スパロボOG TENZAN物   作:PFDD

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分割のため初投稿です。


気障ったらしい泣き声を 1

 その日は、北極圏の国にしては暖かな風が吹き、上着も3枚で済むぐらいには暖かな日だった。

リハビリを兼ねたウォームアップを終えて、屋外のメンテナンスベッドに寝かしつけられているゼノリオンの肩に乗ったテンザンも、こんな日に外で誰かと狩りゲーでもできればな、とつい本音を零したくなるような、緩やかな空気。それでも、天に空けられた孔の如く存在するネビーイームで気を取り直し、整備班と共にゼノリオンのメンテナンスに入ろうと、作業服のマジックテーブをつけ直そうした矢先だった。

 風が吹く。疾風、鋭い風。何かの到来を予期させるもの。念動力者でもないのに、ざわりと奇妙な予感がした。

 ゼノリオンの足元でジジと話していたシェースチと、子供組と一緒に荷物運びを手伝っていたスェーミも、直ぐ側に広がる海の彼方へ、弾かれたように目を向けた。シェースチの力と、そしてその妹であり同じ能力を"潜在的には"持つだろう妹のことを知る周囲の面々も、何かあったかと声を掛けるが、それにすら気づかず彼方を見続けている。

 

「メンテを一旦中止、エンジンに火を入れてくれ」

「今からだと5分かかる。せめてパイロットスーツを着てこい」

 

 異常事態に気づいてすぐに動いたテンザンに、首肯した整備班たちが行動で返す。鉄火場ばかりを転戦していたおかげか、このあたりの危機意識は皆、高くなっていた。

 

「こちらゼノリオン。シェ−スチたちが何か捉えた。基地やスレイたちから何か通達は来てるか? それと、あ号たちとリョウトも何か感じるか?」

『いや、特には出ていない。こちらのセンサーでもなしだ』

『我々の方でもだ。リョウトは?』

『いえ……いや、少し待ってください。何か、知っている感じが……』

 

 ゼノリオンの肩から降りつつ、通信機で伊400に繋げるが、はっきりとしない答えが戻ってくるだけだ。油断はできない。自分たちが超がつく厄ネタのお尋ね者である以上、クライウルブズなどの特殊部隊が唐突に奇襲を掛けてくる、などということも十二分にありうるのだ。王女誘拐や、大統領補佐官加害など、それだけのことをしてしまった自覚はある。

 スペースと機材の都合で基地に作られた地下ガレージで愛機のメンテナンスを始めているだろうリューネたちにもGコンでメッセージを送りつつ、海を見続けるシェースチたちに声をかける。

 

「シェースチ、どうだ。何かあったか?」

「……風、が」

「風……? ……おい、まさか」

 

 突拍子もない、海の彼方の方向。風。そして、リョウトの言う"知っている気配"。3つの要素が重なるもので、この世界に該当するものは、1機。信じられないが、ありえなくもない可能性に、冷や汗が流れる。

 その発想に呼応するように、地平線の向こうで白銀が瞬いた。陽光を跳ね返す白い鳥。光ったと思った瞬間、基地手前までに音速から亜音速へ減速しながら近づいてきた存在は、こちらに気づいたと同時に機体を上昇させ、更に減速をかけると共に変形する。ラ・ギアスはラングラン公国の伝説に謳われた鳥から、戦士の人型へ変わったそれは、大きなループを終えると共に、ゼノリオンにほど近い空きスペースへと降り立った。

 

「サイバスター……マサキ・アンドー? なんで今ここに?!」

『ふー、ようやく見つけたぜ』

 

 こちらの疑問は聞こえないとばかりに、安堵の息が外部スピーカーから流れ、膝立ちとなったサイバスターのコックピットハッチが開かれた。そこから笑みを浮かべて顔を出したのは、想像通り、連邦軍の協力者であるはずのマサキ・アンドーに、呆れ顔のファミリア2匹だ。

 

「よ、テンザン・ナカジマだよな? こうして顔合わせるのは初めてだな」

「……ホッ! そうやって偉そうにしてんのは、流石の魔装機神操者のマサキ様ってやつだな。ついでに使い魔のシロとクロ」

「あんだと?!」

「マサキ、いきなり来てケンカ腰にそう言っちゃダメニャ……」

「やっぱダメだったんじゃない? というか、さらっとあたしたちのことも知ってるみたいニャし」

 

 咄嗟に熟れてしまった口調と嫌味でマサキに返すと、狂犬もかくやとばかりに噛みついてきたが、ネコ2匹の小言と指摘に、おっといけねと零しつつ地面へ降り立つ。何だ何だと近づいてきた子どもたちを手で制しつつ、口調を騙ったまま問いかける。

 

