スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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2017夏イベ完遂したので初投稿です。


冥界の門2

 恐怖。マサキ・アンドーの人生において、呼吸もできなくなり、死を意識するほどのものを味わうのは、今までに3度ほどしかなかった。師の本気の剣を受けた時、初めて機動兵器に乗って戦った時、そしてグランゾンの力でラングランが焼かれた時だ。単純な力の差だけではこうはならない、むしろ躍起立つのがマサキという人間だ。自分がこれほどの恐怖を味わう時は、大抵は自分の中から湧き出たものか、外から放たれるプレッシャー。今回のは、後者に当たる。

 姿を変えたDCの決戦兵器・ヴァルシオン。そこから放たれるプラーナとそれが変換されたエーテルの波長、それが増幅する搭乗者の圧が戦場を支配下に置いている。マサキ、いやハガネの面々が事前にリョウト・ヒカワからもたらされた情報にはなかったものだ。リョウトの情報はおよそ半年前というのもあるが、それでも"歪曲フィールド"など、初見では対応の難しい兵装群を知り、攻略方法を検討するには十分以上の情報だった。事実、”歪曲フィールド"は推測データと実際の出力との差を確認する"測定"の必要はあったが、それでも鹵獲した兵器を用いての攻略や広域殲滅兵器"メガグラビトンウェーブ"などへの対応など、詰みまでのミッションマニュアルは組むことができたのだ。

 それが最悪の現実を持って崩れた。事前にヴァルシオンの改良は予想されていたが、それでも出力面や武装追加、よくてヴァルシオンと引き分けたリオン”ロン”対策という認識だった。しかし実際には、ラ・ギアスの技術すら組み込まれた魔改造の領域。プラーナ関連の技術は間違いなくマサキが追っているあの男からもたらされたものだろう。そうにしても、地上の技術だけでここまで再現・組み込みができたことは恐るべきことだ。

 がちがち、とどこからか音が聞こえた。それは自分の口からか、それとも通信機/味方機の誰かか。しかし自分以外の皆が、ただ剣を振るっただけの相手に押されているのは嫌でもわかった。

 

「ま、マサキぃ……」

「こ、怖いニャ……」

 

 使い魔のシロとクロが弱気を吐く。自らの分身とも言える彼らの本音は、そのまま自分の本音だ。だが、それを超えてこそ魔装機神操者だ。

 

「怯えんなよ、シロ、クロ。これがビアンの本気だってんなら、これでもうアイツに出し惜しみはないってことだ」

『そうだ、紛れもないやつの鬼札だ。なら後は、俺達はそれより強い役をぶつければいいだけだ』

『へっ……そうだよな、だったら後はあいつを倒して、平和を取り戻すだけだ!』

 

 右腕のステークから一振りで排莢し、専用のカートリッジでリロードするアルトアイゼン/キョウスケが薄っすらと熱を込めながら言い放ち、それに追従するように並んだR-1/リュウセイが両手に拳を作って宣言した。そうだ、今はこれだけの仲間がいる。ならば負ける要素はない。

 

『覚悟は決まったか?』

 

 ビアンの言葉と、構えられた螺旋の剣に、皆が一斉に身構えた。不用意に撃ったりはしない。機先を制するならば最大の一撃、バレリオン・キャノンか、特機の一撃。レーダーを見れば既にビルトシュバインがチャージをほぼ終え、グルンガストも態勢を整えている。一斉射撃は牽制か、逆に先手を撃たれた時だ。高まる緊張感が脂汗となって額から流れ、魔装機共通の操縦桿でもあるスフィアにぽたりと落ちた。

 

『では、まずはその厄介な砲から潰させてもらおう』

 

 その瞬間、ビアンが動き、反射的にPT部隊の銃火が一斉放たれた。

 そしてそれらは全て虚空を通り過ぎ、ヴァルシオン・ゼクロスは振りかぶった剣で甲鈑上のビルトシュバインを薙ぎ払った。

 

『イングラム教官っ!?』

『速い……っ?!』

 

 初動である踏み込みしか視界に映らなかった。ワープの類かと考えてしまったが、しかし大地に残るヴァルシオンの足跡はそのSFな想像を否定した。かろうじて反応し即死は免れたが、切り札ともいうべき砲塔と下半身を粉砕されたイングラム機がそのまま海へと落下し、反応がロストする。

