スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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良作スパロボSSがいっぱいなため、失踪準備の初投稿です。

2020/6/7 サブタイトルを修正しました。


Force of the Demon 1

『リクセント公国の諸君、ワシはディバイン・クルセイダーズ"総帥代行"アードラー・コッホじゃ。本日は資金の借りつけと、シャイン王女に是非ワシの実験に協力してもらいたく参った次第じゃ』

 

 それは、唐突にリクセント公国王都の海上に現れ、荒唐無稽な宣言をした。

 遥か高く浮かび陽光を反射する、盆のような物体。レーダードームのように中央部の円盤がゆるやかに回転し、その下には様々な兵装が取り付けられている。軍事に明るいものは、それがすぐさま、アームズフォート・イクリプスだと気づいた。AFには珍しく飛行可能な代わりに、標準装備では数機ほどの直掩機用格納庫しか持たない構造だが、攻守と索敵能力、そして電子戦能力に優れており、非常時の航空指揮所としての活躍を期待された存在だ。最大出力では小都市であれば焼き尽くすことが可能なレーザーキャノンと、同規模のAFの主砲であっても防御可能なエネルギーシールド。そして姿形が表すように、一隻で複数の戦場をコントロールできる電子制圧能力。これ一隻だけでも、リクセント公国のような小国に牙を向ければ、致命となりかねない。

 加えて随伴には、複数の空中戦闘母艦/ストーク級が並んでいる。制圧の準備も万全ということだ。

 これほど分かりやすい存在に、ここまで接近されるまで気づかなかったのは、イクリプスによるハッキングがあったからだろう。事実、城内通信装置から聞こえる城内地下の作成司令部の状況はハチの巣をつついたようになっており、復旧、少なくとも連邦への救援信号を出すにはまだ時間がかかるだろう。

 

「イクリプス……たしか、3隻生産された内の1隻がDC戦争直後に消息不明になったと聞いております」

「では、あれがその1隻ということですわね」

 

 我が物顔で海上に居座るイクリプスを自室から睨めつけ、シャインは世話役/ジョイスからの言葉を反芻しつつ、自らの記憶を参照する。先日見た予知の悪夢、それは全てを焼き滅ぼす光帯だった。兵装的にあれがそうかと考えたが、しかしあの夢のような、身の毛がよだつような恐ろしさは感じない。あるのは現実に脅威として存在する軍事超兵器と、愛すべき民に対する危機への焦燥だけだ。

 自分が出なければ、あのレーザーキャノンの砲口は間違いなく眼下の街へ向けられ、罪のない民が虐殺されるだろう。仮に防衛隊が出撃し、対空砲火が上がっても、それより先にレーザーキャノンのチャージは終わる。予知しなくともわかる絶望に、臍を噛む。

 先の予知/悪夢の様子から、万全を期すため王家寝室の近くの部屋に控えていたジョイスも、事前に覚悟をしていたが、抑えきれぬ動揺を必死に抑えようと、あえて知り得る情報だけを口にしていた。もし予知の件がなければ、今頃は慌てふためきながらシャインを探し回っていただろう。だがそれでも、これから王女が取るだろう行動を推測し、背中にじわりと汗を掻く。

 

「ジョイス、私はあの不届き者の元に行きます。民や防衛隊の皆には軽率な真似は止すようにと……」

「ですが、シャイン様……ッ、一足遅かったようです」

「そんなっ……」

 

 シャインが嘆く中、防衛隊のリオンが城内格納庫や屋外の基地から飛び上がり、DC残党へ殺到した。国家としては当然の反応だ。テロリストの要求に従う、それも王族を何の抵抗もないまま引き渡すのは国家の威厳に関わる。加えてシャイン王女の人気は高い。正しく偶像的な側面を持つ彼女を、AFというあまりにも分かりやすい暴力装置を向けてきた悪の枢軸に対し、無抵抗に引き渡すのは、それがどれだけ愚かであろうと、軍人/国民としてはありえない選択だ。

 

「すぐに皆に後退するよう指示を……」

『ふむ……王女はまだ出てこんか。ならばもうひとつの実験を、誇り高い公国防衛軍に付き合ってもらうとしよう』

 

 シャイン王女が動き出すより早く、イクリプスのハッチが重苦しく開く。そこから卵から生まれ落ちたかのごとく現れたのは6機のリオンだ。全て黄色のカラーリングに染められ、肩には3桁の番号が割り振られている。さらに見るものが見れば、右腕には通常のハンドミサイルユニットではなく、折りたたみ式のアサルトブレードが装着されていることに気づくだろう。同時にその装備は、一国の軍事力と正面から戦うとは言い難いものだ。

 

『たった6機だと?! 舐めやがって!!』

『怖気づくな、リクセント公国の強さを見せつけてやれ!!』

 

 公国防衛隊のパイロットたちが意気揚々と叫び、それぞれのレールガンを構えた。DC側には黄色のリオン以外に動きはなく、あのイクリプスの砲口も標準位置のままだ。

 なのに、不安が消えない。焦燥感が強くなる。その感覚が、ハウゼン家の血に眠る予知を走らせた。

 