「それで、何しに来たっての。例の方向音痴で迷っただけか?」

「まーそこは軽く2日ぐらいは……」

「マサキ、そこは言わなくてもいいニャ」

「おっとそうだな……単刀直入に言うぞ」

 

 そう言って不敵に笑うマサキは、親指で愛機を指した。

 

「ちょっくらお前とケンカしたくてな……つーわけで、サシでやろうぜ」

「……?……はぁ?」

『おいこらマサキ・アンドー!』

 

 どういうことだよまるで意味がわからん、と声を上げようとした途端、頭上から怒声が響いた。同時に、横長の影がかかったと思い空を仰げば、偽装兼追加兵装を外し、両翼を大きく広げて腕を組んだヴァルシオーネ/リューネがこちらを、正確にはサイバスターを見下ろしていた。どうやらメッセージを送ってすぐに乗り込んできたらしい。

 この姿が初見なのか、なんじゃありゃ、とぽかんと口を開けて見上げるマサキだが、リューネはお構い無しまくし立てる。

 

『何でいきなりテンザンにケンカ売ってるんだ?! そこは決着がまだついていないアタシとだろう?! シュウの言ってた魔装機神装者っていうのはそんな粋も分からない連中なのかっ』

「あん、好き勝手言いやがって……て、リューネか」

 

 テンザンのことを忘れて、反射的に噛みつこうとしたマサキだったが、その相手がリューネだと気づくと、バツが悪そうにガシガシと頭を掻いた。

 

「あー……悪いな、その決着をつけるためにも、先にこいつとはサシでやりたいんだよ」

「いや、そこが訳がわからんっての」

「そうだな、正直俺も勢いで来ちまったし……どうすっか」

 

 腕を組んで悩み始めたマサキに、ウチのマサキがごめんニャさい、と猫2匹が息を合わせて謝罪する。何だそりゃ、と急にグダグダになった空気に気が抜けそうになって視界を横に向ければ、シロたちに好奇の目を向ける子どもたちと、体を強張らせてこちらを見続ける大人たちが目に入った。シェースチは作業用の資材裏に隠れて背を向けていることから、仮想の姿を見せないあ号たちと話合っていると見える。なにかしてくるのであれば、うだうだ女々しいこと言いやがって、と毒づくリューネがマサキを睨みつけており、すぐに前に出てくれるだろう。

 だが場は硬直している。少なくとも、自分が何かを答えないと動きそうにない。特にいつ警戒アラームが鳴り響き、この基地全体を巻き込んだ騒ぎになるか、時間の問題のようだ。

 

「おい、マサキ・アンドー。今のお前は、"ラ・ギアスからの追跡者"か、それとも"連邦軍の協力者"、どっちだ」

 

 だからまず、マサキという人となりを"原作"経由で知る自分が口火を切る。本来なら一番付き合いのあるリョウトを呼ぶべきだが、それだと間に合いそうにない。故に賭けた。

 もし連邦軍の協力者であれば、ハガネかヒリュウのような母艦が近くに潜んでいてもおかしくない。そもそもこちらを捕えるスタンスならば、サイバスターから降りず、啖呵を切ってこちらを挑発しにくるか、もしくはリューネと決着をつけるはずだ。ならば、それ以外の目的、それこそシュウ・シラカワを追い、その過程でラ・ギアスに関わる事柄を解決していく、ラ・ギアスからの追跡者、あるいは使者のスタンスと見られる。

 内心の緊張を悟られないようにしたいが、自分でも声がいつもより上ずっていた。それだけ、マサキ・アンドーという存在は重いのだ。

 

「テメェ……いや、リュウセイたちの言ってたことが本当なら……いいぜ、今の俺はただのフリーターだ。ハガネとヒリュウ改は関係ねぇ」

「ホッ、そうかよ……なら聞いてもいいぜ。中に入るか?」

「いや、別にここで……」

 

 そこまで言うと、ぐぅと腹の虫がマサキから響いた。シリアスはもたないにゃ、と堪えきれなくなった子どもたちに捕まったファミリア2匹ががくりと脱力し、テンザンもたまらず天を仰いだ。

 

「あー……飯、食うか?」

「……ゴチになるわ」

 

 

 

「いやー悪ぃなこんなに食わせてもらって。美味かった、ごちそうさん!」

 

 まさかこんなとこでお茶漬け食えるなんてな、と手を合わせるマサキに対して、本日の朝食当番だったユルゲン夫人は困ったように眉を潜める。当人の目的兼監視も兼ねて向かいの席に座るテンザンとしては内心、何しに来たんだコイツ、と考えてしまった。

 

「で、何しにきたのよマサキ・アンドー。言っとくけど、アタシもテンザンもシュウ・シラカワの居場所は知らないわよ」

 

