NEST5連敗中なので初投稿です。
意識はまだ暗闇の中にあり、四肢は重力に従ったままだらんと垂れている。それでも、通信装置が生きているおかげか、声は聞こえてくる。
聞き覚えのある少年少女、大人の叫び。仲間ともいえる伊400のクルーたち。"原作"では、舞台装置の如く死した悪役たちに、名もなき裏方。存在しない人々。物語の本来の主役たちと、メインを張れる青年の恋人。
そんな彼らが、自分なんかを声を荒げ、この身を助けるために命を懸けている。
どうして、このまま死なせてくれないのだろう。
人の姿を外れた少女を元の姿に戻してやりたいと思った。正気を失ってしまった少女を助けたいと願った。彼女たちと共に囚われていたイルカたちを元の場所に帰してやりたいと考えた。
けれど、自分には土台無理な話なのだ。
自殺するような弱い意志の魂が、いくら才能と悪役をやれる肉体と役割を与えられても、誰かを守り、救えるほど、強く在れるだろうか。
現に、こうやって罠に嵌って、逆転できると思った手が利用されただけで、容易く追い詰められて、要らぬ窮地を作り出してしまっていた。半端ものな自分は、それだけで膝を抱えて挫けてしまう。
そういうものなの?
ああ、そうだ。前世では両親の期待も、社会の期待にも応えられず、そして自分の夢と命も放棄して、人に迷惑を掛けることしかできない、人未満の自意識が持てない生き物は、どんなに生まれ変わっても変わらないのだ。
古今東西、転生や転移を含む漂流譚において、自死から始まるものは少ない。そこから始まるものとしても、大きな絶望の果てからの死の世界の旅路か、別の目的を持って行われたことが殆どだ。
自らの命を、物語的な大きな理由もなく、ただ迷惑を掛けすぎて死にたくなって放棄した、などという、惰弱な魂に価値はないのだ。
ああ、そうだろう。
ホッ、わかってるじゃねか。
だから、いつでも放棄して、いや、投げ捨てても、本当はいいのだと思う。期待に応えることも、強がることもさっさと辞めて、正義の味方ごっこは妄想の中だけで済ませて、耳を塞ぎ眠ってしまえばいいのだ。
眠って、起きたら、また眠るために、首を括る。苦しいのは一瞬で、また眠りにつける。その時にはもう、周りの音は聞こえない。
ああ、きっとそれは、とても心が休まるだろう。
生きるって、そんな価値のないものなんだね。
そうだ、生きることに価値はない。あっても辛いだけだ。戦うことが生きることと、どこかのアニメかマンガか、小説かエッセイで言っていたが、それはとても苦しいものだ。死にたくない、だけで生きているのは、ただの愚かものだ。死んでしまえば、そんな考えもなくなるのだ。首を括ってしまえば、みんな無価値で等価値、楽になれる。
そう、このまま瞼を閉じればいいだけだ。
そうだ、それこそ私が望むものだ。
ああ、そうだよな。"あなた"のその大本にあるのも、そういう感情もあったはずだ。だからきっと、あなたも私の中にいるのだろう。
だけど、不思議だ。
閉じようとした瞼に、誰かの顔が浮かぶ。見知った金色と銀色の少女が、流氷の見える丘の上で笑っている。どこかの工場で、大人びた少女が泣いている。薄暗い部屋の中で、王女様がはにかんでいる。3頭のイルカが、星空の海を泳いでいる。2人の兄弟が、摩訶不思議な地下世界で分厚い本を広げて頭を悩ませていた。月面基地で、少年と家族が上司と共にロボットを組み上げている。溌剌とした男性が、部下と一緒にそのロボットの部品を確認している。眼鏡の似合う妙齢の女性が、子供と気が合う同僚と一緒に、病院を開いている。
そんな景色を見たいと"願う"、心がある。そんな心を見つけて、瞼と手が震えてしまうのだ。
愚者め。それはただの妄想家だ。
そんなことはわかっている、わかっているんだ。
それを願うこと自体が愚かしくて、無価値で、バカで、傲慢だと、いつも思っているのだ。
それでも、それでも。
「信じてくれたんだ……優しくしてくれたんだ……戦っていいって、胸を張ってもいいって、教えてくれたんだ」
だから、報いたいのだ。
それが結果として、正義の味方に成り果てようとも。
あーあーバカバカしい。結局良いことがあるって思い込みから、勝手に背負おうとしてるだけなんじゃないか。
ああ、きっとそうだろう。
成り果ててしまえば、こんな感情もいらなくなるだろう。
だが、今この瞬間、この気持こそが、自分を立ち上がらせてくれるのだ。
いくの?
