スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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コパノリッキーで天井したので初投稿です。


オペレーション・ナインブレイカー 4

 

 白夜の夜空は、青白い。心の中の原風景に立つ彼女は"ああこれは夢だな”と、実感の湧かないまま、明晰夢を認識した。四肢はまだ"人間の肉体があった頃"のもので、視界もまた黄色くボケていない。常に何かが脳と鎖でつながっているような感触もないし、何より呼吸が口でできる。

 小高い丘の向こうでは、短い春を謳歌する草花が萌え、数少ない同世代の少年少女が駆けっこをしていた。その環の中には、光の粉のような、はたまた花びらのあり集まった手のひらほどの珠が混じり、人間と共に遊びに興じている。年長者に教えてもらったそれは、自然に生きるものの具現、今の知識で言えば"精霊"や"端末"ともいえるものだ。だが当時の自分には、自分たちと一緒に遊んでくれる不思議な遊び友達に過ぎなかった。

 ふと、手を握られた。横を見ると、"蜂蜜のような金色の髪"の妹が、なにか言いたげにこちらを見ていた。もう、とそこで呆れて、その手を握って引っ張る。

 いつものことだ。怖がりで引っ込み思案な妹は、こんな仲間内でもいつも二の足を踏んでしまう。自分たちに気のありそうな男の子なんて、イタズラをしようにもどうすればいいか分からず、いつだって悪態をつくだけに収まるぐらいだ。そんな時はお姉ちゃんである自分が、妹の代わりに言い返してやるのだ。

 そんな、微笑ましく、慎ましく、それでも幼い自分たちには十二分な幸せの世界を、どこからか悪意が見ていた。

 びくり、と悪寒がすると、既に友達は人間も、人間以外もいなくなっており、代わりに赤黒くなった両親が、地に伏せていた。

 妹が自分に縋り付く。自分は、現実を受け止めきれず、動けない。

 目は、いや黒い悪意の塊が、モヤのような手で自分の頭を掴んだ。同時に、妹が別のところから伸びた手に捕まり、彼女が何かを言う前に引き離された。

 瞬く間に、景色が故郷から、仄暗いの地の底へ変わった。モヤの向こうで、妹の体が切開される。切開を行う道具は様々で、人間の一部から、機械のパーツ、または光を束ねたメスや、細菌の群れもあった。やがて妹は白い粘液に沈み、髪は色を無くし、やがてくすんだ銀へと変わった。

 声も出せずそれを眺めていた自分の首元から、プチプチと音がした。何の音だろうと思った矢先には、背中からも同様の落とし、やがて視線が高くなった。そして、自らの頭と体が、力任せに引き離されたことを認識した。頭だけになった自分に、光と銀の刃が突き刺さる。刃は決められた線をなぞり、口と鼻と目と髪と耳と歯と骨と脳を丁寧に切り分けていった。不満げなモヤが最後に残したのは、目と脳と神経だけだった。それ以外はモヤと、妹と、先客の動物たちに食べられてしまった。

 声を出す器官は失った。だが、悲鳴を上げる気力もない。そんな心持に止めを差すように、痛覚の存在を無視したサイズの注射針が残された脳に刺さり、色のない液体が、残されたパーツの中に広がった。夢の中なのに、別の夢を見た。現実が歪む夢だ。色は音となり、音は匂いとなり、その次には別の意味を持った。そうしている間にゼリーの中に放り込めれ、脳と目にまた別の針が刺さった。夢の中の夢から覚めると、人間の自分はどこにもいなくなっていた。

 

「ああ、お姉ちゃん。楽しそうだね」

 

 白濁としたモヤの中で薄く笑う妹は、虫のような姿の自分を見て、そう嘲った。

 

「ッッッア……は……」

 

 意識が急速に覚醒した。溺れるような感覚が軟体の体に起こり、前腕となる触手をワシャワシャと動かし、硬いものを掴む。エラとも言えない未熟な呼吸器で息を整え、念動の繋がりを深める。

 

『シェースチ起きたの?! 今コッチは修羅場ッ!』

 

 即座に返ってきた、あの研究の生き残りである3頭の中でも年若いろ号の念だ。シェースチは、救急用のカプセルから文字通り這い出て、体を震わして水滴を払いつつ、洪水のように流れてくる情報を整理しようとする。だが、量が考えていた以上に多く、状況が把握できない。

 

「何が……起こって……!」

『あ号だ、手短に伝える。連邦・ハガネ・ヒリュウ改に嵌められて、テンザンが堕とされた。今、この船とリョウト、シャインで包囲網を抜け出そうとしている』

 

