スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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最初の後継機のイメージを固めるためブラボをやる→ブラボ熱が再び高まる→体が血を求める→フロムがブラボ2を作る

AC6とブラボ2はよ


全ては世界のために

【新西暦187年 1月F日】

何のために、何でこんな選択をするんだ。あれではあの場所にいたのとそう変わらないではないか。それとも、私のせいなのか、そんな気を起こさせてしまった私のせいなのか。私は疫病神なのか、ああ、生きていてはいけないのだ。

取り乱したことを書いてしまった。気持ちを鎮めよう。そうでないと、怒りとしか言いようのないもので意識を失いそうだ。だから、まずはひとつずつ書こう。

ビアンからの宿題となっていた潜水艦の制御システムが決まった。ユルゲンとあ号たちが共同で開発した、T-LINKシステムとODEシステムを融合させた新制御システム。彼らの中での通称は、リンクスシステム。潜水艦のような大規模システムを制御することに、ODEシステムのような、脳機能をフルに使って制御するシステムは有効だった。しかしそれではビアンに指摘されたように、生体/常人では耐えきれず死んでしまい、しかも多くの犠牲者を必要とする。ならば、一つの巨大なシステムを、常にリンクする複数の脳で分散処理すればいい。その分散ネットワークの形成には、サイコ・ネットワークを形成することが可能な念動力者、つまりあ号たちとシェースチ、そしてスェーミを利用するのだ。しかも、念動力と試作品のマシンセルは相性がいいから、制御も行え易いという。

 もたらされる成果だけに目をやれば、たしかに良いものだ。だけども、システムの本質はODEシステムやゲイムシステムと変わらない。あ号たちとシェースチたちを生体CPU/マルチコアプロセッサとして利用しているだけなのだ。そんなこと、許せるはずがない。シェースチを今の姿に変え、スェーミの心を壊した連中とやっていることは同じだ。

 気づけば私は、ヴィルヘルム・V・ユルゲンの胸ぐらを掴んでしまった。何も成長していないではないかと。何のために彼女たちをあそこから連れ出したのだと。そんなアホでバカで能天気な、ありきたりなことを言ってしまったはずだ。

 だが、シェースチが私の思考に割り込み、これは自分たちから提案し、望んでやろうとしていることだ、と言ったのだ。それをあ号たちだけでなく、スェーミまで肯定したのだ。なんでだ、何で自分たちから命を粗末にするようなことをするのだ。また酷い目にあってもいいのか。バカなのか、死にたいのか、私にはまったく理解できない! 

 

 おまけに、くそ、また出撃だ。しかも私が何とか調整していたことが、こんなタイミングできたのだ。

 いや。考えてみれば、ここでリョウトが向こう側に行ってくれれば、伊号400の完成は遅れることになるだろう。そうなればハガネの侵攻に伴い、皆も焦るはずだ。皮算用だが、そのことで安全性と確実性を優先し、まったく新しいシステムであるリンクスシステムの搭載を辞めてくれるかもしれない。いや、そうでないと困る。

 ともかく、リョウト機への仕掛けを準備しなければ。

 

 

【新西暦187年 1月G日】

 

 今日は一日中、私がドッグ内の雰囲気を悪くしてしまった。子どもたちとスェーミを怖がらせてしまい、整備班長にも気を使われてしまった。気に入らないことのせいで一日中ヘソを曲げるなんて、本当にただのクソガキだ。前世も含めれば50歳は超えているはずなのに、まるで成長していない。そんなだから、私は踏み台に相応しいのだろう、とも思う。

 確かに私はあのシステムには反対だ。人はたしかにどんな相手や生き物だろうと"もの"扱いできる。それは自然としては当然の、利己的行為の一環だ。自然界の動物が同族以外の他の生命を”命”と認識しないのと同義だ。物ではない命はないのだ。それでも私は、そんなことを喜んでする人間、進んでする人間は苦手だし嫌いだ。命は大事なものなのだ。死は見るのも体験するのも嫌なのだ。呼吸を出来なくてひたすら苦しみ、自分というものが脳の奥から真っ白になって消える感覚は、もう味わいたくない。それを連想するものも嫌だ。もしそんな機会がまたあったら、正気ではいられない。かつてのウェーク島での殺人が、それに近いかもしれない。