 

『やろうっ?!』

『遅いぞ、ジガンスクード』

 

 直掩に戻っていたタスク/ジガンスクードが、その速度に驚き反応が遅れながらも、ようやく右腕を振りかぶりながら振り向くが、その瞬間にはヴァルシオンの赤と白の巨体が腕を押さえ込んでいた。

 

『砕けよ』

 

 そして、その一回り大きく、戦艦よりも強固なジガンスクードの装甲がめきりと音を立てて拉げ、掴まれた右腕が無造作にもぎ取られた。

 

『ぐああああぁあ』

『タスクっ?! こんのぉ……』

『だめ、ジャーダっ!?』

 

 倒れるジガンスクード目掛け剣を振り下ろそうとするヴァルシオンZX目掛け、マシンガンとミサイルをばらまきながら2機のゲシュペンストが立ち向かう。しかしそれも、ヴァルシオンの頭上に黒い"渦"が無数に生じたかと思うと、その切っ先が現れた。

 剣・槍・矛・杖・矢。古今東西の武器の形を取った、ひとつひとつがPT程の大きさとなった黒い塊、その数100。敵意のままに射出され、蛮勇を発揮したゲシュペンストだけでなく、フォローに入ろうとした機体にも牙を剥いた。最初に2機は避けきれず直撃し、地上を移動する機体は何とか回避するが、しかし絶え間なく放たれ続ける刃の弾幕に耐えきれず、推進機や四肢、駆動系をやられ、次々と擱座してしていく。飛行可能な機体にも黒い武器は向かい、その威力から避けることに集中させられた。

 かくいうマサキも、幾条も連なる黒い武器/圧縮され重力場を変換したエーテルの外郭で包んだ凶悪な兵装群に手を焼いた。ファミリアをむやみに出せば落とされる、かい潜って接近するには弾幕が濃すぎる。強引に受けるには威力がありすぎる。先程直撃を受けていたジャーダ機とガーネット機はほとんど原型が残っていないことから、魔装機神の装甲と言えど直撃は危険なのは一目超然だ。パイロットの2人は一発目を受けたところで脱出装置が働き何とか無事なようだが、余波だけで死に絶えてしまう戦場に長くいるのは危険だ。どうにかあの弾幕を止める方法を考えなければならない。

 どう近づく。近づいたとして、どうやってあの歪曲フィールドを突破する。シロとクロが計算し続ける計器類のデータを回避運動を取りながら横に見つつ、しかし突破口の開けない状況に歯噛みする。

 

『衝撃連装砲、VLS、全弾放てっ』

『てぇっーーー!!

 

 不意の一撃とばかりに、ハガネからがむしゃらに撃たれた兵装が、しかし次の瞬間には全て新たに出現した武器群に飲み込まれた。かろうじて届いた機銃の弾も、表面装甲を掠めて焦がすだけで有効打になっていない。そしてハガネの抵抗も、ピンポイントに放たれた黒の武器/弾幕によって、ミサイルハッチ・主砲・機銃を全て撃ち抜かれ、強制的に止められてしまった。ハガネの至る所に剣や矢が突き立ち、さながら戦場の躯のような体となってしまった。

 

『その諦めの悪さはさすがだが、しばらくは大人しくしてもらおう』

『くっ……!』

 

 テツヤの歯噛みするような呻きと、その背後で響き続ける怒号と悲鳴が届く。黒い処刑具が消えると共に火の手がどうと上がり始めたハガネに奥歯を噛み締め、しかしふと、今見た状況に違和感と、ひとつの閃き、そしてシロの声が重なった。

 

「待てよ……っ?!」

「マサキ、これって……」

『各機、動ける機体は弾幕を張れッ! 奴は今"歪曲フィールドを展開できない"!!』

 

 何とか反撃の一射を行うギリアムの叫びと、マサキの違和感が合致した。さらにそれに合わせるように、横で弧の機動を取るビルトラプター/ラトゥーニから観測データが届き、その事実を教えてくれた。