 即座に入ったあ号のフォローに、思考が乱れる。

 

「っ……その状況はっ」

『ああ、”半分は見ていた通りだ”』

 

 自分たちは予知ができる。正確にはサイコ・ネットワークで強引に出力を上げた念動力で持って行えるが、しかし完全ではない。見ている内容と似ているが、それを織りなす役者が違うということもザラだ。今回もそれに当たるものだ。

 

「ハガネとヒリュウがいるなら……ユーゼス・ゴッツォは?」

『アルテウルとして()る』

 

 変わらないか、と存在しない歯を噛み締めたくなるような苦味を感じる。彼女が見ていた"未来"に、ヒリュウ改とハガネはいなかったが、ユーゼスは来ていたのだ。見ていた未来ではそこで"自分たちはビームに焼かれて死んで"シャインとリュウセイだけが生き残った。だが死ぬよりも前に、"彼女"の念がユーゼスを捉えてしまった。

 とはいえ、見えた未来は1つだけではない。船が沈む代わりに、リョウトが自爆特攻でスティグロを落とす代わりにシャインが流れ弾に当たって死ぬ未来や、素直に投降した後メンバーがバラバラになり、最後の日までロクに何もできず過ごす未来もあった。

 だがどの未来でも、この場の最後の結末は変わらない。

 

「なら……あの子は、もう動いている?」

『ああ、既に"線"は伸ばされていた。分かっていると思うが、我々ではパワー差で手が出せないぞ?』

『イレギュラーだけど、サイコドライバーだからねー。ここまでお膳立てされてるなら番人も顔を出すよっとと』

『ろ号、制御に集中! マシンセルの分散効率が下がっているわ!』

『そう言っても相手はあの漂流者の一角だよ?! 戦闘経験が違いすぎるって!』

『泣き言は言わないっ、ツぅッ!』

 

 い号の叱責が飛んだかと思えば、再び船が揺れ、艦内での浸水と隔壁閉鎖のアラームが響いた。カプセルの縁にしがみついて振動に耐えつつ、部屋の隅に置かれていた多脚型車椅子を呼び寄せる。

 

『ちっ。説明は切り上げる。お前が何をするか、わかっているな?』

「分かっています。私ができることは……あの子が、他の人に手を出さないようにするだけです」

『頼む、非戦闘員は食堂に避難してもらっている。テンザンはこちらで何とかする』

「お願い、いたします……」

 

 念話を切り、最低限の繋がりでP・ネットワークを維持する。そうして触手を動かして流体のベッドから這い出ると、呼び寄せた多脚車椅子に体を倒すように乗せた。念動デバイスであるそれは主の念に従ってガシャガシャと足を動かすと、揺れる船内を淀みない足取りで移動し始めた。幸い目的地までの隔壁はまだ閉まっていない。

 

「お願い……せめて、あの人達には、手を出さないで……」

 出すわけないじゃん、お姉ちゃん。

 

 視界が霞んだ。咄嗟に体を横に振って正気を保とうとしたが、次の瞬間には、少女の影が己の見下ろしていた。

 

「スェーミ……っ」

 わたしだって、まだ彼に嫌われたくないんだよ? けど、あの道化さんを捕まえるってなると、この前のヒトもどきだけじゃ足りないかぁ。

「……テンザンさんに嫌われたくないなら、もう止めなさい。彼だって、あんなことを」

 それは関係ないよね? それに、諦めてたお姉ちゃんが言っても説得力ないよ?

 

 幻影は嗤う。シェースチは、その幻影の姉は、存在しない歯を噛み締めたくともできず、ただ己の罪状に突きつけられ、耐えるしかなかった。一しきり嗤った後、幻影の口から笑みが消え、像そのものがノイズの如くブレ始めた。

 

 さすが、バルマー星人で黒幕さん。無意識とはいえ抵抗力が強い強い。けど……うん、これなら大丈夫そうかな。

「っ、アーシャ!!」

 じゃあね、お姉ちゃん。そろそろ私、忙しくなるから行くね。体と船のことはお願い。

 

 咄嗟に、妹の名前が出た。こうなる前の、本当の名前。こんな風になってしまった以上、その名前を呼ぶべき意味はなくなってしまった。事実、その名に妹を止める力はなく、幻影は文字通り消えてしまった。残された脳と目で形作られたヒトモドキは、無意識に伸ばしていた触手を震えながら下げると、改めて廊下を進み始めた。

 やはりもう、自分には止められないのだと自覚しながら。

 