 同じく監視目的で座るリューネは頬杖を付きながら、同じ用意してもらったシャケおにぎりを齧っていた。

 あの後すぐに、イスルギ重工と懇意な基地司令に一報を入れ、基地全体で警戒を一旦解くよう伝えてから、伊400の中に身体検査をした上でマサキを案内した。出入り口の前にはいつでも彼を抑えられるよう、整備員の二人がスパナを持って佇んでいる。一つ離れた席にはストラングウィックも控え、部屋の外では伊400の面々がほぼ全員揃い、部屋の中をモニタリングしていた。なお、子ども組は引き続きシロクロで遊んでいるので問題はない。

 そんな状況でもマサキは取り乱した様子はなく、やっぱり主人公は度胸が違うな、と心中にて感嘆としつつ、アテが外れたとと口を窄めるマサキから目を逸らさないように睨めつける。

 

「ちっ、やっぱりダメか。まっ、そっちが本題じゃねぇしな」

「いや、そもそもケンカを売りに来たって……さすがにその、理由がわからないっつーか。そこまでヤンキーじゃなかったと思ったけど」

「そもそも我々は敵対関係にある。加えて、私個人の目的でいえば、貴様の持つサイバスターを興味がつきん。妙なことをすれば、我々がバラしてもいいのだぞ?」

 

 怪訝な表情を隠さず、ストラングウィックは自身の目標と好奇心を、警戒心に混ぜてぶつけていた。リューネも一旦怒りを抑えて、マサキに視線だけを向けている。

 

「別にケンカ以外でどうこうしようってわけじゃねぇよ。こっちだってタダで話聞いてもらいたいって気はしねぇからな」

「ホッ、何だ? いっそ勝ったら、何でも言うこと聞いてもいいのかっての」

「ばーか、勝った負けたじゃねぇよ。後払いだろうと先払いだろうと、一つはそっちの言う事聞いてやるよ」

 

 それぐらいしないと無茶振りに合わないだろ、と自身の発言がかなり理不尽な類のことを自覚したうえで、とんでもないことを言われてしまった。

 

「……正気か? そんなこと言ったら、二度と連邦に協力するな、なんていうのも通るぞ。バカなこと言うんじゃない」

 

 思わず、素になってそういうことを言ってしまうぐらいには揺さぶられてしまった。一瞬呆けた後、ニカリ、とマサキが笑った瞬間、思わず口元を抑えた。

 

「なるほど、そっちがホントのお前か。なんつーか、納得した」 

「……おちょくりに来たのか?」

「んなわけねぇ。言ったろ、ケンカしに来たって。その中で聞かねぇと……俺自身のためにも、聞かなきゃなんねぇんだよ」

「だから、なんでそれが、アタシとの決着を先延ばしすることに繋がるだって聞いてるんだよ」

 

 リューネの疑問に、ふぅ、とマサキは一息吐く。その上で姿勢を正し、真っ直ぐにテンザンを見据えた。

 

「なあテンザン、正義の味方ってのは、何だ?」

「……いや……何だ。その、藪から棒に」

 

 瞼を瞬かせ、聞き間違いかと思い、そんな言葉を出してしまった。シロクロに言われた通りだったな、と呟いたマサキは、しかしその胡乱な言葉の、その意味と同じぐらい真っ直ぐな目のまま、言葉を紡ぎ続ける。

 

「そこにいるリューネにナマクラだって言われてさ、なんか思い出しちまってな……ビアンに、正義の味方になるつもりかって」

 

 あの親父が。そんなリューネの溢したつぶやきだけが、沈黙の空気の中に流れる。その中でマサキは、自身の思考をゆっくりと纏めるように、腕をくみ、唸り声を上げながら天を仰いだ。

 

「実際、その時は"なる"って答えたはいいけどよ、ちょくちょく考えてみたらこー難しくてさ。シュウを追わなきゃいけねーのは魔装機神操者の責務で、俺自身のケジメだし、それでこっち来てからやってるのはDCとの戦争だ。そこまではまぁ、自分で飛び込んだ結果だから納得はするんだよ」

 

 けれど、と思考をひとつひとつ取り出していたマサキの目が開かれ、自然体なままの顔でもってテンザンを見据えた。

 

「お前と戦い始めてからブレが出るようになっちまった。もちろん、俺が斬ってきた奴が悪党ばかりじゃなくて、ビアンみたいに色々と抱えているやつがいることだって知ってる」

 

 一瞬、マサキが目を閉じる。テンザンとしても、これまで彼が戦ってあろう相手のことを考えれば、それはそうだろうな、と身内の中で頷いた。

 

