(本編に大きな影響のない話なのでスキップOKです)
2026/5/5 SS3での名前について加筆しました。
【SS1:シャインとライディース】
「そこのあなた……ライディース、様で合っているかしら?」
ハガネの格納庫の一角、普段のRチームとはたまたま離れて、R-2の調整データを受け取っていたライに対して、演技ったらしい高慢な声が掛けられた。そのような態度を幼少期、そしてあの事件から何度も受けていた身としては不愉快ではあるが、それを隠し、その声の主に振り返った。
整えられた絹の如く輝く金色の髪、それを"ポニーテール"に結ったシャイン・ハウゼンが、先日再会したばかりの執事/ジョイスと、同年代ということで護衛となったラトゥーニを困らせ顔にしながら、微笑みを湛えていた。この時点で、ライは不思議な違和感を持った。
「私、まだこの船には不慣れですわ。あなた案内いただけますか?」
「……お断りします」
それは側にいる二人に任せればいいことであり、自分の仕事にはまったく関係ないものだ。その正論としての感情と理屈で持って、彼女の回答を拒否すると、シャインは笑みを崩しながら「ですわよね」と、納得がいったかのように零した。その言に自身も、そしてお付きの二人も顔に疑問符を浮かべた。彼女の言葉通りであるなら、断られると分かっていて、声を掛けたこととなるからだ。
「不躾に失礼しましたわ。私、あちらの船に居たときこう言われましたの。『ハガネには私の運命の相手がいる』と。その方のお名前と特徴もお聞きしていましたので」
「シャイン様、それは……」
「いいの、ジョイス。非があるのはこちらですわ。どうしても確認しておきたかったことですので」
何かを納得したように、従者の言葉に首を横に振った王女に、理解の追いついていなかった頭が、ようやく少女の行いたかったことを認識した。
どうやらこの元捕虜の王女は、自身とライディースのと間に何からの繋がりがあると、あの船の中で吹き込まれたのだろう。そしてそれを確かめ、非礼を詫びた、ということだ。
それだけであれば、ライディースは誇大妄想気味な一般人に、不躾に声を掛けられただけの話だ。だが問題は、その情報を吹き込んだのは、あの船の誰かということだ。
「いえ……謝罪をお受けします、シャイン殿下。ライディース・F・ブランシュタイン少尉です」
「ありがとうございますわ、ライディース様」
自然な動作で右手を差し伸べられたことに若干を驚きを浮かべつつ、こちらも手を返し、握手する。
「俺の情報を知っていた…というのは、もしや例の?」
「ええ、ご想像の通り、テンザン・ナカジマ様ですわ」
シャインのいう件の人物、DC残党所属"伊400"。その頭目たるテンザン・ナカジマは、眼の前の御仁と、捕虜の身分から脱走してきたリュウセイの言によれば、予知能力者の類という推測が出ている。故に、ただ錯乱のためではない別の意図が、その情報に含まれているのではないか、と頭を巡らせる。
「いえ、でしたら動向調査、という形でお供させていただくことは可能です」
それならば、あえてあちらの思惑に乗るのは、どちらになる。その思考を元に、シャインの案に乗ろうと声を掛けた。
「あら、それは……でしたら、ハガネではなく、東京を案内いただけませんか?」
頭の中でスケジュールを組み直しつつ、機転を利かせて提案すると、少し驚いた調子のシャインは、にこりと笑みを零した。
余談だが、この後シャインに振り回されて、お供3人はハガネに帰る頃にはヘトヘトになっていた。
【SS2:機動兵器用武装評価試験】
「第6回評価試験を開始します。まずはタラスク中尉から始めてくれ」
『あいよ。バレリオンキャノン、ジェネレーターイグニッション」
伊豆基地の海上演習場の一角で、ロブの合図とともに、カチーナ・タラスクが愛機ゲシュペンストMkⅡを中腰姿勢にしたまま、超重量兵器/バレリオンキャノンを起動させる。観測室の一角ではゲンシュペンストのデータが常にモニタリングされ、起動し始めた暴れん坊の影響と、射出のための準備を常にフォローしている。