「皆、逃げてっ!!」

 

 望まず見えたのは、煉獄。無残に殺されるパイロット、そして国民。そして迫る巨大な手に握りつぶされようとする自分。

 たまらず、叫ぶ。

 だが、あまりにも遅かった。

 

『……はは』

『ゲーム、ゲームの時間だ』

『さぁ、スコア稼ぎだっての!!』

『ひゃっははははは』

 

 悪鬼たちが、嗤い出した。

 

 

 

「なん、だ……これは……?」

 

 救援信号を受けてリクセント公国近海へと到着した連邦軍/ハガネのブリッジで、テツヤはそれ以外の言葉を失ってしまった。クルーたちも同様に観測/目視した結果、目を見開き、吐き気を抑えるかのごとく口元を抑えたものもいる。艦長ですら眉をひそめ、不快感を露わにしていた。順次発進し海上や中空へと陣取るPT・AM部隊にも動揺が走り、経験の少ない機の動きは精細さを欠いていた。

 それは端的に言えば、鉄くずの地獄だった。かつては美しい町並みであったろう公国の城下町には火の手が上がり、無造作に転がるスクラップによって建物は潰され、瓦礫の下からは血が滲み出ていた。人々は逃げ惑うが、降り注ぐオイルの雨に足を取られ、悲鳴と怒声、怨嗟の声を上げるだけの楽器と化していた。救援を送ってきていたのだろう防衛軍の姿なく、自ら守ろうとした祖国を汚す模様やアートとなっている。ある機体は逆さに地面に突きこまれ、またある機体は街の教会の十字架に機体を差し込まれ磔と化している。既に展開している敵軍のアームズフォート・イクリプスと直営艦のストーク級はさながら両翼を広げた悪魔のようであり、己自身が暗雲そのものであるかのように振る舞っている。

 

『酷い……酷すぎるわ……』

『こんなの、ビアン総帥の……あの人のやりたかったことじゃない……!』

 

 まだ兵士として日の浅いリオが戦慄き、元DCであるリョウトすら、この光景を信じがたいものとして受け止めていた。むしろリョウトのそれは、過去に所属していたからこそ、その困惑とにじみ出る怒りは他のパイロットたちよりも深いものだ。

 

『……ッ、見て、っ、あそこ!』

 

 蛍光色感の強いピンクのカラーリングが施された新型機/R-3で海面を滑るアヤが叫んだ先、そこにはこの光景を作り出した実行犯と思しき黄色のリオンたちがいた。そしてそれらを見たとき、誰かがヒッ、と悲鳴を上げた。

 

『ほーら、行くぞー』

『バキューン……ホッ! 右腕だけ飛んだぞ!』

『てめぇ、投げ方失敗したなっ?!』

『ホッ! こいつもう壊れやがった!』

『はっははは! ダサ過ぎだろそれぇ!』

 

 さながら、心底楽しげに人形を引きちぎる赤子のようであった。電子音染みた甲高い笑い声が不快さを増長させ、悪魔じみたものに聞こえる。何よりも恐ろしくも怒りを抱かせるのは、その人形だ。人形は徹底的に破壊された防衛軍のリオンであり、その胸部は露出し、ヘルメットを壊したパイロットの顔が見えていた。顔にはただ、恐怖と狂気が渦巻いている。吹き飛ばされた右腕から血が噴き出し、今にも命を終えようとしていた。しかしそれよりも早く、黄色のリオンの1機から撃たれたレールガンによって胴を潰され、次いで乗機の爆発に巻き込まれ、新たな汚濁として街へと降り注いた。

 

「これが……これが、人間のすることか?!」

『……ようやく来たか、連邦のハガネ』

 

 テツヤの叫びに応えるかのように、城下町の中央、鉄の血に汚された城の正面からガーリオンが姿を現した。その左手にはドレスを纏う少女が掴まれていた。その顔には後悔と懺悔の色が濃く、ただただ涙を流し続けている。

 

「あれは……」

「人物照合……シャイン王女本人と確認しましたっ」

 

 まだ顔が青いままのアヅキ・サワが、その少女が救出対象だということを告げる。先を越されたか、と臍を噛む中、再び通信が繋がれ、幾度も矛を交わしたことのある男の顔が艦橋、そして各機のコンソールへと映し出された。

 

『ハガネに告ぐ。シャイン王女、及びリクセント公国民の命が惜しくば直ちに武装を解除し、我らに降伏しろ……これは"忠告"だ』

『てめぇはDCの……!』

『テンペスト・ホーカー……』

 

 それぞれのPT、R-1とビルドラプターを飛行形態にして飛ぶリュウセイとラトゥーニが、その男の名を呼ぶ。元教導隊の男は、どうやら王女を捕らえるガーリオンに乗機しているらしく、声に反応してハガネの方を向き、わざとらしく王女を掲げた。