ああ、もう起きるよ。
冷たくなり、力を入れようとするとまた震えてしまう手で、それでも拳を作る。
その拳で、自分の顔を殴りつけた。
「リューネ・ゾルダークに……アレは、強襲用AMか?! 残党め! イクリプスといい、どこにあんな戦力を隠していた!?」
アルテウルは眉をしかめつつも、スティグロ艦長の悲鳴染みた声に思わず頷きそうになった。伊400の反撃から始まった一連の逆転劇の途中。最後の仕上げとばかりに現れたのはかのリューネ・ゾルダークとヴァルシオーネだ。しかもアルテウルの"虚憶"で知るヴァルシオーネとは違い、ヴァルシオンに似せた追加装甲を被せている。偽装か装甲強化かは知らぬが、明らかにDC総統の血縁者として、戦闘への介入を意識した装いだ。
加えて随伴、いやキャリアーとして現れたもう1機。計画のために収集している情報では、イスルギ重工からの依頼でプロジェクトTDからスピンオンした、戦闘行動可能な試験機が存在すると聞いていたが、聞いていた姿形が異なることから、より最適化された改修型と想像はつく。問題はなぜこの場にいるかだが、少し頭を巡らせれば目星は凡そついた。ニブハルはうまくやったが、女狐もただでは転ばなかったかと、先程から痛む頭を抑えつつ、艦長へ目配せした。
「艦長、セブンスラッガーの発射準備を」
「それは……いえ、了解しました。しかし変動観測機能は先のダメージで使用できませんが……」
「構わん、敵母艦を落とせればいい」
そうはいいつつ、本命はゼノリオンただ一機だ。"それ"さえ滅ぼせれば、あとは何とかなる。
「シャイン王女殿下はいかがしますか?」
「丁度良く鹵獲された兵器に"乗らされている上"、その機体も満足に動かないようだ。展開中の部隊に救助させてから……待てっ」
そこまで言葉にしていて、自分にしては視野が狭く短絡的な考え方に、ふと、違和感を覚え、言葉を止めた。本来ならば、ここは確実にシャイン王女を回収した上、展開中の部隊で包囲殲滅すれば問題ないはずだ。では何故"焦っている”のかと思い、悪寒がした。
念動力者特有の、脅威に対する警告。サイコドライバーほどではないが、自身もその教育と育成を受けた身であり、"虚憶"とはまた異なる危機管理として機能するそれが、何かを捉える。冷静な思考は、その原因は憎悪と予感であると告げている。では、何に対してのものかと言うのが、中々言葉にできない。まるで思春期の子供のようなものだが、しかしこの予感を無視することは"ユーゼス・ゴッツォ"として行ってはならない、存在意義めいた、妙な確信があった。
前を見る。目を細める。モニターではなく、肉眼で、華々しい戦場に浮かぶ潜水艦を見やる。一機はR-1、何やら片膝立ちになりつつこちらを見据えているが、脅威ではない。もう一機は先程から沈黙しているゼノリオン。
先程から擱座し、辛うじて機体反応がある程度。特徴的な盾から銀の液体が垂れ落ち、損壊した機体部分にも積もってしまっている。死に体であり、マシンガンの斉射でもすればそのまま機能停止してしまうだろう様に、何故か、怖気が止まらない。
何が、何がそこにいる。
その疑問に答えるように、ゆらりと、蜃気楼のような幻がゼノリオンから立ち上る。気づくものはいない、計器にも反応していない。なぜならそれは、ある一定以上の階級の"ルマー"の人間しか知らぬものだからだ。
そして、それによって形成された影の正体も。
「そう、か……そういうことか! だから私は、こうも冷静ではいられないのか……ッ!」
「大統領補佐官……?」
堪らず、声を荒げてしまった。不審に思ったのだろう艦長と、数名のオペレーターがこちらを見る。それを機にする余裕はなく、同時に声を上げた。
「何をしている、早くセブンスラッガーを撃て! 今がチャンスだろうっ!!」
「し、しかしチャージも開始したばかりで、救助対象がまだ……」
「鹵獲された機体に囚われたままだ、我々は"最大限の努力"をしている、早くしろっ!!」
「ッ承知しました……チャージは80%まででいい、照準合わせ!」
