スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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灼熱カバディのアニメ化を願って初投稿です。


Force of the Demon 3

「はっはっはっ…………はぁ……はっ……」

 

 息が途切れ、血の混じった汗がぼたぼたとバイザーの内へと落ちる。破裂した毛細血管から漏れ出す血液は鉄の匂いを充満させ、翠の光に満たされていたコックピットを赤色に見せる。襲いかかる脱力感を堪えて、駆動系・電装系問わず内から破損し始めたR-1をゆっくりと着水させようとするが、バーニアが小破し、バランスを崩した。

 

『リュウセイくん大丈夫?!』

「リョウト……」

 

 そのまま墜落するかと覚悟した矢先に、両肩のミサイルラックが破損したアーマリオン/リョウトが支えに入ってくれた。テスラ・ドライブの慣性制御に入ったことで落下速度が落ちたことを体が認識すると、安堵が胸に広がる。それはあの悪霊を切り裂いた際にプレッシャーが消えたことも影響していた。

 

「はは……はっ……ああ、やってやったぜ、ライ、アヤ」

『……詳細は分からないが、無茶をしたようだな。とにかく、よくやった』

『……はっはっ、ふぅ……そうね。いきなりすごい念が飛んできたと思ったら……ありがとう、リュウ』

「はは……けど、まだだ」

 

 呼吸を落ち着かせて、近づいてくるR2とR-3から視線を外し、その奥で未だ健在のイクリプスをロックする。アーマリオンに肩を貸してもらいつつ生きている機能を検索するが、最低限の稼働のみ。要のT-LINKシステムでさえオーバーフローにより緊急停止中。戦闘機動はもとより、変形など行えば自壊するだろう。

 

「まだ、アイツが……アイツらがいる」

『アードラー・コッホに、テンザン・ナカジマか……隊長、スゥボータ少尉は……隊長?』

 

 硬さを無自覚に無くしていたライの声音が再び張り詰めたものに変わるが、それを向けた先からの返事がない。どうしたのかとライと共に映像通信に切り替えると、そこには顔を青ざめ膨大な汗を流し続けるイングラムが、頭を抑え込んでいた。乗機であるビルトシュバインも右腕の武装を取りこぼし、だらんと垂れ下がっていた。

 何があった、と考えたが、すぐにリュウセイの起こしたあの現象だと思いあたり、自省する。

 

「隊長、大丈夫なのかッ?」

『ふぅ……フッ……ッ、アヤ、指揮権を……一時的に、移す……ライ、フォローを……スゥボータ少尉が、もうすぐ……』

『大尉、オレが隊長にフォローに入ります! 指揮をっ』

『ええ、お願い。リョウトくんはそのままリュウを支えてあげて! マサキくんはもう大丈夫? ならジャーダ少尉とガーネット少尉が後退するまで守ってあげて』

『痛ぅー……わかった、ちっくしょ、まだ頭に響いてやがる』

『ぐわんぐわんするニャ、まだ頭が痛いニャー……』

『俺もだよ。すまねぇ、アヤ大尉……』

『悪いわね、マサキ』

 

 反転してビルトシュバインの護衛に入るR-2と、今のR-1と同じような状況となっているゲシュペンスト2機の直掩に回るサイバスターを横目に、R-3がライフルを構え直している。そうだ、まだ状況は終わっていない。それにまだ、あの"声"は消えていない。意識を失ってはならない。故に、R-1の立ち上げを再度行いつつ、イクリプスと、その眼前に立つシールダーを睨みあげた。

 その背中からは、こちらへの敵意を、いつかと同じように感じとることはできなかった。

 

 

 

 

「なんだよ……今のは……」

 

 もう何度目になるかも分からぬ未知への驚愕と恐怖に、言葉を失う。サイコ・ネットワーク経由で感応した、純然たる悪意の塊。想念とはこうなるものなのかと怖気が立つと同時に、それが己の分見から生じたという事実。そして、文字通りの悪霊に対抗すべく己が死が生み出したのは、悪魔の大鎌だった。

 理解不能、いや、理解拒絶。同乗者がいなければ、即座に己の意識を落としにかかっていただろう。しかし念動の網は2つの命を意識させ続け、"テンザン・ナカジマ"の内にある知識はその現象の原因を推測できてしまう。

 悪霊は、候補が多い。"版権"のものか"オリジナル"のものかは確証がないが、しかしあの"大鎌"がその範囲を"オリジナル"へと考えを遷移させる。それ程までにアレは特徴的で、限定的だ。

