スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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忘れられたころに初投稿です。


インターミッション/不穏の気配

 新西暦187年4月C日

 

 寝たきりだった体も安定してきたので、情報を整理するためにこの日記を認める。

 ヒリュウ改との戦闘後、イタリアのイスルギ重工支社には大きなトラブルなしで辿り着けた。ゼノリオンの修繕自体は種子島でのデータがこちらにも届いているため可能らしいが、マシンセルとT-LINKシステム周りはストラングウィックとユルゲン博士がいないとタッチできないらしい。一段落したタイミングでサイコ・ネットワークを使い話を聞けば、下手に触ればマシンセルが念動力の制御を離れ、勝手に自己増殖・進化を始めるそうだ。時間がなかったとはいえ、もう少し制御とかリミッターなり付けろと言いたくなる。

 シェースチは念動力を酷使したせいで、支社に到着してからこっち、2日前まで専用ベッド(アルウィックとドナが調整・提出した溶液入)で寝ていた。ゼノリオンが念動力前提の機体とはいえ、ここまで無理をさせたのは私の実力不足だ。いや、それもあるが、今回は間が悪かったのもある。宇宙でのゲストとエアロゲイター、大気圏突入、AFギガベース、ヒリュウ改部隊。そんな過酷な連続戦闘の中でずっと私の無茶に答えてくれたのだ。おまけに溜まった鬱憤がああだったこともあり、その、アレだ。頭が下がる思いだ。というよりも、私も頼っていいと言われて頼りすぎだ。自戒せねばならない。

 折角だから、何かお礼をしなければ。あの場面で活を入れてくれたおかげで生き延びることができたのだ。折れていた骨も問題なくなったし、この後街にでも出て探してみよう。

 それと、何日も前とはいえ、戦闘の復習を書き出しておこう。

 エアロゲイターは以前南極で戦った時より機能面でバージョンアップしており、ガロイカも初見での対応は厳しいところがあった。ただ最初から無人機というのはわかっていたから、ほぼストレスなしで戦うことなくできた。むしろ今思えば、宙間戦闘のいい練習になったとも言える。だがあの2機種は偵察機だ。特にガロイカはまだ本格的に表に出てきていないはずの機体。インスペクターやゲストについても警戒しなければならない。

 AFギガベース、あれは奇襲がうまくハマったとしかいいようがない。大気圏外時点で迎撃を受けたとはいえ、懐に潜り込めれば、後は以前の関門海峡でやったことの応用だ。それでも、やはり多くの人を殺すことになってしまった。思い出すだけで……止めよう、無闇矢鱈に吐き気を催すのは、皆に悪い。レールガンの狙撃を受けたときは肝が冷えたが、ゼノリオンの耐久性とシェースチの頑張りに救われた。これなら……

 いや、待て。今思い出せば、あの奇襲は本当に"奇襲"だったのか? 何故大気圏外から突入してきた、しかもMAPWのような前兆もない状態で、ギガベースは狙いすましたように狙撃してきたのだ。いくら感知能力が高く、小型マスドライバーの如きレールガンを搭載しているとは、最初から判っていたような……ああ、くそ。ミツコか。ミツコ・イスルギならマッチポンプをやりかねない。考えれば、自社製品同士でどちらか一方だけに加担するなど、彼女という存在を知っていればありえないとわかるはずだ。そんなことをやるとしても、それこそテストだ。いくらAFがミツコの言う通り"時代遅れ"になろうとも、それは今じゃない。

 AFギガベースはスピリット・オブ・マザーウィルの廉価版の立ち位置であり、かつそれに見劣りしない射程範囲/戦略価値を示した。例えAM1機に落とされたとしても、運用次第でどうにでもなる範囲だ。それこそ要塞や航空母艦よろしく、近接防御のための護衛機を配備すればいい。移動する要塞を万全とするにはそれで十分だ。護衛機としてのAMも合わせて売れるだろう。売れる価値のあるものを、デモンストレーションで価値を示し売る。商人としてのミツコの本当の狙いはそこかもしれない。そしてそのついでに、臨床試験を待っていた兵器/VOBの実験にもなるという所だ。

 私達はまんまと嵌められたわけだ。原作で彼女に付けられた"女狐"の称号は、正しいものだった。何より嫌らしいのは、私達がこのことに感づいても、イスルギ重工という傘から離れることが、もう容易にできないことだ。

 このことは、今度ミツコに報告する際に確認をを取ろう。もし万が一、本当にギガベース側の探知能力が高かっただけというのなら、ただ準備不足だったというだけだ。この段階で断言するのは、いくらミツコ相手とはいえ、誠実ではない。

 気を取り直して、戦闘を書き出そう。

 ヒリュウ改部隊との戦闘は、率直に行けば、奇跡だ。シェースチがあそこで私のケツを叩いてくれなければ、今こうして呑気に日記を書くこともできなかっただろう。

 キョウスケは以前の戦闘のこともあって初手ステークではないかもと考えたが、ヴァイスリッターが以前と違い存在したため、援護に任せて突貫してきてくれた。おかげで以前から考えていたアルトアイゼン潰しを実行でき、その動きをある程度制御できた(その後まだ動けたのは予想以上だ、やはりまともに戦うのは避けたい)。