このバレリオンキャノンは、アイドネウス島で接収し、連邦軍で解析後、再組み立てに際してPTでも利用できるよう改造したものだ。当時はぶっつけ本番ではあったが、リクセント公国攻防戦でもAFの主砲を撃ち抜くという逆転の一射を放っており、威力は折り紙付き。今は解析に協力したマオ・インダストリー社、そしていけしゃしゃあとブラックボックス部分のライセンス販売にきたイスルギ重工からの要望もあり、正式なオプション兵装としての導入試験を行っていた。
元々はバレリオン本体のパーツを流用していたため、携行武器としては大型の駆体となっている。加えてオリジナルはかなり無茶な改造をしていたため、出力の細かな調整や、砲身の脆さなど弱点もあった。
正式採用に当たり、連邦側の仕様要望もあり、これを幾つか解消することはできている。一番わかり易いのは、機関部をパッケージングし、砲身を折り畳み式に変更したことによる携行性の向上だ。脆さという弱点はそのままではあるが、DCに残されたデータにあるヴァルシオンの歪曲フィールドを突破したというデータと、リクセント公国で引っ張り出した固定式砲身バージョンでの銃身強度から、数発保てば十分という割り切りで改修は進められた。
「仮想チャンバー1から10番まで形成を確認」
「専用ジェネレーターの緊急冷却起動、予測値より温度上昇が10%高いです」
「ゲシュペンスト腕部へのオーバーロードを確認、タラスク中尉、そちらは?」
『振動が前回よりマシになってるが、かなりレティクルがブレる。匍匐姿勢にするか?』
「いや、今回は通常射撃姿勢の試験だからそのままで頼む」
カチーナに指示を出している傍ら、仮想チャンバーの充電率を見る。出力は想定通り、初めてこの銃に遭遇した際の"半分程度"で、可視化できている翠の力場も半透明だ。そうしている間に、地平線ギリギリに用意したターゲットドローンへの照準が合った。
「チャンバー正常、砲身熱量は正常値です」
『よっしゃ、撃つぜ!』
「頼んだよ、タラスク中尉……て、もう撃ってる」
ロブが許可を出したのとほぼ同時に、バレリオンキャノンのトリガーが引かれた。10基の仮想チャンバーを通すごとに加速する弾頭は、レールガンには似つかわしくない轟音を立てて砲口から飛び出し、瞬く間に海上のターゲットドローンを破壊した。ドローンは瞬時に爆散、ターゲットを貫いた弾頭はその背後に設置していた鋼鉄のクッションをそのまま5層貫き、6層目にめり込む形でようやく止まった。その軌跡は実体弾頭でありながらプラズマ化しており、ちりりと空気が焼かれる光景が画面上からも確認できた。
「ライノセラス級の装甲材を六層も……」
「ハガネもやられたからなぁ、これ」
戦艦級の装甲が易易と貫かれたその様子に、観測員たちの息が漏れる。R-1用のブーステッド・ライフルを調整してきたロブとしては、艦砲級以上の威力を持ちつつPT・AF問わず搭載可能なバレリオンキャノンについて、良い物を作ってきたな、と多少の嫉妬心を交えながらも称賛を小さく零した。同時に、仮想チャンバーの構成をSRXの"次"に活かせないか、と技術屋としての性も出てくるが、オペレーターの何人かが試験の次の準備を始めたので意識を切り替えた。
「よし、タラスク中尉は冷却、および次の試験ポイントに移動してくれ。続けてインパクトランスMk2の試験に移る。バーグマン少尉、準備は?」
『問題ありません、ゲシュペンストのユニバーサルコネクトでもエラーなしです』
続いて演習場に現れたのは、量産モデルのインパクトランスを構えたラッセル・バーグマンのゲシュペンストだ。同じくウェーク島基地で遭遇したタイプの、正式量産モデル。しかしイスルギの関係者からはこぞって"Mk.2"と呼ばれている。
その理由は、臨界・過剰使用時の現象の差異だ。