 即ち、黒き銃神。近くも遠い並列世界にて誕生した因果律の番人にして、"スーパーロボット対戦OG"という枠組みの中でも限定的に登場し、そしていづれは完全な姿で現れるだろうと推測されている、超兵器の一機。いや、その在り方から"一柱"と表すべきか。

 

『ディス……なんですの、それは……』

「っ……まだ、お前らには関係ないことだって……あと、吐きながら念話まですんなっての……」

 

 無自覚にその名を心中で唱えていたのか、未だえずいているシャインが同じくP・ネットワークの中に疑問を提示してくる。たった一回の戦闘ですんなりとこの共感覚に慣れているのは、生来の超常への慣れによるものなのか、彼女の内に秘めた豪胆さがさせているのか分からないが、兎に角にも予想外だ。しかしそのおかげで"テンザン"の仮面を被ることを意識でき、恐怖と混乱を抑えつけることができた。

 僅かであるが冷静さを取り戻せたので、考察よりも前に、未だ進み続けている状況を再確認する。

 シェースチは何とかサイコ・ネットワークを維持できているようだが、先ほどの"悪霊"の顕現で影響を受け、感じ取れる意識が弱くなっている。脳内に今も響く耳障りなノイズは彼女の心傷そのものだろう。それを感じ取れるからこそ、自分だけが動揺してはいられないと、自分自身の意志で、気持ちを奮い立たせられる。

 

『シェースチ、無事か?』

『……正直、キツイです』

 

 念は弱々しい。ここで"大丈夫だ""守る"などという言葉でも掛けられればいいのだが、生憎と今の自分とゼノリオンは彼女におんぶに抱っこ状態。間違ってもそんな無責任な言葉は吐けない。何よりもまだ状況は切り抜けていていない。

 

『大丈夫ですって、何度も…』

「んな弱々しい声で言われても説得力はねぇよ」

『そうですわ、レディならば男性に頼るところ見せなければ……うえぇ』

「いや、王女様はなんでそんなに馴染んでるんだよ……あと、やっぱ無理するな……」

 

 酸っぱい匂いを撒き散らすシャインは、テンザンが考えているよりも余裕がありそうだ。勿論肉体的には、上下左右に激しい戦闘機動に曝された影響で悪くなる一方だが、テンザンたちが着いた時よりは精神的な落ち込みは薄らいでいるようだ。いっそシートの後ろではなく前に座らせるかとも考えたが、今の位置がちょうどシェースチ用のポッドに挟まれた状態となり、体が急制動により吹き飛ばされる心配もなかった為、そのまま耐えてもらうことにした。

 

『うぅ……覚えていなさい、誘拐犯……』

「まだ誘拐しきってないけどな」

 

 どうやら思考が漏れていたようで、憎まれ口が返ってきた。やはり、どうにも馴れ馴れしいのが気になるが、すぐに暴れだす様子も余裕もなさそうなので、保留とする。

 気を取り直し、センサーを確認。自身が沈めた敵機はすべて海上、または海中に存在。ハガネ隊が倒した2機の反応は消失。ハガネの機動部隊は、途中で母艦に戻っていたビルドラプター分を除けば8機とも健在。今にも海に沈みそうなR-1をアーマリオンが支えていた。そしてDC/イプリクスの側には、新たな機影が出現していた。両脇のストーク級から出撃する通常戦力、それに応急修理を済ませたテンペストのガーリオンがこちらを睨んでいた。

 

『ええい、次から次と面倒事が続きおって……じゃが、いい加減貴様らもバテたじゃろう。ならば通常戦力と、このイクリプスで十分じゃ』

『B小隊、ハガネの機動部隊を牽制し動きを止めろ。他は私と共に第9研究室の試作機を確保する。ゲストが乗っている以上、落とすなよ』

「ホッ、性懲りもなく……!」

 

 アードラーも多少は冷静さを取り戻したようで、彼我の状態を正しく認識し、テンペスト率いるリオン部隊が差し向けてきた。まだアレだけの戦力を残していたのかと舌打ちしつつ、さてどうする、と2択の案を考える。

 1つはこのまま逃げ切ること。単純かつ堅実な手だ。追撃はあるだろうが、シャイン王女をこちらが握っている以上、ハガネにしろアードラーにしろ、無茶はできないはずだ。地中海に向かってきている伊400と合流できれば十分逃げ切れるはずだ。ハガネの力であればあれだけのダメージでも皆生き残るだろうが、こちらに目を向ける余裕はないだろう。何より、シェースチを休めさせることができる。