 ヴァイスリッターの方をシェースチに一任できたのも大きい、むしろこれがなければゼノリオンの損害はもっと大きかったはずだ。何とか突破してもこの基地に辿り着けなかったかもしれない。

 グルンガストとゲシュペンストはうまく行き過ぎたとも言える。グルンガストは何度か戦って癖をつかめていたし、今回の手法を零式で先に試せていたのも大きい。ヒリュウ改のミサイルも良い位置にきてくれたのも運が良かった。ゲシュペンスト、もといブリットは不意を衝いたことで即座に鎮めることができた。まだこの時期のブリットは完全に覚醒していないのは予想していたが、それが外れていなくて助かった。既に虎王機に応えられるほどだったら確実に反撃を貰っていただろう。

 グルンガスト弐式、いやクスハは……今思えば、酷いことを言ってしまった。DC戦争直後ならば、まだ弐式に乗り始めたばかりのはずだ。操作だって覚束ない状態なのに、その中で懸命に戦おうとしていただけだ。それを身勝手に誤射するなと言うのは、相手の状況もわからず突きつける傲慢な意見だ。誤射は確かに行ってはいけないが、過去の戦闘を紐解けばそれは日常茶飯事だし、私とて、意図的にリョウトを撃った身だ。そもそも言う資格などないのだ。それでも言ってしまったのは、きっと、彼らに対する憧れや期待、だったのかもしれない。

 彼らならばそのような過ちはしない、彼らならばどんな状況だろうと打ち勝つ。なぜなら彼らは、正真正銘のヒーロー/主人公だから。

 そんな、思い上がりじみた先入観があったのかもしれない。ガキか、私は。いや餓鬼だな。

 今度会う機会があれば、ちゃんと謝ろう。

 

 

 

 新西暦187年4月D日

 

 伊400から通信がきた。サイコ・ネットワークではない通常回線でだ。到着はあと4日ほどだそうだ。一週間とちょっとでインド洋横断というのは、潜水艦、いや一般的な船舶として破格だろう。それだけのスペックを持っているというのもあるが、あ号たちの存在も大きい。彼らはイルカ、生体改造を加えられているとはいえ海洋生物だ。そんな彼らは元々海流を読み、それに乗ることができる。一流の船長が経験を積んで行えることを、彼らは生まれてすぐにできる。伊400はその能力の恩恵を受けたおかげで、海底の海流に乗って、深く静かに、そして素早く移動できた。アイドネウス島から種子島にいく時にも役立った。今後も頼ることになろう。

 この調子なら連邦軍、いやハガネやヒリュウ改にも簡単に捕捉はされない、と思う。

 ゼノリオンの修復は先日聞いていた通り、ネックとなるマシンセル使用箇所と制御系のT-LINKシステム以外は完了した。私自身も軽く乗ってみたが、反応が遅れたりする時もあるものの、大凡問題ないレベルだった。レールガンはブレードユニット以外は運用でき、盾も無茶な使い方をしなければ問題ない。やはり伊400メンバー以外だと完全な整備は難しいらしい。専用機・改修機というのは、憧れはするが、実際にはネックとなる部分が多すぎる。そういう意味では、やはり鋼龍戦隊は別格なのだろう。先日の戦闘データを送るついでに愚痴ると、少しは私達の気持ちがわかったか、としたり顔をされた。大事に使いますと答えるしかできなかった。

 それはそうと、シェースチへのお礼だ。とりあえず物として残るものをと考えたが、彼女の体は今はああだ。歩行ユニットに取り付ける、というのも考えるが、生憎とあのユニットのペイを埋めるのは気が引ける。お礼なのだから、普段邪魔にならない物の方がいい。

 とりあえず午後から街に出たが、イタリアは初めてであった為、すっかり迷ってしまって成果が出なかった。おまけに絡まれそうになるわ、スリに合いそうになるわ、散々だった。今日中にここのスタッフにいいとこを教えてもらおう。

 

 

 新西暦187年4月E日

 

 お礼の品を買ってこれた。小さな宝石がついたネックレスだ。これなら今のままでも歩行ユニットにペイもそれほど埋めず、体に巻いて付けてもあまり邪魔にならず、何より人の姿に戻っても体型に関わらず着けられる。取り付けられた宝石はかなり小さいが、目を凝らすと緑と紫が混ざった綺麗な色合いで、太陽の元となると色合いが少し変わるのだ。宝石の名前は聞けなかったが、なんでもメテオ2落下の混乱時にロシアから流れてきたものらしい。露天商のものなのであからさまに出自が怪しいが、シェースチに合うという気がしたのだ。

