スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

23 / 39
リメイクに失敗したので初投稿です。

2018/8/4 アバン追加


ジャイアント・キリング 1

 夢を見ている。

 大地が燃え上っていた。愛しき祖国が、人の文明たる塔の数々が、人と共に歩んだ動植物が、人そのものが。老若男女、古今東西の差異なく、一切合切が焼かれている。ドレスを纏う自らの身体もまたチリチリと焼け始めていることに気づきながらも、しかし視界は天を仰いでいた。

 地上の煉獄とはうって変わり、何もかもを飲み込むような暗闇が広がる空に、世界は我が物として君臨するものがある。それは、巨大な光帯だ。地球の自転と同調して回る、この世の果てまで飲み込んでしまいそうな、虚。見れば、燃え盛る炎は皆、あの大きすぎる口に吸い込まれていくようだ。自分もこのままではあの虚の内に呑まれ、光の環の一部と成り果てるのだと、夢であるが故に理解できる絶望に、しかし一切の抵抗を起こす気になれなかった。

 彼女の中の王位は言う。個人の復讐の果てだからだと。女としての彼女が言う。あれだけのことをされれば、自分もそうするかもしれないと。

 螺旋を描く金の髪が焼け、風に遊ばれながら灰になり、我知らず零した涙は蒸発する。肌からは内から炎が湧き出した。自分ももうすぐ焼け落ちるだろう。

 絶望しかない悪夢に、彼女はそのまま落ちるように目を瞑り、自分が立つ城の頂点から身を投げようとした。

 ふいに、地上から光が昇った。炎ではない。色の形容ができない、目を凝らさなければ見えない、小さな光。一直線に光帯へと飛んでいき、次の瞬間、極光が溢れ出し、炎を吹き飛ばした。

 そこで、シャイン・ハウゼンの意識は現実へと復帰した。

 

「ッッ……は、は……み、水……」

 

 喉を掻きむしりたくなるような乾きが、覚醒と同時に訪れた。喉を抑えつつ、真っ暗闇の中、寝台机の上に用意してあるはずの水瓶に手を伸ばし、しかし体が言うことをうまく聞かず、落としてしまう。

 

「シャイン様、どうなされましたっ?!」

 

 瓶が割れる音を聞きつけ、お付の女中が部屋に入ってくる。手で指示し、水を持ってこさせる。手渡されたコップを傾ける。げほっ、と咳き込むが、構わず飲み続ける。夢の残滓の影響か、体が熱くなり、水分は取った先から汗として流れ出てしまうようだった。

 

「シャイン様、ご無事ですか! 医者を……」

「いえ、いえ……大丈夫ですわ」

 

 小さい頃からのお付であるジョイスが部屋に着いた頃には、なんとか呼吸を整えられる程度には体を落ち着かせることができた。

 目を改めて開けば、そこはいつも寝室。自身の血族の王国、リクセント公国の自室だ。服は燃えておらず、侍女や"じいや"も灰になってはいない。

 

「……予知夢、でございますか?」

 

 ジョイスの問いに、首を縦に振って答える。ハウゼン、いやリクセント公国王家の血に連なる者が発現する、未来を読み取る異能。今代の継承者であるシャインは、時々ではあるが、このように悪夢的な未来を見ては飛び起きることがあった。しかし今回は一際強烈だ。いや、発狂といっても差し支えがなかった。

 

「……リクセントが、いえ、世界が焼ける光景が見えましたわ」

「! それは……連邦にご連絡いたしますか?」

 

 未だにじみ出る脂汗を拭うジョイスの手が、主の告白に強張った。新西暦以前より、ターニングポイントとなる出来事を予知してきたという伝説もあるリクセントの血族。その必死の忠言とあれば、連邦も動くだろうというジョイスの提案も、シャインは首を横に振り、囁やくような言葉で否定した。

 

「連邦では……いえ、我々只人だけでは、あの炎には抗えません」

「シャイン様……?」

「……ごめんなさい、少し夜風に当たってきますわ」

 