アルテウルの剣幕に押され、艦長が本機の最大兵装展開の指示を出す。一秒でも早くしてほしい、ヤツを消せるのだから。見間違えるはずもない影に、思いもよらぬ千載一遇のチャンスが現れたことへ、焦りが積もる。同時に、これまで経験したこともない高揚が湧き上がることを感じる。閉じ込められた牢獄から解放される直前のような、奇妙な心地。それと同じ熱さと闇を持つ、暗い怒り。
「そこに……そこにいたのか、霊帝ッッ!!!」
その矛先は、ゼノリオンから立ち上る影/霊帝の陽炎へと向けられていた。
捕まえた。
わたしは、あなたを捕まえた。
だからこそ、身内で嘯く存在に、気づけなかった。
T-Linkソード、という兵装がある。正確には兵装ではなく、R-1のパイロットの念動力をT-Linkシステムで増幅させた力場を、そのままイメージで剣状に固定させて武装化する、一種の裏技のようなものだ。力場の固定、といっても物質的に安定しているわけではないので満足に掴むことができない。そのため、任意の方向へ射出するか、または本来の用途/念動フィールドと同じように、一時的に機体そのものに纏わせ突撃するなどの、質量攻撃の一助とするくらいだろう。
R-1の解析、そしてR-1に直接繋げた状態のシミュレータで、リュウセイ・ダテがその技/現象を使用するのを見ていて、ストランドウィックとアルウィックは思った。
もっとよく使えるだろうと。
力場はイメージによって形状を変えられる。ならば初めから、"射出することを意識した形状"にもできるということだ。今までにない形状にする都合上、TC-OSとT-Linkシステムでの実現性や、パイロットへかかる負担、特にイメージを固着させるための条件など、所々の問題が出てくる。特にパイロット側のそれは、個人の資質に依存する。それをどう補助すればよいかについては、兄弟が真っ先に思いついたのは、念動力と相性のいい触媒だった。
都合がよいことに、彼らの手元には初期型マシンセルがある。これには電気信号以外に、念動力でも形状を変化させることに加えて、増幅効果もあることがゼノリオンの稼働データから判明していた。それを用いて今までのハガネ部隊との戦闘履歴、そして戦闘シミュレーションから得られたリュウセイのデータから、その閃きを具象化させることができた。
あとは、形成時にどのようなイメージの向性を持たせるかだ。常に意識を切り替えて変幻自在に武器の形を変えるというのも、それこそ魔法使い染みた、人間離れな業だと兄弟は理解していた。ラ・ギアスを目指す都合上、名や形がイメージと連結することはよく理解していたが、考えている方向性が効率的ではないことも理解していた。
兄弟は考え、ふとテンザンが酒の席や談話室で話していたゲームのキャラクターの代名詞を思い出した。生み出した剣を弓矢とし、それを必殺技とする。これであれば、既存の剣状からの派生で、イメージを行いやすくなるはずだ。
思いついた兄弟はすぐに、マシンセル加工・変形技術において、電気・脳波問わずの伝達技術を修めたドナに協力を求め、R-1解析のための修復・改修素材として用いていたマシンセルの変形形態に、弓形態を追加した。
この加工と実験の表の目的としては、パイロットのイメージ伝達によって、マシンセルと念動力場を同時操作し、攻撃に転用できるかだったが、二人の興味としては、指向性を明確に持たせたエネルギーが、"ゼノリオンと伊400"、そして"構想中の機動兵器"に利用できるかだった。
シミュレータでのテストはたった三回。その内二回は矢の形成に失敗。成功した一回でも、およそ戦闘に耐えられるものではなかった。
だからか、ファインマン兄弟としては弓形態は実験で生まれた失敗作、機能を削る時間がないためそのままにしているだけだった。
だが、実際にそれをイメージしたリュウセイは違った。
これは、強すぎる。
捻るイメージによる念動力のイメージ補強、射出による自身の中にある"必殺技"のイメージの補正、自分自身の射撃適正、何よりも鏃の核となるマシンセルの"形状に呼応した適用"、これが噛み合うことにより、全力を込めれば単機でMAPW級の攻撃力を得ることができてしまうと直感した。故に、成功した3度目は、その気付きによる恐怖もあり、イメージが霧散し、失敗に終わったのだった。