 

『王女は我々の手にある。大人しく従え』

『人質を取るとは汚ねえ真似しやがって! ビアンのおっさんの大義はどこにいった?!』

 

 修復を終え、民間協力者として参戦しているサイバスターの切っ先がテンペスト機へ向けられるが、しかし微塵も怯まず、テンペストは言葉を続ける。

 

『俺の大義は連邦への復讐だ。そのために手段は選ばん。もう一度言うぞ……』

『まあ待てホーカー少佐、奴らにもチャンスを与えてやってはどうじゃ?』

「……アードラー・コッホだと?」

 

 新たに繋がれた通信によって現れた顔に、ダイテツが怪訝な目を向けた。それはテツヤも同じだ。対DC残党においてもっとも優先して対処せねばならない男が、このような一介の戦場に姿を現す。それはこの作戦がアードラーにとって重要なものである可能性、それこそ組織再興のための資金略奪ではないことを示している。ならば相手の狙いは何か、それを探るべき、テツヤの脳が回る。

 

『久方ぶりじゃなあハガネよ。ワシはちょいとシャイン王女に用があっただけなんじゃが、ワシの連れてきた作品……いや、兵たちが血気盛んでの。公国が弱兵ばかりで遊び始めてしまったのじゃ』

『てめぇ……!』

『じゃからもし、貴様たちがこのワシの作品たちを倒せたら、このまま見逃してやろう』

『貴様……ふざけているのか?!』

 

 ライの怒声は当然のものだ。展開中の数だけを見れば、ハガネの方が上なのだ。加えてこちらは未完成とはいえ、Rシリーズという鬼札を用意している。並のAM部隊ならば鎧袖一触というのは、アイドネウス島以降から続く残党部隊との実績で判っているのだ。それはあの島での決戦で対峙した向こうも理解しているはずだ。

 それでも尚、挑発をしてくるということは、それだけの自信があるのか、はたまた別の目的があるかだ。

 

「艦長、如何いたしますか?」

「元より、王女の救助は絶対だ。加えて目的そのものだと言うのならば、王女に手をかけることはない」

「……確かに。ですが救助自体が……」

『ならば、敵機が撤退に入ったタイミングで狙撃する。狙撃手はライディースとアヤ、救出はリュウセイ。サイバスターは前面に出ての牽制、他の機はR-1のフォローに回れ』

『OK、イングラム少佐ッ』

 

 即座に提示された案を、ジャーダ他PTパイロットたちが受託した。テツヤとダイテツもそこに異論はなく、互いに目を合わせ首肯する。

 

『話は終わったかの? ほれ、お前たち。次の対戦相手がきたぞ?』

『ホッ! 本当かよっ?!』

『今度はもうちょい歯ごたえがあるのがいいっての』

 

 あの黄色のリオンたちもまた、状況を察して離陸し、ハガネ隊の正面へと布陣した。そのフォーメーションは出鱈目だ。かろうじて意図を読み取るならば、広く間隔を開けることで、網を広げることか。それにしてもその間は開き過ぎており、チーム内のフォローはできないだろう。

 

『そんなバラバラでいいのか?!』

『アードラー……ここで、あなたをっ』

『ほっほっ、強気なものじゃ。では試させてもらうとするかの……ゲイザシステム、エミュレートレベルを6に設定せよ』

 

 明らかに過小戦力だと見える相手を煽るが、しかし不気味なまでの笑みで返された。油断するな、と全員に声を掛け、ハガネからいつでもイクリプスを撃てるようエイタに合図する。 

 

『では、やれ。"テンザン・ナカジマ"隊よ』

 

 そして紡がれた言葉に驚愕した瞬間、悪鬼たちが動いた。

 

「はやっ……」

『がぁぁ!?』

 

 ブリッジの誰かが声を漏らした直義に、ジャーダ機の頭部に、黄色いリオンの右腕から伸びたアサルブレートが突き刺さっていた。他の5機もSRXチーム機やサイバスターへと群がり、こちらの虚を突いた初撃を見舞っていた。

 

『くっ……』

『な、んだ……こいつら、早えぇ……!?』 

『ジャーダァ!?』

 

 他の機は何とか致命傷を避けたが、しかし装甲を削られ、中には武器を切り飛ばされたものもいる。しかしジャーダ機が一番不味い。ガーネットが一拍遅れて反応した時には、左腕のレールガンの銃口がコックピットに突きつけられていた。

 

『まずは雑魚をっととっ』

『させない……!』

 

 すかさずラトゥーニがフォローしリオンを引き離すが、しかし行き掛けの駄賃とばかりにゲシュペンストの頭部を完全に破壊し、反れた銃口から放たれた電磁投射弾頭で胸部装甲を打ち据えた。そこからワルツの如く回転し、マシンガンを構えたガーネット機へとターゲット。

 

『っ、こんのぉ!!』

『ホイッと』

『っ……!』

 