 ヴァルシオン・ゼクロスは歪曲フィールドを展開していない。重力偏位の反応は未だ機体周囲に広がっているが、その性質はまったく違うものだ。反応が歪曲フィールドと似ていたために誤認したが、シロが算出した情報、フィールド内部に広がる異常なプラーナ反応によれば、歪曲フィールドとはむしろ真逆の性質だ。

 

『さすがに目がいい。しかし、それだけだ』

「チィッ!」

 

 答えは今正に放たれた再度展開された重力槍の雨だ。あの黒い渦は重力波のカートリッジ作成工程であり、目に見えぬフィールドは弾丸作成工場なのだ。縮退か、はたまた重力場の精製か、理屈は不明だが、渦の形成時にプラーナの反応を感知できることから、グランゾンの技術と同等のものが使われていることが推測できる。上下逆さに回避しながら、この状況を見てほくそ笑んでいるだろう怨敵の顔を想像し、悪態と怒りをぶつけたくなった。

 

「あいつ、余計なことばかりしやがってっ!」

「マサキ、また来るニャッ?!」

 

 クロの警告で何とか直撃コースの一撃を回避しつつ、隙を見つけて、カロリックミサイルを放つ。それもすぐさま、他の弾幕同様に矢に破壊され消えてしまう。他の機体の弾もそうだ。ギリアム少佐のニュートロンビームが撃たれればあの異常な反応速度で回避されつつ、反撃の掃射で周辺ごと吹き飛び、グルンガストが盾になってその背後からミサイルやビームキャノンを放つシュッツバルト2機が、次の瞬間には10の剣を投射されて、特機であるグルンガストが串刺しとなり、シュッツバルトが倒れるグルンガストの下敷きになってしまった。

 どうする、と横合いでヴァイスリッターの反撃を行いながらも左腕と右脚が破壊され、自身も直撃コースの一撃を何とかディスカッターを這わす方法で無理やり機体ごと弾いて避けつつ、再度突破方法を思考する。性質はわかった、無敵でないこともわかった。それでも尚、先程の目にも留まらぬ速さを加味すれば、大技を直撃させる隙がない。そもそも技や大物の武器を展開する暇も与えてくれるかわからない。せめて一瞬、弾幕が晴れれば。そう願い、そしてその隙きを手繰り寄せるべく、ひたすら回避し続ける。

 

『……みんな、5秒後にこいつの隙を作る。だから……頼む』

『っ、タスクっ?!』

 

 その願いに応えるように、ヴァルシオンの足元で崩れ落ちていたジガンスクードの目に再び光が灯った。損傷した機体に残った各部重力整波装置が展開すると共に、そのエネルギーを解放すべく輝く。

 

『サークルッ……』

『ぬるいっ』

 

 一蹴。ジガンスクードの巨体が物理法則を無視するように宙を舞う。発動していた兵装は突然の衝撃にキャンセルされ、通信機越しにタスクの嗚咽と吐瀉物を吐く音が聞こえる。蹴り上げた脚を戻したヴァルシオンZXが剣を正眼に構え、同時にジガンスクードを無数の槍が襲い、釘にでも縫い付けた等に突き刺さった。そこへ止めとばかりにかかる、ヴァルシオンが剣を振りかぶる。マズイ、とマサキが動こうとした瞬間、タスクがかすかに笑う声が聞こえた。

 目を見張る。ジガンスクードの胸部機構が展開し、充填完了のエネルギー光が灯っていた。その砲身の先は、今正に螺旋剣を振り下ろそうとするヴァルシオンを捉えている。

 

『ワイドッブラスターッ!』

『ヌゥッ?!』

 

 ジガンスクードの反撃にビアンがついに声を上げ、しかし剣でワイドブラスターの放射を防ぎ、そのまま袈裟に叩き切った。特機の胴体を寸断せしめるその威力はすさまじく、ジガンスクードが機体をバラバラにされながらアイドネウス島へと落下した。しかし同時に、重力波の雨あられの如き放射が止まった。

 好機。ありったけのプラーナを引き出して飛び出したマサキと、そしてもう3機が動いた。

 

『レイズだ、ビアン・ゾルダーク!』

 