 渡したあとのシェースチの反応はなんとも言い難い表情で(サイコ・ネットワークでよくリンクしているからか、人と異なる姿でも何となく感じ取れるようになった)、渋々、いや静々と受け取ってくれた。ただ、ありがとうという返答には彼女が誠意が詰まっていたような気がして、ちゃんと受け入れてくれたことに感謝と喜びを覚えた。

 とりあえず今は脚の一本に巻き付けているが、シェースチの希望で結局歩行ユニットを改造して収納スペースを作ることになった。ドナ、余計な仕事を増やしてすまない。

 

 

 新西暦187年4月F日

 

 調子の戻ったシェースチと共にゼノリオンを再調整中に、ミツコから連絡があった。AFギガベース戦での報告を聞きたいとのことだ。こちらとしてはとっくに報告書は作成しデータは送っていたはずだが。何でも直に聞きたいらしい。私の中のミツコ像とは些か異なる行動だが、私というイレギュラーとのファーストコンタクトでさえ想像の埒外だったのだから、細かいところを気にしても仕方ないと思えた。それにその時、ちょうどマッチポンプの件もカマかけようと躍起になったのもある。

 結論から言えば、マッチポンプの件は肯定された。むしろ最初から向こうが切ってきた。自社製品の発展を行う以上、様々な戦闘状況を考えなくてはならない。その理屈はわかる。だがそれを黙っていたことを聞くと「言わなくとも分かるでしょう」と告げられ、すぐに思考を回し、以前考えていたこと以外にも思い当たって、何も言えなくなった。

 今回の作戦は彼女の立場で言えば、私達だけでなく"プロジェクトTD"の面子に対する試金石でもあったのだ。DCから拾ったプロジェクトTDの理念は"宇宙探索用AMの開発"であり、戦闘兵器開発はスポンサーのために仕方なく行っているものだ。もちろん彼らはクドリャフカや設計段階のカリオンなどの成果は出しているが、イスルギ重工が求める戦略、いやそこまでは行かなくとも、戦術レベルでも役立てるものがない。そこで白羽の矢が立ったのが、ミツコが私の知識を元に開発させ、この世界に生み出してしまったVOBだ。原案よりも更に機能拡張されたあれは、かなりの難物だったのだろう。それを使えるようにすることに、プロジェクトTDの能力を試したのだ。恐らくそれも失敗していれば、プロジェクトTDの立ち位置は悪くなっていたはずだ。それを分かっていたからこそ、フィリオ主任は引き受けたのだろう。

 あの作戦は、私達のワガママだけで止まることはなかったのだ。気づいた時は思わず舌打ちしたかったが、ミツコのほくそ笑んだ顔を見て、それは思う壺だと理解して表情を固めた。しかしミツコは益々笑みを深めていた。女狐め。

 その後は淡々と報告していくが、ミツコから後言い渡されたのは、VOBの開発継続と、次の撃破目標はこれから選定するというだけだった。簡単に言えば伊400がくるまで待機していろということだ。勿論最初の契約通り、時と場合によっては独自に動かせてもらうが。

 最後に少しシェースチが伊400の扱いについて口を挟むと、ミツコの顔に、彼女にしてはわかり易いぐらい不快感が浮かんだ。きっとシェースチの体のせいだろう。たまらず彼女の姿を手で隠し、通信を切ったが、最後の最後に、ミツコの顔が強張った笑みになった。シェースチも声音が少し低いぐらいだ。どうやら肉体のこともあるが、生理的に合わないのかもしれない。

 

 

 新西暦187年4月G日

 

 きた、ついに来た。リクセント公国が所属不明の軍隊に攻撃されているという報が入った。アードラーが現れたのだ。

 ここでアードラーを逃がせば、アフリカのアースクレイドルに行くしかなくなる。そうなればイーグレット・フィフやアギラといった怪物どもと相対せざるを得なくなる。加えてスクールやマシンナリー・チルドレンとも最悪戦わないといけなくなる。この時点のハガネ・ヒリュウ改でも厳しい相手だ。私程度では絶命は必死だろう。それはだめだ、ここで必ず捕らえ、いや捉える、いや情報を引き出さなければ。勿論、リクセント公国襲撃であるならば、当然現れるであろうハガネも注意しなければならない。

 一番いい結果は、私達がヒリュウ改とも戦えた戦力であるという事実をチラつかせて、援護してほしくばという言葉で治療方法を取引条件に引き出すこと。アースクレイドルに行く必要はないし、関わりも最低限で済む。それでダメなら、こちらの研究資料などを引き渡す当初の交渉プラン。最悪の最悪はアードラーを旗艦から引きずり出し、強引に聞き出すというものだが、そうなれば三つ巴の戦場になるだろうから現実的ではない。念の為、もう一つプランはあるが、正直に言えばこのプランは使いたくない。私のワガママに新たに一人巻き添えを増やすことになるし、下手をすれば"原作"よりも悲惨なことになりかねない。実質ないと同義だろう。

 この日記を書き終えるころには、出撃準備が終わる。シェースチも、先日の戦闘の影響が残っているかもしれないから、今度こそBHエンジンの制御だけに専念してもらう。

 さぁ、正念場だ。

 