 マシンガンの弾を回避しながらガーネットのゲシュペンストを撃ち抜き、更には変形しながら接近したビルドラプターのコールドメタルナイフすら反応され回避された。ジャーダ機も何とかサブカメラで援護をするが、当たる気配がない。それでも何とか3機で弾幕を張り、リオン1機を近寄らせはしないと足掻いている。

 

『ほらほらほらっ、どうしたでかい騎士さんよぉっ!!』

『っ、こいつ……!』

『マサキ、こいつ速いニャッ!』

『なんでノーマルのリオンで、サイバスターの運動性に追いつけるのニャッ!?』

 

 サイバスターの剣戟に、リオンが迫る。リオン特有の可動範囲の狭さを、機体全体の挙動とレールガンのゼロ距離射撃で補い、更にはテスラドライブの慣性制御をフルに活用した変則的な斬撃でもって、白銀の装甲に傷をつけていく。距離を取りハイファミリアを展開しようとするが、すかさず距離を詰められ、その隙がまだ見つけられない。

 

『ホッ! かっちょいいロボじゃねーのっ。俺にくれっての!』

『おっ、だったら俺はそこのいかついのな!』

『コイツら……っ!?』

『リュウ、ライ!? このッ』

『リュウセイとライは前に出ろ! アヤ、指揮を…チィッ!』

『おっと隊長機もーらい!』

 

 Rシリーズ3機に対しリオン2機が、イングラムが駆るビルトシュバインに対して1機が襲いかかる。R-1とR-2がそれぞれ1機を受け持ち、R-3が援護に専念するが、2機の放つ刃と銃弾は悉くを回避され、仕返しとばかりに致命の一撃が放たれる。そこをR-3が咄嗟に割り込ませたストライクシールドが受け持つことで均衡を取っているが、それもシールドが保つまでだ、長くはない。加えて、本来全体の指揮に入るべきイングラム/ビルシュバインは、サイバスターと同様、リオン1機に抑えられている。休みなく繰り出される攻撃を凌ぎ、反撃の機会を待っているが、与えられる損傷は徐々に増えていき、押されている状況だ。

 

『ホッ、みょーにゴツイなお前! お前には勿体無から寄越せよッ!!』

『リョウト君、今援護を……きゃあっ?!』

『リオ、離れてて! こいつ、この声……この動き……っ!』

 

 そして最後のリオンは、リョウトのアーマリオンへとアサルトブレードを叩きつけた。アーマリオンの腕部ロシュセイバーを出力し即座に切り返すが、耐プラズマコーティングが施されるDC標準兵装を焼き切ることができず、鍔迫り合いとなる。海面からリオのゲシュペンストがアサルトライフルの銃口を向けた瞬間、リオンのレールガンが瞬き、自身を傷つけようとする銃器を撃ち抜く。更に肉薄していた状態から逆ブーストを掛け、ターンと同時に再度ブレードが振るわれた。咄嗟に受けきれたのは、リョウトの経験によるものだろう。

 

「各機、エンゲージ! 押されています!!」

「敵機が近すぎて援護ができません!」

「それは判っている! 敵旗艦に動きは?!」

 

 先制を取られたことによる焦りか、テツヤの口から怒声が溢れる。思考も熱くなり、この危機的状況に対する手を即座に考えようとしたが、しかし次の瞬間、息を乱された。

 

「敵旗艦、動きがありませ……いえ、ハガネのシステムへの攻撃を検知! クラッキングを受けています!!」

「何っ?!」

 

 思わず叫んだ瞬間、艦橋から光が消えた。致命的なクラッキングに対する強制防御機構が働き、ハガネのシステムが一瞬落ちたのだ。だがその一瞬が命取りだった。

 

「総員、掴まれッ!」

 

 ダイテツが叫んだのとほぼ同時に、がくん、とテツヤの体が宙を浮く。テツヤだけではない、ブリッジの中で固定されていないもの全てだ。落ちる、と認識した瞬間には光が灯り、次の瞬間には椅子へと叩きつけられ、そのまま床へと転がり落ちた。悲鳴と騒音が一斉に鳴り響き、艦橋内がパニックを起こしかける。

 

「ぬう……被害報告!!」

 

 負の方向へ向かおうとするそれを、艦長の一声が食い止めた。痛む左肩を抑えながらテツヤが立ち上がり、艦長の状況を確認する。衝撃で帽子が落ちたようだが、咄嗟に肘掛けに腕を引っ掛けたことで転倒は避けたようだ。何より復旧していくシステムを誰よりも早く目で追っており、次の行動を選択するための準備を行っているのだと察した。流石だと感嘆を身内で零しながら、即座に体ごとを反転して、一度息を吸い、溜め、一気に吐き出した。

 

「エイタは状況確認を! アヅミは通信復旧を急げ!!」

「つぅ……りょ、了解!」

「ハガネの通常航行システム復旧率70%、ですが火器管制システムは80%停止! 予備システムビジー! 第4バックアップからの復旧まで10分かかります!!」

「トロニウム制御機構ならびテスラドライブ制御装置、損害はありません! ですが重力制御システムへの侵入跡を確認できます」

「やはり先程のはそれか……」

 