 赤い影/アルトアイゼンが跳ぶ。先程のヴァルシオン・ゼクロスを越える加速で接近すると、両肩のウェポンハッチを展開。敷き詰められた特製ベアリング弾が一斉に火を噴き、ヴァルシオンの巨躯におびただしい傷を付けたたらを踏ませた。そして怯んだ瞬間にその右腕が胴へと叩き込まれようとし、しかしそこを掴まれた。

 

『ならば、こちらもコールだ!!』

『ぐっっ!!』

 

 特機並に頑丈なアルトアイゼンの四肢がトルクを込めただけで砕け、大地へと叩きつけられ、大地が割れた。しかしその背後から、雷光を左腕に帯びた緑のゲシュペンストが飛び出す。カイ少佐のゲシュペンストだ。ゲシュペンストMkⅡの最大威力兵装だけでは飽き足らず、超至近距離からのスプリットミサイル付きだ。

 

『ジェットマグナム!!』

『狙いは悪くない、しかしっ!!』

 

 しかしそれも、ヴァルシオン・ゼクロスの"足元"から撃ち出された重力衝撃の塊が貫き、かろうじて頭部と胴体だけが残ったとゲシュペンストが力なく墜ちた。だがミサイルの一発だけはその弾幕を掻い潜り、展開された羽の一部を吹き飛ばす。それと同時に、観測されたデータに変化/出力低下が起きた。

 

『T-LINKソードォォォ!!』

『ついでにこれも、おまけでドーゾッ!」』

 

 間髪入れず、真上からPT大の拳銃弾をバラ巻きながら、リュウセイ/R-1が飛びかかる。その背後からは唯一空中に踏みとどまっていたヴァイスリッターが、オクスタンランチャーの両の銃口が焼け付かんばかりに射撃を見舞う。2機の射撃を回避し、敢えて受け、時には剣で切り裂くヴァルシオンZXに、マサキはサイバスターのディスカッターを下段に構えつつ、その背後に回った。そしてR-1の翠に輝き剣の形を成した拳と螺旋剣がぶつかると同時に、大きく開いた左翼を切り飛ばす。

 

『小癪なッ……!』

 

 反応の遅れたビアンが呻きと共にサイバスターの上下を挟むように渦を展開したが、しかしそれは武器とはならず霧散した。やはり今しかない。風の精霊/サイフィスの力で空中へと踏み込み、返す刀で真芯を切り裂くべく、ディスカッターを振り下ろす。それでも尚、ヴァルシオンは反応し、R-1を強引にヴァイスリッター目掛け切り飛ばしながら、振り向きざまに肘打ちを仕掛けしてきた。質量と速度の暴力を防ぐ術がなく、サイバスターの胴をヴァルシオンZXの肘が直撃し、そのままハガネ船体までぶつかって、めきりと機体が大地へと倒れた。

 

「はっはっ……く、そ……まだ、だ」

 

 シロとクロは今の衝撃にやられ意識を失っている。サイバスターの自己診断プログラムも機体のフレームにまでダメージが及んでいることを告げている。かくいうマサキ自身も、今ので内臓に傷がついたか、はたまた骨にヒビでも入ったのか、呼吸をするのにも一苦労の状態だ。生きているモニターの先では、R-1とヴァイスリッターも今ので体勢を崩された瞬間、"縮地"と形容するしかない踏み込みで近づいたヴァルシオンに殴り飛ばされ、動けなくなっている。レーダーを確認すれば、動ける機体も僅かのみ。それでも剣を杖代わりにし、サイバスターを立ち上がらせる。ここで膝を折るわけにはいかない、何よりもマサキ・アンドーはまだ死んでいないのだ。

 

『ほう、まだ立ち上がるか』

「当たり前だ……力で、何でも解決できるって考える輩に負けてちゃ、魔装機神操者なんてやってられないんだよ……」

 

 悠然と近づいてくるヴァルシオンに、完全に2本の足で立ち上がったサイバスターで、切っ先を向け、水平に構え直し、プラーナを練る。次の手は、全速からの乱舞の太刀。狙うは動力部と思わしき胴中枢。一か八かの勝負だが、もうこれしかない。そう思いサイバスターを低く屈ませた瞬間だった。

 風が変わった。

 