「それでもお前は……テンザンは何か違う。正義の味方志望とかどっかで言ってたくせによ、あっちこっちの戦場を引っ掻き回す。アームズフォートなんて大勢が乗ってる兵器も簡単に壊す。そのくせよ、お前自身は誰か助けたい奴がいて、その目的の途中で国一つ守ろうとするし……終いには、戦っているやつが死なないようにしやがる」

 

 最後の一言に、テンザンは喉を詰まらせた。あれだけやられりゃ流石に気づくさ、とマサキは戯けるように肩をすくめたが、テンザンとしては触られたくない傷に気づかれたようで、居心地が悪くなっていた。

 

「気づいてるやつは気づいてるぜ? 全部が全部そうってわけじゃないだろうけど、こう、狙ってくる位置が違うんだよ。それでも喰らっちまうのはまぁ、癪だけど、お前の方が巧いんだろうなってのはある」

 

 データも揃ってるってテツヤも言ってたしな。そう言って自身の腕や足、そして頭を指すマサキに、ただ黙るしかない。これを肯定してしまえば、実利の面ではこちらの攻撃パターンに確信を持たせてしまうことになるし、心理的な面では、自身の幼さと責任感のなさを見抜かれたような気がしたからだ。 

 事情を話しているストラングウィックは同じように黙り、初耳だろうリューネは信じられないような目でテンザンを見ていた。

 

「だからよ……そんなお前だから、どうして正義の味方志望なんて言った? どうして戦うくせに、そんなことをする?」

 

 マサキは、只々真っ直ぐに、じっと、テンザンの目を見据えている。

 

「…………それ、は」

 

 人が死ぬのはゴメンだ、その死を、命を背負いたくない。

 正義の味方志望だって、ただ悪い奴と思った相手を殴って、弱い人たちから"自分の手で"守るからだ。

 いつか自身が日記に書いた言葉を心中で作ろうとして、形に、声にならない。なぜだ、と自問自答するが、喉からはひゅーひゅーと、枯れた残滓が溢れるだけだ。

 

「……答えられない、か」

「おい、マサキ・アンドー」

 

 不意にテーブルに影が落ちた。その瞬間、マサキの胸ぐらを誰かが掴み、強引に立ち上がらせた。まさかリューネか、と思わずその手の先を見れば、それはテンザンとして想定外の男/ストラングウィックが、憤怒の顔を讃えてマサキを睨んでいた。見れば、部屋の中で待機していたクルーもまた、大なり小なり、同じ感情をもってマサキを見つめていた。

 

「貴様が、魔装機神操者として選ばれた人間だ。だが、裁定者にまで堕ちた気か? こいつの事情も知らず、こいつが抱えているものも知らず……それがラ・ギアスのやり方か」

「ちげーよ、事情は知らねぇ、だから知りに来たんだ。ビアンみたいなバカだったらぶん殴るし、全部嘘だったら俺たちの目が節穴だっただけだ」

 

 マサキはストラングウィックにされるがままだが、しかし目を逸らさない。

 

「けど、俺の剣が……俺の中の何かが、ただ斬っていいだけのヤツじゃねぇって言ってんだ。シュウに感じたものじゃねぇ……気味が悪いが、惹かれる何か。だから、その"理由"を知りに来た」

 

 一方的な理由だ。それこそ感覚論や、または魔装機神というオカルトの類の代物。それ故にこの世界ではあり得ており、一笑に伏すことはできない言葉と思い。横顔から見えるその瞳に偽りはなく、爛とした輝きを宿している。ああ、やはりマサキ・アンドーだという、"主人公"に対しての感動と納得、そしてそんな彼にすぐに言葉を返せなかった惨めさと情けなさが、身内にジワリと広がる。

 

「……なぁマサキ、やっぱり、いきなり王手はないんじゃないか」

 

 何度目かの沈黙が落ちようとする中、途中から聴きに徹していたリューネが手を挙げ、そこに部屋中の視線が集まった。

 どういうこった、とマサキが聞くと、がしがしと年頃の少女らしからぬ仕草で頭を掻いた彼女は、言葉を重ねながら、一本ずつ指を立てていく。

 

「一つ、アタシとアンタの決着はまだ着いていない。二つ、テンザンはまだアンタに出せる答えは用意していない。三つ、そもそもここはアンタにとって敵地で、ここのボスのテンザンの善意……いや、好意? でだけで話をしていて、しかも戦えなんて一方的に要望している。時代劇だってここまで筋が通らないものはないね」

「ああ、だから何か……」

「だからそこ、そもそも今の段階で、アンタがテンザンに直接もの言って、何か返してもらえる立場なのかって。せめて……そうだね、アタシとかリョウト、あとスレイにアイビスを倒してから出ないと、アンタのチップは上がらないんじゃないか?」

 