 現代の宙空域行動が可能な艦船は、大なり小なり重力制御機構を備えている。モニター越しのアームズフォートしかり、ハガネを含むスペースノア級や外宇宙探索を目的としたヒリュウ改しかり、そして大型母艦であるストーク級にもだ。テスラ・ドライブ以前から研究されていた技術ということもあり、艦船クラスであれば搭載に支障はきたさず、それなりに高価とはいえ、信頼性もある。それはテスラ・ドライブによるブレイクスルーが起きた後も変わらない。

 そこを地球大気圏内で攻撃されることは致命になりかねない。もし停止させられたのならば、先程のハガネのように、重力に補足され、最悪は海に叩きつけられただろう。

 だからこそ、トロニウムエンジンほどではないにしろ、堅牢な防御機構に守られているはずの重力制御システムに侵入を許してしまったことは、驚愕に値することだ。同時にその驚きは敵AFへの脅威度へと直結する。

 

「電子戦特化型は伊達ではない、ということかっ」

『その通り。どうじゃ、イクリプスの支配能力は? 総帥代行の儂にピッタリじゃろう?』

「……警告、ということか?」

 

 強制的に接続された通信画面で、アードラーが得意げに笑うのを一瞥し、ダイテツが呟く。文字通り電子戦の支配者として玉座に座る簒奪者は、その言葉に対してほくそ笑む。

 

『さすがかのミナセ艦長、察しがよくて結構。お主らの相手は、忌々しいPT共をワシの"テンザン・ナカジマ"隊が始末した後、ゆっくりさせてもらうぞ。だからそれまでは大人しくしていてもらおう』

「くそっ、舐めた真似を……」

「落ち着け、オノデラ大尉……先程も言っていたテンザン・ナカジマ。それは一パイロットに過ぎないと認識しているが?」

 

 挑発だと判っていても反応してしまうテツヤに、ダイテツからの叱責が飛んだ。そして落ちていた帽子を被り直しつつ、誰もが疑問としたことを口にした。手が出せない以上、それ以外での行動を起こす。今で言えばあの正体不明の敵機の情報だ。引き出す情報から、あの異様な戦闘力の正体、そして突破口を開けるかもしれない。テツヤもまた復旧指示を出しつつ、思考を割いて2人の会話に耳を傾ける。

 案の定、自己顕示欲と名声欲が強く、それでいて悪い意味での研究者気質を持ったアードラーは破顔し、楽しげに口を滑らし始めた。

 

『ヒョッヒョッ、よい質問じゃ。アレは儂が開発中の"ゲイムシステム"の亜種、ゲイザシステムじゃよ』

「ゲイムシステムに、ゲイザシステム……?」

『ゲイムシステムはまだ言えんがの……ゲイザシステムはある人間を、そのまま生体CPUでエミュレートすることじゃ』

 

 具体的な内容はわからないが、単語の意味から類推するだけで、嫌な予感がする。

 

『まぁ察しの通り、このシステムはどんな人間であろうと"テンザン・ナカジマ"にし、その戦闘能力を量産することができるのじゃよ!』

 

 

 

 そのシステムの概要は、今回の作戦での前線指揮権を与えられているテンペスト・ホーカーには伝えられていた。

 テンザン・ナカジマという超一流のパイロットを"量産"する。字面だけを見れば、兵器を扱う軍隊にとっては夢のような代物だ。いくらシステムが簡略化し、ゲームにまで落とし込めるようになったとしても、パイロットの質とイコールではない。パイロットとして運用するには一定の教育と経験が必要だが、何時の時代もその部分だけはコストがかかる。加えてエースパイロットと呼ばれるようになるものは黄金よりも貴重だ。

 では、そのイカサマを成り立たせているのは果たして何か。パイロットの資質の選定か、流行りの念動力か、はたまた新開発のOSか。答えはどれでもない。

 ゲイザシステムは文字通り、人を"テンザン・ナカジマ"に変えてしまうのだ。それも、アードラー・コッホの都合のいい形で。

 

『ワシは常々考えている。能力は、優秀な者が運用してこそ正しく発揮されると。業腹じゃが、ワシが今まで見た中でテンザンのヤツの操縦技術はこの世でもっとも高い。じゃがヤツはワシの言うことはまるで聞かんし、支離滅裂な行動も取る。加えてそこに付け込まれて負けることもある。これではせっかくのアドバンスド・チルドレンとしての能力は宝の持ち腐れじゃ。じゃからワシは、その能力だけを抽出する』

 

 作戦の前に、アードラーはテンペストに対し、そのシステムを導入したリオンの前で全容を語った。リオンのコックピットには通常の機には存在しない計器やケーブルが設置され、パイロットシートの代わりに拷問器具染みた椅子が用意されていた。そこに座らされたパイロットもまた、悍ましい処置が施されていた。