 もう1つは迎撃することだが、こちらは危険かつメリットがあまりない。連戦となるし、シェースチが想定外の事態で消耗している。加えてシャイン王女も大人しくしたまま、ということは考えられず、途中でテンザンの妨害をしてきても可笑しくない。仮にイクリプスとテンペスト隊を退けられたとしても、ハガネがそのまま帰してくれるとは限らない。いくら"不意を打たれて被害が大きいからといって"、彼らの冷静さと不屈の意志、そして運命は追い風を呼ぶだろう。

 やはり選ぶのは前者かと、レバーを握り直した瞬間、いやまて、とアードラーの呟きがした。嫌な感じだと、脂汗がじわりと滲む。

 

『そもそもお主、なぜここにいる? あの無才どもが連れ出したというのはわかるが……いや、交渉と言ったな? ワシに何を求めておる?』

「ホッ、ようやくそこに目を向けたか」

 

 咄嗟に軽口を返すと、答えますか、とシェースチが念話で問いかけてくる。オープン回線での通信である以上、ハガネ側にも情報が伝わってしまうことは間違いないからだ。そこに何か不都合があるかと言われれば、目的からこちらの行動が先回りされることと、その中身だ。大目的である、仲間を助ける/治す、とはすでに宣言しているし、その対象がシェースチやスェーミ、あ号たちだというのは、リョウト経由で知られているだろう。しかしその手段と過程はまだのハズだ。今、アードラーが握っているだろう情報を自分たちが欲していると知られれば、ハガネ、いや連邦軍もその内容を知りたがるだろう。

 つまりサイコ・ネットワークの情報と実験データが漏れるということだ。その危険性と猟奇、そして何より彼女たちの悲劇を知られたくないと考える以上、それは自分たちだけが知り、目的達成後破棄しなければならない。

 とはいえそれは、連邦軍に出し抜かれた場合だ。その可能性が高いとはいえ、連邦軍はPネットワークに対して、その成果や実験の具体的なものを見たことがない。それ故に出遅れたとしても、すでに詳細を知っているこちらがピンポイントで奪取・消去できればまだやりようはある。

 逆にここで目的を告げることで、連邦に対し、アードラーとは敵対関係であることを改めて誇示できる。その場合、連邦内での自分たちの警戒度が下がる可能性もあり、時と場合によってはハガネ・ヒリュウ改部隊との戦闘を避けることができるかもしれない。

 どちらを取るか、と徐々に包囲を取るリオンたちとの距離を測りつつ考えると、視線を感じ、ちらりとシャインの方を見る。こちらの思惑がPネットワーク越しに伝わったのか、青ざめながらも力強い目線を向けてきていた。

 

『まだ全部は理解できていませんが……こういう場合は、堂々と言った方がいいですわよ』

 

 渦中の人物でありながら、彼女は若い王族らしく、宣戦布告がお望みだった。勿論、その方が連邦と与し易いという考えもあるのだろうが、大事なことが抜けている。

 

「いや、お前を取引材料にすることになるっての」

『そ、それは……いえ、この場限りでは、構いませんわ』

『ですって、テンザンさん』

「おいおい……」

 

 何故そんな結論になったのかはわからないが、本人とコ・パイからの許可が出てしまった。ならばと、ゼノリオンの大盾を大仰に振り回し、イクリプスを見据えて宣言する。

 

「なら言わせてもらうぜ。要求はお前が手に入れたサイコ・ネットワーク関連の資料と実験データ。こっちからはシャイン王女の身柄だ」

『……ほーう、アレをか』

『なんだと?!』

 

 予想通りというか、ハガネから、恐らくはテツヤからの分かりやすい反応が入ってくる。

 

『てめ、見損なったぞテンザン!』

『少しはカッコいいとこあったと思ったのに、結局は自分のためだっての?!』

『ふ、2人とも……』

 

 ジャーダとガーネットからも罵声も飛んでくる。実に真っ当な言葉だと、胸が空く思いだ。自分の自己満足/正義感と共感のためだけに、捕らえた王女を差し出す。実に悪役で悪党で最低だ。もっと早くこうしていれば、楽に殺されたのかと考えが過ぎってしまうほどだ。

 いやいや、と捨てるべき思考を頭を振って散らし 集中力を取り戻す。アードラーはふむ、と顎に手をやり、目を細めていた。

 