 名付けて剣豪ならぬ絡繰兵器5番勝負。5本目の指を立てたリューネは、どうだとばかりに口端で弧を描いた。それに対し、渦中の二人は立場が異なりながらも、まったく同じ困惑を覚えた。

 

「は……? いやだからそれは……」

「いやおい待て、何でそうなるっての。そもそも……」

「……確かに。そこまでの力を指し示されれば、私は納得はするがな」

「「いやいーのかよ」」

 

 マサキから手を離したストラングウィックが眼鏡を直しながらそう肯定すると、たまらずマサキとテンザンはツッコミを入れてしまった。

 

「感情面以外に、利点もある。まず単純に、準備に時間がかかる。戦うとしても、改修したゼノリオンの調整にせめてあと一日は欲しい。ケンカ、いや対特機級との演習というのならば、イスルギ経由で基地に演習場を借りねばならない。そして……サイバスターに妙な仕掛けがされていないかの確認として、合法的にあの魔装機神に触れることができる!」

 

 最後には自分の欲望が漏れ出たとばかりに声を張り上げるストラングウィックに、やっぱり魔装機神に興味津々じゃないかと内心溢したが、建前の方は理解できた。

 テンザンが当初マサキへの対価と想定していた、ストラングウィックとアルウィックたちに、夢の産物とも言えるサイバスターの実機を触らせることができる。加えてケンカという私闘ではなく、あくまで機体調整のための演習として見るのであれば、改修されたばかりのゼノリオンの仮想敵として申し分なしだ。あとはリョウトの時のような小細工がされないかという問題だが、マサキ本人の体のチェックは伊400の乗艦前に行っており、サイバスターという特殊な機体に対してそもそも地上世界のメカニックが、精霊の機嫌を損ねそうな小細工を仕掛けられるかと言う疑問もある。そこについてはこの後行うだろう機体検査でわかるが、ここで一つ問題があることに気づいた。

 

「おい、サイバスターはこれからチェックするんだろ? ならその間、5番勝負はどうすんだっての」

「あっ、あー確かに……」

「俺としてはまぁ、ちょっち順序は変わっちまうが、分かりやすくなって助かるんだけどな。何日かここに滞在することなるけど、検査後にできないか?」

「いや、かのサイバスターが常に一箇所にあることがもしあちらに把握させていたら、変に勘ぐられかねない。基地との調整もあるが、よくて三日ぐらいじゃないか」

 

 リューネが罰が悪そうに後頭部を掻き、すっかり乗り気になったマサキとストラングウィックも意見を出し始めた。確かに条件付けであれば戦えると言うのであれば、マサキ自身の目的が言葉通りという前提だが、やらない理由はないのだろう。

 ここまでくると、自分の心情だけの問題か、と思い、助け舟を出すことにした。

 

「それならよ……おいマサキ、サイバスター以外に、連邦のPTやAMに乗ったことはあるか?」

「ん? それならシミュレータや戦闘訓練の中で何度かハガネやヒリュウ改で世話になったけど……」

「だったら、ここにあるシミュレータを使って戦えばいいっての。全員ガーリオン限定、装備は過積載にならなければOK、バーニングPT公式大会ルールに合わせてそれぞれ1回勝負。マサキと戦う順番は……まぁ、そっちに任せるっての」

 

 元々はアイビスたちの戦闘訓練の一環として考えていた、今の実質的な専用機ではなく、標準的な機体を使っての、機体スペックに頼らない戦闘技術訓練。大元がアドバンスドチルドレン向けのバーニングPTをベースにしたDCの設備で、かつイルスギ重工からも寄港ごとにデータ更新を受けているため、シミュレータにはリオンシリーズとその武装の最新データが一通り揃っていることから武装への理解度も測る訓練としていたが、ある意味でちょうどいいと言えた。シミュレータで得た戦闘データのデータはバーニングPTのCPUモーションとして提供されていると聞くが、そこはミツコへのレンタル費用と割り切っている。

 テンザンの言葉を理解したリューネが、顔に似合わぬ悪どい笑みを浮かべ、逆にマサキは分かりやすく口を尖らせた。

 

「へぇ、いいじゃん」

「おい、それだと俺がめっちゃくちゃ不利じゃねぇか」

「それぐらいハンデにしてみろっての、チャレンジャー」

 

 ジト目のマサキ相手に、チャンピオン枠となることを覚悟したので、多少の揶揄いをこめて煽る。ついでにとばかりに天井を見て、この場を覗いているだろう面々にも声をかけた。

 

「い号、マサキの監視を任せるができるか? ろ号はシロとクロの方を。ファミリアとはいえ個別の存在だからだ」

『ええ、わかったわ……いえ、ダメね』

『あーダメだこれプロテクトがかかってる。これが精霊ってやつじゃないかな?』

「ん? 急にどうしたんだよ?」

 