 

『生体CPU……調整したパイロットの人格を上書きする形で"テンザン・ナカジマ"をエミュレートし、ヤツの人格と資質を再現する。その上でワシが使いやすく調整する。そうすることで、手軽に強いパイロットを生み出すというわけじゃ』

 

 6機の内の、人の形を保っていたのは4機。それにしたって、パイロットには最低限の耐G器具しか装着されず、メットもまた一昔前の洗脳装置のような装置であり、隙間から見える頭部には巨大な電極が2つ、埋め込まれていた。残る2機の内、1機のパイロットは四肢が切断され、直接機械と繋がされた状態となっていた。目も潰され、バイザーのようなものを目の代わりに埋め込まれていた。時折聞こえた唸り声は、もはや人のそれではなかった。そして最後の1機はパイロットですらない。培養液に浮かんだ赤ん坊だった。どこからか調達した赤ん坊のヘソに、臍帯代わりとばかりにチューブが接続され、リオンと一体化していた。

 

『そしてその結果……人格面が大分凶暴化したが、実に使いやすい、優秀な兵士たちが生まれたわけじゃ』

 

 アードラーが直接乗り込むAF・イクリプスから投下された6機は、システムが起動した途端、奇声染みた笑い声を上げた。さながらそれは、誕生に喜ぶ子供のようだった。そして生まれたのは、どうしようもなくクズとなってしまった"テンザン・ナカジマ"だった。

 近づく防衛隊のAM隊をなぎ倒し、傷一つ付かず、ものの数分で一国の戦闘能力をすり潰してしまった。かつての恩師であるカーウェイ・ラウすら彷彿させる巧さと、苛烈なまでの攻撃性。純粋なパイロット技能であれば、テンペストでは敵わないだろう。

 そして、その残忍性は度を過ぎていた。明らかに撃墜できるタイミングでわざと逃し、嬲るように敵機をダメージを与え、最後には嗤って命を奪う。ハガネが現れた時には、王女を信奉していた男の心を折り、ただの玩具にしていた。その過程で、避難する民間人という無用な犠牲というべきものを、わざと出していた。それはもうテンペストが知るテンザン・ナカジマではない、ただ虫を潰す子供のようだ。

 口に出せぬ評価を下すならば、テンペスト・ホーカーという一人の士官として、このゲイザシステムは欠陥品だ。戦いを楽しむことは1つの感情として存在する。あえて残忍・残酷な手段や作戦も存在する。だが、戦争をただの惨殺に遷移させるこの兵器は、他の兵士に悪影響を与えかねない。

 そして今、一人の人間として、不思議なことに認められない。それは今ガーリオンの左手で、少女がすすり泣いているからだ。自分の子が生きていれば、同じぐらいの歳の子だ。それはもう、ひたすらに、悔しげに、悲しげに。

 見ることができなかった子の泣き顔に、その顔がダブってしまう。錯覚するたびに、どこからか視線を感じた。己を、己の中の連邦への怒りが赤く揺れるたびに、視線の圧が強くなる。非難されている、と意識してしまう。

 

「バカバカしい……俺は、連邦への復讐ができれば、それで十分だ」

 

 己の感情に惑いながら自陣へ戻る。遅々とした行動だが、追撃はない。6機のゲイザシステムが、完全にハガネのPT隊を追い詰めているからだ。

 3機で組んでいたPT小隊は、ビルトラプターは右足を切り飛ばされ、既に中破しているゲシュペンスト2機に庇われたが、今度はその2機が止めとばかり追い詰められている。

 かつてはアイドネウス島で猛威を奮った魔装機神は一進一退の攻防を繰り広げているが、距離を取ろうとする度に機体にダメージを重ねていき、動きに精細さを無くしつつある。パイロットの集中力が切れれば、すぐに決着がつくだろう。

 隊長機と思わしきビルトシュバインも大分保たせているが、たった今、左腕の発振器を内側から吹き飛ばされた。他の機がフォローに回れなければ、そのまま堕ちるだろう。

 Rシリーズは想像以上に戦えている。少なくとも拮抗状態には出来ていた。各機の役割がうまくハマっているのもあるが、前面に出たR-1の動きがテンペストの想定以上にいい。あのアイドネウス島での決戦から腕を上げた、というには、いささか違和感を覚える程に。

 そして見慣れぬリオンの改造機とゲシュペンストだが、多少押し込まれているものの、十分戦えている。特に異形のリオンの動きはゲイザシステムの動きに正確に対応しており、あの"テンザン・ナカジマ"が攻めきれないでいた。パイロットの腕がいいのか、もしくは同じ戦隊スタイルと戦い慣れているのか。どちらかが定かではないが、それでも逆転の目があるとすれば、あの機体だろうと思わせるほど。それでもそれは、ゲイザシステム機1機を相手取っている間だけだ。他の機が受け持つゲイザシステムが加勢すれば、すぐに崩れるだろう。

 