 

 

 

 たったの2分/120秒の未来に、"敗北"と"死"が1万を超えて刻まれ続けるのは、生まれて初めてのことだった。圧縮された情報の塊は先の戦闘の休息を取ることも許さず、シャインは吐き気を堪えることと強がり、そして一握りの勇気で意識を持たせていた。その正気を使って、現実と予知をつなぎ合わせて、バイパスとなる肉体を駆動させる。

 

「さぁ、この機体、そちらが動かなければ、動いてしまいますわよっ」

「さすがにワザとらしすぎないか?」

 

 モニターの向こうには、百戦錬磨のエースパイロットが駆る4機の人型兵器。こちらは同じ外見でも、中身がペーペーの王女様。それがどうした、こちらは世界最強と特訓しているのだ。そんな意地と勇気をいかにも口上で現実へと放ち、コ・パイロットの文句を無視しながら、残り2分をどうするか思考する。

 まず、建前を通すために伊400からは離れられない。これはいい。自分をエサにしてエース級4人を連れて距離を取り、本命から引き剥がすのは有りだが、それをすれば擱座したままのテンザン/ゼノリオンを放置することになる。そうなればヒリュウ改やスティグロからの砲撃、または乗り込んでくる機動兵器に止めを刺されてしまう恐れがある。

 ならばこのまま動かずにらみ合いを続けるか。これもベストだが、拾い上げた予知を見れば、1分保てばいいほうだ。よって却下。

 そうなると、自ら動いて場を引っ掻き回し続ける。これであれば、120秒、いやその後の戦闘にも継続して参加できる未来がいくつかある。であれば、前に出ること一択。かつ離れすぎない。

 方針が決まった瞬間、新たな予知が落ちてきた。一度深呼吸をしつつ、足に力を込め、延長されたフットペダルを踏み込む態勢を作る。しっかり掴まっててくださいね、と身動きの取れない同乗者へ警告しつつ、己の意識を更に研ぎ澄ました。

 

『……しばし、我慢なさってもらいましょうっ』

 

 砲戦主体の機体/R-2の銃口が向けられると同時に、背部スラスターを爆発させる勢いで前へと踏み込む。苛烈なGに耐えながら操縦桿を繰りR-1を屈ませ、2秒後に来る頭部への直撃コースを回避。左のナイフをモーションセレクトで逆手に切り替え、銃をフェイントにして繰り出されたビームチャクラムを弾く。逆のナイフでそのままチャクラムを切断、ということをすればその隙に、自らの腕で視界が塞がれた左翼から回り込んでくるストライクシールドに殴り飛ばされるのを"予知"で見たため、勢いのまま前へと飛び出す。

 

『読まれた、死角からだったのに?!』

『ならちょっと、強引にアプローチさせてもらうかねッ』

 

 艦橋をゾル・オリハルコニウムの盾が薙ぐのを尻目に、間髪入れず右真横からのグルンガストのタックル。シンプルな突進は、パイロットの軽口とは真反対の、特機の巨体と合わさった強力な質量兵器だ。さらに大きく踏み込み、スラスターと合わせジャンプ、グルンガストの肩を飛び越えるように回避を間に合わせる。同時に万の数のR-1撃墜が脳内に溢れて、溢れた情報に耐えきれず手足が痺れかけた。堪えて、強引に変形を選択し、R-ウイングへ。頭部と脚部のあった空間を、潜んでいたR-GUNのビームカタールソードが薙ぎ払う。すかさず再変形、急造コクピットとパイロットスーツで吸収し切れないGを立て続けに受け、体のどこかでペキりと何かが折れる音がした。痛みはない、しかしその拍子で身内を抑えられなくなり、ブラックアウト。正気は、間髪入れずせり上がる嘔吐感で戻ってきた。

 

「うえ、げぇ」

 

 逆流する吐瀉物が食道を焼く痛みと不快感に堪らずR-1の操縦桿から手を離しかける。がくん、と機体が揺れて、思考が真っ白になって、動きを止めてしまった。

 

「姫さんっ!」

 

 堕ちる、と思いきや、リュウセイの声で意識を覚醒する。急いで操縦桿を掴み直し、次の行動に移るべく、モニターを睨みつけた。

 だが、予知/死がまた落ちてくる。黄色い粘液だらけのヘルメットからタッチコンソールを操作、両手のナイフを盾に切り替える。追撃を仕掛けてきたストライクシールド4枚を受け止められたが、その勢いに負け、海上まで弾き落とされた。スラスターの制動は間に合わず、そのまま海中へと突入。はっ、とようやく止めて息をし、酸っぱい臭いを認識した。