『あんなゲテモノが必要とは……まさか、あの生体CPUもどきに情でも湧いたのかの?』

「詮索は無しだ、こっちにも事情ってのがあるんでな。じゃなきゃシャイン王女は……わかってるな?」

『フン、大口を叩きおって。お主は相変わらず身の程を知らぬと見えるな』

「そんなやつに自慢の玩具を壊されたのはどこのどいつだっての。くっちゃべってないでさっさと答えろよ? ま、このまま何の成果もなく尻尾巻いて逃げてもいいけどな」

『ええい、低俗な物言いを……おお、おお、そうじゃ』

 

 軽い挑発を揺さぶろうとした矢先、アードラーの喜悦の面を浮かべた。何だ、とその次の言葉を待とうとした瞬間、思考の中に洪水の如く映像が入り込んだ。

 イクリプスの主砲が城下街へと向けられ、そこから放たれた灼熱の光線が街を焼き尽くす。誰かの悲鳴が上がる前に、熱波が波及する。何故、という言葉がどこかから聞こえ、声なき嘆きが響く。体/機体を抑え込まれた自分/彼女は、それを何もできず見ているしかできなかった。

 白昼夢の如きそれはすぐに収まったが、嫌に具体的だったせいか、心臓がばくばくと鳴り出した。ただの予感にして確りしすぎ、自分の予想とは無関係に発動した現象が何なのか、といくつか推理する中、その答えがテレパシーとして出された。

 

『今のは……予知……?』

「予知……おい、まさか」

 

 その映像の正体に思い当たりは、反射的にシャインを見れば、彼女は先程よりも更に弱々しく、体を震わせていた。

 

「……いや、いや、いや! そんな、それじゃあ何のために、わたくしは……」

 

 これが予知か、と最悪の予感が当たり、そこに至る過程を即座にエミュレートして回避しようとした瞬間、図ったようなタイミングでアードラーが手を上げた。 

 

『テンペスト少佐、進軍をやめさせよ』

『なんだと? どういうつもりだ?』

 

 当然の疑問を上げるテンペストに、DCの簒奪者は口を三日月に歪ませた。

 

『こうじゃよ……主砲チャージ開始、目標はリクセント城正門』

『っ、ま、さか……?!』

「アードラー、てめぇ!!」

『ヒョッヒョっ、ハガネに告げる! リクセント公国を撃たれたくなければ、ワシらに代わり、シャイン王女を救い出してみせよ。拒否する場合は……そうじゃな、逃げ遅れている無辜な民衆が消し炭になるぞ?』

 

 動揺が走り、それを囃すようにイクリプス下部の大口径レーザーキャノンが動き出す。脈動するエネルギーは白光となって影を照らし、その穂先を、今もなお混乱の中にある街へと向けた。込められた熱量は、首都一つを焼き尽くすのは過剰なほどだ。

 外部カメラをズームすれば、イクリプスの照準に気づいた軍人が急いでいた避難・救助活動を鬼気迫るほどに早め、狂乱する民衆は泣いた子どもを足蹴にしても気にする余裕がないほどだった。

 何もしなければ、その全てが燃え尽きる。予知で見ずとも想像がつくことだ。

 

『この、クソ外道野郎!』

『マサキ、動くな! ハッチ、大砲の準備は?!』

『まだ……あと、3分……!』

 

 何か手を残しているハガネ隊にしても、即座に動けそうにない。単純な力押しでは、ゲイムシステム相手に疲弊した今では、リオン三個小隊と教導隊、そしてアームズフォートを相手取るのは現実的ではない。憤怒するマサキとサイバスターにしても、一度サイフラッシュを使った以上、万全の時の加速を行えない。即座にテンペストにマークされ、間に合わないだろう。

 

『……っ、動ける機体は、シールダーへ』

『あ、アヤ?!』

『正気ですか、アヤ大尉?!』

『せめて、時間を稼ぐ! その間に突破口を……っ』

『ひょひょ、そのような悠長なことを言ってて大丈夫かの? さぁ、あのビアンをも倒したお主らの力を、ワシのために役立てるが良い』

 

 ゆっくりと、海上に残ったハガネの機動部隊が動き始める。映像通信をつなげれば、皆一様に重い表情だろう。ハガネのクルーもだろう。

 どこまでも、他者を食い物にする。その権利はないだろうが、それでもテンザンは、怒りに震えた。真っ白になりそうな思考の中で、何とかできる手をひたすら考える。すぐにイクリプスを落とす、テンペストとイクリプスの砲火で間に合わない。大人しくシャインを渡す、あのアードラーがそれで済ませるはずがなく、元々実験体であるシェースチの無事は保証されない。抵抗する素振りでハガネの切り札に賭ける、見破られる可能性が高い。ギガベースのときのようにイクリプスの主砲を弾く、レーザーという照射による攻撃のためそんなことはできないし、今のシェースチには重荷過ぎる。