 今の声は、彼には届かなかった。それがいいと、シャインは静止の声も聞かずベッドから降り、寝室のテラスへと出た。地中海から運ばれた深い夜の冷風が火照る顔を撫で、夜空の雲を慌ただしく移動させている。星々から視線を下ろせば、愛すべき祖国/リクセント公国の街並みが広がり、安堵が身内に広がった。世界はまだ焼けていなかった。夢/予知の景色がもう既に広がっているのではないかという、言いしれぬ不安が拭われ、代わりに心を揺り動かすようになったのは、王家の血がもたらす守護の決意だった。

 

「世界を、この国を、焼かせはしません」

 

 幼い公女の熱気を望むように、流星が一筋、夜空に瞬いた。

 

 

 

 轟、と音が噴き上がる。その発生源は自機の前方、突入衝角の代わりを務めるクドリャフカ、そのブレイクフィールドからだ。斥力場による空気の壁の圧縮、その熱は通常の大気圏突入よりは遥かにマシとはいえ、破損した機器類では、一歩間違えれば致命となりかねないものだ。それが未だ正規の軌道を保っていられるのは、急造品とはいえ高いバランスを誇る機体と、そこから織りなされるテスラ・ドライブの高出力領域の安定性であろう。

 

『テスラ・ドライブ、80%で安定! 内部温度75度! アッツィよ!!』

『持たせろアイビス! 私はお前のようなあだ名は貰いたくない!』

『こっちだって、何度も言われるのは癪だって!!』

 

 通信機の向こうで、スタードライバー2人が互いに噛みつきながらも、初めての大気圏突入ミッションとは思えぬ精密操作でエラーを吐き出し続けるコンソールを捌き、一度でも引っ張られれば空中分解を免れない舵を握りしめる。かくいうテンザンもまた、実機では初の、そして前世も含めて未体験の経験に脂汗をかき、震える操縦桿を握りしめている。本来の突入角を失ったことで、後部追加ブースターへの負荷は許容値を超え、内部温度は徐々に上昇している。

 

『ぐ……ぅ……想像以上に、厳しい、ですね……!」

 

 それを偏に耐えていられるのは、シェースチの念動力のおかけだ。突入開始と同時に念動フィールドで機体を覆い、ゼノリオン本体のT・ドットアレイをクドリャフカにまで回すことで、突入が容認されるぎりぎりの強度を確保しているのだ。そして彼女の小さすぎる体/脳にかかっている負荷は、通常戦闘の比ではないはずだ。念動力を持たないテンザンには、それがどれ程の苦しみなのかは想像できない。だが、未だ脳でリンクするシェースチの苦悶の声が、心を掻き毟るほど苦しそうなのは確かだった。

 自身の未熟さと幼稚さが招いた自体だ。それを受け止めなければいけない。だからこそ自分は、彼女たちに宣誓したことを、何としても成し遂げなければならない。

 

『高度2万……1万5千……みんな、あと2分保たせて!』

『高度遠隔制御準備、クドリャフカのダメージと負荷を元に出力修正、急いで! テンザン君、ブレイクのタイミングはそっちに任せる!!』

 

 鬼気迫る声で叫ぶツグミとフィリオ、その周囲からの音声もまた、先程の接敵にも劣らずな修羅場となっている。本来なら余裕を持って行われるはずのミッションが、これほどの綱渡りをしなければならなくなったのだ。襲撃の件もあって、声色にも息切れのような焦りと疲れが聞いて取れた。頑張ってくれ、と声に出す資格がない故に、祈るように心の中へ吐き出す。

 祈りが通じたのか、モニターに描画される景色が、高度計に連動して赤から紫、そして青へと変じていく。同時に機体への負荷が下がっていき、気体温度の上昇も緩やかになり、やがて止まった。

 安堵の息を吐き出すと同時に、悪寒。体の反射神経を極限まで高め、舵を切る。

 

『よし、安定高度になっ……』

「砲撃、来るぞ!」

『そんな、もうっ!?』

 

 ブレイクフィールドの干渉が発生、前後の2機が反発する磁石のように反対方向に別れ、刹那、その中央を視覚で捉えることが不可能な"何か"が貫いた。

 

「っ、これは、想像以上に……ッ」

 