 これがゲロの臭いかと、妙な感慨を覚える。モニターのデジタル時計を見れば、まだ40秒しか経っていない。残り80秒、と考える間に主の命を受けた念動の使い魔が海中に突っ込んでくる。

 

「アヤの奴、少しは手加減してくれよっ!」

 

 リュウセイの喚き声を聞きながら、水中でも速度の落ちないストライクシールドの追撃を変形させた両手のナイフで何とか捌きつつ、大急ぎで機体を浮上させる。水中だと、どう足掻いても詰みだと見えたからだ。一呼吸入れるまもなく次の予知。頭痛を食いしばって耐え、ナイフを合わせ、大鎌へと変形させる。更に伊400から4発の魚雷が放たれ、しつこく襲いかかってくるストライクシールドへと衝突し爆発を起こす。運良く海中を乱す衝撃を利用する形となり、巨大な水柱を立てて、機体を中空へと飛び上がらせた。そして"予知通り"待ち構えていたグルンガストへ大鎌を振るうが、既に構えられていた剣によって容易く止められてしまった。

 

『おいおい、これを読むかよ。どうやってるんだい、レディ?』

「淑女の、秘密ですわ!」

『それは魅力的だ。だが、経験不足だなっ』

「そんなこと、百も承知でっ!?」

 

 切り返しに四肢を寸断される"予知"を回避するため、グルンガストを蹴って距離を取ろうとした瞬間、グルンガストがそれに合わせて"前進"した。息を飲むまもなく、R-1が更に後ろへ押し出された。態勢を無理やり立て直そうとするが、間髪入れず右脚部が撃ち抜かれた。驚きながら衝撃を堪えつつスラスター全開、またも強引に後退するが、さらに"予知"が上下から射撃を伝えてくる。どうすればいい、と判断しようとするが、しかしその思考と判断が遅れ、機体の動きを止めてしまった。気づいた瞬間には既に遅く、頭部右側面と左腕を実弾が直撃。R-1が錐揉み回転を起こし、受け身も取れず艦橋へと落ちた。

 頭が真っ白になって、悲鳴を出す余裕もない。視界も薄暗くなり、響く甲高いアラームが遠く聞こえる。シートベルトのおかげでシートには固定されたままだが、両手は痺れて力が入らず操縦桿から手を離しており、視界から黄色いものがなくなっていた。単純に、メットのバイザーが粉々に割れたからだ。広くなった視界の下側で、倒れ込んだリュウセイが映る。最低限の機能しかないサブシートと拘束具では今の衝撃に耐えきれなかったのだ。呻き声も聞こえるが、シャインと同じく覇気がない。

 

『失礼します、王女殿下』

『手荒になってしまったこと、申し訳ない」

 

 仰向けに臥したR-1の横に、R-2とR-GUNが降り立つ。反射的に、何とか動く脚で機体を前方へ逃そうとするが、それも投げ出された両腕をR-GUNの足で踏み抑えられることで、動きを封じられた。

 

『シャイン王女っ!? くそっ、みんな、退いてくれっ!!』

『すまない、リョウト』

『行かせないわリョウトくんっ』

『事情は後で聞かせてもらうわ!』

 

 モニターには死角となって映らないが、レーダー上ではアーマリオンとATXチーム、そして数機のPTによって包囲されていた。アーマリオンを示す光点は超高速で動き続けているが、しかし連邦軍を示す無数の点が作る網から抜け出せないでいた。

 

『シャインちゃんが……あ号、歪曲フィールドはまだ駄目なのか?!』

『無茶をいう、あと2分は待て』

『というか、後ろからあの目隠れ総統に撃たれまくってるから無理だよ! マシンセルの分散装甲もそろそろ保たないって!』

『魚雷発射管の位置と発射タイミングもさっきので完全にバレた、次撃ったら撃ち抜かれるわ』

『前進できてるだけマシだが、いつ暗剣殺が来てもおかしくないぞ……』

 

 通信機越しの伊400も、周囲で展開するPT群の集中砲火を躱しながらの対応となっているせいか、こちらまで手を回す余裕がない。むしろ一歩間違えれば、クルー全員が海の藻屑となってしまうという本末転倒な展開となってしまう。

 残り30秒、あと少しなのに、体から力が抜けて、視界が霞んでいく。

 

「これが……こんな、無力なのですか、わたくしは……」

「っ、ひめ、さん……教官、アヤ、ライ、待ってくれ……こっちの話を……」

『リュウセイ、シャイン王女、まずはその機体を停止させる。大人しくしていてもらおう』

 