 ああ、また吐き気が。とにかく、頭が回る内に今日のことを書かねば。

 私はリョウト機への仕掛けを行おうと機会を伺いながら、自機をファインマン兄弟と共に調整していた。私のリオンは上半分は前と殆ど同じだが、前回の戦いで下半部がお釈迦になったため、取り寄せることができたガーリオンの中途半端なパーツに、バレリオン・キャノンから取り外していた脚部部分を組み合わせた、装甲は厚いがその分ゴツメの脚となった。可動範囲はガーリオンほどではないが、それでもリオンよりマシだ。そしてガーリオン系のパーツを使ったことで追加された尾てい骨部分のハードポイントには、アルウィック博士肝いり(不安材料でしかない)の追加ブースター兼ミサイルポッドが装備された。結構な重量のためミサイルの格納数を減らすことで調整したが、それでも大分バランスは悪くなってしまった。ただでさえ改造を重ねたことでバランスが良くないのに、今回の改造でついにテスラ・ドライブの補助なしでは歩行もままならなくなってしまった。どこの古鉄巨人か空手鳳凰かと悪態の一つでもつきたくなる。あと、頭部は取り寄せたパーツが組み上がっていないので、ノーマルリオンに差し替えだ。

 一方でリョウトのリオンは見た目はノーマルのままのシンプルなシルエットだが、内部にはデッドコピーのT-LINKシステムを導入し、微弱ながら念動フィールドも使用できるようになったらしい。それにリョウトの格闘スタイルに合わせて、バレリオンのビームキャノンを改造した簡易ビームサーベル機構を両手に装備している。この機構はリョウト本人が設計・開発したとのことで、リョウトの才能の片鱗を見せつけられたようだった。

 私は、試運転だと言って強引にリョウトのリオンに乗り込み、そこで簡易シミュレータを行いながら、OSに私のDコンからの通信でパワーダウンを起こすように設定し、同時に爆弾を仕掛けた。爆弾のタイマーはコクピットはリョウトの反応がコクピットから消えてから10時間後にセットし、爆発もあまり大きくない、うまくいけばリオンだけが自壊できるぐらいのだ。私にハガネ全体を巻き込むような爆弾を設置し、リョウトも謀殺するような根性も勇気も意思もない。確実を期すなら整備班の誰かに嘘の事情を話して機体の関節部や動力部に設置してもらうのがいいが、こんなことに他の人間を巻き込みたくもない。だから1人でやる。

 もしも、万が一、リョウトが落ちずに帰ってきたら、高確率でばれるだろう。それこそこの部隊に居場所がなくなるくらい。

 それも悪くないか。

 

 

【新西暦187年 1月H日】

 

 予定通り、ハガネ拿捕のため出撃した。今回のメインはトーマスの部隊で、私とリョウトはフォローという名の鉄砲玉扱いだった。そして作戦の結果を言えば、私の思惑/原作通り、リョウト機はパイロットごと鹵獲された。

 戦闘中には分からなかったことを書くと、トーマスの部隊でも原作の作戦が行われたようだった。だが肝心の機体はハガネ隊の流れ弾に当たって作戦を開始する前に爆散してしまった。何機か準備していたようだが、その全てで失敗したらしい。トーマスが戦闘後に愚痴るように教えてくれたのだ。

 最初、私はリョウトと共にハガネ隊に切り込みラージャたちの実力を図ろうとしたが、すぐに分断されてしまった。そしてリョウトがタイプTTとビルトラプター、恐らくはリオとラトゥーニに付かれる一方、私/"ロン"に対し、グルンガスト・ビルトシュバイン・緑のゲシュペンスト・R-1・R-2が襲い掛かってきた。正直、落とされないだけで手一杯だった。勿論反撃としてグルンガストの剣を弾き飛ばしたりビルトシュバインの両腕切断などができたが、性能・実力が揃った5機相手には厳しく、リョウトへ意識を向ける余裕はなかった。故に私は、細工を動かすことができなかった。

