スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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ほわんちゃんが可愛いので初投稿です。

2020/6/7 サブタイトルを修正しました。


Force of the Demon 2

 許せなかった。

 人が嗤われながら殺されるのが。罪のない人々が玩具のように壊されるのが。

 己から生じた何者かが、イタズラに人を傷つけるのが。

 操縦桿を握りしめる手が軋む。自分自身を傷つける以外で、これほど力が篭もったことはなかった。噛み締めた奥歯がキイキイ鳴り、胸中が熱で満たされる。吐き気もする。しかしそれで吐き出されるのは悪臭ではなく、怒りと声だ。

 この世界に不当に生じた人間であり、ただの人殺しに過ぎない自分がこんな怒りを抱くのは筋違いかもしれない。それでも、今も嘲笑い続ける5匹の悪魔が、只管に憎らしく、殺意が湧く。

 

『テンザンさん……予定全部、すっ飛ばしましたね?』

 

 脳の裏で、呆れたようなシェースチの声音が響き、それに合わせて仮想映像の少女が頭を抱えた。そのことで僅かながらも頭が冷え、状況を再認識し始める。

 情報をキャッチしてすぐにイタリアのイスルギ重工支社から出撃したはいいが、シェースチに負担を掛けないよう巡航速度を心がけていたことと、連邦軍のパトロールに引っかからないよう回り道などもした影響で、大分出遅れてしまった。広域回線がぎりぎり届く距離まで近づいた時には、既にハガネとの戦闘が始まっており、ちょうどアードラーの自慢話が行われていた。

 だからこそ、聞こえてしまった。そして、気づいてしまった。あの時自分に対して行われたことは、この悪鬼たちを生み出すための下地になったのだと。

 その怒りを、サイコ・ネットワークによって感じていたシェースチは何も言わず、ただその感情を動力としてゼノリオンを加速させた。テンザンはすぐに気づいて止めさせようとしたが、それより前にFCSとフォーカスが彼女によってある一点へと結ばれた。ズームアップされたのは戦場にいる唯一のガーリオンだ。明らかな指揮官機であり、彼の知る"原作"の知識から、パイロットがテンペストであると当たりをつけるが、それと同時に、ガーリオンの手に捕らえられた少女の存在に気づく。

 少女のことも、テンザンは知識として知っていた。シャイン・ハウゼン。リクセント公国の王女で、いずれ鋼龍戦隊に合流する少女だ。王族故に一般的な知識に疎いところがあるが、生まれ持った未来予知能力にも押しつぶされない芯を持った、強い少女。覚えている限りでは、この戦いではDCに啖呵も切っていたはずだ。

 そんな少女が、普通の女の子のように泣いていた。

 どれだけ酷いものを見せられれば、あんな子が泣きじゃくるのか。それとも、ただ"原作"知識と現実の違いというだけであろうか。

 ただその疑問は瑣末事だ。一番の問題は、自分から生まれた、己の中にあるイメージそのものとも言える"テンザン"たちと、この場に本当に現れたアードラーが、悪逆非道の行いをして、ただの女の子を泣かせたという事実だ。

 気づけば、シェースチに頼み、不意打ちでシャイン王女を奪還し、馬鹿らしい啖呵を切ってしまった。激情のままに動いたこともあって、攻撃をしてきた敵機を咄嗟に迎撃もしてしまったが、少し冷静になると、僅かな羞恥心が芽生えそうになった。

 

「……最後のプランがあったろ。それだ」

『苦し紛れですね……』

 

 文字通りの苦し紛れを一蹴され、つい唸る。明確な敵対宣言と行動をとったことで、当初日記にまとめていたアードラーに取り入る諸処の方法は確かに使えない。だからこそ、最後に考えていたプランを提示したが、文字通りの苦し紛れだ。

 そのプランは、戦闘中にDC残党とハガネの間に割り込み、シャイン王女の身柄を奪取し、アードラーに強引に交渉テーブルにつかせること。これであれば、こちらの有利な状況でアードラーを呼び出せる。もちろんその場から逃げるのは至難となるという考えであり、加えて"原作"の流れに大きな介入を起こしてしまう。何よりもシャイン・ハウゼンという一人の人間を利用してしまう。テンザンの中の良識、と呼ぶには身勝手すぎる感情がシャインを悪戯に巻き込むこととなることを拒絶したため、考えただけのプランに過ぎなかったのだ。

 だが、もはや状況は覆りそうにない。

 

『この……ただのパイロットのクセに、生意気なことを言いよる……!』

『く、機動部隊、出撃……』

『待つんじゃテンペスト少佐! あのような愚か者、ワシのゲイザシステムが潰してやるわ! 貴様は戦闘後に王女を回収することだけを考えておけばよい!』

『っ……いいだろう』

 