 シャインの零した感情に応えようと、リュウセイが両機のパイロットへと声をかけるが、帰ってきた答えは光子兵器の発振音であった。死ぬ、という未来はない。だが、伊400が海へと沈みイメージが色濃くなる。

 また、力及ばず見ているだけなのか。そんなものは、もう御免だなのに。

 

「……まだ、まだですわ……ここまでやって、ただ伏せているだけなど……私の矜持が……許せ……ないっ……」

『いや、止まっていただかなければ困る』

 

 凍えるような声音を伴うイングラムの呟きと共に、R-GUNのライフルがセイルを背もたれにして俯くゼノリオンに向けられた。誰とも知れぬ、息を呑む音がノイズ混じりに響く。

 

『その機体は伊400で修繕されている以上、自爆させられるということも考えられる……だが、同時にそちらの狙いはシールダー、あのリオンタイプとテンザン・ナカジマだ。撃たれたくなければ、そのままシャイン王女とダテ少尉をコクピットから解放してもらおうか』

「教、官……ッ?! いくらアンタでも、それは……やっちゃ……」

『リュウセイ、捕虜である以上、交渉には口を出すな。そちらのT-LINKシステムで暗示を受けている、と思われる以上正気であることを疑いたくはない』

 

 その言葉は、暗にリュウセイとシャインを、あくまで"操られている"としておくための政治的判断によるものだろうことを、SRXチームが察していることを意味していた。シャインの言う通り、遠隔操作や暗示であれば、救出後の復帰や政治的立場も悪くなることはない。ある意味、シャインの意図を汲んだ故のものだ。だがそれにしても、外道じみた脅迫だ。直情的なリュウセイの教官とは思えない、と酸味の強い口の中で歯噛みする。それが、脱力していた体に、僅かだが力を込めさせてくれた。

 ちらりと時計を見れば、残り15秒。それだけあれば、テンザンの命が消えてしまう。させるもんか、と痺れる腕と足に、強引に力を込めた。

 

『……ライ、R-1のコックピットハッチを取り外し、救出を。アヤとカザハラ中尉はこのままのバックアップを』

『了解しました……リュウセイ、動けるなら、シャイン王女を守……ッ』

 

 そして、R-2の右腕が待機させたままのチャクラムからビームの発振を止め、R-1の胸部に手をかざした瞬間、シャインは残る力を振り絞ってペダルを踏み込んだ。脚部スラスターを吹き出し、しかし機体を抑えられていることで、上半身だけが暴れ出した。だがそれで十分、右腕が跳ね上がった瞬間に操縦桿を繰り、油断していたR-GUNのライフルを無事な右手で掴み上げ、銃口を反らした。反射的にトリガーを引かれたのだろうそれは、ビーム光を彼方へと放った。同時、R-1の右手首から先が、咄嗟に繰り出されたのだろう、ビームチャクラムの光輪に寸断された。

 

「〜〜〜あと、3秒ッ」

『余計な抵抗をっ……!』

『イングラム教官、ご無事でっ?!』

 

 再度R-1が押さえつけられ、今度こそ逃さないとばかりに腹部が踏みつけられる。衝撃緩和装置で相殺しきれない振動がダイレクトにシャインに伝わり、伸び切ったシートベルトでは抑えきれず頭をモニターへとぶつけ、そのまま落ちそうにリュウセイの手で引き寄せられ、割れたガラス片がその手に突き刺さった。その手の隙間から、一片がシャインの額に突き刺さる。痛みは不思議とないが、跡にはなるかもしれないが、それよりも大事なことを成したことに、自然と笑みができた。

 

「もたせましたわ……っ」

『何を言ってるの……?』

『……まさかっ』

 

 してやった、と言いたげなシャインの言にアヤとイングラムが声を上げた。

 その瞬間、真昼に流星が瞬いた。

 

『全機警戒、大気圏外から超高速飛行体が降下中……このサイズは、特機?!』

『いえ、熱源は2つ! PT級2機ですっ』

『識別信号不明……いえ、DCのものに変わりました! 対象から多数の飛行体……ミサイル来ます!』

『対空システムアクティブ! 主砲2番、空対空ミサイルのタイミングは任せます!』

 

 オープンチャンネルから響くアラームと緊迫した音声は、ヒリュウ改とスティグロの両方から届いたものだ。その声質は混乱を極めており、戦場にいた全ての視点が頭上へと向いた。