 ダメだ、ダメダ。何かを手を。己のコピーを倒したときより、数倍も可能性を検討し、それを霧散させる。自分の知る限りの手で、善き道筋へ至る方法が見つからない。それでも、それでも、と顔を歪ませ泣きそうになりながらも考える。

 だからこそ、自分ではなく他者から、その可能性は手渡された。

 

『……ひとつ、提案があります』

「は……はっ?!」

 

 シェースチの声/念と共にメインモニターにデータが開示され、その方法がサイコ・ネットワークを通じて叩き込まれる。

 ゼノリオンの大盾/開発コード"ヴェルトール"のリミッターを解除申請。寝耳に水とはこのことだ、今まで一切説明がされていなかった機能に目を丸くしてしまうが、それをわかった上でシェースチの声は続けられる。

 

『ストラングウィック博士たちが貴方に課せられた宿題から導いた、この子の力……その一つ、守護騎士の盾。ブラックホールエンジンと、そこに刻まれた魔術式を意図的に臨界稼働させ、盾が許容できる量を超えたエネルギーを完全開放する。溢れたエネルギーを私の念動力で方向性を与えて強引に制御してマシンセルの急成長に使い、盾を物理的に巨大化……理屈で言えば、参式斬艦刀の亜種ですね。これを使い、ハガネの切り札が使える瞬間まで、イクリプスの主砲を完全に防ぎます』

「おい、けど待てよ……そんなことをしたら、お前の負担が……」

『万全の私でも、命がけです』

「だったら……っ」

『ですからッ!』

 

 だったら、と叫び出そうとするのを、ノイズ/決意が遮る。

 

『私の命を、テンザンさんにも背負ってもらいます』

 

 再び、モニターに追加の映像が表示された。それは文面的にはドナとジジの癖が入り混じったもので、共同で作成したことが伺えた。その内容はサイコ・ネットワークとODEシステムの習合・発展型だ。ホスト/シェースチを中心にサイコ・ネットワークでリンクした人間に対して、念動力で動作している脳処理を分散させる。概念的には、スパコン処理の負荷分散に近い。しかしそれを行う人間の脳、かつ非念動力者だ。理論内でも、元々素養のある人間か、常日頃からサイコ・ネットワークで念動力者が発するαテレパスを受け、受容できる状態の人間でなければ、即座に廃人化することが示唆されている。

 まったくもって、非人道な理論だ。それでも、我儘を通すには十分すぎる後押しだった。

 

『今の私では到底、このシールド……ヴェルトールの完全開放には耐えられません。だからサイコ・ネットワークを通して、負荷をテンザンさんにも分散させます……きっと、今まで味わったこともない痛みがくると思いますが、それでもやってくれますか?』 

 

 体調のこともあるが、いつになく沈んだ声音だ。彼女とて、心苦しいのだろう。自分のような人間でも悲しまれる価値はあるのか、と落ち込むような、嬉しいような、不思議な気分になる。

 

「ホッ、誰に言ってんだよ。俺は……"正義の味方"志望だったんだぜ」

『っ……貴方は……』

 

 だから彼女と自信を勇気づけるために、強がりを言う。痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ、よく知る他人が痛がるのも嫌だ、悲しむ顔を見るのも嫌だ。自分のせいで命を背負うのも嫌だ。自分が誰かの命を背負うのも嫌だ。

 その全部は回避できなくとも、どれか一つか二つでマシになるなら、やってみる価値はある。

 

『わたくしにも、その負荷を分けてください』

「はぁ? 何いってんだ!? お前はただの景品だろ?! 危ねぇことはするなっ」

 

 いっそのこと負荷全部をこっちに渡してくれ、と言おうとした矢先に、そのまま聞いていたシャインがとんでもないことを言ってきた。"原作"の重要人物であり、今この状況においてもっとも重要な価値と命を持つ少女が、自身の命を無謀にも賭けてきたのだ。思わず大声を上げてしまったが、シャインの力強い目線は変えることはできない。

 

『お飾りはごめんですわ! それに……自国を守れる手段があり、それが自分の血を流すだけで済むのなら、私の脳など喜んでくれてやりますわ!!』

『……Pネットワークに口調まで移る効果はないはずなのですけど……』

 

 この力に詳しいはずのシェースチまで呆れていた。このような事態でなければ、テンザンとて、彼女の口をテープで塞ぎ、どこか安全なところに放り投げたい気分だった。しかし状況はその逃避を許してくれない。イクリプスの主砲からは漏れ出すエネルギーが放電を伴い出し、焦れたサイバスターが剣を構え、こちらへの突撃姿勢を取り出した。