 片腕を失ったガーリオン/テンペストが後退する。どうやら彼は戦闘の介入はしないようだ。ならば好都合と考えつつ、ハンドレールガンをホルスターに仕舞い、王女を乗せた手をコックピットに近づける。同時にハッチを開き、未だ茫然自失といった様子のシャイン王女に、体を少し乗り出して手を差し伸べた。

 

「……おい、景品。こっちに来いっての」

 

 こちらの狙いのため、あまり仲良くならない方がよいと考えて、あえてキツイ言葉をかけた。こういう時に"テンザン"でいることは便利だと、益体のない感想を心中だけに漏らす。案の定、シャインの形のよい眉が上がり、泣き顔と自失しか見たことのなかったそこに、ようやく人らしい感情が生じた。

 

「……それは、もしや私のことを言っていますの?」

「ホッ、当たり前だっての。あいつらにとっても、俺にとっても、あんたはどうしても手に入れたいお宝だっての」

「っ、信っじられませんわ! 何ですのその態度! 先程の勇姿のごとき言葉はどこに……っ!?」

 

 本来の性質そのままに口火を切ろうとしたシャインの体がびくりと震えた。予知か、とその変化に気づくと共に、P・ネットワークを通じてシェースチの警告が届く。

 

『嫌な感じが3つ来ます、すぐに……』

「ああ。ったく、とにかく来い! 危ないだろがっ」

「んな、そんな強引なっ!」

 

 シャインが何か抵抗する前に、細く小さな手首掴み、狭いコックピットへ引っ張り込む。怪我をしないように一度体で受け止めつつ、ハッチを締める。その後に脇に手を回して体を持ち上げ、シートの後ろへと回した。

 

「い、犬猫みたいに扱って……!」

「おい、後ろは見るなよ」

「はい、後ろ? ……っっっ、むぐっ!?」

「だから言ったろっての」

『テンザンさんが言わなければ見なかったでしょうに……』

「っ?! むぐ、むぐぐんぐ?!」

 

 テンザンの注意に釣られて背後を向いたシャインが、シェースチの姿を見た瞬間に叫びそうになった。それを間一髪手で塞ぐことで妨げると、シェースチの呆れの声と、声にならないシャインの叫びが脳内に響いた。どうやらサイコ・ネットワークに彼女を入れたらしい。

 

「しばらく思念だけで考えてろ、こっちで勝手に拾う。手は俺の体まで回せ、吐きたくなったらそのまま吐け。あと、舌噛むなよ!」

「わ、わかりぃッ?!」

 

 シャインの返答を待つより早く、機体を前のめりにダイブさせる。同時に機体の真横を黄色のリオンが通り抜け、数秒前までゼノリオンのいた位置をアサルトブレードの鋸刃が薙いだ。機体を上下反転させつつ、蹴りで峰を弾き、相手の体勢を崩す。そのままレールガンを引き抜くためマニュピレーターをホルスターに回そうとしたが、即座に腰部スラスターで機体を強引に回転させ、飛んできた電磁飛翔体を避ける。

 

『うほっ?!』

『下手くそが、見てろ!』

『そうはいくかよっ!』

 

 次々に放たれる2方向からの射撃を、銃口を予測しながらランダム機動で回避。それでも確実に当ててくるコースを、背中の盾に当てることで防ぎつつ、右手にレールガンを握らせる。更に盾をパージ、機体を錐揉みさせながら左手で掴み、3機目のアサルブレードを受け止める。同時に向けられたレールガンは、こちらも向けていたレールガンを同時に撃つことで軌道を反らす。

 

『やるじゃねーか、ヘンテコォ!? こりゃ攻略し甲斐があるっての!』

「そいつはどーもってのっ!」

 

 両肩バーニアを全開にして、リオンを押し返す。しかしそれを相手は読んでおり、逆ブーストを掛けて後退。ゼノリオンの体勢を崩そうと目論む。自分自身だからこそ、そうするだろうと読める。故にカウンターとして、腰部スラスターを右に掛けて、盾ごと機体を回す。ゲイザシステムがこれ幸いとレールガンを向けるが、それより早くシールドの加速機構を機動、超至近距離からブーストを掛け、敵機の下半身に蹴り叩き込み、吹き飛ばした。

 

『くほっ???』

 

 怯んだ相手に向けてすかさずレールガンの弾丸を打ち込み、両肘を破壊する。それで落ち始めた機体から視線を外し、残る2機へと探した。だが左右の視界には存在せず、殺気だけが向けられている。

 

「つまりっ」

『上下から来ます!!』

『当たりだってのぉ!!』

『ヒャッホーー!!』

 

