る言葉は、たしかに"テンザン・ナカジマ"を揺さぶるものだったのだろう。怪しい風貌に、避難警告中というシチュエーション、加えて『本物のロボットに乗れる』などという謳い文句。ゲームが大好きな"テンザン"なら、二つ返事で着いていっただろう。
だがそれは、彼にとっては、絞首台の案内人が来たようなものだった。抗いようのない絶望感の中、テンザンの口は次にページを進めるために動いた。
「ちなみに、拒否した場合は?」
「残念ですが、この状況です。我々がここに来たことは極秘ですので、事故死していただくしかありません」
ああ、本当にどうしようもない。ならばこそ、"テンザン・ナカジマ"ならばそうするだろう、不遜な笑みを浮かべて、挫けて泣き出しそうな心を隠すしかなかった。
「ホ! そいつは上等だ! いいぜ、着いてってやる! そんで俺に見せてくれよ、本物のロボットって奴を!!」
強がって、他者を見下すような態度で、足を踏み出す。リノリウムの床を踏んだ音が、地震のような揺れの中でやけに響いた。独房から出た死刑囚の一歩目は、このように響くのだろうか。そんな取り止めのないことを考えながら、テンザンは案内人たちに守られて歩き始めた。
死刑台への行進曲を。