この機能は、自分でも使いきれるかわからない。だから、失敗したフリをしよう。電源の落ちるシミュレータの中で、密かに決めたことだ。
しかし今、そのような弱音を吐いている場合ではなかった。
隣には、共に戦うと告げたお姫様がいる。背中には、宿敵と、その宿敵が守ろうとした人々がいる。
ここで奮えず、何が兵士だ。
「刃を念じて、刃となす」
自身への言霊でイメージを作り、R-1がTC-OSへ新規に登録された射型を取る。オーソドックスな型、それ故にイメージは固めやすい。左手には弓を、右手には青白い念の刃を。矢となる剣を引き絞り、狙いを定める。そこまでの動作を行ったこと、そしてドナが追加したマシンセルの変形パターンにより、弓より剣先へ金属細胞の種が植え付けられた。種は芽吹くように切っ先と一体化し、その色を実体なき薄い青から、深い翠に、そして固着化することで黒へと変じた。色の変化はコクピットでも起き、翠の発光と合わせ"Ouranos"の字がモニターを踊っている。ずきりと脳が痛む、跳ね上がった念動力の負荷にリュウセイは顔を顰めるが、構わず言霊を続ける。
「刃は捻じれ、鏃となる」
2つ目のイメージは、捻じれ。ただの刃では全てを穿つ弾丸たり得ない。切っ先を起点に、前へ前へと進む螺旋形へ変える。実体でないにも関わらず、破断寸前の金属染みた悲鳴を上げながら、刃は矢への変形を終えた。
『R-1からのエネルギー計測値増大! ハガネの主砲級っ、いやまだ上がっている……!?』
『ウラヌスシステムが稼働……? リュウセイ、それは、何だ?』
『リュウ、何をしようとしているの?!』
ほんの少しの集中力の乱れで、刃が霧散し、集約していたエネルギーが周囲へと解き放たれてしまう。それ故に、SRXチームの呼びかけに応えることができない。今はこの技を完遂させる。
『クソッ、敵艦のチャージのほうが早い! くるぞっ』
「来ますわ、リュウセイ・ダテ!」
ストラングウィック、そしてシャインからの警告は、自身の予感とも一致している。相手の方が早く撃つ、それを迎撃する形となってしまう。先の超重力砲との撃ち合いの再現だが、今度はそれをPT単騎で行わなければならい。ワンオフとはいえ、特別なエンジンを積んでいる訳ではないR-1との出力差は明白だ。だからあとは、自身が引き出す念だけだ。
正面に見据えるスティグロの特徴的な、錨の如き衝角に、死の光が満ちた。射線上から、PTと特機が退避し、互いの射線が通る。一呼吸入れた後にはその光が巨大レーザーの剣となり、自分ごと船を焼き尽くすだろう。
ワンアクション。息を吐き、吸い込む。それだけで時間が止まるような感覚に包まれ、神経がごく自然に外部とつながる。サイコネットワークの接続のような、頭の一部を誰かが間借りするようなものではない。ただ、あるがままに、自分と世界が一体となるような、達観したもの。
その感覚に陥っていたのは、ほんの一瞬。
光が来る。
トリガーは、息を吐き終えて。
「行くぜ、天上天下! 超穿孔一矢!!」
R-1から、光の矢が解き放たれた。放たれた瞬間、他の光が海域から消え、音が全て遅れて広がる中、矢の軌跡だけは、明確に海に現れていた。超高密度の念動の力は海を割き突き進み、直径1kmにも及ぶ光刃と化して迷いなく突き進む。込められたエネルギーの波形に、誰かが言葉を失い、瞬きの中に、剣/矢の光影が焼き付く。この戦場の視線全てが、引き金を引くことも忘れ、そこに集中していた。
しかしそれが向かう先には、地平線を覆うかの如き半月の刃。さながら、大津波へ石を投げたような、自明の理を想起させるほどの、総体としての差。だが同時に、何かが起きるかもしれない、という困惑と数値。
刃と刃の激突は、その結果も光の如く迎えた。
矢じりが光波と衝突した瞬間、その内へと矢が捻り込み、その身に凝縮されたエネルギーを開放した。天を焦がす柱を思わす光が立ち上り、刃を真っ二つに引き裂いた。力場を崩された刃のその身を形成するエネルギーを迷走させ、力を失い、射手に到達するころには霧散していた。熱波が甲板とR-1に届く頃には、自然と保たれていた沈黙が、わっと破られた。
『嘘だろ、マジかよっ』
『オヤジの剣、やるじゃないか!』