 リョウトは後で見た戦闘ログでは善戦しており、あと少しで1機を落とせるところまで追い詰めていた。しかし突然、リョウト機の出力が落ち、墜落した。通信機越しのジジ博士の言では、T-LINKシステムがデッドコピー/粗悪品であるが故に、戦闘時のリョウトの念動出力に耐えきれず、オーバーロードしてしまったらしい。

 私は、やってはいけないことなのに、リョウトを助けようとした。しかしトーマスから、部隊の過半数がやられたことにより撤退命令が出たことと、私自身、反射的に助けようと躍起になり、しかしその事実に気づき、迷ってしまい、そのせいで隙を晒して自機に直撃を受けてしまった。そしていつ爆発しても可笑しくないダメージを負い、撤退を余儀なくされた。そして情けないことに、助けられなかったことに、私は悔しくて泣いてしまった。

 認めよう。私はリョウトを、部隊の仲間だと思ってしまっているのだ。DCに来てからまともに話す時間がもっとも長い相手であり、整備や装備のことで頼りにもなる。普段は気が弱く、しかしトニーやマリー、スェーミの相手もしてくれる優しさを持っていて、シェースチの姿も戸惑いながら受け入れてくれた。ファインマン兄弟はリョウトの才能に嫉妬しながら先達として成長を喜んでいた。私も、ウェーク島では助けてもらい、先日はあんな決意を聞いてしまった。嬉しかった、だから助けたかった、運命とかそういうものが頭からすっぽ抜けた。そんな大事な仲間を置いてきぼりに、そしてその理由は、自分の命が惜しいと

 

 何で吐くんだ/ごちゃごちゃ混ざって気持ち悪いんだ/自分からそうやろうと決めたんだろう、私よ/テンザンよ。

 

 今日のことでわかった。運命、いや原作は変わらないし、変えられない。私の意思に関わらず、リョウトは機体のトラブルで墜落し、ハガネ隊の下にいった。ならば、ストラングウィックとアルウィック、ユルゲン博士とジジ女史も、いずれ彼らに討たれる。トニーは身体の大半の機能が失われ、エメさんとマリーも死ぬ。整備員の人たちやあ号たち、そしてあの姉妹はどうなるかわからない。それでもこのまま放っておけば、碌なことにはならないだろう。だが仕方ないじゃないか、これが運命なのだ、こうしないと世界は救われないのだ。

 そして、私も。最初の死の機会が、徐々に近づいてきている。

 その前に、明日。

 私は仲間を見捨てなければ。

 いや、もしかしたら。リョウトのあの目は、私を信頼している目だ。ならば、ああ。最悪の最悪の場合は、そうしないといけない。

 私は、リョウトを撃たなけばならないのか。

 

 

 

 

 ロバート・H・オオミヤは頭を悩ませていた。原因は、自分が今チェックを行っている、先日DCから鹵獲した機動兵器・リオンだ。パイロットであるリョウト・ヒカワは今頃取り調べを受けているだろうが。このリオンに搭載されていたものは想像以上のものだった。

 鹵獲した際の目論見通り、この機体には小型化されたテスラ・ドライブが搭載されていた。しかしそれ以外に、T-LINKシステムが積まれていたのだ。ご丁寧にT-LINKシステムに関わる部位に爆弾まで積んで、いつでも証拠隠滅を図れるようにしていた徹底ぶり。勿論それは先程解除し、甲板上で処理してきた。だからこそ今こうして問題のシステムをじっくり見ているのだが、頭を抱えるしかない。