 青空を切り裂いて、光が降ってくる。光は無数の分身、いえミサイルを吐き出しながら、一直線にこちらへ向かってきている。最初のヒリュウ改と同じように、高高度からの強襲だ。そしてそれを事前に察知していたヒリュウ改部隊に、反撃しないという選択肢はない。連装ビーム砲が流星目掛け火を吹き、対空ミサイルが同時に放たれたが、飛行体はミサイルと爆炎の雨の中をくぐり抜けてくる。減速と急加速を交えた機動は並のパイロットには真似できぬものであり、地上でありながらデブリ群を駆け抜けるレーサーにも見えた。

 

『光学映像出します……これは、ヴァルシオン!?』

『なんだコレ、戦闘機が付いたリオン?!』

 

 そして、第一波を抜け出したそれを、ヒリュウ改、そして伊400の光学機器が捉えた。白を中心とした騎士甲冑染みた装甲。後腰部から1対の大型バインダーを伸ばし、そこから引き抜いたであろうビームライフルの銃口には熱気がまとわりついていた。そしてそのシルエットは大型のPTサイズとはいえ、明らかにヴァルシオンの面影を残しており、兄弟機であることを示している。そしてそのような特機が捕まるのは、これまた異形な機影だ。

 頭部だけを見ればアンテナ部分を大型化したガーリオンである。しかし脚部は四足に、胸部と腕部はそれに見合うよう装甲を増設され、全体的にマッシブな印象を与えた。だがそれより特徴的なのは、背部から伸びる"一対"の翼、いや戦闘機だ。イスルギ社のシュベールトの流れを汲んだような流線型のフォルムに、双発式エンジンを組み込まれた両翼。翼と胴体には追加装甲と見間違うほどにミサイルランチャーとコンテナが取り付けられていた。色合いも派手で、ガーリオンの左翼側が赤、右翼側は銀のカラーリングが施されており、ガーリオンの背部コネクターから伸びる細長く伸びたテールバインダーによって接続されている。

 ヴァルシオンタイプは異形のガーリオンのテールバインダーから展開したフックを掴み、直撃コースのミサイルを手持ちのライフルで次々と撃ち落とす。銃身が赤熱化するほどの連続照射は、しかし徐ろに銃を捨てたことで止まった。誰かがそのことに疑問をこぼす前に、一度その状態から身を捩ったかと思うと、弾かれたように飛び出す。直後に聞こえたのは、年若い少女の声だった。

 

『死にたくなけりゃその船から離れなっ!!』

『その声、もしかしてっ』 

 

 ばちり、と空気が熱で破裂する音と、リョウトの声、そしてヴァルシオンタイプから計測されるエネルギーが重なった。歴戦の経験か、即座にR-1を離してSRXチームとグルンガスト、そしてエルザムたち攻撃部隊が伊400から距離を取り、少し離れた箇所で戦闘を続けるアーマリオンたちもすぐに離れられるよう、戦闘機動が鈍くなった。

 間髪入れず、ヴァルシオンタイプが伊400の直上にたどり着く。丸まるように急制動を掛けながら、光り輝くようにチャージされていたエネルギーが、その四肢から開放した。

 

『サイコブラスターッ!』

 

 閃光が騎士甲冑から溢れ出し、円形のエネルギー力場として空間を包み込んだ。離脱が遅れ、数瞬そのエネルギー場に触れた機体は悲鳴を上げ、降り注ぐミサイルと艦砲射撃は力場に触れた瞬間にその身を散らした。光が収まったと思えば、包まれていた空間にはエネルギーの残滓として紫電が走る。だがそれほどの牙に晒されながら、伊400と、その艦橋上に放置されたゼノリオンとR-1には何の変化も起きていなかった。当然の如くシャインとリュウセイにも影響はなく、精々眩しかった程度だ。リュウセイは状況の変化についていけず、ポカンと口を明けている。

 

『敵味方識別型MAPW……?!』

『あれ、サイフラッシュじゃニャイのっ?!』 

 

 照射は僅か5秒、だがたったそれだけの間にこの場の中心となったその機体は、周囲へ見せつけるようにゆったりとした動作でバインダーから剣を引き抜くと、伊400を包囲する機体と艦船を睨みつけた。先行した機に追いついたガーリオンタイプが、内部に溜まったのだろう熱を出すため、広げた両翼とテールバインダーから蒸気を吐き出す。その姿をサブカルチャーが好きな人間には、大見得を切る主演剣士と、その従者のように見えるだろう。

 

「あれが、姫さんがいっていた天使なのか……?」

「ええ、思っていたより派手でしたけど」

 