『本当に、止めやがった……ッ?!』
誰かがの感嘆の声がこぼれ出し、次々と困惑と驚愕、そしてそれを合わせた歓声が通信を満たす。そんな場の空気がリュウセイのものに変わろうとした瞬間だった。
何とか脅威は去ったと、ようやく呼吸を思い出したように一息つけたリュウセイとシャインの横を、影が走り抜ける。パワーダウンを起こし、メインモニターすら点かなくなろうとした瞬間に見えたその機影に、二人は堪らず叫んだ。それに合わせ、状況に気づいたストラングウィックが、ゼノリオンに起きた変化に喚いた。
「ゼノリオン……テンザンッ!!?」
「ダメ、そんな体ではッ……!!」
『なっ、リミッターが外れたっ?! 念動力もないのにか!?』
半身から今もスパークを起こすゼノリオンが、センサーにすら影響を出す水蒸気で溢れた海面を滑る。残った片手に、同様に形を辛うじて残す大盾を抱え、その身から銀の血を流し続けている。
その銀が、海に溶け込むことなく沈んでいくかと思った矢先、ゼノリオンの飛翔とともに盾の中へと巻き戻っていく。大上段で、矢を引き絞るように構えられた盾は、その身から溢れ出したマシンセルによって切っ先を形成した。刃渡りは47m、幅20mの、AMサイズとは思えぬ刃だ。それを支える機体各部のスパークは一層激しくなり、残った肩関節からは火花が上がり、それを機体に纏わりついたままの銀が急速に塞いでいた。
その様子に、そして自身の超感覚が告げるものに、絶句した。その銀一つ一つの粒から、"生命"を感じるのだ。
『ユゥゥゥゼスゥゥゥゥ!!!!!』
テンザンの叫びとともに、引き絞られた矢/刃が、ゼノリオンから放たれた。投擲した腕を砕いて、物理法則を無視したかのごとく、真っ直ぐに盾はスティグロへと向かった。迎撃のために狙撃機が構え、スティグロの近接防御火器が開こうとするが、音速を超えた投擲には間に合わない。かろうじてジガンスクードの防御フィールドが展開されたが、それすらも抵抗すらなく断ち、盾/刃は標的へと噛み付いた。
『機関全速、回ッ……』
誰かの叫びを切り裂き、盾はスティグロの艦橋、そこを僅かに掠めて船体下部へと突き刺さった。衝角が豆腐を切るかのごとく両断され、それを支えとしていたスティグロの前面がぐらりと前へと屈む。金属を強引に割り割く不協和音を戦場を響く。自重によって刃が艦橋に深々と入り込み、やがて天頂に至ったところで動きを止めた。
アームズフォート・スティグロ、沈黙。
突然の出来事の連続に、誰もが言葉を失った。いや、そもそもこの数分間の状況の変化は、天才であろうと容易に捌けぬものだった。
リューネ・ゾルダークの介入に、突然の攻撃行動を行ったスティグロ。それを不可解な現象を起こしつつ撃ち落としてみせたR-1。トドメに、もはや動けないとばかり考えていたゼノリオンの再起動と、どこに隠していたのかと思う兵装による一撃。
誰も彼も、状況をつかめないほどの情報量。しかし一つたしかなことは、今この場の流れは、先ほどまで沈黙していた男が、強引に掴み取ったことだ。
それを理解しているように、両腕を失ったゼノリオンが再度加速し、邪魔するまもなくスティグロ正面に取りついた。半壊した頭部が艦橋の上へとぶつけられ、明滅するガンカメラが、そこにいるだろう、たった一人を射抜いていた。
『お前がいくら恍けようが、言ってやる。聞こえないフリなんてするなよっ!』
『き、貴様。いったい何を……』
オープン回線だろうそれが開いたとき、コックピット内のテンザンがR-1にも映し出された。状況は先よりも悪い。右目は額から流れる血で閉じ、口元からは血でできた泡が声を発するたびに生じている。それでもなお、その目は死人のものではなく、意志ある人間のものだ。
『お前が、俺みたいなやつを殺したいのは、分かるっ! 400のような存在を許せないのも、わかる! けどな……それを私は、俺はっ、認めない!! お前の思惑がどうなっても、仲間を殺そうとするなら、はお前を否定する!! お前がいる連邦にはアイツラは渡さない! ガンエデンやら虚憶だろうが、そして南極だろうが好きにしろ。けどこっちにこれ以上何かしてみろ。俺の知っている全てで、お前を叩き潰す!!』