 コンピュータが自動的に判別した"超電導弾頭"の文字を睨むと、一呼吸遅れて現れた衝撃波がクドリャフカとゼノリオンを襲い、機体コントロールがパイロットの手から離れようとする。重い手綱/操縦桿を握りしめ、ゼノリオンの制御を失くさないよう、歯を食いしばって振動に耐える。

 

『つぁっ……!』

『スレイ?!』

『バイタル低下、スレイ、目を開けて!』

『いや、アイビス--』

 

悲鳴の中に、フィリオの声が差し込まれる同時に 通信系が断絶した。視界の端では明らかにコントロールを失い、ローリングをしながら角度を変えるクドリャフカの機影がある。舌打ちひとつ、なんとか救援できるかと思考を巡らせていると、クドリャフカの舵が戻り、ほぼ垂直となっていた突入角度が徐々に戻り始めた。

『こん、のぉ!!』

 

 同時に戻った通信音声からは、アイビス/流星の唸り声が響く。

 

「アイビス、無事か?!」

『なん……とか……ッ!』

『コントロールをコ・パイに一時移行、メインパイロットの復帰を急げ!』

『くっ……すまん……』

『高度遠隔制御には限界があるわ、フィリオ!』

 

 スレイが先程の砲撃で負傷したのか、アイビスにコントロールが移ったようだ。だが機体の状況としては、アイビスの性質の方が今は合うだろう。スレイにように洗練されていない、しかし本当の流星の如く空を駆ける、超高速の理にかなったマニューバ。土壇場であるからこそ真価を発揮するアイビスの操縦テクニックは、このままいけば無事に2人を基地に運ぶだろう。

 だがそれは、次の砲撃がクドリャフカに向かわなければの話だ。

 

『スレイ、アイビス! そのまま離脱してくれっ、コースは今送る』

『第2波、くるわ!』

 

 フィリオの操作で送られたクドリャフカの離脱コースがゼノリオンにも送られてきた。中央アフリカを抜けるこのコースであれば、件の砲撃から逃げられるだろう。しかしスナイパーの視線は傍から見れば"大気圏外航行MAPW発射機構"と呼べる役割を持ってしまったクドリャフカを逃すまいとその視線で捉えていた。放たれる超大な光球。5秒後の直撃コース。そのような常識的なスナイパーであるからこそ、テンザンはその思考を嫌になるぐらいに読んでいた。

 

「シールドッ!」

『了ッ解!!』

 

 無理を承知でシェースチに頼むと共に、機体を瞬時に割り出された砲撃コースに割り込ませる。念動力で手元に降りてきた盾を斜めに構え、T・ドットアレイを3重フィールドの最後尾に斜体で形成。瞬間、電導弾頭が常時展開している念動フィールドと重力場を砕き、勢いを落ちたそれを、ブレイクフィールドと盾が流した。ミシリと音が鳴ったと思った瞬間、機体が跳ね、腕の負荷が急上昇し、最後にVOBの第2ロケット左側面を抉られた。

 コントロールが失われ、後部の生体ポッドでぼこぼこと気泡が泡立つ。両腕の負荷、肉体・機体共に大。ほぼ最大出力を使ってようやく反らした、それだけでこの状態だ。まともに受ければ文字通り木っ端微塵だろう。

 だが、凌いだ。急いでシールドを背部アタッチメントに戻し、危険を侵さしてしまったパートナーへ声をかける。

 

「悪い、シェースチ。しばらく休んでくれ。接近するまでは俺だけでやる」

『っ……です、けど』

「無理すんな、明らかに辛そうだっての……まぁ、自分の保護と、エンジンだけは爆発させないようには、頼む」

『……締まらないですね……わかりました、そこまではお願いします』

 

 シェースチの弱々しい声が聞こえたと思うと、脳内から気配がするりと消えた。サイコ・ネットワークが途切れた証拠だ。それを確認してからパネルを叩き、通信を繋ぐ。同時に、抉られた背面ロケットの一部を強制パージ、結果として第1ロケットのみとなったそれが、第2ロケットと一体化するために取り付けられていた"外装"を外されたことで真の姿を表し出した。

 

「スレイ、アイビス、ここまで助かったっての! フィリオ、ツグミ、それに管制室もみんなも! ありがとうな!!」

『な……そ、そんな素直に言うな!! というか、礼を言うのは私達の方だ!!』

「だったら今度返して……悪いな、けどここからは通信が切れる……っ!」

 