 そのT-LINKシステムは、かつてアヤ・コバヤシ機に搭載されていたものとそっくりなのだ。このことには心当たりはある、恐らくは関門海峡での戦闘時で持ち逃げされたアヤ機の頭部パーツをリバースエンジニアリングされて、コピーされたのだろう。腹が立つが、戦争なので理解はできる。相手の兵器を理解するため分解し構造を理解し再現するのは常套手段だ。ロバートとて場合によってはそういう手段を取るだろうし、そもそもEOTとは異星人技術の理解/盗用だ。そこをせっついていけば藪蛇にしかならない。このT-LINKシステムは作成環境が悪いのか、部品には粗悪なパーツや、見当違いのものも組み込まれている。この辺りはデッドコピーとしかいいようがない。

 だが、一番の問題はそこではない。

 

「T-LINKシステムとのリンク係数が70%で安定……? どんな調整をすればこんなことができるんだ?」

 

 特脳研で念動力の開発をしていたアヤでさえ50%、αパルス波がこの部隊でもっとも高いリュウセイでも30から50%で不安定だ。他の適格者でも、普段のリュウセイと調子のいいときでどっこうどっこい。それだけ異常なことだ。ビアン・ゾルダークはEOTI機関の長であり、DCには元特脳研のメンバーもいると聞いている。それでさえ、ここまで精度の高い調整ができるものはいなかったはずだ。

 このことから導き出される推測は2つ。DCには自分たちの知らない念動力者の研究者がいるか、念動力を安定させることができる何かを持っていることだ。少なくともこのT-LINKシステムの完成度は低いが、念動力者への理解という意味では、リョウトの所属していた部隊には1歩以上先を行かれているのは明らかだった。日本にいるだろうケンゾウ・コバヤシがこのことを知ればどんな反応を示すか考えたが、想像もつかない。イングラム・プリスケンでさえ普段の仏頂面を歪ませたのだ、恐ろしい絵面になることだけは間違いないだろう。

 

「そうなると鍵を握るのは……あのリョウトかテンザンってパイロットか」

 

 どかっと背もたれに身体を預け、通信装置のボタンを押した。ハガネ内のデータ解析室にあるモニターの一つに光が灯り、ある場所の光景が映し出された。そこはハガネ内の個室であり、今はリョウト・ヒカワの尋問室兼監禁部屋として取り決められている。今そこでは椅子に座るリョウトに向かい合う形で、SRXチーム隊長/イングラムとハガネ副艦長/テツヤがいた。こうしてロバートがこの尋問室に設置されたカメラを見れるのは、一定以上の階級・役割を持っていることに加え、ロバート本人が設置を行ったからだ。

 

『DCの人間に何を吹き込まれたか知らんが……お前は捨て駒として利用された』

『ど、どういうことですか?』

『お前の機体には、爆弾が仕掛けられていた』

『っ、やっぱり……』

『やっぱり? 爆弾が仕掛けられていたと察していて、リオンに乗っていたのか?』

 

 淡々と状況を説明していたイングラムの目線と、テツヤの顔が変わった。ロバートもそうだ。何せあの気弱そうな青年は、自分の機体に爆弾が仕掛けられていたのを知って、それでも戦っていたというのだから。

 

『たぶん、もう僕のリオンは解析されてるから知ってると思いますけど……あれには、貴方達から盗んだという、T-LINKシステムが積んであります。そのデータを漏らさないために、爆弾も仕掛けられていたんでしょう』

『……本当か、イングラム少佐?』

『ああ、先程オオミヤ博士から確認を取れている。そこから得た情報も含め、知りたいことはある』

『……僕は現在、捕虜として取り扱われているという認識でいいんですよね? な、なら……相応の扱いを要求します』

『ならば、DCでの行動を帳消しにし、ハガネで保護すると言えば、我々の望む情報を吐くと?』

『っ……も、黙秘します』

 