 咄嗟に機体を後退させて、2重障壁を広げようとする。しかしエネルギーフィールドが展開するよりも前に、哄笑と鉄の槍が機体を襲い、衝撃が機体を揺らした。頭部と上半身に掠り、直撃だけは避けたが、被弾の衝撃で体勢が崩れ、シャインの悲鳴とシェースチの耐えるような呻き声がコックピットとP・ネットワークに広がった。コンソールには耳慣れたアラートが鳴り、己の命に馴染みの死神が声を掛け始めた。

 

『ほらほらほらっ、チャンス到来ぃぃ』

『ボーナススコアでハイスコアだってよぉぉ』

 

 上から牽制を撃ちつつ逆落としを仕掛けるリオンが、アサルトブレードを構えてゼノリオンを直接切り刻もうといきり立つ。海面で背面飛行を行う機はレールガンでの狙撃に徹し、ゼノリオンが斬撃を受け、回避しようとした瞬間を狙い撃とうとほくそ笑んでいる。

 どう捌く、どう避ける。常に戦場で起こるこの選択は、かつてのテンザンにとっては"どうやって負けるか"と同義だ。"テンザン・ナカジマ"であればそれは受け入れて当然の現象であり、その為の選択・光景はいつも見ている。

 即ち、命が奪われる光景をいつだって見ている。こうすればあと何手目で死ぬ。ああすれば誰々によって動きが止められ他の誰々によって落とされる。きっと誰もが見ていると思い込んでいるそれは、テンザンは過去の死と、何度かの臨死体験で手に入れたものだ。才能のない、と考え込むテンザンはその中の一部を、恣意的、または見えぬものまで無意識に選び、死んで/負けてきた。1人であればそれもよかった。

 しかし今は違う。助けたいと誓った人がいる。世界と未来に関わる少女がいる。それらは自分ひとりの命とは天秤に合わない、大切なものだ。自分がどうなろうと守らなければならないものだ。

 故に、テンザン・ナカジマは、"那由多に等しい"死から複数の道を選び、組み合わせ、一つの道を作る。

 それは、もっと善き道もあり、愚鈍であろうとも、テンザンが選んだ生への道筋だ。

 

「シェースチ、ゴメン……無茶言うぞっ!!」

『気にしないでって、いいましたよ!』

「っ! そうだったなっ」

 

 シェースチの答えと気迫に心を奮い立たせて、策をイメージとして送り込む。答えは、可。同じ思念を共有するシャインが、2人の感情に目をしばたかせ、しかしすぐに眼光を強め、これから起きる状況へと身構えた。

 

「タイミング合わせるぞ、3,2……」

 

 右腕のスナップだけで、レールガンを放り投げる。落とす先は海面の機体の頭上だ。視界を奪えもしない小さな銃を、しかし自分/ゲイザシステムは警戒して撃つだろう。もしかしたら変質させられた自分は気にせず狙撃に徹するかもしれない。どちらでも問題ない。

 

『1、0!』

『今ですわっ!』

 

 ゼロタイミングと共に、上方からの位置エネルギーを込めた斬撃をあえて真正面から盾で防ぎ、同時にシェースチの念が投げたレールガンへ飛ばされた。レールガンは撃ち落とされなかった。しかし位置はリオンの移動先、絶好の位置だ。飛ばされた念をレールガン銃身下部のマシンセル・ユニットが受け取り、内部で今か今かと指示を待っていた仮初の生命体たちが暴れだす。内側から機構を食い破り、それをエネルギーに変えて増殖、最後の指示の通り巨大な網と棘となって広がり、リオンへと襲いかかる。

 

『んな、有りかよぉッ!?』

 

 意表を突かれたリオンは為す術もなくマシンセルの大口に食いつかれ、機体の内へと侵食しながら海中に沈み始めた。

 投網の成功を認識しながら、アサルトブレードが盾を削りとろうとする音と、至近距離から放たれ続けるレールガンの2重奏を、盾の持ち手を起点に機体を半身ずらして受け流し、残るレールガンを引き抜く。同時に最後のリオンが左へとスライド、上下のシザーを掛けながらレールガンを照準してくる。それに合わせてレールガンを向け、先程と同じようにレールガンの弾を撃ち落とし、こちらの反撃が撃ち落とされる。距離を取り、シェースチに指示、盾の外縁部装甲を展開してマシンセルの刃を形成する。