「新しいターゲットは出しているから、テスト工程通り"ロンゴミニアド"まで起動してくれ」
『了解です。インパクトランス、チャージ開始』
TC-OSに登録された動き通り、切っ先を天へ向くように構えたインパクトランスの外装が、形成されたT-ドットアレイによって浮遊し、ばちりと余剰出力のよる紫電が瞬く。ともすれば、雲まで届くかもしれない白光の柱。
インパクトランス過剰使用形態。最初の使用者と開発者兄弟により"ロンゴミニアド"と命名・正式採用されたこの状態、そして一撃は下手をすれば基地一つを丸ごと破壊しかねない代物だ。
「インパクトランス、チャージ100%を突破。過剰形態への移行を確認しました」
「"ロンゴミニアド”と基部との剥離開始を確認。20秒後に解放されます」
「ゲシュペンスト右腕部へのバックロード、想定通りの数値です。ですが右半身全体の装甲が過熱されています」
「こっちはほぼ想定通りか。バーグマン少尉、そのままタラスク中尉と同じターゲットへ。まとめてやっていい」
『了解しました。行きます……ロンゴミニアド!』
余波により軋む右腕を、OSに登録したモーションのまま、光の柱ごと振り下ろした。その瞬間、ランスに引き止められていたエネルギーが解放され、大地と海を引き裂くが如く、射線上にあったすべての物質を消し飛ばした。プラズマ化した空気が弾け、周囲の空間までもを抉り切る一撃は、計測機器を含め、何も残さなかった。インパクトランスの刀身は赤熱化し、熱せられた空気は陽炎を起こしてその姿をぼやけさせる。しかし、かつての戦いのように、その芯が崩れることはなかった。
"Mk.2"の過剰形態、それは基部に展開したロンゴミニアドをそのまま解放し、エネルギー放射による広域砲撃を行うようにしたもの。収束と放射の2モードで使い分けが行えるようになった、文字通りの改良版である。同時に、アイドネウス島でリョウトが、そして数々の戦いでゼノリオンが使用した"Mk.1"のような、一発ごとにインパクトランス本体の交換は不用になり、使い勝手も向上できた。だが、特機に対して致命となる一撃までは持たなくなってしまった一品である。
「空間異常値、あと70秒ほどで正常に戻ります」
「OK。バーグマン少尉、機体の調子は?」
『体感ですけど、反応が鈍くなっています。装甲以外にも内部機器にダメージが来ているかもしれません』
「ゲシュペンストのチェック……確かに、右腕を中心にエネルギー伝達系とモーターにダメージがあります」
「わかった、バーグマン少尉はそのままハンガーに機体を戻してくれ。バレリオン・キャノンの第2射へこのまま移行する」
イスルギ重工から正式に提供された2つの兵装。これならは力になるだろうと、ロブは満足げに頷いた。
--------バレリオンキャノンを入手しました。
(射程3~8、弾数5、バリア貫通)
--------インパクトランスMk.2を入手しました。
(武器選択に「インパクトランス」と「インパクトランス・ロンゴミニアド」が追加される。通常射程が1〜2、ロンゴミニアドが2〜4。EN消費は共通だが、ロンゴミニアドはEN以外に弾数2の制限。バリア貫通・サイズ差無視)
【SS3:ただの人から見たら】
DC戦争前と変わらない日々が流れる札幌。その市街地を走るバスの中で揺れているトーヤ・シウンの目には、色とりどりの広告やニュースがいつも通り映っていた。郊外の自宅から通学には地下鉄を使用しているが、寄り道の際にはもっぱらこちらだ。今回で言えば、シャンプーの安売りをしている薬局と、ついでに近くのゲームセンターだ。今月の小遣いから今日は3戦ぐらいかな、とリュックの中の消耗品の購入費用と、バーニングPT用の予算を考えつつバスを降りると、ビルに設置された大型モニターのニュースが切り替わった。