 辿々しく宣言し、リョウトの目と口が、固く閉ざされた。ロバートはそこに驚き、画面の向こうでテツヤも目を見開いていた。自分たちの認識では、リョウト・ヒカワという青年はDCに拉致され無理やり戦わされていたという、言わば被害者側の人間という認識だったのだ。事実、尋問の最初の方では、DCに強引に拐われアイドネウス島に行ったと認めている。自分自身がアドバンスド・チルドレンと呼ばれ、アードラー・コッホの被験体になったこともあると認識していた。それなのに、この態度。洗脳されたような形跡は取り押さえた際の触診・金属探知では見受けられなかった。ならば考えられるのは、彼が自発的にDCに忠誠を誓っているか。

 

『……ビアン・ゾルダーク……いや、テンザン・ナカジマか』

 

 もしくは今、イングラムが告げた男に対してか。リョウトの肩が震えた、当たりだ。

 

『奴は何者だ? ただの一般人……お前やリュウセイと同じ、アドバンスド・チルドレンというだけではあの実力は説明できない。そして奴はR-1、R-2のみならず、サイバスターの情報も知るような言葉を口にしていた。少なくとも奴は、DCでも上位の地位にいるはずだ』

『そ、それは、違う。僕達の隊はそれこそ、ゴミ箱部隊なんて言われて、地位なんて一番低いはずだし……っ』

『ゴミ箱部隊? 名前からして、良いイメージを沸かないが』

 

 テツヤの疑問に対して、リョウトの回答は黙秘。迂闊なことを喋った、と顔に出ていた。

 その後は、リョウトは完全に口を閉ざした。イングラムとテツヤの言葉にひたすら黙秘を貫き、埒が明かないということで、ひとまずは時間を空けることが決まった。その間、部屋には厳重なロックが掛けられることになった。もし彼がただの被害者ならば部屋の温情の余地はあったが、本人が望んで捕虜となった以上、当然の処置であった。

 結局、知りたい情報は分からなかった。はぁ、とひとつため息を吐いてスイッチを切ると、気分転換の為に部屋を出る。飲み物でも買うかな、と思いブリーフィングルームに向かおうとすると、不意に小さな影が廊下から飛び出してきた。

 

「ラトゥーニ、またその格好かい?」

「っ、オオミヤ博士?!」

「おいおい、そんな驚かなくてもいいじゃないか」

 

 ラトゥーニ・スボゥータは、先日ガーネットに着せられていたゴスロリファツションを再び身にまとい、顔を真赤にしていた。この様子だと、また無理やり着せられたのだろうなぁ、と思いつつ、彼女の愛らしい姿を脳内の一眼カメラで撮った。

 

「またガーネットだろ? 可愛いからいいじゃないか」

「け、けど……その、恥ずかしい、から」

「はは、いいよその方が。リュウセイに見せてあげたら喜んでくれるんじゃいかな」

 

 彼女の顔が、ぽっと朱に染まった。分かりやすいな、と思いつつ、伊豆基地での彼女の様子からすっかり変わったことに、彼女を見てきた一人の人間として、嬉しさを感じる。ここまで感情を露わにするようになったのは、あのウェーク島での戦いからだ。テンザンに捕まり、出自を次々と暴かれるラトゥーニを、リュウセイがマサキ・アンドー/サイバスターと共に助け出したことを切っ掛けに、彼女との距離が縮んだ。恐らくは、リュウセイが彼女を人間として認め、助けてくれたこと、そして純粋な一人の少女として、まだ未熟な恋慕/強い感情を抱いたからだろう。いい傾向だ、と思いつつ、ここでつい、思ってしまったことを口にしてしまった。

 

「そうか、あの時もテンザンが関わっていたのか……あっ」

 

 時既に遅し。ぎぎぎ、と顔をラトゥーニに向けると、その言葉が何故出たのかという疑問の表情が浮かんでいた。だが、すぐにロバートの言いたかったことを察したのだろう、その顔からはすっかり少女らしい愛らしさは抜け、苦虫を噛んだような表情に変わってしまった。

 