 逆制度、スラスター全開、迎撃の弾頭を回避しつつ、シールドを振りかぶる。相手もそれを読んで、アサルトブレードを構える。質量差からは受けず、クロスカウンターでの差し込み狙い。予定通り。シールドの衝撃開放機能をアクティブ、切っ先とは真逆に噴射。同時に腰部スラスター2基で反転を掛ける。テスラ・ドライブを全開にしているにも関わらず殺しきれない負荷で、機体がギリギリと軋むのを聞きつつ、関節から火花を散らすゼノリオンを回し切る。突然の目標の静止により、あるべき所にいるはずの敵を見失った無限回転の刃が空を切った。ほっ、という素っ頓狂な声の直後、逆袈裟の軌道で繰り出された銀の刃によってリオンが切り裂かれ、胸部上部がまとめて宙へ舞った。

 

『は、あは……こんなありえねぇ、俺が負けるはず……ひゃ、ひゃ、はははぁ?!』

 

 上部から丸見えとなったコックピットで、ゲイザシステムに取り憑かれたパイロットの発狂が響く。その様相は声に違わず、凄まじいものだ。最低限の保護機能のみを取り付けられたパイロットスーツと、異常なヘルメット。そこへ付きこまれたボルトからは血が滲み、バイザー越しに見える表情は、恐怖と痛み、そして血涙によって染め上げられていた。

 シャインが言葉を無くし、シェースチの思念にノイズが走る。テンザンは身内からまた湧き出そうとする熱を、奥歯を噛み締めて抑え込みつつ、リオンのバーニアを半分破壊し、海へと下ろした。

 海面を見れば、最初に落とした機体に、蹴り飛ばした機体も同じように浮かんでいる。マシンセルの網で捕らえたリオンが見当たらないのは、そのまま沈んでしまったからか。だとしたら、今のような自分によって生まれた被害者を、また殺してしまったことになる。

 罪悪感と自分への怒りが溢れそうになるのを、力いっぱい抑え込む。

 

「う、ぶ、おぅ」

 

 不意に、背中から音が聞こえた。そちらを見れば、青ざめた顔のシャインが必死に口元を抑えていた。無茶をさせてしまったからだ、と己を責めつつ、片手を伸ばしてその背を軽く叩いた。

 

「ほらよ、我慢すんな。ゲロぐらい慣れてるっての」

「んぷ、そんな、ことで……うえ、げえぇ、うああ……」

 

 強がっていたシャインだったが、しかしそれでも限界を迎えてしまい、口から吐瀉物を漏らしだした。肩へと落ちる吐瀉物を無言で受けつつ、ハンドレールガンをまた仕舞わせ、機体の状態を確認する。関節部はオーバーヒート寸前、特に大盾を掴む左腕部は酷い。盾自体もダメージが残っている。ブラックホールエンジンに至っていないのは幸いだ。先程受けた損傷箇所も放っておけば悪化する。まだ戦えるが、できれば避けたいというのが現状だ。

 

『なな……3機がかりで、負けた、じゃと……?』

「ホッ、結構楽勝だったぜ? てめぇの研究なんて、この程度だったってことじゃねーのか?」

 

 面白いぐらい顔面蒼白となっているアードラーをわざとらしく煽ると、老人には優しくない赤に顔色を変えて、癇癪を起こそうとした。

 

『な、なんじゃと貴様!! そのような図体で吠えおって!! ええい、ハガネを相手している2機は何を……』

 

 しかしそれを遮るように鳴り響いたアラーム音が、その顔色を再び青く変えた。

 

『No.153ロスト、No.784……パ、パラメータ変調、反転します!?』

『んな、なんじゃと?! このタイミングでアレか?!』

「ホッ、何だ? 暴走か?」

 

 挑発気味に言葉を紡いただが、しかし内心は予想外の事態に焦りが生じていた。こういう時に限って最悪に近いことが起きるのは"原作"におけるお約束だ。たとえこの状況がイレギュラーなものであっても、その本質/骨子が変わらない以上、その法則は適用されるはず。

 シャイン王女の背をもう一度叩いてその細い手を自分の体に回すと、すぐに機体を反転させる。瞬間、脳を覆うような衝撃が走った。

 

『くああぁッ?!』

「つっ、シェースチ、大丈夫か?!」

「なんですか、今のは……うええぇ」

『……嫌な、感じがします……この感覚……まだ早い、早すぎる……っ、嘘っ……』

「おい、シェースチ、シェースチ?!」

 

 サイコ・ネットワーク越しに伝わるシェースチの感情は、パニックそのものだ。思考が散り散りになり、浮かぶ言葉も断片化している。何を感じ、何を見たのか。モニターを操作し、因果関係となったその場所/ハガネ機動部隊の戦闘地点へと視線を移す。そしてその光景を認識した瞬間、テンザンの呼吸もまた止まった。

 そこには、念動の輝きを放つ大鎌を持ったR-1がいた。

 

 

 

 時は少し遡る。

 

『各機、フォーメーションを立て直せ。ゲイザシステム機に集中する』

 