『……動きに、追いつけないっ』

『よくもやってくれたな、このやろうッがぁ?!』

『2人とも、早く逃げ……ああぁ!』

『ラトゥーニ! ジャーダ! ガーネット?! くそっ、そこをどけぇぇ!!』

『テンザン・ナカジマだと言うのならば、くっ……』

『ライッ、アヤッ! もっとオレに合わせてくれ! じゃないと皆が……!』

『リュウセイっ、無茶をするな?!』

『リュウ、あなた……一体何が……?!』

『テンザン君の再現なら……けど、それでも僕じゃあまだ、攻めきれない!?』

『悔しい……なんで私には、こんな時に力がないの……!』

 

 広域回線から聞こえてくる混乱模様は、テンペストの予想を裏付けている。ハガネはイクリプスに抑えられ、援護はない。連邦の援軍が更に来るとしても、まだしばらく時間がかかるはずだ。

 正しく詰み。あの信用ならない総帥代行の思惑通りになるというのが癪だが、散々こちらを悩ませてきた相手を排除できるならば、儲けものだ。

 呆気ないものだ、と口にしながら、ふと考える。もしこの状況をひっくり返すならば、それは何か。

 自分ならば、敵戦力の分析のために遅延戦闘、もしくは味方機の誰かを囮にしての撤退だ。だが今は遅延戦闘はゲイザシステムの猛攻が許さず、撤退もイクリプスのハッキングとレーザーキャノンが許さない。それならば、後に残るのは1つだけ。

 

『レーダーに感……南東から音速で接近する機影、1!』

「なに?」

『なんじゃと?』

 

 それは、この場の誰もが想定していないイレギュラーに他ならない。

 

『IFFはDC、機影照合……該当なし!』

「このタイミングでDCの残党……合流にきたのか?」

『ふん、今更来ても遅いわ。それも1機じゃと? 舐め腐りおって、いっそゲイザシステムに……』

『機影分離! 1機が更に加速……ホーカー少佐、来ます!』

 

 部下からの声に反応し、自機に回避機動を取らせる。レーダー上は確かに速いが、動きは直線。加えてAMよりも若干小さい程度。相手の正体は分からないが、近接兵装分の伸長を考慮しても、少し機体を動かせば、そのまま避けられる計算だ。

 

「何だ……アレは、巨大な十字架か?」

 

 だからこそ、肉眼で確認できたそれに、度肝を抜かれ。AMの背丈に迫る巨大な十字架、そう見える大盾だ。自立飛行しているのは、独自にテスラ・ドライブ辺りを備えているからと推測する。しかしそれがどうしたと、回避行動のまま、それが飛んできた方向に意識を集中した。それ故に、反応できなかった。

 

「なっ?!」

 

 すれ違いざまに、その十字架から伸びた銀の刃に反応できず、左腕を断たれた。想定外の攻撃に度肝を抜かれ、判断と動きが遅れる。そして状況に気づいたとき、己の失態が口に出た。

 

「しまった、王女がっ?!」

 

 機体から切断された拍子に開いた手から、シャイン王女の体が解き放たれ、そのまま堕ち始める。突然の自由落下に、ドレスに包まれた少女の顔が恐怖に染まるのを見てしまい、何とかこちらでその体を捕らえよう/助けようとするが、それよりも早く少女に近づいた影があった。

 それは、歪な機体だった。かろうじてリオン系列とわかる骨格だが、改造された関節部や取り付けられた推進装置・装甲のせいでPTとも見て取れる。装甲に包まれたデュアルアイがテンペストを睨みつつ、相対速度を合わせて少女の体をブーケのように両手で受け止めた。左肩に付けられたDCのエンブレムと、かつて一度だけ見たことがある"第9研究室"の文字が、その機体のパイロットが何者かを示していた。

 

「テンザン・ナカジマ……」

『……ヒョホ、なんじゃ、来たのはお主か、アイドネウス島で捨て石にされたお主が今更なんのようじゃ?』

『テンザン……本物の方か……?』 

 

 自転しながら飛翔する十字架がひとりでにその機体の背に移動し、接続される。どうやら先程分離したように見えたのは、あの機体から射出されたからだろう。同時に、どういう意図で現れたのかか、戦術・戦略家としての顔で観察を深めつつ、同じく動きを止めたゲイザシステムたちに指示を出し、3機を追い詰めていた1機をこちらに向かうようにした。アードラーのものよりは優先度が低いとはいえ、現場指揮官を任されているテンペストにもゲイザシステムのコントロール権が渡されているからこその行動だ。もちろん、こちらから新たな指示を出すまでは手を出さないようにとした。

 

『……おい、アードラー』

 

 開かれた通信回線から届く声が、パイロットがテンザン・ナカジマ本人であることを確定させた。指示を出したゲイザシステム機が動き出し、右腕のアサルトブレードを起動させる。それを見越してか、はたまた当初から相性が悪いのか、露骨に機嫌を損ねたアードラーが見下した調子でテンザンに答えた。