 

 

 超高速飛翔体が空から墜ちてくる。さながら翠の彗星だ。迫りくるそれに対し、こちらは数多の銃火、そして目玉と言える主砲で持って撃ち落とそうと弾幕を張り続ける。しかし彗星は躱す、躱す、躱す。弾と弾の隙間をすり抜け、ミサイルの近接信管が作動するより早く飛び、超低空域かつ超音速を用いてアームズフォートの火器管制システムを惑わす。そして肉薄するや否や、奇っ怪な機動で近接防御を通り抜け、異名に恥じない大盾を叩き込み、ついで両刃の銃剣で内側をズタズタに切り裂いた。そして最後に、放たれようとした主砲の内へと弾丸を撃ち込む。プールされていたエネルギーを暴走させ、爆破。途端、画面にノイズが走るとともに、映像は一度途切れた。

 再び映像が映ると、場面が変わっていた。構えを取る彗星に対し、5つの大小の巨人が囲み、武器を向け、仕掛ける。赤き狼が牙を剥くが、たった一度の交差で折ってしまった。上空からの白騎士を自律飛行を行う盾で封じつつ、続けざまに白い亡霊と超闘士を下す。間髪入れず、牙が無ければ爪をと、狼が再び襲いかかるのを躱し、白騎士と合わせて沈黙させた。最後に2機目の超闘士に迫るが、しかし止めは刺さず、南西へと去っていった。

 動画は今度こそ終わり、代わりに件の彗星/ゼノリオンの全身図が表示されると、モニター脇にいたイングラム・プリスケンが前へと出た。 

 

「以上が、シールダー……機体名・ゼノリオンのギガベース撃破、およびヒリュウ改との戦闘映像だ」

 

 進行役のイングラムの声は通常のそれと変わらぬ平坦なものだったが、親しい人物にはそこに僅かな固さがあると聞いて取れた。声が響くハガネのブリーフィングルームには、ある人物を除き機動兵器パイロット他SRXチームのスタッフや民間協力者が詰めており、また壁内モニターの両端側には、現在伊豆基地で待機しているヒリュウ改の主だったメンバーが映っている。その表情は進行役の声音同様、一様に険しい。無理もない、と同じく説明役として立っているロバート・H・オオミヤは口に出さずに感想を心に浮かべた。今回の敗北、いや完敗はそれほどまでの衝撃を齎したのだ。ハガネとヒリュウ改は1ユニットとして見た時、敗走はあれど、壊滅はほぼ存在しなかったのだ。よくて痛み分けか、グランゾンといった超兵器を相手にした時ぐらいだろう。

 逆説的に言えば、それは相手がグランゾン、またはヴァルシオン級であれば敗北するということでもあり、連邦軍にとっての脅威度も高いということだ。

 故に、分析し、対策する。今回のミーティングはそこが議題だ。

 

「対象は先日の戦闘を除けば、過去3度出現している。どの戦闘でも連邦の戦力はほぼ一蹴され、最新鋭アームズフォートも小破させられている」

 

 モニターにはゼノリオン出現が記録された3つの映像、アイドネウス島・ソロモン諸島・日本近海での戦闘が小枠に表示され、そのいずれでも驚異的な戦闘能力で敵機を退け、時に不可解な行動を取っていることが映し出されていた。それらを特に食い入るように見ているのは、やはりあの機体と直接戦ったATXチーム、そしてそのパイロットと何度も言葉を交わしているリュウセイたちSRXチームだった。

 

「それらを合わせ判明したシールダーのスペックだが……オオミヤ博士」

 

 イングラムに催促されるが、気が重い。学生の頃、論文のミスを発表10分前に気づいてしまった時のようだ。その原因は、観測されたシールダーの機能のせいであり、同時にこの場にいる、とある2人が絶対に見過ごせない情報だからだ。

 

「……対象をモニタリングした情報だけで言えば、基本スペックは高いが、そこまで常識はずれじゃない。恐らく、仮想敵が一番苦戦している僕たちであったことや、その前の実験機から続く改修というのが原因だと推測している」

 

 映像を切り替える。3Dを用いたシールダーの全身図、それに対して戦闘データとヒリュウ改の観測データから推定された性能が表示される。

 現れた数値は、総合的に見れば確かに常識的だ。特殊な機能も存在するが、それぞれの数値はヒリュウ改やハガネの特化機やワンオフ機には及ばない。だからこそ、幾つかの項目にある"詳細不明"の変数だけがそこに不確定性を与えていた。

 

「問題は、観測しても不確定な部分。特にあの盾。質量兵器としてでなく、念動フィールドとGテリトリーを同時に形成できる発振装置も兼ねている。おまけに念動力で単体飛行も可能みたいだ」

「それってつまり、T-LINKシステムが載ってるってことよね? リョウトくんが乗っていたリオンにも搭載していたし、考えられなくもないことじゃないの?」

 