 

『さて、そろそろ時間じゃ。チャージは完了済み、あと三〇秒もすれば自動で発射されるが……ひょひょ』

『クソッ、悪く思うなよ?!』

『マ、マサキ、本当にやるのかニャ?!」

 

 責任は、取れないかもしれない。それでも、何もしないよりマシだし、生き残る可能性が高いなら、選択する価値はある。そしてそれを選ぶのは、不相応にも、弱虫の自分だ。弱虫でも、生きようと、誰かに生きていてほしいと願うことはできる。だから、最後のトリガーを引くのは、自分だ。

 

「……やるぜ、シェースチ、シャイン」

『はいっ』『逃げも隠れもしませんわ!』

 

 ゼノリオンに盾を構えさせ、両腰のスラスターを溜める。何だ、と誰かの疑問符を聞き流し、推進力のすべてを開放し、一直線にポイントまで向かう。Gが襲いかかるが、ただ耐える。

 

『何のつもりじゃ!?』

『いかん、止めろ!』

 

 テンペストの指示で、待機していたリオンのレールガンが一斉にこちらを向いた。歯を食いしばれ、とシャインに告げ、スラスターをランダム制御。飛行姿勢のバランスが崩れるも、推力そのままの不規則軌道を強引に制御し、放たれた電磁加速弾頭の雨を減速せずにすり抜ける。

 ポイント/イクリプスと街の間に着くと共に直立、盾を正面に構え、両碗のボルトをロック、レールガンを受けつつ、開放された機能を立ち上げていく。

 

「ブラックホールエンジンとマシンセルのリミッター解除承認、主機の臨界稼働と連動開始、演算機能をヴェルトールに集中」

『サイコ・ネットワークの浸透度を強化します、気をつけて』

『わかり……っっ。なんですのこれ?! 頭に変な眼がついたような気分ですわ?!』

『慣れてください! マシンセルの単位を細分化……ええ、お願いゼノリオン……システム、スタート!!』

 

 システム起動の宣言の刹那、頭の最奥に生えた、錯覚の瞳から痛覚が漏れ出した。それは血管を奔って脳内に、そして体全体に広がり、全身麻痺にも似た茨の縄と成って体と意識を締め付ける。頭が割れる、どころではない。皮膚という皮膚が裂け、そこから別の何かが這い出てくるような怖気もある。これを常に感じているのか、と僅かな思考がシェースチたちに対して畏敬の念を作る。

 2人に負荷を分散させた影響か、掲げたシールドはすぐに変化を始めた。十字架の交差部、他の箇所よりも丸く出っ張った中心点が開かれ、内蔵していたブラックホールエンジンを露出させた。脈動するエンジンから重力波が広がると同時に、盾の各縁から銀の軟体/マシンセルが波のごとく伸び、長大な幹となる。更にはそれぞれが枝葉を伸ばし、幹同士が繋がり合う。その枝一本一本から発せられているのは、全てT・ドットアレイ特有の碧の光だ。

 

「っっ……」

「いた、いた……うあぁ…………」

『お願い、耐えて……ください、2人、とも……』

 

 テンザンとシャインに、枝葉一本一本を構成するマシンセルの声が届く。"もっと増えたい、もっと先へ行きたい、もっと強くなりたい、この宿主を喰らってでも"。その原始的な感情を、シェースチは宥め、説得し、別の方向性へ持っていく。"一緒なら、もっと強くなれる"と。賛同するマシンセルの中には、テンザンやシャイン個人を認識し始め、直接語りかけてくる細胞まで生まれ始めた。数多の声に曝されたことで、テンザンは一つの事実に気づく。

 これは、マシンセルではない。その大本のズフィルード・クリスタルそのものだと。それはどこから来たのか、何のために名前を変えているのかは、今はわからない。しかしそうと分かれば、念動力の制御は効きやすいと理解し、気を強く持つ。

 

『ええい珍妙なことを始めおって、そこから離れろ! おい、主砲の発射を中止じゃ! 貴重な実験体まで巻き込むなど本末転倒じゃ!!』

『ダメです、間に合いません!?』

『無能め! テンペスト少佐、何とかせいっ』

『そんなものできん。むしろこれで、目障りな敵勢力の一つが消えるのだ、都合がいい』

『ぐぬぬ……もう構わぬ、撃てぃ!』

『っ、止めろォ!』

 