『なるほど、シラカワ博士の言う通り気丈なようだな……では私も、ここまで追い詰められた返礼として、全力の一撃を見舞おう』

 

 禍々しさが増した、というべきか。発生源たるヴァルシオンの背に残った翼が放電を始めたと思うと、かろうじて残っていた膜が完全に消え去り、しかして両手で正面に構えられた螺旋の剣はその捻くれた刀身を伸ばし始めた。現実に追いつけず、呆然とした思考のままでいる中、刀身の伸長に合わせるように、50メートルを越える巨体が風船のように浮かび上がり、ついには島全体を見下ろせる高さまで上った。そこで静止する頃には、螺旋の剣は主の2倍以上の巨体となり、赤と青の刃は脈動するかのように点滅していた。その異様はもはや剣ではなく槍と呼ぶに相応しい。

 

『原初に人は神の如き星を崇め、名を付け、科学に貶し、ついには星を手にした……この力こそ、再び人が星を手にするために振るう剣だ!』

 

 捻れが更に曲がり、遂には螺旋回転を始めた。その回転数が高まると共に、重力と磁場が数メートル単位で乱れ、観測されたプラーナが異常値を示しだした。同時にサイバスターの周囲に広がるものを除き、根こそぎあの剣に集められていく。死が作り出されようとしている。そんな予感が浮かぶとともに、身体が震え、操者の心に反応するように、サイバスターの手から剣が落ちそうになった。それを辛うじて押しとどめ、出来ることを考える。

 動きを止めてくれるならば結構、その全力を出す前に倒す。もしくはその一撃も破る一発を叩き込めばいいのだ。

 

「アカシックレコードサーチ!!」

 

 心を奮い立たせ、サイバスターを飛翔、神の鳥へと姿を変える。同時に主の手を離れた剣が虚空に作り出した魔法陣に飛び込む。プラーナから変換した炎が機体を包み、火の鳥の形となって加速する。

 

「アカシック・バスタァァァァ!!」

 

 唱え、発動するのは、今自分が撃てる全身全霊の一撃。もう一つ上の威力の兵装は確かにあるが、それではチャージに時間がかかりまず間に合わない。それ故の、特攻じみた攻撃だ。プラーナは今この瞬間にも失われ、気を抜けば簡単に失神してしまうが、しかし威力は戦艦だろうと一撃で破壊できるほどのお墨付き、そしてこの兵装の本質は因果律にまで及ぶ恐るべきもの。故に、マサキはこれに賭けた。

 燃え上がる視界の向こうで、ヴァルシオンZXの刀身がその手を離れて空中で浮遊し、混ざり合い、輝き出す。大きく広げられた両腕は放出される光を制御するように放電を撒き散らし6つの目が煌々と輝いている。そして槍がひとりでにマサキ/サイバスターに、そしてその後ろにあるハガネ隊に、その刃を向けた。

 

『受けよ、ロンギヌス』

 

 そして、放たれた光の渦/圧倒的な原初の滅びの力に、「ああ死んだな」とあっけなく死を受け入れながら、それでも僅かな可能性に賭けて、残るプラーナ全てを燃やしつくそうとした矢先だった。

 1つの影が、2つの力の衝突前に躍り出た。

 

 

 

 リョウトは蹲っていた。ビアンの言葉が図星だったからだ。テンザンたちのためと言われて心はDCのあの部隊に、しかし今戦っているのはそのDCの総帥。いくら心で言い訳を作っても、矛盾の棘はリョウトに深く突き刺さり、僅かな批判であっても痛みで立てなくなってしまうほどだった。

 

「僕は……僕は、何をやっているんだ……っ」

 

 自責の声を暗いコクピットの中で零しても誰にも届かない。自分自身の願いにも届かない。くすぶったままでいると、アラームが鳴り、機体全体を衝撃が襲い、軽い浮遊感があったかと思うと、モニターからの光量が一気に増加し内部を照らした。うつ伏せになっていた機体がヴァルシオンからの攻撃の余波で仰向けになったらしい。どうやら通信から聞こえる声と、周辺の状況、そしてモニターに映る変容したヴァルシオンの猛攻から、連邦が劣勢だというのが理解できた。