 リュウセイの疑問に端的に答える。その言葉を肯定するように、先程の少女の声と、それは発する姿が、海域全体へと映し出された

 

『弱きを助け強きを挫く連中が、雁字搦められて弱いものいじめの片棒担ぎ! 悪の大総統から引き継いた使命を忘れ、ご同類を袋叩きたぁ、まったく持って粋じゃない! リューネ・ゾルダークとヴァルシオーネ。積もる話は山ほどあるが、義によって助太刀するよっ!』

『お、同じくクドリャフカセカンド! テンザンたちを助けに来たよっ!』

『〜〜、無理にノるなアイビスっ!』

 

 金色の髪の少女。黒とダークブルーのタイツ型パイロットスーツに身を包んだ、かのDC総帥の一人娘/リューネ・ゾルダークが、背後に流星となりえる獣を従えて、大見得を切ってみせた。

 

『リューネ……リューネ・ゾルダーク!?』

『確か、ビアン・ゾルダークの娘、だったよな……?』

『なぜ、このタイミングで……?』

『何が目的……いや、言葉通りか?』

 

 状況の混乱か、オープン回線で無秩序な疑問が疑問が飛び交っている。台詞に合わせて元禄見得を取っていたヴァルシオーネが構えを解き、腰部の鞘から剣を引き抜く。AM用に拵えられたディバインアームは水面を反射し、切っ先はスティグロ、ヒリュウ改、そしてサイバスターへ順に向けられた。

 

『そこが例のアームズフォートで、あんた達がビアン・ゾルダークを倒したハガネ・ヒリュウ改の竜の方……そして親父に止めを刺したサイバスターとマサキ・アンドー、間違いないね?』

『……ああ、そうだ』

 

 虚を突かれた形となったサイバスター/マサキが肯定をするのを確認したリューネが、ため息を零す。そして大きく息を吸い込むと、再度声を張り上げた。

 

『がっっっかりした!!』

『なっ……』

『これが親父を倒した連中? これが親父が未来を託した剣? こんな茶番に首輪着けられて従う奴らが? ふざけるんじゃない、これならあたしがやった方がマシだ!!』

『っ、いきなり現れといて、好き勝手言ってくれるじゃねか』

『あの凝り性のバカ親父に色々頼まれてる身なんでね、親父の後を託すかどうか確かめたくもなるよ』

 

 小型究極ロボ/ヴァルシオーネが剣を引き、構えを取る。中段に据えられた剣先は、陽光を反射し、包囲する連邦軍をその威と機能を持って威圧していた。同時に、生きている全損を免れたサブモニターに、レーザー回線でメッセージが写り込んだ。

 MAPW持ち兼足の早いやつは任せろ、と。

 

『まずはサイバスター、あんたからだ! その曇ってる目を晴らしてやる!』

『うぇっ、リューネ!?』

『後ろは任せたよ、スレイ、アイビス!』

『っ、いいぜ。どっちみち、テメェの相手は俺たちがするのが筋だ』

『そういう台詞は、ちゃんと目を開いてから言いなッ!!』

 

 叫ぶが否や、ヴァルシオーネがサイバスター目掛け突貫する。同じくディカッターを構えてサイバスターが迎え撃ち、中空で無数の剣戟が舞い始めた。

 リュウセイが状況についていけずぽかんと口を開けているのを尻目に、呼吸を整えたシャインは、何とかシートに座り直して、役に立たなくなったメットを外した。汚れたそれをはしたなく投げ捨てると、伊400へ通信を開く。ひび割れた正面モニターには、文字通りの修羅場となって司令室と、大粒の汗を流すアルウィックとドナが映った。本職ではないにも関わらずオペレーターを熟す二人の顔には目に見える疲労が出ていたが、しかしその目はまだ諦めていなかった。

 

「アルウィック博士、テンザンさんはっ?」

『王女様かっ。先程の攻勢でハッチが開かない、このまま包囲を突破する!』

『リューネ・ゾルダークとプロジェクトTDのことはひとまず信用しましょう。突破ルートが再計算してるけど、貴女の予知では大丈夫?』

「それはっ……!」

 

 問われた瞬間、機能していた接近警報が鳴り響く。シャインではなく船をそのものを狙った攻撃が、再開されたのだ。迎え撃とうと咄嗟にR-1を動かそうとした矢先、シャインたちに影が差した。

 

『ここはアタシたちがっ』

『貨物機能試験機、その名の通り量は揃えてきているぞ!』

 