 頭上に現れたイルカ2匹の言と、虚空に向かって喋り出したテンザンへ、言葉通りに疑問符を浮かべるマサキ。テンザンの視線の先を追うが、その目はイルカたちを捉えていないことと、プロテクトという言葉に、へぇ、と声が漏れてしまう。サイコ・ネットワークが念動力を用いたネットワーク形成である以上、それは干渉による変化に当たる。その面は精霊と契約しているラ・ギアスの存在、特に4大精霊との結びつく魔装機神操者には、それこそ妨害や無効化、言葉を変えればパイロットたちへのオカルト面のセキュリティが掛かっていると考えれば納得できた。

 

「監視ね……マサキはアタシたちで見とくよ。それで、あの猫2匹は……」

「ねぇねぇテンザン!」

「それなら僕たちがやるよっ!」

「あうぅあ!」

 

 あ、コラっと大人たちの制止を他所に、いつの間にか盗み聞きに参加していた子ども3人が駆け込んできた。特にトニーとマリーの手には、前腕腋から抱かれてすっかり体を縦に伸ばしたシロクロコンビが、正に疲労困憊といった様子でなすがままとなっている。

 

「こやって一緒にあそ……監視! しとけばいいんだよね!」

「あー、まぁ、そうだな……ちゃんと出来るか?」

「うん!」

「まっかせてよ!」

「あうぅっ!」

 

 合掌するマサキを横に見ながら、3人に視線を合わせて頼むと、嬉しそうな声が返ってきた。おそらくは、マシンの整備や料理以外にやることがなく、手持ち無沙汰になっていたところ、猫というおもちゃと、それと遊ぶことが大人の仕事に繋がるとわかって嬉しいのだろう。テンザンとしても、あのシロとクロという信頼できる相手ならば、子どもたちに危害は加えないし、何より問題が起きてもマサキとへ情報が繋がると言う認識があるため、妥当な預け先だと頷けた。それに加えて、子どもたち経由で、サイコ・ネットワークからい号たちとも連絡がつくのがよかった。

 いいよな、とマサキやストラングウィックに目で問うと、半信半疑の視線と、しょうが無い奴だと鼻を鳴らした音がした。しかし、否定はされなかったので、視線を子どもたちに戻した。

 

「それじゃ、頼んだぞ」

 

 助けのない絶望へと形を変えるシロとクロの表情に内心謝罪しながら、3人の頭を撫でた。返ってきたのは、任せて、という大声と、そんニャー、という猫2匹の鳴き声だった。

 

 

 

 その夜、自室にて。

 

:なるほど。それで、そのような演習にすることとなったと……厄介ごとばかり起きますわのね

 

 Gコンのチャット画面に浮かぶ言葉に、ミツコ・イスルギの呆れたような声が乗っているような錯覚がした。ぐうの音も出ない所感に対して、テンザンはキーボードを打つ手を止めるが、しかし負け惜しみのような返事をした。

 

:好きでそうなっているわけじゃない。

:不用心な発言ばかりなさるからでしょう? AFの件といい、かのグランゾンのことといい、スキだらけなのでは?

 

 心当たりのありすぎる指摘と、扇子越しに冷たい視線を向けてくるミツコが容易に想像でき、たまらず頭が垂れる。

 振り返れば、自分でも言わなくてもいいようなことばかり言っている気がする。自身の振り返りも含めて、そして死への意識のために書いている日記を見ても、余計なことばかり記載されている。幸い指紋認証の鍵などで、誰にも見られないようにしているが、それでも心情的に他の人間に見られるのは憚られた。

 実際、ミツコからのチャットがくる前に書いていた、たった一文ぐらいが、ちょうどいいのかもしれないとも思える。

 あの後、取り決め通りマサキは、勝手に巻き込まれたリョウト、スレイ、アイビスに、元々因縁があったリューネとシミュレーター上での勝ち抜き戦を行った。

 1戦目、アイビス。リミッターギリギリの高機動戦闘で仕掛けるアイビスと、慣れないガーリオンでそれに張り付くマサキ。最初は一方的にマサキがやられているだけだったが、サイバスターと似た戦法でもって習熟し終えると、もともとシミュレーターでの成績が低い本番型のアイビスは、ディバインアームとアサルトブレードの2刀流に切り替えたマサキに3枚に下ろされた。

 2戦目、スレイ。リオン系への理解が人一番高いスレイが、オプションを豊富に用いたアウトレンジ戦法によってマサキを追い詰めるが、ソニックブレイカーで強引に接近したマサキ機の剣戟に耐えきれず、そのままマサキお得意のクロスレンジとなって敗北。