 このまま戦いが終わるまで大人しくしていようか、そんな思考が頭に浮かんだ矢先、視界の端に何かが動いた。人だ。脱出装置が働いて、自機の爆散から逃れたパイロットだろう。やせ細った体型を包む男性用パイロットスーツのカラーリングから、DCの兵士だと分かる。ふらふらとした足取りから、脱出とそこからのリカバリーに体力を消耗してしまったのだと推測できた。助けようか。そんな思考が浮かぶ。顔はヘルメットに隠れて見ないが、何度も足を止め、咳をしているのが見て取れた。

 助けて、どうする。次のそんな疑問が浮かんだ。そもそもこの場合、"助ける"とは何を指すのだろうか。基地まで運ぶ、拘束という体で保護する、"敵兵など見なかった"と見逃す。どれも正しそうで、しかしどれもが中途半端なように思えた。テンザン君ならもっといい考えが浮かぶのかな、と薄く笑いそうになった瞬間、再びアラームが鳴り響いた。見れば、ヴァルシオンの無差別的な弾幕の一つがこちらに向かってきている。回避、と思った瞬間、思考と視界にあの弱々しいパイロットが映った。咄嗟に生きているバーニアを噴かし、そのパイロットを上から覆うため、機体を四つん這いにさせる。

 轟音が背後で響き、機体を震えさせる。どうやら避けられたようだ。

 

「なんだ……動けるじゃないか、僕」

 

 自分自身に言い聞かせ、次いで呆然とした様子で尻もちを着いているDCのパイロットに向かって、外部スピーカーをONにして話しかける。

 

「大丈夫ですか?! 早く逃げてください」

 

 たった2言、それでもパイロットが微かに頷いてくれたのが見えた。良かった、と思った瞬間、再び警告音。レーダーとモニターに目を走らせ、T-ドットアレイの形成率をチェック。同時、片側のバーニアを使い反転、直撃コースではないのを確認。それでも通過時の衝撃に備え、脚部後ろ側のスタビライザーを使い、地上のパイロットのための遮蔽物にする。ごうっ、と圧縮された重力場の槍が側面を抜け、地面へと突き刺さった。ふぅ、と一息つくと、パイロットの方に目をやる。咄嗟に助けてしまって、もしかしたら今の自分の立場的に拙いのかもしれない、という場違いな考えが浮かんだ。けれど、後悔のようなものはあまり浮かばなかった。人の命が無闇矢鱈に消えてしまうのは、悲しいことだと思ったからだ。

 だが、その考えも、パイロットの顔を見て消えてしまった。今の衝撃でバイザー部分が壊れたのか、小さな破片がその顔には刺さっていた。そしてそれを取るためか、もう被っている意味もないと判断したのか、パイロットは緩慢な動作でヘルメットを外した。

 

「テンザン……くん……?」

 

 記憶の中のものよりも傷つき、やせ細っている。目元の隈がどす黒い黒となり、視線は常に揺れていた。ああ、と、知っていたという知識、実際に見たその惨状、そして今何故かこの場に敗残兵の如く歩いている疑問と現実に、一息漏れた。次に、この場から彼を逃がす方法の思考すると同時に、レーダーと映像から、サイバスターが吹き飛ばされるのが見えた。ヴァルシオンZX/ビアンはサイバスター/マサキと2,3言葉を交わすと、不意に機体を浮かび上がらせた。同時にあの剣が新たな変異を起こし始める。その変異パターンに似たものを、リョウトは見たことがあった。何故ビアンがその方程式を知り、運用しているかは知らないが、アレがリョウトの知っている通りの反応を起こし、そしてそれよりも大規模かつ強力なものなら、この周辺一帯はエネルギー飽和による原子崩壊すら起こすだろう。だからこそ、対抗手段もすぐに思い浮かぶことができた。

 思考の中に天秤の秤が浮かぶ。一方にはDCの、そしてビアン・ゾルダークの命とDCの勝利。もう一方には自分とハガネ隊の皆の命。その2つはまだ上下に揺れていたが、拮抗していた。しかし、もう1つの秤に更に一人分の命が乗った。眼下にいるテンザン・ナカジマの命。自分が何のために戦って、この場にいるか。その理由と命が、秤を動かした。