 テンザン/シールダーへと3機のリオンが向かった直後、イングラムの指示が一斉に下る。ジャーダたちとリョウトを相手にしていた2機だけが残り、今は距離を取っている。指示通りに陣形を立て直すが、しかしそれでも生じた疑問があるのか、頭部と右腕を失った自機を、左腕をだらりと垂らしたガーネット機に支えられたジャーダが口にした。

 

『……いいのかよイングラム少佐。あいつ、王女を奪うっていってるんだぞ?』

『シールダーの戦闘能力であれば、ゲイザシステム機であっても保たせられるのは確認できた。むしろ我々の方が問題だ』

 

 初撃を食らったジャーダはその指摘を受けて声をつまらせ、ガーネットも乾いた笑い声を出した。たしかにこちらはボロボロだ。ジャーダとガーネットのゲシュペンストは言うに及ばず、ラトゥーニのビルトラプターは脚部を丸々切られて飛行形態を維持できず、ハガネの甲板へと何とか帰投しようとしている。イングラムのビルトシュバインも左腕が破棄され、頭部も右半分が潰されている。R-2とR-3、加えてリオのゲシュペンストは比較的軽いダメージで済んでいるが、嵐のような猛攻を前に肩で息をしている状態だ。サイバスターも戦闘行動は十分できるようだが、どこか調子が悪いのか、動きに躊躇が見れる。最大火力とも言えるハガネに至っては、先程のハッキングからまだ復旧中であり、火器のコントロールが効かない状態だ。

 反撃をまともに行えるのは、"テンザン・ナカジマ"の元チームメイトであるリョウト/アーマリオンに、リュウセイ/R-1だけだ。それを理解してかリョウトがアーマリオンを前に出しつつ、シャイン王女をコックピットに引っ張り上げたテンザンを捉え、呟く。

 

『たぶん、大丈夫だよ。テンザン君は、王女を傷つけない』

「俺も、その意見に賛成だ」

 

 リョウトの呟きに、リュウセイもすかさず賛成する。

 

『リョウト、それはお前の知るテンザンならばか? それとリュウセイ、何か根拠があるのか?』

 

 当然ながら、リアリストのライが疑念を向けてくる。その疑問は恐らくこの場の皆が抱いたものであり、アヤですら何も言わず、不安そうな目を向けてきた。それに一度首を振りつつ、左手を胸においた。

 

「なんとなくだけど……あいつには、今、シャイン王女への害意が感じられない。シャイン王女のことが二の次なら、態々コックピットまで入れるか? それに俺達以上に、あのゲイザシステムっていうのに、怒りを感じている……ハズ』

『その感覚は、間違いじゃないと思う。テンザン君はああいいうのは嫌いだし……それに、不器用なお人好しだから。だから、シャイン王女は必ず守ってくれるはずだ』

 

 そのリョウトのテンザン評は、時々ハガネや伊豆基地で聞いたことがあるものだった。態度も口も悪いが、特訓に付き合ってくれて、仲間のことをちゃんと見ているパイロット。リュウセイが今まで相対してきたテンザンの印象とは凡そ遠いものだが、心のどこか、違和感を覚えていた部分が納得しようとしているものだ。

 

『ライ、そこまでだ。前提としてシャイン王女の存在はどの勢力にとっても鍵だ。その点から言えば、テンザン・ナカジマとて王女を無闇矢鱈に害することはない』

『……了解しました、隊長。だがリョウト、リュウセイ。お前たちはもう少し言葉を選べ、そうでなければ納得するものもできん』

「サンキューな、ライ」

『ありがとうございます』

 

 ライはふん、と鼻を鳴らし、気疲れで肩を落とすR-3と同じ隊列までに下がる。苦労かけちまうなと反省しつつ、ロシュセイバーを出力するアーマリオンを見、こちらを見据えるゲイザシステム2機を視認する。途端、戦い始めてからずっと感じていた"力"が内から溢れ出してくる。むしろ自分の中に別の場所に繋がる穴があり、そこから吹き出しているようなイメージだ。コックピットの両側面へ緑色に照らすその"力"は、こう口にする。

 因果律の破壊者を倒せ、と。

 飲み込まれまいと、一度深く息を吐き、G・リボルバーとコールドメタルナイフを構える。残弾もエネルギーも心もとないが、気力だけは十分だ。

 

「……やるぜ、リョウト」

『うん』

『準備はできたか? R-1とアーマリオンでオフェンスと追い込み。R-2とR-3は直接火力支援を、ゲシュペンスト各機は俺と同時に火力を集中させる。そして、サイバスターは2機のバックアップしつつ、サイフラッシュの準備。敵機が2機とも射程圏内に入ったらすぐに使用しろ』

 