 それもある、と疑問を呈して来たリオに頷く。リョウト機に搭載されていた劣化コピー版T-LINKシステムや、彼の持っていた知識から、同じチーム内で開発・改修された機体に念動力関連のシステムが搭載されていることは想定内だった。

 

「念動力を担っているのは、おそらくはサブパイロットだ。ただそのことは後回しにして、より重要なことを伝えておきたい」

 

 ロブが一言クッションを置いたことに、皆が眉をひそめた。だが続けられた言葉に、その表情は驚愕に染まった。

 

「……この盾には、恐らくサブエンジンのようなものが積まれていて……その固有パターンが、ブラックホールエンジンに類似していると判断された」

「何だと!!?」

 

 ロブの懸念通り、ライディースが吠え、その単語の意味を知る者たちによって室内がざわついた。かつて月で起きた起動実験から続く"ヒュッケバイン問題"の最たる原因とも言える曰く付きのエンジン。それをあの機体が搭載しているというのは、何かしらの因縁か、はたまた偶然か。ライディースの義手が過剰な神経信号によって不協和音を奏でるのを聞きつつ、一度目を瞑り、もう一つの気が重くなる情報を口にした。

 

「ブラックホールエンジンの技術はその制御の難易度はともかく、既に知られている所も多い。加えて重力制御技術はDC特機の十八番だ。たぶん、BHエンジンをコピー、更にAMサイズの機動兵器用にした試作品というのが僕の見解だ」

「DCめ、見境なしか!」

「ライ、とりあえず落ち着いてくれ。もう一つ伝えなければいけないことがある」

 

 まだ何かあるのか、とライが不承不承といった体で落ち着くのを待ち、改めて気持ちを入れ替え、話を続ける。

 

「……僕たちも信じられなかったけど、この機体からはつい最近まで未知のエネルギー波形だったものが同時に観測された」

「つい最近まで、未知?」

「……プラーナさ」

「はぁっ?! 何で地上の機体から?!」

 

 今度はサイバスター/異界たるラ・ギアスの機体のパイロット、マサキ・アンドーが喚き、感情のままに立ち上がった。プラーナと名付けられた生体エネルギーを観測・制御する術は現状、例外を除けばラ・ギアスにしか存在しない。それをDCの機体、それも既存量産機の改造機から観測されたということは、魔導技術が地上に浸透し始めたことに他ならない。

 

「詳細は分からない。ただ観測データでは盾を中心に広がってることから、機体の制御系ではなく、先程のBHエンジンの補助に用いられてると考えている。ただ、その相乗効果により、推測されているスペックからどこまで振れ幅が出ているかは……」

「んなことはどうだっていい! 問題は何でそんな機体からプラーナが出たかってことだ! まさか、シュウの奴か……ラ・ギアスの技術を安易に広めやがって!」

「マサキ、落ち着くニャ!」

「まだそうと決まったわけじゃ……」

「それしか考えられないだろ! 錬金術と魔導技術を地上でまともに扱えるのはアイツだけだ!」

 

 マサキの言う通り、数少ない例外は、ラ・ギアスの存在でありながらディバイン・クルセイダーズに協力し、そしてあのグランゾンの生みの親であるシュウ・シラカワだ。ラ・ギアスからの技術転用は総帥専用特機/ヴァルシオン・ゼクロスにも認められたことから、その可能性は高い。

 

「そう。僕たちもサイバスターのデータはもらってるけど、全部は解析できていない。その時点で連邦軍の線は外れる。そうなると一番可能性が高いのは、マサキの言う通りシュウ・シラカワ博士があの機体に関与していることだ。加えてBHエンジン……そのことから、僕たちがこのシールダーを、グランゾンの量産型、その試作機と見ている」

「あの、グランゾンの……?!」

 

 ざわめきはすぐに広がった。確かに強力な兵器があるならば、それを量産するのは戦争の常道だ。だがその大本が、あのグランゾンともなれば、その衝撃は計り知れない。世界を7日で滅ぼせる悪魔、その兄弟たちが生まれ、増え、世界に広がっていく。それはもはや悪夢、いや世界の危機とすら言えよう。

 

「全員、落ち着けっ……オオミヤ博士、続けてくれ」

 

 ハガネの幹部にまで広がりだそうとした喧騒は、しかし司会役のイングラムの一喝で収まることとなった。想定以上の反応、しかし事前に打ち合わせていた通りの流れで場が多少落ち着いたことを確認し、ロブは改めて口を開いた。

 

「皆の懸念もわかる。ただこれは現状、僕の個人的な推測が大きい。彼のいたチームがシラカワ博士に協力してもらって、たまたまコンセプトが似通った機体になったという可能性もある……どちらにしても、一筋縄じゃないってことは確定さ」

「……シュウの奴、本当に何を考えてやがるんだ……?」

「けど、そう考えるとあの機体がシュウに近いのは間違いないニャ」

「BHエンジンだって、シュウが関わってる可能性もあるんでしょ? だったら関係してるのは間違いないし、接触できれば一気にシュウにたどり着けるかもしれないじゃニャい?」

「……っ……確かにな。悪ぃ、大声出しちまって」

 