『続きまして、先日行われましたシャイン・ハウゼン王女殿下の救助作戦についてです。連邦軍の尽力により王女殿下は無事救出され、ジブラルタル海峡での機雷撤去も完了していますが、アームズフォート一隻の大破に50名近くの負傷者、帯同していたシュタンインベック大統領補佐官が意識不明の重体と、作戦内容の是非が政府内で追求されています。大統領府からは……』
2つに分割されたモニターでは、最近のニュースでよく出てくる連邦の白いPT/R-1の中から引っ張り出されている金色の髪の美少女、シャイン・ハウゼンと、誘拐犯の組織と思わしきたった1機の機動兵器が救出部隊と戦い、そしてその中で破壊されるAFスティグロの姿があった。そこで映像はもう一度切り替わり、その機動兵器の正面写真と、一人の男の顔が新たに映し出される。四角い、一見すれば偏執的で嫌悪感を覚えるタイプのゲームオタクを想起させる顔立ちで、しかしどこか引き込まれる目が、カメラをじっと見ていた。
『政府は王女殿下誘拐の主犯として、元DC所属のテンザン・ナカジマ特尉の賞金額を500万Gに引き上げ、引き続き足取りを追っています。また、それに合わせて……』
「おーいトーヤー!」
「あ、アキミ」
ニュース映像が、今度は黄色の線の塗装がされ巨大な盾を持つAMを映すのと、合流を予定していた学友/アキミ・アカツキが声を掛けてくるのはほぼ同時だった。トーヤもモニターから目を離し、軽く挨拶すると、すぐに足並みを揃えてゲーセンへの向かった。
「あれ、今日アケミは?」
「経理の手伝いするからって先帰ったよ」
「それ、アキミは手伝わなくていいの?」
「いいっていいって。俺、一回手伝ったことあるけど、『簿記取ってから出直してこい』って追い出されてことあってさー」
「さすがに次期社長としてはそこは不味いんじゃない?」
「こっちはまだ遊び盛りの高校生、むしろアケミが真面目すぎるんだよ。というか、今日もやっぱりバーニングPT?」
「はは……まぁうん」
あからさまな話題そらしに苦笑しつつも同意し、行きつけのゲーセンにたどり着くと、愛用のGコンを取り出す。目当ての筐体/バーニングPTはちょうどプレイヤーが悪態をつきながら離れたようで、タイミングがよかったが、同時のその上の天井から電光板の表示が気になった。
「何々……全国大会再現プレイ?」
「あーこれか。この前噂になってたやつ。なんでもDC戦争前にやってた全国大会のプレイヤーを再現したらしいぜ」
しかも日替わりだってさ、とアキミが指さした方を見ると、少し前まではよく見かけていたトップランカーのプレイヤーネームと、その横に小さく記載された名前が月間スケジュールと合わせてずらりと並んでいた、天上天下伝導勇者/リュウセイ・ダテ、カラテエース/リョウト・ヒカワ、ムゲフロもよろしく!/ケンイチロン・モリデラ、超銀河夫婦/Mr&Msジーナス。そして、今日のプレイヤーである、名無しの黄色/テンザン・ナカジマ。先ほど見たニュースもあってちょうどいいとやる気が湧き出た。
「へぇ、ならちょっとやってみようかな」
「お、だったら俺はその後な」
「ちゃんと見とけよー」
着席しながらGコンを専用アタッチオに差し込み、筐体へデータを同期させると共に、コインを入れる。慣れた手つきでスタートすると共に、イベントモードを開き、バトル画面へ移行した。没入感を上げるゴーグルをつけると、広がるのは仮想の砂漠地帯だ。
カウントが画面に現れるのを認識しながら、自機の挙動とレーダーをチェックする。今日は重装甲で近接メイン、盾にも銃にもなる大剣2本を備えた特機系セッティング、レーダーから会敵には30秒ほどかかる。天候は晴れ、接地面のバランサーは影響なし。
よし、とチェック完了と同時に、スタートの笛が鳴った。早速持ち味を活かすために、正面から接近を始める。相手が大会で見た通り、重装甲重火力のセッティングである以上、接近できなければそもそも勝ち目がない。今の自機であれば多少は持つ、同時に致命傷を与えればいいという、肉を切らせて骨を断つ戦法で行くと決めて、フルブーストを掛けた。レーダー上では相手も正面からこちらへ向かってきている。接敵は後5秒程度だが、小高い丘があって見えない。