 出遅れたサイバスターが飛ぶが、それよりも一寸早く、レーザーキャノンの切っ先が輝く。

 瞬間、膨大な熱量が指向性を持って解き放たれた。スペースノア級の主砲にも劣らぬ破壊力を秘めた光の帯は、大気を焼きながら街へと、ゼノリオンへと迫る。

 

『ブラックホールエンジン臨界……特異点摘出、マシンセル共振ユニットと融合……逆流は、3人で支える……応えて、ゼノリオン!』

「支えてくれ、ゼノリオン!!」

 

 同時に、ゼノリオンの両眼が赤く煌き、装甲の合間にある排熱口から膨大な熱量が逃げ始める。機体そのものが直結したエンジンの熱に耐えようと、強制排熱を始めたのだ。その熱は青白い可視光となって全身から伸び、さながら細長い翼を想起させた。

 

『これ、は……我が国を、いえ、星を護る盾!! 名は、ヴェルトール・イデア!! 守って!!』

 

 シャインの名付けによって、変化し続けていた大盾が完成する。黒い重力波が、マシンセルから生じたT・ドットアレイと干渉し、混ざり合い、如何なる作用か薄い蒼へと変わった。その光の届く範囲は、半径にして10キロ。凡そ機動兵器が発するにはあまりにも大きすぎるエネルギーが渦巻き、城と街をすっぽりと覆う盾が形作られた。

 その直後、大口径レーザーキャノンの直撃が盾へと衝突する。光の波動が衝撃波と成って海を抉り、不用意に近づいていた機動兵器を根こそぎ吹き飛ばした。光の帯はそれでも直進することを辞めようとせず、蒼の盾はその一切を通さない。夜が訪れたような黒さは、2つの力の衝突から生じた光が、太陽光よりも強いためだ。

 悲鳴が聞こえる。誰の悲鳴かは分からないが、きっとその中に自分も含まれている。それでも、歯を食いしばり、両手両足の力を込め、眼を開き、人々を焼こうとする光から一歩も引かずに、盾を掲げ続ける。

 それが、何秒か、何分か、それともコンマしか経っていないのか。しかし拮抗を破る一撃が放たれたのは、まさに唐突だった。

 

『ハッチ越しで構わない! 撃て、スゥボータ少尉!!』

『ッッ!!』

 

 それは、すべての火器が封じられたはずのハガネから伸びた一射だった。機動兵器射出用の閉じられたハッチを破壊して放たれたそれは、一呼吸も間もなイクリプスの主砲を横合いから貫いた。

 

『しゅ、主砲貫通っ?! エネルギーが逆流します!?』

『すぐに切り離せっ!』

『っ、ええい!!』

 

 大出力のレーザー光が狭まると同時に、赤い点が作られたアームズフォートの主砲が連鎖的に爆発を起こす。歴戦の経験からか、テンペストのガーリオンがアサルトブレードを引き抜き、本体と主砲の接続基部を一息で切断する。落下を始めようとしたレーザーキャノンは己の中に溜め込まれたエネルギーに耐えきれず、そのまま爆発四散。衝撃波がイクリプスを持ち上げ、Eシールドの内側から機体を焼き上げた。更にはその一射は隣接していたストーク級の胴体も貫通しており、当たりどころが悪かったのか、内側から徐々に爆発、そのまま高度を下げていく、レーザーキャノンの巻き込まれて消失した。

 

『イクリプス炎上、ダメージコントロール!』

『稼働率低下、ハッキング機能が停止します!!』

『ストーク2消失! 乗員の退艦が間に合いません?!』

『ええい、なんじゃ今のは?! テンペスト少佐!?』

『おそらくは、アレだ』

 

 焼け焦げたガーリオンが指差した先には、ハガネの内/格納庫から覗く、長大な砲身だ。DC戦争時、両軍で一度使われた経緯のある、第九研究室産の兵器、形は多少変わっていたが、それはあのヴァルシオンの歪曲フィールドさえ貫いた"バレリオン・キャノン"だった。

 

『ハガネの火器管制は利用できない。ならPTの機能を借りればいい……一か八かでしたが、うまくいきましたね』

『うむ、だがまだだ。スゥボータ少尉、再発射にはどれぐらいかかる?』

『排熱完了まであと2分、いえ1分半。今度は本体を撃ちます』

 