 シロとクロの言に頷き、マサキはようやく着席した。その顔はまだ険しく、目には先程まではなかった真剣さが感じ取れた。ともすれば、このミーティングが終わったあと、新たに見つかったシュウへの手がかり目掛け飛び出してしまいそうだ。あとで説得が必要かと、三度心の中でため息をつき、「話を戻すよ」と宣言して映像を切り替える。

 機体の全身像を横に移動し、新たに現れたのは、テンザン・ナカジマの画像と、大きなハテナマークがついた枠だ。

 

「この機体はATXチームの戦闘データから、2人乗りなのは確定だ。1人はテンザン・ナカジマ。DCでの階級は特尉大尉。リュウセイも参加したバーニングPT全国大会の優勝者で、優勝直後にDCへスカウトをされたみたいだ。DCのエースパイロットとしてDC戦争初期から活動も認められて、各地で彼のパーソナルカラーのリオン、そしてその改造機と思わしき機体が目撃されている」

 

 モニターに新たな小枠が幾つも表示され、そこには今までSRXチームとATXチームが戦った、かつてのテンザンの乗機との戦闘映像が映された。初期のベーシックなリオンもあれば、今の黄色に塗装され、更には巨大な槍/インパクトランスを背負ったリオン。更に関門海峡で戦った複数のユニットを取り付けた時もあれば、あの巨大なレールガン/バレリオン・キャノンを構えた姿も見られた。装備や様式だけでいえば統一感はないが、その全てにおいて戦果を上げ、驚異的な力でハガネ・ヒリュウ改を苦しめたことは疑いようのない現実だ。

 

「機体の特殊性もだけど、彼の場合、その操縦技術が傑出している。そこは僕より、実際に戦った皆の方が知っていると思う」

 

 ロブがミーティングルームを見回すと、皆一様ににが虫を噛んだような厳しい顔つきをしていた。それはイングラムも例外ではなかった。かつてある戦場でシュウ・シラカワが言った「グランゾンですら危うい」という評価は伊達ではないと、皆身にしみていた。

 全てマニュアル操作を行うことによって実現した予測不可能かつ正確な攻撃。数手先を常に読み、更に初見であろう機体相手でも即座に対応する適応性。明らかにアンバランスな構成の機体であっても機敏に動く武装・特性への理解。その総合的な戦闘力は既に要塞一つでは済まされず、連邦軍が公布したDC構成員の懸賞金リストにも、1パイロットでありながらトップ10に食い込んでいる。

 モニター・計器越しに見ただけでも、その凄まじさは科学者のロブにも理解できていた。ビアン・ゾルダークやシュウ・シラカワが"万能の天才"であるならば、テンザン・ナカジマは"機動兵器操縦の天才"とカテゴリできる。それこそ、地球圏のエースパイロットが集うハガネやヒリュウ改のメンバーですら、一対一では誰も敵わないかもしれない、と考えてしまう程度には。

 弱気になるなと己を戒め、話題を次へと進めた。

 

「……そしてもう一人。こちらは詳細不明だけど、たぶん彼らの部隊にいる念動力者だ」

「おそらくは、DC内で実験体として利用されていた人物だろう。リョウト・ヒカワの会話ログでは名前しか分からなかったが、シェースチ・スェーミ・あ号・い号・ろ号の5名が確認されている」

 

 イングラムが話を引き継ぎ、テンザンたちの協力者兼念動力者の名前を列挙する。この情報は尋問だけではなく、日常会話の中から拾い上げた単語から判明したものだ。この場にいないリョウトが聞けば、言った覚えはないと絶句するだろうが、半年前まで一般人であった少年がボロを出さないというのは無理と言うものだ。

 その一環として、既に少尉以上の人間には、リョウトが漏らした名前から、その隊の構成メンバーの何名かは既に当たりをつけている段階だった。

 

「シースチ(6番)やスェーミ(7番)。それにあ号なんて……人につける名前じゃないわっ」

「その子らも、ラトゥーニみたいに人扱いされなかったことかい……ッ」

 

 リオとジャーダが歯を剥き義憤に燃えるが、しかしことの本質はそうではない。

 

「ただ、この中の誰かは不明だが、既に戦闘には参加している。それもATXチームとの戦闘を見る限り、高いレベルで連携も取れていた……つまり、自主的に戦場に出ているということだ」

「……私のように、戦いしかなかったということは?」

「ラトゥーニ、そういうのは……」

「いや、リョウトの話だと、元からかなり繋がりがあるみたいだ。それに目的も何となく見えてる」

「目的?」

 

 リュウセイの問いかけに、ロブは一つ頷くと、イングラムへと視線を振った。イングラムもそれに応じて、新たな画面に表示を切り替えるとポインターを当てた。

 

「彼ら……リョウト・ヒカワから齎された情報から、仮称・伊400チームとするが……その目的は"仲間を救う"と先日の戦闘で明言している。それは身内に何かしらの病気/疾患を抱えていることが考えられる」