「顔を見せたら即殴り合いだなっ……!?」
攻撃に備えて機体を構えさせた瞬間、丘の向こうから長い影が飛び出してきた。上からか、と剣の一本を銃撃モードに切り替え銃口を向けた瞬間、今度は左側面からのミサイルアラート。時間差攻撃かともう一本で撃ち落とそうとした瞬間、砂漠の丘の天頂が弾け飛んだ。砂塵と爆炎を纏い、最大速度で突っ込んできたのは、ショットガンだけを構えたテンザン機だ。機体を静止して、両手でそれぞれの攻撃を迎撃し始め瞬間を狙った突貫。
「嘘だろ、なら上のは?!」
咄嗟に真上の影を見れば、それはテンザン機が装備している、主武装のはずの大型ガトリングだった。慌てて右腕の大剣を振り下ろそうとしたが、次の瞬間には右上でショットガンで吹き飛ばされ、返す刀で頭部とコックピットを撃ち抜かれた。
クリーンヒットの衝撃で機体が揺さぶられ、残り耐久値も僅かのアラートが響く。だが、機体はまだ動かせると、レバーを踏み、機体を踏みとどまらせた。
「くぅ……けどっ、まだっだっ?!!」
せめて一矢報いようとした瞬間、迎撃できていなかったミサイルが襲いかかってきて、あえなくゲームオーバー。ゴーグルの中が真っ暗になってしまった。
「……強すぎ」
ゴーグルを外して、茫然自失とした自身の口から漏れる。横を見ればアキミも口をあんぐりと開けていた。その後ろには小学生ぐらいの少年少女が別のモニターに映された、俯瞰風景のリプレイを見ていて、そこから自分の敗因を読み取ることはできた。
テンザン機はガトリングを囮として投げると共にミサイルを丘を回り込むように発射するのと合わせ、更に正面に向けて発射していた。そこからさらに、弾数の残っていたミサイルポッドを切り離し軽量化していたのだ。それにより機体を軽量化し、速攻を仕掛けてきていたのだ。再現とはそこまでできるのか、と疑問が浮かぶが、そのスピードに追いつけずやられてしまったものは事実だから仕方ない。
「よっし、ならもう一回……」
「おっと交代だぜトーマ」
「ちぇ、わかってるよ」
半分本気でコンティニューを押そうとしたが、きっちりアキミに止められてしまった。仕方なく席を交代して、プレイエリアから離れて後ろに付いた。今日のアキミの機体はテンザンと同じ重火力タイプ、それに先程のトーヤの戦闘から接近戦の危険性を知っているから、撃ち合いになるのは必須だろう。
やってやるぜ、と舌なめずりするアキミに、俺より持たせろよ、と心無い応援を掛けながら、ふと思った。
これだけ強い人だから、戦争に行ってしまったのだろうかと。それとも連れて行かれてしまったか、と。噂では、上位ランカーは軍にスカウトされると聞いたこともあるので、あながち妄想じゃないかもと考えながら、ひとつ思い出したことがある。今朝のニュースにあった、シャイン・ハウゼン王女とテンザン・ナカジマ。この二人が関わりだしたリクセント公国襲撃事件は、ネット上で一時的トレンドになっていた。そこでテンザン・ナカジマは"リクセント公国"を護ったのである。
掲げられたのは巨大な盾。そこから奔る光が、DC残党が操るAFイクリプスの主砲を止めた。思わず、何度も見直した動画だ。流されていた音声通信から、"守護騎士"とも言われている機体と、それに乗り命がけで戦っていた青年。テレビで言うような悪人とは一致しない、2面性を持っている。
「……テンザン・ナカジマってさ、何がしたいんだろうな」
「んっ? てあ、あああぁぁ負けたあー!」
思わず零した言葉に反応したアキミが、何とか引きうち戦法でタイミングを見計らっていたところを、逆に突破されて撃ち落とされてしまった。あ、ごめんと平謝りすると、筐体から離れたアキミにヘッドロックを喰らってしまった。
「このやろ、結構いいとこいってたのに変なこと言いやがって!」