 

『目上の人間になっとらん口じゃのう? まぁいい、今なら先程のを含めて許してやるから、王女をこちらに……』

『コイツ等は何だ? 何でここまで殺す必要があった?』

 

 テンザンの機体が、煙の上がるリクセント公国へ向く。それに合わせ、王女もまた、己の体よりも大きなマニピュレーターを支えに起き上がり、破壊された己の母国を見た。涙を堪えようとするその顔に、また何者かの視線が、テンペストに内にある憎悪の火を睨むのを感じた。

 

『そんなもの、不要になったお主には関係なかろう? ああ、しかしワシの研究にまだ貢献するというのであれば、仲間にしてやってもよいぞ? お主を元に作ったゲイザシステムは今少し調整が……』

『……そうかよ。もういい』

『なんじゃと?』

『もういいって言ったんだよ、パクリの腐れ外道がっ』

 

 テンザンが、あのテンザン・ナカジマが吠えた。テンペストには不可解だった。確かに口と態度は悪くとも自ら望んで殺戮に値することを質ではなかったハズだが、それでも今のような真っ当なことを言う人間ではないといういうのが、テンペストの中のテンザン・ナカジマだった。

 あのアイドネウス島からの脱出で何か変化があったのか。そんな疑問を浮かぶが、状況は悠長な思考を許してくれそうにない。

 オープン回線のどこからか、仲間割れか、という疑念の声が出るのと、アードラーの米上に青筋が浮かぶのは、ほぼ同時だった。

 

『……そうかそうか。ワシの慈悲を拒むか、ならば……』 

『ひゃっほぉぉ! 高スコアエネミーだぜぇ!!』

「っ、不味い!?」

 

 激高したアードラーが指示を下すより前に、潜ませていたゲイザシステム機が急加速した。その理由は、ただ我慢に耐えられなくなかったからだ。その凶暴性と思考形態から、ゲイザシステムはマスター/アードラー以外からの指示を守る可能性は高くない。その事前説明は受けていたし、2重で指示を待つようにと出した。それでも尚、勝手に行動されるなど、やはりシステムとしては欠陥品だ。

 

『ほっほっ、オリジナルとは違って気が利くのう。さぁやれぇゲイザシステム! その生意気なオリジナルを潰すがよい!』

 

 加えて、アードラーが後付でGOを出した。王女はどうした、と悪態をつきそうになりながら、ガーリオンに進路を塞がせるべく、スラスターを起動する。それにしても数手遅い。ハガネ部隊の誰かが息を飲み、ゲイザシステムたちが狂躁を上げる。

 皆が想像したのは、テンザン機が不意を突かれて応戦し、それに巻き込まれてシャイン王女が今度こそその生を散らす光景だ。

 

『はっ、はあ?!』

 

 だが、その未来は否定された。

 気づいた瞬間、テンザン機の左手だけが動き、ゲイザシステムのリオンの両腕と左足が砕かれていた。瞬く間に構えられた小型レールガンが撃ち放ったのは4発。破損状況から、1発はアサルトブレード、2発は両腕、最後に足。テンザンの機体は敵機を見向きしていない。それなのに、あれほど高精密な連射が行われたのだ。

 

『あ……ああ、あっ?! 俺の手が、足が!? てめぇ雑魚のくせに、雑魚のくせにぃ! そ、そそそうだこれはミスだ! リセット、リセぶへッ』

 

 錯乱し、異常数値を吐き出すゲイザシステムへと、止めとばかり最後の1発が、頭部に撃ち込まれる。機体は数秒痙攣した後、フリーズを起こして海へと落ちていった。

 度肝を抜かれた。それはテンペストだけではない。再現に成功したと思っていたアードラー。実際に戦い、苦境に立たされていたハガネ隊。その悪魔染みた悪行をただ見ていたDC残党の面々。ただ見ていることしかできないリクセント公国の軍人や国民。

 あれほどの驚異と恐怖を撒き散らした悪鬼が、わずか数秒で落とされたのだ。

 

『な、な、な、なんじゃと!? お主、今まで……今まで、データを偽ってきたのか?!』

 

 アードラーが間抜けに口を開いたまま出した問いかけから、この事態は想定外のものだったことが伺える。システム自体をかの恩師と同等と見ていたテンペストとしても埒外のものだ。化け物か、と口の中で溶けるように畏怖を零す。

 

『……アードラー。俺は今日ここに、お前と交渉に来た……けどな、まずはその前提を変えさせてもらう』

 

 IFFが変わる。味方を示す青から、赤へ。同時に別のデータベースから検索したのか、機体名がUNKNOWNから、XenoLionへと変じた。

 

『まずは、てめぇの作ったパクリを、全部ぶっ壊させてもらう。そして、王女は俺がもらっていく』

 

 そして向けられた銃口と宣言は、明確な敵対行為だった。

 

 




(前半のグロ系描写)ヨシ!
(最後のテンザン登場)どうして無双ゲーになってるんですか?

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