 艤装解除をしながら、バーニアを全力噴射。第2射が下方へ過ぎ去り、衝撃波が機体を嬲ろうとする。それを逆に利用し、機体を逆噴射、コントロールを完全に取り戻し、第1ロケットの展開を完了する。

 X状に広がるそれは、第2ロケットのものよりもテスラ・ドライブと一体化を更に進めたロケットブースター、後の世にテスラ・ドライブ・ミサイルと呼ばれる物の束だ。全長はゼノリオンの全高よりほぼ同等、高度1万キロからの落下の運動エネルギーを加えた推進力は、未だ地上の人類が安々と到達できないマッハ100の領域を僅か20メートルの人型機動兵器に提供する。テスラ・ドライブの重力制御は機体にかかるGをその10分の1まで軽減するが、それでも尚人体への影響は甚大だ。内臓がひっくり返りそうな重力を受け、痙攣と見間違うばかりに震える自らの皮が潰れそうになるのを、操縦桿を握ったまま感じ取った。

 

『テンザンッ……!』

 

 最後の最後にスレイからのか細い叫びが届くのと、東欧の夜空に到着したのはほぼ同時だった。月がわずかに見える程度の雲間を飛び抜け、3度発射された超電磁砲を左に大きく躱す。十数メートル離れた位置を弾頭が過ぎるたびに、大気圏内である故に厚みを増したソニックウェーブが機体を軋ませ、回避時の加圧に内臓が臓器や感覚器が締め付けられる。それでも視線はナビゲータとモニターを正面に据え、コントロールステッキを放さない。

 雲を抜け、闇の森が広がる。夜の闇の中でも、その中に点々と広がるメテオ2のクレーター群が、新西暦直前の混乱を思わせる。そこから先に黒海の海原と、狭間には紛争跡地となった荒野。だからこそ存在できる超兵器を、遂に目視で捉えた。

 全高400m、全長700m。タンカーを2つ繋げたような外観をした、動く超巨大要塞。

 アームズフォート、ギガベース。"テンザン・ナカジマ"がこの世に生まれてきてしまった因果の一つが、双胴の間に格納していた、およそ500mにも及ぶ超電磁砲の顎をゼノリオンの向け、紫電の唸り声を未だ荒廃した世界に叫びあげた。

 

「ギガベース……ッ!?」

 

 己の存在があったが故に生まれてしまった醜態の顕現に、奥歯を噛み締めて自殺衝動を抑える。意識は同時に、撃ち出された弾を、第1ロケットの左翼の出力を上げてロールし、紙一重で回避するようゼノリオンを繰る。距離が近づいた分、回避までのラグが殆ど無いせいで、機体に無茶な負担がかかる状況だった。更には一度、シールドで受け流した際のダメージがここになって現れた。

 ビープ音、視線を走らす。先程過剰ブーストをかけた第1ロケットに火災発生、放っておけば、機体全体が誘爆に巻き込まれお陀仏だ。くそったれと毒づきながら、第1ロケットのロックボルトを爆破。シェースチにいらぬ苦労をかけて再接続してもらったVOBが、組糸が解けるように機体から離れた。ゼノリオンが慣性に従いながらも落下を開始すると、中空に残ったロケットの束をレールガンが撃ち抜き、夜の花火が咲く。爆風が機体を叩き、衝撃がコクピットを揺する。だがそれも先程の大気圏突入ほどではないと自分を戒め、ゼノリオンの腰部バーニアを全開にして飛びだした。

 距離はまだある、それでもその異様は存在するだけプレッシャーを放っている。最大戦速での到着予想、3分。この威圧感と砲火に晒されながらの接近に、脂汗が今更背中から滲みだした。だからこそあえて、テンザンは口元を傲岸に開けた。

 

「へっ、雑魚アームズフォートぐらい……パーフェクトクリアしてやるっての!!」

 