「いててて、というか全然削れてなかったって、ギブギブギブッ」
「それが余計だっての! はぁ……」
ため息と共に解放されると、呆れ顔のアキミが肩をすくめた。
「そんなの、本人が動画で言ってたろ。"正義の味方志望"だって」
「正義の味方志望……」
「まぁけど、それなら何であのハガネ隊と戦うんだって話だけど」
親父も釈然としてなかったけどな、とアキミは言葉を続けているが、トーヤは言われた言葉にすとんと納得していた。
正義の味方ではない。ただ、そうなりたいと思うもの。まだ、そうでないもの。
「そっか。足搔いているんだ、彼は……」
「ん、今度は何て言った?」
「いや、納得したってだけ」
きっとただ漫然と生きている自分と違って、懸命に生きようとしているんだなと、ニュースに映っていたあの瞳の中の光の正体に、ようやく気づくことができた。
「……もう1回やってみようかな」
「お、いいじゃん。俺も今度は近接でリベンジだ」
二人して笑いもう一度バーニングPTに並び、再現されたテンザン機に挑み、負けた。ヤケになった二人は予算以上のコインを投入し、帰りが遅くなり迎えに来たアケミにしこたま叱られてしまった。
まだ、ただの少年少女でしかない3人の、よくある青春の1ページだ。
【SS4:クスハ・ミズハの事情】
伊豆基地の一角にある道場。道着を着た男女、ブリットとクスハは互いに一礼すると、互いの得物を構えた。ブリットは使い慣れた木刀、一方でクスハは1メートルほどの棒、構えから杖術のものである。存外様になったそれに、経験で勝るはずのブリットの頬に汗が流れた。
「いきますっ」
一声、同時に踏み込み、そして無数の突き。正眼の構えのまま受け流し、相手の呼吸に合わせて手首を返して弾く。そのまま杖に沿わせるように刀身を這わせ、胴を狙うが、返す勢いで伸びた石づきによって上から落とされ、更には本命の打ち込みが来る。しかし、弾きの勢いが弱かったがために、ブリットの勢いは止まっていない。外への踏み込みとともに半身をずらしつつ逆袈裟を仕掛ける。打ち込みの勢いを消せないクスハにそれは当たる、と思った瞬間に、引き込んだ棒の中心が刃と衝突し、その勢いを殺すどころか、ブリットの気勢そのものを停止させた。拮抗した力と位置がそうさせているのだ。
一瞬の硬直。だが、稽古である以上動くことこそが大事と考え、あえてブリットはその均衡を崩す。合わせてクスハが無数の突きを繰り出してくるが、それを受け、払う。時々、その鋭さにヒヤリとさせられた。
ここまでの動きは、素人のものではない、熟練者のものだ。だが、クスハ・ミズハという少女が杖術を使い始めたのは、およそ1ヶ月前、あのゼノリオンと戦った後だ。
「ふっ、はっ」
「っ、足の運びが甘い」
それゆえに、体はまだ技術に追いついていないというチグハグなもの。ブリットは一呼吸と共に、踏み込みと大きな払いによって棒を跳ね上げると、クスハの額に切先をそっと置いた。はっ、と息を呑んだクスハは、ありません、と一言つぶやく。
互いに離れ、一礼。張り詰めた空気がそこで弛緩し、ぷしゅーとという音が聞こえそうな顔をクスハを見せた。
「ブリットくん、ありがとう。ごめんね、稽古に付き合ってくれて」
「いや、むしろ驚いたよ。むしろたった1か月でここまで動けるなんて、筋がいいよ」
「ううん、私もその、今回はズルしちゃっているから……」
「ズル?」
もしかしていつもの栄養ドリンクが更に魔改造されているのではないか、と別の意味の緊張がブリットの身内に走った。幾ら恋した相手といえど、アレはダメだ。どこからか仕入れてきた分からない、オレンジ色のジャムや虹色のパン生地を入れたバージョンを飲んだときは、冗談抜きで天国への階段を見たのだ。ついついと後ずさりをしてしまいそうになるが、それより前にクスハは頭を振った。
「ううん、何でもないよ。それよりこの後、待機要員の交代だよね? 片付けはこっちでやっておくから」