「病気? だったら何で連邦軍に投降しないんだ? 念動力者で捕虜や協力者になるんだったら、お袋みたいに保護されるんじゃないか?」

「それは不明だ。連邦では解決できないと踏んで自分たちだけで対応しようとしているか……」

 

 その先は、イングラムは言葉を収め、ロブもまた口を噤んだ。察しの良い面々も顔をしかめた。

 あるいは連邦に利用される可能性が高い。それが彼らの身内にしまい込まれた言葉だ。

 サイコ・ネットワークという机上の空論を実用化しただけでも十分なのだ。その生きた実験体は、特脳研、ひいては連邦内の念動力開発を加速させる要因となりうる。それこそ、DCの時に匹敵するような非道を持って、事が運ばれることも。

 それを回避するために独力解決に回っているのであれば、連邦と未だ敵対している理由としては十分だろう。

 

『あれ、そもそも、リョウトは参加してないんですか?』

『そうよね〜、あの子に聞けばすぐじゃないの?』

 

 伊豆基地から遠隔参加のATXチームが、この場にいない当事者に気づいたが、話題の流れを変えたかった司会者2人はそれに目をつけ、その疑問へと回答する。

 

「ああ、リョウトには今、アーマリオンの最終調整を任せてるからね。そっちに集中してもらっているんだ」

『オイオイ、いいのかよ?』

「使われている技術やパーツはこっちでも用意できるし、汎用的なものが主だからね。あっちの技術力を図るのに丁度いいんだ」

 

 ロブが告げたことは、イルムの問いに半分だけ答えたものだった。

 アーマリオンとは、大破したリョウトのリオンをベースに、リオン系列の発展性調査と、汎用性・戦闘能力向上の両立を目的とした改修機体だ。特定の才能がなければ使用できないT-LINKシステムはオミットされ、代わりにPT系列、特にアルトアイゼンの余剰パーツを用いることで強度を増し、強化したブレイクフィールドと合わせて耐久性を大幅に引き上げた。強度の関係で両腕部を完全な固定武装化したが、それもまた生存性・継戦能力に一役買うこととなった。更に"奥の手"として、インパクトランスのデータを流用したリミッター解除を搭載し特機相手でも戦える機体となった。特に奥の手は、インパクトランスの生みの親から薫陶を受けたリョウトでないと完成しないものだ。その完成形は、ロブも一技術者として楽しみにしている。

 答えなかったもう半分は、未だスパイ疑惑の消えないリョウトに機体の改修を任せたことだ。ビアンとの戦闘はともかく、突然協力に前向きになったことや、それでも前の所属について情報を出し渋ること。だがある時期から、サイコ・ネットワークという、異端の技術を公開し、広め始めた。本人の人柄はともかく、その行動は何かを狙ったもののようで不気味だ。勘の鋭いものや用心深いものは、何かしら外部と連絡を取っていると考えているが、その手段はまだ見つかっていない。

 しかし同時に、ロブはリョウトがR-1、正確にはSRXチームの機体に並々ならぬ興味を向けていることに気づいていた。それは時々見れる視線であったり、データの参照回数だったりと、度々目にするのだ。

 この会議室にいる参加者の中で、そのことを告げているのはごく僅かだ。ターゲットとなっているSRXチームのパイロットにも教えていない。そうすることで、"仕掛け"が十分に機能するからだ。

 

「……リョウト・ヒカワの扱いについては、あくまで協力者だ。この場への参加の優先度は低くしている」

『……了解しました』

「……では次に、実際の対処方法についてだ。テンザン・ナカジマが参加した過去の戦闘を洗い出したが……」

 

 モニターの向こう側でイルムとキョウスケがひとまず納得したのを確認し、イングラムが具体的な対策についての話に移した。それに補足を入れながら、ロブは思った。

 頼むから、バカなことはしないでくれよ、と。

 

 

 

「……むぐっ……これでもダメか」

 

 整備のため膝をついているR-1のコクピットで、支給されたナッツ入り携帯食料を齧りながら、リョウトは唸る。ハンガーではまだ忙しなく人が動いているが、リョウトを気に留めるものは誰ひとりいない。なぜならば、リョウトは正規の方法でその席に座っているからだ。アーマリオンのモーションデータで不足分があったから、類似のモーションを持つR-1から抽出したい。それだけでよかった。実際はアーマリオンの調整は既に完了しており、モーションパターンも組み終わり、奥の手も完成している。

 今の目的はSRX系統のT-LINKシステム、その内にあるはずの"ウラヌス・システム"だ。シェースチからの依頼はそのコピーを入手すること。その為に技術を出し、ハガネ隊の一員になった。そのきっかけは確かにテンザンによる意図不明の行動だが、しかしビアン総帥を"殺した"ことで既に後戻りはできない所まできていた。

 だからこそこうして信頼を得て、R-1にも触れることができるようになったが、しかし上手く行き過ぎているという気持ち悪さも感じていた。その感覚に従い引き下がるには、リョウトは真面目すぎた。故に今もR-1のメインコンピュータに端末に繋げ、皺を寄せながらタイピングを続けている。