 予備のマシンガンをジャーダ機から受け取りつつ、イングラムが即席の作戦が指示される。真正面から打倒は自分たちでは難しい、故に手隙になったサイバスターのMAPWで一気に仕留める。その為にダメージが少なく、飛行可能な2機が主導となって追い詰める。なるほど、たしかにこれなら行けそうだと、その案に首肯で答えた。

 

『なるほど、サイフラッシュを網とした漁ってことね』

『そういうことなら任せときな。シロ、クロ。お前らはリュウセイたちの援護を頼む』

『わかったニャ!』

『あの、イングラム少佐、私は……』

『ビルドラプターはハガネ到着後、あの鹵獲兵器を準備。以後のタイミングはオノデラ副艦長と合わせろ』

『…! 了解!』

 

 ラトゥーニへ出された指示に疑問が最初浮かんだが、しかしすぐにその目的を察し、頼んだぞ、と声をかけた。一度はイングラムもアイドネウス島で使ったアレは、開発に協力していたリョウトの協力もあり、復元は完了していた。そしてその威力は自分たちでも味わっている。

 最適なタイミングで使えば、アードラーの顔に1発かましてやれるハズだ。そう息巻く最中、ゲイザシステム/テンザンのコピーたちが割って入ってきた。

 

『は〜あ、やっとローディング終わったのかよ? 準備はいいか雑魚ども〜?』

『向こうと違ってこっちは稼ぎプレイ中心ってか? ま、それもありだっての!』

 

 余裕綽々といった調子で、オリジナルと遜色ない言葉遣いでこちらを煽ってくる。本物よりもよほどらしい声に苛立ちを覚えるが、今はそれにあえて乗り、己を鼓舞する。

 

「へっ、そんなこと言って吠え面かくなよ!」

 

 その返しと同時に、ビルトラプターがハガネに着艦した。準備は整った。

 

「行くぜ、第2ラウンドだ!」

『行きます!』

 

 アーマリオンとほぼ同時に踏み込み、フルブーストをかける。即座に迎撃が行われるが、1射目を回避すると、背後からの援護射撃が始まった。たまらずゲイザシステムが二手に分かれる。上方へ逃げた1機をリョウトのアーマリオンとサイバスターのハイファミリアが追い、自身は海側へ逃れるリオンへと迫る。牽制弾を放つが意に返されず、更に海面すれすれで反転、逆に正面から突っ込んできた。咄嗟の行動に反応しきれず、まともに胴へともらった。念動フィールドによって振りの速度が減退していなければ、今のでコックピットを切り裂かれ死んでいた。死への恐怖を感じるより前に、再反転後の切り返しがくる。速い、避けきれない。薙ぎ払われるアサルトブレードを今度はナイフで受け、しかし中途半端な体勢で止めたせいでバランスが崩れた。

 弾き飛ばされる、そうすれば無防備な体勢になるだけではなく、背後の皆が狙われる。その思考が走った瞬間、"力"が言った。変形しろと。無茶苦茶な、と叫びながら生存本能がレバーを動かす。無茶な状態でのそれを、"力"込みの念動力で行うことで、慣性と衝撃を強引に打ち消し、R-ウイングへと切り替わる。その結果正面に捉えたのは、こちらの超反応に追いつけず、がら空きの背部を晒したリオンだった。すかさずリボルバーキャノンとミサイルを発射。ゲイザシステム機は咄嗟に上方に逃れたが、そこをイングラムのビルトシュバインとサイバスターのカロリックミサイルが狙い撃ち、装甲を削り取りつつ、陣形内側への侵入を阻止する。

 

『っ、何だあいつ、動きが変わりやがった!? どこのボスキャラだよ!』

『何、リュウ……今の動き……?!』

「悪い、説明できねぇ。けど、これならいける!」

 

 アヤに答えつつ、上昇しながらPT形態へと戻り、スピードを維持したまま斬りかかる。ただナイフで切るのではなく、念動を纏わせたソレは、翠の光刃となってリオンへと襲いかかるが、しかし紙一重でその刃は空を切り、リュウセイの視界からその姿を消した。

 

『リュウセイ、下だ!』

 

 ライの声よりも早く悪寒が走り、前方へ加速。瞬間、いつかの再現のように、固定脚部によるサマーソルトキックの軌跡が直前までR-1がいた箇所を通り抜けた。ギシギシと軋む体に堪えつつ、銃口を向ける。しかし逆さまとなったリオンのレールガンの方が早く、こちらの銃を弾き飛ばされ、右側頭部を掠めた。

 コックピットモニターに灰が混ざる。失われた視覚を補うべく、感覚を更に研ぎ澄ませようとするが、その意識がこちらに未だ向けられた銃口に気づき、咄嗟に両腕部をクロスさせた。