 クドリャフカセカンド、そう名乗った機影から届く二人の女性の声。合わせて両翼に備えられたミサイルランチャーのハッチが開くと共に、コンテナから射出されたパーツが接続され、中空で接続、超長身レールガンと化して、クドリャフカの両手に収まった。

 

『CTM-02スピキュール、プロトGGドライバー、セット。アイビス、5秒後にターン! ドライバーのトリガーは任せる!』

『アイハブコントロール! プロトGGドライバー、ファイアッ!』

 

 夥しいマイクロミサイルが、海上から飛び出そうとしていた黒いゲシュペンストの出鼻を挫くと共に、通電され空間を焼く銃口が中空の狙撃機を牽制する。やるわね、と白騎士から軽口と反撃が即座に返され、躱しきれなかったそれを大気圏離脱を可能とする強固なTドットアレイが弾く。狙いをビーム光が伊400の真横の海を切り裂き、熱せられた熱で水蒸気爆発を起こすと、巨大な水柱を立ち船が大いに揺れた。

 狙撃機が再度こちらを狙おうとするが、ばら撒かれたマイクロミサイルと、ATXチーム全てを相手取っているアーマリオンが牽制に入り、その火線を外すことに成功した。

 

『貴女の相手は、僕です!』

『ありゃりゃ、残念っ。それじゃあ仕方ないわね』

『っ、ごめんなさいッ! ありがとうリョウト!』

『まだ謝るな、次が来るぞ! そこのPTっ! あいつの味方なら、さっさとそいつを船の中に入れろ!』

 

 モニターに映る二人の女性には余裕がない。戦闘経験がほぼない自分から見ても、彼女たちだけではジリ貧になることは目に見えていた。

 

「救援感謝しますわ。ですがハッチが開きません、このまま海域を突破します!」

『ちぃっ、分かった!!』

 

 変形させた盾を支えにR-1を起き上がらせつつ、司令室から送られた、再計算済みの突破ルートに目を通す。同時に、予知がまた降ってくる。あの光による沈没のイメージはまだ消えない。それでも、彼女たちが現れ場を乱してくれたことで、一点だけ、希望が残るルート/未来が生まれた。

 ちらりと、何も言わずとも、T-LINKシステムによる機体制御に集中してくれているリュウセイに視線を送る。そしてその視線を事前に分かっていたのか、リュウセイの目は真っ直ぐにシャインを見返していた。

 

「言いたいこと、何となくだけどわかるぜ。まだ、ダメなんだな」

「ええ、まだスティグロが動きます。対抗するにはさっきと同じようにするしかないとは思いますが、今のままではできません。ですが……」

「いや、大丈夫だ。さっきリューネって子の声を聞いて、俺も腹を括った……一発だけ、俺がメインになる」

 

 シャインが口ごもる言葉の裏を、リュウセイは真っ直ぐに返した。それに呼応するよに、コックピット内が淡い緑の光で輝き出す。同じタイミングで、高エネルギー反応の警告が響き、死の予知が落ちてくる。警告先の大本はスティグロ、見れば衝角の発振器に、再びエネルギーが充填され始めていた。言葉で情報を共有する時間も余裕もない、しかし、未だ接続されたP・ネットワークの感覚で、己の考えと、これからリュウセイにやってもらうことをイルカたち、そして伊400のクルーに伝えた。

 回答は、是。これに賭けると、皆が頷いた。

 よかった、ありがとうと言葉を心中に零し伝えると、ぽつりとリュウセイが呟いた。

 

「テンザンの奴は、いつもこういったものを背負って、戦ってるんだな……」

「そう、なのかもしれませんわ」

 

 盾を、最後の形態である弓へと切り替える。同時に機体が倒れないように膝立ちに変え、左腕部だけで射型を取った。そこまでして、急いでコクピットシートから離れた。代わりにリュウセイが席に収まり、集中するために一度目を閉じた。

 リュウセイ・ダテが、今の言葉にどのような感情を込めたのか、その全てを理解することは、シャインにはできない。だが、力になってくれるということ、そしてテンザンを信じようとしてくれる人たちを信じようとしてくれることだは確かなものだとわかった。

 それは、自分も同じ。

 それが理解できたからこそ、こんな暖かな想いを、テンザンに抱けたのだから。

 

「だから、絶対に負けられません……!」

「……破を念じて、刃となす」

 

 その想いと、心を、テンザン自身によって、彼を殺すといわれた青年が聞き取り、応えようとした。

 

「行くぜ、天上天下!」

 

 超穿孔一矢!!




リュウセイ語難しい・・・
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