 ダイテツの種明かしと、匍匐射撃姿勢のビルトラプター内で殺意を溢すラトゥーニに、DCの面々が苦虫を潰したような顔となる。それによって危機が去ったと認識して、ヴェルトールの稼働を停止する。蒼の光が消えると共に、中心部のシャッターが閉じ、マシンセルが基部の盾本体へと戻っていく。新たに増えた分は新たな装甲として盾に張り付き、色を変色させて一体化した。ゼノリオン本体の強制排熱も終了し、主機の稼働率が急激に低下し始めた。そしてテンザンが繋がっていた感覚がぶつりと消え、痛みが引くと共に正気に戻る。

 

「シェースチッ!?」

 

 咄嗟に背後のポッドを見れば、彼女の小さな体は力なくぷかりと浮かんでいた。モニターしている生体情報はレッド、機体全体の負荷も限界だが、何よりも彼女の命が危うかった。

 

「だい、じょうぶ、ですの……?」

「そんなわけあるか!? すぐに……っ!?」

『こ、高エネルギー反応確認。海中から?!』

 

 何もかも後回しにしてすぐに逃げ出そうと途端に感じたのは、悪意。疲労に蝕まれてもテンザンの戦闘才覚は即座に反応したが、第2の頭脳とも呼べる少女を欠き、何より機能停止寸前のゼノリオンは追いつけない。弾丸の如き塊が海中から飛び出し、真っ直ぐにゼノリオンに向かう。瞬く間に斬撃が放たれ、左腕を断ち切られた。追撃が入るのを何とかタックルで崩し、そのまま蹴り飛ばして距離を取るが、返す刃で右足も切り飛ばされた。

 

「なんだ、コイツ?!」

 

 目の間に静止したのは、リオンのような何かだった。全身が銀色に揺らめき、四肢からは不定形の刃が形成されている。不気味な泡が絶えず生じ、さながら皮をなくした蛹を想起させた。

 

『……ジ……が……』

『は、反応、ゲイザシステム機です!』

『No.857め、生きておったか』

 

 アードラーの言葉に、鈍った思考が答えを導いた。目の前の何かは、マシンセルで動きを封じて海へ沈めたやつだ。何故それが再起動し、このタイミングで襲いかかってきたのかはわからない。それでも、状況から見れば非常に不味い。ただでさえゼノリオンの機能が低下しているのに、腕と脚をそれぞれ一つやられた。何より昏倒したシェースチとシャインを抱えている。どうする、と思考の渦に飲み込まれようとした矢先に、ナニかは踵を返し、イクリプスへと向かった。そのまま帰還するのかと思いきや、母艦へと戻ることもなく、一直線に南へと飛んでいってしまった。

 誰もが度肝を抜かれ、状況についていけなかった中、地団駄を踏むアードラーの喚き声で時が動き出した。

 

『……ええい! そやつだけでも回収する、撤収じゃ』

『王女も手に入らずか、だが、ハガネめ……』

『覚えておれよ、次はこうはいかぬぞ』

 

 あからさまな捨て台詞を吐いて、炎上するイクリプスが背を向け、撤退していった。残ったストーク級が無事なリオン部隊を腹に収め、すぐにその後へと続く。最後まで残ってテンペストのガーリオンは、ゼノリオンとハガネをそれぞれ一瞥し、殿として退いていく。それを追撃する余裕はこの場にいる誰にもなく、ただ何事もなく撤退してくれたことを密かに喜んだほどだ。

 しかし、事態はまだ終わっていない。 

 

「……くそ、ドサクサに紛れて、逃げれればよかったか……」

 

 取り残されたゼノリオンの中で、テンザンは一人つぶやく。バレリオン・キャノンの銃口がこちらに向き、マサキの意識がこちらに集中したことを肌で感じ取る。機体のことと突然の攻撃・被弾でまともに動けなかったことが災いして、逃げ道も塞がった。ゼノリオンの稼働率も心もとなく、いつ停止しても可笑しくない。

 

『……武器を捨て、投降しろ。人道的な対応を約束する』

 

 機能が回復し出したハガネから、テツヤの勧告が響く。それしかないのか、と体が認め、通信回線を開こうとした。

 

『……動かないでください』

 

 声が響いた。この場にいて、活躍したことはわかっていても、言葉を交わすことはないと思っていた少年の声だ。

 

『リョウ、ト……?』

『動けば、リュウセイ君を殺します』

 

 かつての仲間で、突き放したはずのリョウトは、乗機であるアーマリオンの銃口を、仲間であるはずのR-1に突きつけていた。

 

 




ワイ、これが完結できたらゼノリオンのイラストを書いてもらうんだ……あと、次回は日記形式です(タグ準拠

2021/2/9 ヒュージ・レールキャノンの表記をバレリオン・キャノンに訂正しました。
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