 

「逃げて、いや、隠れてて!!」

 

 テンザンから視線を外しながら叫び、レーダーサーチ。リョウトの想像では、アレはこの場にあるはずだ。ラストバタリオンがこの戦場にいないはずがない。それに少数とはいえ利用者はいたのだ。だからこそ、リョウトの考え通り、レーダーは目的のものを見つけた。機体の姿勢を直し、発進。補助アーム以外の武装をパージし、機体を軽くし、飛びながら地面に突き刺さっていた槍/インパクトランスを引き抜く。バーニア・スラスター、上空へ向けて全開。補助アームもインパクトランスを保持、前へと突き出し、姿勢を安定させる。

 リョウトの知るパターン、それはインパクトランスのオーバーチャージ時に見られた、T・ドットアレイの暴走。それによる空間侵食と消滅反応。後者の状況は改良された物だけでしか見られないが、初期型と共通して起こるのは空間そのものを破壊しかねない力だ。その一撃は不完全状態でも特機の最大火力と渡り合い、改良型は海も割れる。ならば今、ヴァルシオンが展開しようとしているものは、それ以上と考えたほうがいい。だがそれでも、同様の反応を起こすインパクトランスならば、逸らすか、もしくは一時的な盾になるはずだ。

 

「インパクトランス、オーバーチャージ!!」

 

 賭けるには十分な理由と勝算、そしてベットした品/命だ。リオンのエネルギーを推進系と固定した腕部、そしてインパクトランスへの供給以外を停止した。共通の規格故、インパクトランスは素直にリョウトの言うことを聞き、その刀身を展開/外郭を開く。テスラ・ドライブの翠の輝きがモニターを焼き、リョウトの心に影を落とそうとした。

 迷いは未だ、天秤とした座している。それでも今は、重くなった秤に乗る命を守る。あの日、そう誓ったのだから。

 

「ロンゴッミニアドォォ!!」

 

 その迷いごと槍の一撃に込めて、リョウト/リオンは赤と青の螺旋へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 突然割り込み、押し負けつつも拮抗しようとするリオンと翠の槍に、ビアンは思わず目を細めた。このタイミングでリョウトが来るなど考えもしなかったからだ。

 

「信念なきものに、我が槍は崩せないぞ!」

 

 その言葉の通り、ヴァルシオン・ゼクロスの生み出す槍/ロンギヌスは、インパクトランスに対抗、いや圧倒するために開発したものだ。開発者の兄弟自体が"何故そうなるのか理解できない"と言わしめる現象を、ビアンは中途半端ながらも物にし、出力と完成度を上げた槍は、オリジナルであるインパクトランスの上位互換ともいえる。クロスマッシャー砲身内に仕込んだ制御装置によって安定感を増し、更に二種のエネルギー形成を並列させて空間ごと切り裂き剣を作り、撃ち出す際に掛け合わせることで倍加させ、戦略級の破壊力を持たせることにも成功している。

 事実、サイバスターの前に現れたインパクトランスの翠の光を、赤と青のヴェールが食い破っていく。むしろ、この数秒を持たせ、空を極彩色に照らし、弾いた力の渦を四方の海まで拡散させ、威力を削いでいることが驚きだ。その理由は、インパクトランスを持つリオンが、刻一刻と衝突のエネルギーで装甲を溶解させながら、しかしその身から可視化された念動の力を発し、ランスの光に絡ませ懸命に対抗しているからだ。この土壇場で目覚めたか、と哄笑を上げたくなる。

 

『僕にはまだっ……信念とか、覚悟とか、そんな上等なものはありません……けどっ!』

 

 翠と緑が混ざり合い、ロンギヌスの2色に対抗すべく、螺旋を作り始める。同時に過負荷に負け、リオンの頭部が脚が爆発した。それでも残った震える腕でリオン/リョウトは、ビアンを見据え、その力を発露する。

 

『貴方が彼を……傷ついた人を巻き込み、見捨てながら戦争を起こしているのなら……僕は今、ここで貴方を倒します!!』

「ふっ、生ぬるいことを吠えるっ!!」

 