「て、もうそんな時間か、思ったよりギリギリだ……ごめんクスハ、先に行くよ」
同じATXチームだが、ローテーションの関係で別々のスクランブル待機要員となっているため、ブリットはすぐに身を翻して道場を去った。決して、あのクスハ汁を飲みたくなかったわけではない、はずである。
そうして一人残されたクスハは、誰もいないことを確認すると、もう一度構えを取る。そうして目を瞑り、脳裏に浮かべるのは、ひとつの巨大な影だ。龍の翼を持った巨人、それが持つ盾と坤。その棍の動き、そして巨体の動きをトレースする。動きを合わせるごとにクスハの動きは洗練され、見るものが見れば、その切先に念の残滓すら感じ取るだろう。だがこの場にいるのは、クスハと、もうひとつ。
『……上手になったね』
「うん、ありがとう」
いつからかそこにいたのは、半透明の少女だ。かろうじて髪色が薄い金であることがわかる程度で、その顔は決して見えない。自身のストレスの産物かとも当初は考えたが、しかし同時に見えるようになった巨人のビジョンと、そして彼女の話が、それはまったく別の要因であることを教えてくれた。名前は、未来に悪影響が出るからと、名乗られていない。しかしどこか懐かしさと親しさを覚える雰囲気に、いつしか警戒心も薄れ、何よりも彼女の告げた言葉は、クスハに一つの危機感を覚えさせた。
『これなら、1回だけなら如意金箍棒を使えるかもしれない』
「……ねぇ、本当なの……このままだと、世界に焼かれちゃうって」
『……その可能性は、すごく高いの』
クスハの何度目かもしれない疑問に、少女はコクリと頷いた。
『獣が、このままでは目覚めてしまう。私が……ナシム・ガンエデンが、そしてアイドルたちから逃げた因子が……巡り巡って、この世界の未来と過去、すべて崩壊させてしまう』
一部の声は聞こえない。しかし、嘘とは思えない。初めて遭遇したあの日、テンザン・ナカジマに誤射を指摘されてしまったとき、確かにクスハは観たのだ。
地球が燃える。その中心で、白い少女が笑っている。少女は燃える地球を食い尽くすと、その腹からブラックホールのような穴が広がり、やがて宇宙全てがそこに吸い込まれてしまう。星も、光も、闇も、人も、ただただ穴に吸い込まれ、食われ、消化され、やがて燃料になってしまった。そして少女は、"何か"を起こした。
そのような、恐ろしいビジョン。一度はメンタリストにも相談したが、しかしあの時は誤射を仕掛けたこと、エクセレンに大丈夫と言われながらも自責に潰されそうになったこと、テンザンに真っ向から負けたこと。それらにより一時的な情緒不安定な心理が見せた幻視ではないかと診断された。
だが、少女と巨人のビジョンが、そこから常に現れるようになって、与えられた力、そして少女の賢明な言葉から、それは真実であると認識していった。
『クォ……因果律の番人も何とか干渉してくれてるけど、多分全力を出せるのは1回だけ。私も何とか、クスハに憑依させてもらってるけど……無理矢理な形になっちゃって、その』
「ううん、貴女がきっと、大変なことをしているのはわかるもの。大丈夫だよ」
申し訳なさそうに顔を伏せる少女に視線を合わせ、その頭を撫でる。実際に触れるわけではない、だがそうしてあげることが女の子が落ち着くと、看護師としての知識と、クスハ自身の想いが教えてくれる。顔が見えない少女が、涙を堪えているのが、なんとなくわかってしまったから。
『ありがとう、クスハお姉ちゃん』
「どういたしまして……それで、問題の獣、名前はわかっているの?」
クスハの言葉に、少女は頷いた。
『うん……名前は、アーシャ・ソマト・コウトク・ロマノフ。今の時間軸では、スェーミ……霊王の因子の、あのテンザン・ナカジマの傍にいるよ』
(本編を進めず)本当に申し訳ない。
ショートショートとして一番最初のやつだけ書きたかった、今は反省している。
SS2にある武器設定はかなりてきとーです。