 3戦目、リューネ。互いに剣一本で向き合い、さながら侍同士の斬り合いにも似た戦闘を繰り広げた。おまけに本来はどこかの海戦上で行うようなやりとりをしつつ、最後にマサキがリューネ機から剣を弾き飛ばし、決着をつけた。

 4戦目、リョウト。恐らくはここでマサキが勝てたのは偶然、いや奇跡だった。それほどまでにリョウトのガーリオンへの理解、そしてテンザンの想定以上に技量は上がっていた。インパクトランスにより、マサキ機の持つディバインアームより外の間合いを取りつつ、アサルトレールガンで着実にダメージを与えていく。ソニックブレイカーによる起死回生の手も、アサルトレールガンの狙撃でもって出鼻を潰し、最後にはインパクトランスの過剰出力でマサキ機の武装を全て破壊せしめた。誰もが勝負あったと思いきや、マサキがその状態でゼロ距離まで接近、いや抱きつき、そのまま地面へと落下した。その状態ながらも互いに殴る蹴るを繰り広げたが、そのせいで互いにバランスを崩してしまった。その状態で偶々マサキ機の放った蹴りがリョウト機の首に引っかかったと思いきや、そのまま地面にぶつかる直前、フランケンシュタイナーを決めてしまったのだ。

 最後の最後にマサキが「やってない……」などと呟いたのは耳を疑ったが、それでも勝ちは勝ちだ。思わず日記も”どうしてこうなった”と書くぐらいだった。

 

:まさか、私があのマサキに狙われるなんて、思わなかった。

:それは今更ではなくて?

 

 思わず気持ちのまま書いたチャットに、呆れにも似たもの返ってきて、それはそうだなと苦笑してしまった。

 種子島の一件から、昔のようにGコン経由でのチャットを忌避感を覚え、よっぽどでない限りはみんながいる場での通信のみにしようとしていたが、先日のジブラルタル海峡での連絡もあり、もし互いに時間があれば程度の意識でまた行うようにと心がけていた。スポンサーと直接連絡取れるので、これで万が一の事態には備えられるという認識だ。

 

:けど、色々と手配してくれたんだろう? 正直助かった、ありがとう

:……ふふ、それなら、魔装機神のよいデータをくださいね? オカルトや念動力ではマオ社には遅れをとってますもの、重力兵器以外の札も欲しいとことですわ

:相変わらずで安心する

:お褒めに預かり恐縮ですわ

 

 ここのところはやはり女狐だな、とあミツコらしい反応に安心していると、不意に彼女からのチャットに、たまらず喉を鳴らした。

 

:それにしても、正義の味方とは、やはりそうあれかしと望まれた人はややこしいですわね。

:……やっぱりそういうのは嫌いか

:いえいえ、エンタメや偶像として必要とするのはOKですの、我々もビジネスとしてキッチリ稼がせてもらいますから……ただ……紛い物がそういうのは気に食わない、というだけですわ。

 

 "原作"の中でのミツコも、実際に付き合いのある彼女としても、正義の味方というものが嫌悪しているというのは察している。戦争が始まる前、それこそチャットで知り合った直後などは、ゲームやアニメに出てくるような同類のキャラクターにも"金勘定もできないデク”や"イノシシが好き勝手やって腹立つ"や"その後ろで何千何万の職と補填でいくら必要になってるんだこの頭マルキューども”などと言っていたものだ。

 ハガネやヒリュウ改の面々にも、似たような感情を抱いているだろうな、という想像と懸念もあったが、想像と少し違う言葉が出て首を傾げた。

 

:紛い物?

:ふふ、こちらの話。それよりも、そろそろこちらも会議に入りますから切り上げますわ。

 

 テンザンのいるノルウェーからアジア圏の時差は大凡6時間、こちらが深夜であればイスルギ本社がある向こうは早朝だ。それにも関わらず付き合ってくれたのは申し訳なかった。

 

:わかった。わざわざ朝に悪かったな、ミツコ。

:いえ。それに、私は答えなどに関わらず、貴方が"そういうもの"だと知っていますもの。紛い物の言葉をそこまで深く受け取る必要などありませんわ

:きっつい言い方するなお前は、どんだけアイツらのこと嫌いなんだよ。けどありがとう、少し楽になった。

:ふふ、ではおやすみなさい

:ああ、いってらっしゃい。

 

 こちらが書き込んでから数秒して、ミツコがチャットルームからログアウトした。Gコンのアプリを終了して、一息つくとともに窓を見ようとする顔を上げると、今度は扉がノックされた。誰だ、と聞くと、サイコネットワークを通して、半透明の金の少女が扉を素通りして現れた。

 

「すみません、テンザンさん」

「シェースチ、どうしたんだこんな時間に」

「いえ、その……」

 