 

『ストライクシールド!』

『ち、ウザってぇ!』

 

 追撃の銃弾をR-3のストライクシールドが防ぎきり、更に接近したR-2のチャクラムとビルトシュバインのマシンガンがその隙間からリオンを狙う。しかしひらりと避けられてしまい、逆にその隙間を狙って撃たれた弾丸は、的確にこちらを穿ち、戦闘能力を奪っていく。このままではジリ貧だと毒付くと、また声が届き、突破口を開くための案が出された。自分好みのやり方だと思いつつ、R-1を再度変形させる。

 

『リュウセイ、どうするつもりだ!?』

「念動剣で突っ込む、援護してくれ!」

『いいだろう。アヤ、カウント3でストライクシールドを解除しろ』

『了解です!』

 

 チームの皆もすぐにそれに乗ってくれた。故に後は、自分と、今は自分を導こうとする"力"を信じ、念を集中させる。

 

『3,2,1、今!』

「行くぜ、念動集中!!」

 

 ストライクシールドによる大盾が解除されたのと同時に、一気に飛び出す。こちらの動きを予想していたのか、ホッ、とゲイザシステムは一度鳴くと、すぐにレールガンの銃口を向けてきた。放たれた弾丸を敢えて受ける。それは集中した念動の刃で持って弾き、減速せず突っ込む。

 

『んげっ!?』

「喰らえ、T-LINKソード!!」

『んなわかりやすいボム、まともに食らうかっての!?』

 

 虚を突いたその一撃をリオンは回避しようとしたが、今度はこちらの方が速い。間一髪で直撃は避けられたが、両足を切り裂いた。

 

『ちいぃ、たかがネームドの癖によぉ!?』

「見たか! ぐぅっ!?」

『リュウセイから離れてもらおう!』

 

 返してやったと吠えた瞬間、お礼参りとばかりのレールガンが撃ち込まれた。変形して応射するが、R-2らの銃撃も含め、上へ逃れながら回避していく。

 

『ソニック・ブースト・キック!!』

『うぉぉぉう!?』

 

 ほぼ同様のタイミングで、ゲシュペンスト3機によるスピリットミサイル/分裂弾頭ミサイルのカーテンが作られ、その逃げ道で待ち伏せしていたリョウトのアーマリオンによる必殺の一撃が、相手取っていたゲイザシステム機を捉え、下方へと吹き飛ばした。

 

『グッドタイミングだニャ!』

『行くぜ!! サイフラッシュ!!』

 

 その2機の隙を、魔装機神操者は逃さない。構えていたディスカッターを掲げ、プラーナを用いてその武装のロックを解除する。瞬間、エーテルの翠光が踊り、掲げた剣に一度光が収縮すると、次の瞬間、眩いばかりの輝きが広がった。文字通り光の速さで広がるそれは、ゲイザシステム機を飲み込むと、風の魔力によって刻み、潰し、粉砕する。

 

『こ、この、チートがっ……?!』

 

 断末魔と共に花火が一輪咲く。やった、と誰かが勝利を告げようとしたが、サイフラッシュの光が途切れると同時にサイバスターが剣を構え直した。

 

『悪い! 1機逃した……チィ!』

『てめぇ、このやろう、よくもやってくれたなド糞チーターがぁ!』

 

 左腕と両足を失ったリオンがサイバスターへと肉薄し、火花と煙を撒き散らすアサルトブレードを突きつける。大技直後の間隙を突かれたマサキには受け止めるのが精一杯で、出力差・サイズ差があるにも関わらず押し飛ばされた。追撃が入る、と誰かが考えられるより速く割って入り、アサルトブレートを最後の手持ち武器で防いだ。双方とも、半壊した頭部をぶつけ合い、バーニアを開放する。

 

『じゃっますんじゃねリュウセイ如きがっ! 毎回毎回しゃしゃり出て来やがって……アレ、俺なんでお前の名前を知ってるんだ? ぼくわたしは会ったことがないのに……』

「……! 緩んだッ!」

 

 接触した部位を経由して聞こえた声に、戸惑いが交じる。同時に相手の推力と威圧が弱まったのを見逃さず、念動フィールドを全開にしてリオンを押し返した。すぐに反撃がくるかと考えたが、しかし敵機はその場で静止し、通信からぶつぶつと呟きが聞こえだした。

 

『そうだ、ぼくの名前は違う。DCの落ちこぼれなのに総帥代行から声がかかって体を刻まれてあああぁぁぁ違う違う僕じゃない僕は違う入ってくるな染めるなぁぁアアァァァァ?!』

「な、何だっ?」

 