「あの鹵獲したDCのパイロットですか……やはり、あの時の彼の関係者だったんですね」

「あー、まぁね……たぶんすぐに情報は共有されると思うけど、彼はあのテンザン・ナカジマの部下みたいだ。一パイロットして、彼……リョウトは、どうだった?」

「……強かったです。彼の機体にバリアのようなものが付いていたというのもありますけど、それ以上に、戦い慣れてる感じがしました。リュウセイみたいに、バーニングPTで慣れてるというだけでは説明できません。それに……」

「それに?」

「リョウト、というパイロットは、恐らく一部の操作をマニュアルで行っています」

「ま、マニュアルぅ!? 今時教導隊だって、よっぽどじゃないと行わないぞ?!」

 

 PTの操作系であろうTC-OS、AMの操作系であるLIEON-OS.どちらにも備わっているモーションシステムは人型機動兵器という複雑機構を動かすために必須のシステムだ。その補助を完全に切った状態では、満足に歩行させることすら難しくなる。それをやる機会があるとすれば、演習場や研究所でのサンプリングといったような、命のやりとりをする戦闘状態とは無縁の場所だ。好き好んで行うものではない、命を棒に振るようなやり方だ。

 しかしラトゥーニは研究職であるロバートの言を否定するように首を横に降った。

 

「確かに難しいですし、戦闘中にモーションデータを更新するというやり方の方が効率がいいです。ですけど、機体の感覚がダイレクトにわかりますから、かみ合わせの悪い装備や部品を装備している時、細かな操作を連続で行う時には有効です。カイ少佐も何度か戦闘中でのマニュアル操作はやったことがあると聞いたことがあります」

「さ、さすが教導隊……けどそうなると、それができるリョウトってパイロットは」

「はい、かなり腕のいいパイロットに指導されていると思われます。それがあのテンザン・ナカジマなのか、それともDCに所属している他の教導隊メンバーなのかはわかりません」

「確かに……ただもしそれがテンザンだとすると、教導隊クラスのパイロットがもう一人向こうにいるってことになるからなぁ」

 

 頭の痛い問題だ、と肩をすくめると、ラトゥーニもくすりと微笑してくれた。その衣装と相まって本当に愛らしく、ガーネットはいいセンスをしているな、と心の中で呟いた。

 その時、船が揺れた。

 

 

 

「この揺れ……一方からの傾き……砲撃威力……陸上戦艦ライノセラスか……?!」

 

 自身が牢屋代わりに入れられた部屋の中で、リョウトは突然揺れだした船内で倒れないように壁に手をつき、ハガネ内に響き出したアラーム音から状況を読み取っていた。近隣の島からの砲撃でハガネの感知圏外から攻撃可能なもの、その条件で自分の知識から引っ張り出されたのは、最近欧州戦線に投入された新型陸上戦艦ぐらいだ。アイドネウス島にも投入されているとは聞いたことがなかったが、DCの本部である以上あっても可笑しくはない。ハガネは赤道をそろそろ越えるのだ、本腰となった為に導入されたのだろう。

 この混乱に乗れば、脱出できるかもしれない。そんな希望がリョウトの中に浮かぶと、再度衝撃でハガネが揺れ、室内が真っ暗闇になった。停電かと思いきや、再度点灯。砲撃で電装系の一部がやられたのかと納得しつつ、電子ドアの前までたどり着いた。電子ロックはさすがの最新式、常ならば脱出は不可能だろう。しかし先程の停電の影響か、今はランプが激しく明滅している。

 

「これなら、いけるかもしれない……」

 

 部屋の中にある使えそうなものは既に確保してある。監視カメラの死角を縫っての作業だったが、やった甲斐はあった。装置は確かに複雑だが、ファインマン博士たちの作る兵装やシステムを弄るよりは全然容易いのもあって、そう時間をかけず解除できた。うまくいった際、たまらずよしっ、と小さく呟いてしまうが、次のことを考え気を引き締め直す。恐る恐るドアを手で開け、廊下を覗き見ると、慌ただしく人が駆け抜けていった。慌てて顔を引っ込めたが、リョウトの部屋のドアは気づかれることはなかった。よし、と改めて気合を入れ、部屋から出る。アラーム音が鳴り響く艦内を慎重に進み、壁に表示されている館内マップを見つけだす。幸い、ハンガーはそこまで遠くない。人の流れも多くはそこに向かっているはずだ。その流れに沿うように移動し、ハンガーへとたどり着くことに成功した。