 精一杯の強がりを吠えて、バーニアを維持したまま高度を落とす。シザーを左にかけ、超電磁砲の余剰電圧を見切り、逆へと急ブースト。左後方の大地が一撃で抉られ、肉体に超音速の圧が2重に加わる。皮膚の薄い手首や喉は既に内出血が始まっている。脳からの出血がないのはただの運だ。上等だ、こっちは命を一つ預かってるんだ。そう自分を鼓舞/脅し、震え出した両手を叱りつける。

 ゼノリオンのバイザーに隠されたカメラアイが高度が予定位置まで下がったことを伝え、足先数メートル下が荒野の大地を風圧で切り裂き出した。

 再度、首を振る。フェイントは2度、今度の本命は急上昇。こちらの侵攻範囲を予測して射撃された弾は、しかしゼノリオンの前方にぶつかり、巨大な土の塔を生み出した。

 敵対存在からの視界が途切れた今、好機と見て、シールドの機能を開放する。それはリオン/ロンのシールドにも搭載されていた、斥力と力場のプール機能、そして溜め込んだエネルギーの出力機構だ。先程のこれまでの再突入ミッションの負荷、そして先程の援護防御で、大出力ブーストを行うには十分なエネルギーが溜まっていた。

 

「かっっ飛ぶ!!」

 

 己への暗示紛いの叫びで、超過速度を起動。慣性制御で殺しきれないGがかかり、ダメージを追っていた骨に罅を入れた。鎮痛剤を撃つ間もなく、世界が再度加速する。目玉が潰れそうになるのを堪え、夜闇の向こうに聳える不夜城を一直線に目指す。

 前方で瞬き、射撃。回避。振動、ゲージ、残り5割。ギガベース、距離、後一分。

 長い一分、もう一度光が瞬く。後方。アラート、ミサイル。歯ぎしりと罅の音が響く。

 荒野へ踏み込む。クレーターの上り坂。ブースト、ベクトル変更。偏向出力が溶け出す。保てと祈り、フルスロットル。

 ゼノリオンが飛び上がる。ミサイルの合間をすり抜ける。ギガベース、直下。

 

「ッッッらぁ!!」

 

 急加速を解除し、盾を構え、急速落下。腰部バーニアで不規則回転を機体に掛け、変速マニューバ/木の葉落としを仕掛ける。それによって眼前の怪物が撒き散らす機銃と副砲を翻弄し、掻い潜る。そうして股下を通り過ぎた主砲の流れ弾が先程のミサイルを直撃、周囲のミサイルと誘爆/大爆発を巻き起こして、ゼノリオンを燐光が照らし出す。

 

『何だ、コイツはっ?!』

 

 オープン回線から男性の声が響く。恐らくはギガベースのオペレータだろう。それをこそ心を軋ませながら耐え、マシンセルで硬化したシールドを双胴の狭間にある接合へと叩き込んだ。落下エネルギーとゼノリオンの重量、そして瞬時に単分子の刃を形成できるシールドのすべてを合わせた攻撃は、ギガベースの上部連絡橋を安々と叩き割った。機体をそのまま双胴の内側へと滑り込ませ、今度は双銃を引き抜く。紫電が奔り、銀光/刃が形成された。

 

『不明機、ギガベースに取り付きました!』

『主砲を使え、叩き出せ!』

『だめです、近すぎます!!』

『応援を呼べ、どこでもいい!!』

 

 切羽詰まったような喚き声。同時にその内容は、このアームズフォードの要塞としての練度の低さと、テンザンの狙いが上手くいっていることを示していた。

 テンザンの狙いは、ギガベースの撃破。しかし可能な限り人的被害を出さない方法によってだ。その理由は、やはり"テンザン・ナカジマ"がこの世界/"地獄"に対して感情を割り切れないためであるが、AM1機に手加減されて敗北してしまう欠陥兵器、という烙印を押すこともできるかもしれない、という甘い思惑もあった。撃破の過程までは縛られなかったが故の選択だが、その道はやはり困難だ。

 何故ならこれから行おうとしているのは、ギガベースの両断なのだ。

 

『……っ、テンザンさん、大丈夫ですか?』

「ホッ! 無理すんなってのシェースチ。ここまでくれば……俺一人でっ、やるッ」

 