 様子が可笑しい。明らかに正気を失った声音に気圧され、たまらず動きを止めてしまった。わずかに感じる思念も、言語化ができないほど滅茶苦茶なものだ。他の機もその変化に迂闊に手を出せず、武器を向けているだけに留めている。

 

『PTSDが発症したのか? なら何で今のタイミングで……』

『テンザンくんのエミュレート……それも人に対して……なら元の人格も……!』

『リョウトくん、どういうこと?』

『……多分、上書きされる前の人格が戻ったんだ…きっとさっきの、つぅ!?』

「あぐっ!?」

 

 リョウトの推測が語られる最中、強烈な念がリオンから放たれ、リュウセイの思考を殴りつけた。邪念としか言いようのないそれは、暗いオーラすら可視化させ、力はそのまま体を拘束する。しかしそれは自分だけではない、念動力を持ったパイロットや、プラーナを制御するサイバスターすら、その力の影響を受けていた。

 

『なんだぁ、今の?!』

『頭が、割れる……気持ち悪い……っ』

『くそっ、体が、動かねぇ!?』

『なんだ、今の邪気は?! 地上にはシュウ以外、こんなのを撒き散らすやつはいなかったぞ?!』

『これ、は……っ』

『悪意……悲鳴……それに何、怖い……!』

『隊長、アヤ大尉?! くっ、リュウセイ、お前も下がれ!』

『ひゃ、ひゃは、はっははあああぁっぁあ、そうだこれだ向こうの方だ首吊って死んで腕なくして足なくして何もなくしてぇぇぇええEEEEeeリュウセイぃぃぃ!!』

 

 戦場が混乱に陥る中、その元凶が一直線にR-1へ飛んできた。ガーネットとライが即座に反応して銃撃を行うが、それらは深い闇の力を宿した右腕に切り裂かれ、足止めにすらならなかった。そして加速度の乗ったタックルをR-1は成すすべもなく受けてしまった。衝撃に体が揺さぶられ、ヘルメットが破損する。破片が頬を刺し、痛みが己を覚醒させる。体の自由が戻り、同時に"力"が体の奥からこちらに手を向け、今までより遥かに強く叫ぶ。

 唱えろ、と。

 

『リュウセイィィ、お前がいなければオレは殺されないぃぃぃ!!』

 

 言葉は単純なものだ。渡されるイメージは自分に合わないが、形にできる。ただ同時に感じ取る、ある使命感だけは頂けない。今あるのは、目の前のリオンを操るパイロットの、邪気の源、怒りと悲しみを断ち切らなければいけないという、強迫観念だ。何故ならあんなもの取り憑かれたままなのは、ただただ悲しすぎるからだ。

 それこそ"力"が手を貸してくれている理由なのかはわからない。ただわかるのは"力"はその感情を、微笑みを持って認めてくれていることだ。

 

「……テトラクテュス・グラマトン」

 

 念動制御、ウラヌス・システム全開。マウントしているシールド内のゾル・オリハルコニウムを抽出。イメージをそれに対して重ねるが、形成を行うには材料が足りない。

 

「アヤ、借りるぜ!」

 

 宣言と共に、先程の念動波の影響でR-3の制御から離れたストライク・シールドを念動力でハック、更に遠隔操作で呼び寄せ、翠光を滾らすリボルバーと強引に接続。そのゾル・オリハルコニムを念動によって変質させ、一つの形を作り上げた。

 それは一言で言ってしまえば、巨大な大鎌だ。持つものが持てば、死神のソレを連想させる。"力"が過去に振るった武器を受け取ったイメージだけで再現した大鎌は、類似であるが別個のもの。そういうものだ、と"力"は言う。だからこそ、リュウセイも己で定めた名前を唱えることに気後れはなく、高らかに叫んだ。

 

「天上天下ァ! 念動! 断空刃!!」

 

 自らの内から溢れる念動の光に震えるR-1が、己が主人が生み出した凶刃を振りかぶり、一息に薙ぐ。空間ごと切り裂く翠の刃に、反応の遅れたゲイザシステムは咄嗟にアサルトブレードを掲げたが、抵抗すらなく寸断された。

 あっ、とこの場の誰でもない声が聞こえたのと、胴体から2つに分たれたリオンが爆散したのは、ほぼ同時だった。爆炎の輝きと共に、仄暗い闇に包まれた一つの思念が鎌に取り込まれ、闇を払いながらどこか遠くに消えていった。それは消滅ではないと"力"は告げる。そのことを感覚で理解し、"悪霊"に取り憑かれた魂を解放できたのだと、安堵の息をついた。

 残心を解くと共に鎌はひび割れ、一瞬にして霧散した。残ったのはモニター上に表示された"Z・Oサイズ"という兵器の名だけだった。




この段階で出しちゃ不味い情報を出してしまったのでプロット爆破ァ!
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