 

「ハッキングはダメ。なら機能を隆起させてそのタイミングで抽出する……けど問題はその条件。最低でもデータリンクしているパイロットの何かが必要……やっぱりαパルス出力かな? それなら僕か、駄目ならサイコ・ネットワークであ号たちに協力してもらえば……」

「おーい、リョウト!」

「っ、リュウセイ君?!」

 

 突然呼ばれた自分の名前に、即座に携帯端末を閉じ、ケーブルを引き抜く。そのままコクピットから顔を出せば、R-1正規パイロットのリュウセイがこちらを見上げていた。

 

「ミーティングは?」

「ああ、ついさっき終わった……リョウトが出るのは、その、気まずいかもしれないしな」

「ううん、テンザン君たちのことだからね……大丈夫だよ……っと」

 

 答えながら、R-1から降りる。リョウトは今回のミーティングについて、伊400への対策会議と既に聞いていた。ロブからは、かつての部隊でもあるため、参加は自由で良いと言われた為、その言葉に甘えて不参加を表明した。アーマリオンの調整も任せれていたこともあるが、R-1を調査できる絶好の機会であったからだ。

 

「というか、アーマリオンの調整に何でR-1にいたんだ?」

「えっとそれは、奥の手……システム・モルデュールのモーション用に必要なんだ。基本は蹴りとそこに繋げるためのフェイントだからね」

「はー、よく考えてるんだなぁ。というより、よくリオン系の機体で肉弾戦なんてできるな」

「元々テンザン君が始めたことなんだ。最低限の可動範囲でも、T・ドットアレイと関節部ロックを連動し、機体全体の剛性でカバーすれば、リオンでも徒手空拳はできるってのが本人の言葉だけど」

「そっか……やっぱアイツ、凄いやつなんだな」

 

 リュウセイはそう言って、僅かな間だが、黙り込んでしまった。何か悩み事でもあるのか、口元はきつく結ばれている。まさか、バレているのか。そのような不安がリョウトの中に漂った時、リュウセイの口がゆっくりと開き、リョウトの目を見据えた。

 

「リョウト。お前が見てる、あのシェースチっていう奴との夢、俺も見てる」

「ッ?! それは……ッ」

「待ってくれ! このことはまだ教官たちには言ってない!」

 

 予想だにしていなかった言葉に総毛立ち、咄嗟に身構えたが、それをリュウセイが両手で制した。

 

「リョウトたちがR-1……いやSRX計画の機体に興味があるのは聞いてた。そんでさ、最初はこんなすごい力を使えるやつに洗脳でもされてるんじゃないかって思ったけどさ……お前の目を見てると、そんなことはないって確信できた」

「……だったら、どうする? 僕を艦長たちに差し出す?」

「バカ、仲間をそんな売るような真似しねぇって! 俺がいいたいのは……その、どうしてこんな、遠回りなことをしてるのかってことさっ」

 

 リュウセイの感情と疑問に、言葉が詰まった。仲間と心底から思ってくれていることが想像以上に嬉しく、感極まりそうになった。それと同時に頭は冷静に"遠回り"の意図を読み取っていた。確かに、言われてみれば別にデータではなく、システムを搭載している機体を強奪すればいいだけだ。もちろんそれは途方もなく困難なことだが、手段としては十分有りと言えた。しかしそれでもシェースチはデータに拘った。そこに何か意味があるのかと、リョウトの思考は提起する。

 

「それは……っ?!」

 

 その疑問を何とか言語化しようとした瞬間、ぞわりと悪寒が走った。虫の知らせのような、嫌な気配。同様の気配を感じたのか、リュウセイも体を強張らせていた。

 

「ッ?! 今のは……リョウトも感じたか?」

「うん。ただ、誰かが念動力で接触してきた感じじゃない。これは……憎悪? いや……」

『リクセント公国防衛軍より救援要請! 総員、第2種戦闘配置!』

 

 過去のサイコ・ネットワークへの接続経験から、感じた思念を何とか言語化しようとした矢先、館内にエマージェンシーがかかった。明らかに無関係とは思えないタイミングに、リュウセイと一度向き合い、頷く。先程の続きはこの後でもできる。今はこの事態、そして異様な気配に対処するのが先だと、念動力を使わずとも通じ合い、互いに背を向け、持ち場へと駆け出した。

 軍への協力者として、そしてハガネに所属するものとして、やるべきことを行う。それが彼らの仲間としての、リョウト・ヒカワの流儀なのだ。

 

 

 

 そして、地獄の釜は開き、悪魔が這い上がる。

 




(投稿が遅れてしまい)本当に申し訳ない(CV:クソ科学者)

いつも誤字報告いただき、ありがとうございます。
こちらは確認次第、対応しています。
これからも不出来な所があればご報告ください。


PS.
アレキサンドライト 石言葉は「秘めた思い」

2021/2/9 ヒュージ・レールガンの表記をバレリオン・キャノンに訂正しました。

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