そのような姿でも発せられた啖呵。恐らくは、先程話していた大統領補佐官へと向けられたそれに、つい一言。
「…………はぁ。やっぱり、敵とは思えねぇ」
ため息と感想が自然と溢れた。隣をちらりと見れば、シャインが映像に映るテンザンの顔を食い入るように見つけており、戦闘の高揚とはまた別の頬の赤みが帯びていた。
周囲に展開するPTやAMも、突然の出来事に呆気に取られて、その戦意がなくなり始めているのを"感じる"ことができた。特に一部のもの、特にサイバスターの剣先がゆっくりと落ちているのを見ると、戦う気すら失せたのが見て取れた。
これで自分は、そしてもしかしたらハガネやヒリュウ改の面々も、テンザンを旧DCの重要人物という、特殊な敵とは思えなくなったはずだ。何かを隠している、何かを騙している、先の戦争で基地一つを潰し、人を殺す罪も犯している。それでもテンザン・ナカジマが、善き人のため、そして仲間と認めたもののために戦い、抗っているのが否が応でも理解できてしまったはずだ。
それでももし、自分がテンザン・ナカジマと戦うことがあるとすれば、理由は2つ。連邦軍人として、そして。
『……抜かせ……それをキサマが言うことか、霊帝……っ!!』
【リュウセイ、聞こえるか。すぐにその船から離れてハガネに合流しろ。奴らがくる……想定よりずっと早い……ッ】
取り留めのない思いが浮かんだ最中、同じオープン回線に載せてしまった、シュタインベック補佐官の、怒りと憎悪が滲む唸り声と、身内からくるいつもの声が同時に聞こえた。それは明らかに、これから更に状況が一転するのだという予兆を知らせるものだ。
「姫さん、何か予知下りてきてないか!?」
「っ、リュウセイさん、どうされました? 何かまだ……」
『貴様が、今までどれだけのことをバルマーに、このわたシに…………がっ、あっ……あ……?』
「ッッ!?」
悪寒が一気に高まる。これほどの恐ろしさと気味の悪さは、先のリクセント公国でテンザンのコピーと戦ったとき以来、いやもしかしたら、それとは違う、もっと怖気を誘うものだ。
その発生源は、あの補佐官と、そして、伊400の中から。いや、正確には、伊400から伸びているそれが、補佐官まで伸び、包み込んでいるのだ。
不味いことが起きている。その直感だけがあるが、先の一撃を放ったことで限界を迎えた機体も体が動くには、今少し時間がかかる。
『何だ…おい、どうしたユーゼス……アルテウル・シュタインベック!?』
『お前は……お前は、何だ?! 小娘、私の"虚憶"には、いない……な、が……あ、この私を、取り込むつもりっ。させる、か、があああっっ!?』
バチリ、とスパークが起きた気がした。その瞬間、地鳴りのごとき衝撃が、
『くそっ、立て続けに今度はなんだってんですか?!』
『大規模なESウェーブを検知! 天体規模クラスですっ!』
『観測地点、ラグランジュ5……いえ、もっと近い!?』
『バカな、そんな側にワープアウトだと?!』
EOTに判明したワープ航法時に観測されるESウェーブ。それが地球で直接観測できるほどの規模のものが、この戦闘海域でも計測できた。それが意味することはことはただ一つ。人類の絶対防衛圏の内側に、何者かが現れようとしているということだ。
『正体不明天体、出現します!!』
そして、空間を引き裂くように、その白い天体は、地球上から肉眼で確認できる位置に現れた。遠目からでは、野球ボールほどのそれは、しかし衛星にしては大きく、そして直前までの存在しない、不自然なものだ。月よりも白く見えるそれの出現に、またも全員の視線が奪われた。
『ネビ、イーム…?』
それの正体を知るだろう、テンザンの言葉だけが、遥か宇宙の先に現れたその妖星に届くようだった。
お待たせしてしまい申し訳ありません。
書きたいこと、書かなければいけないことが多かったのですが、リアル事情と相まってモチベが削られてしまい、大分カットかつ荒い出来となってしまいました。
オペレーション・ナインブレイカーはひとまずこれで終了、次回はリザルトという名の日記回予定です。
あと、リュウセイの新技(パクリ元)はFateシリーズのブロークン・ファンタズマです。