 脳へするりと入り込んできた波動に、荒げたままの息で答えつつ、シミターモードで展開した刃へ更に電力を回す。過剰出力を受けた刃が更に身長したことを確認すると、ギガベース内壁に備え付けられたガンポッドがようやく起動し、銃口を向けられた。息を深く吐き、機体を傅かせる。その勢いで両腕の刃をギガベース底面部へと刺し貫き、機体の面を正面へと向けた。

 

「備えろっ!!」

 

 叫び、座った姿勢のまま、腰部バーニアを再ブースト。背中をガンポッドの弾幕が通り過ぎるのを感じつつ、クラウチングスタートの態勢へ移行。鋭利過ぎる刃は超構造体といっても差し支えないのアームズフォートの装甲を引き裂き、2条の爪痕を真っ直ぐに伸ばし始める。ぎりぃ、と金属が軋む音が静寂だったはずの夜に響き、人の悲鳴を塗りつぶしていく。

 そのまま超電磁砲の真下までたどり着いた瞬間、ハンドレールガンを引き抜き、切断された内部装甲を蹴り上げ、ムーンサルト。上下に回転する刃は過剰電力によりその表面を欠けさせながら、しかし主人の思い通りに、直上で呑気にしていた超電磁砲を切り刻む。

 

「まだ、だぁッ!」

 

 大型レールガンと同じ高さまでたどり着き、バーニア位置を偏向、今度は横回転をかける。ここで離れては蜂の巣にされるだけだ、故にこのままケリをつける。

 レールガンに取り付き、残る電力で刃をスピアへ変更、事前に調べていた弾頭薬室と電力変換機構目掛けて突き刺した。

 

『レールガン中破! このままでは……』

『援軍はまだか! 早くなんとかしてくれ!?』

 

 悲鳴と怒号を、心を強張らせて受け止めて、銃爪を引く。雷光が甲高く鳴り響く、音は8度、その後に稲光が2度。最後に腕を広げ、ギガベースの象徴たる超電磁砲の上部を両断。勢いのままに蹴って、離脱。ダメ押しとばかりに飛んできたミサイルの一つを念動フィールドに包まれた右腕で掴み、他の弾幕を回避しながら、超電磁砲へと蹴り飛ばした。

 

『レールガン大破! エネルギー系に逆流、爆発します!』

『敵機離脱! このまま逃がすかよぉ。ミサイル発射、主砲照準……』

『バカ、撃つなぁっ!!』

 

 左の胴体部に乗っかった、主砲と一体化している複合艦橋がこちらを照準したと思った瞬間、超電磁砲の内部が膨れ上がり、スパークを撒き散らしてミサイルを誘爆させ、そのまま大爆発を巻き起こした。時にはギガベースの海上移動装置としての役割を持つそれは、その機能と巨大さに相応しい出力系とエネルギー系統を備えていた。そこに対し、テンザンはありったけの火力をぶつけたのだ。

 結果、咄嗟にシールドを構えなければならないほどの爆風と衝撃波が撒き散らされ、内部でそれが起きたギガベースは、テンザン/ゼノリオンが事前に切りつけていた接合部の切断面もあり、双胴は質量に見合う緩慢な、しかし実際には恐ろしい速度で、外側へと倒れだした。到るところで金属音の悲鳴が響き、逆流したエネルギーでミサイルユニットやガンポッドが誘爆し、火の手が次々と上がり出す。そしてそれは現在進行系で傾く巨壁で起き、数秒後には大地に潰されるだろう。時に大きな炎上が発生しているのはあの艦橋ユニットだ。吹き飛んだレールガンの銃身が突き刺さり、視線を向けた瞬間、残っていたミサイルが内部で爆破し、司令部らしき場所のガラスを内から焼き払っていた。

 

「……ハァッ!! はっはっはっ……ぐぅ……うぶっ!?」

 

 衝撃波を耐えしのぎ、ようやく地面へと着地したゼノリオンの中、テンザンは張り詰めていた気を呼吸と共に吐き出し、ついで襲いかかってきた吐き気に口元を抑えた。しかしヘルメットに妨げられ口を塞ぐことをできず、そのままぶち撒けた。酸っぱい匂いと、鉄の臭いがヘルメットを通して体中に広がった。もはや嗅ぎ慣れた臭いに嫌気が差し、しかし同時に生の実感でもあるそれに思考を蘇らせ、シェースチへと声をかけた。