 扉を開けて、いつもの専用椅子に乗ったシェースチを招き入れると、本体と少女の像が同時に頭を下げた。ただ小さく、女狐に出し抜かれたくなかったので、という言葉が紡がれたが、テンザンまでは届かなかった。

 

「……戦えるんですか?」

「……ただの演習扱いで、理由も他が用意してくれたからな」

 

 言葉少なに、しかし核心的な言葉での問いに、椅子に腰を落とした。心配になってきてくれたのだろう、迷惑をかけていると言う自責と、ミツコといいそんなに辛そうに見えるのかという自嘲と、助かるなと言う安堵が、息としてもれる。

 正直な話、テンザンとしてはマサキと戦う理由はなかった。何かをやってくれる、という条件をもらっているが、その代わりに、向こうが納得する回答を出さなくてはならない。ミツコはああ言ってはくれているが、かと言って考えるな、というのは無理がある。

 シェースチたちを元に戻す。リクセント公国で起きたDCの横暴に対抗する。それは全うな理由だろう。だが、それ以外は、それこそただDCとして戦っていた時はどうだ。ウェーク島、関門海峡こそ正にそうだ。いくら加減をしようと、リオンというロボット兵器を振えば、人は簡単に死ぬのだ。

 戦争は、人殺しをただの数学にする。その理屈はわかっている、兵士の心理的な負傷を抑えるためという方便も理解している。それでも、ただ自身の仕事に殉じた人々を、何も知らない人を、殺したのだ。正義の味方とは、到底名乗ることはできない。

 

「……要求は、考えられるんだ。それこそ、サイバスターのデータを丸々コピーさせろとか、DC戦争が終わったらみんなをラ・ギアスに亡命させろとか……それだけでも、乗る理由にはなるんだけどな……」

 

 実際、マサキには伊400のメンバーをラ・ギアスに亡命させることを要求するつもりだ。そうすれば、次のアインスト事件には巻き込まれることはないし、地上と違い、ハーカームという明確な元凶がマサキたちによって討伐され平和になると確約されている。ストラングウィックたちも元々はラ・ギアスに向かうことを最終目的としていたので、一石二鳥とも言えた。

 だが、それで態々マサキと戦うというのは、気持ちの整理がつかない。今まで何度も戦ってきたのも、不意の戦闘や、自身の強迫観念の元でだった。ここまでお膳立てをされ、冷静になれる環境で、というのはなかったのだ。

 ましてやこれは、マサキの我儘で、その上で、テンザンの"核"を見定めようというものだ。

 もし、それがただの間違いであると、あの"マサキ・アンドー"に裁かれるのであれば。

 

「テンザンさん」

 

 思考の穴に埋まり、己の首に剣の当てられるような錯覚を覚えたその時、シェースチの機械の足と、少女の手の幻影が、テンザンを掴んだ。

 

「きっと、私にはそんな権利はないのですけど……貴方は、貴方自身を信じてください」

「信じる、か。前にも言われたな」

「ええ。けど今度は、貴方がなそうとした時の気持ちと、貴方が守りたいと思うもの、そして貴方が歩いてきた今までを、信じてください」

 

 少女の幻影が、そして偽りの体に埋められた残骸の目が、テンザンの瞳をじっと見つめた。

 

「少なくとも、私とスェーミにとって、貴方は正義の味方なんですから」

 

 それに、とスェーミは微笑み。

 

「きっと答えなんてなくとも、明日は人の死なない、ただのケンカなんですよ。なら、テンザンさんが負けるはずないです」

 

 人の死なないケンカ。そう言われて、ああそれだけか、とようやく喉に突っかかっていたものの一つが、腹の内にに落ちていった。知らず知らずのうちに、マサキ・アンドーが関わる以上、自身の進退を賭けるような、それこそ命そのものを差し出しかねない戦いだと思い込んでいた。だが、もしも本当に、ただのケンカをするだけなら、そんな心配はしなくてよかったのだ。

 

「……負けるはずがないって、煽りかよ」

「そこまで捻くれてないですし、明日は私も一緒にゼノリオンに乗るんですよ? なら私たちが、と言い換えましょうか?」

「……いや、大丈夫。大丈夫だ」

 

 シェースチからかけられた二つの手を合わせ、それに自身の手を重ねた。こうして、彼女はここにいる。実体でも、幻影でも、自分を信じてくれている人がここにいるそして、自分を信じてくれる人は、意外と多くいる。

 

「……何度も悩んで、弱気になって、悪いな」

「いえ、だからこそテンザンさんかと」

「うるせぇっての」

 

 苦笑を返し、そして考える。

 だからこそ、答えをと。

 




長くなりすぎたので戦闘シーンは分割しました。
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