 臨界まで高まっている出力を、"代償"を払いながら強引に高める。聖槍と聖槍の激突は、この瞬間、一気に拮抗を崩し、ただでさえ不利であったリオンのそれを一気に侵食した。インパクトランスに崩壊直前の証であるヒビが走り、リョウトが息を呑んだのが通信越しに聞こえた。勝利を確信した瞬間、声が割り込んだ。

 

『そうだ、リョウト!』

 

 槍の緑に、炎の紅が混ざり合う。鳥の姿となったサイバスターが、ロンゴミニアドに並び、共に神殺しの槍に対抗しているのだ。それが途方もなく無茶なことなのは、サイバスターの銀の装甲に広がりだすひび割れから容易に察することができる。

 

『世界を守ると大口叩いた人間が、守るべき者を切り捨てるようなことを口にしちゃならねぇんだよッ!!』

 

 それでも、いやだからこそ、マサキ・アンドーは青臭いことを喚き上げる。

 

「力持つ者には責任がある! 理想だけでは世界は救えぬ!」

 

 故にビアンは、1人の独裁者・征服者、そして理想と現実を知った人間として、2人の前に立ち向かい、真っ向から吠える。

 

『それが、それが僕らに優しくしてくれた人の言うことですか!?』

「組織の長とは、人の感情を切り捨てられるものだっ」

『っ! それを捨てても、世界を救えないだろうがぁぁぁ!!!』

 

 サイバスターの出力がここにきて上がった。プラーナの差か、とどう思った矢先、ビアンの体に異変が生まれた。強烈な脱力感と共に、腹の奥が熱くなり、口元まで一気に上り、赤い血となって溢れた。同時にプラーナ操作で形成していたロンギヌスが不安定となり、ぐにゃりと力場が曲がった。同時に、インパクトランスが最後に大爆発を起こして弾け、均衡が完全に崩れた。力尽きたリオンが落下すると共に、炎の鳥が、未だ残る赤と青の領域を切り裂き、まっすぐヴァルシオン・ゼクロスまで飛んでくる。

 ぶっつけ本番でプラーナを運用したせいか、それともそれが限界に達したせいか、体に力が沸かない。一瞬、らしくもない弱気が鎌首をもたげ、死神となろうとする鳥を受け入れようとした。

 だが、脳裏に浮かんだのは、娘の顔と、妻の笑み、そして2人の後ろに広がる地球の景色だった。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 残る力を振り絞り、まともに動く左腕で拳を作り、サイバスターへと殴り掛かる。クチバシに切っ先が当たった思った瞬間、メキリと鋼の拳が砕け、両断しながら、鳥は止まらず、ビアンの命目掛けて飛んでくる。

 やはり負けるか。予感はしていたことだった。あの青年が告げていた内容と同様であり、覚悟していたことだった。

 

「だからといって、そう簡単にっ運命を受け入れるという理由には、なりはしないっ!!!」

『っ!?』

 

 コックピット入りの頭部で、ヘッドバッド。サイバスターの体勢が崩れ、炎が失せる。一方で、ヴァルシオン・ゼクロスのジェネレーターが限界を越え、搾りかすのエネルギーしか生じず、空中へと留まる術が消えて重力に捕まった。巨大な機体が落下を開始する。それでも勝つために、背部の制御装置の残りを使って、小型のフィールドを再形成、重力場を圧縮して生み出し剣を作る。視界の向こうでは、ぼろぼろの人型へと再変形したサイバスターが、剣を突きの態勢で構えて、こちらへ加速してくる。まさしく、疾風。

 運命を、越える。

 この星の未来の為に。

 

『ビアァァァン!!!!』

「ぬううぉぉぉ!!!」

 

 交錯は一瞬。ヴァルシオンZXがカウンター気味に放った刃はサイバスターの左肩を粉砕し、サイバスターの剣は、ヴァルシオンZXの胸部の最奥、プラーナコンバーター兼主機を見事に貫いた。機体を循環するエネルギーが消え、コクピットから光が失せた。操縦桿も効かない、口からの血が命そのものとなってとめどなく流れ出た。

 もはや、打つ手なし。

 

「……見事だ」

 

 そうして、ヴァルシオン・ゼクロスは大地へと墜ちた。

 

 




ヴァルシオンZXは今回きりです。
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