 

「どうだ、シェースチ……どれぐらい、生き残れそうだ」

『……全兵装を破壊した場合より、一割ほど少ないです』

 

 そうか、と短く答える。自然と操縦桿から離れた手が、悔しさと後悔で震えた。

 一番最初のプランでは、かつての関門橋の如く,全攻撃ユニットを破壊し無力化することを想定していた。しかしアームズフォートは要塞であると同時に機動兵器、動ければ撃破とは言えないと、ミツコ/イスルギ社からは認められなかった。何よりその戦闘能力はAM1機に用いられた場合には過剰としか言いようがなく、結果計算されたテンザンたちの生還率が低すぎたのだ。それでは目的が果たせないし、シェースチをも無闇に犠牲にしてしまう。

 だからこその"テンザン・ナカジマ"が考え出したセカンドプラン。一切動けなるほどの大破状態/分割状態へ持っていき、尚且超高速戦闘によって戦闘時間を少なくし、生存率を上げる方法を提案、決行したのだ。

 それはテンザンにとって、すぐにでも死にたくなるような選択だった。人を殺したくない、だけど多く殺す選択をしなければ、助けたいと思う存在を助けられない。

 そしてテンザンは助けたい存在を選んだ。殺したくはないと思うことは今もある、けれどもこの殺戮を理由がある故に"仕方ない"とも思いたくなかった。自分は本来生きる/存在する価値はないのだから。例え彼ら/アームズフォートの搭乗員が、存在するはずのない歪み/兵器を操っていたとしても、彼らはこの世界にちゃんと生きている人々なのだから。

 

「……これをあと、何回だっけ……くそったれ……」

 

 アームズフォート・ギガベースは割れ、遂に双胴は大地に沈んだ。その地獄絵図を見つめ、思わず吐露してしまった弱気を、シェースチは黙って聞いてくれていた。

 そのまましばらくその光景を見続けていたが、このままでは本当に救援がきてしまうと、現実的な判断が脳を働かせる。それでも重くなる心と体を奮い立たせて、ようやく操縦桿を握った。

 

「……イタリアのイスルギ支社に向かうぞ」

『はい。そこでしばらく療養してください。骨に罅も入っているんですよ?』

「言うなっての……痛いの我慢してるんだからよ」

『痛いとわかるのはいいことです……えっ?』

 

 気を紛らわせようと寒々しい軽口を言い合いつつ、ゼノリオンを起き上がらせて航路を表示させようとした時だった。

 不意にシェースチが呻いた。同様がサイコ・ネットワークを通して伝わり、そしてその声音に、鳥肌が立つほどの悪寒がした。

 

「どうした?」

『そんな、このタイミングで……逃げましょう、早く!?』

 

 痛いぐらいに脳裏に響くシェースチの悲鳴が、警告音に塗りつぶされた。同時にレーダーに感。データ照合に該当有り。ウソだろ、と表示された名称に、この世全てを憎んでしまいそうだった。

 その影は、文字通り空を翔けて、遥か東のロシアの大地から現れた。赤い船体、龍頭を模した船首、最先端の宇宙工学技術によって改修された胴体部と艦橋。そしてそこから次々と現れた、鋼の勇者たち。

 先頭に立つのは、かつて戦ったことのある赤い機体。右腕にリボルバー式杭打ち機を取り付けた突貫専用機。

 その横には白い亡霊。背部に取り付けた2つのコンテナには、正規の念動兵器が積まれているはずだ。

 上空に飛び上がったのは白き騎士。本物を見るのは初めてのそれは、想像よりもシャープであり、故に捉えられないと思うほどに素早そうだ。

 遅れて降り立ったのは、2機の特機。同じ系列期だと一目でわかる造形をした、超闘士とその量産機。

 その全てが、たった1機/ゼノリオンを見据え、各々の武器を構え出した。

 

「ヒリュウ、改……ATXチームっ」

 

 主人公/運命の勝者たちが、テンザンの前に姿を表したのだ。

 




ギガベースは前座だ。だが私は謝らない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。