 ハンガー内には先日の戦闘から何度も見ているPTや特機が並び立ち、この砲撃、そして次に来るだろうPT部隊の攻勢を迎撃すべく、機体を立ち上がらせて次々と出撃していっている。このような状況・立場でなければ見ていたい気もするが、自身の事態はそのような思考をする余裕は許されない。気を取り直し、すぐに自分のリオンを見つけ出し、気づかれないよう素早く乗り込む。ここまでくれば大丈夫だ、コクピットを閉め、システムを立ち上げる。機体は調べられているだろうが幸い、表示される各部装置の情報では取り外されたものはない。T-linkシステムも再起動したおかげで、元の調子に戻っている。

 戻ったら調整しないと、とこの件が終わったことを考えつつ、リフトオン。ハガネのクルーが突然動き出した鹵獲機に驚愕の表情を作っているのがモニターから見え、そういえばウェーク島でも似たような感じだったな、とほんの数週間前のことを思い出し、テスラ・ドライブを起動し、一足飛びに開け放たれたカタパルトハッチから飛び出す。

 薄暗闇から一転、青空の眩しさがコックピット内を明るくする。そのことに目を細めつつ、通信機から届く声を無視。操縦桿を握る手に力を込め、レーダーを確認し、乱戦となっている場所へと向かう。IFFはそのままなので、味方から撃たれるという心配もないだろう。

 目的の機体の反応は前回と同様、ハガネの機体5機に囲まれている。それを全て捌いているのだから、相変わらず人外染みた腕だ。円のように重なり合う六輝の中心を裂くように、レールガンを発射する。横合いからの突然の射撃にすぐさま散開する5機を牽制しつつ、目立ちやすい黄色に染めたテンザン機の前へと付いた。

 

「ごめん、遅れた! テンザンくん!」

『……リョウト、か』

『おいおい、ほんとに生きてたのかよ! こりゃ、賭けは俺の負けだな!』

 

 テンザンの驚く声と、元隊長のトーマスからの合いの手。トーマスの賭け云々に多少の不快さが浮かんだが、今は無事テンザンと合流できたことに喜び、しかし一方で戦闘中ということで、モニターの向こうの敵機を見据える。

 捕虜が脱走し、目の前に現れたことに驚いたのだろう。ハガネの5機は油断なくこちらを警戒し、見に徹している。リョウト自身、場数が少ないせいか、どのタイミングで均衡を破るか思案し、動けなくなっていた。緊張で汗が流れ出て、拭う余裕もない。

 

『リョウト』

 

 その時、背後のリオン"ロン"からの声。テンザンが動く、なら大丈夫だ。彼ならきっと、この状況を打破し、拮抗を破る方法を出してくれる。そんな思いと共に、機体の頭部だけを振り向かせ、テンザン機をその目に捉えようとした。

 

「えっ」

 

 そして視界一杯に映ったのは、レールガンの銃口。理解しきれず、変な声が漏れ出た。

 

『あばよ、消えな』

 

 疑問の種は、銃口から放たれた弾丸と、銃声と、衝撃で、まとめて一緒に吹き飛ばされた。コックピット内がアラートで真っ赤に染まり、ビープ音が聴覚を奪う。同時に、機体が重力に縛られ、落下を始めたのがわかる。それでも、リョウトは動けない。突然のことに、頭が追いつかず、身体もまったく動かないからだ。

 なぜ、どうして。

 その疑問は結局声に出来ず、機体と共に海へ飲み込まれた。

 




主人公sageを上手にできるようになりたい今日この頃、セリフ回しもうまくなりたいです。
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